▼曖昧な夢

KP
ふと、目がさめる。

「おはよ、さくらー」
そこはいつもの自室で、シローがあなたの顔を覗き込んでいた。

「おはよ、おとうとー」
あなたの腹を、シローがにこにこと笑って撫でた。
あなたの腹は大きく膨らんでおり、ずっしりと重い。

「佐倉さん、調子どうだ?」
もうすぐ産まれることを知っている東浪見は、家に寄っては何かと世話を焼いてくれる。
動くのがいちいち大変なこの時期には、特にありがたい存在だ。
佐倉 光
おぃぃぃ誰との子だと認識してるんだよ怖いわ。
KP
不思議なことにそこはもんやりしているんですね。
でも違和感がなかったという。
佐倉 光
「ああ、随分安定したよ。あと少しだって」
佐倉 光
「楽しみだな、もうすぐ会えるんだ」
楽しみすぎて服も必要な道具もしっかり揃えてある。
その買い物に東浪見は随分付き合ってくれて助かったな。
東浪見 空
「そっか、よかった。もうすぐだな!
こいつ、最初に世界を見たらなんて言うかな?」
波照間 紅
「それはオギャーだと思うが……。
そうだな、随分と大変そうだったものな」
佐倉 光
「ああ、早く世界を見せてやりたいよ」
佐倉 光
「正直、これ以上抱え続けるのもしんどいしさー」
佐倉 光
この子の体は俺のすべてでできている。
何をしても守りたい俺の子。
牧志。
佐倉 光
あれ。どうして名前がついてるんだ?
というかこれ、名字?
KP
「さくら、だいじょうぶ?」
彼らの温かい声があなたを取り巻く。
KP
牧志。
あなたはずっと、我が子をその名で呼んできた。

その名は……、どうして決めたのだったか?
いや、あなたが決めたのだったか?

記憶が揺らぐ。
周囲の風景が曖昧になっていく。
佐倉 光
これは……現実……じゃ、ない?

そうだ。男の俺が妊娠なんて、できるはずがない……
KP
ゆらゆら、ゆらゆら、記憶が、風景が、曖昧になって、溶けて。

そして突然、目を覚ました。

KP
あれは夢だったのだ。
あなたは変わらず村の屋敷で、布団の向こうに見える土壁を眺めている。
牧志 浩太
「ふにゃぁ……」
膨らんだ腹だけが、夢ではなかった。
腹の中で、牧志がもぞもぞと手足を動かした。

▼4日目:朝

佐倉 光
夢だっだけど夢じゃねぇ……
頭を抱えてしまう。
早くしないと、牧志が『産まれて』しまう。
そうなったらもう引き返せなくなる予感がしてならない。
佐倉 光
「おはよう」
慌てても仕方がない。今日もできる限りのことをするまでだ。
牧志 浩太
「おあ……、おはよ、さくらさん」
寝ぼけながら、牧志が少しずつ目を覚ます。
何だか少し、ちゃんと目を覚ますのが遅くなってきている気がする……。
佐倉 光
真っ暗で暖かい場所にいれば無理はないな。
俺なら一日中寝てるよ。
KP
間に胃を休めてほしいということなのか、今日の朝食はお粥だった。
野菜と細かい肉がすき込まれ、ふわりと優しい味がする。
佐倉 光
『たまに食うと粥ってのも美味いよなー』
出汁の味を舌の上で転がして楽しみながらさらさらと食べる。
牧志 浩太
「疲れた時に食べると意外と美味いんだよな」
佐倉 光
『今日は、昨日の家と古い方の産屋に行ってみるつもりなんだ』
牧志 浩太
「昨日、いまいち調子が出なかったしな。
それに、産屋を使わなくなった理由って、きっとあの人関係だよな?
だとしたら、探ってみる価値がありそうだ」
あなたと話すことで、牧志は少しずつ目を覚まし始める。
佐倉 光
『先に産屋調べれば見えてくるものもあるかもしれない』
よし、食事を終えたら産屋にGoだ。
牧志 浩太
「ああ」
佐倉 光
『そういやさ……普通に外に出る道を探すって発想が抜けてた。
途中で寄ってみよう』
まずは出口の方に回ってみてから旧産屋を見てみる。
牧志 浩太
「……そういえば。
最初、退路を確認しとこうって言ってたのに、完っ全に抜けてた。
確認していこう。そうしよう」
佐倉 光
『まぁ意味はあまりない気はしてるんだ』

KP
案内された場所に向かうと、確かに外へ向かう道がある。
ぼんやりと靄に霞んで続く道の前で、何か作業をしている人がいる。
どうやら、土砂か何かを川辺の方へ運んでいるようだ。
佐倉 光
『普通に道が続いている。歩いて行けば外に出られそうだな?』
牧志 浩太
「あの文章か、外へ出るって言ってた……」
KP
「ああお母さん、おはよう。体の調子はどうですか」
佐倉 光
「ああ、こんにちは。
この先ってどこへ続いているんですか?
随分霧が深いですね」
KP
「ああ、この先は村の外ですよ。
ただ、何か月か前だったかな、坂が崩れてしまって。
ようやくどかし終わろうか、ってとこなんですよ」
ふう、と額の汗を拭いながら言う。
佐倉 光
「ああ、それで土砂を運んで。
危ないですね!
……その時って誰か巻き込まれたりしたんですか?」
KP
「いいや、さいわい誰も。
でも危ないですから、お母さんは近寄らん方がいいですよ。
あと一週間もすれば、全部終わりますから」
佐倉 光
「そうですか、それは良かった」
佐倉 光
スマートフォンを出して地図アプリを見てみる。
KP
地図アプリは、最後にあの靄にまかれたらしい場所を示したままになっている。
位置情報も受からないらしく、そこから動かない。
佐倉 光
『境界ならもしかして、と思ったけど、場所はあの場所のままだ。
悪い夢を見ているみたいだな。夢にしちゃ整合性がとれすぎてるけど』
霧が出ているのも嫌な感じだ。戻ろう。
牧志 浩太
「そうか……。やっぱり異界は異界か。
坂が崩れたっていう所まで村の人が行ってるんだろ? 
そこまでは、まだ異界の中なのかもしれないな」
佐倉 光
予定通り、旧産屋に行ってみる。

KP
かつて産屋だったという建物へ行くと、そこは今あなたがいる屋敷よりも少し小さかった。
しかし建物の作りはしっかりとしており、滞在に不安を感じさせない構造が見てとれる。

大きな縁側の戸にも、窓にも板が打ちつけられ、入れないようになっているが、人が何か作業をしている玄関扉だけは開いているようだ。
KP
「あら。おはよう、お母さん」
台車を前に作業をしているのは、あの診療所にいた女性だ。
中から品物を運び出しているらしい。
佐倉 光
「おはようございます。

ここ、まだまだ使えそうなのに使うのやめてしまったんですか。
何かあったんですか?」
問いかけてみる。
KP
「ああ、そうなんですよ。
ご不幸があったからって、みんな使うのを嫌がってしまって。

本当は物もね、全部捨てようってことになったんですけど。
それは勿体ないからっていうことで、使える物は使うことになったんです。
ああ、大丈夫ですよ、お母さんのお身体に触れるものは使っていませんから」
佐倉 光
「それって、ここで起きたんですか?」
声を潜めて問いかける。
KP
「ええ、そうらしいんですよ」
彼女も少し身をかがめるようにして、産屋のかげに隠れ、声をひそめて返す。
KP
「いくらなんでも、そんなに嫌がらなくてもとは思うんですけれど、
やっぱり気がよくないそうで」
牧志 浩太
「この人は、そんなに『嫌がって』はいないのか?
新しく来た人だから……、なのか?」
佐倉 光
「それって、おかあさんが子供諸共自害したってやつですか?」
思い切って突きつけてみる。
『不幸があった場所』が二カ所あるのが気になったのだ。
KP
突きつけられると、彼女は表情を曇らせた。
周囲をはばかるように、辺りを見回す。
「どうして、それを?」
佐倉 光
「とある方の記録を読みました。中で話しましょうか」
あまり人が通りかかるところでしたい話ではない。
KP
彼女はあなたの腹を見てためらった。
暗い室内と、手元の台車を交互に見る。
佐倉 光
「あ、あの、僕が男だから警戒してます?
だとしたらこの体じゃどうしたって危害なんか加えられないですけど」
佐倉 光
「もしかしたら、ここにいる奴のこと、気にしてます?
それなら僕の相棒なので問題ないです」
佐倉 光
この人がどれだけこの村に毒されているのか分からないからちょっと怖い!
KP
「ああ、いえ。
大事な時期なのに、つい余計なことを話してしまったかと思って」
あなたの様子を見ながら、彼女はそろそろと室内についてくる。
玄関の扉を閉じると、置かれた作業用のライトだけが室内を照らす。
佐倉 光
「単刀直入にお尋ねしますけど、
外からいらしたんですよね。
外でのこと、覚えてますか。
あなたを産んだのは、病院のドクターですか?」
KP
彼女が緩やかに目を見開いたのが、ライトの明かりに照らされた。
「どうして、それを?
ええ、覚えています……、覚えてる。
ここで暮らすうちに、随分遠い昔のようなことになってしまって、もうぼんやりしているけど」
彼女は驚き、少し口調を変える。
牧志 浩太
「! 覚えてるのか……」
佐倉 光
「では、もしかしたら、なんですけど、
あなたが『産まれる』前に、ドクターはこの村のことを調べていませんでしたか?」
ああ、こうなるとあのメモを持ってこなかったのが悔やまれる。
見せれば筆跡で一発だったじゃないか!
KP
「そう……、なの?
ごめんなさい、覚えていなくて。
産まれる前はずっと、寝たり起きたりしていたから」
呟く声に、あなたや牧志のような緊張の響きはない。
彼女はその時、恐らく『呑まれて』いたのだ。
佐倉 光
「彼は今は記憶があるんですか?」
KP
「ある、と思う。
ごめんなさい、産まれてからは外の話をしたことがなくて。
わざわざするような話でもなかったし」
あなたの、外のことやここでの出来事を気にする様子に、彼女は少し戸惑った様子で答える。
佐倉 光
『この人は俺たちほど覚えていないし、
ここに呑まれかけているんだろうな』
牧志 浩太
「そういうことだな……。
この人が腹の中にいた時に、呑まれたんだ」
佐倉 光
「帰りたくはないんですか?」
KP
「いえ、別に……?
ここはいい所だし、それに、先生も村の皆さんもよくして下さるし。
それに、お産のお手伝いを通じて、私たちが村の皆さんに助けてもらった恩返しができるのは嬉しいし」
KP
「私たちが来た後だったら、もしかしたら、このお母さん達も助けられたかもしれない……。
そう思うと、少し悲しいの。
お産を控えてお母さんが不安定になることは、珍しくないから……。
だから、うまくサポートできてあげられていたら、そんなことにならなかったかもしれない」
彼女はぽつりと漏らした。
牧志 浩太
「……あれを書いたのが診療所の先生だとしたら、
彼女、あれを読んでいないし、覚えてもいないんだな」
佐倉 光
「そう、ですか。
そうですね、辛かっだろうな」
辛すぎて、呪物を生み出すほどに。
佐倉 光
「その事件が起きたの、ここなんですか?
村の一角に、やっぱり『不幸があった』っていう家があったみたいなんですけど」
KP
「その家は彼女の家ね。
彼女が亡くなってから、彼女のお父さんも、雷に打たれて亡くなってしまって……。
それで、そんな風に言われているんだと思う。

そうだ、彼女のことなんだけど……、
彼女は亡くなったけど、赤ちゃん、助かったそうなの。
でも、角をいただけなかったそうでね。
それで、村を出て行ってしまったそうよ」
佐倉 光
「赤ちゃんは生き延びたんですか!
出ていった、って、普通に?
森ではなく?
育ってから出ていったんですか?」
KP
「ええ、そう。
動けるようになって、少ししてだって聞いている」
彼女は悲しそうに俯いた。
佐倉 光
「そうか。ここから『出てゆく』ことは出来るんだ」
牧志 浩太
「らしいな。それに、その子は無事に逃れたんだ」
佐倉 光
その先がリアルかどうかは分かんねーけどな。
牧志 浩太
「その後、どうなったか分からないけどな」
佐倉 光
「その、亡くなったっていう女性とお知り合いの男性がいたらしいんだけど、どなたかご存知ですか?」
KP
「いえ、知らないけど……、そうなの? なんてこと……」
ああ、と彼女は悲しむ。

佐倉 光
とはいえ、その人に事情聞いても辛いだけという気も。
KP
あとそもそも現在村にいるかどうか不明ですね。>その人
佐倉 光
ですよねー。
とっくにつの生やして消えた可能性もあるし。
佐倉 光
うーむ。
あの包丁でなんかすれば因果が断ち切れそう、ではあるかぁ。
あとは、森に行った人に何が起きたか分かればねー
KP
これはPL向け情報なのですが、このシナリオは日数制限シナリオというのもあって、やれることは判明するものの、完全な確信は得られないようになっています。

佐倉 光
『あの包丁で傷つければ因果が切れる、って可能性かー。
『母親』だけならともかく、中のやつまでとなると危険だなー』
牧志 浩太
「どうにも確信がないな。やったとして、どうなるか分からないことだらけだ」
ううん、と腹の中で牧志が唸る。
佐倉 光
『ああ。もう一度あのセンセに会った方がいいかもな』
佐倉 光
先生とこの方の年齢差は大きそう?
KP
年齢を確認しようとよくよく見ると、『先生』は二十代後半か三十代前半、彼女は十代後半か二十代前半くらいに見える。
佐倉 光
『牧志、ついでに聞いときたい事なんかあるか?』
牧志 浩太
「いや、他にはないな。
彼女、それ以上のことは知らないんじゃないかって気がする」
佐倉 光
『だな』
佐倉 光
「すみません、お仕事の邪魔しちゃって」
手伝う、ってこともできねぇからな、今は。
佐倉 光
「参考になりました。ありがとうございます」
KP
「いいえ、あまり気に病まないでね」
KP
室内はがらんとしており、書類の類が残っていそうな気配もない。
不要な物は処分された後なのかもしれない。
佐倉 光
『余裕があれば、あの先生にも話をもう一度聞きたいところだ』
佐倉 光
『あのメモを書いたことを覚えているかどうか、分からないけどな』
牧志 浩太
「ああ。覚えててくれれば……、もっと話が聞けるかもしれない」
望み薄かもしれない、という響きが牧志の声音には少しあった。
佐倉 光
『病院で会話した感じだとな、知っていて隠している、という雰囲気じゃなかったし』


▼4日目:昼

佐倉 光
そろそろ方針決めないとなぁー
KP
微妙に確信が得られない感じのシナリオでお手数をおかけします。
佐倉 光
休憩をとったらまたあの曰く付きの家へ行ってみる。
KP
今日の昼食は、鶏肉をさまざまな木の実のソースで彩った、少し洒落た雰囲気の料理だった。
最近来た人が提案してくれたのだと、いつも世話してくれる女性が微笑む。
佐倉 光
「外から来た人ってそんなに多いんですか。元々ここに住んでた人ってどれくらい残っているんですか?」
KP
「もう随分減りましたねえ。
二十人くらいでしょうかね」
彼女の言葉はすこし、語尾が曖昧だ。
もしかすると、いずれ混ざっていくのかもしれない。
佐倉 光
「そうなんですか。あなたは前からいらっしゃる方なんですね。
外から来て出産した後帰りたがる人、あまりいないんですか?」
KP
「帰りなさる方ですか、おりませんねえ。
お産の後は後で大変ですし、それに、お産をしにここに来なさった方たちですから。
この村を気に入りなさって、住みなさっておりますよ」
彼女は誇らしげに微笑んだ。
そのことに、疑問を覚えてはいないように見えた。
佐倉 光
どいつもこいつも洗脳済みか。
正気が戻ることがあったとしても、朝に会った人のようにここを選ぶんだろうな。
佐倉 光
どいつもこいつも外に一切未練がない、なんてことがあってたまるか。
人間そんなに簡単に絆だの義理だの軛だのから逃れられるもんじゃねぇぞ。
佐倉 光
「ちょっと散歩に行ってきます」
KP
「行っていらっしゃいませ。
無理のないうちにお帰りなさってくださいね」

佐倉 光
声をかけて外に出る。あまり人目につかないように気をつけながらあの一角へ向かおう。
……全く見られずに、というのは難しいかも知れないが。
KP
あの家は昨日も今日も変わらない様子で、村人たちはそちらへ視線をやらないままだ。

向かう途中に〈聞き耳〉で判定。牧志は/2。
1d100 48 牧志の〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 94→失敗
佐倉 光
1d100 85〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 51→成功
KP
疲れが溜まってきているのだろうか、踏み出すごとに身体は重い。

人目につかないようにしても、どこかしらで人の視線と交わった。
しかし、あの一角に近づくと、相変わらず人の視線がふっと消える。
KP
「あの家は」
ひそりと噂話をする声が、どこからか風に流れ、あなたの耳に入った。
KP
「どうしてあんなことができてしまったんだろうねえ」
KP
「嫌って、拒むなんて。
そんなことをするから、拒まれてしまったんだよ」
KP
「きっと、何かにつかれていたんだよ。
あんまり、悪しざまに言わないでいておやり」
KP
「でもねえ。いくらなんでもねえ」
でもねえ、でもねえと繰り返す声が、また風に溶けていく。
佐倉 光
『嫌えば、拒めばいいのか?
そういう意味じゃ俺たちは充分に拒んでると思うんだけどな。
俺は早く帰りたいし』
だからこうして毎日うろうろしているんじゃないか。
牧志 浩太
「思ってるだけじゃ伝わらないとかか?
産まれた子に角がなかったっていうのも、村を出た、出られたっていうのも、『拒めた』ってことなのかもな。

当の拒んだ人は……、死んじゃったみたいだけどさ」
佐倉 光
『そういう理屈なら村出りゃ一発なのかもな!』
佐倉 光
『墓で決意表明でもすりゃ帰してくれんのかな』
牧志 浩太
「やるだけタダではあるな、決意表明」
佐倉 光
『さて、拒否するために今日も調べるぞ。
経緯は何となく分かったし、何か出るといいけど』
ボロボロの見捨てられた家に踏み込む。
佐倉 光
『拒んだ女の父親と母親が死んだってのも何か関係あんのかね……
どんな死に方したって言ってたかな』
牧志 浩太
「雷に打たれた、って言ってたな。
いかにも天の裁きっぽい死に方ではあるけど」
KP
▼水回り
室内に踏み込むあなたを、邪魔する者はいない。
一度見たことのある台所は、前に来た時よりはどこに何があるのか分かるように思えた。

【アイデア】で判定。佐倉さんのみ。
佐倉 光
1D100 85【アイデア】 Sasa 1D100→ 61→成功
KP
調理器具の置かれた棚に、ふと違和感を抱く。
包丁が一本なくなっている。
あの包丁はここから持ち出されたのかもしれない。
佐倉 光
『台所の包丁が一本足りない。ここから持ち出された物なんだな』
牧志 浩太
「そうか、ここの包丁だったのか。
ってことは、使われるまでは普通の包丁だったってことなのか?」
佐倉 光
『そういうことに……』
KP
それに気づくと、空になった包丁入れの中に、小さな紙が入っているのに気づく。
包丁がそこにある時は、刀身で隠される位置だ。
佐倉 光
『ん、なんだ、これ?』
紙を取り出して見る。何か書いてある?
牧志 浩太
「……ん? 何かあったのか?」
KP
折り畳んだそれの裏には、異様な気配が染みついていた。
憎しみのような、拒絶のような、怒りのような、悲しみのような。
あの包丁よりは少し色褪せていたが、あの包丁が纏う気配に似ていた。

そこには、「四ヶ月目」「五ヶ月目」「六ヶ月目」といった文字と、合わせて何かの大きさが記録されていた。
 二ヶ月目 xx cm お参りに行った
 三ヶ月目 xx cm いやだと訴えた
 四ヶ月目 xx cm 聞いてくれない
 五ヶ月目 xx cm こわい
 六ヶ月目 xx cm いや
 七ヶ月目 xx cm なりたくない

 決めた
KP
一か月ごとに大きくなっていく数値。
七ヶ月目の大きさに聞き覚えがあった。あの診療所で検査の時に測った……、あなたの腹の大きさに、よく似た数値だった。

これは、膨らんでいく腹の大きさの記録だ。

実に数か月以上をかけて、この紙と包丁にあの気配が染みついたのだ。

KP
※KP注
妊娠開始が正確に分からない・そもそもちょっと進行が速めなどの理由で、経過月数はずれています。
佐倉 光
想いを蓄積して呪いにしていったのか。
「ヤダ帰りたい」
という程度じゃ無理そうという気もしてきたな。
それに近いことをしたであろう彼女の父母変な死に方してるしなぁ。
KP
ということです。数ヶ月以上煮詰めた結果呪いが宿りました。

佐倉 光
「……これ」
佐倉 光
同調圧力の中、死んだ娘はここに悲痛な叫びを刻みつけていったのか。
佐倉 光
「ずっと正気で、逃げられなかったのか」
佐倉 光
思わず呟いてから、牧志のためにはっきりと心のなかに紙切れに残された悲鳴を形作る。
牧志 浩太
「お参りに行った、ってあったんだよな。
もしかして……、直接訴えたんだ。『もりさま』に。

でも、聞き入れられなかった。
それか、もしかすると、そもそも話ができるような奴じゃないのかもしれない」
佐倉 光
『こりゃあ、呪いにもなるぜ……なかなか、ヘビーだ』
牧志 浩太
「ああ……。
ずっと、正気だったんだ。どうしてかは分からないけど、ずっと。
俺達も今の今まで我を忘れてたっていうのに、彼女は、ずっと。
でも、逃げられなかった」
佐倉 光
『腹の中にいた奴もこれじゃ、キツいよな……』
牧志 浩太
「ああ……。きついな……。それを、ずっと、腹の中で浴びてきて。
そいつが彼女のことをどう思ってたのかとか、分からないけど、逃げられなかったんだ、二人とも」
牧志 浩太
牧志の身体に力が入る。
無意識にか全身を縮めた牧志は、腹の中で固く感じられた。
牧志 浩太
「なんとか、したいな。
俺達のこともだけど、やっぱり、これさ」
腹の中から牧志が呟いた。
できることも、危険も全てあなたに任せている状況からか、その希望は控えめで、弱い。
佐倉 光
『たぶんこの現象の発端は『もりさま』でも、
元凶は真の意味じゃ『もりさま』じゃないんだろうな。
きっと、あの墓で生きてる。
そいつがこの状況を望んでいるんじゃないのか』

今まで見たものをもとに推測を組み立てれば、できる景色はあまりにも単純で当たり前の構図だ。
こんなに単純で良いのか、と疑問を感じるほどに。
佐倉 光
『俺の考えを聞いてくれるか?』
牧志 浩太
「ああ。勿論だ」
とん、と微かに牧志の手が腹の内側を叩いた。
拳をぶつけ合わせる、小さな小さなあの仕草。
佐倉 光
牧志に考えている構図を伝える。
牧志 浩太
「……」
牧志はじっと、あなたの考えを聞く。
佐倉 光
『あの墓にいる、もとは『もりさま』に犯された女は、望んでかそうではないのかは分からないが永らえている。
もりさまの力をこの村に恵みとして与えているのはそいつの意思じゃないのか。
代償にとられるのは角が生えた村人だ。
三本角だけがとられずにいるのは、そいつの娘だからだろう』
佐倉 光
『恵みを維持するためには誰かが身ごもり続ける必要がある。
既にもりさまの生け贄としての印がついた角が生えた奴は基本的に対象外。
だから次第に人は不足し、外から連れてくる必要がある。

もりさまは言うまでもなく害悪だ。餌を求めているだけだろう。
人間にどんな感情を抱いていようと関係ない』
佐倉 光
『始祖の女の感情も分からないが、
娘をもりさまに渡したくないと思っている気はするな。
この表向き平和な村で永らえさせたいと思っている。
だから既に角があるのに娘はここに居続けている。

始祖の女がこの現象を自分の意思で止められるかどうかは分からないな。
単に娘を死なせたくない一心で続けているのかも知れないし、
自分では止められないからせめて娘は生きさせたいということなのかもしれない。

ただ、三本角はこの状況が不満そうだったな。
この特別扱いを喜んではいないように見える』
牧志 浩太
「始祖の女の人が、この状況の全ての根源じゃないか、っていうんだな。

この村に『恵み』を齎すために。
娘を生かすために。
もしかすると、森に渡さないために。

この現象は始祖の女の人が起こしているのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

でも、少なくとも始祖の女の人が全ての鍵だろうってことと。
彼女は娘と直接、話したりできないんだろうってこと。

その二つは、確実に見えるな」
牧志 浩太
「ここまでの考えを……、……日記帳、ないんだった」
牧志が腹の中でもぞもぞと動いた。
牧志の日記帳はあなたの手元にあるが、腹の中には渡せない。
佐倉 光
『俺が代わりに書いておくよ』
持ってきていたメモにペンを走らせる。
牧志 浩太
「お、ありがとう」
佐倉 光
『と、なるとだ。あの三本角の意思を聞いておくのも悪くないんじゃないかって思うんだ。
あの子がここに居続けるのは嫌だ、というのを母親に伝えれば、この異変が収まる可能性がある』
佐倉 光
『ただまぁ、そんなことはとっくにやっている可能性、高いからなぁ。
訊くだけ訊いてみて、協力してもらえるかどうかってとこだな』
牧志 浩太
「いや、意外とあるかもしれない。
あの子……、あの人は何もかも『もりさま』の恵みだって思ってたんだろ? 
もしかしたら、母親が『生きて』ることさえ知らないんじゃないか」
牧志 浩太
「下手したら俺達が正気ってバレて何か、ってのは怖い所だけどな。
でもあの子、そこまで積極的に人を取り込もう、って意識は持ってない気がするんだよな。
これは俺の勘だけどさ」
佐倉 光
「俺も。切り札を提示する気はないけど、おおまかなことは話してもいいと思ってる」

彼女が残したメモと、包丁に巻き付けられていたメモは今回は持っていこう。
包丁は確信が持てるまで動かさないでおく。
牧志 浩太
「ああ。そうしよう。
包丁だけはここに残して、俺達で握っておく。
母親のこと、言い方悪いけどあの人を動かせそうなことは、話す……、だな?」
佐倉 光
ところでこの家に、まだ探せそうな場所はあるだろうか。
KP
納戸で気にかかったことについて、改めて状況を思い出す、状況を見直すことで〈心理学〉を振り直すことができる。
佐倉 光
1d100 65〈心理学〉!  Sasa 1d100→ 3→決定的成功クリティカル)!
牧志 浩太
1d100 77〈心理学〉 Sasa 1d100→ 61→成功
KP
お、クリティカルか。
KP
乱暴に布にくるまれ、草刈り鎌などの横に押し込められている、妊婦と新生児に必要な諸々の品々。
それらの品々の、時折一致しない意匠。
祝福するように巻かれた鮮やかな色の飾り紐が、近くに落ちている様子。

恐らく、それらはすべて、周囲の人々からの贈り物だ。
そして……、贈られた彼女は、それらを憎み。

それらに、追い詰められ。
遠ざけようとして、この暗い納戸に押し込め。

それでも、捨ててしまうことはできなかった。
……彼女が村から逃げられなかった、逃げなかったのも、きっと、同じような理由なのだと思い当たるだろう。
※PL向け情報
これまで行った場所に再度行って人と話をする場合、探索回数を消費しません。
その後に別の行動が発生する場合、探索回数を消費することがあります。
佐倉 光
こんなに憎んだり呪ったりするなら、どこかへ行って望まない命を絶ってしまえば……と考えられるのは俺がよそ者だからかもしれない。
宿したのが近しい人だったら、皆に祝福され愛されていたら。
何より外に出てゆくだけの力が無かったら。
佐倉 光
「エグい」
舌の上の苦味をそうして吐き出した。

※了解です!
佐倉 光
メモは持って戻ろう。


▼4日目:夜

KP
湧き上がってくる苦味を吐いて屋敷へ戻ると、湯気の香りがあなたを出迎える。

風呂は今日も温かく、夕食は舌に甘くあなたを祝福する。
茸と瑞々しい野菜がふんだんに使われた蒸し物だ。

どれだけ苦味を感じようと、身体は屋敷に戻ると自然と力を抜くようになっていた。
夜は屋敷に戻って、祝福を受け入れて、休む。
その習慣が身体に根付きつつある。

皮膚のすぐ下で、命が息づいている。
腹はまた僅かに大きくなっていた。
腰が痛む。骨盤全体が命の重さを抱えてずきずきと痛んだ。
佐倉 光
体が休息を求めている。
あまりにもえげつない情報で体だけでなく心も疲れているのかも知れない。
畳に寝転がって体を伸ばす。
牧志 浩太
「出方が分かってくるんだよな」
牧志が呟いた。
牧志 浩太
「最近、たまに頭の中に、出ることが割り込んでくるんだ。
手足がむずむずして、勝手に出る姿勢になろうとする」
話が通じる
KP
この胎児は喋れるので、腹の中で変な向きになっていたら言って回ってもらうことができるのだった。
話が早すぎる。
佐倉 光
逆子は絶対ないし、臍帯が巻き付くこともないな! 安全にお産できる! やったぁ!
……羨ましい。
KP
もしお産中のアクシデントで巻き付いたら巻き付いた挟まってる助けて苦しい! って言ってもらえる。
しかも謎のパワーで骨盤は良い感じにカスタム済み。すごーーーくやりやすい。
佐倉 光
大人の意識がある状態で産道通るの拷問だよなぁ、などと思いました。
赤ちゃんはそれしか考えられないんだろうけど。
KP
しかも後ろから自分の栄養供給が剥がれそうな気配が迫ってくる中で無理やり押し出されるし、回りながら障害物(骨盤)を必死に通り抜けなきゃいけないし、臍の緒挟まりそうで怖いし、押されて痛いし血まみれだし、周囲から母親の絶叫が聞こえてくるし。
狭い狭い狭い無理ィイイイってなりそう。
佐倉 光
正気では絶対体験したくないな!
KP
体験しちゃったら変なトラウマつきそう。

佐倉 光
『予定日近いもんな……そろそろやること決めなきゃ』
佐倉 光
『明日はもう一度長の家に行って話をしよう。
余裕があれば病院にも行っておきたいな』
牧志 浩太
「ああ。協力してもらえたら動きやすい。
ちゃんと話せれば、この村の異変だって終わるかもしれない」
KP
知らぬうちに血行が悪くなっていた身体が、解れて気持ちがいい。
畳に寝転がって身体を伸ばすと、今日見た痛ましい情報が頭の中で少しずつ輪郭を潤ませ、自身に齎される穏やかな祝福に溶けていく。
佐倉 光
そんな状態を自覚して危機感を覚え、スマートフォンを出して今日見たものや自分たちの考えを記録する。
佐倉 光
『気を抜くと、『母親』って役割に流されそうだ。くそ、ひでぇ冗談だ』
意識的に悪態をつく。
自分たちは幸せな母子などではない。囚われ人だ。いいように扱われている家畜だ。その立場を忘れてはならない。

食事と休息をとろう。
KP
スマートフォンは正気のあなたと牧志を記録する。
牧志 浩太
「俺もだよ。
ずっと心音を感じてて、安らぎそうになる。
ここで産まれるまで寝てたくなる。

温かいし真っ暗だし、好きにうとうとしたら絶対に気持ちいいって分かるんだよ。

佐倉さんのそれが『母親の役割』なら、俺のは『胎児の役割』なんだろ。
きついな、これ」
佐倉 光
『できる限り、考えたことなんかを記録して、忘れても思い出せるようにしておく』
あの病院の女性の様子を見れば、思い出せても駄目な場合もある、ようだが。やらないよりはマシだな。
KP
与えられる食事を、休息を味わって翌日に備えようとすれば、すぐに頭の奥が眠気に緩み始める。

しかし精神が高ぶっているのか、疲れ果てた身体と脳の重さに比して、うまく意識が落ちてくれない。

金縛りにでもあったように身体は重い。
眠りたくて堪らないのに、うまく眠れない。
KP
佐倉さんは【CON】×5で判定。
KP
失敗すると足がつります。いたい。>【CON】
佐倉 光
イヤダァ
佐倉 光
眠いのに眠れない。そんな状況にだんだん苛ついてくる。
ごろごろと転がって少しでも具合の良い姿勢を探す。
1d100 35 【CON】 Sasa 1d100→ 42→失敗
KP
ピキッ。

脹脛を激痛が貫いた。

二人分の負担をかけられながらも意のままに働いていたはずの脚が、強烈な痛みを発した。

外傷のそれとも異なる、しかし耐え難い痛み。
筋肉がひとりでに収縮し、収縮するほどに痛みを発する。

対処法は知っている。
過収縮した筋肉を和らげて、ゆっくりと伸ばしてやればいいのだ。

ゆっくりと? 伸ばす?
この触れるだけで痛みを発する、かちかちになった激痛の塊を?

無理だ。
無理に決まっている! 痛い!

なんと、ようやく寝ようとした所で…… 脚がつった!
佐倉 光
「う……」
無言で悶絶する。つま先を掴んで引っ張る……ムリムリ、腹が邪魔だ!
壁までズリズリ這っていこうとしても痛みで動きづらい!
壁にやっと足を押しつけても思う姿勢を取れず、ジタバタと悶えた。
KP
とんとん、と微かに障子を叩く音がした。
「もし、どうなさいました、お医者を呼びましょうか」
世話をしてくれている女性の声だ。
まだ起きていて、痛みに悶える物音を聞きつけたのだろう。

彼女に助けてもらえば、脚をほぐしてもらうことができる。
触れられることを望まなければ、温かい布でも持ってきてもらうこともできる。
あるいは、何でもないと彼女を追い返してもよい。
佐倉 光
「い、いえ、大したことじゃないから……」
その優しさをありがたいと思いつつも、全てを明け渡すのは嫌だと思った。
体を変な風によじりながらつま先をなんとか折り返そうとかかとを押し込む。
KP
彼女は心配そうにしながら、温めた湯で絞った布を置いていく。
膨れた腹と激痛のせいでうまく手が伸ばせず、それが助けになったかどうかは微妙な所だ。
しばらく痙攣する脹脛と格闘していると、どうにかこうにか痛みが治まってきた。
痛みの余韻を残しながら、今度こそ眠りにつくことができるだろう。
佐倉 光
「こむら返りがこんな痛かったの初めてだ……ねじ切れるかと思った」
まだかすかに痛む足を何とかかんとか宥めながら、眠りにつく。
牧志 浩太
「大変だったな。だいぶんキツそうだった」
撫でるように、苦笑するように腹の中で羊水が揺れた。

コメント By.佐倉 光
これはきっと切り札だ。


切り札のバックボーンが、ひたすら悲しすぎる。

プレイ日:2025年7月21日 ~ 2025年12月15日

作者名: 闇司祭ファラリス

配布・販売サイト: 胎響の村

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