これは、VOIDのHO2とHO1による
やさしい朝をくださいねです。
両方のネタバレがあります。
十分ご注意ください。

二日目

KP
あなたは扉を開けた。
その先にあったのは、期待したような出口ではなく、同じような真っ白な部屋だった。
向かい側に扉が一つ。壁には時計。中央にテーブル。
だがおいてある家具は先ほどの部屋とは少し違うようだ。
ヴィキ
その空間へ向けてスキャン
結城 晃
「なんだ……同じか?」
ヴィキ
「ううん。細部は違っているみたい」
KP
では、スキャンを始めたあなたの聴覚センサーに、背後で閉じた扉が鳴らす『カチリ』というかすかな音が届いた。
結城が慌てて振り向く。
ドアノブを握って動かすが、最初の時と同様、動かなくなっている。
何の仕掛けもないように見えるのに、だ。
結城 晃
「開かない……」
ヴィキ
「一方通行、か」
部屋の中、テーブル以外には何がありますか
KP
壁際に、先ほどのものとは違う本棚と水槽がある。
また、壁にはシンプルな時計がかかっており、一時を指している。
ヴィキ
水槽の中に生き物はいますか
KP
水槽には海藻などが飾り付けられている。
近づかないと何かがいるかどうかは分からないだろう。
近づいてみる?
ヴィキ
近づいてみます
KP
水槽は棚と一体になったかなり大きなものだ。
中には色とりどりの珊瑚や海藻が踊る。
綺麗な砂が敷かれているが、動くものは見当たらない。
あなたのセンサーに生体反応もない。
結城 晃
「アクアリウム、ってやつかな?」
ヴィキ
「でも、生き物はいないみたい」
一応、先の扉の把手も確かめます
KP
扉の取っ手は先ほどの扉と同様動かない。
ヴィキ
「やっぱり、ダメか」
KP
【知識】判定をどうぞ。
ヴィキ
CCB<=90 【知識】 (1D100<=90) > 60 > 成功
KP
水槽に対するものです。
水槽を眺めていたら、データベースにヒットする文言があった。
『水槽の脳』。
『水槽の脳』とは
 思考実験の一種。
 「人から取り出した脳を培養液の水槽の中に入れ、電気刺激によってその脳波を操作する。
 そうやって操作されている水槽の中の脳は、現実世界と何ら変わらない五感を伴う意識を生じさせる。
 ならば、私たちが現実だと思っているこの世界もまた、水槽の脳が見ている夢なのではないか?」という仮説のこと。

ヴィキにとっては最悪の想い出に直結する言葉です。ごめんねヴィキ。

ヴィキ
なぜ、よりにもよってそんな言葉が
いつかの事件で見た文献と、母のことを嫌でも思い出してしまう
結城 晃
「……どうした? 顔色が悪い」
KP
VOIDに顔色などというものはないのだが、結城はしょっちゅうこんな言い方をする。
『沈んだ雰囲気』のことを表現しているらしい。
ヴィキ
その言い方に、小さく微笑み
「ううん。大丈夫」
首を振った
「ありがとう」
結城 晃
「生き物でもいりゃ、気がまぎれたのにな……」
ヴィキ
「お世話する人、いるのかな……」
さて、テーブルの上には?
KP
テーブルの上を見る。
前の部屋で見たものとあまり変わりはないように思える。
メーカー名も分からないシンプルなもの。
釘も使われていない単純な材質、単純な形。
木であるのに、それが何なのかはっきりとしない。
テーブルの上には、2つのポットと2つのティーカップに砂糖やミルクピッチャーが置かれている。
どれも真っ白でシンプルな、陶磁に見える。
更にテーブルの中央には、空のガラスのコップが一つだけ置かれており、その下には小さなメモがあるのが分かる。
更にテーブルには、先ほどのクッキー皿の代わりにパイが二つ置かれている。
二人分のフォークとナイフと皿もある。
ヴィキ
「今度はパイなんだ」
結城 晃
「……なあ、これ、なんかのアトラクション?」
「謎解きゲーム、的な?」
ヴィキ
「わからない……けど」
「少なくとも、今のところ害意はないように思えるね」
「でも、油断はしないで」
「少なくとも、エスコートの仕方だけは普通じゃないんだから」
KP
ヴィキが見下ろした片方の皿の下に、白い紙が見える。
無記名の封筒が、ひとつ。
ヴィキ
では、まず封筒から
宣言はしませんが、逐次スキャンはしながら、ということで
KP
封筒には相変わらず封もなにもなく、簡単に開くことができる。
中に入っていた便せんには走り書きがある。
 この部屋にまで来てくれてありがとう。
 そしてまたこの手紙を読んでくれていることにも、お礼を言わせて欲しい。

 準備の時間はまだもう少しだけ必要だ。
 ここでもまだ、君の力を貸して欲しい。
 深い話の方がきっと、時間はかけられるはずだろうから。

 どこかで君は察しているだろうけれど、君たちが知らないことをこちらは知っている。
 君たちはまだ知るべきじゃない。でも、君は知るべき時が来る。
 そのためにこの部屋はあって、そしてこの時間を必要としている。
 準備ができたら、君には話す。そこで最後の頼みがある。

 それまでどうか、彼と話して、もっと彼を知って欲しい。
 多分それが、君にも必要なことだと思うから。
ヴィキ
「……」
左上から右下まで、瞬間的に読み終え
封筒に戻すと、やはりポケットにしまう
結城 晃
「また白紙……?」
「何の意味があるんだ」
ヴィキ
「うん……どういう意図なんだろうね」
それ以上の封筒への追及を遮るように、コップの下のメモを取る
KP
コップの下にはメモがあった。
 「残すことなく 召し上がれ
  満足できたら 鍵をあげる」
ヴィキ
その紙片を、結城に見せる
結城 晃
「白紙だらけか」
ヴィキ
「見える?」
結城 晃
「いいや」
ヴィキ
「そっか」
結城 晃
「またVOID専用か。何が書いてあるんだ?」
ヴィキ
「今度は、全部ちゃんと食べなさい、って」
KP
間違ってはいないwww
結城 晃
「お残しは許しません、か。望むところだ」
「このパイ食べればいいんだろ?」
ヴィキ
「うん、そうみたい。後で解析してからにしようね」
「後は……」
本棚に目を向ける
KP
本棚は、結城の背丈より少し高い、厚みのあるものだ。
先ほどのものとは違い、分厚い本がぎっしりと詰まっている。
どうやらどれも医学書のようだ。
ヴィキ
タイトルはどういった分野のものですか
KP
様々なジャンルのものだ。
この書架の主の興味はかなり広いらしい。
ヴィキ
特に目を引く何かがあるわけではない?
結城 晃
「なあ、ヴィキ、この本も白紙?」
ヴィキ
「そうなの? 私には少なくとも背表紙はちゃんと描かれているように見えるけど」
KP
彼が持って開いている本は、白紙だ。
あなたにも間違いなく白紙に見える。
ヴィキ
それを覗き込む
「……今度は私にも白紙に見える……」
結城 晃
「貴重な紙の無駄遣いだな」
ヴィキ
「うーん……?」
秘匿 KPのつぶやき
これやっぱ、作るだけ作って表面だけテクスチャ貼ってある感じなんですかね?

結城が働いていないのは、メタ的にはKPCであり脇役だからですが、だからって何もしないのも不自然なので、かなり言葉を選んで発言しています。
あとは……何しろ狂気に落ちているのを無理矢理止めている状態ですから、いつもより思考とか反応とか鈍いんじゃないでしょうか。
うん、きっとそう。

KP
〈目星〉をどうぞ。
ヴィキ
CCB<=85 〈目星〉 (1D100<=85) > 49 > 成功
KP
あなたが走査していると、中に一冊だけ変に薄いものがまぎれていた。
ヴィキ
「ん……? 雑誌?」
それを手に取る
「これだけ、変に薄い」
KP
それは一枚だけ紙が挟まれたクリアファイル。
ヴィキ
「違った、クリアファイルだね」
中身は?
KP
抜いた瞬間、「発表用原稿」という文字が見える。
ヴィキ
「……論文の草稿、かな」
結城 晃
「また白紙……」
ヴィキ
「あれ、そうなんだ」
結城 晃
「お、何か書いてあるのか」
ヴィキ
「うん」
タイトルには何と?
KP
タイトルがひときわ大きな字で『発表用原稿』と書かれているんだね。
ヴィキ
なるほど
では、中身を改めましょう
KP
下に細かい字でずらっと書かれている内容は……
 実際、VR技術が活用されているのは娯楽分野だけではありません。
 医療分野、その中でも精神面の治療においては実際に活用が進んでおり、
 既に20世紀には退役軍人のPTSD治療プログラムに使用されています。
ヴィキ
「ふむ……」
片手でファイルを開きつつ、顎に指を当てて首を傾げる
「VR技術に関する、医療論文、かな」
 これらは主に、「暴露療法」と呼ばれる、患者が恐怖心を抱くものに対して
 危険を伴うことなく直面させるという技法のために用いられます。
 娯楽として高層ビルの高さを体験するというVRアトラクションがありますが、
 プレイヤーは「実際は落ちることはない」という絶対の安全を約束されています。
 これは、高所恐怖症患者への治療にも流用できる内容だということです。

 ただし、これらもやはり利用するのは「記憶の再固定」です。
 即ち、ある出来事を思い出した脳が再度それを固定する際に、
 「これは安全である」という体験により書き換えてしまう。
 またそれ以外にも、薬剤の投与によりニューロンや受容体の働きを阻害して、
 記憶の詳細を不鮮明にすることでトラウマ記憶の想起を防ぐ研究が進んでいます。

しかし、それらの方法では、
KP
ここから先は次のページに続くようだが、その先は挟まっていない。
ヴィキ
「うーん……途中で切れちゃってる」
結城 晃
「VRか。さっきのチラシもそんな内容だったな」
ヴィキ
と、その言葉で隣で怪訝な顔をしているであろう結城に気付き
「うん。トラウマやPTSDをVR技術で治療するにあたっての論文みたい」
内容を音読して聞かせる
結城 晃
「なるほど……ヴィキやレミさんが俺にやってくれたようなことを、VRでやるわけか?」
ヴィキ
「うん。私たちにプリインストールされている精神安定フォーマットも、同じ理屈だね」
「良い記憶や、喚起した本人の強い意識でトラウマの根を塗りつぶしてしまうの」
結城 晃
「撃ちあいも血みどろも、ゲームなら怖くない、か」
「そんなので片付くならいいけど、そううまくいくもんなのかな?」
ヴィキ
「うーん」
「実際はそんなに簡単ではなくて、繰り返し反復することで、時間をかけて慣れさせて行くんだよ。心のリハビリだね」
結城 晃
「なるほどな……」
KP
自分の経験を少し思い返しているらしい。
ヴィキ
「今はもう安全な環境にいるはずなのに、その時の記憶に悩まされる人に対しては、それなりに有効だと思うよ」
結城 晃
「ヴィキは……忘れたいと思う事、あるか?」
ヴィキ
「うーん……」
首を傾げ
「今は無い……かな」
「だって、今はもう全部私の大切な一部だもの」
結城 晃
「そうか……」
ヴィキ
「……でも
お姉ちゃんの……」
神の宿った機械から現れた姉の姿
救おうとして救えなかった、あの時の絶望と赤い記憶は……
目を閉じて、胸元のスカーフを握りしめる
結城 晃
「……黄海さんの、お姉さんのことをもっと思い出すと、いいんじゃないかな」
「最後の姿じゃなくて、小さいころに遊んだことや、ドロ課で話したこと、とか」
「きっとヴィキへの優しさは本物だったはずだから」
ヴィキ
「うん……そうだね……」
結城の言葉に思い出される、あの頃の姉の明るく力強い、頼れる姿
そして、最期に彼女がつぶやいた言葉
『幸せになって』
気がつけば、あの痛々しい光景は、光の中で優しく微笑む姉の姿にすり替わってゆくような、そんな感覚を覚えた
「うん」
一つ頷き
「そうだね」
目を開いて微笑む
「ありがとう、あっくん」
KP
さて、そこで……〈図書館〉を。
ヴィキ
1d100<=25 〈図書館〉 (1D100<=25) > 1 > 成功
CRTですわ
KP
さすがだ。
ヴィキ
成長記録していいのかな
KP
いいよー
お手持ちのクリアファイル、どうしますか?
ヴィキ
クリアファイルを閉じ、テーブルの上に置く
この部屋に、他にあたれるところはあるかな
KP
では、本棚から目をそらそうとした一瞬、何かが意識に引っ掛かった。
ヴィキ
「ん」
KP
綺麗に並んだ医学書の背表紙に、一箇所だけ順番が前後している箇所がある。
ヴィキ
「あれ……」
その部分の一冊を手に取る
「ここだけ、順番が入れ替わってる」
KP
すると、本に張り付いていたらしい小さなメモが床に落ちた。
ヴィキ
「あ」
KP
乱暴な字で殴り書かれた、短い言葉。
ヴィキ
拾い、文面を改める
 ・記憶の定着は睡眠中に起きる
 ・人は見た夢を忘れてしまう
  →記憶の整理は睡眠中に行われている?

 ・記憶を司る海馬に働きかける神経がある
  →これが夢の記憶を残りにくくする

 ・記憶を特定してこの神経を利用できれば?
  →覆うでは不安定 不鮮明では不十分
   必要なのは完全な対処

 ・人間への応用は難しいとされている
  →彼等に「技術協力」を得れば?
KP
以上だ。
ヴィキ
我知らず、眉を顰めていた
結城 晃
「何か書いてあるのか?」
ヴィキ
「うん……」
結城 晃
「何て?」
ヴィキ
「記憶の定着と、その阻害する方法について書かれているみたい」
内容を音読する
最後の『彼ら』という文言のところだけ、息をためて強調するように
そして、結城の顔を見やる
結城 晃
「『彼等』……?」
「奴らか?」
ヴィキ
「やっぱり、思いつくのはそれだよね」
結城 晃
「人間の記憶を操る方法の研究、ということだろう?」
「記憶に新しいからな」
ヴィキ
「操るというより……」
「記憶を残さないようにすることを、目的にしているような……」
結城 晃
「トラウマの書き換えか……」
ヴィキ
「何か、トラウマを抱えた人、あるいはトラウマとなりそうな経験をした人を救うための研究……」
「それを考えていた人の部屋、なのかな」
結城 晃
「VOIDへの移植といい、魅力的な言葉だな」
ヴィキ
「うん……」
「ここを用意した人は、人を救うために『彼ら』と接触していた……?」
結城 晃
「で、それを俺たちに回りくどいやり方で伝えて、何がしたいんだ」
ヴィキ
「それはわからないけれど……」
再び顎に指を当てて、考える
「禁忌の侵犯によって、破綻する物語……。トラウマの治療……。記憶の定着を防ぐ……」
VOIDには必要が無いだろうが、ぶつぶつと口に出して呟き、考えをまとめようとする
「何か、見てはいけないこと、知ってはいけないことを見知ってしまったために、トラウマを抱えた人の治療を考えている……?」
結城 晃
「……また、記憶に新しい話題だ」
ヴィキ
「私たちのことを、治療しようとしている……? あるいは被験者にしようとしている?」
結城 晃
「なるほど? 同意くらいは取ってほしいもんだけどな」
ヴィキ
実際、先日の事件は、心に大きな負荷を強いるものだった
憮然とした声を漏らす結城の顔を見やり
彼も、その件で心を大きく疲弊させた
「そう、だね」
「でも、敢えて私たちを選ぶというのなら」
「あの事件のことや、私たちのことをよく知っている人物……?」
結城 晃
「だったら、また黒田さん絡みの勧誘かもなぁ……」
「……あれ、なあ、ヴィキ」
KP
水槽の方を指さす。
ヴィキ
「ん?」
そちらを見る
結城 晃
「水槽の下、なんかないか?」
ヴィキ
「え?」
言われ、反射的にその箇所をスキャン
秘匿 KPのつぶやき
出し忘れた情報を提示するついでに、結城さん働かない問題を解消しています!

KP
水槽と台の間、正面からは見えない側面に、紙が挟まっている。
ヴィキ
「本当だ。何か挟まってる……」
取れそうですか?
KP
紙だけではなく、何かインクに似た反応もあるため、何か書かれているかもしれない。
かなり重く、水が入った水槽を動かさないと取れなさそうだ。
【SIZ】15との【STR】対抗>
無論結城に手伝わせてもよい。
ヴィキ
結城の【STR】いくつだっけ
KP
13だね
結城 晃
「結構重いな……」
ヴィキ
80%か
1d100<=80 【STR】vs【SIZ】 (1D100<=80) > 85 > 失敗
こういうところで確実にミスっていきます
KP
無念。では紙の飛び出ているところだけが見えた。
「計画書」
というのが題名のようだ……
ヴィキ
これは、水槽の水によって、光の角度で見えない感じかな
KP
しかし、肝心な内容は水槽の下。
ヴィキ
下なのか
KP
裏返ってるし、水槽の下には砂やらなんやら入っているからね。
ヴィキ
「ううん……」
しばらく2人で水槽に張り付いてから、諦めたように力を抜く
結城 晃
「駄目だ、重すぎる……」
「もう少しなんだけどな……」
ヴィキ
「うん……」
「何かの計画書みたい」
「ひょっとしたら、この部屋のこととか書かれているのかもしれないけど……」
水槽の表面を拳で軽くこづいてみる
破壊はできそうだろうか
KP
恐るべきことだが。
ただのガラスに見える、構造もそのはずの水槽は、いくら力をかけようとたわむこともない。
明らかに、異常だ。
ヴィキ
「……ダメか……構造計算からすると、簡単に割れそうなのに……応力計算値がエラーになっちゃう」
結城 晃
「強化ガラスか?」
ヴィキ
「多分、違うと思う。明らかに現実ではあり得ない耐久性だもの」
結城 晃
「さっきのドアと同じか」
秘匿 KPのつぶやき
このオブジェクト、プロパティの『移動』にはチェック入ってるけど、『変形』とか『破壊』とかにチェック入ってないんです、きっと。
突っ込みは入っていませんが、ただの木製の椅子にVOIDのヴィキが腰掛けて支障ないのも、恐らく同じ理由。

ヴィキ
「やっぱり、VR?」
結城 晃
「VR……ここが?」
ヴィキ
「……でも、この触覚や食べ物の味覚」
「もしかしたら……」
ふと、恐ろしいことを思いついた
かつての母に、父が施した処置
そして、『自分』がこの体へと移植されたこと
さらには、あの一件でブランシェと名付けた大型VOIDに搭乗した時のこと
自分と、結城の意識が、外部的な処置によって意識を接続した状態に置かれているのでは
しかし、そうだとして、実行者の意図も正体も掴めない
結城 晃
「何か、思いついたか?」
ヴィキ
「ううん。なんでもない」
首を振った
己が思いついたそれが、もし的中あるいは真実に触れていたとして、これをモニターしているものが、何か働きかけてくる可能性がある
それが善意か、害意かはわからないが、それがわからない今は、悟られるべきではない
そう考えた
『君も同じように、彼を救いたいと願うのなら。』
ヴィキ
そうだ
善意の実行者だとしても、それを彼に知られてはならない、というあの言葉
やはり、結城に話すべきではないだろう
そこまで考え、不意にもう一つの恐ろしい想像が電脳の奥で微かに閃く
禁忌を犯すことによる、破綻
トラウマの治療
『彼には見えず、自分にだけは見える情報群』
『彼を救いたいのならば』という言葉
結城の顔を、じっと見つめる
これは、結城を救うためのプログラムである、という可能性……
結城 晃
「……」
KP
もの言いたげにしている。
おそらく相棒がまた何か気づいたのだろう、と察してはいるのだろう。
ヴィキ
結城は、何か見てはいけないものを知って、あるいは目撃してしまった……?
先日の、明らかに異常な神宿る機械を目撃した時の、己の心を殴りつけるような衝撃
それらが電脳の奥で絡み合い、朧げな実像ながら、その脅威、触れてはいけない正体にチタン製の背筋に悪寒めいた何かが走るのを感じた
KP
電脳の奥でほんの瞬時に行われた思考と、決意と、予感。
ヴィキ
「……」
結城から、ふい、と視線を逸らす
知られるべきではない
そして、今はこの実行者の意図を確かめる意味でも、従うべきである、と考えた
KP
小さな吐息が聞こえる。
結城 晃
「分かったよ……」
ヴィキ
「うん……ごめん。考えがうまくまとまらなくって」
結城 晃
「後で話してくれ」
ヴィキ
「今回は名探偵のシリコンの頭脳が、うまく動かないみたい」
言って、舌をぺろ、と出して笑った
結城 晃
「あまり抱え込み過ぎないでくれよ……」
ヴィキ
「ごめんごめん。人間と違って、並列でいろいろな考え事が高速でできちゃうから、ついつい考えすぎちゃうんだよね」
結城 晃
「そのへん、羨ましいんだかそうじゃないんだか分からないけどな」
ヴィキ
「新作アニメの考察とか捗って、結構重宝するよ」
半分ごまかしの冗談、半分本気の言葉で笑う
KP
相棒が話さないということには、それだけの理由があるのだろう。
結城はそう理解したようだった。
ヴィキ
心の中で、ごめんね、とつぶやいて
「さて、と……。後は……」
部屋をあらためて見渡す
KP
あと見ていないのは、テーブルの上の誘惑くらいだろうか。
ヴィキ
「後は、お楽しみのお食事だけみたいだね」
言いながら、結城のために席を引く
「どうぞ?」
結城 晃
「ありがとう……って逆だろう普通」
「座るけど」
ヴィキ
自分を『そう』見てくれる彼に、ふふ、と笑って対面に座る
「さて、と」
「またコーヒーでいい?」
結城 晃
「いや、今度は紅茶にしてみようかな」
「俺がつぐよ」
ヴィキ
「ありがと」
結城 晃
「どっちがいい?」
ヴィキ
「私、コーヒー苦手だから、紅茶でお願いします」
KP
では、紅茶をカップに丁寧に注ぎ、二人の前に置く。
皿の上のパイからはいい香りがする。
パイはそれぞれ一つずつだ。
ヴィキ
そのカップを両方とも取り
それぞれのカップから、一口ずつ含む
この環境がバーチャルならば、あまり意味のないことかもしれないが
それでも用心はしておくに越したことは無い
何より、時間を稼がなければならないらしいのだから
結城 晃
「この飲み物や食べ物もVR?」
「信じられないな……」
ヴィキ
「うーん。確証はまだ無いけどね」
「もしかしたら、未知の素材でできてる、ってだけかもしれないし」
先ほどの水槽のこと
「うん、OK」
言って、カップの片方を、口をつけたところを拭って手渡す
結城 晃
「絶対壊れないアンテナ! なんてのができたら、便利かも」
ヴィキ
「そうだね。それは助かるかも」
KP
ありがとう、と礼を言いカップを受け取ると、少しの間、ヴィキが拭いた部分を見た。
ヴィキ
「……どうかした? リップ残っちゃってたかな」
結城 晃
「いや、何でも」
「(中坊じゃないんだから……)」
ヴィキ
「私の口の中は光触媒とオゾンで滅菌してるから、ばっちくないよ」
KP
結城の心拍数と体温がほんのわずか上がったのが、分かるかもしれない。
ヴィキ
「あ、図星? もう、やだなぁ、大丈夫だってば」
結城 晃
「いや、そういうことじゃないから……いただきます!」
「あっつ」
ヴィキ
「もう、あわてんぼうなんだから」
くすりと笑い、フォークとナイフを手に取る
KP
パイはかすかに湯気を立てている。
結城 晃
(心拍数上がってるの、例の発作じゃないよな? そういえばヴィキと二人きりだ。ずっと大丈夫だったけど、異常な環境でぶり返していたら……)
ヴィキ
その様子には気付かず、パイをざっくりと4等分に切り分け、中身を改める
何のパイかな
お食事系か、デザート系か
KP
デザート系だ。スキャン結果には、パイ生地・砂糖・アーモンドクリーム・ナッツなどが検出される。
ヴィキ
「わ、おいしそ~」
KP
スキャンするならわかるだろう。
中に異物が混入している。
小さなカプセル。
ヴィキ
ぴくり、と手が止まり、表情に緊張が走る
それをナイフとフォークで慎重に取り出す
KP
薬品を入れるような、ゼラチン質の、ごく一般的なもの。
ヴィキ
一つだけですか?
KP
中には白いものが入っている。紙片だろうか。
全体にスキャンをかけるなら、二つのパイの中にそれぞれ1個。
ヴィキ
それらを同じく慎重に取り出し、自らの皿に乗せます
液体や粉末などは入っていませんか
KP
VOIDって便利だなー。本当は【幸運】判定がいるんだよ。
ヴィキ
VOID特権
KP
失敗するとちょっぴり嫌な思いをするのw
ヴィキ
いやなおもい
KP
カプセル噛んじゃってイヤンってなるだけ。

KP
開いてみると、折りたたまれた紙が入っていた。
ヴィキ
パイ自体の内容物に毒性はなしってことでいいですか
KP
他は全く問題なし。
結城 晃
「なんだ、薬品……じゃないのか」
ヴィキ
では、それらを一つずつ開封し、指についたクリームをぺろりと舐める
KP
クリームは滑らかに舌の上を滑りながらナッツの香ばしさを伝えていく。
ヴィキ
「あ、おいし。うん、またメモみたい」
結城 晃
「メモ? また紙か」
ヴィキ
その内容は、どういったものだろう
KP
1D10!
ヴィキ
2つ一気に?
KP
順番にいきましょうか?
ヴィキ
OK
1d10
1d10 (1D10) > 6
KP
『一人の大切な人と百人の他人、どちらを殺しますか?』
秘匿 KPのつぶやき
よりによってこの質問……

ヴィキ
その文面に、顔を顰める
結城 晃
「……」
「俺たちは、一人の大切な人を殺させられた気が、するよ……」
ヴィキ
「こういう問題、私大っ嫌い」
結城 晃
「俺もだ」
ヴィキ
「選べないよ。こんなの」
「……選ぶことができたら……だけど」
死なせるつもりは、なかった
でも、あの時
そうすることが、命を奪うことだと知っていたなら……
父と姉の、あの言葉に対して、私はどう答えていただろうか
答えることができただろうか
KP
あなたの『選択』。
それは、確実にあなたと、彼らと、そしてこの世界の運命を変えたのだ。
ヴィキ
振り払うように、頭を強く振る
選択は、もう行われてしまったのだ
時を巻き戻すことなどできない
選択のその先に、今があるのだ
自分達は、その道を歩んで行くしかない
でも、どちらかを選べ、と敢えて尋ねるというならば
「私は、どっちも殺さない! はい! 終わり!」
強い口調でそう言って、メモをくしゃくしゃと丸めてテーブル隅に指で弾き飛ばした
結城 晃
「気が合うな」
「じゃあ代わりにお前が犠牲になれ、って言われても、困るけど」
「俺は、死ねないな……」
ヴィキ
「そうだよ」
「あっくんは、ずっと生きてくんだから」
テーブルの隅の紙玉に、思い切り顔を顰めて舌を出し
ふと、自分は、どうだろう、と思考が一瞬だけ電脳の奥を掠めた
結城 晃
「黒田さんの事もあるし、それに」
KP
言いかけて言葉を呑み込んだ気配。
ヴィキ
「それに?」
KP
無意識だろうか。その手が胸のあたりを押さえていた。
ヴィキ
「大丈夫? のど、つかえた?」
慌てて紅茶を注ぎ足す
結城 晃
「いや、死にたくないの、当たり前だろ」
ヴィキ
「なんだ、そっか」
「そう、だよね……」
KP
先ほど言葉を呑み込んだあたりから、心拍数が、跳ね上がっている。
異様なほどに。
ヴィキ
「……本当に大丈夫? 脈拍上がってるよ」
KP
視線が変に一か所を見つめている。
結城 晃
「なんでも……」
ヴィキ
どこを見てるのかなー
KP
ヴィキの胸のあたりだ。
結城 晃
「……」
ヴィキ
「?」
己のスカーフを指でつまみあげ、首をかしげる
クリームついちゃってたかな
KP
ついてないな。
ヴィキ
もう一度首を傾げて
秘匿 KPのつぶやき
臓器のことを言いたいなぁ、と思うKP。
いやしかしさすがにそこまでは唐突すぎるなぁ。

結城 晃
「いいから。次。何書いてるんだ?」
「このぶんじゃ、碌なことが書いていなさそうだな」
KP
八つ当たりのように音を立ててパイを食べている。
ヴィキ
ほんの一瞬、記憶の隅でちらついた、全てを救うために自らの命を差し出した、孤独な歌い手の少女のことを、隅へと追いやり
「うん、次はね……」
紙片を開く
KP
1D10!
ヴィキ
1d10 (1D10) > 2
KP
『死んでしまった人はどこへ行くと思いますか?』
ヴィキ
「うーん……」
結城 晃
「……人、か」
ヴィキ
「天国とか、そういう話かな」
結城 晃
「VOIDは、どこへ行くんだろうな」
KP
またも無意識のようにつぶやいて、しまったというように息をのむ。
ヴィキ
「……」
沈黙する
「……天国が、本当にあるのなら」
「私たちも、そこに行かせてほしい、かな」
皿の上のパイに視線を落とし、つぶやいた
結城 晃
「そりゃ、そうだろ。きっとないんだ、差なんてものは」
ヴィキ
「そう、かな」
結城 晃
「そうだ。でなきゃ俺も困る」
ヴィキ
「なんであっくんが困るの」
思わずくすりと笑ってしまう
結城 晃
「そりゃあ……」
「人生で出会って世話になった人の半分がVOIDなのに、天国が違ったら寂しいだろ」
KP
真顔で言う。
ヴィキ
赤い髪の後ろ姿が、記憶の中で見えた気がした
『晃のこと、頼む』
彼の言葉を思い出す
「そう、だね……」
KP
視線がヴィキから外れない。
何か考え事をしているようだ。
ヴィキ
「きっと、赤星さんも天国で見ていてくれてるよ」
結城 晃
「あ、ああ、そうだな……うん、きっと」
ヴィキ
「?」
思っている相手が違ったのだろうか、と小さく首を傾げ
KP
赤星のことを思って言ったに違いないセリフ。
しかし、あなたが声をかけた時には虚を突かれたような顔をしていた。
途中で何かに思い至ってしまったかのような。
ヴィキ
「大丈夫? ……あれ、間違ってたかな」
ちょっと考えるようにして
「でも」
「もし、明日この世界が無くなっちゃったとして」
「その後はやっぱり、みんな一緒がいいもんね」
「もしかしたら、ママやおじさん、おばさんにも会えるかもしれないし」
「きっと、天国だよ」
いつか命を終えた後に、再び皆に出会えるように
KP
結城の見開いた目から涙がこぼれていた。
ヴィキ
「……あっくん? あ、ごめんね。思い出させちゃって」
慌てて、ポケットからハンカチを出そうとして、やはり無く
スカーフを抜き取って、その涙を拭おうとする
KP
その手を握られる。
視線はヴィキの顔に向いたまま。
ほんのひと呼吸、止まった。
ヴィキ
「わ」
「ど、どうしたの? どこか痛む?」
結城 晃
「いや、暖かいな、と思った」
「大丈夫。何でもない……ただ」
ヴィキ
「……ただ?」
結城 晃
「俺は、ヴィキと一緒にいきたいと、思っただけなんだ」
ヴィキ
「……!」
その言葉に、はっとした表情で数瞬硬直し
「……うん。ありがとう」
彼の手はまだこちらの手を握ったまま?
KP
握っている。
ヴィキ
では、自らの手からスカーフを逆の手に取り
彼の涙を、拭う
握られた手を、そっと握り返しながら
「大丈夫。……私もだよ」
結城 晃
「……」
ヴィキ
どうか、せめて『その時』までは
いつか、彼が人生を注ぐべき誰かに出会う時まで
秘匿 KPのつぶやき
この空間での記憶は失われてしまうので、ここで告白をするなんて酷すぎる。ここは自重すべきか……?
いやここで言わなきゃダメだろう。
ごめんヴィキ、頑張れ晃。ええい、告白しちゃえ!!

KP
一度、目を閉じ、更に手を強く握り。
結城 晃
「俺は……お前が好きだ」
ヴィキ
「え……」
表情が、消える
結城 晃
「お前がいなくなることを想像したら、何も考えられなくなった」
「お前が笑うと嬉しい。お前がいるだけで楽しい。
ドロ課に戻るときも、お前がいないかもしれないなんて、考えもしなかった」
「当たり前すぎて、分からなかったんだ」
「ずっと一緒にいて欲しい」
「これはきっと、好きだってことだろう?」
ヴィキ
脳髄が
チタンフレームの頭蓋に収められた、シリコン製のチップが、高速で幾つもの思考を並列に演算する
混乱
人間のニューロンならば、ただ混乱するだけのはずのその現象が、VOIDの電脳は全ての処理を正確に、明確に演算してゆく
混乱
できていれば、あるいはまだ
いつからか、結城のことを想う度に、自らに戒めと諦めの鎖を巻き付けてきた意識が
その考えたちが、残酷なまでに自分の心の中ではっきりとリフレインされる
きっと、それは実時間にして一瞬の出来事
KP
ごめんなー
ヴィキ
「あはは……」
漏れたのは、小さな笑い
「またまた、あっくんたら、何言ってんの。こんなとこで」
春先輩がいつも見せていた、器用なごまかし笑い
自分にも、それができているだろうか
幻肢痛のように、胸が跳ねるような嬉しさ
しかし、それを容赦なく縛り上げる、自身の冷徹な理性
「吊り橋効果、ってやつだよ、それは。こないだの一件は、すごかったから」
VOIDらしからぬ、曖昧な言い回しであることに、当人は気づいていなかったかもしれない
KP
希望が、ゆるやかに落胆へと落ちてゆくのが見えた。
秘匿 KPのつぶやき
VOIDに逡巡の時間は、外見からは、ない……

ヴィキ
その表情の変化が、幻肢痛めいて胸を刺す
言いたい
答えたい
叫びたい
『私もだよ、ありがとう』と
胸の疼きの奥で、本当の自分が、見えぬ壁を殴打して叫ぶような感覚
結城 晃
「そう、か。そうだな、そんな場合じゃなかった」
ヴィキ
自らに涙を流す機能が無くて、よかった
もしあれば、きっと、自分は今涙をこぼしていたはずで
彼は
優しい青年は、そんな自分を放っておかないはずだから
そう
涙も流せない自分では
彼の人生に応えることのできぬVOIDでは
彼の人生の隣に、立つ資格は、無いのだ
泣いていいよ
ヴィキ
これ、バーチャルだったら泣いちゃってもOKなんですかね?
KP
いいんじゃない?

秘匿 KPのつぶやき
泣いていい理由。

その方が美しいから、ではありません。
もともとこのバーチャル空間は人間を対象にして作らたはずなので、シミュレートも人間に沿っていると考えます。
ならば感情が大きく動けば泣くというアクションに反映されるのはおかしいことではないでしょう。
決してご都合主義ではないのです。

KP
青年は自らの思いを断ち切るように、少し長いため息をつく。
ヴィキ
「そう、だよ……っ。もう、あっくんたら……仕方、ないんだか……ら」
おかしい
全てを電子制御されたはずの自分が、えづくように、途切れ途切れの言葉を漏らす
それはまるで、嗚咽のようで
結城 晃
「……ごめん、今のは、忘れて……」
KP
作り笑いを浮かべるのに明らかに失敗した顔で言いかけ、目を見開く。
ヴィキ
テーブルの上に、ぱた、ぱた、という小さな音
「あれ……?」
音のした下を見やれば、そこには幾つもの滴が落ちた後
結城 晃
「……ヴィキ」
ヴィキ
「あれ……あれ……」
今度こそ、混乱したような狼狽える声
「なんで……」
「なんで、こんな……そんなはず、ないのに……」
「止まって……止まれ……っ」
KP
明らかにブルーブラッドなどではない、異常。
しかしヒトとしては当たり前のもの。
ヴィキ
顔を歪めて、自分を叱咤するように嗚咽に歪む声を漏らす
その瞳からは、大粒の涙滴がいくつもいくつも溢れては、頬を伝ってテーブルに落ちる
結城 晃
「……ヴィキ」
秘匿 KPのつぶやき
こんなシーンなのに美姫じゃなくてヴィキなの? って声が聞こえそうですが。
晃はヴィキが美姫だから好きになったわけではないんです。
彼女がVOIDのヴィキであることもひっくるめて好きなので、あまり呼び名に拘りがないのです。

ヴィキ
「……!」
呼びかけられ、はっと彼の顔を見る
見てしまう
涙に濡れ、歪んだ顔で
結城 晃
「俺は、諦められなくなったよ」
「そんな顔されたら、諦められるわけないだろ」
ヴィキ
「ち、がうの……これっ……これ、はっ」
引き攣った喉が震え、言葉が濁る
なんで、こんな生理現象が自分の機械の体に?
これでは、いけない
きっと優しい彼は、諦めてくれないのに
結城 晃
「俺はお前が好きだっていうのが、確信になったし」
「少なくとも、嫌われてはいなさそうだし、さ」
ヴィキ
その言葉に、痛みに耐えるように目を閉じ、唇を噛む
瞼に押し出された涙滴が、更に溢れる
「ダメ、だよ……」
「私じゃ、ダメ……」
結城 晃
「VOIDだから?」
ヴィキ
その言葉が痛い
何度も、自分を痛めつけてきた戒めの言葉
それに耐えるように、必死に首を縦に振る
握られた手を、振り解こうとするが
結城 晃
「大丈夫だって。人権運動、スパローのみんなも頑張ってくれているおかげで、順調だし」
ヴィキ
そのことは知っている
充分すぎるほどに
結城 晃
「ちょっと時間はかかるかもしれないけど、いつかは人間と同じように生きられるようになる」
「というか、する」
ヴィキ
そう、なのだろう
いつか、春先輩や田尾さんのおかげで、いつかそんな日は来るのだろう
それでも、絶対に越えられない残酷な現実がある
それすらも、冷徹な思考が己に突きつけてくる
イヤイヤをするように頭を振る
「ダメ、なんだよ……。私じゃ……」
「あなたの人生を……幸せにできない」
結城 晃
「俺、十分幸せにしてもらってるし。なんならこれからもっと幸せになる予定だし」
KP
【INT】18っぽい告白ってどうしたらいいんですかぁー
ヴィキ
そう、答えるだろう、と考えていた通りの彼の言葉
だから、なおのこと、頭を振る
必死に
必死に否定する
結城 晃
「大体、それ心配するのは俺だから」
「俺が大丈夫だって言ってるんだからいいの」
ヴィキ
ぎり、と硬質セラミックの歯が軋む
なんで、気付いてくれないのだろう
そんな、苛立ちにも似た感情が一気に膨れ上がり
気がつけば彼の顔を睨むような強い表情で口を開いていた
KP
遠回しに『お前とは嫌だ』と断られているのでは。
そんな不安が目の奥にちらついているのが見える。
ヴィキ
「VOIDの私じゃ、あなたの命を繋ぐことができない、って言ってるの!」
大きな声で、そう叫んでいた
もう一度、噛み締めた歯が軋む
結城 晃
「命? 何で知ってるんだ!?」
「いや、繋いでくれてるって、ことを? えぇ?」
「いや、違うな? 何の話をしている?」
KP
あからさまに動揺して視線が泳いでいる。
ヴィキ
「私じゃ、あなたの赤ちゃんを産んであげることが……」
そこまで感情に任せて口にしてしまってから、しまった、という表情に変わる
「……できないの……」
目を逸らし、悔しそうに呟く
ああ、なんて馬鹿なことを
なんて馬鹿な思い上がり
そんなことを考えている、それ自体が馬鹿馬鹿しいような気がして
結城 晃
「……あ、なんだ、そういう事か」
「確かにそこは残念だな。何か方法があるといいんだけど」
ヴィキ
気恥ずかしさと、苛立ちと、悔しさで顔が歪む
「無理だよ……」
結城 晃
「親父が生きてたらなぁ」
「……親父か……」
「有馬……さんは、何か知らないかな」
ヴィキ
「無理だよ……」
もう一度、口にする
なぜならば、自分はVOIDとして生まれ変わった
人間であった美姫として残っているのは、もう、この心しか無いというのに
結城 晃
「……」
ヴィキ
ああ、いっそ、この心さえ無く、ヴィキのままであったらよかったのに
そんな、身勝手なことを考えてしまってから、湧き上がる自己嫌悪で顔を更に俯かせた
結城 晃
「いや、そこ心配してるなら、本当に気にしなくていい」
「俺は『お前と生きたい』って言っているんだ」
「まずは、それだけだよ」
「生物としては、ってのは確かにあるかもしれないけど、ひとまずそこは置いておいても、俺はお前と生きていたい」
ヴィキ
「……」
俯く
俯き、下唇を噛み締める
結城 晃
「継げるのは、血だけじゃないさ」
「生きている間に何かをヒトに伝えて、それが伝わって残るなら、それはそれで『何かを残せた』ってことになるだろ?」
「俺たちはそういうやり方で残せばいいじゃないか」
「なんなら、養子を取るとか、VOIDたちに何かを教えるとかでもいいさ」
「血のつながった子供に拘ることはないんだよ」
ヴィキ
そんな言葉を聞きながら
それでも、最新型の憎たらしい電脳は『先天的、あるいは後天的な不妊のために関係が破綻した夫婦のデータ』などを勝手に検索しては表示してくる
彼の言葉に、ほんの少し和らいだはずの心を叩いてくる
「……でも」
そんな弱気が、なおも弱々しい言葉を吐き出させた
結城 晃
「……またデータあさって悩んでるだろ。悪い癖だぞ」
ヴィキ
見透かされた
みっともなく、顔を更に伏せる
結城 晃
「人間、悩んでるときは都合の悪いデータばかりみつけてきて否定しようとするんだ」
「俺だってそうだからな」
「……分かってるよ。すぐに答えを出せることじゃない」
「ただ、考えてほしいんだ」
「俺はね、多分今日ここでお前に心を伝えたことは、きっと後悔しない」
ヴィキ
彼の優しい言葉
彼は、私の決断を、待ってくれる
だから
だから、今でなければ、ダメなのだ
今、私も決断をしなくては
勇気を出して、想いを伝えてくれた彼の心に応えなくては
KP
ごめんねぇヴィキちゃん
KP
結城の手が緩んで抜けかけた。
ヴィキ
逃げるな
逃げるな、美姫
彼の最初の告白を聞いたときに、覚えたはずの甘い疼きを、信じろ

彼を、信じろ
そう、歯を食いしばり
抜けかけた手を、逃さぬように、今度は己から握りしめた
顔を、あげる
結城 晃
「……」
ヴィキ
涙どころか、いつか鼻水でまで汚れた、きっとみっともない顔を
「あっくん」
結城 晃
「うん」
KP
緊張感が伝わったのか、結城の顔も引き締まる。
ヴィキ
心の中で、戒めの鎖が、思考がもう一度抑え込もうと絡みついてくる
うるさい、黙れ
そう、歯をくいしばって
「私も……」
「私も、あなたと生きたい」
「私の、この機械仕掛けの体が機能を停止するまで。あなたが、その命を終えるその時まで」
「たとえ、」
「たとえ、あなたの命を受けることのできない体でも」
「それでも、一緒に、生きていたいの!」
力で鎖を引きちぎるように、心で大きく前へ
「こんな……」
「こんな私でも、あなたの隣にいさせてくれますか……っ!」
KP
結城が息を呑む。
その言葉を力づけるように、強く手を握る。
結城 晃
「いっそ結婚しようか!」
ヴィキ
「……!」
思わず、ぽかんとした顔
その顔は、色々な液体でぐしゃぐしゃに汚れたまま
結城 晃
「あ、ごめん調子乗った」
ヴィキ
「……いや」
結城 晃
「うれしすぎてわけわかんなくなってつい」
「一年後ぐらいに改めて」
ヴィキ
「いやいやいやいやいや」
「そうじゃないでしょ」
色々と心の奥でくすぶっていたさまざまなことが、今の衝撃で全部吹っ飛んだ
「赤ちゃんがどうとか、そういう話したんだからさ、もうそういう流れだったでしょ、今の」
慌てて、口早に
結城 晃
「確かに」
「じゃあ、何も問題はないな!」
ヴィキ
「うん……」
間抜けな声で答えてから
「あ、いや、そうじゃなくて」
ええと、ええと、と手を握られたまま、何を探すでもなく辺りを見回して
その意味のない行為を数ループしてから
「ふ、ふつつか者ですが……」
握られた手に、もう一つの手を重ねて、なんとなく頭を下げた
結城 晃
「こ、こちらこそ……」
KP
気まずそうに頭を下げて、はっ、と息を呑む。
結城 晃
「ここ、VRってことは……」
「覗かれてるんじゃないだろうな?」
ヴィキ
その言葉に、遅れてはっとした表情
結城 晃
「……ま、いいか」
ヴィキ
「うん……まぁいいよ」
微笑み
「ありがとう、あっくん」
結城 晃
「ありがとう、美姫」
CCB<=90 【アイデア】 (1D100<=90) > 39 > 成功
「……あ」
ヴィキ
「ん?」
結城 晃
「……あ、あ」
「もしか、すると」
KP
突如結城は、自分の胸のあたりに触れる。
ヴィキ
「? どうかした?」
結城 晃
「人間としての美姫、まだ生きてる」
ヴィキ
「は?」
思い切り怪訝な顔
結城 晃
「……どう説明していいか分からないけど」
「俺の中に、美姫の臓器が生きてるんだ」
ヴィキ
「……え? は?」
結城 晃
「俺の命を繋いでくれているのは、美姫だ」
ヴィキ
「ど、どういうこと……」
KP
結城は語った。
美姫が赤星に刺され、結城もまた死に瀕した時のことを。
あなたもまた断片的に知る情報だ。嘘ではないことはすぐ分かるだろう。
ヴィキ
その、凄まじい告白を、信じられぬような顔で、聞き
「そんな、ことが……」
結城 晃
「言うつもりはなかったんだ。混乱させるだけだと思ったし」
「だけど……」
ヴィキ
「うん、めっちゃ混乱した」
「ね、あっくん」
不意に、呼ばる
結城 晃
「うん」
ヴィキ
「ちょっと、立って」
KP
手を放し、言われるままに立ち上がる。
ヴィキ
言い、自らも席を立つ
そして、彼の前へと歩み寄り
不意に、彼の長身に抱きついた
結城 晃
「うわっ」
KP
驚きながらも腕はヴィキの体を抱き留める。
ヴィキ
「静かに」
キッパリと言いつけ
そっと、彼の胸に耳を当てる
KP
彼の心臓は静かになどしていられないようだった。
力強く、早鐘を打つ鼓動。
ヴィキ
その、微かに速くなって静かに彼の内から響いてくる音に、しばし耳を傾け
「……そっか」
小さくつぶやいた
KP
心臓だけではなく、大部分の臓器は移植されたものだと、彼は語っていた。
ヴィキ
「……よかった。私、あっくんを助けられたんだね」
自らの命が、最愛の人の命を救っていた
そのことが、たまらなく嬉しく思えて
それからしばらく、目を閉じたまま彼の心音を聞いていた
KP
ゆっくりと心音が落ち着いてくる。
彼女の背を、彼の腕が包んでいた。
結城 晃
「そう、人としての君は俺を生かしてくれて、今も元気だ」
「だから……さっきのことも、もしかしたら」
「可能だったりするんじゃないかと、思うんだ」
ヴィキ
「……さっきのこと?」
ふと、顔を上げて彼の顔を見やる
結城 晃
「その……命を繋ぐ、子供のことだよ」
ヴィキ
「あ……」
「そっか……」
結城 晃
「どうしたらいいか、なんて分からないけど、希望はある」
「そう思うよ」
ヴィキ
「うん……」
頷き
もう一度、彼の胸に顔を埋めた
ああ、なんて幸せなんだろう
あの時から、つい先刻までずっと自らの中で柔らかな心を苛み続けたわだかまりが、気づけばすっかりと溶け消え去っていた
ありがとう、と心の中でつぶやいた
それは、誰に対してのものであったか
色々な顔が思い浮かぶ
きっと、それら全てへの感謝の言葉
その最後に思い浮かんだ、目の前にいる人のことに思いを向けながら
「……ありがとう」
と、口に出してもう一度つぶやいた
KP
その声に導かれたように、ガラスのコップのところで微かな音がした。
真っ赤な花弁を広げたガーベラが一輪。
コップの中に揺れていた。
時計が二時の鐘を打つ。

おしまい
KP
本日はここまで。
ヴィキ
お疲れ様でした!
KP
ありがとうございました!
ヴィキ
一山超えたな
KP
告白はする予定だったけど、ここまでガチになるとは思っていなかったかお
ヴィキ
求婚までされてしまった
そしてご成約してしまった
KP
そこまでは、中のヒトも考えてなかったよ!?
せいぜいお付き合いできるかなくらいで。
ヴィキ
よくぞ言ったな結城晃
それでこそ男だ
KP
よく言った。
そしてこんな環境での告白になって御免よヴィキ。
ヴィキ
逆に、こういう環境だったから、涙も見せられたし
KP
ああ、確かに。
レア表情を見てしまった。

秘匿 KPのつぶやき
はっきり愛情を意識したことでまた呼び名が「君」に戻っています。忙しいね。

こんな、どんなルートでも失われる記憶に告白から求婚までしてしまったことには罪悪感あるけど、言わざるを得なかったよ!!
せめて正式な告白と求婚はまともなとこでしたかったよね……でも通じちゃったから、涙を見てしまったから、もう、仕方なかったね……嗚呼。


CoC『VOID』26(秘匿オープン版)

CoC
VOID 19日目 open
「……ほら、ゆっくり息をしましょう。……大丈夫、大丈夫です。わたしは、ここにいます」
「ああ……そう、だよ。ここに……ここにちゃんといる……。」

CoC『VOID』33

CoC
VOID 26日目 close
「いつもいつも……、大事なことは、言わないで…………言わないと、わかんないのに。ばか」

CoC『VOID』継続『探索者格付けチェック お正月スペシャル改』 4

「入る方を間違えたんですけど」



本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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