世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第五階層 3


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第五階層のネタバレ文章です。

049 走れ 満たされぬ者

第五層ネタバレ・収集系クエストバレあり。
ルシオン
「第五層にも慣れてきましたし、そろそろ依頼も受けてみましょうか? 
『水晶のツル』を集めて欲しいというものがありますよ」
ゴート二世
「そういや、伐採できそうな所あったな。まだやったことねーけど」
ケイン
「それにしても、妙に噂が広まるの早くねぇ? オレたちが到達した階層のことや、そこに住んでいるモンスターが落とす素材とか。
まだ水晶のツルなんて見たこともねーよな?」
チェ=パウ
「あたしがみんなの冒険譚を歌ってるからかな? 評判いいんだよ、みんなの話。
やっぱり身近な人の身近な所での大事件って、面白いんだよね」
ケイン
「お前かよッ!」
バルロンド
「……おそらく、そういった話を聞いた他の冒険者たちが我々を追って迷宮に入り、そちらから情報が流れたりもするのだろう。
なに、ここには多くの冒険者がいるのだ、珍しいことではあるまい」
ルシオン
「そうですね、執政院にも探索の報告はしているわけですし」
ジンライ
「古代遺跡はこうやって荒らされてゆくもんなんだなァ。知っている風景が削られてゆくってなァ、複雑な気分だぜ」
ラチェスタ
「探索者は行儀のよい者ばかりではないからな」
ケイン
「オレたちがモリビトに対してしてきたことを考えれば、他人事じゃねぇよ」
ルシオン
「そうですね」

ラチェスタ
「おそらくこれが水晶のツルだろう」
ジンライ
「それ、光ファイバーかピアノ線じゃねぇのか? 
まあ、ツルに見えなくもねェか」
ゴート二世
「ジンライの時代に何に使われた物だったかは、ぶっちゃけそんな重要な事じゃねー。
今俺たちの役に立てば、それは価値ある物なのさ」
ジンライ
「違ぇねェ」
ルシオン
「では、早速報告に行ってきますね」

ルシオン
「すみません、あと二本必要だそうです」
ゴート二世
「で、なんで持って帰ってくるんだよ。一本だけ先に渡せばいいだろ」
ルシオン
「酒場は預かり所ではありませんし、依頼者さんが、三本そろわなければ受け取る気はないと……」
ゴート二世
「じゃ、ギルドのオッさんにでも預かってもらえばいいんじゃねーの?」
ルシオン
「そういったことは許可されないそうです。それぞれの装備品以外の保管を認めると、多数の冒険者の物品で収拾がつかなくなったり、窃盗などの問題が発生するそうですから」
ゴート二世
「あーもー、ならユディトかバルロンドの家のすみっこでも借りて置かせてもらえよ!」
バルロンド
「うちは駄目だ。コレットが怒るのでな」
ゴート二世
「ユディトん家なら広いから物置くらい……」
バルロンド
「ゴート、諦めろ。システム上の都合だ、仕方があるまい」
ラチェスタ
「明日また探してみるとしよう。使えそうな長さの物がまた見つかるだろう」

ルシオン
「黄金の毛皮を集めて欲しいという依頼がありますね」
キリク
「黄金の毛皮だったら、二枚くらい持ってるよ。確か猪から取れたはずだ」
ルビー
「あらかじめ持っていれば、即納品ってのも可能だね」
ルシオン
「そうですね、追加で集めるにしても楽ですから。女将さん、この依頼なんですけど……」

一同
「じゅうまいッ!?」
ゴート二世
「ちょ、ありえねー。
あの化け物猪の皮10枚って、巨人のガウンでも作るつもりか!?」
チェ=パウ
「どうしてそんなの受けちゃったの?」
キリク
「依頼書に必要枚数が書いてなくて、受けてから初めて教えてくれたんだ」
ルシオン
「受けてしまったものは仕方ありません、やるしかないでしょう。
まだ余裕がありますね。同じく収集クエストの、これなんかどうでしょう? あるお嬢さんからの依頼で、旅立つ兄の安全を祈るお守りを作りたいので、材料とするエンゼルウイングを集めてほしいそうです」
キリク
「優しい妹さんだな! 受けよう。万難を排しても受けるべきだ。
幸い手元には何から手に入れたのかは知らないけどエンゼルウイングがあるし!」
チェ=パウ
「でもこれも依頼書に必要枚数書いてないよ。いやな予感しない?」
ケイン
「っていうかなんかお前いつもとキャラ微妙に違……」
キリク
「女将さーん、この依頼を受けたいんですけど」
ケイン
「あー、いっちまった」

ゴート二世
「で、結局、俺らの荷物は毛皮と蜂の羽でいっぱいなわけだが?」
キリク
「ごめん……まさかこれも10個必要とは思わなくて……」
チェ=パウ
「すーぐザックがいっぱいになっちゃうよー」
ラピス
「丁寧に扱わないと、エンゼルウイングの価値がなくなってしまうしね。
早く依頼を終わらせましょ。このままじゃ、いろいろな意味でやりづらいわ」
ゴート二世
「毛皮はともかく、蜂は無傷の羽手に入れるのが難しすぎるしな」
バルロンド
「毛皮は二種のモンスターからとれる、まだ気が楽だ」
ゴート二世
「どっちも強ぇんだよな……それにここらには奴らが……」
キリク
「来たっ! 花マジロだ!」
ゴート二世
「ヘッドボンテージ!」
キリク
「パワークラッシュ!」
バルロンド
「いかん、一体生きているぞ!」
ラピス
「医術防御~!」
キリク
「うわっ、眠りの花粉だ!」
ゴート二世
「バルロンド、頼むぜ、絶対寝るにゃ……ぐ~」
バルロンド
「…………」
私たちは、エンゼルウイングが採取で簡単に入手可能と気づくまで、一週間ほど蜂を求めて彷徨い続けたのでした。
ゴート二世
「また花だーっ!」

050 謎の装置


ラピス
「随分歩かされてたどり着いたのは最初の階なんて。一ヶ月前にはこの壁の向こうを歩いていたのにね」
チェ=パウ
「ここに何も無かったらどうしよう?」
キリク
「一番下の階から下へ行く道が本当に無いか調べるか、エレベーターっていうのを何とかできる方法を探すしかないんじゃないかな」
バルロンド
「ヴィズルは姿を消したままだ。そろそろ街にも異変に気付く者が現れる頃ではないか?」
ラピス
「こんな所に一ヶ月なんて、もう無事だとは思えないわね」
ルシオン
「……そうでしょうか……」
バルロンド
「……さあ、な」
チェ=パウ
「やだな~、生きてたら人間じゃないよ~」
バルロンド
「……そうだな、最早人間の域を外れている」
キリク
「…………」
ルシオン
「…………」
ラピス
「ずーっと下には古代の街がまだ生きていて、ちゃんと機能してるって可能性もあるのよ。そこにいるのかも知れないじゃない」
ルシオン
「……そうですよね。こんなに広いんですから」
キリク
「でも僕には、ここが人間の世界だなんて思えないよ」
バルロンド
「それは違うな。我々が足を踏み入れた時点でここは我々の世界だ」
ラピス
「ある意味、そうよね」
チェ=パウ
「それに、モリビトのこともあるし、人間が居なくても、人間にそっくりの人たちならいるかもしれないよ。
人間が快適に生きていける空間なら、別に人間が作ったかどうかなんて、どうでもいいんじゃない?」
ルシオン
「それでも人が手を触れてはならないものも、あると思いますよ」
バルロンド
「手を触れる触れないは結局人間の判断だ。
正しいかどうかははるか未来になるまで解らないかも知れん、いや、時が過ぎても解らないままかも知れん。
過ちを判断するのは、誰だ? 神か? 違うな。結局は人間だ。人間がその時の自分たちの為に利となる行為を判断するしかない」
ラピス
「それはさすがに乱暴すぎるんじゃないかと思うけど……」
バルロンド
「だからこそ慎重にならなくてはならない。あらゆる角度から見、考え、判断すべきだ。違うか」
ルシオン
「そして、過ぎた行いには罰が下るでしょう」
バルロンド
「自らの行いにより生み出される不幸を、どう呼ぼうと勝手だがな。
ならばこの街に生きていた人間は罪にまみれていたというわけか?」
キリク
「あの……お話中すみませんが、そろそろ進みませんか?」
チェ=パウ
「バルロンドも意外と話すの好きだよね」
ラピス
「話す、というより、何か問題をこね回して語るのが好きなのよ」
チェ=パウ
「わあ、タチ悪いねぇ」

チェ=パウ
「こっちにも橋があるー」
ラピス
「それこそすぐ向こうは磁軸ね。随分大回りしたものねー」
チェ=パウ
「あっ、ほらほら、あっちにレンたちと戦った橋が見えるよー」
キリク
「ほんとだ。何とかして向こうへ行けないかな」
バルロンド
「遠すぎる、無理だろう」
チェ=パウ
「行き来できれば楽なのにね」
ルシオン
「このフロアはあまり植物が侵食していないせいか、当時の状態そのまま残っているようですね」
ラピス
「歩きやすくていいわね」
キリク
「地図も描きやすいし」
チェ=パウ
「あ、そっかー。っていうことは、右の塔と同じく三つ部屋があるかも」
バルロンド
「線対称になっているようだな」
キリク
「そこに何もなければひとまずは終わりか……本当に?」
ルシオン
「そう思いたくはありませんけどね」

ルシオン
「ここが最後の部屋ですね」
チェ=パウ
「他の部屋と同じみたいだよ。何もないんじゃないかな」
バルロンド
「そう悲観したものでもあるまい。開けてみよう」
チェ=パウ
「わぁ、見てみて、なんかすっごいのがあるよ!」
ルシオン
「金属の壁……に、何か色々ついていますね」
キリク
「今までにたまに壁に張り付いてたものとか、落ちてたものに似てるね」
ラピス
「うーん、これ、何かのスイッチじゃないかしら」
バルロンド
「しかし、我々には意味するところが……おや」
ルシオン
「どうしたんです?」
バルロンド
「光っている」
ラピス
「ほんとだわ。こんなの初めてね」
チェ=パウ
「じゃあ、何か動くかも知れないね」
キリク
「横のパネルに何か書いてあるなぁ。この字が読めればこれが何なのか解るんだろうか」
バルロンド
「……ふむ」
バルロンドはスイッチをいれた。何か体に響くような作動音が聞こえてくる。
一同
「…………」
キリク
「って、何やってるんですかバルロンドさんっ!」
ラピス
「そうよ! 何かあったらどうするのよ!」
チェ=パウ
「ずるいよーっ! あたしに入れさせてくれてもいいじゃないよ~!」
バルロンド
「この機械はこの都市が生きていた頃のものだろう。だがごく最近人が触れた形跡がある。
それから、横の板を見ろ。この塔の断面図のようだ。スイッチは四つ、地図と照らし合わせれば、もしかするとこれは……
ルシオン、地図を貸せ」
ルシオン
「……四カ所、でも見たところ、下まで行くのは二カ所だけなんですね」
バルロンド
「どちらかが下へ通じているかも知れん」
ラピス
「……あっ、もしかして、エレベーター?」
ルシオン
「恐らくは。ここからでは確認できませんけど」
キリク
「ということは、この断面図にエレベーターってのがうつってるかも知れないのか。
何も見えないけど」
チェ=パウ
「う~、ドキドキするね! やっぱり落ちるのかな。どうなのかな。ながーい螺旋階段があったらちょっとやだよね」
キリク
「スイッチの意味ないよ」
チェ=パウ
「じゃあ、その階段が動くの。勝手に。どう?」
キリク
「じゃあ、上から下に動いてたとするよ。下に降りていった階段はその後どうなるのさ。上から出てくる階段はどこからどうやって出てくるんだよ」
チェ=パウ
「えーっ、それは、古代技術だから、きっとなんか凄い仕掛けでさぁ」
バルロンド
「螺旋を階段としてではなく、螺旋に車輪を組み合わせ、螺旋を回転させるだけで中のものを上下させる仕組みは作れそうだが」
キリク
「つまり、どういうこと?」
バルロンド
「簡単に説明すると、螺旋状の柱を回すだけで物体を上下へ移動させることができるのだ。問題はその機構と、重量を支える仕組みだがな……いや、それよりも速度か。柱の傾斜を緩くするほどに速度は落ち、下へ到着するまでに時間が……」

ルシオン
「まずは本当にこのスイッチがあの部屋を動かすためのものなのかを確認しましょう。
帰りますよ」
チェ=パウ
「……あれ、ねえ、ちょっと待って。ここにもアンクが落ちてる。何か意味があるのかなぁ?」
ルシオン
「発見に興奮して見落とすところでしたね。メモしておきましょう」

地下21階、磁軸付近エレベーターホール
キリク
「何か変わったかな?」
バルロンド
「ドアの上に明かりがついているな。ここのスイッチで間違いなかったようだ」
チェ=パウ
「うーん、それで、どうやったら下に行けるんだろう? あいかわらずドアは開かないよ」
キリク
「確か、横のパネルを操作すると動くって言ってたな」
チェ=パウ
「えーと、ボタン一つしかないから、これを押せばいいのかな。えいっ」
一同
「…………」
ルシオン
「何も起きませんね」
ラピス
「何か間違えたんじゃないかしら」
キリク
「四カ所もあるんだし、ここはハズレ、とか」
バルロンド
「そもそも作動していないのかも知れんな」
チェ=パウ
「えぇっ? 一個しかないボタンで間違えるとかないでしょ。リズム刻まなきゃダメとか?」
ルシオン
「行きたい階をこのボタンの押し方で指示するとか」
一同
「…………」
キリク
「……ジンライさんに来てもらおうよ」
ルシオン
「……そうですね」

051 ロープ


ジンライ
「エレベーターが動かねぇ? そりゃそうだろうな、何千年も放置されてたなら動く方がおかしいってもんだ」
ルシオン
「けれど、あれが最後の望みなんです、見ていただけませんか」
ジンライ
「まァ、そりゃ構わねぇけどよ」

ジンライ
「ほーぉ、問題なく動いているように見えるな。不気味なくらいだぜ」
キリク
「でも、パネルを操作しても何も起こらなかったんですよ」
ジンライ
「どれどれ? 下へっと」
一同
「…………」
ジンライ
「なんだ、動いてンじゃねぇか」
キリク
「えっ?」
ケイン
「何も変わったようには見えねぇんだけど」
ジンライ
「あー。あのな、お前ら。一応念を押しておくけど、これは機械だぞ。
今呼んだから、下から上がってきてるところなんだよ。いくら超高速エレベーターでもそうぱっと来るモンじゃねぇさ。
ほら、上見ろ。あれが今どこまで来てるかを示してンだ。
どうやらこれは上の方の階だけに行くヤツらしいな」
キリク
「あ、ほんとだ。光が動いてる」
バルロンド
「つまり……しばらく待っていれば良かったという事か?」
ジンライ
「そういうこった」
ルシオン
「そうなんですか……私はてっきり、磁軸のように瞬間移動できるのかと」
ジンライ
「磁軸? あんなファンタジーと一緒にするなよ」
ケイン
「もういい加減ファンタジーも見慣れちゃったからなー。マヒしてきたっつーの? いや、諦めたってーかな」
ジンライ
「まァ、今になっても動くエレベーターって、それ自体がファンタジー臭ぇけどな」
キリク
「あ、来たみたいだ。
……部屋?」
ジンライ
「うっわー、マジで来やがったよ。何だこれ。乗った途端にぶっつり切れたりしねぇだろうな?」
バルロンド
「ほう、中にボタンが並んでいる。察するに、これで行き先を指示するのだな?」
ケイン
「この部屋がワープすんのか?」
ルシオン
「鏡がありますね。移動の間に身だしなみを整えるんでしょうか」
キリク
「あれ、ジンライさん、乗らないんですか?」
ジンライ
「……本当に大丈夫なんだろうな? いくら人数が少ないとはいえ、重装備の大荷物だぞ。
それでこんな古代の遺物に乗るとか正気じゃねぇよ……」
ケイン
「何ビクビクしてんだよ、オッさん。あんたの時代には普通に使われてたんだろ?」
ジンライ
「だから怖いってぇのに……ええい、ままよッ」

ジンライ
「このエレベーターは上の方の階だけを移動するやつだ。とりあえず一階ずつ下ってみるか」
キリク
「……うわ!?」
ケイン
「なんか一瞬浮いたぞ!」
バルロンド
「何なのだ、今の不快な感覚は」
ジンライ
「着いたぜ。どうやら問題なく使えるみたいだ」
ケイン
「オッさん、何だ今のは!」
ジンライ
「慣性ってヤツだな。急に物が動くんで乗ってるヤツが置いてかれるってアレだ」
バルロンド
「……部屋ごと動いたのか!?」
ジンライ
「だから、そう言ったろ。ぶっといロープでつるした部屋が動いて移動すんだよ」
ルシオン
「ロープ、ですって!?」
キリク
「切れないんですか!?」
ケイン
「危ねぇな、おいっ!」
ジンライ
「大丈夫……とは言えないけどな、今のこの状態じゃ」
一同
「…………」
ジンライ
「ま、正直俺もこんな危なっかしいモン使いたくはねェさ」
ルシオン
「けれど、他に頼れる物はありませんよね」
キリク
「とはいっても……ロープって……」
ケイン
「ありえねー」
ジンライ
「一応、ロープといっても滅茶苦茶太くて丈夫な金属のやつを何本も束ねてるから、問題はない。
ちゃんとメンテしてあれば、の話だが」
バルロンド
「劣化に関しては、この建造物を見る限り……何とも言えんな。途中、植物による影響があるかも知れん」
ケイン
「うっわー、オレコワいこと想像しちまった。なんかあって部屋の扉が開かなくなったら、宙吊りで閉じこめられるわけだろ?」
キリク
「……!」
ジンライ
「その可能性は、まァ、あえて考えない方向で。
非常ボタン押してもf.o.e.が湧くだけだろうなァ」
バルロンド
「…………」
ルシオン
「……神がお守りくださいますよ」
ジンライ
「そう願うしかなさそうだ」
ケイン
「冗談じゃないぜ、まったく……」

ルシオン
「地図のこの部分が埋まって……ということは、癒しの清水にも簡単に向かえるようになりますね」
バルロンド
「エレベーターが信頼に足る物なら随分と移動が楽になるな」
キリク
「ケイン、顔が青いけど大丈夫?」
ケイン
「ビミョーに気分悪い」
ジンライ
「上の階にはもうひとつエレベーターがあったな。地図を見たところ、上の階には止まっていないようだ」
バルロンド
「なるほど、未知の階へ行ける可能性があるわけか」
ジンライ
「ま、動けば、の話だがな」

ジンライ
「おっ、一階直通だとよ」
キリク
「ということは、この建物を一気に降りられるってことか!」
ルシオン
「一階ということは、この遙か下に見える町まで降りられるんですね?」
バルロンド
「それは興味深い」
ジンライ
「心臓に悪そうだがな、色々な意味で」

ルシオン
「耳が~!」
ケイン
「うぉぉぉぉ、気持ち悪いぃぃぃ!」
キリク
「……うぷ」
ジンライ
「鼻つまんで耳に息を通せ。ちったぁマシになるぞ」
バルロンド
「ある種の拷問だな、これは……」
ジンライ
「高速エレベーターは慣れててもクるもんがあるからな」
ケイン
「まだ着かねーのかよぉ!」
ルシオン
「耳が破れますっ!」
ジンライ
「でっかく口開けて欠伸すんのも効くぞ。あと少しだからガマンしろ」
キリク
「……呪言くらった気分だよ……」

ジンライ
「おーい、大丈夫か? 生きてるか?」
ルシオン
「こ、こんな時にモンスターに襲われたら……」
ジンライ
「それに関しちゃ大丈夫だ。ハズレだぜ、ここ」
ケイン
「気持ち悪……。
今のもそうだけど、この見渡す限りみっちり植物の蔓ってのも気持ち悪……」
キリク
「帰る時にまた乗るんだよね……」
ジンライ
「そりゃ、それしかねェからな」
一同
「…………」
ルシオン
「少し、休みましょう」
驚くべき過去の遺産。私たちはただただ圧倒されるばかりでした。
西の塔の地上階直通エレベーターは役に立たなかったのですが、東の塔の地上階直通エレベーターは私たちを未知の階へと運んでくれました。
遙か昔の母なる大地、地下25階へと。

052 地下二十五階 1


チェ=パウ
「こーそくエレベーターっておっもしろぉぉい!」
ゴート二世
「……ある意味な」
キリク
「何度乗っても慣れないや」
ラピス
「ミントでも噛んだら少しましになるかしら?」
バルロンド
「それより、地上階ということは、外に出られるのではないか?」
ゴート二世
「ああ、こっからじゃよくわかんねーけどな。元の建物知らなくたってこれが異常な状態だってのは解るぜ」
ラピス
「完全に植物が壁作っちゃってるものね。ぎっちり生えちゃって、真っ直ぐ歩けないわ」
キリク
「今までの構造を考えると、エレベーターホールのすぐ裏側が窓のはずだよ」
チェ=パウ
「わぁ、行こう行こう! 見に行こうよ!」
ゴート二世
「ちょっと待った! おい、よっく見ろ」
ラピス
「……何かいるわね」
バルロンド
「む……f.o.e.か。新種だな」
ゴート二世
「ちょうどいい肩慣らしだ!」

キリク
「意外と強かった……」
ゴート二世
「つか攻撃が重かったな。まあ、このへん軽く様子見たら帰ろうぜ。ここまで来て焦ったってしょうがねー」
チェ=パウ
「わぁ、窓だ!」
ラピス
「……随分まったいらな地面ね。石がしいてあるにしては」
キリク
「結構下から植物が押し上げて割れてるみたいだけどね」
チェ=パウ
「歩き辛そうー」
バルロンド
「そこここに置いてある小さな箱のような物は何だ? 移動式の家か?」
ゴート二世
「アレか? 銀の『ころ』みたいな物がついてるぜ。馬車か何かじゃねーの?」
キリク
「馬車があんなにたくさん? それにあんな大きくて重そうな馬車、何がひいていたんだろう?」
チェ=パウ
「あー、だからここにいる生き物ってみんな強いんだよ。ムカシの人はあんな強い動物を使ってたんだね。さっき戦ったf.o.e.とかいかにもって感じじゃない?」
キリク
「ジンライさん見る限り違うと思うけどね」
バルロンド
「エレベーターなどと同じように、古代技術で自走するのかも知れんな」
チェ=パウ
「じゃあ、エレベーターみたいにまだ動くのがあるかもね! 行ってみようよ!」
ゴート二世
「こっからじゃ外には出られそうにゃねーな」
ラピス
「今いるのがこの建物の地上階なら、エントランスがあるはずよね」
チェ=パウ
「そうだよ! 入り口っていうか出口探そ!」
キリク
「うーん、構造から言って、北側か南側にありそうかな」
ゴート二世
「ま、テキトーに歩いてみようぜ」

ラピス
「ここから南側は行けないみたいね。いかにも入り口っぽいんだけど」
キリク
「いたのはまたいつものクマだけか」
ゴート二世
「こっちから回り込めば行けそうだぜ。
……おっ?」
ラピス
「どうかしたの? 壁なんか見つめちゃって」
ゴート二世
「この壁。どう思う?」
キリク
「どうって……?」
チェ=パウ
「あっ、風が吹いてくるね。音もかすかに聞こえるみたい」
ゴート二世
「な。少しがんばって壊せば通れそうだぜ」
バルロンド
「しかし、待て。今までのことを考えると、壊すのには骨が折れそうだ。
しかもこの音……どうやらf.o.e.が何体かいるようだ。破壊を気づかれると面倒なことになりそうだ」
チェ=パウ
「近道できそうなのにね、残念」
ゴート二世
「まァ、うまいこと向こうに回れたら、f.o.e.全部潰してからゆっくりかかればいいんだろ?」
ラピス
「この向こう、随分広い空間みたいね」
バルロンド
「エントランスホールである可能性が高いな」


ジンライ
「鬱陶しい改装したもんだな」
キリク
「クマだらけだし」
チェ=パウ
「ゾウさんもいるよ」
ジンライ
「動物園か? ここは。……そーいや出るモンスターどもも随分バラエティー豊かだな」
ラチェスタ
「やはりもと地上に近いので、地上で生息するものどもが多くいるということなのだろうな」
キリク
「花はやめてほしいよね。出るモンスターの種類が多い分遭遇確率も分散して落ちている感じではあるけど」
チェ=パウ
「ゆーっくりいこうよ。歌ってあげるから」

ジンライ
「それにしても、これはまた随分と変わっちまったモンだな。もう何の感情も湧かねぇ……いや、やっぱ少し寂しい……ってのも違うな。人の世の無情を感じるっていうのかな。
あの頃はこの世界が永遠だと思っていたな。少なくともこんな風になっちまうなんて考えたことがなかった。
永遠などないと頭で解っていたって、本当に思い知ることなんざァそうそうないんだ」
キリク
「…………」
ジンライ
「人も世界もいつかは変わってゆく。俺はむしろそれを身をもって知ったラッキーな人間なのかもな」
チェ=パウ
「えー、ずーっと同じ物なんかないよー。当たり前じゃない。変わらないなんて思う人がいたら、それこそバカみたいだよー」
キリク
「永遠を望むのは、そんなに悪いことなんだろうか?」
チェ=パウ
「だってさ、ないものを望むって、無駄じゃない?」
ジンライ
「ないからこそ望むのが人のワガママってヤツさ」
チェ=パウ
「そんなの意味わかんない。そんな無意味なこと考えるくらいなら、できることを考えた方がずーっといいのに」
ケイン
「お前、ミもフタもねぇな」
チェ=パウ
「身の程を知らない望みは人を不幸にするだけだよって、死んだ母さんが言ってたの。
世界も人も、在るように在って、生きて、死んでいくの。当たり前のことでしょ」
ラチェスタ
「ああ、森も人も、全てがただ生を全うして存在している、それだけのことだ」
ケイン
「オレそういう考えやだよ。動物みてぇじゃん」
チェ=パウ
「だって、動物じゃない」
ケイン
「……そうだけど、人間には知恵ってもんがあるんだし。今更動物みたいな生き方できねーよ。
それに、人間の果てなき欲望ってやつは、技術の進歩や新しい道具の開発なんかにはなくてはならないエネルギーなんだぜ」
チェ=パウ
「それって、必要なの?」
ケイン
「それがなくなったら、ただだらだら生きてるだけになんだろ。意味ねーよ」
チェ=パウ
「生きるのに意味って要るの? めんどくさいなぁ」
ケイン
「……わかった。お前とは根本的に立ってる場所が違う。ここでこの話は終わり」
チェ=パウ
「ケインくんってたまにすっごくつまんないことにこだわるね」
ジンライ
「……まァ、『つまらん』で切り捨てンな。人それぞれってやつだ」
ラチェスタ
「(盛大に話がずれた気がする)」
キリク
「それでも僕は、願いたいよ……」

053 地下二十五階 2 


ラピス
「大体解ってきたわね。中央に大きな部屋があるんだわ」
キリク
「エントランスホールだね。で、僕たちはその周囲をぐるっと回っているんだ」
チェ=パウ
「下に下りたら地上に出たって、面白い話だよね。今までの迷宮と違ってすっごく広いし」
ゴート二世
「世界樹の根はかつての世界に繋がっていた、か。これが探索の終着点ってことになんのかな」
バルロンド
「いや、始まりだな。見ろ、この古代文明の海。この建造物から出てわずかに歩くだけでも我々の常識を超えたさまざまな技術の片鱗が見えるだろう。調査と研究を重ねれば、我々も古代文明の英知に触れることが出来るのだ。ここから世界が変わるかも知れんぞ」
キリク
「世界が変わる発端かぁ。話が大きすぎてぴんと来ないな」
チェ=パウ
「ううっ、早く外に出てみたいな!」
ゴート二世
「なんか強ぇバケモノとかいるんじゃねーのか? 何が起こるか分かんねーしよ」
チェ=パウ
「そんなの今までだって同じだったよ。早く行こ!」

キリク
「よし、ここを出ればエントランスホール……」
チェ=パウ
「どうしたの?」
キリク
「何かいる。多分……f.o.e.だ」
ゴート二世
「邪魔臭ぇ、片付けようぜ」
バルロンド
「数は多いが、一体一体の距離は離れているようだな。今までに戦ったことのあるものなら問題あるまい」
ゴート二世
「ッしゃ、いくぜ」

バルロンド
「今のところ、簡単に外に出る方法はないようだな」
チェ=パウ
「残念ー! 入り口なのに開いてないなんてー」
バルロンド
「いずれどこか脆い場所でも見つかれば、破壊して出ることも出来るだろう」
ラピス
「それなら、後はこの建物で残っているのは真ん中の部屋だけね?」
ゴート二世
「そうなるな。ちょい広いが大した距離じゃない。ぱっと見ていこうぜ」
中央には閉ざされた巨大な扉があった。そして、その前に立って彼らを待ち受けていたのは、行方不明とされていたエトリアの長、ヴィズルだったのだ。
彼はこの扉の前で引き返せという。ここで帰れば彼らは世界樹の根を見た者として称えられるだろう。だが、この扉の奥だけは見てはならない、と。もし扉を開くのなら、それは命が代償だと。
ヴィズルはそれだけ告げるとひとり扉の向こうに消えた。
扉には取っ手も手がかりもなかったが、扉の横には小さな機械の箱がついていた。どうやらカードを入れることが出来そうだ。
チェ=パウ
「カードかあ。あれかな、レンとツスクルが持ってたやつ」
ゴート二世
「だろうな」
チェ=パウ
「通してみていい?」
ゴート二世
「駄目だ。さすがに今回はヤバそうな気がするぜ。とにかく戻ってみんなと相談だな」
キリク
「さっき壁が壊せそうだったのは北東の隅だよ。一度戻ろう」

ルシオン
「そうですか、長が。
ヴィズル……エトリアの長にして、古代文明に名が残る男……」
ゴート二世
「そしてもしかすると世界樹そのものに関わる野郎だ。
何なんだ、あいつは? ほっといていいのか?」
ラピス
「わからないけど……少なくともすごく街のことを考えていて、なくてはならない人だわ」
チェ=パウ
「この街をここまで大きくしたのはあの人の力なんだって」
バルロンド
「だが同時に、我々とモリビトを故意に戦わせ、レンとツスクルに冒険者をひそかに襲わせた男だ」
ゴート二世
「気持ち悪いな。矛盾だらけで目的が分かんねー。直接話を聞かないことにははいそうですかと引っ込めないぜ」
バルロンド
「同感だ。いかなる理由があろうとも、このまま手を引くわけにはいかん。
この街に生きる者としても、ここまで探索をしてきた冒険者としてもな」
ルビー
「下手すると戦いになるだろうねえ」
ユディト
「そうなった場合、この街に居られなくなるかもしれませんわね」
ラチェスタ
「しかし、放置するなら、善悪も分からぬものを見過ごすことになるが」
キリク
「僕は行かなきゃならない。長にどんな理由があっても、邪魔をするなら……」
ジンライ
「今俺らがはいそうですかとおとなしく引き下がったところで何も変わらンさ。いずれは他の誰かが行くだろうよ。そういうモンだ。
実際、何十年も人が立ち入らなかった第三層なンざもう観光地みてぇなもんだ。数えるほどしか人が行ったことのない第四層はもう一般の樵が働いている場所だ。
いずれシンジュク……古代遺跡も例外じゃなくならァ。人の欲ってヤツにゃあ、限りがねぇからよ」
ケイン
「オレは気になるな。人間やモリビトを犠牲にしても見られちゃいけない秘密ってなんなのか。
街のためにどうしても犠牲にしなきゃいけない物なんかあるのか?」
ルシオン
「私はどうあっても行かなければなりません。
ですが、無理に付き合えとは言いません。
バルロンド、ケイン、ユディト、あなた方は特にこの街で生きている人。ここでギルドから離脱しても構わないのですよ」
ケイン
「……怒るよ」
バルロンド
「まったくだ。今ここまで来たのはリーダー命令でも、ましてや執政院の命令でもない、我々自身の選択だ。
我々は今までと同じように望むまま行動する。それだけだ。
俺の目的は世界樹の謎を明かすこと。それが目の前にある今、止まる理由などない。
コレットは……わかってくれる」
ユディト
「ええ、わたくしたちを思ってくださるのは解りますが、少々今のは傷つきましたわね」
ルシオン
「……ごめんなさい、ありがとう」

ルシオン
「さて、メンバーですが。とりあえず何が起こるか解らないので、防御と汎用性を考慮して選出してみました。私、キリク、ラチェスタ、チェ=パウ、ラピス」
チェ=パウ
「ルシオンとラピスが防御でー、あたしが補助して、キリクとラチェスタがガンガン攻めるわけだね?」
ルシオン
「そんな感じです。
……戦いにならなければ良いのですが」
ラピス
「でも、命をを代償に秘密を教えてやるって言っていたわ。それはつまり……」
ゴート二世
「殺す前に教えてやるってことだな」
ラピス
「要するに教える気はないし、戦いは確定じゃないの」
ルビー
「簡単さ。生きて帰って来りゃァいい」
ジンライ
「おいおい、簡単に言うなァ」
バルロンド
「レポートが頼めそうな奴が参加せんというのが非常に残念だ」

054 王


扉の向こう、壁のごとき巨木の幹が部屋全体に広がっている。
長と呼ばれた男は、闇の中から冒険者たちに語った。
旧世代、人間は科学という強力な力で神の域にまで手を伸ばした。 そのことが人間の生活を豊かにしていったが、それは大地を死に至らしめるほどの汚染をもたらしたのだ。 大地の死は人間達自身に降りかかり、激変する環境の中で人は死んでいった。 人は世界を壊したその力と自然の力を融合させて大地を救おうとした。
世界樹計画。科学によって汚染された大地を浄化する薬を作り上げたのだ。

計画の立案をした男は世界の死とともに妻と子を失い、ともに戦う仲間も失い、それでもひとり研究を続けて、この地に薬をまいた。
だが、汚れた地を木々が覆い浄化するには、何千年という時間が必要だった。
男は自らの体にこの計画の要となる世界樹の力を組み込んだ。人間の過ちが正されるのを見届けるために。自らの研究の行く末を見届けるために。
そうして永い時を独り、世界樹と共に生きてきたのだ。
声は上のほうから響く。それは次第に歪んで、人間の声ではなく、何物かが発する音へと変わっていった。かつてヴィズルという男のものであった声は、大地の再生と守護を担う、神の代弁者だと名乗った。
世界樹には無数の思念のようなものがまとわりついている。世界樹は、ここで死んだ者たちの墓碑のようにも見えた。

それは樹木ではなかった。樹木の形をした、異質な生命体だった。意思を持って蛇のごとくうねる根や蔓、鋼のごとき樹皮、そして幹に刻まれたかのように同化しているヴィズル……
これこそが世界樹の、そしてエトリアを支配する者の本当の姿だったのだ。

ヴィズル、否、『世界樹の王』は言う。
世界樹は滅ぼされるわけにはいかない。
真実を知った者は死して世界樹の一部となるのだ!
チェ=パウ
「うわあ、気持ち悪い」
ラピス
「エトリアはバケモノに支配されていたってことなの?」
ラチェスタ
「我々は生き残る。それだけだ」
ルシオン
「ここに生きているのはもうあなただけです。何も動かない、いるのは危険生物だけの森が浄化された世界なのですか。
言い訳はおやめなさい。あなたは……世界樹は大きくなりすぎた。ただ、滅ぶのが恐ろしいだけなのでしょう」
キリク
「生命の力……世界樹が、こんな……」
ルシオン
「世界樹の王……神に背いた罪深き生から解き放ちます!」

ゴート二世
「なーんて偉そうな啖呵きっといてあっさり全滅するってどーなのよ」
ケイン
「最後なんだから空気読めよな~」
ルシオン
「し、仕方ないじゃないですか。ものすごく強いんですから。攻撃力はもちろん、厄介なのは敵側の補助ですね」
ラピス
「医術防御に守護の歌を重ねてあとは毎ターンエリアキュア2でいいとして……
ソーマも少し買って行った方がいいと思うわ」
チェ=パウ
「攻撃はキリクとラチェスタ頼みってことになるかな」
ルシオン
「ええ。シールドスマイトは少々代償が大きすぎますね……ここは私は外れるべきでしょう。非常に口惜しいですが仕方がありません。
ユディト、代わりに行って下さい。あなたの呪力で世界樹の力を弱めてください」
ユディト
「わたくしでお役に立てるのでしたら喜んで」
ルビー
「いきなり見せ場だね。がんばりな」
ユディト
「はい」
バルロンド
「俺が行くというわけにも行かんのか、ううむ」
ケイン
「なー、見たいよな、世界樹の根っこ」
ラピス
「もし何か持ってこられるようなら努力するわ……できるだけね」

ジンライ
「なるほどなァ。俺の時代にも環境問題がどうとか騒がれちゃいたけど、そんな大変な事になっていたってワケか」
バルロンド
「結局は使う人間次第、それだけの事だがな」
ラピス
「それでも、世界を滅ぼして、作り変えちゃった古代文明の科学技術って凄いものだったのね」
ルシオン
「人の手に余る力はしばしば悲劇を引き起こします。古代の人は、その科学技術で人が触れてはいけないものに触れてしまったのかもしれません」
ジンライ
「世界を壊したって言うけどよ。その頃の俺たちにそんな自覚はなかった。ただ便利に便利にって、それだけだったのさ」
ラピス
「そんな無責任な」
ジンライ
「世界樹の探索は今更止まりゃしねェ、それと同じさ。
何千年も一人の人間が背負っていけるモンじゃねえんだ、過去の人間の罪業なんてな。
それでもなんだかんだで人間はまだ生きているし、世界もちゃんとある。
過去を引きずったっていい事なんざありゃしねェ。まして自分だけのものじゃない物なんてロクなもんじゃねぇ。
世界を変えたのが人間だってんならみんなに平等に背負わせて選ばせりゃいい」
ルビー
「……」
ジンライ
「まッ、俺も世界を滅ぼした一員ってワケだな。今からでも繰り返さねェように話すくらいすりゃあ、少しは足しになるかね」
バルロンド
「無知ゆえの自覚なき破壊か……肝に銘じておくとしよう」
キリク
「…………」
チェ=パウ
「どうしたの、元気ないね」
キリク
「……何でもないよ」

神を名乗る存在だけあって、世界樹の王は強敵でした。
ですが私たちも幾多の死線を乗り越えて到達したのです。
強力な攻撃にはラピスがそれ以上の防御と治癒を。
王が自らの身を守ろうとするとユディトの呪力が力を削ぎ落として縛ります。
チェ=パウの歌が皆に力を与え、キリクの斧とラチェスタの矢が世界樹の生命を文字通り削ります。
無数の根が力を失って床に落ち、樹皮が砕けました。 世界樹が完全に破壊されると同時に、命を共有していたヴィズルもまた死んでしまったのだと聞きました。 巨大な世界そのものを刈り取った時、チェ=パウの鎮魂歌にのせて世界樹から無数の思いが解き放たれてゆくのが見えるような気がした、そう、誰かが言っていました。
ラピス
「これで、終わるのね」
チェ=パウ
「あたし、忘れないよ」
ラチェスタ
「そうだな」
私たちは皆で執政院へ行き、全てをありのまま報告しました。
エトリアがこれからどう変わってゆくのか? 我々には解りません。
けれど、その時、世界とエトリアの街を、たとえ間違った方法であっても護ろうとした人の思いが無駄になることはないと思われました。
ヴィズルは真実、エトリアを愛していたのでしょうから。
これで私たちの冒険は終わりです。謎が解明された今、再びそれぞれの道へと歩いてゆくのです。

チェ=パウ
「こうやってみんなで歩くのも最後なのかな」
ルビー
「そうだねぇ……今すぐってワケじゃなくても、いずれはね」
ジンライ
「なに、出会いあればまた別れもありってヤツさ」
ケイン
「騒々しいのがいなくなりゃ清々するよ」
しかし……王を失った世界樹の迷宮は、それでも死ぬことはなく生き続けていた。
バルロンド
「妙だな……勢いが衰えることもない。また領域が広がっている」
ケイン
「お前らトドメ刺しそこねたんじゃねぇの?」
チェ=パウ
「そんなことないよ! あれだけ大変だったのに」
ルシオン
「……調査に行くべきですね。王が世界樹の要であることは間違いなかった。では、その代わりとなるものが生まれている可能性もあります」
私たちは、迷宮の奥深く、王が存在していた場所からは生命が失われているのを確認しました。ですが……
キリク
「……見て、ここ!」
チェ=パウ
「なんかイヤなにおいがするよ。これ、血?」
ケイン
「なんだ? 壁の向こうに何かあんのか?」
バルロンド
「どいていろ、破壊する」
王座の後ろには更なる地下へと続く洞窟がのびていた。
ゴート二世
「……へー。そうか、樹だもんな、根っこまで掘り起こさないと死なねーよな」
キリク
「まだ……そうか、まだ終わったわけじゃないんだ」
チェ=パウ
「……不謹慎かもしれないけど、ちょっと嬉しいな」
真っ赤な洞窟は醜悪な口を開き、私たちを更なる奈落へと誘うのでした。
ルシオンの日記 END?