世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第五階層 2


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第五階層のネタバレ文章です。

041 巌のごとく

注)これは、第四層におけるあるクエストのネタバレを含みます。
ルシオン
「次は、この依頼でしょうか。
ケフト施薬院からで、『石化した人間を連れてきて欲しい』……」
ゴート二世
「変な依頼だな」
ルシオン
「石化の治療薬を開発したので、人体実験がしたいそうです」
ゴート二世
「おいおい、仕事は選ぼうぜ」
ラピス
「医学の発展のためだもの、協力しましょ」
ルシオン
「この実験がうまくいけば、より安く効き目のある薬が作られるかもしれませんよ」
ゴート二世
「本当に信用できるんだろうな? そいつは」
ルシオン
「石化というと……何かが使ってきましたよねぇ? 何だったでしょう?」
バルロンド
「地下十八階でよく見るピクシーが石化を狙ってくるのを見た」
ラピス
「そんなこと、あった?」
ゴート二世
「俺もあまり覚えていないな」
ラピス
「石化されて困ったってこと、一度もないものね?」
ルシオン
「資料によると……ええ、確かに間違いないようですね。
では、地下十八階へ行きましょうか」

ゴート二世
「おっ、いたいた。あのちっせぇのがそうだな」
ルシオン
「では皆さん、最初は攻撃せずに待ちましょう」
一同
「…………」
ラピス
「きゃっ!」
ルシオン
「ラピス! ラピスが石化しました。
皆さん、急いで帰りましょう!」
ゴート二世
「思ったより簡単に済んだな。けど、なんかひっかかるぜ……」

ルシオン
「ラピスのおかげで依頼は達成されました。結局薬に効果はありませんでしたが……」
バルロンド
「失敗は成功の母という。無駄ということもあるまい」
ルシオン
「では、ラピスを元に戻してあげましょう」
ゴート二世
「誰が?」
ルシオン
「あっ。そうですね……リフレッシュの薬はラピスにしか調合できませんよね……
ねえ、バルロンド?」
バルロンド
「専門外の薬品は解らん。が、ケインならば知っているのではないか? 最近状態異常の治癒に力を入れていたはずだ」
ルシオン
「そう、そうですよね。ケインを呼びに行きましょう」

ケイン
「え? オレ? まだ石化解除の薬は作れねえよ? あと少しでなんか掴めそうなんだけどさ」
一同
「…………」
ラピス
「…………」
ゴート二世
「ふー。
おーい、キリク、施薬院までラピス運ぶの手伝ってくれよ!」
これは実話。

042 地下二十二階


橋を渡った先にも同じような塔があり、そちらの下り階段は使えそうでした。
ほとんどの階は崩れ落ちていたり硬質化した植物に覆われて探索不能でしたが、ある階では中に入ることができました。ここを便宜上B22Fと記載します。
どうやらこの建物は、左右双子のように設計されたもののようです。階段の位置は固定。部屋の位置は左右の塔で一致しています。とはいっても、植物の壁などでふさがれていたりするため、それを頼りに歩くことはできませんが。
ゴート二世
「このへん、結構きついな。とくにあの赤いオオカミ。火ィ吐いてきやがる」
ラピス
「2匹同時に吐いてくると半壊、下手したら全滅よ」
ルシオン
「ファイアガード使わなければならないほど頻度も高くないですしね……」
キリク
「普通に噛みついてきてもかなり痛いから、早めに倒さないと」
バルロンド
「俺の術式は奴ら向きではない。バーストウーズといい、おそらくここはルビーが適任だろう」

この迷宮は今までとは違う。そう感じ始めたのは、この階でも橋を発見してからでしょうか。
西の塔最上階からは侵入できなかった、西の塔下部。
東の塔経由ならば探索することができそうです。

そしてもうひとつ。
今までは木々の間を通り抜けて近道をすることができたのですが、人工の壁と、硬質化した植物が壁となるここでは、自ら道を開くことはできないのです。
ラピス
「どう?」
ルシオン
「やっぱりダメみたいですね、壁の破壊は無理ですよ」
ゴート二世
「まァ、ズルはできねぇってのと同時に、この建物が老朽化で倒壊するかもしんねぇって心配はそれほどしなくていいようだな」
バルロンド
「むしろ、この硬質化した植物が補強している形になっているようだな。
見ろ、炎も受け付けない。もはやこれは植物という概念で括れるようなモノではないな」
キリク
「この不思議な階層がそんな植物を育てたって事なのかな?」
バルロンド
「むしろその逆なのかも知れん。
植物は二酸化炭素を吸収して酸素を放出する。
そうやってこの地球の環境すら今のような人間が住める環境へ変化させた、そう考えられている。
同じ事がここでも起こっているとしたら、どうだ?」
ゴート二世
「バケモノが住みよいように、ここを作り替えている?」
バルロンド
「結果的にそうなっている、ということもあるが、俺が言いたいのはそこではない。
この植物そのものが意図的に『環境を作り替えるように配された』としたら」
ルシオン
「ユグドラシル・プロジェクト……」
ラピス
「えっ、でもそれって、昔の人が環境を変えるためにそういう植物をここに植えたっていうことになるでしょ? 
それで住みよくなったとは思えないんだけど。実際、私たちはここで何か利点を感じているワケじゃないし……」
ゴート二世
「昔ここにいた連中は、根本的に俺たちと違うのかも知れねーぞ」
バルロンド
「それは分からん。だが、少なくともこの都市が生きていた頃の住人であるというジンライには、俺たちと何ら変わったところはない」
キリク
「そうだな……。昔は普通に生えていた植物が、長い時間で変異しただけかも知れない」
バルロンド
「あるいはな。もちろんただの時の悪戯ということも考えられる……だが」
ルシオン
「色々と不自然すぎますね」
バルロンド
「ひとつ確実なのは、ここは俺たちにとってはただの古代遺跡だが、そうではない人間もいる、ということだ」
ルシオン
「エトリアの長……」
ゴート二世
「どうして古代遺跡なんかにこだわるんだろうな? 
そんな何千年も昔に何があったかとか、ぶっちゃけどうでもいいことだろ? 
町の発展のためにいろいろ掘り出すとか、そういう方面で一生懸命になるなら分かるけど、奥に入ってはいけない、って」
ラピス
「うーん、お話でよくあるのは、『古代の悪魔が封印されている、何人たりとも手を触れるべからず』ってとこかしら?」
ゴート二世
「そういうヤバいものなら、隠すより、こういうアブねーもんがあるから近づいた奴は殺すからな、って警告するんじゃねえか? 
ってか、古代の悪魔ってそりゃあり得なさすぎだろ」
ルシオン
「悪魔、と表現するような危険な物、ということも考えられます。
それに、セカンドならそういう話を聞けばかえって行こうとしませんか?」
ゴート二世
「……まァな」
バルロンド
「進んではいけない理由を公開することもなく、秘密裏に知りすぎた者を葬る……この古代都市自体が知られてはいけない物の一部なのだろうな」
キリク
「でも、どうして?」
ゴート二世
「エライさんだけで古代都市の力を利用してうまい汁をすする、ってのもよくある話だが、そーゆーもんでもないっぽいよな?」
バルロンド
「情報が不足している。直接会って問いただすしかないようだ」

二十二階から下へ降りる階段は例によってふさがれていたため進むことはできませんでした。
ですが、階段を下りてすぐ、私たちはまたあの不思議な紙を目にすることになります。
過去の世界の誰かが書き残した、メッセージを……
キリク
「何だろう、これ……」
バルロンド
「!
それに触れるな! 
ジンライが見つけたという、過去の文書かも知れん!」
キリク
「えっ……うわ!」
ゴート二世
「おっと、危ねー危ねー。危うく砕けちまうとこだったぜ。
しかし、どうする。俺らにはこの文字は読めねーぞ」
ラピス
「書き写してみたらどう?」
バルロンド
「それは、名案とは言えんな。 『知らない文字を正確に書き写す』というのは意外に困難なものだ。
それにここは暗い。明るい所へ移動するだけでもこの紙は破壊されそうだ」
ルシオン
「ジンライさんに来ていただいた方が良さそうですね」


ジンライ
「どれ? 
これは、女の字かな。待てよ、薄すぎてよく見えねぇ……一回しか読めねーと思うから、ちゃんとメモしろよ」
…後の……残った…私も……世界…樹に…、とらわれ…て…永…の…、…命に… …ヴィズルが…夫…が……一人…、残されることが…、今はただ…心配…、あの人は… …孤独が…あの人を……。それが…ただ…可哀…う……
チェ=パウ
「あー、またダメになっちゃったね、紙」
ジンライ
「ヴィズル……?」
チェ=パウ
「聞いたことがある名前だなぁ。誰だっけ……」
バルロンド
「エトリアの長、現在失踪中の男と同じ名だ」
チェ=パウ
「へー、すっごい偶然だね? ケインくん」
ケイン
「……偶然……偶然に過ぎないのか?」
バルロンド
「文章を書いたのは、ヴィズルという男の妻のようだな。
世界樹にとらわれる……この古代都市を覆う植物のことか?」
キリク
「永遠の命、そう書いてあったんですか、ジンライさん? 
他には? 命の事に関して何か書いていませんでしたか?」
ジンライ
「悪ィな、今読んだのが俺にできる精一杯だ。
ほとんど読めないのを無理矢理読んだから、本当に正確なのかどうかもわからねぇ」
ケイン
「まさか、永遠の命……そんなのあるワケ、ねぇよ、な……」
バルロンド
「わからん。だが……我々は実際にそれに近いものは目にしている」
キリク
「近いもの……」
バルロンド
「この迷宮に巣食うF.O.E.だ。
我々は何度となくF.O.E.を倒してきた。その身を分解して骨まで採取することもある。
だが、にもかかわらずほんの数日でF.O.E.は再び現れる」
キリク
「……不死の存在か、もしくは、死体が再生している……?」
チェ=パウ
「すっごく成長速度が速いのかもね!」
バルロンド
「少なくとも、我々が持ち帰ったモンスター素材が再生したり、蘇って襲ってきたなどという話は聞かんな。
もう一つ、我々が目にしている、『永遠の命』に近いものがある。
我々が探索の折に喉を潤す命の泉だ」
チェ=パウ
「あれ飲むと元気になるもんね!」
キリク
「けれど、あれでは死人はおろか、重傷者を復活させる力はない……」
バルロンド
「しかし、かつて我々が出会ったあのツスクルという少女、彼女が持っていた水には、蘇生に近いほどの強力な生命の力が宿っていた」
ケイン
「世界樹と命にはなんか深いつながりがあるんだな。
あの、さ。ちょっと思いついたことがあるんだ。
その、馬鹿げてるってのは、オレ、自分で分かってるから、笑ってくれていいぜ」
バルロンド
「……いや、恐るべき仮説だが、おそらくお前が想像していることは、俺も考えていることだ。
確かに不可解な話だが、つじつまが合う」
キリク
「でも、そんなこと、可能なんだろうか?」
ケイン
「けどさ、本人だって方が、長が世界樹にこだわる説明がつくんだよ」
チェ=パウ
「……えっ、えーっと、つまり、エトリアの長ってジンライさんと同じようにムカシから飛んできた人なの?」
ジンライ
「いや……確かな事はわからんが、あるいは……」
キリク
「永遠の命……永遠の孤独……か」
ケイン
「あくまでも仮説なんだからな! 
そんなもの、存在するはずがないんだ!」
キリク
「でも、僕たちはここに来て『あるはずのないもの』を見過ぎている。
永遠を生きられるほどの生命の力……あるかもしれない。
いや、あってくれなくちゃ、困るんだ……!」
ケイン
「キリク……?」
ジンライ
「…………」

ジンライ
「それにしてもここは疲れるな」
チェ=パウ
「延々歩かなきゃなんないからねー。
でも、窓から見える景色、高くて面白いよー」
ケイン
「よく面白いなんて言ってられるよな。
オレはもう疲れた!」
キリク
「建物の隅々までは回れないのか。何とかして行けないかな?」
ケイン
「お前、さ。
ルシオンのマップ埋め癖がうつったんじゃねぇの?」
バルロンド
「仕方あるまい、今は地道に進める道を探すことだ」

043 欲望の果てに

第五層ネタバレ・冷酷なる貴婦人と禍乱の姫君条件ドロップバレ・そして軽く下ネタあり。
新たな戦いを予感させる第五層。更なる戦力強化のために、私たちは樹海に素材やお金を求めて降りることが多くなりました。
特に、毎日の採取や採掘は確実に素材を得る手段として重要です。
そこで、そういった技能に長けたラチェスタと、採掘技能を持ったキリクとジンライは、毎朝第五層入り口へ行くようになりました。

ジンライ
「しかし、壁削って持って帰ると金になるなんて、変な時代になったモンだぜ」
ルビー
「あんたの時代にはこういうのが簡単に作れたのかい?」
ジンライ
「さあ、簡単かどうかは知らないが、ありふれたものだったことは確かだろうぜ」
キリク
「ジンライさん、これは何ですか? 水晶でできた壁の一部みたいですけど」
ジンライ
「……あー、多分強化ガラスかなんかだな。窓なんかに使うんだ。気をつけろよ、手ェ切るぞ」
キリク
「何かに使えるかな?」
ジンライ
「さあ、俺にも加工法なんかはわからんしな。一度武器屋の嬢ちゃんに見せてみたらどうだ?」
ケイン
「お前らよくそんなのわかるな。オレにはどれもこれも役立たずの瓦礫にしか見えないぜ」
ルビー
「やっぱり、こういう所でも役に立つものを見つけられるのは、経験や天性の勘ってやつなのかねぇ?」
ラチェスタ
「よし、次は枯レ森だ」

持ち帰った素材の売却が終われば次は、モンスタードロップによる素材探しです。象は数が多く、確実に牙が取れるので、資金源にはもってこいです。しかも、F.O.E.は倒してもしばらくするとまた現れるので、今のところいなくなってしまう心配もないのです。嬉し哀し。
ルシオン
「あの象牙は希少価値が高いらしく、常に需要が高いらしいですよ」
ジンライ
「やけに生々しいな……俺の時代には、昔それで象が乱獲されて、絶滅したやつもいるって聞いたぜ」
ルシオン
「それからモリビトの里で出てきた女性型モンスターです。 何故か、全ての部位を封じたときに分泌される体液で濡れた糸が高値で売れるので、必ず封じた状態でとどめを刺してください。 特にきつく縛れば縛るほど、分泌される体液も多いという……」
ゴート二世
「ちょ、ストップストップ。ガキが聞いてるんだぞ。もう少し配慮をだな」
キリク
「…………」
ケイン
「…………」
ジンライ
「シゲキ的な話だなァ、おい」
ケイン
「オ、オ、オレは別にっ!」
ユディト
「…………」
バルロンド
「…………」
ルシオン
「どうしたんです、皆さん?」
ゴート二世
「そのモンスターの形状と、その特性から想像されることをよく考えると、色々と複雑な気分になっちまうんだよ」
ルシオン
「けれど、モンスターはモンスターですよ」
キリク
「ははは、そう、そうだよね……
でもやっぱり、女の人に近い形をしてるし……モリビトにも似てるし……」
ルシオン
「いいですか、皆さん。あれは人間型の植物モンスターです。
おかしな想像は捨ててください。
あれは単なる花の蜜なんですから!」
ジンライ
「嬢ちゃん、昼間っからそれはオジサン感心しねぇなぁ」
キリク
「すみません、僕ちょっと外に……」
ユディト
「下品なお話はあまり好きではありませんわ。退席させていただきます」
ラチェスタ
「…………」
バルロンド
「…………」
ルビー
「…………」
ゴート二世
「お前、わざとやってない?」
ルシオン
「何をですか?」
チェ=パウ
「どうしてみんな変な顔してるの?」
ルビー
「ふふ、あんたにもいずれ解るけど、まだ知らなくていいことさ」

キリク
「まったく、おかげでしばらくまともにあのモンスター見られなくなったよ」
ゴート二世
「あの言葉で逃げ出すってことは、お前も意外に知ってんだな」
キリク
「少しくらいは……って、どうでもいいじゃないか!」
ユディト
「結局、鞭で縛る必要性はないのですもの。樹液を搾り出していると考えても良いのかもしれませんわ」
キリク
「それはそれで、別の意味で嫌だな……」

ユディト
「全ての封じが完了しましたわ」
ゴート二世
「よしッ、一気にケリをつけるぜ。
くらいやがれ、死の快楽ッ! 
天国にイッちまいな!」
ラチェスタ
「セカンドが妙に楽しそうに見えるのだが……」
チェ=パウ
「キリク、どうしたの、顔が赤いよ」
キリク
「な、何でもない何でもない!」
チェ=パウ
「もーっ、みんな何なのさぁ。感じ悪いなぁ」

044 地下二十三~二十四階 1


ゴート二世
「やっと階段か……いちいち町まで戻ってから帰ってくるのも疲れるなー」
ラピス
「抜け道が全然ないんだもの、仕方ないわ」
バルロンド
「各階にある扉のことを考えると、エレベーターとやらが使えれば相当な短縮ができそうだがな」
キリク
「でも、動かないんじゃ仕方ないよ」
ラチェスタ
「今までのパターンから言って、そろそろ癒しの清水が期待できるな」
キリク
「今までのパターンなら二十三階にあるはずだけど、見あたらないね」
バルロンド
「うむ……このような人工の場所に癒しの清水が湧くとは想像し辛いな」
ゴート二世
「おいおい、休憩場所もないってのか」
ラチェスタ
「あらゆる意味で異質な場所ということだろうな」
キリク
「あれ、こっちの下り階段は生きているみたいだ。すぐに地下二十四階まで行けるよ」
ゴート二世
「二十三階は二十三階で広そうだな……面倒だなー」
キリク
「ルシオンならきっと地下二十三階から埋めるって言うよね」
ラチェスタ
「しかし、進めると見せかけて行き止まりということも考えられる。私が見てこよう」

ラチェスタ
「おい、癒しの清水を発見したぞ。ここからすぐだ」
ゴート二世
「何ぃ? そりゃいい知らせだぜ。ここまで来るだけでくたくたになっちまって探索どころじゃなかったからな!」
バルロンド
「このような所にまで清水がわき出ているというのか。何か作為的なものを感じるな」
ラピス
「まあ、探索が楽になるのはいい事じゃない?」

ゴート二世
「清水を発見したっていうのに、探索が全く進まないのは気のせいか?」
ラピス
「気のせいじゃないと思うわ……一回の探索でせいぜい五マスってところかしら」
キリク
「ここの敵の攻撃が重すぎるんですよ」
バルロンド
「あのアルマジロにしろ花にしろ、全火力で立ち向かうべき状況が頻発するからな」
ラピス
「あの花怖すぎるわ! ほぼ確実に全員眠らされて、あとは殺されるのを待つだけになっちゃうもの!」
キリク
「地下八階の悪夢が蘇るな……」
ラピス
「先制されたらほぼ死亡決定ね」
ゴート二世
「先制は仕方ないにしても、アザステ大爆炎ってやつで何とかならねーの? 第五層でよく使われる戦法らしいぜ」
バルロンド
「無理だな。俺の火力では一度で焼き払うことはできない。
受ける攻撃回数のことを考えると、現状では全くと言っていいほど無意味だ。
むしろラチェスタの火力もフルに使うべきだな」
ラピス
「色々とぎりぎりね」
ラチェスタ
「どうせ地形も全く解らん状態だ、彷徨ううちに実力がついてくるだろう」


ルシオン
「もう何日目でしょうか。こうして地下二十四階に入ってから」
ケイン
「二週間ってとこじゃね? 
地図は一応じわじわと広がってはいるけど、見通しは立たねぇなー。
こっからじゃ先へは進めねぇんじゃねーの?」
ジンライ
「都庁ってこんな広かったっけなぁ?」
ルビー
「上と違って植物でできた壁だらけだからね、感覚的に広く感じるんだろうさ」
ジンライ
「やっぱ、原形をとどめているのは上の方だけだな。
下層にはいるほど植物が密生しちまって滅茶苦茶だ」
ルシオン
「うーん、こちらが駄目だとすると、やはり二十三階から行くしかないでしょうか」
ジンライ
「かもな。まだどっちとも言えねぇな……」
ケイン
「しっかし、どっちの階もうんっざりするほど広いな」
ルビー
「ほんと、完全に立体迷路だね」
ルシオン
「もう少し、がんばりましょう」


キリク
「……ん?」
ラピス
「どうしたの?」
キリク
「今、何か蹴飛ばしたような……」
ゴート二世
「これは……アンク、か?」
バルロンド
「生命を象徴するものだな」
ラピス
「うーん、杖のてっぺんとかにつける飾りみたいなの?」
ゴート二世
「ちょい違わねーか?」
ルシオン
「一応地図に書き込んでおきましょうか。目印になるかも知れません」

ルシオン
「敵の気配……」
ゴート二世
「いつの間にか、囲まれてるぜ……」
キリク
「い、いつの間に……。さっきまで何もいなかったのに」
バルロンド
「どうやら、罠のようだ。覚悟を決めるしかなさそうだな」
ラピス
「熊だわ!」
ゴート二世
「熊なら、第二層で見たよな!」
ルシオン
「ええ。確か、森の破壊者!」
キリク
「ということは、乱入時に他の奴を蹴散らすかも知れない!」
ゴート二世
「そうだな、そうなりゃ何とかなるかも知れねー!」
ルシオン
「では、ラピスは医術防御、みんなは完全に倒しきらないようにして耐えてください」
キリク
「攻撃が結構痛いから、耐えるのも大変なんだけど、これを三連戦よりはましかな……」
ゴート二世
「来やがったぜ!」

ラピス
「……普通に増えたわよ」
ゴート二世
「あぁぁぁぁ、あいつら熊のくせに行儀良く入って来やがるッ!」
キリク
「二匹にいっぺんに狙われたら死んじゃうよっ!」
バルロンド
「どうする、ルシオン」
ルシオン
「……逃走に失敗すると確実に全滅ですね」
ゴート二世
「だから、どうするんだよ」
ルシオン
「『しぬきでがんばれ』でお願いします」
ゴート二世
「そんなこったろうと思った……」

045 地下二十三~二十四階 2 


ルシオン
「壁ここまで……ということは、二十四階の探索可能領域はこれでおしまいですね」
キリク
「ここはただ清水が湧いているだけなのか。まだ随分と歩けそうな領域は残ってるけど、もしかして別の階から入れたりするのかな」
ゴート二世
「それだけのことが解るまで随分かかったな」
ラピス
「ということは、地下二十三階を探索しなきゃならないのね?」
ルシオン
「そうなりますね」
ルビー
「清水が遠くなるか。町からよりはマシだけど、また大変な時期が続きそうだね」
ゴート二世
「ま、ボヤいててもしょうがねーや、行こうぜ」

キリク
「嫌な予感がする……」
ゴート二世
「奇遇だな。俺もさ」
ルビー
「大物がいるね。何なのかは解らないけど」
ルシオン
「周囲にも敵の気配。こちらから突っ込むべきでしょうか」
ゴート二世
「そうだな。横槍されちゃたまんねーや」
ラピス
「f.o.e.が蹴散らしてくれるかも知れないわ」
キリク
「あの熊のことを考えると、そんな博打は打てないよ」
ラピス
「う……ん……それも、そうね」
ルシオン
「では、こちらから戦いを挑むと言うことで……」
ゴート二世
「……やべッ、みんな、構えろ!」
遭遇! バインドスレッドと破滅の花びらが現れた!
ルシオン
「あう……」
ゴート二世
「やべぇやべぇやべぇ、今ここでそれはやべぇよっ!」
キリク
「うわっ、f.o.e.がこっちに気づいた!」
ルシオン
「全力で!」
ゴート二世
「言われなくたって!」
ゴート二世の攻撃が花に命中するも、仕留められず。キリク・ルシオン・ルビーの攻撃は間に合わず。
ゴート二世
「ちっくしょお、解ってたけどよぉッ!」
ルシオン
「皆さん、息を止めてッ!」
バインドスレッドの糸がパーティーの全身を絡め取り、花が睡眠の花粉を散らす。
いつもと同様、抵抗しがたい強烈な睡魔がメンバーを襲う。
ゴート二世
「くっそ、みんな起きろッ! 
目の前見ろよ、でけーのが来てんだよ!」
深海の王者が乱入!
ゴート二世
「無理ッ!」
逃亡失敗。
ラピス
「(かろうじて目が覚めたものの、頭が封じられていて回復不能)」
残酷描写が続きますので、しばらくお待ちください。
ルシオン
「……痛っ! 
はっ、ここ、あらっ? みんな……ええっ、私一人になってる!」
ルシオン
「何か、何か打てる手は……! 
これだ!」
猛進逃走

ケイン
「それでか」
ラチェスタ
「血まみれのルシオンが四人分ものよく分からないものを担いで上がってきたときは何事かと思ったが」
ルシオン
「あれこそ奇跡です。神のお力添えです」
ケイン
「あの状態でよく死んでなかったもんだ。呆れちゃうね、オレは。
ま、治したのはオレだけど?」
ゴート二世
「ああ、大したモンだ。俺らは体が資本だからな、有り難いと思ってるぜ」
ラピス
「私なんて、意識が戻るなり治療に参加させられたのよ……」
ケイン
「ったり前だろ? 大手術だったんだから。一人じゃ間に合わねーよ!」
ラピス
「こんな時くらい施薬院の先生に頼ったっていいのに」
ルシオン
「……あっ」
ゴート二世
「……まあ、お前のおかげで全員助かったから、今の「あっ」は聞かなかったことにしておいてやる」
ルシオン
「こほん。やっぱり、備えあれば憂いなしですね」
ルビー
「まったくだね。ルシオンの特技で逃走が成功しても、アリアドネの糸がなければ生きて帰れなかっただろうからね」
キリク
「それにしても、酷かった……ねらい澄ましたようなコンビネーション」
ゴート二世
「死を覚悟したぜ」
キリク
「あの花はいるだけで脅威だけど、まさかもう脅威にはならないと思っていた蜘蛛まで絡んでくるなんて」
ゴート二世
「つくづく、ルシオンの逃走が無力化されてなくて良かったな」


ルシオン
「どうやら、北と南の階段が使用できるようですね。下へ向かうものと上へ向かうものがあります」
ユディト
「ここまで来ると、二本の塔は別のものという考えは捨てるべきのようですわ。この階では完全に融合しているようですし、何本もの橋のような木も刺さっていますもの」
ケイン
「ってことは、下へ行きたいから下の階段とは限らねぇってことか」
バルロンド
「そうだな。東側からは降りられずとも上から西側を伝って降りることが可能かも知れん」
キリク
「だんだん頭がごちゃごちゃしてきたよ……」
ルシオン
「とにかく、まずは両方の様子を見ましょう。すぐに壁ということも考えられますから」

キリク
「どっちもそれなりに広そうだね」
バルロンド
「となると構造上、下へ続くのはこの北側ということになるだろうな」
ルシオン
「そうなんですけど……気になります。この上の階へ続く道」
ユディト
「構造から言って、どう考えても下へ続くルートがないことは明らかではありませんの?」
ルシオン
「……私のマッパーとしての勘が、何かあると言っています」
ユディト
「……勘……ですの?」
ルシオン
「そんな顔しないでくださいよ。とにかく下へ続く道を先に歩きましょう。
そちらが正しければ言うことなし、私は個人的には下は駄目だと思っていますが、行き止まりを先に埋めた方が効率が良いですから、どちらにせよ下側へ行くべきだと思っています。
なので問題はありません」
ケイン
「うわー……ワケわかんねー事言ってる……」

046 地下二十三~二十四階 3


ラチェスタ
「待て……何かが追ってくる」
キリク
「……また? これで何回目だろ」
ルビー
「クマさんかい。遠くからはるばるご苦労なことだね」
キリク
「耳か鼻がものすごく利くんだろうな。どうする?」
ルシオン
「扉まで逃げ切れれば戦わなくて済みますよね」
ラチェスタ
「戦うだけ無駄だ。それにこの距離ならば一度くらいの足止めでは追いつかれることもあるまい」
ルシオン
「そうですね、逃げましょう」
キリク
「まったく、ここは熊が多すぎるよ」

ラチェスタ
「気をつけろ。奴らだ!」
キリク
「ま、また破滅の花びら!」
ルビー
「厄介だねぇ、青いアルマジロまでいるよ。
ここはあたしの術は不向きだね」
キリク
「あいつ、死にかけると防御しかしなくなるから、僕の攻撃効果は薄いんだよな……」
ラピス
「それでもやるしかないわ。頼りにしてるからね!」
ルシオン
「私は左にスマイト、キリクは右を頼みます。ラチェスタはダブルショット、ルビーは大乱雷、ラピスは医術防御!」
キリク
「『ガンガンいこうぜ』だね!」
ラピス
「『いきのねをとめろ』よ!」
ルシオン
「違います。『いのちをだいじに』ですよ!」
ルビー
「『さいごまで たっていたものの かちだ』じゃないのかい?」
ラチェスタ
「『春眠不覚暁』……」

ゴート二世
「よう、お帰り」
ルシオン
「ただいま……」
ケイン
「また双葉か。今度は何だよ?」
キリク
「花マジロだよ」
ケイン
「おいおい、またか? お前ら何度繰り返したら飽きるのさ?」
キリク
「五回目になるのかな」
ルシオン
「今のメンバーでは、どう考えても適正に問題があります。ですから、編成し直します」
ラピス
「何なの、改まって?」
ルシオン
「今まで、ひとつ禁じていた手を使います。
チェ=パウ、バルロンド、ラチェスタ。あなた方の力が必要です。回復にはラピス、そして前衛はキリク」
チェ=パウ
「わーい、久しぶりの出番だね! 
第五層に入ってからあんまり混ぜてもらえないから退屈してたんだ! 
んで、何をしたらいいの?」
ルシオン
「安らぎの子守歌をお願いします」
チェ=パウ
「まっかせて! でも、それが禁じ手?」
キリク
「……どこが?」
ルシオン
「まず、あの花。キリクのパワークラッシュで一つは確実につぶせますが、それだけでは不十分。残念ながら私やセカンドでは力不足です。
セカンドのヘッドボンデージは成功率は高いものの、それに頼り切るわけにもいきません。
しかしバルロンドの大爆炎を当ててからであれば、何とか全てを倒すことは可能でしょう」
ルビー
「けどねぇ、あたしらの術式には時間がかかるんだよ。あいつの花粉の方が早いさ」
ラチェスタ
「アザーズステップでの強制先制を取るということだな」
ルシオン
「ええ、ラチェスタは誰よりも早い。バルロンドを手伝ってあげてください」
バルロンド
「素人に手出しされるのは気に入らんのだが」
ラチェスタ
「安心しろ、私は直接手を出すわけではない」
ケイン
「それならどうやって術式を早くするんだ? それに、たとえば手伝って作業効率が二倍になったって、薬品の反応速度自体は変わんねぇだろ?」
ラピス
「そういえば、そうよね? どうやってるの、ラチェスタ?」
ラチェスタ
「極度の集中状態、とでもいうのか。自らが全てとなり、自らが空となる。容易いことだ」
ゴート二世
「悪いが、ぜんっぜんわかんねー」
ラチェスタ
「説明が難しい。
意識を集中することで周囲の時間の流れが遅く感じることがあるだろう。それと同じようなものだ。
あとは自らの域に物質を引き寄せてやればいい」
ラピス
「ああ、なんとなく解る。超執刀! ってやつよね」
ラチェスタ
「何だ、それは……とにかく、口で説明できるようなものではない」
ケイン
「いや、集中状態で時間の流れがってのは、思考の速度が速くなっているせいだってのは解るぜ。
それでどうして薬品の反応速度まで上がるんだよ。『物質を引き寄せる』とか言われてもな」
ラチェスタ
「ううむ……だから、私にもよくわからんのだ」
ケイン
「よくわからんって、それでどうして使えるんだよ」
ラチェスタ
「……使えるものは使える、それで不都合があるのか?」
ケイン
「あーもー、違う! 不都合とかそういうんじゃねえ! オレが気持ち悪いの! 
ってかなんか不条理のにおいがする!」
ゴート二世
「あー、ケインケイン、俺、ここに来て一つ覚えたことがあるぜ」
ケイン
「何だよ」
ゴート二世
「『世界樹の迷宮には常識が通用しない!』」
ラピス
「……そうね」
バルロンド
「まったくだな」
ルビー
「今更だよねぇ」
ジンライ
「むしろ俺にとっちゃあ、今の世界そのものが非常識だらけだったぜ。もう、ちょっとやそっとで驚きゃしねぇな」

ユディト
「あの……お話がずれているように思うのですが?」
チェ=パウ
「そーだよー! ラチェスタのアザステが変な技だっていうのは解ったけど、それで花を焼くのだって別に普通の作戦じゃない」
ラピス
「むしろ今までやらなかったのが不思議ね」
ルシオン
「今までの全てを統合した時、禁じ手が現れるのです」
キリク
「アザーズ大爆炎で確実に花を焼くのと、チェ=パウの歌に何か関係があるの?」
ルビー
「TP切れを気にしないで進める、ということかね?」
ゴート二世
「ああ、それは言えるな。アザステにしろ大爆炎にしろ、馬鹿みてーにTP食うもんな?」
ルシオン
「とにかく……バルロンド、あなたがリーダーとして作戦の指揮をお願いします」
バルロンド
「……ふむ……大体は解った」


ラピス
「花は二体、あとはアルマジロ!」
バルロンド
「キリクは左、俺は右だ!」
キリク
「わかった!」
ラチェスタ
「(アザーズステップ)」
花は炎と斧で蹴散らされ、アルマジロが残る。
バルロンド
「瀕死まで追い詰めるぞ。最後の一匹にとどめを刺すな!」
キリク
「『とどめを刺せ』じゃなくて?」
ラピス
「……あっ。そういう事? 私は医術防御した方が良いのかしら」
バルロンド
「そうだな、無駄な消費は抑えるべきだ。
チェ=パウは歌を頼む」
チェ=パウ
「えぇっと、今から? もう戦闘終わっちゃうのに、何を歌えばいいの?」
キリク
「瀕死になると防御しかしないアルマジロ……歌……ああ、なるほどね。
安らぎの子守歌、それから回復系か防御系だね」
バルロンド
「そういう事だ」

30分後
チェ=パウ
「~♪ まだ歌うの~♪ かな~♪」
キリク
「(あまりにヒマで、いい加減眠くなってきた……)」
ラチェスタ
「ぐー……」
キリク
「ラチェスタ、まずいよ。もし万一、f.o.e.の乱入とかあったら……」
チェ=パウ
「f.o.e.は~♪ いない~♪ よ~♪」
ラピス
「私はそろそろいいわ。ラチェスタもよさそう」
バルロンド
「俺も次で終わりだ。キリク、ラチェスタ、頼む」
キリク
「ラチェスタ~。終わりだって。終わり」
ラチェスタ
「…………」
キリク
「仕方ないな……」

ラピス
「うーん、元気いっぱい! チェ=パウは大丈夫?」
チェ=パウ
「へ~き~」
キリク
「確かに、こうしていればいつまででも探索が続けられるのか……」
ラチェスタ
「しかし、眠い……」
ラピス
「どうしてこれが禁じ手なのかしら?」
バルロンド
「『変』『格好悪い』『楽なシステムに頼りすぎ』だそうだ」
ラピス
「変なの……使える手段は使わないと駄目じゃない?」
バルロンド
「美意識、という奴だよ。厄介であり、かつ本人には大切な意地だ」
ラピス
「ふーん……?」


チェ=パウ
「あれっ、行き止まりだよ」
ラピス
「降りているつもりだったのに、随分とのぼって来ちゃったわね」
キリク
「もう一つの道からなら下へ行けるのかな?」
バルロンド
「……むっ? おい、止まれ。何か落ちているぞ」
チェ=パウ
「あっ、ホントだ! 紙切れだよ紙切れ! 
それは遙か古の時代に託されし希望なり……
ジンライ、ねぇ、読んで読んで。早く!」
我ら……七名の………研究員にて……発足……、地球を……救……。……滅びを…
ジンライ
「三枚目のメモ……か。ほとんど崩れて読めねぇな」
ラピス
「物々しい単語が並んでるのね」
ジンライ
「七人の研究者ってのが、地球を救ったのか、世界を滅ぼしたのか……」
チェ=パウ
「別に世界は滅びてないけど?」
ジンライ
「俺にとっちゃあ十分滅びてるよ」
バルロンド
「主観の違いだな。文明の変遷があったのは間違いあるまい」
ジンライ
「この紙切れにどの程度の意味があるのかも解らん。
もしかしたらただの小説の切れ端かもな」
バルロンド
「とにかく、ここにはもう意味はない。帰るとするか」

047 オープンカフェ

パーティーが第五層を探索しているある晴れた日、ベルダ広場のオープンカフェにて
ユディト
「…………」
ラチェスタ
「…………」
ジンライ
「珍しい組み合わせだな」
ユディト
「最近出番がありませんの。元々大きなレベル差が縮まりませんわ」
ジンライ
「最近は育成より探索優先になったからな、安定したヤツらばかり出番が回るのも仕方ねぇ。俺も大して変わらんなァ」
ユディト
「ジンライさんは出番が多いようにお見受けしますが」
ジンライ
「いんや、今の俺はラチェスタやキリクと採掘に行くのが主な仕事だからな。毎朝出ているとはいっても、戦わずに帰ってくることも多い。ヒマなもんさ」
ユディト
「それでも、採掘で出かけられるだけましなのではないかと思いますわ。
たまに、わたくしは『要らない子』なのではないとかと思うことがありますもの」
ジンライ
「嬢ちゃんは搦め手のスキル持ちだからな、探索とは相性が悪いのは仕方ねーわな。元気出せや、な」
ユディト
「ジンライさんは第五層とかかわりが深い方、色々と頼られているではありませんか」
ジンライ
「そりゃァ、まぁ、な。実際の探索時間に関わる割合で言うと微々たるモンさ」
ラチェスタ
「ストーリー進行上、数少ない出番でよく喋っているだけ。もっとも長い、日記に書かれることもない探索部分では出番なし、といったところか」
ジンライ
「おいおい、そうズバっと言われると落ち込むなァ。いいンだよ、俺は。若ェ奴らに道を譲る頃合さ。
ラチェスタは強いよな」
ラチェスタ
「強キャラ封印だそうだ。すぐにレベルが皆を追い越してしまうのでな」
ジンライ
「強けりゃいいってモンでもないのか?」
ラチェスタ
「多人数ギルドには和というものが必要だ。
ルシオンは最近本格的にパンチ力不足になって降りなくなったぞ」
ジンライ
「泣けるねぇ」
ユディト
「己の立場を悩んでも仕方がありません。どうです、新種の茶葉から新しい方法で抽出したお茶ですわ」
ジンライ
「おっ、新作か。面白い色だな」
ラチェスタ
「先ほど樹海近くで野イチゴを摘んできたのだ、僅かだが、食べるか?」
ジンライ
「いいね、もらおうか」
ユディト
「待てば海路の日和あり、ですわ。ルシオンも呼んで来ましょう」

048 地下二十三~二十四階 4


ゴート二世
「登れども登れども果ては見えず」
キリク
「チェ=パウがいてくれるおかげでずいぶん楽になったけどね……」
ケイン
「結局キツいのは変わんねぇもんな」
チェ=パウ
「まだ歌う?」
キリク
「いや、歌の効果がまだ残ってるみたいだから大丈夫。
でも、やっぱり長いこと歩いてると精神的にくたびれるね」
バルロンド
「そもそもこの建物自体が、エレベーターとやらでの移動を前提に作られているのだろう」
ゴート二世
「縦に移動って、まさか長い梯子がかかってるとかじゃねーだろーな」
チェ=パウ
「降りるときは手を離せばいいんだよ」
ケイン
「死ぬだろ、普通に」
チェ=パウ
「だからー、ムカシの人ってすっごく丈夫だったの」
キリク
「……悪いけど、ジンライさん見てる限りそうとは思えない」
ケイン
「だよなぁ……ってか、そんなの真面目に話す事じゃねぇだろ!」
チェ=パウ
「うーん、マジメなんだけどな。だってほら、昔ここにいた人たちってどうなったのか解らないでしょ。もしかしたら怪物になっちゃったのかも知れないよ」
キリク
「真面目な顔でさらっと怖いこと言わない!」
ケイン
「……まあ、否定する材料もねーけどさ。これだけの建物を平気で造るような連中が俺たちと同じ人間とは思えねぇし」
チェ=パウ
「あー、モリビトとか、そのへんとつながってたりするかも」
ケイン
「モリビトが元人間か……考えられないことじゃねぇよな、言葉通じるんだし、昔何らかの接点はあったんじゃないの?」
キリク
「だからっ、嫌な想像しそうだからやめろって!」
チェ=パウ
「えー、もしムカシそうだったとしてもさ、今は人間じゃないし、別にいいんじゃない?」
キリク
「そういう問題じゃない。なんか、ほら、嫌じゃないか」
ケイン
「お前ねー、そんなのイチイチ気にしてたら何もできないだろ? 
何でもかんでも考えすぎだよ」
チェ=パウ
「ねー、考えたってどうにもならないのにね」
ケイン
「ぶっちゃけお前は考えなさすぎ」
チェ=パウ
「わあ、今なんか凄く失礼なこと言われた」
ゴート二世
「おい、いいかげん進むぞ」
キリク
「あ、うん、ごめん」
ケイン
「ったく、お前らの変なテンポに付き合ってると調子狂うわ」
チェ=パウ
「人のこと言えないのにねー」
ゴート二世
「やれやれ、賑やかなこった」
バルロンド
「ここにいた人間の末路か……確かに、興味がある」
ゴート二世
「普通に上に出たんじゃねーの?」
バルロンド
「それにしては、あまりにもこの古代文明についての知識や記録が残されていなかったのでな」
ゴート二世
「そりゃあ、執政院が隠蔽してたんだろ?」
バルロンド
「話は結局そこに帰着するか」


キリク
「また橋だ」
ルビー
「またかい……」
ケイン
「さっさと渡ろうぜ。こんな所で戦うのはゴメンだ」
ゴート二世
「同感。行こうぜ!」

チェ=パウ
「あのね、さっきから背中がぞくぞくするの」
キリク
「高いところ、苦手だった?」
ゴート二世
「苦手じゃなくてもぞくぞくする高さだけどな」
チェ=パウ
「ううん、なんか嫌な感じがするの」
ルビー
「……みんな、急いで渡りきるよ」
ケイン
「……うげ。まさか」
ルビー
「そのまさかさ」
ゴート二世
「F.O.E.だ!」
キリク
「うわー! ……見なきゃ良かった」
チェ=パウ
「クマが橋渡って追っかけてくるぅ!」
ケイン
「揺れ、揺れ、揺らすなぁぁぁぁ!」
ルビー
「大丈夫かい、早く行きな! ほら、アンタもだよ!」
キリク
「でも僕は前衛……」
ルビー
「こんな所でマトモにやり合う事なんか考えるのがナンセンスってもんだろ! 
とっとと渡りきって、足場を確保!」
キリク
「はいっ!」
ゴート二世
「援護頼む。レッグボンデージですっ転ばすぜ。その間に俺たちも全力ダッシュだ」
ルビー
「外すんじゃないよ!」
ゴート二世
「こう見えても本番には強い方さ!」

ゴート二世
「よし、もう少しで渡り切……おい、お前ら何止まってんだよ!」
キリク
「行けないんだ」
チェ=パウ
「見て、橋のかたっぽ、クマが塞いでるの!」
ケイン
「挟み撃ちだな。橋の上で前にクマ、後ろにクマか」
ルビー
「ふん、やるしかないって事だね。面白いじゃないか。
あいつが追いついてくる間に切り抜けちまえばこっちのもんさ!」
ゴート二世
「へッ、そんなに俺の活躍が見たいってのかよ。カミサマもワガママだぜ」
ケイン
「うわー、マジかよ」
キリク
「もうスリルもクマもいいよ……」

キリク
「や、やっと抜けた……」
ゴート二世
「クマ園かここは。次から次とうっとーしー」
ケイン
「オレもう限界だ。薬切れだぜ」
キリク
「位置から言って、このへんに階段があるはずだね」
ゴート二世
「……ってまた登りじゃねーか。どんどん上に戻ってるぞ。これ上がったら地下二十一階じゃねぇの? 
本当にこっちでいいのかよ」
チェ=パウ
「でもさぁ、もう進める所ってここしかないよ」
ケイン
「無駄かもしんねぇけど、まあ、無駄じゃないかもしんねー」
ルビー
「行って見なきゃ解らないね」
ゴート二世
「……わぁったよ、仕方ねぇ」
ケイン
「……世界樹の謎って奴が、ショボい結果に終わらなきゃ良いけどな」
ルビー
「ま、謎を解く鍵が全て用意されているってもんでもないさ。
そもそも、解決する問題や、解明される謎なんてものの方が少ないんだからね」
ケイン
「オレ、そうやってすぐ諦めんの嫌だ」
チェ=パウ
「地図の書き間違いだったりして」
ゴート二世
「それはそれで面倒な事になりそうだし、嫌だな」
ルビー
「とにかく一度出直そうかね。さすがに疲れてきたからね」
一同
「賛成ー」