世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第四階層 2


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第四階層のネタバレ文章です。

030 地下二十階

私たちはついに第四層底部へとたどり着きました。
それは同時に、モリビトたちとの全面的な争いを意味していたのです。
あのモリビトの少女は、モリビトの守護鳥と精鋭を倒せば私たちの勝ちだと言い残し、走り去ってゆきました。
その森には生き物の気配はなく、そのくせ殺気に満ち溢れていました。
チェ=パウ
「ああっ、行っちゃったよ。んもぉ、話くらい聞いてよ!」
ラピス
「今更話し合いもないわ。やるしかないのよ」
キリク
「できれば、話し合いで何とかしたかったんだけど……」
ルシオン
「仕方がありません、全力でお相手しましょう」
バルロンド
「なに、ここでモリビトの精鋭を倒せばおとなしく退いてくれるというのだ、ただただ潰しあうより余程有益というものだろう」
ラピス
「この森の安全のために、モリビトたちには少し退いてもらわないと」
チェ=パウ
「もともと昔から約束してて、んで入るなっていうのにあたしたちが無理矢理ここまで来たんだから、理不尽って気もするけど~」

まず遭遇したのは今までにも何度か戦った姫君たち。
彼女たちは混乱と呪いでパーティーをかき回します。
余計な時間はかかりますが、勝てない、ということはありません。
チェ=パウ
「(安らぎの子守唄)」
ルシオン
「(防御陣形)」
ラピス
「(医術防御)」
キリク
「さすがにこれだけ守りを固めると危機感はないな」
ルシオン
「戦いが始まったとたんにf.o.e.が集まってきますね」
ラピス
「このまま誘い寄せて倒したほうがかえって楽じゃないかしら」
バルロンド
「この姫君というのもモリビトの一種なのか? モリビトを守護する魔物だと思っていたのだが……」
ルシオン
「異質な気はしますよね。辞典によると魔物扱いのようです」
バルロンド
「そもそもモリビトは人間種なのだろうか。
人に近い意識を持った魔物なのかもしれんな」
そうして集まってくるf.o.e.を加減しながら倒し続けていると、鳥人が乱入してきました。
キリク
「フォレストオウガ……? これもモリビト?」
ルシオン
「ず、随分と変わった方ですね。話、通じるのかしら」
ラピス
「どう見ても化け物じゃない!」
チェ=パウ
「わー、あの太い腕痛そう……」
ルシオン
「とにかく倒さなくては、先へは進めませんね」
しかしこのオウガ、攻撃力がとんでもなく高く、補助の術が途切れた途端にパーティーは半壊。
何とか抵抗し続けて、倒せる頃には次のf.o.e.が現れ、もうきりがない状態です。
更に新たなモリビトの戦士が現れ……
キリク
「フォレスト……デモン?」
ラピス
「まるっきり、化け物じゃない……!」
私たちは抵抗空しくその場に倒れました。

だからといって、引き下がるわけには行きません。つまりは時間がかかるのと、補助術が途切れてしまうのが問題なのです。
必死で戦っていると忘れてしまいがちですが、補助術が相手より早く発動するという保障がない状況では、効果時間が残り少ない術を上書きするしかないのです。
チェ=パウ
「それに、やっぱりモリビト系列って基本的に火に弱いよね」
ルシオン
「そうですね。バルロンドの火がかなり効くようでした。基本戦術は間違っていないと思うので、全員に炎の補助をつけて待ち伏せで行きましょう」
バルロンド
「逆にデモンの方は炎を吹くほど炎に強いようだな。すばやい切り替えが必要だ」
ラピス
「それから、薬ね。私だけではちょっと追いつかないこともあるわ。手持ちのお金全部薬にしてしまいましょう」
ルシオン
「うう……大赤字……」
バルロンド
「戦闘が長引けば長引くほど我々もモリビトも疲弊する。お互いのためにも決着は速めにつけるべきだ」
キリク
「…………」
ケイン
「おい、あの子は? あのモリビトの女の子は殺してないだろうな?」
ルシオン
「彼女は戦いには加わっていないようです。今のところは……」
ケイン
「くそ~、オレも行きたい……ような行きたくないようなっ」
チェ=パウ
「来なくていいよ。役に立たないもん」
ルシオン
「チェ=パウ! 言い過ぎですよ」
チェ=パウ
「べーっだ。ホントのことだもん」
ラピス
「医術防御がないと、f.o.e.はちょっと辛いから……仕方ないわ」
ルビー
「そういう意味じゃないと思うけどねェ」

031 地下二十階 2

ラピス
「最近姉さんの機嫌が悪いの。訊いても答えてくれないし、原因知らない?」
ゴート二世
「ああ……そうか。うん。そっとしといてやれよ」
ラピス
「何? 何か心当たりがあるの? 教えてよ」
ゴート二世
「つまりなんだ、振られたんだ」
ラピス
「姉さんが? 誰に?」
ゴート二世
「俺」
ラピス
「……えーと……」
ゴート二世
「ジンライの旦那だよ。
俺も詳しいことは知らねぇ。ただ、なんか旦那に言われたらしいな」
ラピス
「ふーん、姉さんってああいう人が良かったのね。意外。
ところでセカンドはルシオンと付き合ってたりするの?」
ゴート二世
「何でそうなるんだ。付き合いが古いだけだよ。
大体あいつ、ああ見えても尼さんだぞ。もとはお嬢様だしな」
ラピス
「……うそ」
ゴート二世
「マジ。ホンモノの聖騎士なんだぜ。
食事の時とか見てみな。ちゃんとお祈りしてるし、肉は食わない。酒もやらない」
ラピス
「ただの地図マニアじゃなかったのね。
でもしっかり剣で戦ってるけど」
ゴート二世
「宗教の面白いところだな。剣の柄は十字だから聖なる武器。それから、人に害なすものや神の敵を殺すのは罪じゃない。
前にあいつに訊いたら『神は意外と寛容なんですよ』って笑ってたけどな」
ラピス
「じゃあ、どうしてそんな人がこんな所で冒険者なんかやってるの?」
ゴート二世
「知らん」
ラピス
「いつも地図地図言ってるのは私欲まみれで、聖職者って感じしないわね」
ゴート二世
「まあな」
ラピス
「モリビトもかなり遠慮なしで殺してるわよね」
ゴート二世
「そうだな」
ラピス
「セカンドってやっぱり本当はルシオンのこと好きでしょ」
ゴート二世
「さあ、どうかな」

守りは完璧に。そして攻撃は手を緩めない。
こうして私たちはモリビトの戦士達を一人一人倒してゆきました。
ルシオン
「ようやく半分……?」
チェ=パウ
「さすがに疲れたねえ。歌いっぱなしで喉がカラカラ」
ラピス
「肉体的にはチェ=パウの歌のおかげでまだかなり余裕があるけど」
ルシオン
「キリク、大丈夫?」
キリク
「……大丈夫……」
ラピス
「大丈夫って顔じゃないわ」
キリク
「やっぱり、鳥の化け物みたいでも、血は赤いから……でも全力でやらないと、止めを刺さないと……」
チェ=パウ
「キリクは、血、駄目なの? 戦士なのに? 変なの」
ルシオン
「一度戻りましょう」
バルロンド
「そうだな」

泉で休憩をとって町に戻り、キリクのかわりにセカンドを加え、私たちは地下二十階に戻りました。
ゴート二世
「キリクの奴、吐いてたぜ。ありゃ随分ストレス溜めてたな。
無理もねえ、あいつほとんど一人で直接ぶん殴って殺してたから。
そういや、バルロンドもキルマーク多いよな。戦いたくないとか言ってた割りに遠慮ないな」
バルロンド
「自分が死んでは知識も得られんのだ、やむを得んだろう」
ゴート二世
「クールな奴。別に平和主義ってワケじゃねぇんだ」
ルシオン
「チェ=パウは?」
ゴート二世
「気にしてないように見える。タフというか、何も考えていないというか……
俺としちゃあ、ラピスが悩んでないのが不思議なんだが」
ラピス
「人殺しにかける情けはないわ」
ゴート二世
「おー怖ァ」
ラピス
「そういうセカンドはどう思ってるの?」
ゴート二世
「俺たちの仕事は所詮殺生だからな。それが獣だろうが人間だろうが大差ねーよ。
どっちも殺される前に殺す、それだけのことさ。俺は命が惜しいからね」
バルロンド
「自ら危険を好む者の言い草とは思えんな」
ゴート二世
「結局俺は戦いが好きなのさ。天国にゃ行けねーな。賭けてもいい」

032 地下二十階 3

バルロンド
「気をつけろ。あのf.o.e.は特殊な動きをしている」
ゴート二世
「ようやくボスのお出ましってワケか!」
ルシオン
「彼らの守護神、とのことでしたね」
ゴート二世
「今なら邪魔は入らねー。やるなら今だ」
チェ=パウ
「うん、だいじょぶ、いけるよ!」
ルシオン
「では、相手は仮にも神と崇められるもの、油断しないように行きましょう」

ルシオン
「負けちゃいましたね……」
ゴート二世
「油断したつもりはなかったんだがなー。いちいち攻撃が糞痛ぇ。なんだあれ。
爪でぐっさりやられては殺されやられては殺され……頭で混乱、翼で雷撃、足で単体必殺って感じか。
縛りが決まれば楽になりそうだけどなー」
バルロンド
「成果はあった。奴には氷が有効のようだ」
ラピス
「それなら、姉さんを呼んだほうがいい?」
ルシオン
「……いいえ、デーモンとあの神と呼ばれるイワオなんとか以外には炎が有効ですから、やはりバルロンドの方が適任でしょう」
ゴート二世
「奴らあんなのを神と崇めてんのか。ただのバケモノじゃねーのか、あれ。
あそこに生き物が居ないのは、あのバケモノが片っ端から食っちまったんじゃねーのか?」
チェ=パウ
「んー、だからあそこにいる人強いんじゃない? 強くないと食べられちゃうとか」
ラピス
「強い生き物を神格化して、それに打ち勝つのが神に認められることと考えていた人間もいるそうね」
バルロンド
「所詮神など偶像に過ぎん。結局は人間自身の問題だ」
ルシオン
「確かに、彼らの神は偶像なのかもしれませんね」
バルロンド
「……彼らの神に限った積もりはないのだが、な」
ルシオン
「ここで議論をする気はありませんよ」
バルロンド
「……そうだな。忘れよう」
ゴート二世
「とにかく縛りだ。縛りが成功すりゃかなり楽になるはずだ。
ユディトがいりゃあずいぶん楽になるんじゃねえか?」
ラピス
「無理よ。攻撃に耐えられないわ」
ルシオン
「がんばってくださいね、セカンド」
ゴート二世
「ふー。まー、やるだけやってみるけどさ」

ゴート二世
「また負けたわけだが。
で、今回の敗因は?」
ルシオン
「とにかく一度はあの巨鳥を倒せました。それは間違いないんです」
バルロンド
「時間がかかりすぎて、遥か遠くからf.o.e.が行列を作っていたな」
チェ=パウ
「神様やっつけたらみんな逃げると思ったのにね」
ラピス
「戦意が全く衰えてなかったわ。
結局力を使い果たし、気力が尽きたところで数に押されて総崩れ……
ごめんね、私が医術防御をきらしちゃったから」
ルシオン
「そこへもう一羽あの神が現れて、もうどうにもならないという状態でした」
ゴート二世
「つまり何か? 神ってあれ一羽じゃねーのか?」
チェ=パウ
「うーん、どうなんだろ」
バルロンド
「いや、f.o.e.が不思議な動きをしている。何かの法則があるのだろうな」
ルシオン
「とにかく、何度でも挑戦しますよ! 
人は進歩するものです。絶対に打ち勝って先へ進みます!」
ゴート二世
「やれやれ、カミサマに勝つってのも大変だな」
ルシオン
「当然でしょう、仮にも神と呼ばれるものですから。 事実がどうであれ、何らかの要素が人を超えたものが神と呼ばれるものです」
ゴート二世
「神殺しの称号か。竜殺しよりイケてるかもしんねーな」
チェ=パウ
「でもそれ、なんか悪い人みたいだよ」

そして私たちは何度も倒されては挑戦し、倒されては挑戦しを繰り返しました。
さすがに何度も戦いを重ねると、謎が解けてきます。
バルロンド
「モリビトと魔物たちは神との戦闘中には入ってこないようだ」
チェ=パウ
「それから、一気に全滅させないと駄目みたいだね。ものすごく復活が早いよ」
ゴート二世
「しかしあのアホ鳥、本当に神なのかよ。ってかヤツらなんであんなのを神と崇めてんだよ。
モリビトと戦っていようがなんだろーが、突っ込んできやがる。普通にモリビトが下敷きになったり吹っ飛ばされたりしてたぜ」
ラピス
「つまりは、結局、神だなんていってるけど、ただ怖いものを持ち上げてるだけなのね」
バルロンド
「それを愚かと笑う資格は我々にはないがな」
チェ=パウ
「でもあのカミサマ、倒しても倒しても生き返るみたいだよ。あれじゃきりがないよ」
ルシオン
「信仰の根……神を支えるのは信ずる心。
モリビトが神という心の拠り所を信じ、あの鳥もその力で蘇っているのならば……」
ゴート二世
「あー、つまり何か? あそこにいる連中きっちりとどめまで刺して全滅させるってことか?」
ルシオン
「そうです」
ゴート二世
「……そーか」
ラピス
「そこまでしないと、駄目なのかしら……」
バルロンド
「それしかないようだな」
チェ=パウ
「めんどくさいなぁ」
ゴート二世
「チェ=パウ、さすがにその感想は人としてどーかと思う」
チェ=パウ
「え? そう?」
バルロンド
「一つの種を賭けてまで守らねばならぬ秘密とは、何なのだ……?」

033 地下二十階 4

主に待ち伏せでモリビトの戦士を倒し、寄ってくるものがいなくなったら奥へ進んでゆきます。
時折イワオロペネレプと戦いながら……
ルシオン
「セカンド、ちゃんと働いてくださいよ。
イワオロペネレプと戦うときは倒されてばかりじゃないですか」
ゴート二世
「俺だってもういい加減にしたいっつーの。
あの馬鹿鳥が何かっちゅうと俺ばっかり狙ってくるし、あの爪やたら痛ぇんだよ!」
チェ=パウ
「倒れちゃうと医術防御とか解けちゃうから、ケガが治った途端にまた引っかかれてるし」
ラピス
「柔らかすぎるのよねえ、セカンドは」
ゴート二世
「だーかーらー、壁と比べんなッてんだよ! 
前列に出て殴られてみろよ」
ラピス
「イヤよ。全体攻撃の雷撃が十分痛いわ」
ルシオン
「まあ、それも上腕封じが成功すれば飛んでこなくなるわけですし、頑張ってくださいね」
ゴート二世
「簡単に言ってくれるぜ。
やれやれ、どうせ好かれるならグラマーな姉ちゃんがいいや」
ルシオン
「ぐらまー……」
ラピス
「う……(嫌な話題……)」
チェ=パウ
「あたしグラマー?」
ゴート二世
「五年後のガキには興味ねーの。お前ならいいセンいきそうだけど」
チェ=パウ
「あー、そう、意外とね、ラチェスタっておっぱい大きいよ」
ゴート二世
「そーか? でもあいつは腹筋割れてそうだからなー。
なあバルロンド?」
バルロンド
「何故そこで俺に振る」
ゴート二世
「意外にそーゆーのを良く見てるんじゃないかと思って」
バルロンド
「……それは侮辱と解釈していいのか?」
ゴート二世
「いや、別にそんな積もりはない」
ルシオン
「……あの、緊張感がなくなりますので、そういった話は帰ってからにしていただけませんか?」
ゴート二世
「悪ィ悪ィ。新手が来たぜ」

ルシオン
「セカンド、あなたの気持ちもわかりますが、私は、辛くとも、命を奪う相手には常に敬意を払うべきだと思います」
ゴート二世
「別に目を背けている積もりはない」
ルシオン
「そうですか……あと少し、付き合っていただけますか?」
ゴート二世
「俺は俺のためだけにここに来ている。ここには俺の乾きを癒してくれる熱い戦いがあるからな。
誰かのために戦ったことなんかないぜ」
ルシオン
「それでもいいんです。でもあなたは、あなたが言うほど冷たい人ではありませんよ。
今だってキリクのかわりに傷ついているでしょう?」
ゴート二世
「……へッ。
お前がどう思おうと勝手だが、俺は戦いが好きだ。
命を取ったり取られたりするのにゾクゾクするし、血がしぶけば高揚する。
それがモリビトだろうが神だろうがな」
ルシオン
「それもまた事実なのでしょう。だからこそあなたは傷ついている」
ゴート二世
「ばーか、俺はそんな上等な人間じゃねーよ」
ルシオン
「それでも私は、あなたという仲間に頼っています。
それでいいのではありませんか?」
ゴート二世
「お前って、そういう強引なとこは全然変わんねーのな」
ルシオン
「人はそう簡単に変わりませんよ。あなただって、ね」

チェ=パウ
「ねえねえラピス、あの二人ってずーっと前から組んでるってだけじゃないよね? ぜーったい何かあったよね?」
ラピス
「さあ、どうなのかしら。私はエトリアで会ったから良く知らないわ。
でも、バルロンドなら前から一緒に居たらしいから知っているんじゃない?」
チェ=パウ
「ねえねえバルロンド……」
バルロンド
「ふむ、昔のことだな。
ルシオンはGoodのバルキリー、ゴート二世はEvilのロード、俺はGoodのビショップだった」
チェ=パウ
「……え? 何それ全然わかんない。
あたしが聞きたいのはそんなことじゃないよ~! 
ちょっと、ねえねえねえねえっ」
バルロンド
「以上。」

ラピス
「これで……最後のはずよ。
もう、いないわ……モリビトは……」
バルロンド
「静かなものだな……」
ルシオン
「残るは、あの巨鳥!」
ゴート二世
「よっし、ブーストで一気にふん縛ってやるぜ!」
森の中央で動かなくなったイワオロペネレプ。
もう崇めるものもなくなったそれは、ただの化け物です。
封じが決まれば、あとは丁寧に防御術を張ってゆくだけ。
今までに何度も戦った相手です、もうパターンは読めています。
ゴート二世
「これで……終わりだぜ! 死の快楽に堕ちやがれッ!」
こうして、黄金の神は死にました。
動くもののなくなった森に、あのモリビトの少女がただひとりぽつりと立っていました。
もはや争う意思も力も仲間もない、勝手に進むがいいと、先へ進む隠された道のありかを言い残し、彼女はいずこかへ去ってゆきました。
バルロンド
「結局彼らは語る気がなかったのだな。
語るべき情報を持っていたのかどうかも怪しいものだが」
ルシオン
「モリビトを殲滅……したわけではありませんけれど……」
ラピス
「そうよね。きっともう……」
バルロンド
「ひとつ、気になることを言っていたな。
人間の中にも我々を疎んじて殺そうと画策するものがいる、と」
チェ=パウ
「えっ? なんで? あたしたち頑張ってるじゃない。
べつに悪いことしてないよ」
ゴート二世
「あのな、人にとっての善悪ってのは、それこそ人それぞれだぜ。
……ああ。俺も気になっちゃいたんだ。どうも、ハメられたんじゃねーかって気がして落ち着かねー。
いっそ報告に行かないで、まず先を見ちまった方がいいんじゃねーか?」
ルシオン
「……いいえ、戻りましょう。他の皆にも知らせた方がいいでしょうし、私たちにも覚悟が必要です……恐らく」
ゴート二世
「覚悟?」
バルロンド
「ルシオン。この先に何があるのか、お前は知っているのか?」
ルシオン
「いいえ。
……ただ、神に背いたものが存在するとだけ」
ゴート二世
「お前は、それを狩りに来たってのか」
ルシオン
「私はその正体を確かめ、場合によっては持ち帰るようにと命令を受けてきました」
ゴート二世
「持ち帰る?」
ルシオン
「しかし……いいえ、とにかく帰りましょう。
チェ=パウの歌のおかげで疲れた気はしませんけれど、やはり休息は必要ですから。ね、ラピス」
ラピス
「ええ。……ルシオンがそういうマトモなことを言うって、珍しいわね」

034 不信

私たちはまず、ギルドに戻ってみんなに第四層からの道を開いたことを報告しました。
ケイン
「ってことは、モリビトは? あの子は?」
ルシオン
「戦士はもうあまり残っていないでしょう。
あの少女は、一人で去ってゆきました」
ケイン
「ちょっ、なんで止めなかったんだよ!」
ゴート二世
「はぁ? 何言ってんだお前。捕虜として連れ帰りゃ良かったってのか?」
ケイン
「違う!」
ゴート二世
「違わねーよ。今の状態であのガキんちょに俺らがしてやれるのはほっといてやることだけだ」
ケイン
「そんな……」
ルシオン
「私たちはモリビトの敵です。今更何を言ったところで、その事実は変わらない。
人間は、いいえ、私たちは自分たちのエゴでモリビトを殺し、彼らの地から追い払ったんです」
ケイン
「ひでえッ!」
ユディト
「そうですわね、この結果が待っていることを知りながら目をそらして問題を先送りにしてきた、そのことそのものが酷いと思いますわ」
ケイン
「…………」
キリク
「もう、これで、モリビトと戦わなくていいのか……」
ラピス
「これでもう、人が襲われることはなくなるのね?」
ラチェスタ
「さて……それはどうだろうか」
ラピス
「どういうこと?」
ラチェスタ
「確かに我々は彼らに襲われた。
だからといって全ての犠牲者が彼らの手によるものとは限らない」
チェ=パウ
「f.o.e.とかモンスターとか?」
ラチェスタ
「わからん。だが、もっと別の何か、我々のみならず、この森へ入ってゆこうとする者への悪意を感じるのだ」
ルビー
「キナ臭い話だねぇ……」
ルシオン
「これから更に奥へと進むことになります。何があるかわかりませんから、皆さん注意を」
キリク
「薬の買い足しとか、糸の買い足しとか……?」
ラピス
「未知のモンスターへの準備と心構えとか」
バルロンド
「違うな。常に全てから自らを守る心構えだ。敵は何処にいるか解らない。そうだな、ルシオン?」
ルシオン
「ええ」
キリク
「地上に居ても……」
バルロンド
「そういうことだ」
ラピス
「……あら? そういえば、ジンライは?」
ルビー
「そういや、さっきふらっと外に出て行ったっきりだね」
キリク
「……まさか……」
ケイン
「あいつも、信用できないって事なのか?」
ルビー
「ジンライ……」
ルシオン
「とにかく私たちは執政院へ報告に行きます。皆さんは出られる準備をしておいてください」

執政院に報告に行くと、長のヴィズル氏が迷宮へ出かけられたきり戻らない、との話が聞けました。
彼は、一体何をしに迷宮へ?
ゴート二世
「怪しい」
チェ=パウ
「怪しいよね」
ゴート二世
「殲滅しろって依頼を出したくせに、とりあえず無力化したらOKって、そんないーかげんでいいのか? 
結局何をさせたかったんだ?」
ラピス
「樹海の安全を守るため?」
ゴート二世
「今となっちゃそれもどうだか。
ただあのオッさんが奥へ行くために俺たちを利用したんじゃねーのか?」
バルロンド
「単身で樹海へ行けるほどの者が、モリビトの排除に我々を利用するのか?」
ゴート二世
「そうだな……立場上無理な理由があったとか……樹海へは一人じゃなくて、あの二人組みを連れて行ったのかもな」
ユディト
「もっと簡単な理由があるのではありませんの?」
チェ=パウ
「あれ、来てたの?」
ユディト
「ずっとおりましたわ。あなたの背後に」
ゴート二世
「で、何だよ、もっと簡単な理由って」
ユディト
「私たちとモリビト、真に殲滅したかったのはどちらだったのか、という話ですわ」
ゴート二世
「ああ、そうか……それもアリっちゃアリだな」
チェ=パウ
「……え? 意味がよくわかんないよ」
ルシオン
「そのようなことを信じたくはありませんけれど」
バルロンド
「あの不自然なまでのモリビトへの害意。あれもまた演技ゆえの違和感だったというのか」
ラピス
「そうだとしたら……モリビトは人間を殺してはいなかった……?」
ゴート二世
「もしかしたら、な。
ま、今までのことから言っても全然殺ってねえってことはないだろうが」
バルロンド
「モリビトを殺させるためにその脅威を過剰に強調した、ということも考えられる」
ラピス
「何が、正しいの? 私、正しいことと信じてやってきたのに……」
ルシオン
「間違いなく正しいのは、私たちが迷宮の中で見たものです。
先に進みましょう、皆さん」
チェ=パウ
「えっ、ちょっと、あたしはまだよくわかんないんだけどーっ!」

ルシオン
「とにかく、ジンライも探さなくてはいけませんね。こんな時にどこへ行ってしまったのか……」
キリク
「多分、世界樹の迷宮」
ルシオン
「一人で!? どうしてそう思うんです?」
キリク
「ジンライさんにとって世界樹の迷宮は、特別な場所らしいんだ。
前に聞いたことがある。ここにあるのは、ジンライさんの過去だって」
ルシオン
「過去? あの方、モリビトには見えませんが……」
キリク
「僕にもよくわからない。けど、気になるんだ、あの話」
ルシオン
「……キリク、行きましょう。
私たちはこの迷宮の核心に近づいている。
それぞれがここに何を求めて来たにしろ、目的はすぐ近くにある。
もう後戻りはできないわ」