世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第四階層 1


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第四階層のネタバレ文章です。

025 地下十六階

下の階へ下りた私たちを、乾いた風が出迎えました。
そこは今までとはうって変わった砂と風の地。枯れた木と草が見渡す限り続く死の森でした。

ジンライ
「砂漠だな」
チェ=パウ
「うわぁ、風邪ひきそう」
バルロンド
「驚いたな。ここの常識はずれな構造、生態系も気候も捻じ曲げる何かがあるというのか?」
ルシオン
「砂が鎧の隙間に入って気持ち悪い……」
ケイン
「げっ、あの鼠燃えてるぞ!」
チェ=パウ
「わー、ほんとだ! 変なの!」
ルシオン
「意外ですね。あの亜人たちはこんな所に住んでいるんでしょうか」
バルロンド
「見た目よりもずっと強靭な種のようだな」
ジンライ
「とにかく進もうぜぇ。ここは扉が多いな。ひとつ開けて……うおっ!?」
ケイン
「うわ、オッさんが流された!?」
チェ=パウ
「砂が川みたいに流れてるよ! 変なのー!」
バルロンド
「流砂……というのも不自然だが、そう呼ぶしかなさそうだな」
ルシオン
「厄介ですね……これでは思うように進めません。ここは慎重に……って、あら?」
チェ=パウ
「おーい、ルシオーン、先に行くよ~」
ケイン
「ふ、ふん、意外に足場も大丈夫じゃないか。むしろ楽しいかも知れないな」
チェ=パウ
「ケインくんケインくん、ジンライのオジさんあっちにいるみたいだよ。一緒に来てよ」
ケイン
「こら、ひっつくんじゃない。オレはまだ、ここが安全だと確信したわけじゃあぁぁぁぁぁぁぁ~!」

バルロンド
「……どうする。三人先に行ってしまったぞ」
ルシオン
「……わかったわ、後を追いましょう。まったく、あの子たち、ここがまた危険地帯かもしれないってわかっているの?」
バルロンド
「とりあえずマッピングは……流砂の上には色を塗らず、入り口にワープポイント、出口及び流されポイントにはイベントを貼る。これでいいか?」
ルシオン
「そうですね、後で正解がわかったら地図見なくてもいいように案内板を書いておきましょう」


ルビー
「出てくる奴がどいつもこいつも今までのf.o.e.にそっくりだね」
ジンライ
「ちょいビビるな」
ルビー
「でも、ま、攻撃力がちっとばかり高いだけで、それほどの脅威じゃないね」
キリク
「むしろ怖いのはあの赤い鼠だよ。見た目の割に体力あるし火を吹くし、ルビーさんの術がないと思わぬ怪我を負うこともある」
ラピス
「……あら、ここはハズレみたいよ。また行き止まりだわ」
ジンライ
「てぇことは、またアレか?」
ラチェスタ
「いたぞ、f.o.e.だ」

キリク
「確かにこのf.o.e.、脅威にはなりうるんだろうけど……」
ラピス
「ただ毒霧出してくるだけじゃあ、そんなに怖くはないわね。リフレッシュを使えないと少しは怖いかしら」
ジンライ
「てんで柔らかい上に体力もないからな」
ラチェスタ
「好戦的なようだから、強敵との戦いの最中に乱入されたら危険かも知れないぞ」
キリク
「うーん、それでもやっぱりインパクトに欠けるなあ」
ラピス
「そういえば、行方不明だっていう方、いないわね」
キリク
「ああ、あの婚約者を捜して欲しいっていう? 
僕たちがここへの道を開いてからそんなに経っていないのに、もうここまで来た人がいるんだなぁ」
ジンライ
「正直こんな所に一人で来て生きているとも考えられねぇがな」
キリク
「…………」
ラピス
「そんなこと言わないで、きっと生きてるわよ。
大分腕のたつ人だって話だし、ね? 
私もあの後ちょっと話聞いてみたのよ。虹色のバンダナがトレードマークなんですって。ちょっとした有名人だそうよ。
ねえ、そんな暗い顔しないで。きっと無事よ。ちょっと怪我しちゃって帰れなくなっちゃってるだけだわ」
キリク
「……だと、いいけど……
あ、ここが出口みたいだ」
ジンライ
「また帰りは外周歩きかァ? いい加減面倒臭ぇなぁ」
ルビー
「解ったよ、しょうがないねェ。消費が激しいから勿体無いけど……帰還の術式!」

ラピス
「姉さん、その術便利ね」
ルビー
「そうだね、ここでは特にね。糸を忘れても平気だって気休めにもなるね。
でもまァ、最近強力な術を連発するようになったから、帰還用の材料も響くねェ。
うちみたいに貧乏なギルドじゃ薬代も満足に出やしないし」
ラピス
「うーん、何とかならないかしら」
ルビー
「そのうちTPリカバリーは取る気だけど、いい方法ないかね」
ラピス
「そうだわ、あの行方不明の人って、術式使えなくなっちゃったから休んでるってことないかしら?」
ルビー
「……ねえ、アンタもここに来て長いんだ、変な希望を持つのは何かがあったときの悲しみを大きくするだけ……知ってンだろ?」
ラピス
「もしそうだったとしても、私は何とかしたい。
そうよ、医療は命を救うためにあるの。救えない命なんてあってはならないんだもの」
ルビー
「……人間は神様じゃないンだ、諦めなきゃならないことだって、たくさんあるんだよ」
ラピス
「信じなきゃ。
じゃなきゃ、私がここに来たことも、今までしてきたことも、全部無駄になってしまうの」
ルビー
「あんまり思いつめるんじゃないよ。あんたまで潰れちまう。さ、帰ろう」

そうこうするうち、私たちは再びあのツスクルと名乗る少女に出会いました。
彼女は、「レンは過去にとらわれすぎている。誰かがこの樹海の謎を解かなくてはならない」と告げると、呪い鈴をくれました。
これはカースメーカーが力を発揮するのに必要なものらしいです。

バルロンド
「過去? あの女と樹海になんの関係があるというのだ?」
ルシオン
「わかりません。そういえば、依然出会ったとき、レンさんおかしな事を言っていました。
この街が発展したのは世界樹の迷宮が発見されてからのこと。迷宮の謎を解いてしまったら、その時この街はどうなるのか、と」
ゴート二世
「まー、そーいやそうだよな。俺らみたいなのか迷宮で色々集めてきて工房や薬屋で色々作る。んで、そいつをがんがん買って消費する。そのことが町を発展させるわけだ」
ケイン
「そうだな、謎が解けたら、そういう連中もいなくなりはしないだろうけど少なくなるのは確実。
もし世界樹の秘密が迷宮自体に何か大きな変化をもたらすものなら、街になんらかの影響が出てもおかしくない」
ラチェスタ
「しかし、我らは先へ進むために、戦い、狩り、買う。その状態がいつまでも続くことなどありえん」
ルシオン
「そうですよね。そして人があの迷宮に挑み続ける以上、未踏破の地はどんどん少なくなっていきます」
バルロンド
「言わば迷宮の寿命といったところだな」
ゴート二世
「馬鹿馬鹿しい。街なんてそんなもんだろ。鉱山都市は鉱石が出なくなりゃ寂れるもんだ。この街が迷宮に挑む俺たちにしか頼れないってんなら、賞味期限切れでオシマイだ。俺たちはどっかヨソに行くまでさ」
ルシオン
「乱暴ですね」
ゴート二世
「事実だろ? それが嫌なら冒険者なんて流れ者頼みの街づくりなんざしなきゃいいんだよ。
普通にレンジャー部隊でも組んで迷宮のちょっと珍しいモン持ってくりゃ十分金になるじゃねえか」
ラチェスタ
「今はそのようなことを言っていても仕方なかろう。
ルシオン、この先に妙なくぼみがあった。ちょうどあの亜人が落としたプレートがはまりそうだったぞ」
ルシオン
「えっ。あのプレートって今は執政院にあるんですよ」
バルロンド
「仕方あるまい、一度戻るとしよう。
あのプレートに書かれていた情報が何かわかるかも知れんしな」

ケイン
「……! みんな! あれを見ろ!」
ゴート二世
「布の切れ端? 旅人の荷物……いや、旅人の残骸か。酷ぇな、こりゃ」
ラチェスタ
「食われたな。哀れな」
ルシオン
「これ……綺麗な布。もしかして、これは……」
ゴート二世
「ああ、例の捜し人の依頼の。特徴はバンダナだったな。ドジな野郎だぜ」
ルシオン
「せめてこれを持ち帰りましょう。あの方、生きていると信じていたのに……」
ケイン
「ちぇ、オレみたいな優秀なメディックがついてりゃこんな事にはならなかったろうにな」

街に戻った私たちは、酒場にバンダナを届けた後、執政院へ出向きました。あのプレートを貸していただくためです。
しかし……交換条件が提示されました。
あのモリビトとよばれる亜人を殲滅すること。
私たちはひとまずギルドへ戻りました。
バルロンド
「ルシオン。あの亜人たちは貴重な情報源だ。敵対するのは得策ではない」
ルシオン
「わかっています」
ラピス
「でも、今まで樹海の中で人が殺されていたのは、モリビトたちの仕業だって言うじゃない! 
やっぱり危険なのよ」
ゴート二世
「ヤツら普通に俺たちを殺す気だったろ。あのエイと戦って、勝てたから良かったようなものの、ヘタすりゃ全員まとめてエサだったぜ」
ルビー
「でも、あのオッさん、どーもうさん臭いねェ」
ラピス
「姉さんは、ただ、何か支配する力に刃向かうのが好きなだけじゃない!」
ジンライ
「おいおい、穏やかじゃねぇなァ」
キリク
「僕は、よくわからない。彼らが人間を殺しているのなら、許せないよ。
でも、何度も「来るな」と言っていたんだ、領域を侵しすぎただけなのかも……」
ラチェスタ
「しかし、だからといって殺された者の身内の怒りは収まるか? 現に我々も襲われている」
チェ=パウ
「うーん、悪い人ならやっつけなきゃ駄目なのかな? ケインくんはどう思う?」
ケイン
「オレは……その……は、話が通じる相手なら、交渉くらいしてもいいんじゃないかと……」
ゴート二世
「へー、お前がそんな事言うなんて意外だな」
ケイン
「お、オレは無益な戦いは愚か者がすることだと思っているだけだ!」
いつまでも話はまとまりませんでした。
話し合った結果、ひとまず先へ進むために形だけミッションを受け、真実を知るのが先決だ、という結論に達しました。
……そうした考えが甘すぎたことを、そのうち思い知ることになるのですが。

026 地下十七階

さて、話は変わりますが、ギルドに新しい方がやって来ました。ユディトさんという女性です。
彼女は呪い鈴に呼ばれたとおっしゃっていました。正直意味がよくわかりませんが。
ユディト
「わたくし、ユディトと申します。ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
ちょっと変わったお化粧と服装ですが、意外に普通の人みたいです。
ユディト
「呪いを少々嗜みます。恥ずかしながら、主に相手を永遠の眠りに墜とす呪いと、恐怖で支配して自滅させる呪いが得意ですわ」
やっぱり変な人みたいです。

さて、地下十七階に到達すると、あの亜人の少女、モリビトがいました。
彼女は我々に出てゆくようにときつい口調で言いました。
ただ出てゆけでは納得がゆかないからと盟約の事を聞いてみると、「そんなことも忘れてしまったのか」と呆れられました。
どうやら、はるか昔人間とモリビトの間で争いが起きて、人間は樹海の外に、モリビトは樹海の中にわかれて、お互い干渉しないことを約束したらしいのです。
それだけ言うと、モリビトの少女は去ってゆきました。
……ですが、我々はまだ引き下がるわけには行きません。聞けば戦いがあったのは遥か過去の話。そもそもどうしてモリビトと人間が争わなければならなかったのか? 知らねばならないことは多いのです。
ただ、心配なのは、モリビトがあくまでも頑ななこと。我々はまだ彼女らにとって侵入者に過ぎないのです。

道は入ってすぐに行き止まりになってしまいました。
ラチェスタ
「これは……厄介だな。まともな道がないようだ。通れそうな隙間を捜してゆくしかないようだな」
しかも、です。植物が壁みたいにびっちり生えている上に、一度通ったからといってその隙間が広がるかっていったらそんなことなかったり、つまりは一方通行だらけ! とにかく木に隙間がないかどうか丁寧に見ていくしかありません。
正直ちょっと酔いそうでした。

それでも何とか近道を見つけ、下へ降りる目処がついた頃、素材のことを調べに執政院へ行きました。
そうそう、バルロンドは、あの記録書が持ち出し厳禁だってことに納得がいかないみたいです。
その時ついでに、モリビトの少女に出会ったことを報告しました。すると、気になることを言われました。
樹海があってこそのこの街。だからこそ、樹海がモリビトのものであるなどと、認めるわけにはいかない。モリビトは危険だから殲滅せねばならない……
ケイン
「おかしいだろ、それ。侵略行為じゃないのか?」
ラピス
「でも、危険なんでしょう? 今までに迷宮に入った人が何人も死んでいるのなら、放っておくわけにはいかないわ」
ゴート二世
「気になるな、あのオッサン。なんか嫌ーな感じがする。俺たち、体よく利用されてんじゃねえのか?」
バルロンド
「何にせよ、真実を知りたいのなら進むしか方法はあるまい」
ルビー
「あんた達さあ、これからとっても嫌ーなことになりそうだけど、どうしても先へ先へ進む理由とか覚悟とかあンのかい?」
ルシオン
「……ありますよ。半端な気持ちでいるなら、そもそもここに来たりしていません」
キリク
「…………」
ジンライ
「まっ、色々あらぁ」
チェ=パウ
「もしかしてあたしたち、触っちゃいけないところに触ってるのかな」
ゴート二世
「そうかもな。へっ、勝手なもんだぜ。どいつもこいつも自分のことしか考えていやしねえ。
俺たちも、執政院のじじいも、モリビト連中もよォ」
ケイン
「和解できる可能性はゼロじゃないだろ!」
ゴート二世
「無理に決まってんだろ? 今まで何度あのちっさいのに会ったと思ってる。一度だってナカヨシムードになったことがあるか?」
ケイン
「今回は話を聞いてくれたじゃないか!」
ゴート二世
「追い返すためにな。大体、人間と見りゃあ殺すモリビトと、樹海に色々求める人間と、問題が多すぎだぜ」
ケイン
「オレは……」
このまま進んでいいのか。そんな疑問もわいていました。
けれど、私たちにはそれぞれ進む理由がありました。
今更世界樹の謎を目の前にして引き下がるわけにはゆかなかったのです。

027 宝を求めて

酒場に持ち込まれる依頼には様々なものがあります。これはそのうちのひとつ。
チェ=パウ
「伝説の盗賊王が隠した宝を探してください、だって! 面白そう!」
キリク
「どこにあるか大体解ってるのか。どうしてそんなのが依頼になってるんだろう?」
チェ=パウ
「うん、強いモンスターに守られているらしいよ」
ゴート二世
「へえー、面白そうじゃねーか。強いって、どれくらい強いんだ?」
チェ=パウ
「そんなの知らないよ。でも、依頼になっちゃうくらいなんだから、誰も勝てなかったってことなんじゃない?」
ルビー
「で、どこにあるってんだい?」
チェ=パウ
「へへー、地下五階!」
ルシオン
「……あっ、まさか」
チェ=パウ
「そう、そのまさか! あの隠し扉の向こうだよ。
あそこって何もなかったみたいに見えたけど、実はお宝の隠し場所だったの!」
ルシオン
「それは……変ですね。
あの時、それらしきものは見当たりませんでしたよ」
ゴート二世
「特別強いヤツもいなかったしな」
チェ=パウ
「だから、きっと見落としたんだよ」
ルシオン
「……行ってみましょう。でも、何があるかわかりませんから、十分注意して」


ゴート二世
「このあたり、か。確かに凄ぇ気配がしやがるぜ」
ラピス
「でも、前に来たときには確かに何もいなかったわよね?」
キリク
「その筈だけど、現に今はモンスターがここにいる。
宝が本当かどうかはともかく」
ゴート二世
「へっ、倒せばはっきりするぜ。お宝がガセかどうかはな」
宝を守ると目されるモンスターは、巨大な石の人形でした。
ゴート二世
「こいつは見るからに強そうだぜ」
ルシオン
「ええ。気を引き締めていきましょう。
死んでしまったら、宝も何もありませんからね」

ラチェスタ
「さすがに硬いな……」
ルシオン
「私たちの攻撃ではほとんど傷もつきません!」
ゴート二世
「頼りになんのはキリクだけか、さすがだな。
戦うのが一番嫌いなくせに一番強いなんてよ、やんなるぜ」
ラピス
「セカンド、感心してないで腕封じてよ!」
ゴート二世
「やってるよ! 俺だってまだミンチにゃなりたくねーからなッ!」
ルシオン
「ラチェスタ、ショックオイルが一つだけあります。あなたが使ってください。
私は守りに専念します!」
ラチェスタ
「心得た」
ルシオン
「ここは道具を惜しんでいる場合ではありません。みんな、持っているものを最大限活用して!」
ゴーレムの巨大な拳が三度もラピスに直撃。
ラピス
「……!」
ゴート二世
「ラピスッ! 生きてるか!?」
ラピス
「な、なんとかね! ちょっと痛かったけど! 
でも、これでわかったわ。最強の攻撃で私を殺せないこの人形に、私たちが負けることはないわ!」

キリク
「これで、とどめだっ!」
ゴート二世
「ッし! ……ん?」
ルシオン
「倒れたのに、動いている……?」
ラチェスタ
「まだ、死んでいない! 自己再生しているぞ!」
ラピス
「不死身なの!?」
ゴート二世
「いや、いける! 再生より速い速度でぶっ壊せばいいんだ!」
ラチェスタ
「道理だ。いくぞ!」
キリク
「はい!」

チェ=パウ
「わぁ、みんな、おかえりー! 
ねえねえ、どうだった? お宝ってなんだったの? 少しはもらえた?」
ジンライ
「おう、なんだ、シケた面して。その様子じゃ、モンスターはいたんだろ?」
キリク
「いたことは、いたんだけどね」
チェ=パウ
「なかったの?」
ゴート二世
「そんな美味い話がそうそう転がってるワケねーってことさ」
ルシオン
「あのモンスターに殺された身内の方が、敵討ちのために内容を偽って出した依頼だったんです」
ゴート二世
「無駄足無駄足。要はハメられたってことさ。けっ、くだらねぇ」
キリク
「でも僕は気持ちわかるよ。無力な人が、どうしても復讐をしたいと望んだら、人を利用してでも……」
ラピス
「そんなの、許されないわ。ありもしない宝のために命を落としてしまった人がいたら、その依頼者さんが殺したことになるのよ。
人を犠牲にしてまで復讐するなんて……人間の命は、人がどうこうしていいものじゃないわ」
ルビー
「ふーん、真面目なボウヤがそんなことを言うなんて、珍しいねぇ?」
キリク
「…………」
ルシオン
「まあまあ、いいじゃないですか。
実際、その依頼者さんはそのことに気づいてくれたみたいですし、私たちも別に犠牲になったりしなかったんですから。きちんと報酬もいただけましたし、ね」

ジンライ
「なぁ、キリク。お前はどうしてここに来た? 
大丈夫、他の奴には言やしねえ」
キリク
「…………」
ジンライ
「やっぱ、言えねェか。まあ、言いたくなきゃいいさ」
キリク
「……どうして、そんな事を訊きたがるんですか」
ジンライ
「俺はな、お前の目的が俺と同じなんじゃないかと睨んでいるのさ。
……いや、ただ似てるってだけなのか」
キリク
「ジンライさんの目的?」
ジンライ
「俺は、どうしても世界樹の根っこを見なきゃならん。
俺は俺の過去を捜してる。同時に、ここにあるのが俺の過去じゃないことも望んでる。
……ここにあるのが俺の捜しているものなのかどうかはっきりさせねぇと、俺の気持ちは宙ぶらりんのままだ。
昔の事なんか忘れてここで楽しくやっていきゃいいと思いながら、毎晩昔を夢に見る。何も考えずに生きてたあの頃を。
だから俺は、何をしても、何を犠牲にしても、行ける所まで行こうと思っている。良かれ悪しかれ、決着をつけるためにな」
キリク
「ジンライさんが何を言っているのかよく解らないけど、僕も同じだ。
もう覚悟はできてるよ。この迷宮に来た時点で……いや、戦うことを選んだ時点で」
ジンライ
「……こんな俺に言えた事じゃないがな、お前はまだ若ェんだ、あまり過去ってものに引きずられていい事はない。
だから、あまり一人で思い詰めるな。俺みてぇになっちまうぞ。ムカシに引きずられて彷徨い続けて、帰る場所もなくなっちまう」
キリク
「…………」
ジンライ
「利用するばっかじゃ信頼ってもんは生まれねえ。友達ってのはいいもんさ。大事にしな」
キリク
「ジンライさん、あなたがどう思っているか知らないけど、きっとギルドのみんなはあなたを信頼しているし、仲間だと思っています」
ジンライ
「……だろうな。ありがとよ」

028 地下十八階

更に奥深くへと進むと、そこはどこまでも続く荒野でした。
その入り口で、私たちは再びあの二人組みの冒険者と出会いました。
彼女らはこの荒野を抜ける手がかりを与えてくれましたが、なにやら様子が変です。
理由はわかりませんが、次出会うときは刃を交えなければならないような気すらしました。
ここはモリビトたちの地なのでしょうか、踏み入るとモリビトたちが襲ってきました。
なるべくなら交戦は避けたいところですが、あくまでも道を阻むというのならば仕方がありません。

ゴート二世
「この先に一体何があるってんだ。
問答無用で襲ってまで見せたくねえ物なのかよ。
ケチケチしなくてもいいじゃねえか、なあ?」
ルビー
「仕方ないよ、あたし達は侵入者なんだ。
聖地って言っていたからね、さあどうぞってわけにもいかないさ」
ラピス
「彼らは人間を殺しているんだもの……仕方ないのよ……」
ルビー
「だからこっちも殺す、かい? 
そんなことやってちゃ、人間もモリビトもいなくなっちまうよ」
ユディト
「その方が、平和なのではありませんの?」
ジンライ
「おやおや、物騒だこと。
このままじゃガチンコ勝負は免れねーが、まあ、できる限り殺さないで行きてえな、できる限り、な」
ゴート二世
「もう遅ぇよ、オッさん。
あいつら強すぎる。手を抜いて戦える相手じゃねぇ。殺らなきゃ、殺られるぜ」
ジンライ
「ふう、まだまだ俺らも修行不足ってことかね」

先へ進む小道を発見、先へ進むと、植物なのかモリビトなのか見分けのつかない女性型のモンスターが現れました。
彼女たちは、混乱と呪いの特殊技能を使ってくる強敵です。

ルシオン
「…………」
キリク
「……まずいっ! 混乱してる!」
ルシオン
「…………!!!!!!!!!」
ラピス
「きゃー、痛い痛い痛い!」
ユディト
「……呪います」

ルシオン
「すみません、全然覚えていないんです」
ラピス
「混乱していたんだから仕方ないわ。
でも……そのアクセサリ、バステ耐性アップのでしょ?」
キリク
「(それなのに毎回……やっぱり、うぃざーどりー魂?)」

キリク
「パワークラッ……ぐはっ!」
バルロンド
「(大爆炎の術式)……! ……! ……」
ラピス
「ああっ、また二人が呪われて反射ダメージで倒れてる!」
ルシオン
「(人のこと言えないじゃないですか……)」
ラピス
「(ルシオンが倒れないのは与えるダメージが大きくないからなんじゃ……)」
ユディト
「……呪います」

キリク
「呪いも混乱も厄介だな。ヘッドバッシュが早く決まればいいんだけど」
ルシオン
「さすが本職、ユディトの縛りは早いですね」
ラピス
「それ……セカンドが聞いたらショック受けるわよ」

029 地下十九階

このフロアには「道」というものがほぼありません。
道に生えている妙な草に触れると別の地点へ飛ばされます。

ケイン
「なんなんだよここ、常識通用しなさすぎ!」
バルロンド
「我々の知識では図れぬだけなのだろう。
高度すぎたり、異質すぎる技術は魔術と変わらん」
ケイン
「そういう意味では、あんたらの錬金術とかユディトの呪いとか、あまつさえ『気』とかいって刀に属性つけちまうブシドーとかナンセンスだと思うんだけどね!」
ユディト
「心、狭いのですね」
ケイン
「そーゆー問題じゃねえよ!」
キリク
「なんか最近機嫌悪くない?」
ケイン
「お前みたいな単純な奴にはわかんねーよ。
ああ、くそっ、もう不条理なんか嫌いだ!」
バルロンド
「柔軟な思考を失ったとき、人は退化してゆくものだ」
キリク
「そりゃケインにはかなわないけど、こう見えても色々考えてるんだけどなあ……」

ジンライ
「奴らはずいぶんとややこしいところに住んでいるんだな。不便じゃねぇのか?」
バルロンド
「もし、あのエイの化け物のように化け物どもを操れる何らかの方法があるのなら、我々ほど苦労はしないのだろう。
ここは彼らの領域なのだからな」
キリク
「それでも、歩く距離は相当だし、何かあると思うんだ」
ジンライ
「おい、入ってすぐんとこに変な空間があるぜ」
バルロンド
「空間が歪んでいるようだ。ここが彼らの道と見て間違いないだろう。
今は閉じているようだが……」
ケイン
「はいはい、通れるんだろ。近道なんだろ。ちくしょう」
ジンライ
「ま、近道はあればあるほどいい。奴らと戦う回数も少なく済むわけだからな」
ケイン
「なんでオレたち奥へ向かって歩くんだろ」
キリク
「そこに迷宮があるから……かな」
ケイン
「やっぱお前なんも考えてないなっ!」
キリク
「そうかもしれない」
ユディト
「そういうあなたは何のために進むのですか?」
ケイン
「……みんなが行くから」
ユディト
「嘘が下手ですのね」
ケイン
「わーったよ。和平交渉のため! これでいいだろ?」
ユディト
「モリビトの屍を乗り越えて、ですか?」
ケイン
「…………」
キリク
「その……一応、殺さない努力はしてるよ。
ケインもこっそり手当てとか」
ケイン
「るせえ!」
ジンライ
「ま、追求してやるな。誰だって突っ込まれたくねーことくらいあるさ」


ルシオン
「……はっ」
ゴート二世
「おい、また寝てたのか?」
ルシオン
「すみません。なぜかここ歩いていると眠くて眠くて」
ゴート二世
「あのな。ここは敵地のまっただ中なの。寝てる場合じゃねーだろ。アンダースタン?」
ラチェスタ
「…………」
ラピス
「…………」
ゴート二世
「おいっ、お前ら!」
ルシオン
「そうですよ! もう少しでまだ歩いていないところにぐ~」
ゴート二世
「……ユディト、昏睡の呪い、まさかパーティー内で練習してないだろうな」
ユディト
「……なるほど、その手がありましたね。『昏睡の呪言』」
一同
「ぐ~……」
なぜか、このフロア最強の敵はリアル睡魔。
中盤まで進んだところで大体眠気に誘われ気がつくと朝に。
出口付近のショートカットを見つけたときは心底ほっとしたものだ。