世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第二階層


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第二階層のネタバレ文章です。

012 地下六階

そこは、原始の森でした。巨大なシダに覆われた密林の中、紫色の光がたちのぼっています。
狼退治の時に出会った二人は、これが「樹海磁軸」というもので、町へ帰ることが出来るのだと教えてくれました。
もちろん、即帰ることに誰も反対などしませんでした。


さて、新たな地へ挑むのですから、それなりに気を引き締めてかからねばなりません。
十分に睡眠をとって、パーティーはボスモードでメンバーを揃えます。
ルシオン
「とはいえ、危なそうなら私がちゃんとフロントガードしますから、そんなに危険はないと思いますよ」
ラピス
「エリアキュアもキュア3も使えるから、どんな状況でも即ピンチとはいかないと思うし」
バルロンド
「いざとなったら毒を使うか。不本意だがな」
ゴート二世
「おいおい、頼むぜ。今までのパターンから言って、最初にやられるのは俺なんだから」
ラチェスタ
「不意打ちさえ食らわなければ対処もできよう。なにもf.o.e.に挑もうというのではないのだから」

ラピス
「こ、このスライム、毒々しい色してるわよ!」
ゴート二世
「って、なんだこの超ダメージ! おい、しっかりしろ!」
ルシオン
「(いきなり二発くらって死亡)」
ラチェスタ
「毒ガスだ! くそ、早く止めを! うっ!(毒ダメージで死亡)」
バルロンド
「炎が通じない!?」
ゴート二世
「ぎゃー、殺されるー! 寄るなー!」

キリク
「あ、皆さんお帰りなさい、早かったですね。糸でも忘れたんですか? ……て、うわ! いきなり死人!?」
ラピス
「キタザキ先生にはまたお世話になることが多くなりそうね……」
ゴート二世
「てか、あんな所普通に歩ける気がしねえ」
バルロンド
「ルビー、氷が使えるだろう? しばらく代わってくれるか」
ルビー
「それはかまわないけど……何があったんだい?」
バルロンド
「毒の脅威再び、というところだ」
ラピス
「しばらくはまた朝のうちに帰って寝る生活が続きそうね……」


キリク
「ふう、ひたすら入り口近辺で歩いていたら、さすがに安定して戦えるようになってきましたね」
ゴート二世
「まあ、三日もぶっ続けでこんな事してればな。スライム野郎は氷か雷でほぼ一撃だから、残り一匹を集中攻撃で倒せれば何とかなるな」
ラピス
「万一毒を浴びてしまっても、すぐに戦闘を終わらせれば抜けるものね」
ゴート二世
「むしろ普通に集中攻撃されるとやばいな。余裕で死ぬわ」
キリク
「そうですね。ところで僕、前から気になっていたんですけど、磁軸からすぐ北の扉ってまだ空けていませんよね」
ゴート二世
「ああ、そうだな。ルシオンの奴が、明らかに小部屋じゃない扉は基本的に後回しだって言うから」
ラチェスタ
「それでも、様子を見ておいて悪いことはないだろう。ちょっと見てくる」

ラチェスタ
「……あそこは後回しにすべきだと思う」
ラピス
「どうしたの、顔が青いけど」
ラチェスタ
「入り口からでf.o.e.を少なくとも二体確認した」
一同
「…………」
ゴート二世
「さ、左がもう少しでぐるっと回れそうだったよな! そっち行こうぜ!」

ゴート二世
「うお、何だこのゴリラ。パンチがめちゃくちゃ痛ぇ!」
ルビー
「任せな。こういう頭悪そうな奴にはこれだ! それ、毒の術式ッ!」

ラピス
「そろそろ新種の報告に行きましょう」
ルシオン
「そうですね、相手の体力も把握しておきたいですもの……あ、このゴリラさん、名前が決まったんですね」
一同
「……ナマケモノ~ッ!?」
ゴート二世
「ちょ、待て、どこがナマケモノだってんだよ。めちゃくちゃやる気満々で襲ってきたぞ。いやむしろあれは殺る気だった!」
ラピス
「な……納得いかないわ」


ルシオン
「えーっと、こっちの道がまっすぐで……あっ」
(敵と遭遇)
ルシオン
「ごめんなさい、油断していました!」
キリク
「なんか見たことのないf.o.e.ですよ! ……ダチョウ? これは見るからに……」
ケイン
「あの足に踏まれるのはカンベンだな」
ゴート二世
「よっしゃ任せとけッ! レッグボンデージッ!」
チェ=パウ
「あはは、コケてるコケてる」
キリク
「今のうちに!」
(戦闘終了後)
ルシオン
「このf.o.e.、全員に攻撃してくるらしいですよ」
チェ=パウ
「うわぁ、危なかったねー」
ケイン
「セカンドにしては役に立ったな」
ゴート二世
「あのなぁ、ガキんちょ。お前そんなんじゃロクな大人にならねーぞ」
ケイン
「現在進行形でロクな大人じゃない人に言われても説得力ないなァ。
はいはい、戦後手当するから集まってくれよ」
ゴート二世
「(……このくそガキ、いつかシバく)」

意外にも、このフロアのf.o.e.は警戒したほど怖いものではありませんでした。
狭い部屋にうろうろしているf.o.e.は、避けながらマップを完成させてみると、同じ位置をぐるぐる回っているだけだから避けやすいし、第一弱かったので、ちょうどいい稼ぎの場となりました。

チェ=パウ
「あ、新しいアイテムが開発されたよ! えーと、ろりかはまた?」
ルシオン
「鎧ですね。しかし、この時点では2000は高いですねぇ。その分強力ですが。一着だけ買っておきましょう」
ケイン
「オレにくれるのか。やっと分かってきたようだね」
ゴート二世
「じゃあそういう事でお前も前衛に出ろよ」
ケイン
「何を馬鹿な。オレはこのパーティーの要……」
ゴート二世
「ラピスは前に出て戦ってるぞ」
ケイン
「オレは頭脳労働者なんだっ!」

そういえば、ごく最近気づいたのですが、f.o.e.が表示されるのは、「地図を塗ったところ」ではなく、「実際に歩いたところ」なんですよね。
ゴート二世
「だからって、部屋を隅々まで歩くこたねーだろ! ここにはf.o.e.いないんだから!」
ルシオン
「しかし、歩かなければ内部データ的には埋まっていないということですから……」
ゴート二世
「内部データって何だよ!」

013 地下七階

階段を下りると、真っ直ぐな道が長々と続き、その先に広がっていたのは赤い茨の広場でした。痛そう。

ゴート二世
「うへぇ。コアシールドとかないのかよ」
ルシオン
「少し道を戻ってみましょう。このパターンならきっとこのへんに……」
ラピス
「隠し通路! さっすが地図マニアね!」
ルシオン
「そんなに褒めないでくださいよ、照れるじゃないですか」
ゴート二世
「褒めてねーよ」
バルロンド
「しかし、今はこの茨を踏んでゆくしかないようだな。エリアキュアがいかに低コストとはいえ、これは……」
ラピス
「あっ、それならねぇ」


ケイン
「戦後手当が使えるオレの出番というわけだな。リザレクションも取得したオレに死角はないっ!」
ゴート二世
「なーにを偉そうに。まだキュアLV1弱いし、エリアキュアも医術防御もないし、キュア3使えるほどのTPないからピンチに弱いのは変わってねーじゃんか」
ラピス
「まあまあ、ケインくんがああいうダメージゾーンに強いのは確実だから、喧嘩しないでね」

ラチェスタ
「……ルシオン」
ルシオン
「何ですか?」
ラチェスタ
「さっきから、後ろに大きな気配を感じる」
ルシオン
「そうですね、私も感じます」
ケイン
「は、はは、何言ってるんだか、みんな」
ゴート二世
「まだモンスターの気配はしないぜ……モンスターの気配はな」
ルビー
「行く道は茨か。雰囲気たっぷりだね」
ルシオン
「とにかくみんなふり向かないで、先へ進みましょう」
ケイン
「じょ、冗談きっついなあ」

ゴート二世
「おっ、宝箱だ。行き止まりだな」
ケイン
「みみみみみんなな、真後ろでカサカサ音がぁぁぁぁ」
ルシオン
「ラチェスタ、宝箱を開けるのは一行動になりましたっけ?」
ラチェスタ
「ならなかった、と思うが、自信はない」
ケイン
「このまま箱に近づいたら完全に逃げ場がなくなななな」
ルシオン
「じゃ、進んで箱を開けましょう。万一に備えて、ラチェスタは逃亡スキルの用意しておいてくださいね」
ケイン
「ちょっ、あんたら本気……」
ゴート二世
「お、『水晶のかけら』だ。重要アイテムっぽいな」
ケイン
「にににに逃げ逃げ逃げ」
ルシオン
「えーと、ここがこうなって、はい、地図には書き留めました」
ラチェスタ
「……アリアドネの糸を使用する」

ケイン
「あんたらクレイジーだ! 絶対おかしい!」
ゴート二世
「大丈夫だろ。糸あるのは確認してあったし、ルシオンの逃亡スキルは地下六階なら発動するだろうし、ラチェスタの逃亡スキルもあったし」
ラチェスタ
「f.o.e.以外の敵が接近している様子もなかったからな」
ルシオン
「ちょっぴりドキドキしましたけどね。じゃ、あのf.o.e.の正体を確かめに行きましょうか」
ケイン
「え」
ゴート二世
「面倒だなー。ま、どこから出てきたかわからん以上、地図埋めてくしかねーわな」
ケイン
「えぇっ」
ルビー
「じゃ、糸買ってくるからね」
ゴート二世
「よし、行くぞ、ガキ」
ケイン
「い、イヤだ! オレはもうあんな所わぁぁぁぁぁ!」


ゴート二世
「密林の殺し屋は毒がきついな。ところで密林の殺し屋の尻尾止めるのって、どこ縛ればいいんだろーな?」
キリク
「えっ。どこでしょう。腕……じゃないですよね」
ゴート二世
「どう考えても頭じゃないしな。とりあえずレッグボンデージ!」
キリク
「あ。縛れた」
ゴート二世
「ああ。尻尾って足扱いなのか」
ルビー
「ふふふ、今までのお返しにとびきりの雷をお見舞いしてやろうかねぇ」
キリク
「足……なんか納得いきませんよね」
ゴート二世
「……まー、毒こないなら何でもいい」
地下7階は今までと比べるととても狭いフロアでした。ダメージ床とf.o.e.は思っていたほどの驚異ではありません。
ある小部屋で恐ろしい気配を感じた程度で、すぐに下へとおりてしまいます。

014 地下八階

地下8階に下りると、何か気配があります。ここには飛竜の巣があるらしいのです。

ゴート二世
「今のところ関わりたくねーからクエスト受けずに来たんだが、結局遭う時は遭うんだよなー」
ルシオン
「それもそうですね……うーん、ここも行き止まり」
ラピス
「えっ、ちょっと待って。これで道は全部よ。地図見せて?」
バルロンド
「ふむ……噂の竜の巣もなし、ただの行き止まりか」
キリク
「え、ええっ? どこか見落としましたか?」
ラピス
「鉱石の扉はあるけど、まだ開けられないものねえ」
ルシオン
「大した距離ではないし、壁をチェックしながら進みましょう。隠し通路とかあるかも。
森と言えば昔、ダードワの森とかジェルメスの森という、広くてしかも隠し通路だらけの悪名高いダンジョンが……」
ゴート二世
「あー、うるせぇ。オールドマゾゲーマーは黙ってやがれ」

キリク
「……おやっ? すみません、ちょっと地図見せてください。
……言いにくいんですけど、ここ、かき間違いです。階段下りてすぐは真っ直ぐじゃなくて分岐ですよ」
ラピス
「あ、ほんと」
ゴート二世
「ルシオンッ!」
ルシオン
「ひ、人には間違うことだってあるのです!」
バルロンド
「ふむ……しかしここには竜の巣があるだけのようだ」
ルシオン
「ほ、ほらっ、結局お話は進まないじゃないですか!」
キリク
「もう少し歩いてみましょうか。あの……先輩最近お疲れのようですから……」
バルロンド
「そうだな……先に進む道がない以上は仕方あるまい」

ラピス
「あらら? この地図に書いてあるの鉱石の扉よね?」
ゴート二世
「これはどー見ても普通の扉だな」
キリク
「向かいにも扉があったんですね……」
バルロンド
「…………」
ゴート二世
「おぃぃぃぃぃ、地図担当! 何がダードワの森だぁぁぁ!」
ルシオン
「いやぁぁぁぁ! ごめんなさいぃぃぃぃ!」

キリク
「何にせよ目的はできて良かったですね。
倒さなきゃいけない水源の魔物って、きっとさっき気配を感じた部屋にいるヤツですよ。
ほら、地図重ねると座標がぴったり! さすが先輩ですよね!」
ルシオン
「…………」
バルロンド
「そっとしておいてやれ」
ゴート二世
「同じフロアで二箇所間違いはねーよな。地図に殺されたらどうしてくれるんだ」
ルシオン
「方位磁石のない迷宮で座標だけ表示される魔法を頼りに歩数間違えて交差点ずれちゃって地図が混沌に満ちて迷子になった挙句方眼紙から道がはみ出て続いてると思ったら無限回廊だったり方向音痴のマッパーがいることが間違いで方眼紙の線と壁が見分けつかなくなって見直してたら地図が一枚足りないし気がついたら回転床で方位狂ってて構造から全部書き直してデュマピック使ってキャンプといたらまた回されて……」
ゴート二世
「……このイベント終わったら一度帰ろうか」

015 地下八階~九階

泉を復活させてもお話が進むわけではないので、飛竜の卵をとってくるという依頼を受けることにします。
ラピス
「竜の卵なんか何に使うのかしら?」
ルビー
「さァね、そんな事どうでもいいだろ? あたしらはやるべき事をやりゃいいの」
ケイン
「竜の巣に忍びこんで泥棒まがいのことをするなんて、あんたらにはプライドってもんがないのか!」
ゴート二世
「正直に言いな。ボクは怖いから行きたくありませんって」
ケイン
「オレはただ、その、人間の尊厳というものを……」
キリク
「気付かれないように素早く入って探さなきゃならないんですね」
ルビー
「倒すことは出来ないのかい?」
バルロンド
「いたずらに害を加えることもあるまい」
ラチェスタ
「噂によると、奴は今までのf.o.e.とは比べ物にならんらしい。戦うという選択肢は最初からないさ……」
ゴート二世
「さっさと行って片付けよーぜ」


キリク
「あれが竜かぁ。でっかいなー」
ゴート二世
「おい、ドラゴンスレイヤーって称号がちらついたりしないか?」
キリク
「僕だって自分の実力くらい知っていますよ。まだ死にたくないです」
ラチェスタ
「どうやら奴は、ぐるりと見回しているようだ。あの図体、後ろに回り込めば気付かれることもないだろう」

ラピス
「ねー、あったー?」
ゴート二世
「ここにはないな……」
ラチェスタ
「奴が向きを変えるぞ、気をつけろ」
ルビー
「ニブいトカゲだねぇ。真横で戦っていても気づかないなんてさ」
キリク
「気づかれたら終わりなんですから、鈍くてよかったじゃないですか。
それにあまり気を抜きすぎて、戦いに時間をかけすぎると見つかっちゃうかも知れませんよ」
ラピス
「卵っていうことは、このワイバーンってお母さんなのね」
ルビー
「こいつらにオスメスがあるかどうかもわからないけどね」
ゴート二世
「卵がもう孵って雛になってたらどうするよ?」
キリク
「怖い事言わないでくださいよ」
ラチェスタ
「糸ならある。いいから真面目に探せ」

ゴート二世
「おっ、これだな。あいつは……そっぽ見てるな。よし……」
ルビー
「早くお行き。何よたよたしてンだい」
ゴート二世
「おい、押すな。これ結構重いんだよ」
ラピス
「落としちゃダメよー」
キリク
「あと少し……! あ、ワイバーンがこっち見てる」
一同
「…………」
ラピス
「この距離なら気づかないみたいね……」
ゴート二世
「脅かすなよ、ちくしょう」

ワイバーンの卵を持ち帰ると、次のフロアへ向かう道が示されました。
どうやら巣に秘密があるようなのです。
ゴート二世
「うわ、またあそこ回るのか。
まあ、あいつニブいからいいけど」
ところで、このフロアには「危険な花びら」という敵が出ます。これがもう嫌らしくて嫌らしくて。
最初に倒すことにしているのでそれほど危ない目にあったことはありませんけど、やっぱりポイズンウーズなんかと一緒にこられるとどきっとします。
先へ進むと、割合すぐに下り階段が見つかりました。
降りたところは入り組んだ広い空間です。
ある程度まわって戻ると、実はあの道はもう一つあったのだとわかりました。
最初に選んだ道で正解だったようですが、やはりここは地図を埋める為にも不正解をまず歩いてみるべきでしょう。
ゴート二世
「もう地図間違えないでくれよな」
ルシオン
「間違えませんったら……」
さて、不正解ルートの最奥には宝箱の部屋とf.o.e.の部屋がありました。
その時点ではちょっと不安だったのでf.o.e.の部屋はまた出直すことにしてスルー。
準備を整えて、いよいよ正解ルートに入ります。

ルシオン
「おそらくここを進めば、さっきの隠し通路に出ると思うんです」
キリク
「そうでしょうけど、ちょっと距離がありますね」
それが、ちょっとどころではなかったんです。
いえ、本当はちょっとなのかもしれませんが、地図を描きながら一歩一歩確かめて進んでいると、もうこの迷宮を何日も彷徨っているような気分になるのです。
そうこうしているうち、バルロンドのTPもキリクのTPも、そしてラピスのTPも切れてしまいました。
ラピス
「これが最後のキュア。あとはメディカが二つくらいあるだけよ」
バルロンド
「次にあの花と遭遇しても焼き払うことはできないな」
キリク
「ブーストも使っちゃったからしばらく出ませんし」
ラチェスタ
「どうする。万全を期するなら帰るべきだが」
ルシオン
「……ですが、歩いていない範囲と階段の位置関係を考えると、あと少し歩いたら上の層に行けます。そこからなら隠し通路のほうに出られるんですよ」
バルロンド
「だが、距離から言ってあと三度は確実に戦闘があるだろう」
キリク
「f.o.e.さえいなければ何とかなるんじゃないかと思うんです。そんなに固い敵は多くないし」
ラピス
「でももし死んじゃったら今まで歩いてきたの全部が無駄になっちゃうわ」
ルシオン
「……進みましょう」
ラチェスタ
「それでいいのか。危険は大きいが」
ルシオン
「また戻って出直すことを考えると、ここから地図を描くのは諦めてまっすぐに階段を探して歩いて、泉に戻った方がいいと思います。もしものことがあったら、みんな、全力で逃げてください」
バルロンド
「よかろう」
キリク
「がんばります」

キリク
「というわけで、そのときは何とかぎりぎり無事に泉に戻れたんです」
ゴート二世
「へー、珍しく危なっかしいことしてたんだな」
キリク
「何より、地図を描かずに歩いたのが初めてでしたよ。
もちろんその直後に磁軸で記録して反対側から入って地図描きましたけどね」
ゴート二世
「ルシオンが地図描くの諦めたってのは初めて聞いたな」

016 汝強靭なりや?

無事地下十階への道は見つかりました。その頃、レベル三十を超えるメンバーが出始めたのです。
ゴート二世
「俺、休養をとろうと思ってんだ。本格的にボンデージ系に専念したくなってな」
チェ=パウ
「あ、それならねぇ、ちょうどいいイベントがあるんだよー」
ゴート二世
「地下八階でサバイバル? 
五日間ダンジョンで耐え抜いたあなたに豪華賞品……か。
休養明けのリハビリにはちょうどいいかもしんねーな」
ラピス
「私も休養をとって自分の道を見つめなおそうと思うの」
チェ=パウ
「あたしは最近ちょっとレベルが置いていかれ気味だから参加したいな」
バルロンド
「炎の術式を一から構築しなおしたいと思っていたところだ、参加させてもらおう」
ルビー
「あたしも最近体がなまっててねぇ。つき合わせてもらうよ」
ゴート二世
「これで五人か。ちょうどいいな。けどよ、この賞品のロリカハマタってなんか聞いたことがあるんだよな」
ラピス
「今私が着ているのがそれね。普通に売ってるわ」
ゴート二世
「……じゃあわざわざこんな企画に乗ることねーじゃん。普通にレベル上げツアーすりゃいいだろ」
チェ=パウ
「いーじゃない。いい機会だしさぁ、やっぱり参加することに意義があるっていうし」
ルビー
「しっかし、地下八階といえば確か、例の泉があるところだろう? 
あそこで五日って、サバイバルになンのかねぇ」
バルロンド
「三人も休養明けがいればそれなりに歯ごたえのあるものとなるだろう」
ラピス
「一日ってものすごーく長いのよね。普段でも丸一日入っていることってそうそうないわよ。大丈夫かしら」
チェ=パウ
「だいじょぶだいじょぶ。ついでに依頼品の弓なりの尾骨も集めちゃおうよ」


ルビー
「はっはー、燃えちまいなッ!(火の術式)」
バルロンド
「(大爆炎の術式)」
チェ=パウ
「やっぱりすごいねー、派手だねー」
ルビー
「材料の心配さえなければ撃ち放題だからね。
あのおっそろしい花、あたしのかじっただけの炎でも十分燃えてくれるから気分がいいや」
ラピス
「そろそろ半日。うーん、やっぱり結構長いわね」
ゴート二世
「別に五日間寝ないで戦えって言われてるわけでもねーし、適当に泉で休みながらやろうぜ」
チェ=パウ
「でもー、結構火食い鳥には遭うのに尾骨取れないね」
バルロンド
「弓で仕留めると傷つきにくい、と、聞いたことがある」
ゴート二世
「じゃあ俺ボンデージ使うのやめとくな。あれワンテンポ遅くなるし、攻撃力が高すぎるみたいだ」
ルビー
「あたしらは炎でも撃っておくかね。運が良ければ宝石が手に入るかもしれないし」

ラピス
「さすがに二日目ともなると、荷物袋がいっぱいねぇ」
ゴート二世
「そろそろ要らねーのは捨てるか。まず粘液なんか今までに腐るほど拾ったから要らねーし、香木も要らねー。ツルもよく拾うから要らねーな」
チェ=パウ
「うわー、一日経った粘液が束になると臭いね~。泉の近くで捨てるのやめようよ」
ルビー
「このぐちゃぐちゃなのがより集まってまたモンスターになるのかも知れないねぇ」
チェ=パウ
「紫の尾針と一緒に捨てたらポイズンウーズが生まれたりするかな?」
バルロンド
「ふむ……可能性はあるな。噂に聞く濃紫の尾針ならばレベルが……」
ゴート二世
「おいそこ、そんな厄介なもの作ろうとするな。
つかバルロンド、お前目がマジで怖い」
バルロンド
「……? ただの冗談だが」
ゴート二世
「ほんとかよ。なら真顔でギャグ飛ばすのやめろよ。反応に困るから」
ラピス
「姉さん、その紫の尾針浸した粘液どうするつもり?」
ルビー
「んー? 新しい毒の調合に使えないかと思ってね」
ラピス
「それビンに入れて蓋閉めるまで近づかないで」
ルビー
「おやおや、ひどい言われようだね」
ラピス
「何だか微妙に体力削られてるような気がするんだもの」

ゴート二世
「これで三日か。いい加減俺も他の連中に追いついてきたな。これなら休養分マイナスにはならないな」
チェ=パウ
「尾骨も五本たまったよー。手に入りやすいのはどんどん捨ててるのに、荷物が増えるねー。
これ全部売ったら何作ってくれるかなあ。新しい弓とか楽器とかできないかな」
ラピス
「でも、そろそろ同じところを歩くのにも飽きてきたわね」
ルビー
「なら、ワイバーンの巣にでも行ってあいつのお尻についてぐるぐる回ったらどうだい? きっと緊張感が出るよ」
ラピス
「冗談!」
ゴート二世
「せめて五日間街へ戻ってくるな、とか、三日間篭れって企画なら良かったんだけどなー」
バルロンド
「現実的にも時間がかかるし、スリープ状態だとカートリッジが飛び出る危険性があるからな」
ラピス
「……何の話?」

チェ=パウ
「はーい、みんな、ご飯の時間でーっす」
ゴート二世
「保存食四袋目終わり……ってことは、四日目か。光もささないから日数もよく解らなくなってくるな」
ルビー
「そういえばここ、世界樹の幹近くにある、んだっけ。
ここがこんなにモンスターだらけだったりするのは、世界樹と関係があるのかねえ?」
バルロンド
「興味深い話だな。世界樹にモンスターが集うのか、世界樹がモンスターを呼んでいるのか、いや、むしろ世界樹がモンスターを生み出すのか……。ここの生態系は非常に面白い」

ゴート二世
「ここでの最後の夜か。長いようで短いようで、やっぱ長かったな」
チェ=パウ
「ねえ、みんな。そういえばみんなはどうして世界樹の迷宮に来たの? 
あたしはねぇ、世界樹の迷宮に挑んでいる人たちがいるっていうから見に来たんだけど、シェルナギルドのみんな見てると楽しそうだったから参加しちゃった」
ラピス
「私は、人の役に立ちたくて……」
ルビー
「あたしは、ラピスに呼ばれたからね。あとは特に目的もないから、とりあえず、だね。毒の材料や実験台にはこと欠かないし」
バルロンド
「この迷宮には、知られざるものが多く存在している。俺は世界の謎を解きたい」
ゴート二世
「俺は、ギリギリで戦っていると生きてるって感じがするからだ」
チェ=パウ
「なーんだ、なんか、樹海に消えた恋人を追うとか、何か啓示を受けてとか、そういうお話になりそうな動機ってないの?」
ゴート二世
「ネタ探しかよ。そんなの俺らじゃなくてもっと勇者っぽいうさんくさいオーラまとった奴に訊けよ」
チェ=パウ
「そんなのわかんないよー」
ラピス
「そうねぇ……ルシオンは普通に地図を作るためなら新しいところへ入って行きそうだし、キリクは多分修行のためとかじゃない?」
ゴート二世
「ラチェスタはよくわかんねーな。訊くならそのへんじゃね? ケインは学校の卒業試験とかじゃねーの? 
けど、多分、ドラマチックな理由でここ来てる奴がいても、そう簡単には教えてくれないと思うけどな」
チェ=パウ
「そっかー」

ゴート二世
「おっと、なんだかんだ話してるうちに朝になっちまった」
ラピス
「結局最終日は話してるだけだったわね」
バルロンド
「リアル時間が就寝時間をオーバーしてしまったのでやむをえん」
チェ=パウ
「とにかく、早く帰ろうよー。ベッドとおいしい食事が恋しいよー」

017 水晶の扉

チェ=パウ
「ねえねえねえねえねえ聞いてー! びっくりしちゃった!」
ルビー
「なんだい、騒々しい」
チェ=パウ
「ちょっと水汲みに地下一階にケインくんと二人で入ったらねー、ちょっと見たことのない道をみっけちゃったの。それで入ってみたの。そしたらねーっ」
ケイン
「オレは止めたんだ。けどこのバカが先に入ったんで仕方なく追いかけて……そうしたら来た道がわからなくなって戻れなくなってさ。
でも、地下一階なら二人でも多分何とかなるだろうと思って進んだんだよ。糸もったいなかったし」
チェ=パウ
「びっくりなの! ウーズが出たの、ウーズが!」
ケイン
「な! あれは絶対ウーズだよな! 地下六階とかのやつ!」
チェ=パウ
「ケインくんが慌ててたから、あたしが……あ、ごめん、これ秘密だっけ。
とにかく、なんとかやっつけて糸使って帰ってきたの」
ケイン
「と、とにかく、街の近くにもあんな危険な領域があることは、報告しておいたほうがいいと思って」


ルシオン
「地下一階にこんなところがあるなんて、驚きですね。何度も通っていたのに」
ゴート二世
「けど、別にめぼしいアイテムもないし、無駄足だったな」
バルロンド
「おそらく、入れるようになってすぐならば有益だったのだろう」
ケイン
「ふ、ふん、だから言ったんだ、こんな所に来ても無駄だって」
チェ=パウ
「あ、あそこ通れそうだよ。ここから帰れると思うよ。良かったね、ケインくん」
ケイン
「……うるさい」

ルシオン
「そういえば、地下五階のクリスタルの扉がまだでしたよね」
ゴート二世
「あー、あったな、そんなの。いいよ、今更」
ルシオン
「いいえッ! この迷宮における謎全てを解明せずして真の冒険者と言えましょうかッ! 
先ほどの未知の道のように、我々が知らねばならないところはまだまだあるのです!」
ゴート二世
「めんどくせー」
ルシオン
「あの扉の向こうにはまだ見ぬ強敵が潜んでいるかもしれませんよ」
ゴート二世
「ねーよ。せいぜいお宝がいくつかあって終わりだろ? タルい戦いはパスだパス。
ンなことよりとっとと地下十階に降りようぜ」
ルシオン
「そうですか。ではあなたにはもう頼みません。
ああ、ちょうど良いところに。キリク、ちょっとお話が……」
キリク
「僕は今から施薬院に行くところなんですけど……」
ルシオン
「では、私も施薬院に用事ができたので、そちらへの道行き、少々お話を」
キリク
「? ええ、いいですよ」
ゴート二世
「あ~あ、捕まってやんの」

ルシオン
「地下五階というと、スノードリフトがいた所ですね」
ラピス
「うーん、この構造なら、入ってすぐ宝箱ってことはないかしら?」
バルロンド
「ふむ。もしかするとかなり歩かされることになるかも知れんな」
キリク
「周囲ぐるっと領域が開いてますもんね」
チェ=パウ
「何かいいものあるかなぁ」
バルロンド
「おそらく、時期から言って期待できないだろうとは思うが、な」
ルシオン
「いいじゃないですか。さあ、鍵開けますよー」
キリク
「嬉しそうですね……」

キリク
「こ、これだけ歩かされて、f.o.e.とも戦って宝箱一個ですか。ある意味罠ですね」
ラピス
「こんなこともあるわよ。さあ、帰りましょ」
ルシオン
「あ、ちょっと待ってくださいね。ちゃんと足で歩いて地図を埋めますから」
キリク
「別にかまいませんけど、ここにはf.o.e.もいないし、別に歩く必要は……」
ルシオン
「……あっ」
チェ=パウ
「あ」
バルロンド
「隠し通路か」
ルシオン
「ほら、足で稼ぐって大事なんですから。さあさあ、進みましょう!」
キリク
「本当に嬉しそうですね……」

チェ=パウ
「みんなみんな、上り階段があるよ」
キリク
「これは……先長そうだなあ」
ルシオン
「別のルートから入れる四階……これは『裏ルート』ってやつですね!」
ラピス
「うーん、下手すると一階までのぼっていっちゃったりするのかしら?」
ルシオン
「それは嬉し……いえ、大変な道ですね。さあ、皆さん先へ進みましょう!」
キリク
「本当に心底嬉しそうですね……」

チェ=パウ
「あ、また登りだ」
キリク
「ま……まだあるの?」
ラピス
「うーん、正直、ちょっと飽きたわね。もう少し早い時期に来れば、緊張感があってよかったんでしょうけど」
バルロンド
「次に出直すときは俺は抜ける。ここに世界樹の秘密が隠されているとは思えん」
ルシオン
「まだ半分しか来ていないのよ。もうすこし頑張りましょう、皆さん」
キリク
「元気だなあ、先輩……どうしてそんなに地図描くの好きなんですか?」
ルシオン
「自分が辿った道を記録するっていうのは、役に立つ立たないは別として、それだけでロマンなのよ」
キリク
「ロマン、ですか」
ルシオン
「そうね、日記みたいなものかしら。
自分の歩いた道を地図に書き記す。それはつまり、私がそこを歩いてきたという、証明。
これはここに来てからの人生そのものなの。私だけじゃない、一緒に歩いたみんなのね」
キリク
「そんなもんですかね?」
チェ=パウ
「ルシオンって、なんかちっちゃいものを順番に潰してく作業とか好きそう」
一同
「なるほど」
ルシオン
「え? どうして? みんな何納得してるんですか?」


キリク
「ふー、ここが最後の部屋……わ、またf.o.e.だ」
ルシオン
「f.o.e.だけ? 階段はないんですか?」
チェ=パウ
「ないみたい」
ルビー
「やれやれ、ここで終わりかい。さっさと片付けちまおう」

ルシオン
「うーん、絶対地下一階まで続いていると思ったのに……」
キリク
「世界樹の領域は全部埋まっていますから、これより上に続く道はないと考えていいでしょうね」
チェ=パウ
「お宝っていうお宝もなかった気がするぅ」
ルビー
「無駄足、か」
ルシオン
「無駄? 違います。人の歩く道は、無駄とかそうじゃないなんて、簡単に決め付けられません」
ラピス
「んー、もう何でもいいから帰りましょ。さすがにくたびれたわ」
キリク
「そうですね。糸を……」
ルシオン
「……ここに入るには一方通行の道を通ねばなりませんでした。
つまり、このフロアが最後なら、表へ抜けるための道があるはずです。それを捜しましょう」
チェ=パウ
「まだ歩くの……?」
キリク
「やっぱりただ地図埋めるのが好きなだけなんですね、先輩……」

018 地下十階

ルシオン
「じゃ、十階の地図を描きに行きましょうか」
ゴート二世
「目的は森の王退治だろ、ったく」
チェ=パウ
「このフロアって小部屋が多いね」
ゴート二世
「ああ、小部屋だらけだな。f.o.e.が多いかと思えばそうでもないな」
チェ=パウ
「扉開けたらゴッツンコって、怖いもんね」

キリク
「おかえりなさい、皆さん」
チェ=パウ
「ただいま~」
ルシオン
「森の王の部屋、見つけましたよ」
ゴート二世
「ショートカットもな。次はいよいよ挑戦だ」
ラチェスタ
「噂によると、森の王はかなり手強い相手のようだぞ」
ルシオン
「メンバー、どうしましょうか。とりあえず私とラピスは決定として……セカンドも来てくれますか?」
ゴート二世
「ッしゃ!」
ルシオン
「いつもなら、あとはバルロンドかルビーとラチェスタなんですけど……今回は少し考え方を変えようと思います。
キリク、動けますか?」
キリク
「えっ? ええ、勿論大丈夫です」
ルシオン
「それから、チェ=パウ」
チェ=パウ
「は~い、がんばりまーす。
ってことはぁ、属性攻撃でガンガンいこうぜ作戦?」
ルシオン
「ええ。守りは必要ですが、私は守りに手いっぱいで攻撃できません。
皆さん、よろしくお願いします」
ゴート二世
「鞭が鳴るぜー」
キリク
「前衛三人なんて久々ですね」
ラピス
「リフレッシュの薬品調合比率を変えてみたの。どんな状態異常が来ても大丈夫よ」
チェ=パウ
「じゃ、いってみよ~!」


キリク
「こ、こいつが森の王!」
ゴート二世
「まだ気づいてねぇ、先制攻撃できるぜ」
ルシオン
「まずは防御を固めて、一気に攻撃を」
ゴート二世
「あいつ、デカい角だから縛るなら頭なんかな……」

キリク
「ッ! ……あれ、ぜんぜん痛くない」
ゴート二世
「は、こんな攻撃程度で森の王たぁ笑わせるぜ!」
ルシオン
「私とラピスの防御行動が効いてるんですからねっ」
キリク
「それを差し引いてもほんとうにカスリ傷ですよ」
チェ=パウ
「うーん、属性は何つけたらいいのかな。よくわかんないから雷の歌~♪」
ゴート二世
「おい、チェ=パウ。俺たちはいいからルシオンに歌ってやれ。
ルシオン、お前防御はいいから参加しろよ。こいつ大したことねーぞ」
ラピス
「あっ、敵が増えたわ!」
キリク
「回復役か。あっちは僕が!」
ゴート二世
「おし、意味あるかわかんねーけど頭縛れたぞ。次は腕だ。防御アップなんかやってもその上から叩き潰してやらぁ!」
チェ=パウ
「わあ、すっごい力技」

ルシオン
「本当に倒せちゃいましたね」
ゴート二世
「俺たち、強くなりすぎたんじゃねーの?」
ラピス
「そんなことはないと思うわよ」
キリク
「運が良かっただけかもしれません」
ゴート二世
「よっしゃ、がんがん進もうぜ! もっと手ごたえのあるヤツいねーかな」

019 熊と戦士

地下十一階におりる頃、様々な依頼が酒場に来ていました。
そのひとつに、一人で地下六階の熊を退治してくるように、というものがあったんです。
チェ=パウ
「一人で熊退治、かー。こんな依頼が執政院からくるの?」
ルビー
「試練だなんていうけど、個々の力の大きさは大して関係ない気がするけどねぇ。
頭の悪い力自慢みたいじゃないか」
ルシオン
「でも、これをやり遂げれば認められるわけですよね。そうしたら、今までみたいに変なところで足止めされたりすることもなくなるんじゃないでしょうか」
ケイン
「モノは言いようだね。で、誰が行くんだ。もちろんオレはパスだからね。こんな馬鹿馬鹿しいことに関わっていられないんだ」
ゴート二世
「だれもお前に行けとは言わないから安心しな」
ケイン
「むっ。今オレを馬鹿にしただろう」
ルビー
「ムキになるんじゃないよ、ボウヤ。単にそういう仕事には向いていないってだけだろう? 
そういう意味ではあたしらは不向きだね。攻撃力は不足なくても、あんなデカい手で張り倒された日にゃ二目と見られないご面相になっちまうからね」
バルロンド
「同感だ」
ラピス
「結局行けるのはルシオンかゴートさんかキリクね」
ゴート二世
「まあ、そうなるな。ルシオンには完璧な防御力がある、俺にはボンデージ、キリクは安定した火力」
ルシオン
「私は、キリクがいいと思います」
キリク
「えぇっ!? ぼ、僕ひとりで行くんですか?」
ゴート二世
「だな、この三人の中じゃお前が適任だろ」
キリク
「そんな、僕は殴るしか能がないし、先輩ほどの防御力もテクニックもないし……」
ルシオン
「ねえ、皆さんはどう思います?」
ラピス
「大丈夫でしょ」
チェ=パウ
「らくしょ~だよ」
ラチェスタ
「テラーにさえやられなければ、そうそう負けはしないだろう」
バルロンド
「そもそも普段から人の助けを借りていることもないだろう。いつもと変わらん」
ゴート二世
「な。まあ、熊パンチはちょっとばかし痛ぇかもしれねーけど、それが痛すぎるようなら逃げて来いって」
キリク
「ひ、人事だと思って~」

キリク
「(執政院の依頼でもらったバルディッシュ、すぐに役に立ちそうだな……
薬は、買い足さなくても平気かな。
……よし、行くぞっ)」
扉を開ける。
キリク
「(ずいぶん静かだな。それに寒い……そうか、いつもはみんながいるからだ。
動物の鳴き声が良く聞こえる。それに、道がものすごく広い)」
キリク
「(……いた! 他のヤツはまだしばらくは大丈夫そうだな……)
来い、森の破壊者!」
接敵
キリク
「(こいつの攻撃にどれだけ耐えられるか……ストナードⅡで守備をあげておこう)」
森の破壊者の攻撃
キリク
「……攻撃が軽い。かすり傷だ。これなら、いける!」
森の破壊者の咆哮
キリク
「! (怖い! ここから逃げ出したい! 
くそ、僕は強くなった、あの時とは違うんだ!)」
ほとんどキリクを傷つけられない熊の爪、恐怖におののきながらも斧を振るい続けるキリク。しばらくのち、森の破壊者は地に伏した。
キリク
「やった、勝ったぞ! 僕は、一人で勝ったんだ! 僕はもう、無力じゃない!
キリク
「……そんなことを証明するために、僕は……
こいつだって、ただここで生きているだけで、襲ってきたわけじゃないのに……」

キリク
「……せめて、この皮を持って帰ろう。
僕が熊を倒したって証明になるし……」

チェ=パウ
「あ、おかえりー! それ熊の毛皮? わー、おめでとーっ!」
ラピス
「怪我は? 大したことないわね。良かった」
ゴート二世
「やったな! どうだ、大丈夫だったろ? お前は俺たちの中で個としては最強なんだから、もっと自信を持てって!」
ルビー
「今晩は祝杯あげるからね」
ルシオン
「ほら、あなたは強いんですよ。自信がついたでしょう?」
キリク
「ありがとう。
……でも、力試しのための無益な戦いは、もうしたくない。僕は別に戦うのが好きなわけじゃないんだ。
酒場に報告に行ってくるよ」

一同
「……」
ルシオン
「な、何かあったんでしょうか」
ゴート二世
「真面目なヤツだからなー。なんか受信しちまったのかな」