世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第六階層 5


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第六階層のネタバレ文章です。

098 宿

初期
ルシオン
「み、皆さん、生きてます?」
ラピス
「何とか……」
バルロンド
「ああ……」
ラチェスタ
「おい、セカンド? ……意識がない」
ラピス
「ええっ!? やだ、きゃ~! 大変!」
ルシオン
「ラピス、落ち着いて。包帯で首絞めちゃってますよ。
早く帰りましょう」
バルロンド
「ふむ、今日の探索時間は二時間か。新記録だな」

ゴート二世
「ふー、死ぬかと思ったぜ」
ラピス
「ほとんど死んでたわよ。大丈夫?」
ゴート二世
「まだ少しだりぃ」
ルシオン
「今日はこれで探索は終わりにしましょう。皆さん、ゆっくり休んでください」
ラピス
「ルシオン、素材の売却に行くでしょ。付き合うわ」
ゴート二世
「俺は寝る~」
バルロンド
「では執政院へ行ってくる」

ルビー
「あれ、ラピスじゃないか。どうしたんだい、こんな所で。
まさか探索さぼってるんじゃないだろうね?」
ラピス
「違うわよ。今日はもう終わり。自由行動中よ」
ルビー
「それはまた、随分と短時間だねえ。
冒険じゃなくて花摘みにでも行ってるのかい?」
ラピス
「そんな事言うけどねー。一時間歩くのだって大変なのよ、あそこ。
野生動物がどれもこれも凶暴だし、バルロンドの触媒も私の薬もすぐきれちゃうし……」
ルビー
「ふーん、面白そうだねえ。今度紹介しておくれよ」
ラピス
「姉さんって、変」

ゴート二世
「うー、寝すぎで頭痛ぇ~。今何時だ?」
バルロンド
「八時」
ゴート二世
「夜のか? あー、しまったなあ。変な時間に起きちまった。明日ちゃんと起きられっかなあ。
とりあえず飲むか」

中期
チェ=パウ
「やっと帰れたぁ~」
キリク
「うわ……夜中過ぎてる。眠いわけだ……」
ルシオン
「急いで宿屋に行きましょう。今からなら少しだけなら寝る時間くらい……
ラチェスタ? もしかして寝てる?」
ラチェスタ
「…………」
ラピス
「りふれっしゅ~」

ルシオン
「今日は男性一人だけなので、一部屋で寝ます。悪いけど、あなたはそっちのカーテンの陰で寝てください」
キリク
「えーっ」
チェ=パウ
「のぞいちゃ駄目だよ~」
キリク
「のぞかないよ!(ヘタにのぞいたらリンチじゃないか!)」
ルシオン
「お金も時間もありません。皆さん、一時間できっちり疲れをとること。眠れなくても、目を閉じていれば体は休まります。いいですね」
ラピス
「薬の補給と整理が終わらないと眠れないわよぅ」
ラチェスタ
「…………」
ルシオン
「ラチェスタ~? どこでも眠れるのは優秀な冒険者の証拠ですけど、立ったまま寝るのは怖いからやめてくださ~い」
キリク
「やれやれ……こんな状況でリラックスしろとか……
あの、僕は外で……」
ルシオン
「駄目です。五人分お金は払ってありますから、その分はきっちり部屋使ってください」
チェ=パウ
「そうだよ~。眠れないなら子守唄歌ってあげる~」
キリク
「要らないよ! とりあえず毛布一枚。頭からかぶってじっとしてるから、一時間僕は存在しないと思ってよ」
チェ=パウ
「え~っ、つまんない」
キリク
「だから、寝ろよ!」
ラピス
「今日は徹夜ね……ふぅ」

ゴート二世
「その状況で本当に一時間普通に寝てたのか。勿体無いことをするなー」
キリク
「余計なことをして次の日ふらふらの状態で樹海に行くなんて危険は冒せないよ」
ゴート二世
「さすがだなー。信用されてんだよ」
キリク
「そう言えば聞こえはいいけど、要するに男として見られていないだけじゃないか。
まあ、僕は姉さんや妹と一緒にいたから、ああいう状況には慣れてるけどさ……」
ケイン
「女兄弟いんの? うわー、羨ましい奴」
キリク
「あのね、ケイン。女兄弟に夢をもつのは勝手だけど、君が考えているようないいものじゃないと思うよ……」
ゴート二世
「にしても、どうして朝五時出発なんだ? そんな時くらい出発遅らせてもいいじゃねーか」
ケイン
「チェックアウトが五時ってのは絶対動かないらしい」
ゴート二世
「そのくせ、朝から部屋とろうが夜少し休憩だろうが値段変わんねーんだよな。
どうなってんだ、あそこは」

後期(というか末期)
ルシオン
「皆さん、それでは本日の探索を切り上げます」
ゴート二世
「やっとかー」
ラピス
「さすがに疲れたわ~」
ルビー
「ふう、それじゃ、帰還の術式を使うよ」
ルシオン
「あ、ちょっと待ってください。ここからなら歩いたほうが近いです」
ゴート二世
「何に?」
ルシオン
「癒しの泉ですよ。当然じゃないですか」
ラチェスタ
「…………」
ゴート二世
「…………」
ラピス
「…………」
ルビー
「……ねえ。また睡眠無しで探索継続かい?」
ルシオン
「泉の水を飲めば睡魔も去るんだから、いいじゃないですか」
ゴート二世
「そーゆー問題じゃねえ」
ラピス
「そうよ! 眠らなくても平気って、つまりは頭が麻痺してるだけじゃないの?」
ルシオン
「……では、お尋ねしますが。現時点での財布の中身はいくらです?」
ゴート二世
「……八百くらいか?」
ルシオン
「現時点での宿代は?」
ラピス
「四百と少し。……でも、これなら宿代出るじゃない!」
ルシオン
「シャラップ! 更に、先日武器屋さんに並んだ新しい武器と防具、合計いくらですか?」
ラチェスタ
「総額30万超、といったところだ」
ルシオン
「少しの支出も絞らずに買えるとお思いですかっ! 
セカンド、あなたも女王の鞭が欲しいと言っていませんでしたか?」
ゴート二世
「……わぁったよ、しょうがねぇなぁ……」

ラピス
「最近ルシオンが妙なテンションなのは、寝ていないせいだと思うの……」
ラチェスタ
「……眠い……」

099 戦士の休息

チェ=パウ
「今日は、シェルナギルドのみんなが、休暇中に何をしているのかに迫りたいと思いまーす。レポートはこのあたし、チェ=パウと……」
ゴート二世
「なんで俺がこんな事に付き合わなきゃならないんだ……」
チェ=パウ
「でも、気になるじゃない?」
ゴート二世
「まぁな」
チェ=パウ
「じゃあ、いってみよーっ」

チェ=パウ
「まずはルシオンね。あれ、もう部屋にいない」
ゴート二世
「ある程度ならわかるな。休日でも朝四時に起床、まずは祈りを捧げてから朝の鍛錬。朝飯を食ったら町に出て情報収集」
チェ=パウ
「……いつもとかわんないじゃない」
ゴート二世
「そうなんだよなー。今なら執政院にいるんじゃねーか?」
チェ=パウ
「何しに?」
ゴート二世
「色々調べに」
チェ=パウ
「つ、つまんない……」
ルシオン
「あなた方、ここは騒がしくしていいところではありませんよ……あら? セカンドまで。何か用ですか?」
チェ=パウ
「ねえルシオン、何調べてるの?」
ルシオン
「そうですねえ、高額で売れる素材のこととか、f.o.e.からとれる特殊な素材のこととか、節約になるスキルの使い方とか……」
ゴート二世
「涙ぐましいな……」
ルシオン
「お金が入れば、質のいい武器や防具が購入できます。そのことが皆の命を守るわけですから」
チェ=パウ
「ルシオンってさあ、休日の楽しみとかないの?」
ルシオン
「楽しみですか……ここに来て、新たに書き込まれた項目を見たり、お店で新しく並んだ商品などを見ているとうっとりしてしまいますね。また探索を頑張ろうって気分になれます」
ゴート二世
「……お前ってさ、本当に空欄埋めるの好きだよな……」

チェ=パウ
「次は、ラチェスター」
ゴート二世
「あいつなら森だろう」
チェ=パウ
「ひとりで樹海!?」
ゴート二世
「いや、森。よく矢を作ってたりするのを見かけるぜ」
チェ=パウ
「……あっ、いたいた。……狩りしてるの?」
ゴート二世
「みたいだな。
樹海で食ってる保存食の干し肉は、ラチェスタの担当なんだぜ」
チェ=パウ
「へーっ、そうなんだ?」
ラチェスタ
「こんな所で何をしている?」
チェ=パウ
「みんなの休暇中の行動アンケート~」
ラチェスタ
「とにかく風上に立つな。獲物が近寄らん」
チェ=パウ
「ごめんね。……じゃあ、保存食の調理なんかもやってるんだ? あれってシリカ商店で売ってるお弁当かと思ってた」
ラチェスタ
「ルシオンが経費節減経費節減と五月蝿いのでな……
ところで、昨日の肉の味はどうだった?」
チェ=パウ
「おいしかったよ」
ゴート二世
「あれ、鹿肉だろ? そのわりに臭みはなかったぜ。さすがだな」
ラチェスタ
「ふむ。ならばよし(B2Fのf.o.e.鹿は食肉可能……と)」
チェ=パウ
「どうかしたの?」
ラチェスタ
「私も、自分の料理に対する反応を聞きたくなることはあるのだ」
ゴート二世
「へー、意外に可愛いこと言うじゃねーか」
ラチェスタ
「(次は牛肉に挑戦してみるか……)」

チェ=パウ
「次はバルロンドね」
ゴート二世
「そういやあいつ、この近くに家があるんだよな」
チェ=パウ
「あ、そうなの?」
ゴート二世
「ああ。休日はヨメさんと一緒にいるんじゃねえか?」
チェ=パウ
「ヨメ……? え、うっそ、奥さんいるの?」
ゴート二世
「ああ。……知らなかった?」
チェ=パウ
「うん、ぜっんぜん。えーっ、結婚してるんだー。へぇ~」
ゴート二世
「そうか。今更宣伝することじゃないしなぁ。
あいつは自分から言うような奴でもないし」
チェ=パウ
「知らない人のほうが多いんじゃない? 
それにしても、バルロンドの奥さんかぁ……どんな人なんだろ?」

チェ=パウ
「広場でぼーっと立っているバルロンドをはっけーん。早速突撃しまーす」
バルロンド
「何だ。用か?」
チェ=パウ
「ねえ、奥さんってどんな人?」
バルロンド
「……セカンド……」
ゴート二世
「やっぱ、まずかった?」
チェ=パウ
「えーっ、なんでなんでなんでー! 紹介してよー」
バルロンド
「俺もコレットも騒がれるのが嫌いなのでな」
チェ=パウ
「コレットさんっていうんだ? 今はどこ?」
バルロンド
「買い物に行っている。もう帰ってくれないか。俺は忙しいのだが」
チェ=パウ
「つ、冷たい。仲間にその扱いは酷いと思うよ。それにただ立ってるだけじゃない」
バルロンド
「何もせずに待つことも大切な役割。その程度のことも知らんのか? 仮にも後衛だろう」
チェ=パウ
「あ、そうだね。うん。ごめん」
ゴート二世
「さ、邪魔になるから行こうか」

チェ=パウ
「ものすごく誤魔化されたような気がする」
ゴート二世
「(気がする、んじゃなくて実際に誤魔化されたんだけどな)」
チェ=パウ
「……あっ、奥さん見そこねちゃったじゃない! 
あーっ、もういない! もうっ! 
バルロンドー? バルロンドってばぁ!」

「あら、ゴートさん。うちの人見ませんでした?」
ゴート二世
「バルロンドならあっちにいたよ」
「ありがとう。
かわいいお連れさんね。あなた、好みが変わったの?」
ゴート二世
「まあね。見つかると五月蝿いから早く行ってくれ」

チェ=パウ
「あれ? 今のきれいな人誰?」
ゴート二世
「道を訊かれたんだ」
チェ=パウ
「ふーん」
ゴート二世
「次は施薬院だな」
チェ=パウ
「どして?」

ゴート二世
「よう、ラピス」
ラピス
「あら? どうしたの? 怪我でもした?」
チェ=パウ
「ラピスって、施薬院でアルバイトしてたの?」
ラピス
「ええ。姉さんも一緒にね」
チェ=パウ
「えっ……」
ゴート二世
「不思議なことじゃねえよ。ルビーはもとメディックだぜ」
チェ=パウ
「でも、今は毒使いでしょ?」
ルビー
「なんだい? おや、珍しい組み合わせだね。どうしたんだい?」
チェ=パウ
「……うわー」
ルビー
「なんだい?」
チェ=パウ
「白衣似合わない」
ルビー
「悪かったね」
ラピス
「ここで働いていれば、色々な技術が学べるのよ。
もう少しで神の手が私のものに……もう少しで手が届く……」
ゴート二世
「あー、それゲーム違うから」

ゴート二世
「次はキリクか」
チェ=パウ
「意外と休みの日は弾けてるかも知れないねー。
彼女とデートしてたりさっ」
ゴート二世
「少し前まではよくジンライと試合してるのを見かけたな」
チェ=パウ
「それってもう予想の範囲内過ぎて面白くないー」
ジンライ
「何だ、お前ら。ヒマなことやってるな」
チェ=パウ
「あれ、ジンライ。出かけるの?」
ジンライ
「ちょっとそこまでな。いい酒飲ませてくれる店があるんだぜ」
チェ=パウ
「昼間からお酒ぇ? 駄目大人だぁ~」
ジンライ
「いいじゃねえか、別に」
チェ=パウ
「キリク知らない?」
ジンライ
「墓参りに行くからって朝から馬飛ばしていったぜ」
チェ=パウ
「……二人ともあまりにも普通すぎて面白くなーい」
ジンライ
「おいおい……また歌のネタ探しか?」
チェ=パウ
「ううん、単なる興味。じゃあ、ケインくん探しにいこ」

ゴート二世
「例の場所か?」
ジンライ
「ああ、ちょいと展望台に行ってくる」
ゴート二世
「お前の骨を拾う気はねーからな」
ジンライ
「磁軸からは離れんさ。俺だってそこまで迂闊なつもりはねぇよ」

ケイン
「で、お前らはオレの邪魔をしに来たわけか?」
チェ=パウ
「邪魔じゃないよ~。様子を見に来ただけ」
ケイン
「それが邪魔だってんだ! 出てけ!」
チェ=パウ
「試験なんて受けなきゃならないんだー。大変だねえ、ケイン君は」
ケイン
「おい、セカンド。これは嫌がらせか?」
ゴート二世
「そういう積もりはねーよ。お前も大変だな。俺から見りゃあガキのくせに十分すげえと思うけど、まだ勉強することがあるのか?」
ケイン
「ふん。オレは確かにガキだよ。だから今のうちに色々学んでおくんだ。
いつ何が役に立つかわかんねーからな。知識ってのはどれだけ持ってても邪魔になるもんじゃない」
チェ=パウ
「でも、実戦経験のほうがずーっと役に立つよね?」
ケイン
「それは学ばない者の言い訳だぜ。
確かにそうだけど、だからって知識が不要ってワケじゃねー」
ゴート二世
「うん、お前にしちゃもっともな事言ってるな。
じゃあ次は思考の柔軟性と知識の的確な運用だな」
ケイン
「るせーな。わかってるよ。だから考え方を広げるためにも勉強してんだ、邪魔すんなよ」

チェ=パウ
「ちょっと意外ー。ただの頭の固い当たって砕ける子じゃないんだね、ケインくんて」
ゴート二世
「ひでぇ……」
チェ=パウ
「最後はユディトだね。でも、普段どこにいるのかな」
ゴート二世
「さあ?」
ユディト
「ずっとおりましたわ、あなた方の背後に」
ゴート二世
「おわ!?」
チェ=パウ
「な、な、なんでっ!? いつから!?」
ユディト
「私も皆さんの普段の姿に興味がありますもの」
チェ=パウ
「まあいいや。ユディトはいつもはどうしてるの?」
ユディト
「そうですね、ダンスに読書、乗馬に茶会……それほど変わったことはしておりませんわ」
ゴート二世
「ダンスに読書……?」
チェ=パウ
「乗馬に茶か……えっ、ちょ、ちょっと待って? 
ユディトってひょっとして普段はそういう格好じゃないの?」
ユディト
「まあ、おかしな事をおっしゃいますのね。あなた方は休日にまで鎧をまとい剣を帯びますの?」
ゴート二世
「い、いや、そりゃそうだけどな。そうかー、お前が普通の服……」
チェ=パウ
「なんか想像できない」
ユディト
「そうですか? チェ=パウ、あなた休日の夜は広場で歌っていますよね?」
チェ=パウ
「うん」
ユディト
「私、毎回最前列で聴いていますのよ? もしかして気づいていませんでしたの?」
チェ=パウ
「…………えぇっ、えーっ、えっ、あの可愛い女の子、ユディトだったのーっ!?」
ユディト
「……あら、本当に気づいていませんでしたの? 少々ショックですわ」
ゴート二世
「どんなギャップなんだ……」
ユディト
「ところでセカンドは普段何をしていらっしゃいますの?」
ゴート二世
「それは……秘密だ」
チェ=パウ
「えーっ、ずるいずるいー」
ゴート二世
「大したことじゃねえさ。一日中寝て、起きたら酒飲んでるだけだ」
チェ=パウ
「駄目大人その2だ~……って、それホント?」
ゴート二世
「お前は俺の言葉を信じてもいいし、信じなくてもいい」
ユディト
「もしかして、それがオチですの……?」