世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第六階層のネタバレ文章です。

067 嗚呼、ラッチは今いずこ 1

ゴート二世
「ペット探しぃ? そんなの俺たちの仕事じゃねえだろ」
ラチェスタ
「依頼人は宿屋のフロアマネージャー。ペットの鼠は世界樹の迷宮で散歩中に行方不明になったそうだ」
ケイン
「おいおい、そんなのもうとっくにモンスターに食われちゃってるに決まってるだろ」
チェ=パウ
「そうじゃなくても野生化するか、それができなかったらご飯食べられなくて死んじゃってそう」
ジンライ
「大体、あんなだだっ広い迷宮で一匹の鼠を探せって、考えるまでもなく面倒とかそういう次元突破してるな」
キリク
「犬笛みたいに呼ぶようなものでもあれば少しはマシかな?」
ルシオン
「ええ、一応ですが、好物だという手作りチーズをいただいてきました……あら? ない?」
ゴート二世
「ああ、これか? 美味いぜ。鼠のエサには勿体ねーな」
バルロンド
「うむ、なかなかのものだ。小さいのが残念だな」
ルシオン
「何やってるんですかっ! 返してください!」
ルビー
「やれやれ、こんなのじゃあ決め手にならないね。迷宮には腹ペコ男よりもっと貪欲なモンスターがひしめいているんだよ。チーズに釣られて来る生き物なんてそれこそ絞りきれないじゃないか」
ルシオン
「そうなんですけどね……」
ラピス
「あくまで探索のついでに探してあげましょうよ」
ゴート二世
「ま、それでもし運よく見つかりゃ宿代安くしてくれるかもしんねーしな。
……そういや、報酬は何だ?」
ルシオン
「その……ええと、チーズはいくらでもいただけるそうなので、食べ放題です」
ゴート二世
「ああ、そうか。けどそれ、あくまでも必要経費扱いだろ。ちっせーし。
で? それだけ大変な仕事なんだし、成功報酬一万は固いか」
ケイン
「探すだけでもある程度出して欲しいくらいだよな?」
ゴート二世
「依頼人があの糸目なら、普段あれだけ稼いでるんだし期待できそうだな」
ルシオン
「その……それが……」
ケイン
「そうか、1000エン台か。5000エンくらいなら、まあいいか」
ルシオン
「もう少し……」
キリク
「4000エン……3000エン……まさか1000エン?」
ルシオン
「…………」
ゴート二世
「まさか、1000エン以下なのか? おいおい、冗談だろ?」
ルシオン
「…………」
ルビー
「ちょっと、はっきりしなよ。それ以下ってことなのかい?」
ルシオン
「ご……エンです」
ケイン
「500エンかぁ……。しょぼいな」
ゴート二世
「初期の依頼並じゃねーか」
ラピス
「500エンであってもお金はお金。その代金で仕事を請けた以上、責任を持ってやるべきよ。そうでしょ?」
ジンライ
「たった500エンじゃァ、あの危険な迷宮のどこにいるのか解らない一匹の鼠を探す、っつーのは割りにあわねェ。こういうの価格破壊っつってな、良くねぇんだぞ。
今後無茶な依頼料でクエストが出されるようになったら、受ける冒険者の質が落ちたり、最悪いなくなっちまわ。かえって俺たちも依頼人も困るようにならァ」
ユディト
「けれど、受けてしまったのですもの、今更文句を言っても仕方がありませんわ」
ゴート二世
「しゃーねーなぁ。とっとと片付けようぜ。適当に迷宮歩いてチーズばら撒きゃいいんだろ?」
ルシオン
「……すみません、その……もっと下なんです」
キリク
「下って、依頼料が? まさか、50エン? そういえば前にそんな依頼があったな」
ゴート二世
「おいおい、あの時は相手が子供だったし、人の命が懸かってたから特別サービスだったんだぜ。ありゃ別だ」
ケイン
「子供並みの依頼料って、何考えてんだ?」
ルシオン
「子供以下、なんです」
ゴート二世
「……は?」
ルシオン
「5エン」
一同
「…………」
チェ=パウ
「あっはっはっはっ、やだな、もー。それだけのわけないじゃない! あれでしょ、現金は出ないけど現物で支給ってやつなんでしょ?」
キリク
「……ああ、そっか、なんだ。そりゃそうだ。そういえば今までも結構現金は出ない仕事多かったね」
ユディト
「そうですね、宿屋の永久半額券などでしたら、十分な報酬と言えるでしょうし」
チェ=パウ
「ああ、それいいね」
ケイン
「ったくよぉ、びびったじゃねぇかよ。ルシオンもジョーク言うようになったんだな。けど心臓に悪すぎてあまり面白くねー……」
ルシオン
「5エンです」
一同
「…………」
ケイン
「マヂで? そんだけ?」
ルシオン
「はい」
ゴート二世
「なんでそんなの受けるかな」
ラピス
「ま、まあ、ほら、大変なことだし、あの方も本当に見つかるとは思っていないのよ、きっと。この依頼はお守りみたいなものなんだわ……そう、人探しのポスターみたいなもので、依頼という形をとって冒険者のみんなに気にしてもらえるようにしたんだわ」
ルビー
「けどねえ、これ、成功報酬だよ。そういうことなら高くしておいた方が本気で探してもらえるじゃないか」
ラピス
「うーん……」
ゴート二世
「じゃ、がんばれ」
ラピス
「えっ、私?」
ゴート二世
「5エンであってもお金はお金。その代金で仕事を請けた以上、責任を持ってやるべき、なんだろ?」
ラピス
「限度ってものがあるわよ! こんな条件でどうして受けたの?」
ルシオン
「こんな条件だからこそ、怪しいと思いませんか?」
バルロンド
「確かに、常軌を逸している」
ルビー
「普通は受けないね」
ルシオン
「だからこそ、何かの暗号か、陰謀があるのではないかと思ったんです」
ゴート二世
「……まー、そういう考え方もあるか」
ラチェスタ
「増して依頼人はあの男。ただのペット探しなどである筈がない……そういうことか」
ケイン
「そう言われりゃぁ、そうだな」
ルシオン
「今は色々と不可解なことが起きているのですから、できる限りの情報が必要です」
ゴート二世
「……わーったよ」

068 嗚呼、ラッチは今いずこ 2


ルシオン
「いませんね」
ユディト
「見つかりませんわね」
ラピス
「好きな場所とかないのかしら」
ルビー
「ネズミの気持ちなんかわかるわけないだろ」
ゴート二世
「おい。『ついで』に探すんじゃなかったのかよ。何ガチで捜索隊組んでるんだ」
ルシオン
「やはり、仕事して請けた以上はきちんと……」
ゴート二世
「五エンだぞ五エン! メディカすら買えない、そのへんにフツーに生えてる花と同程度の価値だぞ。しかも売値だ!」
ラピス
「いいじゃない、久しぶりの休暇だと思えば」
ユディト
「わたくしは久しぶりの参加で少々嬉しいですわ」
ルシオン
「実は私もなんですよね。シールドスマイトを外してしまってからなかなか貢献できなくなってしまいましたから」
ゴート二世
「お前ら、迷宮の謎はどうした」
ラピス
「そうガツガツしたって仕方ないわよ。ねぇ」
ルビー
「ふふ。着いて来ちまったんだ、諦めな」
ゴート二世
「お前までそんな事言うかよ~」
ルビー
「仕方がないだろ。せいぜい森林浴を楽しんだらいいんじゃないかい?」
ルシオン
「別にすべてのフロアを踏破しようというのではありませんから、気楽にいきましょうよ。ある程度探してどうしても見つからないようなら諦めていただきましょう」
ゴート二世
「嫌な予感がすんだよ。つかお前が『諦める』ってことをするとは思えねー」
ルビー
「そうだね。ま、適当な力の差の調整と思えばいいんじゃないのかい?」
ラピス
「わ、私は置いてかれていないわよ」
ルビー
「でも、偉そうな事は言ったろ。覚悟を決めるんだね」
ラピス
「いい加減忘れてよ……」
ゴート二世
「このフロアにもいねーのか」
ユディト
「リボンをつけたネズミ、じゃなくて、ただのネズミならよく見かけるのですけれど。
もうこれだけ時間が過ぎたのですもの、リボンがほどけてしまったということも考えられますわ」
ルビー
「もう野生化したか、死んじゃったかのどっちかかもしれないねぇ」
ルシオン
「困りましたね。そろそろ一週間ですか」
ユディト
「相手は生き物ですわ。たとえこのフロアを探査し尽くしたといっても、後でまたここに来ないとも限りませんわ。つまり、きりがないのではありませんの?」
ラピス
「か、考えないようにしてたのに~」
ルビー
「確か、奥へ奥へ行く習性があるとか嫌なことも言ってたね」
ラピス
「うう、頭痛がしてくるからやめて」
ルシオン
「仕事はどんなにつまらなくても軽々しい気持ちで受けるべきではないという、神の試練なのでしょうか」
ルビー
「本当なら神ってのは随分サドだねぇ」
ゴート二世
「そりゃ違うな。正しいサドってなぁ相手を喜ばすためにだな……」
ユディト
「そうなのですか……」
ラピス
「セカンド少し目がすわってるわよ」
ゴート二世
「大体神ってのはロクなことをしねーんだよ畜生」
ラピス
「いつになったら見つかるの……」
ルビー
「ルシオン、そろそろ限界じゃないかねぇ」
ルシオン
「わかりましたから。帰って少し休みましょう」

ルシオン
「あんまりにもあんまりなので、どの階に逃げたかだけ調べてきました。
現在地下26階にいるようです」
チェ=パウ
「わあ、すごいねぇ。どうしてそんなこと解るの?」
バルロンド
「他次元の冒険者による情報だ。平たく言うと攻略情報だな」
チェ=パウ
「……ズル?」
ケイン
「ズルだな」
ラピス
「でも、『どこを探せばいいか』は知らないわよ」
チェ=パウ
「えー、でもそれって……」
ケイン
「欺瞞だな」
ルシオン
「すみません……」
ラピス
「とにかく、地下26階に行けばいいことは解ったわ。あそこなら経験稼ぎもできるから、無駄にはならないはずよ」
ジンライ
「26階ってェと、あの得体の知れんまっ赤な所か。先日必死で抜けたばかりだな」
ゴート二世
「経験稼げるってより、死ぬ気で戦わないと殺される所じゃねーか。あそこをまた探索しろってのか?」
チェ=パウ
「っていうかさ、あんな、あたしたちでも大変なところでラッチちゃんが生きてるの? すごいね」
ラチェスタ
「むしろ、ああいう場所だからこそ身を隠すことができるのかも知れないが、何を食料としているのだろうな」
チェ=パウ
「f.o.e.並に強くなっちゃってたりして!」
キリク
「冗談になってないよ……
そういえば、地下26階っていうと、ワープが多くて大変だった覚えがあるな」
ケイン
「ああ、そういえば。分岐が大量にあったんだっけ?」
バルロンド
「無数の分かれ道の不正解を行くと特定の場所に戻されるフロアだったな」
ルシオン
「そうそう、大変マッピングしがいのあるフロアでしたよね」
ラピス
「ルシオン、『この層のマッピングが終わるまで先には進まない』なんて言うんだから、当たりが解ったのに不正解を自分の足で歩いて埋めなきゃならなくて、終わらせるのが大変だったのよね」
一同
「…………」
ゴート二世
「随分前のことのような気がするなー」
キリク
「そうだね」
ラピス
「ほんと、あの頃は大変だったわ。27階も大変だけどね」
一同
「…………」
チェ=パウ
「ってことはさ、つまりその大変なところをもう一回隅々まで歩かなきゃなんないんだ?」
一同
「…………」
ゴート二世
「俺、降りた」
ルシオン
「そんな事言わないでくださいよ! セカンドは主力なんですから!」
ゴート二世
「もう嫌だ、こんな生活。もう一回引退再修行してくるわ」
ジンライ
「やれやれ、ネズミ一匹で大騒ぎだな」

069 嗚呼、ラッチは今いずこ 3


ラチェスタ
「さて、どこから探すのだ?」
ゴート二世
「細かく区切られてるからなー、見るだけでうんざりするわ」
ルシオン
「仕方がありません、近い扉から順に入っていきましょう」
ジンライ
「ここ一通だらけだったなァ。必然的に入ってハズレ引いたら飛ばされてまた歩いてきての繰り返しにならァ」
ラチェスタ
「時間の浪費、加えて戦闘回数も嵩むだろうな」
ラピス
「うう、遠くから見てわかるような印とかないかしら」
ルシオン
「採取ポイントのように見えれば、少しは楽でしょうか」
ラチェスタ
「これだけ細かく区切られた所で、しかも一方通行だらけとなれば、多少遠くから見えても意味はないだろうな」
ラピス
「f.o.e.みたいに見えたりしないかしら」
ジンライ
「f.o.e.かァ? 今までの経験から言って、一戦交えなきゃならん可能性は高いなァ」
ゴート二世
「そりゃーさぞや楽しかろー……ま、ボヤいててもしゃーねぇ、行こうか」

ゴート二世
「はー、ちょっ、タンマ。休もうぜ」
ルシオン
「そ、そうですね」
ラチェスタ
「ふむ、これでこの通りは全て見たことになるか?」
ラピス
「あれだけがんばって、これだけしか歩けてないのね……」
ジンライ
「そりゃァ、行き止まりでイチイチ戻されるんだ、時間もかかるわな」
ゴート二世
「なー、ワープ先の採掘所にチーズばらまいとけばそのうちひっかかるんじゃね?」
ラピス
「あらっ、そうよね! これだけあちこちに転送があるなら、ラッチだってきっと……」
ラチェスタ
「夢を見るのはやめろ。そういうシステムではない」
ジンライ
「身も蓋もねぇな、ネェちゃん」
ルシオン
「ひとまず、帰りましょう。これは思ったより大変そうですね……
いちいち泉に寄るのも時間の無駄ですから、宿に泊まりましょう」
ジンライ
「まァ、折角来たんだ、ついでに採掘でもやってくか」


チェ=パウ
「またぁ、はっずっれ~♪」
ゴート二世
「…………」
キリク
「つ、次はきっと当たりだよ」
ケイン
「もうリボンごとモンスターの腹の中なんじゃないか?」
キリク
「それは困るな。依頼が終わらなくなっちゃうよ」
ゴート二世
「……そーゆーことにしても、良くねぇ?」
キリク
「そ、そんなわけにはいかない……いかないよね?」
チェ=パウ
「宿屋に泊まれなくなっちゃったりー♪ するかもねっ」
ゴート二世
「だーもー、泊まれなくていいよあんなバカ高ぇ宿! 面倒臭ぇんだよ!」
バルロンド
「落ち着け。今日もそのバカ高い宿に泊まらざるをえんのだ」
ケイン
「それだけは助かるなー。泉の水すすっておしまいってわびしいから。最近ラッチ探し始めてからさすがのルシオンも気前良くなったよな」
ゴート二世
「宿に帰ってみたらネズミが戻ってた、なーんてことに……なってたら余計ムカつくような気がする」

キリク
「さあっ、今日も一日頑張ろう!」
ゴート二世
「……なー、訊いていいか? なんで俺だけ毎回参加してんだ?」
ケイン
「そりゃあ、セカンドの電撃鞭が最重要戦力だからだろ?」
キリク
「僕の炎斧と違って鉄蟹にもいきなりダメージが入るからね」
ゴート二世
「俺もうレベルマックスなんだけど」
ルビー
「だから頼られているんじゃないか」
ゴート二世
「俺今、不条理という物を無理矢理噛み締めさせられている気がする」
ユディト
「贅沢な悩みですわ」
キリク
「今日はここからここまでが目標だね」
ルビー
「まだまだ半分にもとどかないねぇ」

ユディト
「今、何かいましたわ」
ゴート二世
「ネズミか?」
ユディト
「ネズミのようには見えましたけれど、早すぎてよく見えませんでしたわね」
ルビー
「さぁて、探し物かどうかはわからないねぇ」
ケイン
「そんな時のためにチーズがあるんだろ? コイツでおびき寄せてとっ捕まえようぜ」
ゴート二世
「この縛りの達人から逃れられると思うなよ、小動物め」
ルビー
「こっちには縛りの神がいるけどね」
ゴート二世
「うるせーや。とにかくとっととやろうぜ」

ケイン
「……出てきた」
ゴート二世
「ネズミだな。あいつか?」
ユディト
「……確かラッチはリボンをつけているんでしたよね」
ルビー
「そう言ってたね」
ユディト
「リボン、ついていませんわよ」
キリク
「うわっ! 襲ってきた!」
ルビー
「どうやらあいつはチーズより人間の肉がお好みらしいねぇ」
ゴート二世
「しかもこのネズミ強ぇじゃねーかよ!」
ユディト
「f.o.e.ですわ!」
ケイン
「冗談じゃねーよ! 殺されるー!」

キリク
「…………」
ケイン
「ユディト、起きられるか?」
ユディト
「何とか……ありがとうございます」
キリク
「今日は帰ろうか。下手に動かない方が良さそうだ」
ルビー
「そうだね……帰還の術式を使うよ」
ゴート二世
「ちっくしょぉぉ、何なんだよぉぉ!」

070 嗚呼、ラッチは今いずこ 4


キリク
「さあっ、今日も一日……セカンド?」
ゴート二世
「食いてえなぁ……」
ラピス
「やだ、朝ご飯ならさっき食べたじゃない」
ゴート二世
「…………」
ルビー
「そろそろ捜索隊から外れるべきじゃないかい? 実力云々じゃなくてさ……
もうこの一ヶ月以上ずっとかかりきりだろ?」
ユディト
「私や皆さんの再訓練を兼ねた捜索、セカンドだけがずっと付き合ってくださっていますわよね。
感謝してもしきれないくらい感謝しておりますわ」
ゴート二世
「……ああ、気を遣ってもらって悪いな。たださ……」
キリク
「ただ?」
ゴート二世
「ネズミって美味いのかな」
ラピス
「……え?」
ルビー
「骨が多くて食べづらそうだね。臭そうだし」
ゴート二世
「唐揚げにしたら骨ごといけるんじゃねーかな……」
ラピス
「セカンドってそういうの食べたいと思うの? 
理解できないわ」
キリク
「気持ちは分かるけど、そんな事したらそれこそ今の苦労が無意味になっちゃうよ」
ラピス
「……キリクまでゲテモノ派なの? ……変な趣味」
ゴート二世
「ネズミの野郎、捕まえたら頭からガリッといきてーなぁ……」
ユディト
「これは相当重傷ですわね」
ルビー
「それでももう少し付き合ってもらわないとならないだろうね」
キリク
「……正直怖い」
ルビー
「セカンドはあまり壊れるって事がないから余計ねぇ」

キリク
「またフランソワマウスだっ!」
ラピス
「あれ、森ネズミ? どうしてこんな所に……」
ルビー
「気をつけな。ああ見えて強いよ!」
ゴート二世
「あァ? また偽物だ? いいかげんにしろよ」
キリク
「うわっ、ごめんなさい!」
ルビー
「何あんたが謝ってるんだい」
キリク
「怖くてつい……」
ユディト
「鬼気迫る目と気迫が呪言のような効果を発揮したのですね。勉強になりますわ」
キリク
「そんな事言ってないで止めてよ」
ユディト
「大丈夫だと思いますわよ。セカンドなら」
キリク
「あのセカンドがあそこまで壊れてるから怖いんじゃないかっ」
ゴート二世
「おいこらキリクッ! サボってんじゃねー、とっとと片付けるぜッ!」
キリク
「はいごめんなさいっ!」
ルビー
「……今日はこの辺で帰るとしようかね」
ユディト
「それが賢明だと思われますわ……
セカンドだけではなくてキリクも相当疲れているようですわね」
ルビー
「あの子は色々と溜め込むタイプだからねぇ。少しネズミ探し自体をやめて休暇にした方がいいと思うよ」
ラピス
「……そうね、ルシオンに提案してみるわ」

ルシオン
「セカンドはそんなに疲れているんですか」
ルビー
「あたしの見たところ、あれは限界越えてるよ」
ルシオン
「そうですか……頼りにしすぎましたね」
ルビー
「まァ……毎日がこうちまちまとした繰り返しだと、セカンドには辛いんだろうね」
ルシオン
「……そうですね。少し話してきます。セカンドはどこですか?」
ルビー
「さっき、ジンライとキリクを連れて酒場に行ったねえ」
ルシオン
「またお酒ですか」
ルビー
「そっとしておいてやりな、今日くらいは」
ルシオン
「……そうですね。明日から少し依頼はお休みとしましょう。これだけ探して見つからないのなら、一日二日延びても状況がそう変わる事もないでしょうから」

キリク
「う~……」
ゴート二世
「ネズミの唐揚げって美味いよなー、きっと」
キリク
「美味い不味いはともかく食べちゃ駄目です~」
ゴート二世
「美味いって。そう思うだろ、なー?」
キリク
「どこにいるんでしょーね」
ゴート二世
「いっそf.o.e.になってりゃあ、見つける方法もあるんだろぉ? なんたらアイとかでさー。f.o.e.って食えるのかな」
キリク
「お腹壊しますよ~」
ジンライ
「おいおい、無理すんな。お前ら少しペース早ェぞ」
ゴート二世
「ばっかやろ、大したことねーっつーの。酒のつまみにも合いそうだよなネズミ」
ジンライ
「お前ェ、おかしいぞ。帰って寝ろ。な」
ゴート二世
「とくにリボンついた奴」
ジンライ
「駄目だこりゃ。おい坊主、引き上げるぞ。手伝ってくれ」
キリク
「う~、気持ち悪い~」
ジンライ
「あーあ、まるで採掘レンジャーみてぇな壊れ方しやがって」
ゴート二世
「そうそれだ。採掘。毎日毎日同じ事の繰り返し。オッさんいつもどんな気分でもぐってンだよ? 
首討ちとか捨てちまってさぁ、自分の存在意義とか考えたりしないわけ?」
ジンライ
「そりゃァよ、俺にできる仕事をしているだけだ。お前さんみてェに常に探索って奴とはまた違った地味な裏方だが、欠かせない仕事だ。
人にゃあ相応の立ち位置と役目ってモンがあるのさ……
いいから帰れ。帰って寝ろ。お前ら二人とも酷ェ顔だぞ」
キリク
「ひどいですね~、あはは」
ゴート二世
「人の事言えねーよ」
ジンライ
「ほら、帰るぞ」

キリク
「あたまいたい……」
ケイン
「軽い風邪だな。ストレスから来てんじゃねーか? 寝てりゃ治るだろ。ほら、薬」
キリク
「ありがとう、そうするよ」
ゴート二世
「……悪かったな。イラついてるのは俺だけじゃなかったのに、巻き込んで」
ケイン
「まったく、らしくねぇよな。
セカンドもこれ飲んどけば?」
ゴート二世
「不味そうだから遠慮する」
キリク
「……う。
これ何が入ってるの?」
ケイン
「訊かずに鼻つまんで一気に飲んじまうことをお勧めするね」

ルシオン
「ごめんなさい、もう少し注意しておくべきでした」
ゴート二世
「いや、俺も大人げなかった」
ルシオン
「とにかく少しお休みにしましょう」
ラチェスタ
「では我々で採掘にでも行くか」
ジンライ
「そうだな……いつもの地下二十六階のワープ先はいい加減飽きたし、運動がてら他のところに行ってみねぇか?」
バルロンド
「ふむ、少し距離はあるがそれくらいなら問題なかろう」
ゴート二世
「俺も行っていいか?」
ケイン
「おいおい、休まなくていいのかよ?」
ゴート二世
「ネズミ探しが嫌になっただけだからな、だからって地上でぼけっとしてるのも性に合わねー」
ルビー
「無意識にネズミ探ししちまいそうだね」
ジンライ
「ま、それで見つかったらめっけもんじゃねェか」
ラチェスタ
「捜し物だけにな」
ケイン
「……今のは笑うところか?」
ゴート二世
「……さあ」


ジンライ
「やれやれ、時間がかかったせいかf.o.e.が軒並み復活してやがる」
ゴート二世
「退屈しのぎにいいじゃねーか。ついでにオッさんの専用装備の材料でも集めて帰ったらどうだ?」
バルロンド
「それも良かろう。どうせ弾数を気にせずとも良い道行きだ」
ケイン
「にしてもキリクは何かっちゅーと倒れんのな」
ゴート二世
「繊細なんだろ?」
ケイン
「弱いだけだろ。冒険者向きじゃないよ、あいつ。
とにかく何日かは宿借りた方が良さそうだぜ」
バルロンド
「ふむ……最近は宿代に困ることもなくなったことだし、大した痛手ではないな。幸いにも」
ゴート二世
「そういやラッチ探し始めてからだよな、宿に泊まるようになったの」
ラチェスタ
「そう言えなくもないな」
ゴート二世
「こうなるのもあの糸目の計算のうちってことはねーだろーな……」
バルロンド
「……まさか」
ジンライ
「ねェよ」
ラチェスタ
「……と、思うがな」
ケイン
「不条理だし、そんなはずがないと思いながらも、そうとも言い切れねぇのがあの糸目の胡散臭いところだね」
ゴート二世
「やれやれ……本当は暗号か何かだってのに、ネズミを探し歩く俺たちが馬鹿ってこたー、ねーだろーな?」

ゴート二世
「待て、今何かそこの隙間に逃げ込んだ」
ジンライ
「おいおい、ネズミの探しすぎで願望が見えちまったってこたぁ、ねェだろうな?」
ラチェスタ
「いや、私にも見えた。間違いないだろう」
ケイン
「本当に見えたとしても、またフランソワマウスじゃねーの?」
バルロンド
「そうだったとしても良かろう。どうせ我々には余裕があるのだ。化け物鼠ごときに倒されることはない」
ゴート二世
「へッ、フランソワマウスだったら鬱憤晴らしに潰してやらぁ!」

ラチェスタ
「……チーズに気づいたぞ」
ケイン
「……可愛いな」
ジンライ
「リボンもついてるし、どうやらこいつが依頼のネズミらしいぜ」
ゴート二世
「……あれだけマジメに探しまくって見つからなかったのに、気晴らしに行くと見つかる……ッてか」
ラチェスタ
「ふふ、よくあることさ。
ほら、捕まえたぞ。人騒がせな小動物だ」
バルロンド
「さて……食うか?」
ケイン
「おいこらっ、何訊いてんだっ!」
ゴート二世
「いや、そんな気も失せちまった。帰ろうぜ」

キリク
「見つかったんだ。良かった」
バルロンド
「まったく、ままならぬものだ」
ルビー
「結局一ヶ月以上かかりきりだったねえ」
チェ=パウ
「それなのにラッチちゃん元気そうだったよね」
ジンライ
「飼い主同様強かな野郎だったんだろうさ」
ケイン
「でさぁ、これだけ苦労したんだし、宿の永久半額パスくらいは期待できるかな」
チェ=パウ
「あっ、噂をすればっ、だね! ルシオンお帰りー! 
どうだった? どうだった?」
ルシオン
「…………」
ルビー
「そうかい……」
キリク
「……あー、そうですよね……」
ルシオン
「はい……報酬は5エンです」
バルロンド
「あくまで契約は契約だな」
ジンライ
「あっはっはっはっ、こいつぁ傑作だ!」
ケイン
「ちくしょー、なんかすっげぇ期待して損したっ!」
ゴート二世
「やっぱりあの依頼自体が、泉から冒険者を引き離すためのトラップだったような気がしてなんねーや……」
キリク
「セカンド、酒場に行こうか」
ラピス
「あの……私も行っていい? おごるわ」
ジンライ
「いっそみんなで派手にぱーっとやるか」
ルシオン
「いい考えですね。私も参加します」
ゴート二世
「おっしゃ、今日は飲むぞ~!」