世界樹の迷宮『世界樹の迷宮を彷徨う者達 1』第六階層 1


世界樹の迷宮を彷徨う者たち
これは、世界樹の迷宮の第六階層のネタバレ文章です。

055 白玉


地下二十六階探索開始
ラピス
「陰気なところね」
キリク
「なんだか寒気が」
バルロンド
「ジンライ、ここは何だ?」
ジンライ
「さァな」
ラピス
「何もこんな時に意地悪言わないでよ。趣味悪いわ」
ジンライ
「悪かったな。けど、本当に知らねぇんだ、しょうがねェだろ」
キリク
「知らない? どうして?」
ラピス
「私たちも執政院の奥や宿屋の仕組みなんかは分かっていないものね。そんなこともあるわ」
ジンライ
「そういう問題ならなんぼかマシなんだがなァ……どう考えても『ありえねェ』んだよ、ここは。
地面の下にあるのは、下水か地下鉄か大空洞かゴミなんかであって、こんな血生臭い洞窟なんかじゃねェよ。
まったく、また俺は夢見てンじゃねぇかと思えてきたぜ」
ラチェスタ
「この生暖かさ、部分的な弾力、巨大生物の体内のようだな」
ラピス
「やだ、気持ち悪い」
キリク
「食べられちゃったってこと?」
ジンライ
「胃液が出てこないことを祈ろうぜ」
キリク
「笑ってる場合じゃないと思うんですけど」
バルロンド
「このような怪しげなものをほうっておくわけにはいかんな。調査を開始しよう」
ラチェスタ
「恐ろしい気配がするぞ」
キリク
「また一段強いのがいるんだろうなあ……」

ジンライ
「お? 何か浮いてンな。白玉? なわけねェな」
ラチェスタ
「気をつけろッ!」
キリク
「え、敵?」
ラピス
「そうなの? でもあんなのじゃあ、いまいち敵意がわからな……」
白い物体(ルーカサイト)の攻撃
キリク
「あぐ……(戦闘不能)」
ジンライ
「うっそだろ! 二発だぞ!」
ラチェスタ
「ラピス!」
ラピス
「今やってる!」
バルロンド
「(大爆炎の術式)」
ジンライ
「あんなの俺がもらったら一撃で沈んじまわ」
バルロンド
「逃げるか?」
ジンライ
「いや、やる! 食らえ、化け物!」
ルーカサイトの攻撃
ジンライ
「がっ!(戦闘不能)」
ラチェスタ
「くそ、なんて強さだ」
ラピス
「まだ敵が残っているのよ、お願い、がんばって! キリク、起きて!」
キリク
「げほげほっ。いたたた、潰れるかと思った。けどこれじゃあ、一時しのぎの壁くらいにしかなれないよっ」
バルロンド
「(大爆炎の術式)……」
ラピス
「回復……復活……もう、どうしたらいいのっ」
バルロンド
「ジンライの復活だ。前衛が倒れた時点で俺たちに勝ち目はなくなる!」
キリク
「こんな状態じゃ一回しか持たないな……せめて攻撃だ!」
ルーカサイトの攻撃。キリク・バルロンド戦闘不能。
ラピス
「ラチェスタ、お願い!」
ラチェスタ
「……!(ダブルショット)」
ラピス
「ジンライ、がんばってぇっ!(リザレクション)」
ジンライ
「あーくそ、白玉のくせにぶっ飛んでやがるな。痛ぇんだよ馬鹿野郎ッ!」
ルーカサイトの攻撃。白いプラズマ! ジンライは石化した。
ラピス
「えっ。何?」
ラチェスタ
「これで終わりだ!(ダブルショット)」
戦闘に勝利した。
ラピス
「……まだ生きているのね、私たち」
ラチェスタ
「ああ、そうだな」
ラピス
「とんでもない所に来ちゃったのね」
ラチェスタ
「ああ……そうだな。敵の気配が近い。のんびりしている暇はないぞ」
ラピス
「早く態勢を整えなくちゃね」

キリク
「ひどい目に遭った……」
ジンライ
「くそ、まだ体がきしみやがる。白血球か、あいつら」
ラチェスタ
「ハッケッキュウ?」
ジンライ
「生物の体内にある防衛機構のひとつだ。進入したばい菌……異物を食う」
キリク
「……異物って僕たち?」
ラピス
「人間の体内にもああいうのがいるっていうこと?」
ジンライ
「何億単位でな……覚えてねェが、考えたくもねェや。大体毎日生産されるモンだったか?」
キリク
「眩暈がしてきた。僕たち無事に帰れるのかな」
バルロンド
「ところでその白血球とやらの話、後で詳しく聞かせてくれるか?」
ジンライ
「多分お前が期待しているような高度な話は無理だ」
バルロンド
「そうは言うが、お前が何ともなしに口にする言葉が、それだけで大きな驚きを内包しているのだ。我々にとっては」
ジンライ
「そんなモンかね」

056 苦戦


ルシオン
「このフロアでは守りを固めていきましょう。
最初のターンは防御。状況に応じてバルロンドは大爆炎と火炎を使い分けて」
ラピス
「しばらくは最初に医術防御ね」
バルロンド
「あのルーカサイトとかいう白い物体は追い詰めると手痛い反撃をしてくるようだ。下手に傷をつけるとこちらが危ないな」
キリク
「確実に一つずつ落としていったほうが良さそうだね。僕だけだと少し足りないから手伝ってもらわないと」
チェ=パウ
「ぱわ~あっぷの歌やってから手伝うね」
ルシオン
「今までも新たな層では苦戦をしたものですけれど、ここはまた一味違うようですね」
チェ=パウ
「うん、やっと地下迷宮になったよね」
キリク
「そういう問題じゃ……」
バルロンド
「人知を超えた迷宮の謎、その核心がここにあるのかも知れんな。
もしかすると長ですら知らなかった真実が眠っているかも知れん」
ラピス
「あまり楽しそうなものがいそうに見えないわね」
ルシオン
「ここもそれなりに明るいのは理解に苦しみますね。迷宮自体が光っているのでしょうか」
キリク
「一応明かりも持っておこう。戦いの途中にいきなり真っ暗闇なんて笑えないから」
バルロンド
「火を持ち込んで安全かどうか甚だ疑問だが仕方あるまい。
ジンライの言う『でんとう』とやらがあれば良かったのだろうがな」
チェ=パウ
「今度遺跡で探してみようよ。面白いものがいろいろ見つかるかもしれないよ」

チェ=パウ
「わあ、あっちでちょうちょが飛んでるよ。きらきら光って綺麗だねえ」
ラピス
「綺麗というより……不気味ね」
キリク
「あれ、どれくらい遠くなんだろう」
ルシオン
「あの大きさでこの距離、おそらく相当の大きさです」
チェ=パウ
「うん、大きいね。こんな所にあんなおっきなちょうちょが吸えるようなお花、咲いているのかな」
バルロンド
「この迷宮がまだ世界樹と呼べるものなら、吸うものはそこらにありそうだ」
キリク
「そのへんに溜まってるやつ? 樹液っていうより血に見えるよ」
バルロンド
「しかし、血液とはまったく違うものだ」
チェ=パウ
「ねえねえ、ちょうちょがこっち来るよ」
キリク
「速い!」
ラピス
「蝶の動きじゃないわよ、あれ!」

ルシオン
「……死ぬかと思いました。まさかまた蝶に殺されそうになるなんて」
キリク
「毎回死にかけてるよ。体が持つかなあ」
ラピス
「医術防御必須って感じね」
バルロンド
「何よりもまず戦力増強が急務といえそうだな」

キリク
「こっちも通路が一本延びているだけか。部屋がぽつぽつとあっただけだし、狭いな」
ルシオン
「とすると、丹念に壁を調べていったほうが良さそうですね。奥へ続く道が隠されている可能性があります」
チェ=パウ
「壁ねー……ねえ、こことか?」
ルシオン
「確かに、ここは隙間……抜けられそうですね。よく見つけました、チェ=パウ」
ラピス
「ここも抜けられそうよ」
ルシオン
「あら、本当」
キリク
「そういうのならあっちにもあったよ」
バルロンド
「俺はあのあたりでも何箇所か見かけた」
ルシオン
「……そういうことですか……第四層やウィザードリィを思い出しますね」
バルロンド
「ロミルワがあれば少しは楽だろうがな」
チェ=パウ
「炉見るわって何?」
ルシオン
「存在しないもののことを言っても仕方がありませんよ。一つずつ調べましょう」
キリク
「こういう場所で一方通行だったらちょっと大変だね」
バルロンド
「大した問題ではあるまい。どうせ飛ばされようと普通に歩こうと帰りはアリアドネの糸だ」
チェ=パウ
「ねー、露観る輪ってなにー」
キリク
「それもそうか……苦戦前提ってことだよね、それ」
ラピス
「これから忙しくなりそうね」
ルシオン
「ええ、お願いします」
チェ=パウ
「もぉっ!」

キリク
「くおぉぉぉっ!」
チェ=パウ
「がんばれー! ひらけごまー!」
バルロンド
「案の定一方通行か」
ルシオン
「ええ。これは少々手間がかかりそうですね」
キリク
「でえぇぇぇ!」
ラピス
「……隙間、広がらないわね」
ルシオン
「キリク、もういいですよ。無駄な力を使うこともありません。少し休んだら先に進みましょう」
キリク
「はぁっ、役に立たないなあ、僕」
ラピス
「そんなこともあるわよ。大丈夫、何とかなるわ」
チェ=パウ
「あれっ、行き止まりだよ」
ルシオン
「あら」
ラピス
「こんな狭いところに閉じこめられたの?」
バルロンド
「いや、見ろ。あの床は不自然だ。何か仕掛けがあるかも知れない」
チェ=パウ
「上に立ったらぱくって食べられちゃったりして」
キリク
「……ありそうでコワい」
ルシオン
「では私がロープをつけて先に行きますから、様子を見ていてください。
……落とし穴などではなさそうですが……」
ルシオンは不思議な床に足を踏み入れた。その姿が瞬時に消滅し、その場に軽い音を立てて千切れたロープが落下した。
キリク
「ルシオン!」
チェ=パウ
「食べられちゃった!?」
バルロンド
「落ち着け。今の反応は磁軸に似ていた。単なる転移の可能性が高い」
ラピス
「そうだとしても、ちゃんと地面があって敵がいない場所に下りられるとは限らないわよね。ルシオンも糸を持っているから大丈夫だとは思うけど」
キリク
「前にジンライさんが言っていたみたいに壁の中に入っちゃったりするかも知れないよ」
チェ=パウ
「でもさー、だからってここにいてもしょうがないよね? えいっ」
キリク
「あっ! ……何があるか分からないってのに」
ラピス
「うーん、確かにここで話してしても仕方がないのよね」
バルロンド
「まあな。少々無謀だが、パーティーが分断されだ状態で敵に襲われることを考えると、合流が先決だろうな」
キリク
「そうだね……仕方ない、追いかけるか……」
ラピス
「ねえ……あら、行っちゃった。
それじゃバルロンド、エスコートしてくださる?」
バルロンド
「なに?」
ラピス
「セカンドならノッてくれるのに。……そんなに本気で困った顔しないでよ。飛ぶときにばらばらにならないようにするのよ。
じゃ、肩にでもつかまっていようかしら」
バルロンド
「好きにしろ」

ルシオン
「全員揃いましたね」
チェ=パウ
「うん。ただのワープだったんだね」
キリク
「……あれっ。ここ、何か色々光っている」
ルシオン
「ええ。探せば何か見つかるかも知れません」
キリク
「鉱石のことなら分かるよ。このあたり、見たこともない金属や石がいっぱいだ。持って帰ったら何かに使えるかも知れないね」
チェ=パウ
「ここにはお花も咲いてるよ。きらきら光って綺麗……あっ、壊れちゃった」
バルロンド
「採取するには専門の知識が必要だろう。ラチェスタに訊いてみるのが良いだろうな」
キリク
「このへんの石を少し持って帰ろう」
バルロンド
「ふむ。この果実、見覚えがあるが……何だったか?」

ルシオン
「見てください、f.o.e.がいるんです」
ラピス
「倒さなきゃ進めそうにないわね」
バルロンド
「雑魚相手に苦戦している現状では、挑むのはやめた方が良さそうだ」
ルシオン
「同感です」
チェ=パウ
「あっ、カニ」
キリク
「えっ?」
カニが現れた。
ルシオン
「噂に聞いたことがあります。雷以外のどんな攻撃をも寄せ付けない蟹の化け物が存在すると」
ラピス
「ど、どこで聞いたのよそんな噂」
キリク
「雷ってことは、バルロンドの術式だけか」
チェ=パウ
「あたしがビリビリの歌を歌えばいいんだよ」
ルシオン
「とにかく、私とラピスは防御を固めましょう」
キリク
「あまり効かないかも知れないけど、少しでも傷を付けられたら! パワークラッシュだ」
医術防御と防御陣形で守備を固めるパーティー。しかし……
キリク
「うわっ!」
チェ=パウ
「だ、だ、だいじょうぶっ!?」
キリク
「何とか! 防御固めてなかったら真っ二つにされてたよ。
くそっ、これでもくらえ!」
パワークラッシュ。2のダメージ!
キリク
「……なにっ!?」
ラピス
「全然効いてないわよ!」
ルシオン
「雷以外は効かない、というのは、効きにくいのではなくて本当に受け付けないのですね」
キリク
「そんな、あんなのもう一回喰らったら今度こそ真っ二つにされちゃうよ!」
バルロンド
「こういった手合いは弱点を突けば脆いものだ。これで決める!」
チェ=パウ
「いっけー!」
バルロンド
「……おい、ルシオン。こいつは雷以外の攻撃は効かないのだったな」
ルシオン
「噂によるとそうですよ!」
バルロンド
「半分も削れていない!」
ラピス
「えーっ! ど、どうするのっ!」
ルシオン
「みんな逃げて!」
チェ=パウ
「いや~! きゃ~!」

キリク
「もう一生分死んだよ、僕」
チェ=パウ
「一生で死ぬのって一回だけだよ、普通」
ルシオン
「あれじゃf.o.e.じゃないですか……」
ラピス
「情報が間違っていたってこと?」
バルロンド
「おそらく、悔しいが俺の力不足だ」
ルシオン
「全体的に私たち全員が実力を付けないと、この階層には通用しませんね。少し方向性を考え直すべきかも知れませんね……帰りましょう」
チェ=パウ
「うん、ちょっと疲れちゃったね」
ラピス
「薬がもうないわ。また揃えてこなくちゃ」
バルロンド
「そうか、アンブロシア……」
キリク
「えっ? 今、何て?」
バルロンド
「いや、さっき見た果実の名前だ、恐らく。不死を意味する、神の食べ物と伝えられる果実だ。
伝説と思っていたが、存在したのだな。信じられんが……」
キリク
「さっきのが?」
バルロンド
「確証はない。だが後でラチェスタに伝えておこう。サンプルが得られるかも知れん」
キリク
「そうか……本当にあったんだ……
不死をもたらす、伝説の……」
バルロンド
「どうした。何か気になるのか」
キリク
「何でもないよ。帰ろう」
バルロンド
「……ふむ」

057 道の果て

※注意! ゲームとは全然関係ない親バカネタ全開。

キリクが姿を消したのは二度目の採取の直後。新規に発見し、翌日執政院に報告に行こうとしていた新種の果実がなくなっていた。
シェルナギルドは良く言えば自由奔放、悪く言えばまとまりのないギルドである。予告もなしに、はともかく、メンバーが何日か留守にするのは珍しいことではない。
だがそれが、七日以上も連絡なし、しかもそういった事に一番気を遣いそうなキリクが、となると、何かあったのではないかと心配し始めるのも当然のことだ。
ケイン
「本当に冒険者やめちまったんじゃないか」
ルビー
「だとしても、一言もなしにいなくなるとは思えないねえ」
ラピス
「何か事件に巻き込まれたんじゃないかしら」
ルシオン
「執政院とギルドと酒場で聞いてみていますが、手掛かりはなしですね」
チェ=パウ
「ひとりで世界樹の迷宮に入っちゃったとか」
ラピス
「……まさか……」
ゴート二世
「ないな。執政院の警備兵も見ていないってんだから。
大体そんな馬鹿じゃねーだろ」
チェ=パウ
「お散歩してるだけかも知れないよ。それでね、帰り道がわかんなくなっちゃって優しい人に拾われたりしてるの」
ケイン
「犬かよ。一宿一飯の恩義とかそーゆーので泥沼にはまりそうだけどさ」
チェ=パウ
「んで、記憶喪失になっちゃって、危険な仕事に手を染めちゃったりしてるの」
ケイン
「お前さ、真面目に考えてる?」
ユディト
「普通の状態ではないことは確かですけれど。困りましたわね」
ラピス
「これがラチェスタやセカンドなら驚きもしないのにね」
ゴート二世
「心配くらいしろよな」
ラピス
「帰ってくる時は厄介事を持ってくるかもって?」
ゴート二世
「ひでーなおい」
ジンライ
「……冒険者をやめたか。そうかもしんねェなァ」
バルロンド
「何か心当たりでもあるのか」
ジンライ
「ある、というには弱いがね。行き先は何となくな。帰ったんだろうさ」
ルシオン
「帰った?」
ジンライ
「あいつがしょっちゅう墓参りに行っていたのは知ってっか?」
ゴート二世
「ああ、そういえば」
ケイン
「そうなんだ?」
ルシオン
「お墓参りだったのですか」
ジンライ
「バルロンド、ラチェスタ、なくなった採取物って、アンブロシアとかいう木の実だったよな」
ラチェスタ
「そうらしいな」
バルロンド
「文献が正しければ、そうだ。 神の食物と呼ばれ、死者をも蘇らせるほどの強力な生命の力を宿すという」
ケイン
「そうだったのか。そんなのがあれば、薬品の開発に役立ちそうだな。何てことしてくれんだ…… あっ? 墓参りだって? そういえばあの馬鹿、ずいぶん永遠の命とか、命の力に拘ってたよな……まさか……」
ラピス
「バルロンド、そんな物が本当にあるの?」
バルロンド
「確かにアンブロシアと呼ばれる、文献にある果実らしきものは見つかった。
しかし、詳細まで検証したわけではないからそのものなのかは分からん。良く似た別のものなのかも知れない。
そもそも文献に載っている効能が正しいとも限らん。何しろ伝説となるほどのものだ、信憑性は限りなく疑わしい」
ケイン
「だよなぁ。そんなすごいのがあったらオレたちも聞いたことくらいあるだろうし」
バルロンド
「さて、仮にあの果実がアンブロシアだとして、更にそういった奇跡的な力を秘めていたとしよう。ではアンブロシアを薬品に精製できる者が存在するか? 今のところサンプルはあれ一つきり、役立つ形にする資料もない」
ラピス
「キタザキ先生ならできるかもしれないわ」
バルロンド
「あるいはな」
ルシオン
「しかし施薬院には毎日通っていますが、そのような噂も聞きませんよ」
ラピス
「そうね……」
バルロンド
「更に、口にするだけで効果を発揮するなど、取り扱いが容易であると仮定しよう。
それは土に還った人間にも効果があるのか? 腐敗していても復活するというのか? 病死の場合は? 生き返った途端にまた死亡するのではないか?」
ケイン
「そこまで行くと魔法だな。土に混ざった虫の死体とかも復活すんのかね。考えること自体現実的じゃねぇなー」
バルロンド
「まったく考えなしと言わざるをえん」
ジンライ
「キビしいねぇ。大事なものをなくして、それを取り戻せるチャンスがあれば、ちょっとくれぇバカにもなろうってモンさ」
ケイン
「経験者の言うことにはなんか説得力があるな」
ルシオン
「待つしかないでしょうか」
ジンライ
「そうだなー、俺がちょいと様子を見てくるかねェ。あいつのいつもの行き先なら、俺がここへ来る時に通った道だからな」
ルシオン
「……では、お願いします」
チェ=パウ
「あたしも行く~」
ルビー
「今回は駄目だよ。おとなしく待ってな」

二日後、エトリアから離れたとある村のはずれ。
ジンライ
「ふー、結構距離ありやがンの。放牧ってな随分遠くまで出るモンだな」
キリク
「ジンライさん! どうしてここに」
ジンライ
「余計な事かと思ったんだがなァ。ま、生きてて良かった。
牧童か、なるほどなあ」
キリク
「手紙を書こうと思っていたんです」
ジンライ
「お前の目的は見つかったんだな」
キリク
「見つからない方が良かったのかも知れない。僕がしてきたことは一体何だったんだろうって考えてしまうんです」
ジンライ
「……そうか」
キリク
「それでぼっとしてたら、仕事でもしろって家追い出されちゃいました。はは」
ジンライ
「お前の姉さんからそう聞いてきた。ほら、忘れモンだ。美味そうな弁当じゃねぇか。食わなきゃバチが当たンぞ」
キリク
「ありがとう。すみません、こんな事まで」

キリク
「僕には妹がいたんです。生意気で汚くて足手まといで鬱陶しいと思っていた。
あの日、僕は妹に酷い事を言ったまま別れてしまった。それっきりです」
ジンライ
「そうか」
キリク
「生きているうちに何もしてやれなかった。兄貴らしいことを何も。
馬鹿ですよね。だからって不確かなものを追いかけて家を空けちゃったんですから。傷ついたのは僕だけじゃなかったのに、自分の後ろめたさしか見えていなかった」
ジンライ
「……」
キリク
「こんな話をよりによってジンライさんにするなんて、馬鹿みたいだな」
ジンライ
「みんな何かかんか背負ってるモンさ。それが重いか軽いかなんざァ、他人がどうこう言えるモンじゃねェ」
キリク
「……」
ジンライ
「お前がいねぇと探索も進みゃしねェ。一人欠けたから新人探すなんて簡単なことじゃねェからなァ。一人前のソードマンとして、どんなに迷惑か分かるだろう。
ギルドを抜けるってんならそれでいい。けどな、一回は顔を出しに来い」
キリク
「……すみません」
ジンライ
「それにな、みんな結構本気で心配してンだぜ。
お前、前に言っただろう。ギルドは一時的にでも家族みたいなモンだってな」
キリク
「……」
ジンライ
「お前自身がどう思っているか知らねェが、お前は信頼に足る戦士だと思っている。抜けられるのは困るな。攻撃に専念できなくなる」
キリク
「……」
ジンライ
「俺が言いたいのはこんだけだ。
……さぁて、帰るとするかな」
キリク
「……ジンライさん、ありがとうございます」
ジンライ
「なーに、じじいのお節介だと思って適当に聞き流せ」
キリク
「……」
キリク
「そうだな。みんなに謝らなきゃ」

更に数日後、エトリアの冒険者ギルド。
キリク
「僕の身勝手な行動で迷惑をかけてしまってごめんなさい。
無くなってしまったアンブロシアは何とかして責任をとります。本当にすみませんでした」
ルシオン
「もう顔を上げてください。
それよりも無事で良かったですよ。本当に心配したんですからね」
バルロンド
「愚か者が。貴重なアンブロシアを腐らせるとは」
キリク
「すみません」
バルロンド
「何故我々に相談しなかった。事情が分かっていたなら何かましなことができたかも知れんというのに」
キリク
「……?」
ラピス
「そうよね。キタザキ先生にもご協力をお願いできたかも知れないわ」
ケイン
「オレって信用ないのかなー。これでも結構技術はあるんだぜ」
キリク
「……!」
ラチェスタ
「なに、また探せばいい」
ラピス
「そうね、こまめに様子を見に行けばまた見つかるかも知れないわ」
キリク
「ありがとう、でも、もういいんだ」
バルロンド
「……そうか」

ゴート二世
「お前の事情はどうあれ、俺たちはすっげー迷惑だった。それなりに心配もした。探索も止まった。で、お前はどうする気だ」
キリク
「僕は今まで、目的のために仕方なく戦っていると思っていた。
けど、やっと解ったんだ。今更だけど、僕は一人のソードマンとしてみんなと迷宮に挑み続けたい。
僕がしてしまったことは、僕が今まで以上に戦うことで返せないだろうか。
……もちろん、許されるなら」
ルシオン
「ええ、それはもち……」
ゴート二世
「自覚が遅ッせーんだよ、バカ。
俺らは俺らでお前を信じて命預けてんだからな。へろへろしたヤツに前は任せられねー。
ヌルい気持ちで帰ってくるなら追い出すぞ」
キリク
「はい!」
ゴート二世
「よし、罰としてこれから一週間の雑務係はお前がやれよ」
キリク
「はい!」
ユディト
「……雑務……いつも結局半分以上キリクがしているように思うのですが……」
ラピス
「キリクがいなくなった途端、部屋がなんとなーく汚くなったり、消耗品の補充が完璧じゃなくなったりしてるのよね」
ユディト
「……罰ですか?」
ルビー
「儀式って奴さね」
ルシオン
「おかえりなさい、キリク」
キリク
「ただいま、みんな。ありがとう」
キリク
「戦士として一からやり直しだ。
いつか向こうに行っても、胸を張って会えるようにならなきゃな」

058 汝 偽るなかれ

ルシオン
「依頼の品はこれで全部ですね」
チェ=パウ
「やった~! やっと揃ったね!」
ラピス
「この三日間ずーっとこればかりだったものね、良かったわ」
ルシオン
「ではまず、荷物の整理を。お店に行ってきますね」
ラピス
「ああ、私も行くわ」
ルシオン
「いいえ、皆さん頑張ったんですから、少し休んでいてください」
チェ=パウ
「じゃあ、一曲歌うね!」
ゴート二世
「俺は施薬院に顔出しに行くかな」
バルロンド
「俺も少し外す」
ルシオン
「では、一時間後に酒場で集合ということにしましょう」

チェ=パウ
「ねえねえ、次は何を歌おうか?」
ラピス
「ううん、いいわよ。少し休んだら? 疲れたでしょ」
チェ=パウ
「あたしは歌うのが好きだから苦にならないよ」
ラピス
「……いい天気ねぇ……」
チェ=パウ
「うん、快晴だね。風が歌ってるよ。気持ちいいね」
ラピス
「ふう、こうやっていると、迷宮での戦いが嘘のよう」
チェ=パウ
「大変だったよね。ずーっと同じところを行ったり来たりして」
ラピス
「そうそう。セカンドがいい加減にしろって怒り出しちゃって、ちょっとした騒ぎになったわね」
チェ=パウ
「これでしばらくはゆっくりできるね」

チェ=パウ
「あ、来た来た! ルシオーン、こっちこっち!」
ルシオン
「…………」
ゴート二世
「なあ、ルシオン。久々に一仕事終わったんだ、みんなでぱーっとジャクソン料理店にでも行こうぜ」
チェ=パウ
「あっ、それいいね! あたし、一度でいいからあそこのモンスター素材料理食べてみたかったんだ!」
ルシオン
「…………」
ラピス
「どうかしたの? ジャクソン料理店にはきっと野菜の料理もちゃんとあるわよ」
ルシオン
「神はおっしゃいました……
汝、偽るなかれ」
ゴート二世
「……おい、まさか」
バルロンド
「…………」
ルシオン
「ごめんなさいっ、依頼品を売却してしまいましたっ!」
ゴート二世
「……ほーう」
チェ=パウ
「えーっ。なんでなんでっ!」
バルロンド
「操作ミスか」
ゴート二世
「これで何度目だコノヤロウ」
ルシオン
「……よんかいめ……です……」
ゴート二世
「よーしよし、よく覚えてたな。で、俺が前回なんて言ったかは覚えてるか?」
ルシオン
「今度やったらリーダー代えるぞ……」
ゴート二世
「正解だ。というわけでそこに座れ」
バルロンド
「(怒るタイミングを逸してしまった……)」

ラピス
「セカンド、本気で怒ってたわね……」
チェ=パウ
「今回ばかりは仕方ないと思うなぁ」
ラピス
「結局リーダー変更にはならなかったのよね?」
バルロンド
「リーダーと言っても、特に地位を持っているわけではない上、責任だけがあるという碌でもない名だから、強いてなりたがる者もいまい」
チェ=パウ
「うーん、そう言っちゃうと、ルシオンちょっと可哀想かも」

ゴート二世
「街に帰ったらまず用が無くても酒場に寄る。最初からこうすりゃ良かったんだな」
ラピス
「まーたまた。あなたが飲みたいだけじゃないの?」
ゴート二世
「へっ、気晴らしってのは大事だぜ!」
チェ=パウ
「依頼品、あと少しで全部揃うね」
ラピス
「まとめて受け取ってくれないから持って歩かなきゃいけなくて不便よね」
ゴート二世
「そろそろ戻ってきてもいい頃なんだが……」
チェ=パウ
「あっ、来たよー」
ルシオン
「……神はおっしゃいました……
汝、偽るなかれ」
ゴート二世
「またかぁぁぁ!」
次回作では、依頼品の分納を、切に切にお願いしたいと思います。

059 永遠の輝き 

第六層f.o.e.、ドロップアイテムのバレあり。
第六層にて魔界の武王(亀型のf.o.e.)と戦う一行。
バルロンド
「(火炎の術式)」
キリク
「ふー、やっと倒れた!」
バルロンド
「手強い敵だったな」
ラピス
「この甲羅、硬そうね。何かに使えるんじゃない?」
チェ=パウ
「ツヤツヤピカピカー。鏡みたいだね」
ルシオン
「幸先がいいですね。早速持って帰って、加工できないか訊いてみましょう」

数日後
ルシオン
「あの亀の甲羅の傷物があれば、新しい装備品が作れるらしいですよ」
ラピス
「ルシオンの専用装備ね? 竜と戦うのが楽になるかもしれないわ」
ゴート二世
「おし、復活したら取りにいくか!」


キリク
「つまり、あの甲羅を砕けばいいんだね」
チェ=パウ
「そうそう。加工しやすいようにヒビを入れてほしいんだって」
キリク
「そういうのなら得意なんだ。いくぞっ!」
ルビー
「高レベルf.o.e.だろうと所詮は亀、あたしの吹雪で凍らせてやるさ!」
ゴート二世
「チェ=パウ、属性付与の歌頼むぜ。すっげー寒い奴をな!」
ラピス
「みんな、がんばってー!」

キリク
「そろそろだな……」
ルビー
「オッケー、任せたよ!」
ゴート二世
「ガツンとキメてやれ!」
キリク
「でやあぁっ!」
キリクの一撃で魔界の武王は長い悲鳴を上げて地に伏した。……が。
チェ=パウ
「今、カッキーン、っていい音がしたよ。
うーん、一曲書けそう」
キリク
「うわ! 斧の刃が欠けてる!」
ゴート二世
「おーおー、こりゃ見事なもんだな、引っかき傷ひとつついてねぇや」
キリク
「そんなー!」
ラピス
「こんなこともあるわよ、また挑戦しましょ」

キリク
「おりゃあぁぁぁ~!」
ルビー
「おやおや、また無傷だね」
チェ=パウ
「ねえ、相手が死んじゃってから叩いて傷つけるんじゃダメなの?」
ルビー
「それがねぇ、生きているときなら少しは柔らかいけど、死亡した途端硬度が増すんで、もうどうやっても大きく割るのは無理らしいんだよ」
チェ=パウ
「ねー、キリク、無駄だってー」
キリク
「……も……もっと早く言って……疲れた……」
ゴート二世
「これはアレか、傷物のほうがレアだったってオチか」
ラピス
「ルシオンによると、一応傷物は普通に手に入るってことになっている、らしいけど……」
ゴート二世
「うっそだろ。どいつもこいつも無傷じゃねーか。
執政院のデスクワークに何が解るってんだよ。
大体あのクソ硬い上に攻撃がバカ重いアルマジロの件だってなー」
ルビー
「そんな事言っていても仕方がないだろ? 
ほら、キリク、そろそろ諦めな。行くよ」
キリク
「僕がただの破壊で失敗するなんて……。
僕の存在意義って……」
ゴート二世
「上には上がいるってこったろ。ほら、行くぜ」
キリク
「う~……」

ルシオン
「最近キリクが第三層に行くと、何だか鬼気迫る顔で亀を攻撃するんですけど……
何かあったんですか?」
ゴート二世
「んー、あいつはあいつなりに、ソードマンとしてのプライドが芽生えたってことだろ?」
ケイン
「そーか? ただキレてるだけなんじゃねぇか? 最近あいつちょっと怖いぜ」
ルシオン
「やっとお金が貯まったことですし、星砕きの戦斧が買えそうです」
ゴート二世
「ああ、ソードマン最強の武器ってやつか。今なら喜ぶだろうな」
ケイン
「なんか、○○○○に刃物って気がしなくもない」

キリク
「よーっし、待ってろ亀! この最強の斧で、今日こそお前の甲羅を砕いてやるぞッ!」
チェ=パウ
「わーい、ノリノリだ!」
ルビー
「ヤケクソって気がするけどね」
ケイン
「あの亀の甲羅って、最強の盾が作れるんだよな?
最強の盾と最強の矛がぶつかったらどうなるかっていうたとえ話があったなー」
ゴート二世
「まー、そのうち何とかなんだろ? 
ぶっちゃけランダムかもしんねーし」
ルビー
「こら、身も蓋もないこと言うんじゃないよ。
ま、博識10のあたしがいるから、そのうちなんとかなるだろうさ」
チェ=パウ
「オトナの話だね?」
ゴート二世
「システムの話だ」
キリク
「リセットの嵐も今日で終わりだー!」

ゴート二世
「……おー、さすが星砕きの戦斧には刃っ欠けどころか傷もねぇ。
さすが最強の斧だな」
ルビー
「……甲羅、傷なし。うまくはがれそうだよ、持って行くかい?」
キリク
「要らないよ!」
ゴート二世
「どうどうどう」
チェ=パウ
「全然壊れないね。うーん、他に打撃系っていうと、メディックの技でヘヴィ・ストライクってのがあるよね?」
ラピス
「い、いやよ! 私、そういう野蛮なことはできないわ!」
キリク
「野蛮……そうだよね。
僕は最強の斧にヘルズクライまで使ってるのに、その野蛮なことも満足に出来ない、できそこないのソードマンなんだ……」
ゴート二世
「落ち着け落ち着け。だから、多分運が悪かっただけだって」
チェ=パウ
「今ちょっと思ったんだけど、効率よくダメージを与えるために、みんなの武器に氷属性入れてるでしょ。それがまずいのかなぁ?」
ゴート二世
「そういや、まあ、蝶の羽を傷つけずに取るなんて時も、属性武器でやれるもんなー。
その逆って事か?」
チェ=パウ
「うん。今はダメージ効率重視で、キリクは氷属性にヘルズクライ乗せて、ダブルアタック狙いでしょ。
氷なしで戦ったら、確実に『壊』属性だけ入るから、壊せるようになるんじゃないかな」
ルビー
「なんかシステム寄りの話になってきたね。つまり、次から付与なしでやったらどうかってことだね」
キリク
「賭ける。僕は賭けてみるよ!」
ゴート二世
「おし、じゃあその方向でもっかい行ってみるか。
……そろそろキリクのテンションがおかしくなってきたからな」

キリク
「パワークラッシュ、パワークラッシュ、パワークラッシュ! とどめッ!」
ルビー
「……この甲羅は取れそうにな……」
キリク
「次ッ!」

キリク
「くぅだけろおぉぉぉ!」
ゴート二世
「お、やった! 割れたぜ!」
キリク
「ぜぇっ、ぜぇっ……」
ルビー
「うん、綺麗に取れそうだ。これなら使えるよ。
がんばったね、キリク」
ラピス
「おめでとうー!」
キリク
「ははっ、やった……」
ゴート二世
「うし、甲羅かついで凱旋といこうぜッ!」

チェ=パウ
「キリク、嬉しそうだね。良かったね」
ルビー
「そうだね。ふふ、たまにはああやって何かに一生懸命になるのもいいことさ」
チェ=パウ
「……ねえ、セカンド、よーく考えたらさぁ、スキルには属性付与効果乗らないんだよね?」
ゴート二世
「まァな」
チェ=パウ
「ってことはさ、別に最初っからパワークラッシュ連続にしなくても、とどめだけパワークラッシュにしとけば良かったんじゃない?」
ゴート二世
「…………そうなるか」
ルビー
「キリクには黙っておきな。
結局甲羅が割れたのがランダムのなせる業なのか、斧で割れたのか、よくわかっていないんだからね……」
チェ=パウ
「そういえばさ、確かこの甲羅で作れるものって、二種類あったんじゃなかったっけ?」
ルビー
「そうなのかい? 
まあ、後一枚くらいなら何とかなるかねぇ?」
ゴート二世
「どれどれ? 
……えーと、聖騎士の鎧・千年甲羅(傷物)一枚。
今回作ろうとしていたのはコレだな? 
それから、殺戮の盾・千年甲羅(傷物)五枚と……」
ルビー
「…………」
ラピス
「ご…………」
チェ=パウ
「…………」
ゴート二世
「このこと、キリクとルシオンには内緒な」