TRPGリプレイ【置】CoC『夢の果てならきみが正しい』 佐倉&牧志 6

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こちらには
『夢の果てならきみが正しい』のネタバレがあります。

本編見る!
KP
二人と一頭が前を向けば、鳥は神の声でひとこと鳴いた。
遠い山影を目指して、ゆっくりと浮き上がる。
佐倉 光
「あそこには、何がある?」
なかば独り言のように呟いた。
ウマの体の中ぷかぷかと浮かんでいる粉々になった牧志の人形の欠片たちを見つめて。
目玉が? 頭が? それとも

たまにレーダーを確認する。
KP
瓶の中の眼は山影をじっと見つめている。
その視線に迷いはなかった。
牧志 浩太
「なんだろうな」
牧志がぽつりと呟いた。
牧志 浩太
「分かるんだ。何かあるのは」
牧志が微かに、不安そうに呟きを返した。
佐倉 光
「確かめる。今までだってそうしてきたんだ」
牧志 浩太
牧志はあなたの言葉に、はっと目を開いた。
偶然だろうか、ふたつのその眼は、きちんと正しく牧志の顔の位置にある。

「そうだな、そうだった。
行って、確かめて、そうして。
対処するんだ」
KP
ふと視界の端、山へと続く長い長い灰白の大地の上に、何かの影が見えた。
佐倉 光
「なんだ、あれ」
見下ろして、良く分からなかったら船を寄せよう。
KP
視界の端が揺らぐ。
それらは、四足歩行の大きな獣のような形をした影だった。
しかし不明瞭に揺らめく輪郭が妙に儚げで危うい。

似たような影がいくつもゆらゆらと現れて、まるで狼の群れであるかのようだ。

それらは何か丸いものをくわえて、等間隔に道に置いては消えて行く。
道を作るかのように。そうしてあなた達を迎え入れるかのように。

▽技能判定〈目星〉
佐倉 光
1d100 88〈目星〉 Sasa 1d100→ 13→成功
佐倉 光
「何だ、あれ」
船を寄せ目をこらす。
牧志 浩太
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 5→決定的成功クリティカル)!
KP
影が置いてゆくものは何なのか。あなた達は船を少し近づけて目を凝らす。

それは無数の目を閉じた人間だった。
目を閉じて眠るような人間だった。

いや。
灰白の荒野の中で眠るそれらは、葬るように装飾具や花で飾られた、人々の生首だった。

SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
佐倉 光
1d100 37 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 39→失敗
SAN 37 → 36
牧志 浩太
1d100 《SANチェック》 44 Sasa 1d100→25
おっとコマンド間違い。牧志は成功

佐倉 光
「く、首だ! 首だ! 首だ!!」
求めていたものを見て著しく落ち着きを失う。
船の端から乗り出すようにしてのぞき込む。
佐倉 光
「牧志のは? 牧志のはないか!?
下半身だってこんな感じに、本物に混ぜられていたんだ!」
牧志 浩太
「佐倉さん!」
危うく船から落ちそうなほどに乗り出すあなたを、牧志が慌てて抱え込む。
佐倉 光
「うわ!? あ、ああ」
牧志に抱え込まれて我に返る。
牧志 浩太
「落ち着いて、今の所俺のはないみたいだ。
少し船を寄せて、あいつら追いかけていこう」
佐倉 光
「わ、わかった。悪い」
牧志 浩太
「いや、大丈夫。ちょっと驚いたけど」
KP
生首を飾る装飾具や花に色はなく、彼らもこの色のない世界の一つであるようだった。
色も命もない世界だというのに、あなたが求める人形の首だけはない。
牧志 浩太
牧志は脇腹から生えていたもうひとつの頭を根元からちぎると、彼を見張りのように船首の横に置いた。
牧志 浩太
「俺も佐倉さんと話したいし、後で交替な」
もうひとつの牧志は船首にへばりついて、そんな声を発した。
佐倉 光
今度別れるときはひとかけついてきて貰おう……そんなことを思った。
KP
二人? と一頭を乗せた船は滑るように進む。
微かな風の音さえ聞こえない静寂の荒野を。
生首を置いてあなた達を導く影たちにも、音はなかった。

あなた達の会話と牧志の立てる音、偶に混じる馬の鳴き声だけがそこにある音だ。
KP
ふと背後を振り返れば、長い長い道ができていた。無数の眠りでつくられた長い道。
前を向けば、遠くに見える山影は変わらず霞む。
ちっとも近づいたように見えない影は、ただの蜃気楼なのではないかとも思えた。
佐倉 光
「なんなんだ、ここは。
前に来たときにはこんな所は見た事がないな。
ドリームランドも広いんだろうけど」
ぐるりと見渡す。
佐倉 光
「ここは誰の夢なんだろう」
牧志 浩太
「誰の夢か。誰の夢かなんて、考えたことがなかったな。
最初に来た時はどうだったんだろうな。あいつは俺の夢を奪っていったけど、俺の夢だったのか? あれは」
牧志 浩太
「寝られなかった時は夢と現世がごっちゃになってたけど、俺達は夢を見てたわけじゃなかった、たぶん」
船首から下を眺めていた牧志が、下を向いたまま言った。
佐倉 光
「そうだな。夢、だからって、誰かのものってわけじゃないのかな。
そういえばこっちには緋寒や深山もいるはずだったけど。
あいつら、元気かな……」
牧志 浩太
「そうだな。あいつら、元気かな……。
どういう所で暮らしてるんだろうな。あの二人なら、化け物がいても軽く倒せそうだけど」
牧志 浩太
「言葉は分からなかったとしても、人のいる所だといいな。
二人とも、話すの好きそうだったから」
佐倉 光
「ドリームランド地誌によれば、この世界にも人が住んでいる場所は普通にある筈なんだ。
だけど前回も今回も、化け物だらけの所ばかりだな」
牧志 浩太
「人間みたいな人達はいたけど、人はいなかったな。
人の住んでる地域と、化け物だらけの地域に分かれてたりするのかな」
佐倉 光
「きっとあいつらなら、どんなところでもやっていけるさ……」
牧志 浩太
「そうだな、きっと。
もしあの二人しかいなくても、楽しくやってそうだ」
佐倉 光
並ぶ生首を見ていると、それが生きていたものの一部だという意識がなくなって行く。
それはただ少し異常な、在るだけのものだ。
KP
牧志もきっと少しそうなのだろう、続いてゆく道を眺める牧志の姿に痛みはない。
KP
色のない風景は静かに実感を奪ってゆく。並ぶ生首はもう幾つあるのか分からず、ただ風景の一つだった。
佐倉 光
この奇妙な首の列は誰のためのものなんだろう。
牧志の首があったときに見落とさないよう、首の列をじっと見ている。
KP
変わらず、そこに赤い痣を刻んだ首はなかった。
この道はあなた達のための葬送なのか、それとも他の何かのためなのか、それさえも分からなかった。
KP
どこまでもどこまでも道は続く。
どこまでもどこまでもあなた達は行く。

どこまでもどこまで行っても、空の色は変わらない。
常夜だ。
KP
あなたはふと、自分が空腹を覚えていないことに気づいた。
随分疲れたと思ったのに、気のせいだったかのようにその感覚は消えている。
いつもの痛みも、気づけばない。

なぜだろう。夢だからだろう。いや、そうだ。夢だから。夢だけれど。それでも。

▽技能判定【アイデア】
佐倉 光
俺は、生きているのか?
俺は、俺なのか?
俺は
1d100 85 【アイデア】 Sasa 1d100→ 4→決定的成功クリティカル)!
佐倉 光
今回クリティカル多いな!?
KP
すごいな!?
佐倉さんの執念を感じる
KP
あなたは突然、自身に対して間違っていると感じた。
はっきりとした、明らかな違和感だ。

違う。
これは、違う。
それは、意味のわからない確信だった。

ここにあなたがこうしていることこそ、おかしいことなのだ。
佐倉 光
「俺は、ここにはいない……?
俺は、俺じゃない?」
指先を見つめる。
牧志 浩太
「佐倉さん?」
不安そうに牧志があなたの手を取った。
佐倉 光
「そうだ、だって俺は……俺……」
ここにいないはずなんだ。いるわけがないじゃないか。
牧志 浩太
「佐倉さんは佐倉さんだよ。ちゃんと、ここにいる」
彼はあなたの手を取ってあなたに示す、それでも違和感は消えない。
彼の声はどこか不安そうで、確かめるように触手があなたの手に巻きつこうとする。
佐倉 光
「いや、きっと」
触手を掴んで自分の胸に当てた。
佐倉 光
「俺は、あそこにいる」
指さすのは船の外だ。
牧志 浩太
「えっ?」
牧志たちは声を揃えて下を見下ろした。
あなたの胸で、触手が戸惑うように蠢く。
牧志 浩太
「いなかっただろ、知った顔なんて。……佐倉さんも」
佐倉 光
「いや、その理屈ならここにもいるのかな」
苦笑してウマの方を見る。
佐倉 光
「そして同時に今はどこにもいない。
そういうことなんだろうな」

理屈じゃない。
ずっとそんな気もしていた。
俺たちが集めているのは何なのか、悪魔に襲われない俺は何なのか。
佐倉 光
「まあ、もしそうだとしても、俺が自認佐倉である限りは『ここにもいる』けどね」
飛び去る景色の無数の頭を見下ろしたままで手に取ったままの牧志の体を胸に押し付けた。

こっちは理屈では分かっている。だからきっと大丈夫。
KP
馬は相変わらずあなた達のことなんか知ったことではない様子で、ブルルと唸った。
佐倉 光
推測をもとに適当ぶったけど大丈夫かなこれ。
そうだとしたら、できたて牧志レーダーと目があったのはそういう……!
牧志 浩太
「ここにもいるし、どこにも……、いない」
牧志は不安そうにあなたの言葉を繰り返した。
また背中からもう一つ頭が出てきて、真っ黒な空を、真っ白な地平を見回す。
牧志 浩太
「そうだな、そうかもしれない。もしかしたらそうなのかもしれない。
俺も何だか変だ。
何が起きるか分からない場所なのに、佐倉さんの気づいたこと、すぐに否定しようとしてる」

胸に押しつけられた触手がするするとあなたの手に伸びて、指先に巻きついた。
佐倉 光
「色々あったけどさ。ありすぎたけどさ。
楽しかったよ、この世界で、スライムになったお前と旅するの。
怖いし気持ち悪いし、まあ、そればかりじゃないユニークなこともあったけど、楽しかった」
佐倉 光
「変な魔法も使えて面白いし、もう少しこのままでいたいよな」
佐倉 光
「けど、そろそろ起きないと。脳味噌溶けちまう」
佐倉 光
延々と続く世界を変に穏やかな気持ちで見渡した。
牧志 浩太
「もうすぐ起きないと……、か」
あなたの腕に縋っていた触手がするりと外れ、握りしめられた牧志の拳になって、とん、とあなたの胸を押した。
牧志 浩太
「そうだな、起きないと」
牧志 浩太
「目を、覚まさないと」
ふたつの牧志が同時に、前を向く。
その声には不安と共に、どこか覚悟が宿っていた。
KP
いつの間にか、船の周りには不定型の獣の影が群れていた。
けれど恐怖は感じないだろう。まるで取り囲まれているかのようであったが、影たちはあなたに無関心だ。

揺らめいては消えて、また現れ、老いた狼のように弱々しく歩き、また消えて、また現れる。
その行動に目的はなく、この凍てつく荒野を徘徊するだけの寂寞な群れであるように思えた。
佐倉 光
指先に炎をともして虹色に揺らめかせる。
佐倉 光
「目を覚まさなきゃな……」
MP 3→1
KP
虹色の炎が、辺りを穏やかに照らす。
佐倉 光
「ありがとう、牧志」
牧志 浩太
「いや。
こっちこそ、ありがと……、」

牧志が言いかけたその時だった。
獣のうちの一つが不意に鋭く頭を上げ、吠えた。
KP
『うそつき』
KP
その言葉は、あなたの傍らの── 牧志に対して放たれた。
牧志 浩太
瞬時に触手がしなった。
ふたつの牧志から同時に触手が放たれ、獣の胸の中心を貫く。
KP
影は霧散して掻き消えた。
牧志 浩太
影のあった場所を呆然と見やって、牧志はこちらを振り向く。
1d100 44 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 33→成功
佐倉 光
おやおや。ちょっと予想外の方向来たぞ。
佐倉 光
この世界の何かがどう言おうと、気にするほどの事もないはずだ。
それなのに牧志はその言葉を封じた。
静かに問いかける。
佐倉 光
「何か知っている?」
牧志 浩太
「ち……、違う」
牧志は恐れるように背を丸め、目前の道から、あなたの静かな声から、あなたの両眼に宿る真実の光から目を背けた。
牧志 浩太
「違う、佐倉さんはここにいる。ちゃんとここにいる」
背筋ががたがたと震えて、背を引き裂くようにもう一つの頭が飛び出した。
牧志 浩太
「違う行かないと、目を覚まさないと。気づいたんだ。気づいてくれたんだ気づいてしまったんだ」
胸を引き裂くようにもう一つの頭が飛び出した。
牧志 浩太
「違う、夢を見ていないと、いないと」
頭を二つに裂いてもう一つの頭が飛び出した。
牧志 浩太
「殺した」
あなたの胸に伸ばしていた手を引き裂いてもう一つの頭が飛び出した。
牧志 浩太
「殺してない」
頭が大きな顎を生やして齧りつくように背に噛みつき、その中からもう一つの頭を引きずり出した。
牧志 浩太
「死んでない」
船首に立っていた牧志がその口の中に飛び込んでもう一つの頭になった。
牧志 浩太
「壊した」
すべての頭が枝分かれして二つに、二つの頭が四つになる。
牧志 浩太
「俺だ」
無数の眼が全身に開いてそこから頭が生えた。
牧志 浩太
「違う」
牧志 浩太
「俺じゃない」
牧志 浩太
「違う」
牧志 浩太
「違う違う違う」
牧志 浩太
「行かないと。目を、覚まさないと」
牧志 浩太
「でも」
牧志 浩太
「認めてしまったら」
牧志 浩太
無数の叫ぶ頭の塊になり無数の声で振動しながら牧志は人間めいた形を失いはじめていた。
佐倉 光
ああー、なるほどそういう。
こっちに《SANチェック》与えてこないでw
KP
そういうやつでした、と言いつつ実はまだ明らかになっていないことがもうちょっとだけあります。

勢いよく演出を盛りすぎて割と《SANチェック》ごめん佐倉さん。
うっかり物理に反映されちゃうボディだったがばかりに。
佐倉 光
ああ。そういうことか。
最後のピースがはまった気がする。
佐倉 光
「なんだよ、俺また死んでんの?」
長いため息をついた。
最近お互い死んだり死にかけたり本当に多過ぎじゃないのか。

そして目の前でぐねぐねと混乱して形を失って行く牧志の……肩に手を置いて目を……多いよ。多過ぎだ。
どうしようわからん。
仕方ない。無秩序な動きをなだめるように不定形の牧志を抱く。(〈精神分析〉
佐倉 光
「落ち着いてくれ。これじゃあ話もできない」

だから不定形だったのかな。
認めたくなかったから? どうしたらいいか分からなかったから? 自分を否定したくなったから?
牧志 浩太
あなたの腕に動きを止められ、牧志は一瞬その腕を恐れるように凍りついた。

氷の塊にでもなったように、全身の動きが止まる。
牧志 浩太
「……ごめん。そうだな、落ち着かないとな」

牧志はあなたの腕の中で凍ったまま、恐る恐る息を吸い、吐くようにして緩やかに身体を流動させる。
佐倉 光
今見えてる範囲でこんなかんじってのをぶちかましつつ進むぞ。
KP
どうぞどうぞ。
佐倉 光
「お前は俺を壊して殺したと思ってんだな。
そうかも。俺は粉々になった気がしたし、ここにいる俺は『間違っている』って確信がある。
俺の目の前にいるスライムが牧志浩太だっていう確信と同じくらいはっきりしてる」
牧志 浩太
「そうか……、分からないんだ、俺にも、ちゃんとは。覚えてない、思い出せない。

どうしてそんなことをしてしまったのか、本当にそうだったのか、でも。本当は分かってる気もする。あいつの言う通りで、きっと、俺、知ってて嘘をついてたんだ」
佐倉 光
「同時に。もう言ったと思うけど、
俺は病院で眠り続けているお前を知っている。

悪いけど、お前が書いた日記、読んだよ。
お前は何か忘れたいくらい酷い悪夢を見たと書いていた。
それからずっと目覚めていない。五日も昏睡状態なんだ。

俺が知っている現実では、お前は俺を殺してなんかいない」
牧志 浩太
殺してなんかいない。
あなたの力強い言葉に、牧志は一つだけに戻った頭部をもたげてあなたの眼を見返した。
牧志 浩太
「そうか、そうなのかな。そう……、かな。

そう、だとすれば。
そう、じゃなくても。

目を、覚まさないと、いけないよな」
佐倉 光
「何かが間違っているか正しいかなんて俺には分からない。
ただ確実なのは、俺もお前もこのままここにいれば粉々になって死ぬ。
このいちいち物騒な夢に殺される。
そうでなくたって、人間の俺達は寝続けて健康でいられるようにはできてねーからな」
佐倉 光
牧志を元気づけるように頷く。
佐倉 光
「起きて、本当の事を確かめに行こう。
もう知ってて見たくねぇってんなら『この俺』が一緒に行ってやる」
牧志 浩太
「そうだな。
佐倉さんも俺も大変な目に遭ったし、俺なんか殺されかけてたもんな普通に。

……ありがとう。そうだな、行こう。
目を覚ましに」
一度謝りかけて、言い直した。
彼はあなたの手を取り、前を向く。
佐倉 光
「もしマジで俺が死んでたら。そうだなー」
佐倉 光
「今度はもうちょい平和な夢で遊ぼうぜ。
俺最近グロには食傷気味でさぁー」
明るく笑う。
牧志 浩太
「……、そうだな。
その時は、緋寒と深山と一緒に遊ぶ夢にしよう。それがいい」

あなたの明るい声に合わせて、彼は笑おうとした。
とても笑えている声ではなかったが、泣きそうな顔で笑っているのが見えるようだった。
佐倉 光
酷な言葉だとは思ったけど、いつまで俺が俺のままでいるか分からなくて、真実がどこにあるか分からない以上、約束はしておきたかった。

KP
そのうちに、境界で明確に隔たれているかのように空が真っ白になる地点に辿り着いた。
夜明けと呼ぶには乱暴な、造りもののような白色だ。

その黒と白の境界。最後の道程であると合図するかのように、ひとつの生首が置かれている。
牧志 浩太
「……頭だ」

牧志がぽつりと呟く。
その生首をよく見れば、牧志の頭だった。
首筋の赤い痣が、何一つ色のない地平で目をひきつける。

▽技能判定【アイデア】
佐倉 光
「あったのか、頭!」
船を寄せて速度を落とす。
1d100 85 【アイデア】 Sasa 1d100→ 3→決定的成功クリティカル)!
佐倉 光
今回クリティカルまみれだな佐倉。
KP
佐倉さんの執念がすごい。
相棒を取り戻すことへの執念なのか、それとも真実への執念なのかもしれないな、と終盤の【アイデア】ダブルクリティカル見て思っています。
KP
ああ、そうではない。
それは牧志の頭ではない。
そうではないのだ。あなたは知っている。

視界が掠れ、生首の輪郭が歪む。別の形になりかける。

けれどそれは一瞬のことで、あなたの眼前の光景はすぐに元通りになる。
それでもあなたは確信していた、そうではないのだと。
佐倉 光
拾いに行こう。あれは佐倉光の頭だ。
船を止めて降りる。ウマにも降りて貰おうかな。
もしかしたらここで全部揃うかも知れないから。
KP
それは牧志の頭にとてもよく似ていたが、やはり人形のように無機質で硬い。
耳と眼球がなく、その代わりに眼窩に白い花が生けられていた。

持ち上げれば軽く、断面から石膏の質感が覗いていた。
佐倉 光
「なんだこれ」
美術室で見た事あるようなないような。花を飾るな花を。
KP
あなたがそれを拾いあげた時、空間は黒さえ失って、全てが白に染まった。
しかし、やはり不思議とその白に眩しさはない。寂しく廃れた灰白色だ。

あなたの目の前にはいつの間にか、ぽっかりと空間に浮かぶように、山々が聳え立っていた。
そしてその山々の風景すら、どこか造りもののように無機質に感じられた。

山に入るための道には、巨大な門が構えている。
あなたの何十倍はあろうという大きさで、豪奢な飾りがほどこされた西洋風の門だ。
牧志 浩太
門を見上げながら、牧志は静止する。
彼の喉の辺りから空気が漏れ、頭部が微かに上下する。それは小さく息を呑むような仕草だった。
微かな躊躇いが喉から漏れてあなたの足元にぽとぽとと落ちた。
佐倉 光
「なんか世界全部が作り物みたいだな。
そういえばお前、ジオラマを見たって言ってなかったっけ? 凍った山とか猫だらけの街とか」
ウマに『頭』を乗せながら言う。
『牧志の頭』はずぶずぶとケルピーもどきに回収されてぷかりと浮かんだ。
佐倉 光
「ここ、ジオラマん中じゃないの?」
牧志 浩太
「ああ、見た。
……そうか、あのジオラマの中か。

そう言われれば、似てるような気もするな。
この門も、なんとなく見たような気がする」
牧志 浩太
牧志は一度、緩く辺りを見回す。
「そうか、あの中か。
だとすると俺達、小さくなって走り回ってたんだな」
佐倉 光
「で、お前はそこに置いてあったフィギュアを壊して、だからそれが散らばってて……って、そこまでは何となく納得がいくんだ。
どうしてそれが俺を殺した事になるんだよ?
お前的に、ここにいる俺って何なわけ?」
話せないようならレーダーを見るよー。
牧志 浩太
「ごめん、分からない。まだ思い出せないことがあるみたいだ。

でも、この先に行けば、何か分かるような気がしてる。
思い出すだけ、なのかもしれないけど」

牧志は門を見上げる。
その足元に躊躇いと恐れらしい、反対向きに触手を生やしてもがく塊やら、小刻みに震える塊やらが降り積もっていた。
KP
あなたが瓶を見ると、瓶の中の眼は……、なぜか牧志を見ていた。
眼は微睡むように浮いては沈みを繰り返していて、瓶を持つ感触もなんだか曖昧だ。
あなたの見る夢が薄れかけているのかもしれない。
佐倉 光
砕けたのが俺。それに反応するのがこれ。だとすると、あの灰色の欠片やらこの牧志も俺ってことになっちまうよなぁ。
どう考えたものやら。
いくつかパターンを考えたが、情報が足りない状態でどれだけ考えても暇潰しにしかならないなと横に押しやる。
確かめに行くって決めたんだ。
佐倉 光
「そもそもこれは、どこにあるジオラマなんだろうな?」
牧志の手を引いて歩く。
牧志のため、自分のため、というよりも、強い好奇心に衝き動かされるように。
船や馬に乗るよりも、歩くのがふさわしいと思えた。

あの門の先には、俺が知らない何かがある。
牧志も全部は知らないのかもしれない。
知りたい。
牧志 浩太
「どうなんだろう、あの部屋の外のピンク色の空は、この世界に似てたような気もするんだけど。

……ああ、そうだな。この先には何があって、何が待ってるんだろう。
見たいな」

ふっと、牧志が微笑んだ気がした。
彼はあなたの急くような姿に、あなたを見いだしたらしかった。

彼はあなたと手を繋ぐ。
ぼろぼろとこぼれる怖れと躊躇いをその場に置いて、一度強く地面を踏みしめ。

門を、押し開ける。
佐倉 光
目玉……そういえば目玉がないなぁ。
牧志が目玉? いやー、どうだろう?
佐倉 光
一緒に門を押し開けよう。
KP
一緒に門を押し開けようとした時……、
あなたの腕が、身体が、揺らいだ。
牧志 浩太
「佐倉、さん」
彼はあなたの名を呼ぶ。
あなたという存在がそこにいることを、確かめるように。
KP
けれどあなたの体の輪郭は、その声を拒むように揺らぐ。先ほどの、不確かな影の獣のように。

揺らぐ。
揺らぐ。
揺らぐ。
佐倉 光
「あっ」
もうここにはいられない。
ここではないどこかに俺は……いるのか?

いるに決まっている。
そしていつだって、牧志が俺を、見つけ出して……


できる限りドアを押しながら、牧志に声をかけた。
佐倉 光
「進めよ? 牧志」
牧志 浩太
その一瞬、彼はあなたを振り返った。
その一瞬だけ、いつも通りの、ひとりの人間の姿の彼の眼が、あなたを捉えた。

もう少しだけ、と望むように。
彼はあなたの手を掴む。
牧志 浩太
そして彼は、もう一度だけ夢を見る。
1d100〈夢見〉 Sasa 1d100→61
1d100〈夢見〉 Sasa 1d100→100→致命的失敗ファンブル
1d100〈夢見〉 Sasa 1d100→98→致命的失敗ファンブル
佐倉 光
なに。
何見ちゃったのよ。よりによってこんなシーンで。
KP
まさかのダブルファンブルかぁ。
KP
ああ、夢が、覚めてしまう。
KP
1d100 44 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 16→成功
1d3 Sasa 1d3→2
SAN44 → 42
ここ、成功時の減少値を間違っています。
牧志がニョグタを視たことによるSANチェックを忘れていた分の補填で追加したSANチェックなので、本来は1d6/1d20でした。
気づいたのがだいぶ後だったので、そのまま進めています。

KP
……
あなたの眼前には無限がある。
遠く、奥から光が射している。

あなたの周囲のなにもかもが曖昧だった。
いや、あなたには分かる。
あなたが曖昧なのだ。あなたの体の輪郭はあの影のように揺らめき、朧げな泡を立たせながら溶けようとしていた。
あなたはそんな曖昧な姿で、縞瑪瑙でつくられた回廊の中に立っていた。
傍らに牧志の姿はなかった。あなたはひとり、立っている。

回廊は、まるで城や宮殿の内部に踏み入ったかのように途方もなく大きい。
天井は高く、先が見えないどころか上へ上へと拡がり続けているようにすら感じられる。

そう、拡がり続けているのだ。
建物自体が蠢動し、変化し続けているのだ。
あなたは立ち止まっているはずなのに、そんなあなたを気にも留めず城は拡がり、あなたの居場所は移り変わる。

あなたという矮小な存在を無視する。この城は『端』も『隅』も『果て』も示さない。

動く。拡がる。変化し続けている。くるくると回る万華鏡の中に立たされている。
そんな縞瑪瑙の景色はあなたに目眩を誘った。

▽判定【CON】×5
▽技能判定〈目星〉または【アイデア】
佐倉 光
1d100 30【CON】 Sasa 1d100→ 42→失敗
1d100 85 【アイデア】 Sasa 1d100→ 58→成功
佐倉 光
ここはどこだ? 俺はどこにいる?
俺は、夢の中に溶けかけている?
それとも俺は、そもそも存在しない?
KP
ぐるぐる、ぐるぐる、くらくら。ぐらぐら。
縞瑪瑙の景色は眩暈を誘う。
あなたは平衡感覚を失い、立っていられなくなる。
距離も大きさも何もかもが曖昧のまま、あなたは膝をついてしまう。
MP-1。

その中でも、あなたはこの空間に目を凝らす。曖昧の内側にあるものを理解しようとする。
無限の回廊はいつの間にかきらびやかな庭を映し出し、その景色の奥に無数の塔を現わした。
これらの塔もまたはてしなく大きなもので、あなたひとりで登り切るには何年とかかるかもしれないと思わせる。

あなたにはわかる。これは、人がいるべき場所ではない。
これは、神々のための城だ。
しかし MPがたりない!
佐倉 光
はーい、KP。MP1しか残っていないので気絶します!
KP
MP1回復するまで休息することで、再び回廊の中で目を覚ますことができます。
ただし、時間経過中に牧志に1回《SANチェック》が発生します。
または、ここだけの特殊処理として、四肢のいずれかを一時的に失うことで即座に目を覚ますことができます。
これはシナリオクリア後には持ち越しません。
佐倉 光
なんそれ。じゃあ女神転生系主人公っぽく左腕なくしとくか。
牧志と繋がっていた右手は無事だ。
KP
あ、目覚めた時点でMPは1となります。
佐倉 光
賑やかしのお遊びで火なんか出すんじゃなかったね!
使ってみたかったんだもの魔法!
KP
わかる!!
まさかこんなタイミングに丁度MP0がぶつかっちゃうとは。

KP
あなたはその光景を最後に、観測さえあたわぬ、夢の真っ暗な深淵へ落ちていく……。
佐倉 光
頭がぐらぐらする。酷い目眩がする。
塔が、回廊が視界に踊る。

俺が俺で在り続けられるなら、動かないと。
牧志を探して、合流……して……

意識が途切れた。

KP
あなたは暗い所に漂っていた。
観測さえあたわぬ、夢の暗い暗い深淵に。
あなたの心を削ってゆくあの壊れた夢の中で、ここ最近日常となっていた、あの夢も見ない眠りに少し似ていた。
それはひどく穏やかな眠りに思えた。
なにもない、なにもないところだ。
なにもない穏やかさはあなたを惹きつけた。

ここでゆっくりと休めば、きっとまたあなたは動き出せるだろう。進めるだろう。
KP
穏やかな休息を望まないのであれば、
すぐに戻りたいと望むのならば、
あなたはもはや消えかけている夢の残滓、あなたのその身体を分解し、残された力(【MP】)を引き出さねばならない。
佐倉 光
もう限界だ。動けない。眠りたい。休みたい。
ここにいれば、夢に侵されることなく休める。
安全に、力を蓄えられる。
今は休むべき。
佐倉 光
そんな場合か!
俺は「一緒に行く」ことにしたんだ!
寝こけてる場合じゃねぇぞ!
佐倉 光
夢によって形作られた自分の体は、この世界において力そのもの。
力に戻してしまえば、動ける。
左手に小さな手斧を持つ自分の姿が浮かんだ。
あの時もそうだった。悩んだり恐れている暇などない。
佐倉 光
冷徹な意思もて振り下ろせ!

※素早く行動するために自ら一度切ったことのある右腕をMPに変換する。足は歩くのに必要だから使えない!
KP
ずだん、という強烈な音はあの時よりも弱かった。
痛みはない。感じたと思っても一瞬で消え去る。
右腕が瞬く間に影と変じて蒸発する。

意識が酔う程の速度で浮き上がっていく。
佐倉 光
今は逃げたり迷ったりしている時じゃない、目を覚ませ!

KP
あなたは回廊の中に着地した。
少し奥に小さな広間ができており、上の吹き抜けから白い光が降り注いでいた。

強い光。
直視しては失明も免れまいというほどの強烈な光。
佐倉 光
眩しさに目を細める。
探す。探す。
KP
影を許さぬその光に照らされて、不定形の怪物がその場に落ちていた。
佐倉 光
息をのむ。
急激に踏み出そうとすると、右腕を失ってバランスが悪い体がふらりと揺れる。
KP
そのかたちがみるみるうちに変じていく。

突き出した手がもがきながら本来の色を取り戻していく。
水から飛び出すように爪先が生じ、ぼこりと出た塊が割れて脚が生じ、よからぬ場所をさまよっていた脚が肉体の軋む音を立てながら本来の位置へ移動し、外部の力に引き裂かれるようにして肩が叩き出され、骨と関節のごぐんと鳴る音がし、胞が集まって皮膚の奥へと潜り込み胴体を形成し、最後に頭部をかたちづくった。
牧志 浩太
そこにいたのは、もはやあなたのよく知る彼だ。
怪物などではない。ひとりの人間である、牧志浩太。

彼は見開いた両眼から壊れたように涙を流し、光を浴びたまま崩れ落ちていた。
佐倉 光
「牧志!」
叫んで駆け寄ろうとしたが、思うように走れなかった。
案外、立つだけ走るだけでも腕一本なくなると影響がでかいな!
佐倉 光
「牧志!」
声を上げながらできる限りの速さで前へと進む。

KP
休息すると牧志に追加《SANチェック》発生するのは「佐倉さんは俺に殺されてしまった」と思ったまま光の下に置いておかれるからですね。
SANチェック》明言しなくてもよかったかな。
佐倉 光
どっちにしても腕は犠牲にしたと思うのでオッケー。
KP
ありがとう……

牧志 浩太
ぼんやりと開かれていた眼があなたをとらえた。
開いていた瞳孔が縮む。眼球が動き、あなたに焦点を合わせた。
牧志 浩太
「さくら、さん」

弛緩していた口がもがき、あなたの名を呼ぶ。
床に縋るようにしてもぞりと身を起こし、あなたに近づく。
牧志 浩太
「腕……、ごめん、保たなかったのか」
佐倉 光
「俺が調子に乗って夢を見すぎただけ。寝てる暇ねーよ。行くぞ!」
手を差し出す。

体力不足な上にいきなり腕がないとなると、支えるんだか支えられるんだか分からなくなりそうだけど。
きっと一緒に歩くって事が大事なんだろう。
牧志 浩太
「待って、佐倉さん」
彼はあなたと共に光の下から這い出ると、大きく息を吐いて、回廊のへりに腰掛けた。
牧志 浩太
「思い出したんだ、全部。
俺が何を見たのか。どうして佐倉さんを……、壊したのか。どうしてあの姿になってたのか。ここはどこなのか」
牧志 浩太
「ほとんど佐倉さんの考えた通りで、そういう所すごいなって思うけど、いや、ここにいてくれてるのは俺の夢なのか?」
佐倉 光
「俺にだってまだ良く分かってないよ。情報が足りないんだ。聞かせてくれ」
隣に座る。
佐倉 光
「少なくともこの体は夢でできてるみたいだな?」
佐倉 光
腕をエネルギーにしたら動けるって直感は当たっていたみたいだし。
佐倉 光
「そのことと、俺自身が何かってのは別問題だ」
牧志 浩太
「そうだよな。順番に話すよ」

牧志は気を落ち着かせるように両手を組み、深く息を吸ってから話しだした。
組まれた両手が肌の感触を辿るようにそわそわと動く。

牧志 浩太
「最初は、夢を見たことだったんだ。
前にも話した、小さな部屋の夢。

それが佐倉さんの言ってた鍵と関係あるのかは分からないけど、俺はその鍵を見てないから、寝てる間に何かされたのかもしれない。

そこにはこの世界そっくりのジオラマがあって、人形やぬいぐるみが置かれていた。
そこに、俺の知ってる人達の人形があったんだ。
その中に佐倉さんの人形を見つけて……、面白いなって、手に取った理由はそれだけだった。

本当に佐倉さんそっくりだったし、ただの夢だと思ってたから」
牧志はそこで一度言葉を切り、胸を押さえながら大きく息を吸って、吐いた。
佐倉 光
頷く。パーツ載せたウマはここにいるのかな?
いればそちらの方を見るけど。

牧志の言葉を支えるように相槌を打つ。
KP
薄情な馬はぼんやりと薄れかけていたが、かろうじてそこにいる。

その中に浮かんでいるのは、牧志ではなく、あなたの身体になっていた。
ぽっかりと眼球に穴を開けたあなたの人形が、こちらを見ている。
佐倉 光
あの灰色の欠片の意味が分からない。
レーダーが牧志を見ていた意味も。
気になるな……と思いつつ話を聞く。
牧志 浩太
「でも」
牧志は苦しげに両手で目を覆った。肩を上下させて大きく息を吸い、吐き、その間から声を絞り出そうとする。がたがたと肩が震える。
牧志 浩太
「風が、吹いたんだ。窓が開いてたみたいで、それでカーテンがめくれた。

その向こうに。鏡が、あって。
それで見たんだ。映ってた。

最初は人間、みたいだった。俺の顔でも佐倉さんの顔でも知らない顔でもどんな顔でもあるような顔で笑って、笑ってるのに何の感情もなかった。
人間の顔なのに永遠に続く鉤爪みたいな触手でただの影で眼がそれを追いかけて止まらなくなってぞっとするくらい綺麗で醜くて霧で狼で男で女であらゆるところに満ちて目を逸らせなくて」

牧志の声は止まらなくなっていた。無限に言葉を吐き出しながら、それを止めようと両手がもがく。
KP
あなたは悪魔使いとして、直感する。
彼はその一瞬、見てはならないものを見てしまったのだ。

境界の向こうのものを。
あるいはそれに留まらぬものを。
佐倉 光
その両手に残った左手を乗せる。
意図的に低めにした声で話しかける。
佐倉 光
「鏡に映った自分が奇妙な物に見えた……ってことか?
鏡じゃなかった、ってことか、それは?」
牧志 浩太
彼は辛うじて頷く。喉を痙攣させながら、どうにか溢れてくる言葉を呑み込む。
牧志 浩太
「鏡、だったと思う。でも映ったのは俺じゃなかった。いや、俺だったかもしれないけど。
とにかく、それを見て頭がぐちゃぐちゃになって、とにかくそれから目を離したくて、持ってたものを、投げつけた。何度も何度も投げつけた」
牧志 浩太
「それが佐倉さんの人形だったってことに、辺りが真っ赤になってから気づいたんだ。
人形だったはずなのに本物の佐倉さんになって、砕けて血を流して死んでいた。

佐倉さんを殺してしまったんだって気づいて、どうにか、なんとかしようとした。
壊れたのは俺だったことにして、佐倉さんは死ななかったことにした。しようとした。夢中だった。

でも、そうしようとして、作ってしまったみたいだ。
佐倉さんがそうしたように、夢を見て。
壊れなかった佐倉さんと、ばらばらになった俺を」
牧志 浩太
「この世界はあのジオラマの中、で合ってると思う。

他の人達がいないし、ジオラマのモデルになった場所だっていうのも考えたけど、なんだろうな。雰囲気が似てる。

それにあのピンク色の空、あの時窓の外に見えた空にそっくりだ。
ジオラマからあの部屋の空が見えてるんじゃないかと思う」
佐倉 光
「なる……ほど?
それが本当に俺だったとしたら、鍵に触った直後の痛みがそれ、ということか?
俺が夢に入るまで随分あったはずだけど、それまではお前、何をしてたんだろうな?」
いまいち納得は行かないが。
牧志 浩太
「その間はよく覚えてないんだ。
ぼんやりして、ばらばらになってた。
身体を探してるつもりだったけど、何もできてなかったのかもしれない」
佐倉 光
「じゃあ、壊れて死んだ俺の代わりに、夢で俺を作った、ってのがお前の認識で、
まあ実際この体は夢でできてる。
けどなぁ、砕けた俺はやっぱり人形なワケだろ?」
首をひねる。
まだ話があるなら続きを聞こう。
牧志 浩太
「そう、なんだよな。あの時は確かに本物の佐倉さんだったはずだけど、こうやって見ると人形だ。

だからやっぱり佐倉さんは本当に外から来てくれてて、俺が壊したのは、佐倉さんの身体だけなのかもしれない。
こうやって話してたら、正直分からなくなってきた。

信じたい気持ちはあるよ、俺は佐倉さんを殺してなんかないし、佐倉さんは死んでなんかないって。
でも、あの時の殺してしまったって確信も、本物だった」
佐倉 光
「うーん。まあ夢だしなぁ……
何があっても不思議じゃないと言われりゃそうなんだけど。
あと、俺この体が消えたら、少なくとも今ここで何もできなくなりそうなのは事実だし」
佐倉 光
「とりあえず修理してみないか? そこの『俺』のフィギュア。
大体パーツも揃った事だし」
佐倉 光
「ああ、でも頭はまだつけらんねーか。目がないからなー」
牧志 浩太
「そうだな。
これでもしかしたら、壊れた佐倉さんも元に戻るかもしれないし」

元に戻る。
そう言ったときに彼は一瞬の躊躇いを湛えてあなたを見、しかしすぐにその躊躇いを振り切った。

もう、彼の喉から躊躇いがぼとぼととこぼれてくることはない。
牧志 浩太
「眼か……、ちょっと、それ貸して」
あなたが持っていた瓶に、彼は手を伸ばす。
佐倉 光
「これ? 確かに目だけど」
渡すよ。
そういえば瓶の中の目は……何色だったんだろうな?
KP
瓶の中の眼は変わらず、牧志の眼の色をしている。
牧志 浩太
牧志はその眼を上に掲げ、下ろしていく。
眼は同じ所をじっと見ている。牧志の、胸から腹のあたりだ。
牧志 浩太
「うーん、やっぱりそうだよな……。
さっき、一つ思い出したことがあるんだ。
四日間だったんだっけ、俺が何してたかってこと」
佐倉 光
「ああ」
促そう。
目が牧志の中にある?
牧志 浩太
「月面を探し回って、最初に眼球だけ見つけてたんだよ。
ただ、思った以上にその時の俺はおかしくなってて」
彼は頭が痛そうに、額に片手を添える。
牧志 浩太
「見られたくなかったか、見たくなかったんだろうな、きっと。たぶん。
それか、単純に今度こそなくさないようにしたかったか」
反対の手で腹を撫でた。そこから微かに、ごろごろという音がする。
牧志 浩太
「たぶん、この中にある。佐倉さんの眼。
ごめん、鋏か何かある?」
佐倉 光
「えー……いやお前。それ石膏か何かだろ?
つーかもうスライムになれないわけ?」
頭を抱える。
牧志 浩太
「無理みたいだ。
できないか試してみたんだけど、全然変化しない。

あの時佐倉さんの身体を作ろうとしたのにも失敗したし、たぶん俺は目を覚ましかけてるんだ」
佐倉 光
「見ての通りそんなの持ってないし、新しく作る気力もねぇよ。
こーゆー時いきなり鋏って発想になんのどうなんだよお前。下剤とか作れよ~」
牧志 浩太
「それもそうか、俺、微妙にまだおかしいな?
吐いたら出てくるかな……」
KP
その時、あなたの視界がゆらりと霞んだ。
おぼろげな視野はだんだんと狭く暗くなり、曖昧になっていく。
身体が揺らぎ、不確かになっていく。
佐倉 光
「あ、ヤバい……俺、消え……」
この不確かな状態なら、牧志の腹に手を突っ込めないかな?
佐倉 光
牧志が見ていた辺りに触れてみる。
KP
あなたの腕は服を突き抜け、牧志の腹にするりと重なった。
牧志 浩太
「う、」
呼吸に従って動く筋肉の微かな弾力と温度はあの不定形を思わせたが、それよりも確かな圧力を感じる。
佐倉 光
「少し、我慢……して……」
あの瓶を見ながら、集中する。
俺が消える前に、探り当てるんだ。
佐倉 光
あれ? また内臓まさぐられて内側弄られてるな牧志。
気持ち良くはなさそうだけど。
この展開のための伏線なのあれ?
KP
なるほど? >この展開
前に胃カメラどうこういう話をしましたが、今度はガチで胃カメラになっちゃった。

KP
あなたは瓶を見ながら、じっと指先に集中する。
降ってくる苦しげな呻き声と指先に纏わりつく生々しい感触が、人の体内を荒らしていることを自覚させる。

けれど、その感触もすぐにどこか俯瞰的で現実感のないものになる。
あなたの脚は、腕は見る間に影へと溶けてゆく。

やがて指先が肉を突き抜け、湿った袋の中に出る。
呻き声がえずくようなものになり、袋の中の液体を波立たせて震動する。
佐倉 光
胃袋……!
それなりのサイズの石膏球。幽門を通るか?
通っちまってたら割と絶望的だ。腸なんか探ってる暇はない!

望みをかけてその中を探る。
指先に丸く硬い物は当たるだろうか?
触れる事はできるだろうか?
KP
あなたは望みをかけて、熱く湿った袋の中を探る。
肉の壁に指を這わせ、異物を吐きだそうと苦しげに蠢くのを感じながら、慎重に触れる。
牧志は身を折り、口を押さえて嘔吐感を必死に堪えている。

人間の体内の感触は案外、あの不定形に似ている気がした。

やがてあなたの手に、堅く軽く丸いふたつの球体が、確かに触れた。
佐倉 光
指先だけに集中して、引っかける。
素早くこの球だけを引き出す。
うっかり胃袋から出たところの体内に落としたり、内臓を直接引っ掻いたりしてしまわないように。
佐倉 光
随分無理ゲーくさいぞこれ!
勢いで引く。
KP
あなたは勢いに任せてそれを引き抜く。
ぞぶりと寒気のする音と共に引き抜かれ、さまざまな液体に濡れててらてらと光るそれは、確かにふたつの眼球だ。
佐倉 光
最後の視覚に、球体がふたつうつった。
佐倉 光
「まにあっ……」
言葉が最後まで自分の耳に聞こえなかった。
KP
あなたがそれを視認すると同時に、あなたの肉体が掻き消えた。
地面に落ちる眼を、牧志の手が受け止める。
KP
空間が大きく揺れた。
万華鏡のごとく豪奢な城の景色は、次第に真っ暗な夜の色に染まる。
その夜の色さえ溶けるように白けていく。それはいつか見た空のピンク色に似ている。

あなた達を包むのはただ、不思議にきらめく朝ぼらけの色だ。

あなたの意識は落ちていく。あるいは浮かんでいく。
夢中夢の世界から、夢の表層へ。
佐倉 光
俺は、消えるのか?
いや、おれは帰る。目覚めるんだ。
牧志 浩太
牧志があなたの名を呼んだ気がした。

コメント By.佐倉 光
もしかしたらもういないのかもしれない。
もしかしたらもう死んでいるのかも知れない。
不確かなままで進み続ける。

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本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


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