TRPGリプレイ【置】CoC『夜は星を落とし易い』 牧志&佐倉 3

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こちらには
『夜は星を落とし易い』のネタバレがあります。

本編見る!
KP
雨は相変わらずで、道路はすいている。
家に戻るのは問題なくできるだろう。
着替えを確保し、もはや夕食のようになってしまった食事をし、シローは元気になった。
シロー
「あめのおでかけ、おもしろかった」
ニコニコ笑っている。
ミオはあなたに顔を寄せて囁いた。
フカヤ ミオ
「シローは海を見てなかったんだ」
牧志 浩太
「わ、近い」
顔を寄せられると何か思い出してしまって、思わず耳をガードする。

身体が温かさを取り戻し血が通ってくると、そういえば女の人なのだ、ということに気がついてしまった。
何か思い出した……波照間の記憶。彼は一度悪魔に騙されて《悪魔のキス》を受けている。
KP
玄関前でミオは立ちすくむようにして足を止めた。

あなたはミオを、家に上げてやるだろうか。
牧志 浩太
彼女を家に招き入れる時、扉を開く瞬間に重さを感じた。

彼女と一晩を過ごすことは恐ろしい。
また、部屋であったように、そこにいる人を間違えそうになってしまったら。

それでもこんな降りしきる雨の下、自分のせいでびしょ濡れになってしまった人を外に置いておくことはできなかった。
牧志 浩太
「風呂、入れるよ。もし抵抗がなかったら使って」

彼女を家に上げる。
電子錠を開ける所は見せない。
フカヤ ミオ
風呂が沸くとミオは「シロー、一緒に」
声をかけかけてやめた。
「先に使わせてもらうよ」
その指が首筋を撫でていた。
KP
ところであなたは自分の服を買う時に、ミオの服を一緒に買うことを提案していただろうか。

【アイデア】で判定。
牧志 浩太
1d100 90 Sasa BOT 1d100→7→成功
KP
良かった
KP
あなたは店で、彼女にも服が必要だと言っていた。
フカヤ ミオ
「確かにキミの言うことは正しかったね。
仮にも自宅で、着替えがなくて途方にくれるなどということになるところだった」
牧志 浩太
「覚えててよかった」

そういえば彼女にも着替えが要ると、すんでの所で思い至ったのだ。

その事にぎりぎりまで思い至らなかった辺り、本当にこの人のことを見ていなかったんだと思う。
牧志 浩太
彼女が風呂を使っている間に、ペンを取り日記を書く。

今日目覚めてからの出来事を書きつける。
佐倉さんの部屋にいた知り合いらしい人のこと。彼女が自分のことを俺の相棒だと勘違いしていること。
その割に、俺とのことをあまり覚えていないこと。

もしかしたら半端に記憶を持たされているのかもしれないこと。
鱗のこと。

悪い人ではなさそうなこと。

昨日の喧嘩のこと。その時から佐倉さんの様子がおかしかったこと。
佐倉さんが水族館に車を置いて、展望台へ向かって、いなくなってしまったこと。

深夜二時のメッセージのこと。
牧志 浩太
俺の相棒は彼女ではなく、佐倉さんだということ。
牧志 浩太
何もかもを書き出してから、大きく息をつく。

それから、以前の日記の内容を確認する。
佐倉さんの記述はあるか。内容は変わっていないか。

日記に書きつけていた日々の出来事を見返して、佐倉さんの様子がいつからおかしかったか、そうなった手がかりがないか探す。
KP
以前の日記には佐倉の記述は……

あなたは違和感をおぼえた。
前の文章を読もうとすると目が滑る。
おそらく『佐倉』について記述してあるところを読もうとすると、脳が勝手に読み飛ばそうとするのだ。
意識的に読もうとすると頭痛がする。

【POW】×5 または類する技能で判定。
牧志 浩太
自分自身への〈心理学〉で自分の状態を知る、という形で判定することはできますか?
KP
ok。
牧志 浩太
オープン?
KP
それはオープンでいいかな。
牧志 浩太
1d100 77 Sasa BOT 1d100→93→失敗
牧志 浩太
ありゃ。
KP
ありゃー
牧志 浩太
調子悪いなぁ。
KP
ではあなたは以前の記述をまともに読むことはできない。
どうしようもない頭痛ががんがんとあなたの頭蓋を揺さぶる。
牧志 浩太
「ぐ、あぁ……、ああ……!」

なんで。
なんでだよ。
俺に何が起きてるんだ。

どうして消そうとするんだよ!

どうして、
俺はそれに流されそうになってるんだよ。
牧志 浩太
佐倉さん、と叫ぶように書いて日記を閉じる。
佐倉さんの存在を消そうとする「何か」と、自分自身への、どうしようもない怒りが渦巻いていた。
フカヤ ミオ
「大丈夫かい……」
風呂場から出てきたミオが心配そうにあなたに声をかけた。
牧志 浩太
「ごめん、大丈夫じゃない。ちょっと頭が痛いんだ。
風邪じゃないだろうから大丈夫」
フカヤ ミオ
「そうか……」
牧志 浩太
「次、風呂使うよ。
そうだ、寝るのは僕の部屋使っていいから。
シロー、入ろう」
シローと共に風呂に入って、シローを風呂に入れる。
KP
風呂場で見ても、あなたの首に鱗はなかった。
シローの首にも鱗などはなかった。
あの異変はミオだけに発生しているのだ。

フカヤ ミオ
「ねえ牧志。キミが探している人のこと、何か分かったかい?
ボクは、なんだか分からないことが増えたよ」
牧志 浩太
「分からないんだ。
日記を読み返そうとしたら、佐倉さんの所だけ酷い頭痛がして読めなかった。

まるで、自分で拒否しているみたいに」
フカヤ ミオ
「そうか。きっとキミだけが正しいんだ。
やっぱりそのひとはいたんだろうな。
いたのに無理矢理消されているんだ」
ミオは額に手を当て、息をついた。
牧志 浩太
「フカヤさんの鱗のことも、分からないままだもんな。
痛んだり、何か変わってたりはしなかった?」
フカヤ ミオ
「ボクの鱗は、分からないよ。
あそこに行ったことで何かの影響を受けたんだろうか。
サクラもそこに行ったようだしね、何か手がかりはあるのかも知れない。
明日また、行ってみよう」

「ベッドを貸してくれてありがとう。おやすみ……」
牧志 浩太
「うん、お休み」

そう言い交わして、佐倉さんの部屋に入る。
使い慣れない寝床に潜って目を閉じた。

彼女の辛そうな声が後を引いた。
いっそ悪い人ならよかったのにと、少しだけ思った。
KP
あなたは疲労のためか、ゆっくりと眠りに落ちていった。
KP
シローにしてみれば、突然牧志が変なこと言い始めて嵐の中歩かされて、ご飯も食べられなかったし、いつも仲のいい二人がぎこちないしで「???」である。
牧志 浩太
まったくだ。
シロー視点牧志がおかしくなったようにしか見えない。
そういえば、相変わらず佐倉さんと共に走れないとめちゃくちゃダメージ受ける牧志なんだなぁ。

KP
窓を叩く激しい雨の音があなたを起こす。
雨が降っているせいなのか気温は低く、ひどく寒いような気がした。
家の中はしんと静まりかえり、物音がない。
牧志 浩太
「寒っ……」
呟いて眼を開く。

荒れ狂う海に似た激しい雨音と、対して音のない室内は、先日の夢を思い出させる。

ひどく精細な悪い夢だった。

スマートフォンを引き寄せて時刻を見、何かメッセージが来ていないか確認する。
KP
枕元に置いたはずのスマートフォンがびっしょり濡れて画面が真っ暗になっていた。
気がついてみれば、天井のあちこちから水が滴っている。

部屋の奥にあるクローゼットからは水が流れ出して、ゆっくりと床に水が溜まっていた。
海のにおいがする……
牧志 浩太
「何だ、これ……」

またか。また、あの夢なのか。
水に鱗。嫌な感覚がする。

彼女を起こしてみて何が起きるか確認してみたいが、目の前の異変から離れれば、手がかりを失ってしまうかもしれない。

傍らで寝ているはずのシローはいるだろうか?
KP
シローの姿はない。
床は僅かに浸水し、布団はじっとりと重くなっている。
牧志 浩太
部屋の扉を蹴るようにして勢いよく開き、壁にぶつけて音を立てる。
彼女がいれば、気づくかもしれない。
KP
扉が壁にガンと当たって相当な音が鳴ったが、部屋の中は静まりかえっている。
人の気配がない。
別室のミオはともかく、シローはどこへ消えたというのか。
牧志 浩太
それから、周囲を見回す。
浸水してきている以外に違いはないか。
KP
浸水は続いている。
ゆっくりとだが足元の水が水位を上げている。そのほとんどが、クローゼットから漏れている水のためだと分かるだろう。
牧志 浩太
カーテンを少し開け、外の様子を確認する。
KP
外からは窓を叩く雨の音だけが聞こえる。
カーテンの向こうは暗い。
雨に煙る中に見慣れた風景がぼんやりと見えるが、街灯などの明かりは暗くぼやけ、ほとんど見えない。
牧志 浩太
それらに違いがなければ、目の前のクローゼットを慎重に開ける。
KP
あなたはクローゼットに手をかける。

〈聞き耳〉で判定。
牧志 浩太
1d100 97 Sasa BOT 1d100→71→成功
KP
ドアの向こうから波と水の音が聞こえてくる。
濃い潮の香りが鼻腔をくすぐった。
牧志 浩太
まただ。また、潮の匂いがする。

何がいるんだ。
何がしたいんだ。
持っていくつもりなのか。

その向こうを睨む。
KP
部屋で聞こえるはずもない海の音は、眠る前に見た暗闇の海を思い出させた。
水は流れ出し続けている。
海が、侵食しているのだ。
牧志 浩太
海が、ここに来ている。
ここを呑み込もうとしている。
存在ごと。

怖気と激しい怒りが同時に渦巻いて、目の前が赤く明滅した。

クローゼットの扉に手をかけ、扉の向こうを覗き込む。
そこには、何がある。
KP
あなたが扉を動かそうとした途端、大量の水が一気になだれ込んできた。
まるでダムの放水のように部屋は水に沈み、あっという間に海水で満たされてしまった。
部屋にあるものは押し流され、水に浮き、混沌に飲み込まれてゆく。
あっという間に水位はあなたの頭の上をこえた。
命の危機に本能が警鐘を鳴らす。
SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D2
牧志 浩太
1d100 61 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→67→失敗
1d2 Sasa BOT 1d2→2
SAN 61 → 59
牧志 浩太
「……!」
反射的に息を止める。
空気を求めてもがいて、
KP
だが、苦しくはないことにすぐ気付く。
牧志 浩太
「!」
もがいて、
牧志 浩太
「……?」
苦しくない、と気づく。
きっと、これはあの夢なんだ。

それならこの向こうは、あの海に繋がっているのか。

恐る恐る水を呼吸しながら、開かれただろう扉の向こうを覗き込む。
KP
扉の向こうには広い海が広がっていた。
どうやら夜のようで視界は狭い。
上からぼんやりと照らされた海は暗く深く、海底を見通すことはできなかった。
暗がりの向こうから、いるかのようなものが泳いでこちらへ近づいてくるのが見える。
牧志 浩太
それは正しく夢と思える光景だった。

こんな状況じゃなければ美しいと思えるのに、今はただその暗黒が恐ろしく憎らしい。

クローゼットの扉に手をかけて捕まりながら、扉を開けたまま海の中に身を乗り出す。

近づいてくるものが何か見極めようとする。
KP
その巨大な魚のようなものは、奇妙な形をしていた。
いるかほどのサイズはあるが、もっと細い。
そして、頭の部分が水中の生物のそれではなく、人間の形をしていた。

それは人魚だ。
腰から上は人間の形をしており、下半身は巨大な魚の尾になっていた。

裸に見える上半身はかすかな光を反射して煌めいている。
水の抵抗を受け流すために体にぴったりとつけられた腕まではっきり見えるほど近づいたとき、その人魚が男性で、水に揺らめくのは黒髪であることがわかる。
牧志 浩太
人だ。
いるかほどの大きさのある巨大なそれは、人だった。
微かな光を反射して夜に揺らめく人魚。その光景は正しく夢と見えた。

少しばかり呆気に取られてから、その髪の黒いのに気づく。

この海は、佐倉さんを呑み込んだ海なんじゃないか。いまにも呑み込もうとしている海なんじゃないか。

それなら。その人魚は、もしかして。
牧志 浩太
もう少し大きく身を乗り出して、その顔を確認しようとする。
佐倉 光
「牧志?」
水の中だというのに、聞き慣れた声は耳に届いた。
佐倉 光
「お前、こんな所にいて苦しくないのか?」
KP
それは紛うことなく佐倉だった。
下半身は魚となり、人の姿を保っている上半身も輝く鱗に覆われていた。
牧志 浩太
「……、」
涙のような水の中で、眼から涙が溢れ出すのを感じた。

それは、ずっとずっと聞きたかった声だった。
ずっとずっと見たかった顔だった。
失うまいともがいていた響きだった。
牧志 浩太
「佐倉さん!!」
叫んで、片手でクローゼットの扉にしがみつきながら、その腕を掴もうと手を伸ばす。
牧志 浩太
「佐倉さんこそ、どうしてこんな所にいるんだよ。
どうして、そんなになっちゃったんだ。

教えてくれよ、何が起きてるんだ。
どうすれば、こっちに戻れる?」
見失うまいとその黒い眼を見返しながら、訴えかける。
KP
佐倉はあなたがいるクローゼットの前で尾びれを閃かせて止まった。
佐倉 光
「俺、こんなふざけた姿になっちゃったし、正直もう会えないかと思ったな」
佐倉は自嘲気味に笑った。
牧志 浩太
「そうか、会えたな。よかった」
その曖昧な自嘲を打ち消すように、笑ってみせる。
佐倉 光
「どうして、は俺にも解らないんだ。
今思えば、新江ノ島水族館に行った頃からだったかな。
変にイライラして、落ち着かなくなっていたと思う」
牧志 浩太
「そうだな。俺から見ても、佐倉さんの様子はおかしかった。
正直、あの時行かせなければ止められたんじゃないかって、今も思ってるよ」
佐倉 光
「俺が止まるわけないだろ……お前の責任じゃねぇよ」
佐倉 光
「時計を壊そうとした後で、急に俺が何をしたくて苛ついていたのか分かった気がしたんだ。

海が見たかった。
気を落ち着けるみたいに海が見たい、なんて、まあよくある話だろ?
それで最近行ったばかりの江ノ島を目指した。
そこに大した理由なんてないと思ってたんだけどな」
牧志 浩太
「海が……、見たかった。
ああ、俺もちょくちょくある。
でも。発端からすれば、それも偶然じゃなかったかもしれないんだな。

それから、何があったんだ?」
見失わないようにその眼をじっと見つめ、掴めるように手を伸ばしながら、次を促す。

もし届くのならば、片手で彼の手を掴む。
KP
鱗に覆われた手に触れると、冷たい水の中にいるためなのか、火傷しそうな程に熱く感じた。
腕が上がったことで、胸から腹にかけた脇腹に、鮫のようなエラが見えた。
目を見つめるなら気付くだろう。佐倉はずっと瞬きをしていない。その目は開かれたままだ。
牧志 浩太
水中につるりと光る黒い眼を見つめていると、確かに間違いなく佐倉さんなのに、同時にまったく人ではないと思われた。

海が彼を呑み込んでいる。
佐倉 光
「水族館じゃなくて、江ノ島展望台に向かってる、って途中で気付いた。
水族館から近いし、折角なら江ノ島まで行こう、と考えるのは不自然じゃない。
けど、そんなことを考えた記憶もなかったんだ。
どうして目的地を江ノ島にしたのかも覚えていない。
その時、もしかしたら俺はおかしいのかも知れないと思った。

水族館に車を置いておけば、お前なら気付いてくれるかもしれない……
そう思ったのは覚えている」
牧志 浩太
「結構一杯一杯だったから、ちょっと危うかったな。
気づけてよかった。
焦るものじゃないな、やっぱり」
佐倉 光
「正直この辺から記憶がはっきりしないんだ。
気がついたら岩場を歩いていて、海に引きずり込まれていた。
そして魚もどきになっていた」
佐倉 光
「俺、一回死んだんじゃないかな?」
牧志 浩太
「なんだ、俺と同じだな。

……それで、それからは海の中か? それから、何か見たりした?
佐倉さんを引きずり込んだのが、どんな奴だったか見た?」

手放すまいと、無意識に少し口が早くなる。
牧志 浩太
「あー、違う。今死んでここに来たんじゃなくて、俺は元からそうって意味で」

語弊があることに気づいて慌てて言い直す。
KP
佐倉はあなたの言葉に苦笑した。
佐倉 光
「そうか、お前は生きてるんだな。良かった。長生きしろよ?」
牧志 浩太
「佐倉さんも生きてるよ、こうやって話してるだろ。
少なくとも、存在はしてる」
そうやって、いつものようにひらりと言い返したが。
佐倉 光
「俺を引きずり込んだのはでかい半魚人だったと思う。
俺もああなるのかと考えると」
佐倉 光
「ゾッとしねぇな」
佐倉 光
「こうなってからは、何もない水の中を泳ぎ続けてるんだ。
ただずっと、もっと深いところへ潜っていかなくてはならない気がしている」
佐倉 光
「魚になるってのも体験としちゃ面白いけど、潜れば潜るほどに、自分の事を忘れて行く気がするのは、だいぶまずいな」
牧志 浩太
「!」
その言葉に思わず、眼を見開く。
牧志 浩太
「だめだ!」
牧志 浩太
「それは……、だめだ。
こっちでも異変が起きてて。
佐倉さんのことが、他の人の記憶から消されてる。

俺はこの通り、忘れないで済んでるけど。
佐倉さんの部屋に別の女の人がいて、一瞬だけそれに、違和感を持てなかった瞬間がある。

佐倉さん。
フカヤミオさん、って、知ってる?
俺達の知り合いだった……、と思うんだけど」
佐倉 光
「フカヤ ミオ? いや、少なくとも俺は知らないぜ。
お前の知り合いだろ?」
牧志 浩太
「そうか。それなら、やっぱり俺のその感覚は間違ってるんだな。
ありがとう佐倉さん、確認が取れた」

彼の返答と目の前の黒い眼を意識に染み込ませるように、目を一度ぐっと閉じ、開く。

これがただ俺の推測と願望が見せている夢である、という可能性も考えはしたが、そうでないと考えたかった。
佐倉 光
「俺はこっちの存在になったって事なのか。
お前に忘れられたら終わりなのかも知れないな」
牧志 浩太
「ぞっとするな。
忘れたまま平然と生きていくなんて、考えたくもない。
大体佐倉さんのことを忘れたら、俺の記憶だって大半欠けちゃうじゃないか」

彼女は覚えていなかったのだ。

KP
確かに牧志君が佐倉絡みのこと忘れたらごっそり抜けるんだなぁ。
牧志 浩太
そうなんですよ。牧志にとって大事なこと、彼に大きな変化をもたらしたことの大半が抜けちゃうのです。
……これ隻眼牧志どうなってるんだろう?
KP
うーん。一緒にいるかな。
牧志 浩太
隻眼牧志も影響を受けて佐倉さんの記憶を失いそうになっているのか、それとも佐倉さんと一緒に自らのことを忘れていくのか。どうなんだろうなぁ。
どっちにしても彼の記憶から佐倉さんのことが抜けてしまったら、記憶がぼろぼろになってしまいそうだけど。

KP
佐倉の手に触れたあなたの手は、何も変化が見えないのに、焼けただれるのではないかと思うほどに熱い。
彼は自分が死んだのかも知れないと言っていた。
だが、死んだものが、魚に成り果てたものが、こんなに熱く感じるものだろうか。
佐倉 光
「忘れたくないよ、俺も」
KP
佐倉の声が震えて聞こえたのは、あなたの感覚が急激に闇に呑まれたための錯覚だろうか。
視界が闇に食い尽くされ、手に触れる体温が失われてゆく。
牧志 浩太
闇に呑まれていく意識の中で、名を呼び続ける。
引き止めるように刻みつけるように。
離すまいと、その熱い手にしがみつく。

朝起きた時にどうなってしまっていようと、
呼ぶ名とこの体温を覚えていられるように。

KP
目が、覚めた。
部屋は当然水に沈んでなどおらず、クローゼットからも天井からも水は漏れていない。
シローは平和に眠っていた。
昨日と同じように、派手なカーテンの向こうから雨が窓を叩く音が聞こえていた。
今日も荒天らしい。
牧志 浩太
「!」

目が、覚めた。
あれは夢だったんだ、と気づく。

跳ね起きて日記帳にしがみつく。
夢で見た内容を、佐倉さんと話した内容を、巨大な人魚と化した姿を、熱い体温を、何もかもを刻むように書きつける。

筆記する音が煩いかもしれないが、気にする余裕はなかった。
牧志 浩太
全て書き出し終わってから、熱をもった肩で数度鼻から息を吐く。
ペンを握りしめていた掌が熱く、汗をかいていた。
牧志 浩太
気持ちを落ち着けようと、スマートフォンを見て時刻を確認する。
ついでにメッセージが来てないかチェックし、
江ノ島近辺のニュースやコミュニティ掲示板に何か変化がないか確認する。
KP
筆記をし終わってみると7時頃になっていた。
江ノ島近辺のニュースが出ている。

行方不明になっていた男性が異様な遺体で上がり、これで今月に入って犠牲者が五人となったというニュースだ。
そのニュースには犠牲者の顔写真がついている。
……あなたには見覚えがある。
昨日岸壁で早く帰るようにと言っていた男性だ。

SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1
牧志 浩太
1d100 59 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→35→成功
牧志 浩太
「……くそ」呻く。
見覚えのある人がそうなるのは、こんな状況でも堪える。
佐倉さんがそうなってしまう、そうなってしまっているのかもしれないと考えれば、余計にだ。

そのニュースを見て、遺体の状態と発見場所について確認する。
傷だらけだと言っていたが、彼もそうなってしまったのか。

また、いつから行方不明になっていたのかが載っていれば確認する。
KP
遺体はずたずたに切り裂かれているらしい。
サメにかじられただの熊に襲われただの言われているが、どれも信憑性に欠ける。ただ異様としかいいようがない。
発見場所は、展望台から降りた岸壁周辺に多いらしい。
まさにあなたが降りて地元の住民と話した一帯だ。

行方不明事件が起き始めたのは今月から。最初の犠牲者が消えたのは二週間ほど前だ。(今日は16日である)
KP
また、異様な事件が続いたためか、SNSなどでオカルト好きの者達があれこれと噂し合っている。
集まっている情報はある程度共通しており、ある程度の信憑性がある、または広く知られたものである事が分かる。
牧志 浩太
SNSの情報を追ってみる。
KP
SNSには以下のような話が出ていた。
・最近起きている事件は神による御使い選びだ。
・同市における民間伝承に「御星様(おんほしさま)」というものがある。
・御星様は数百年に一度自分の世話をする御使いを陸の人間から選ぶ事がある。
・選ばれた人間は御星様の加護によりその身を魚へと変え、神の元に向かう事になる。
・数百年ぶりとなる今回の選定が済めば事件はなりをひそめるかもしれない。
KP
まことしやかにそんなことを列挙した書き込みに、「ソースはこれ。図書館で見た」という記述があり、【魚となりし者】という古い書物の写真が載っていた。
オンライン検索ではほとんど情報が引っかからないため与太扱いをされてはいるが、似たような内容を書いている者は何人かいるようだ。
KP
記事を見終わった当たりにちょっとしたイベントが起きます。
牧志 浩太
「図書館か……、行ってみるか」

与太話だ、なんて言えるわけもなかった。
昨日の夢がただの夢じゃないと仮定して動くなら、この話にだって合致する。
それなら、当たってみる価値はある。
牧志 浩太
もし、佐倉さんが連れて行かれようとしているのなら。

彼女は…… 何だ?

人間が消える代わりに、抜けた所に別の人間があてがわれるとでもいうのか?

でも、そこにはまた穴ができる。
無限に続いてしまう。
牧志 浩太
……ふと、嫌な考えに思い至った。
彼女の首筋の鱗の濡れた色が、記憶に蘇る。

まさか。
人を取っていく代わりに、魚を寄越してくるとでもいうんじゃないだろうな。
牧志 浩太
記事を見終わって顔を上げた。
KP
リビングからミオの短い悲鳴が聞こえた。
牧志 浩太
「!」
何だ、何が起きた!? 家の中で!?
急いでリビングへ続く扉を開ける。
KP
扉をあけると、割れたマグカップの近くにミオが倒れ込んでいる。
何度も苦しそうに呼吸を繰り返しているが、あなたを見ると無理やり微笑んだ。
フカヤ ミオ
「やぁ、おはよう牧志……、びっくりさせてしまったかな。
いやなに、心配することはない、少々……むねがくるしいだけさ……」

「ボクの……サクラくんのマグカップを壊してしまった。
悪いことを、したな……」
牧志 浩太
その様子はただならない出来事を連想させた。

スマートフォンを握って部屋を飛び出すと、彼女に駆け寄り、抱き上げる。
牧志 浩太
「いいんだ、苦しいって痛むのか、締めつけられるのか? まだ痛む?」
フカヤ ミオ
「少し息が、しづらいんだよ……」
牧志 浩太
彼女の様子を見て、続いているようなら救急車を呼ぶ。
牧志 浩太
PLはイベントだろうなと思うけど突然の胸痛で倒れてたら救急案件
KP
抱き上げたあなたの指にざらりとした感触がある。
首筋から腕、手の甲まで、青黒く、また光に当たると虹色に光る鱗に覆われている。
あなたはそれに見覚えがある。
夢で見た人ならざる者へと変化してしまっていた佐倉の体を覆っていたのもこんな鱗だ。色はここまで美しくはなかったように思うが。
牧志 浩太
「……!」
救急車を呼ぼうとして立ち止まる。
その姿には見覚えが、あった。

一瞬その虹色に目を眩まされかける。
彼女の腕を上げさせ、その下に鰓がないか確認する。
KP
鰓は見えないが、脇腹に薄い筋のように蚯蚓腫れのようなものが生じていた。
牧志 浩太
「これ……、いつから。今朝か? 
僕が、あの海に連れていってしまったからか……?」

指先が少し震えた。
俺が彼女を連れていったから、引き止めたから、こんなことになったのか?

何が起こっているんだ。

彼女も、引き込まれかけている?
でも、どうして。佐倉さんの位置を奪うのが彼女なんじゃないのか。

それとも彼女がここにいるのはただの偶然で、どっちも犠牲者になりかけてるだけだっていうのか?

思考が混乱する。
くそ、分からない。
フカヤ ミオ
「ああ……あの海岸で、ヒトが消えるのを目撃したあたり……だったように思う。
何故かなんてボクにも分からないよ。分からない……
ボクは何なんだろうな。ボクはやっぱり違うのか。ボクは……」

ミオは力なく首を振った。
「ごめん。何でもない……」
KP
その表情は今にも泣き出しそうに見えた。

【POW】×5で判定。
牧志 浩太
1d100 60 Sasa BOT 1d100→20→成功
KP
ミオはずいぶんと気落ちしている。
牧志 浩太
「そうだな、そうだよな……、ごめん」
牧志 浩太
「ごめんな」
手を伸ばす。
拒絶されなければ、そっと彼女の手を握る。
KP
ミオはあなたに触れられ、力なく笑った。
フカヤ ミオ
「優しいな、キミは。
キミが言う通りなら、ボクはいきなり現れてキミの相棒の場所を奪っているんだろう?
しかも得体が知れない……」
ミオは鱗で覆われた手の甲を見下ろして呟いた。
牧志 浩太
「そうだな、そうだよ。
でも、君もそうしたくてやってるわけじゃないんだろ」
フカヤ ミオ
「今日も行くんだろう?  江ノ島」
牧志 浩太
「ああ。何が起きてるのか突き止めないと……、
きっと、君にとっても不味いんだ、これは。

君は最初から協力してくれてたから、今更だけど。

改めて、協力しよう」

そう宣言して、取っていた手を滑らせ、握手をするように持ち替える。
フカヤ ミオ
「ああ、勿論だ。
ボクにとってもきっとこれは大事な事なんだ」
ミオはあなたの手を握り返した。
牧志 浩太
「今朝、気になる情報を見つけたんだ。
今日は、まずそっちを当たってみたい」

書物について話す。
フカヤ ミオ
「なるほど、僥倖だな。
今日はあの場所に行ってみるにしても特段手がかりもないし、無駄足になりそうで迷っていたんだ。
わかった、まず図書館だな」
ミオは目に力を取り戻していた。
牧志 浩太
「ああ、図書館の蔵書ならそこになくても調べてもらえるかもしれない」
フカヤ ミオ
「ああ、図書館はいつもの所かな。
あそこなら結構マニアックな物も置いてありそうだし。
そうと決まれば急ごう」
KP
決まった目的について話すミオは、みるみる元気を取り戻していた。
牧志 浩太
「確かに、あそこなら起点にできそうだ」頷く。
牧志 浩太
「そういう所は覚えてるんだな。

そこにいるのが君でも矛盾のない所は、覚えてるってことかな。
それ以外はきっと、なくされたり、見えなくされてしまうんだ……」

朝の、あの激しい頭痛を思い出す。
そこにあるはずなのに見えなくされてしまう、悔しさ。
フカヤ ミオ
「シローは今日は留守番していてもらわないか?
さっきニュースを見たんだ。
ボクたちが江ノ島で見た人が犠牲になっていた。
消えたのがあのときだった、消したのがあの足跡の主だとすると……連れていきたくないんだ。
ボクはこんな状態だしね、とっさの時に守れないかもしれない。」
牧志 浩太
「そうだな、賛成だ。
あまり連れ回すのも悪いしな、昨日も随分歩かせてしまったし。
留守番させてしまうけど、危ない目に遭わせるよりはいい。

その鱗、服で隠せそうか?」

表情はまだ追い詰められてはいたが、少し和らいで、穏やかさを取り戻していた。

それは彼女を当面の敵でないと定めたためかもしれないし、不確実とはいえ手がかりらしいものを見つけたからかもしれないし、昨日の夜に何かあったのかもしれなかった。
フカヤ ミオ
「ボクの……あっちの部屋にあった上着を使……借りようと思うんだ。
フードを降ろしておけば見えなくなるだろ?」
牧志 浩太
「……、」
そう言われて、少し躊躇った。
重ねたくはない。

けど、俺はフードつきの上着なんて持ってないし、素直に判断すればそれが一番いいのは……、分かる。
牧志 浩太
「そうだな、佐倉さんの上着を借りようか」

ふと彼女の背丈が目に入る。
そういえば佐倉さんは俺より背が高いけど、彼女は?
KP
彼女はあなたと同程度の背丈だ。
袖が少し余るかも知れない。
それを考えると、手の甲まで覆っている鱗も隠せるかも知れない。
牧志 浩太
生い立ち上ものすごくミオの気持ちが分かってしまうのに、でもNOし続ける複雑さ
KP
実際彼女自身の感情や意図はともかく、ミオに乗っ取られているのは間違いないからなぁ。
牧志 浩太
なんですよね。受け入れようとさせられている力があって、自分が受け入れてしまったらおしまいな以上、NOを突きつけ続けるしかない。

でも、自分のものが何一つ自分のものでない感覚の痛みも分かってしまう。
ミオと違って、紅さんにはその自覚があったとはいえ。
牧志 浩太
彼女が佐倉さんの上着を着れば、手の甲の鱗まで覆えてしまうだろう。

体格が一緒ではなかったことに安堵する、と共に。
牧志 浩太
「……君、結構背高いな」
自分と同程度の背丈だと気づいて、いささか複雑な気持ちになった。
普段そういうこと(自分の背丈)を気にしたことはないが、目の前にあるとちょっと気になるのだ。
牧志 浩太
波照間も牧志も筋肉は普通くらいの印象。
それで【SIZ】11だと背丈が「ふつうくらい」って感じだけど、10だと「ちょっとちいさい」って印象……。
KP
ミオはスリムだよっ!
牧志 浩太
おお、スリムで結構背が高い。かっこいい。
フカヤ ミオ
「そういえばそうだね」
牧志 浩太
「気にするわけじゃないけど。
ないけど、僕と変わらないのはちょっと複雑だ」

そんなことを言う余裕が出てきたのは、方針が決まって少し焦りが取れたんだろうか。

彼女がいることに馴染んできてしまっている、とは思いたくない。

黒いフードを被った彼女を見る。
KP
黒いフードを被ったミオは、危惧したほど佐倉とは似ていなかった。
元々ひょろ長い佐倉が猫背になっているのと、
あなたと同程度の背丈でほっそりした女性が着用しているのとでは印象が大きく違う。
フカヤ ミオ
「これで大丈夫」
牧志 浩太
「……ああ、大丈夫そうだ」
そうこぼした言葉に両方の意味が乗っていた。
フカヤ ミオ
「雨がやめば良かったのだけれどね。
食事をしたらでかけようか」
牧志 浩太
「だな、朝を食べたら出ようか。
シロー、ごめんな。今日は留守番お願いな」
そう言ってシローの頭を撫でた。
シロー
「うん、おるすばん、する。がんばる」
KP
あなたもミオも詳しい説明を避けているが、なんだか二人が大変そうだ、ということは分かるのか、その間いい子で待つと気合いを入れている。
牧志 浩太
「……ありがとう、シロー」
一度、シローの背を強く抱きしめて、出発する。
牧志 浩太
朝食を食べたら、早速出発しよう。
佐倉さんのポーチの中身は、俺が預かったまま持ち出す。

KP
二人は図書館へと向かった。
相変わらずの豪雨だ。
ミオが袋を持っている、と思えば、部屋から余分に服を持ち出していた。
着替えが必要になるかも知れないから、ということらしい。
牧志 浩太
「確かにな、何枚か買っとくか。
上着はともかく、下は佐倉さんのじゃ合わないだろうし」

図書館へ向かう前に、途中で手早く彼女の着替えを買っておきます。
財布は佐倉さんのを拝借する。
KP
ミオは少し迷ってシンプルなスカートを購入した。

KP
図書館に到着した。
どう調べよう?
牧志 浩太
【魚となりし者】という書物の名前と写真を示して、その書物がどこの図書館にあるか検索する。
また、司書さんに確認する。

また、【御星様】という伝承についての書物がないか確認を取る。

民間伝承についての文献の棚を探し、その伝承や似た伝承の本がないか探す。
KP
司書はあなたに手渡されたメモを手に姿を消し、暫くして一冊の古い本を手に戻ってきた。
牧志 浩太
司書さんに礼を言って、その書物を読む。
KP
題名は【魚となりし者】。
概ねこのような内容だ。
100年ほど前に発行された本。
御星様おんほしさまと呼ばれる異形の神と、それに仕える者達の事が記してある。
数百年に一度、神に仕える者が一族から選ばれるという。
牧志 浩太
「……無理強いはやめてほしいな、そういうの」

読み終わって溜め息をつく。
本当に勝手にやるのはやめてほしい。毎回思うけどさ。
牧志 浩太
その村がどこか、といったことは書かれているだろうか。
「選定」の条件や、それがどういう時かは分かるだろうか。
神々の使者については何か分かるだろうか。
KP
当時の名は「江之島」とある。
どうやら昔、現江ノ島にあった集落の話であるらしい。

文章を読み進めていると、ふととある単語が目に止まった。
神に仕える一族の名は「深谷(ふかや)」とある。
欽明天皇13に江之島が浮上して程なくそこに住み着き始めた、
随分と古くからある一族であるらしい。
KP
詳しい内容は不明だが、その集落が当時どこにあったかは分かる。
牧志 浩太
は、とそこで目が止まる。

フカヤ?

そういえば、彼女の名前をどう書くのか、そんなことも聞いてなかった。
牧志 浩太
「……でも、なんでだ」
思わず呟きが口から漏れる。

行くのが彼女なら、どうして佐倉さんが巻き込まれた?
どうして、佐倉さんの代わりに彼女が、ここにいる?

その一族について、続いて詳しく調べる。
その一族の歴史などから、その伝承についてもっと詳しいことが分からないだろうか。

分からないようなら早めに切り上げ、本の内容とその集落の所在を複写する。
KP
ここで分かるのはこの程度だ。
フカヤ ミオ
「ふかや……だって」
KP
ミオは落ち着かない様子で、あなたが見つけたその一族の記述を何度も読んでいる。
フカヤ ミオ
「ボクは、そこの人間で……魚になりかけて、いるのか?」
KP
【POW】×4で判定。
牧志 浩太
1d100 48 Sasa BOT 1d100→28→成功
KP
つよい。
牧志 浩太
「……」
口を開きかけて、躊躇う。

そうだ、としか言えない。
彼女の生まれが、きっと今回の出来事の鍵になっている。

けど。
彼女はそれを望んでいないし、覚えてもいないんだ。

くそ、毎回思うけど、なんで他人や身内を巻き込むんだよ。
やりたい人間だけで好きにやれよ。

シローのことを思い出して気が重くなった。
喰われるはずだった、一番最初の子。

結晶で埋まった眼の色が、胸の奥に過った。
絶望を望んで俺を生み出した、

生みの親。
牧志 浩太
「そう……、だよ。
この内容と、君の状況からして、そうとしか思えない。

深谷さん。
家のこととか、親のこととか、聞いても……、いいか」
KP
ミオはあなたに言われ、暫く黙って書物を見下ろしていたが、低い声で呟いた。
フカヤ ミオ
「分からないんだよ。分からないんだ。
キミをこんなに苦しめているし、ボクも関係ありそうなのに、何も分からないんだ。
ボクはあの家の住人じゃない。
それなら、ボクには何があるんだろう、って考えたら」
その両目に涙が溢れる。

「何も無いんだよ。何も思い出せない。まっしろだ。
ボクはボクの家族のことも、自分のことも、なにひとつ覚えていやしないんだ。
ボクにあるのは、あの家でキミと暮らしていた、っていう不確かな思い込みだけだ。
サクラくんが書いた記録もぴんと来なかったり分からないことだらけだった。

なあ。ボクは何者なんだい?
ボクはどうして他人の立場を乗っ取っているんだい?
追い出された人はどこに行ってしまったんだい?
ボクはここにいるべきじゃないのかな?」

ミオは酷く取り乱して、拳を握る。
その指の背も鱗が覆い始めていた。
ミオは鱗を見つめ、途方に暮れたように笑った。

「ボクは……人間なのかな?」
牧志 浩太
「分からない」
握られた拳に、躊躇いながら手を重ねる。
牧志 浩太
「分からないよ。でも、今は人間だ。
そうじゃないかもしれないけど、君が人間みたいに泣いてることは変わらない。

君がここにいるべきだなんて、言えないよ。
ここは、佐倉さんの場所だ。

だから俺には、このまま追い続けようとしか言えない。
少なくとも、君が何者なのかは、それで分かるかもしれないんだ」

重ねた手に、少し力が籠もった。
あらゆる気休めや慰めの言葉が浮かんだが、どの一つも口には出なかった。
どの一つも、俺が言える言葉じゃなかった。
牧志 浩太
一人称の使い分け、置き卓だと後で直せるし見直せるからやりやすくて助かる
KP
複雑な感情の揺れがあるシナリオはやっぱり置き卓だと楽しいですねっ!
牧志 浩太
ですねー! これは置きならでは!
ものすごく濃密に感情描写ができるし掘り下げられる
フカヤ ミオ
「……ああ。
ああ、そうだ。ボクはここにいるべきじゃない。
キミが言ったとおり、きっと本来の居場所がある。
そしてそれはきっと、この場所に関係があるのだろうね」
ミオはゴシゴシと袖で顔を拭いた。

「ごめん。泣いている場合じゃないな。
このままだとボクは魚になって陸では呼吸ができない体になるのかも知れない。
そうしたらサクラくんを探すどころじゃなくなってしまうな。
急ごう。ここへ行こう。
ボクが本来ここの人間なら、行けば何か思い出すかも知れない」
牧志 浩太
「ああ、そうしよう。……ありがとう」
彼女の拳をそっと握り、離す。

強い人だ、と思った。
泣き出される覚悟も、殴りかかられる覚悟だってしてたけど、そのどちらでもなかった。

少し、昔少しだけ好きだった先輩に似ている気がした。
朧気な印象しか、結局思い出せなかったけど。

どこか、暁月ミントの横顔を思い出した。
そういう強さを感じた。
KP
ミオは微笑んで、あなたの手から鱗に覆われた手を抜き取った。
フカヤ ミオ
「一緒に行くよ。ボクはまだ、キミの相棒のつもりだから」
牧志 浩太
「ああ、急ごう。

……相棒、とは言えないけどさ。
仲間だ。僕達は仲間。
即席の、一緒に走る、仲間」

そしてきっと、近い立場にいたことのある仲間。
フカヤ ミオ
「キミらしいな。
少なくともボクが『知っているキミ』らしいよ。
どこまでが自分の感覚で記憶なのかも良く分からないけれどね」
「さあ、善は急げだ。江之島へ向かおうじゃないか」
牧志 浩太
「だな。行こう」
頷いて、その場所へと向かう。
牧志 浩太
感情の掘り下げそのものも丁寧にできるから、すごくいろいろ出る

少し好きだった先輩はバス旅行の記憶で出てきた人ですね。本当にぼんやりした印象だけ。あと彼氏いたので特に何も起きなかった。
KP
牧志君色々思い出してるー。
そろそろかなり後半! とお伝えしておきます。
牧志 浩太
はーい!
文章ゆっくり練っていこう

KP
江ノ島に到着した頃、ミオは白い顔をしていた。
フカヤ ミオ
「悪いな、車に酔ったのかも知れない。
ちょっとトイレに行ってくるよ」
牧志 浩太
「随分調子が悪そうだ……、前までついてかなくて大丈夫か?」
朝に彼女が倒れたことを思い出す。
KP
ミオは袋を持って観光客用のトイレに行き、そしてシンプルな長いスカートに着替えて戻ってきた。
KP
相も変わらず荒天の江ノ島は、出歩く者もおらず、駐車場はどこもかしこもガラガラだった。
無理もないだろう。昨日死者が出たばかりなのだ。
牧志 浩太
彼女が戻ってきたら、集落のあった場所を目指す。
戻ってきた彼女は調子が悪そうだろうか。
KP
相変わらず顔色は悪く、足元が少しふらついている……
〈医学〉で判定。
牧志 浩太
1d100 47 〈医学〉 Sasa BOT 1d100→39→成功
KP
彼女の歩き方に違和感がある。
足の動きがおかしい。
骨格が歪んだか、足が正常に動いていないか、そういった根本的なところに原因がありそうな動きだ。
牧志 浩太
「もしかして……、うまく歩けないのか」
あの巨大な魚の半身を思い出す。
彼女は、いよいよ海を泳ぐものになりかけてるんじゃないか。
フカヤ ミオ
「まだ大丈夫。
でももう少ししたら肩を借りることになるかも知れない」
牧志 浩太
「分かった。その時は言って」

KP
あなた方が向かったのは、昨日近くの住民と話した場所にほど近い、海辺に建つ日本家屋だった。
あの文献の記載にある範囲はほとんどが観光地化でヨットハーバーなどに変貌しており、その家にしか『深谷』という名字の家が見つからなかったのだ。
雨の中に佇むそれは広くがらんとしていて、人の気配がない。

〈目星〉で判定。
牧志 浩太
1d100 98〈目星〉 Sasa BOT 1d100→8→成功
牧志 浩太
「ほとんど開発されてるな、観光地だし無理もないか。
こうなるまで、ここにこんな家があるって想像もしてなかったしな。

……深谷さん、何か見覚えはある?」
フカヤ ミオ
「ああ……頭が酷く痛む。
関係はありそうだ」
KP
あなたはふと見たその家の周囲、ぬかるんだ泥の上に、あの巨大な足跡を見つけた。
この近辺を何者かが歩き回っているのだ。
SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1
牧志 浩太
1d100 59 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→65→失敗
SAN 59 → 58
牧志 浩太
「あいつが……、いる」
その足跡のあまりの大きさに、背筋に怖気が走る。
無意識に拳を握っていたことに気づいて、意識して息を吸い、吐いて力を抜く。
フカヤ ミオ
「ボクの家だというなら、ボクが入ったって問題ないだろう」
KP
ミオは家に近づいていった。

家の扉は開け放たれていた。
牧志 浩太
「僕も行く」
彼女の横に踏み出て、周囲を見回しながら家に近づく。

KP
幸い、家の中に人の気配も化け物の気配もなかった。
玄関には靴がない。中に人はいないのだろうか?
フカヤ ミオ
「ここ、は……」
ミオが呟いた。
「ボクの、家だ……」
KP
ミオはふらふらと家に上がると、扉の一つを開けようとする。
牧志 浩太
「ここが……、深谷さんの家なのか」
周囲を一瞥する。
室内はどんな雰囲気で、何があるだろうか。
KP
質素な家だ。住んでいた人間は少ないのか、最低限の物しか置いていない。
ミオが開けた扉の他にもいくつか普通の住宅のような部屋が見える。
なかに、少ししっかりした扉がひとつある。
廊下の奥に、美しい海の情景が書かれた絵がかかっていた。

ミオが開け放った扉の向こうには、飾り気のない部屋があった。
ベッドが一つ、本棚が一つ、机が一つ。その程度しかない。
フカヤ ミオ
「ボクの、部屋だよ……」
かすれた声でミオは囁いた。
牧志 浩太
「ここが君の……、本当の居場所だったんだな」
掠れた声に押し出されるように、呟きが漏れた。
廊下に飾られた美しい海を描いた絵の存在は、辛うじて、彼女の周りに生活があったんじゃないかと想像させた。

それがせめて、穏やかなものだったらいいと思った。
牧志 浩太
「ごめん、部屋の中見てもいいか。
何だったら別の部屋を見て回るけど、今はあまり別行動したくない」
KP
本棚が目につく。
牧志 浩太
彼女から拒否されなければ、手掛かりを求めて本棚を調べる。
そういえば、ここにクローゼットはあるのだろうか。
KP
クローゼットはあるが、水が染み出ていたりはしない。
KP
〈図書館〉または〈目星〉で判定。
牧志 浩太
1d100 98〈目星〉 Sasa BOT 1d100→93→成功
牧志 浩太
危ない危ない 〈目星〉でよかった
KP
様々な本に混ざって、やけに古びた日記帳が置いてある。
一目見て開くのは無理だと分かる。鍵がかかっているのだ。
フカヤ ミオ
「たぶん、ボクのだ。内容までは覚えていないけど……」
牧志 浩太
「そうか……。机、探してもいいか? 鍵があるかもしれない」
フカヤ ミオ
「うん……ごめん、ちょっと座らせて」
ミオはベッドに腰掛けた。
牧志 浩太
「うん、その間に探しとく」
周囲に気を配りながら、机を探す。
KP
机の引き出しに鍵が入っていた。
牧志 浩太
「ごめん、開ける」
開けてもいいか、とは問わずに日記帳を開ける。
これが以前の彼女のものだとすれば、彼女がこうなった切欠が、佐倉さんが巻き込まれる前の出来事が、書かれているかもしれないのだ。
【古びた手帳】

ボクは特別な血筋なのだと昔から母に言い聞かされてきた。
いずれは成体になり、陸を離れ、海の底でお星さまに仕えるのだと。
母は人間だからお仕えはできないけれど、ボクならば父と同じ場所に行けるのだと教わった。
KP
日常の色々な記述の中に、こんな文が入っていた。
フカヤ ミオ
「ボクは……」
ミオは呆然と呟いた。
牧志 浩太
文章を追いかける。その後に、この続きがないか。
彼女がどうしてここにいるのか、その理由が、経緯が。

彼女の意思が。
しかし、ボクは出来損ないのようだった。
他の個体に比べて成長が遅く、いつまでたってもエラや鱗が生えてこない。
海の底のお星さまの役には立てないのだろうか、と落ち込んだ。

けれど数日前に夢の中にお星さまが出て来てこう言った。
「お前は役立たずだから別の人間を変異させる事にした」と。

お星さまから教わったおまじないを使って、その人間と成り代わりなさい、と。
海の底に行ってお星さまや父に会えないのは寂しいけれど、役に立てるのであればそれでいい。体のいい厄介払いでも、利用価値があるのならばそれでいい。

ならばボクも本当の事を思い出さないように、自分におまじないをかければいい。
上手くいくといいな。
KP
日記はそこで終わっていた。

コメント By.KP
もしかしたら同じかも知れない。
もしかしたら仲間になれるかも知れない。
心が近づいてゆく。

本当は誰なのかも知らないままに。

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本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

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PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


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