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こちらには
『夜は星を落とし易い』のネタバレがあります。

牧志 浩太

お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。

佐倉とは友人。


佐倉 光

サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。
とある事件より、体中の痛みに悩まされているが、桜色の勾玉により少し改善した。
巻き込まれ体質らしい。

最近、遭遇した事件で恐ろしいものを目撃したことで、繰り返し再発する記憶障害にかかっている。

牧志とは友人。


とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。


KP
どことも知れぬ廃屋でさ迷った事件からしばらく。
また日常が戻った。
かに思えた。

だがあなたは、何かが違うと感じていた。
原因は、佐倉だ。

佐倉の様子がおかしい。
喋ってもいつも通りだ。
あなたのことやシローのことを忘れてもいないし、自分のこともきちんと覚えている。

だが何か、どこかで。
ふとした動作に、視線の動きに、あなたの鋭い感覚はほんのわずかな齟齬を感じていた。
気づかないほどに小さなものを、彼は自覚なく忘れてしまっている。
そんな気がしてならなかった。
牧志 浩太
その小さな小さな齟齬は、気づかないうちに大事なものを取りこぼしてしまう気がした。

嫌な予感、に近いもの。
何か大事な物を置いていってしまって、思い出した後で取り戻そうとしても決して返ってこないような、
そんな、予感。

さりげなく、佐倉さんの一挙手一投足に注意を払った。
佐倉さんが大事なものを取りこぼさないように。

KP
ある日のこと。
あなたは少し買い物に出ることにした。
すると、佐倉に部屋のすみに置いてあった大きめのごみ袋を示された。
佐倉 光
「出るならついでに頼む」
KP
何となく機嫌が悪そうだった。比較的切り替えが早い佐倉にしては珍しい。
目の下には隈がある。あまり眠っていないのかもしれない。それ自体は特段珍しいことではない。

だが注意深く彼の様子を観察していたあなたは気づく。
ベッタリと目の下に張り付いた隈、いつも以上に白い顔色、機嫌の悪さ。
これはただの寝不足ではなく、異常だ。

あなたには覚えがある。
過剰な寝不足は正常な思考を奪う。まずいことに、佐倉はそれを自覚していないように見える。
牧志 浩太
「……佐倉さん?」
注意していたからだろう、すぐに異変に気づいた。
眠れていないだけじゃない、明らかに消耗している。
おかしい。あの四日間眠れなかった時のような、いや、それ以上に平衡を失っているように感じる。
牧志 浩太
「佐倉さん、何かあった? 随分眠れていないみたいだ」
ごみ袋を受け取りながら、その問いに対する返答に耳を澄ませる。

ごみ袋を受け取った時の手応えはどうだろうか。
中にはどんな物が入っていそうか。
佐倉 光
「最近眠りが浅い気がするんだ。
昼間も変に眠気が抜けないしな。
ちょっと過敏になってるだけだろうし、今晩からは少しましになると思う」
眠そうだ。しかしどこかすっきりしたような顔をしている。
KP
ごみ袋は不燃物用。大抵は油の入っていた瓶だったり、割れてしまった食器類だったり、瓶詰めの蓋だったりと、そんなに重量があるものではない。
しかし袋の外から、カラフルで見覚えのあるものが透けて見えた。
佐倉がずっと枕元に置いていた古い時計だ。
それがある理由もいつからあるのかも、あなたは知らないかもしれないが、佐倉の部屋で彼の趣味とは合わないであろう、役に立たないのに存在を許されている唯一のものだったことは知っている。
牧志 浩太
「そうか……。それは気になるな。

聞いて何ができるか分からないけど、何か身の回りに変化があったり、酷く悪い夢とか見るようだったら言ってほしい。

過敏になってる、だけじゃないかもしれないからさ」
牧志 浩太
そう言って袋を持ち直し、ふとその存在に気づいた。
牧志 浩太
「この時計、捨てるのか。
ずっと置いてたのに」
佐倉 光
「ああ、なんでだろうな、とっくに壊れてるのに捨てるのを忘れていたみたいだ。
そいつがずっと枕元でカチカチうるさくてさ。音しないヤツに買い換えようと思って」
牧志 浩太
「そうか。なんで今になって捨てようと思ったんだ?
急に捨てたくなったとか?」

ふと、最初に感じた悪い予感が蘇った。
忘れてしまってるから、っていうだけなら、まだいいんだけど。
佐倉 光
「ああ、分からないんだ、どうして今までそんな物置いておいたのか」
どこか忌避感すらあるような目で時計を見ている。
佐倉 光
「どうしてかあのヤギ野郎の顔が浮かんで落ち着かないんだ」
KP
※佐倉は家族の記憶を落とし、そこに前回の恐ろしい『母親』の声をはめ込んでしまった。家族に繋がる記憶はあの恐ろしい化け物の物に差し替わってしまっている。
佐倉 光
「大体、壊れてるんだし場所取るし明らかにゴミだろ」
牧志 浩太
「そうか……。分かった。捨てとくよ。

なあ佐倉さん。
これ、いつからあったか、覚えてるか?」
佐倉 光
「随分前からあるな、そういえば。
俺が入院してた頃から置いてあった。
その頃はまだ動いてたな……」
佐倉は身震いをした。
佐倉 光
「どうしてそんなにガラクタに拘ってるんだよ。
早く捨ててきてくれ」
佐倉 光
「ああ、忙しかったのか? 悪いな、それなら俺が行ってくるから」
佐倉はあなたの手からゴミ袋を取ろうとする。
牧志 浩太
「ああ、いいよ。突然だったから気になっただけ。
何かの異変の前触れだったら、と思ってさ」

ごみ袋を渡さずに持ったまま、話を切る。
それじゃ行ってくる、と外へ出ようとする。
牧志 浩太
……この時計はこっそり取っておいて、後で返そう。
佐倉 光
「異変? そんな時計一つに異変なんてあるわけないだろ……気にしすぎだよ」
KP
佐倉はそれ以上は興味をなくしてしまったようだった。
あなたの背を見送ることもなく、イライラと洗濯物を洗濯機に放り込んでいる。
牧志 浩太
「……」
その背を見送って外へ出て、家の鍵をかける。

明らかに様子がおかしい。
そう分かるのに、どうしていいか分からない。
何か起きる前にどうにかできていたら、毎回そう思うのに。

俺には佐倉さんのような力も、伝手もない。
……自分の無力に歯噛みしながら、ごみ袋から時計を取り出し、そっと電池を外して、時計を別の袋に入れた。
KP
あなたはその袋をどこに置いただろうか?
牧志 浩太
他のゴミを捨てて、一通り買い物に出かけて必要な物を買ってくる。
時計は電池を抜き、時計の入った袋は捨てたと言った手前、自分の部屋の衣装棚の奥へ押し込む。
KP
それから数日。
佐倉はいつも通りとは行かずとも眠ることはできたようで、相変わらず不調ではあるがあの酷いくまは薄くなっていた。

KP
事件が起きたのは、ある休日のこと。
シローが『洗濯物を箪笥にしまう』というお手伝いを始めた日のことだった。
シロー
「これなに? さくらの?」
KP
彼の無邪気な好奇心は、隠されるべきだった物を白日の下にさらしてしまった。
牧志 浩太
「あっ」
慌ててそれをひったくり、隠そうとする。
佐倉 光
「おい。何だよそれ」
KP
何か予感があったのだろうか。佐倉は少し強引にあなたから袋をひったくる。
佐倉 光
「これ、捨てたはずだろ。
どうしてこれがここにあるんだよ」
佐倉 光
「言っただろ、ゴミだって」
KP
シローはおろおろしている。
自分がまずい物を見つけてしまったことくらい分かるのだ。
牧志 浩太
「……俺が取っておいたんだよ。これは、捨てちゃいけない物だ。
今は見たくもないかもしれないけど」
佐倉 光
「勝手なことするな!」
佐倉は叫んで時計をつかみ取ると、力一杯振り下ろす。
シロー
「あっ」
シローが短い悲鳴を上げた。
牧志 浩太
「駄目だ!」
咄嗟に身体で割り込んで時計を庇う。
KP
がつん、とあなたの体に時計が当たる。痛みが走った。
だがなんとか時計は庇えたようだ。
牧志 浩太
痛みを堪え、静かに振り向く。
佐倉 光
「なんだよ、これ、そんなに大事なのかよ!?」
牧志 浩太
「それを捨てたら、後で佐倉さんが後悔するかもしれない。だから、捨てないんだ。

同じ空間にあるのも嫌なら、どこか遠い所に置いておくよ。遠い所の駅のコインロッカーに鍵かけて入れておく」
佐倉 光
「分かんねぇよ……なんだ? 俺はおかしいのか? おかしいんだな?」
佐倉は唸るような声で呟いた。
牧志 浩太
「おかしくはないよ。ただ、少し忘れてることがある。
佐倉さんがこの時計を大事にしてたっていうのも、その一つ。
この時計はそんなに怖いものじゃなかったっていうのも、その一つ。

忘れても困ることじゃないよ。
けど佐倉さん、思い出すこともあるから。
その時になくなってたら悲しいだろ」
佐倉 光
「ああ、くそっ。お前は正しいよ。
俺は何でもかんでも忘れるからな!」
佐倉は頭をかきむしって、不安そうな顔をするシローを見下ろしてため息をついた。
佐倉 光
「ちょっと頭冷やしてくっから。明日には戻る」
KP
それだけ言うと、家を出て行ってしまった。
シロー
「まきし、さくら、おこってる? ごめんなさい……」
シローが不安そうに呟いた。
牧志 浩太
「……大丈夫、佐倉さんはちょっと疲れてるだけだ。怒ってないよ。
シローがあれを見つけたのだって悪くない。俺が家の中に置いといたからいけなかったんだ」
シローに微笑みかけて頭を撫でながら、これでよかったんだろうか、ということが頭を巡っていた。
牧志 浩太
これで、よかったんだろうか。
佐倉さんにない記憶のことを突きつけて、困らせただけじゃないか。
ただでさえ、今の佐倉さんは満足に眠れていない。
こんなものに拘るべきじゃなかったんじゃないか。

でも、佐倉さんは俺と違って、思い出しつつあったから。
思い出した時にこれがなかったら悲しいだろうって思ったのも、間違いじゃないんだ。
KP
その日、佐倉は宣言通り帰ってはこなかった。
シローはいたくしょんぼりして、あなたと一緒に寝たがった。

KP
窓を叩く激しい雨の音であなたは目が覚めた。
雨が降っているせいなのか気温は低く、ひどく寒いと感じる。ずいぶん早く目覚めてしまったようだ。
シローは寒そうに縮こまって、丸まって寝息を立てていた。
牧志 浩太
もう一度目を閉じようとして、雨の音が耳について眠れない。

水でも、飲もうか。
シローを起こさないように寝床を出て、コップを持って水を汲む。

ぼんやりと、何となくカーテンの隙間から窓の外を見る。
KP
シン、と静まり返ったリビングに雨音だけが響いている。
佐倉はまだ戻っていないようだが、大分時間が早いのでそれは無理もないかも知れない。

窓の外は薄暗く、ざあざあと降りしきる雨のせいで大変視界が悪い。

……ふと何か、違和感をおぼえた。
部屋に色々なものが足りない気がする。

コップの数が少ない。
佐倉がいつも使っていた幾何学模様のマグカップが、ない。
牧志 浩太
「……?」
違和感に気づく。

ない。
佐倉さんの持ち物が、ない。

まさか、コップまで持ち出しちゃったのか? らしくない。
佐倉さんなら、物なんて持って行かない気がする。

水を一杯飲み、他に足りない物がないか、ぐるりと見回す。
KP
意識して見ると足りないものだらけだ。

上着がない。
いつも使っている食器がない。
数日かけて食べ続けていたツマミがない。
靴がない。
写真がない。

佐倉を示す物が、この部屋には一つもない。
まるで最初からそんな人間がいたことなどないというように。

SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1
牧志 浩太
1d100 65 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→44→成功
牧志 浩太
何だ、何だこれ。
佐倉さんの持ち物が、佐倉さんがここにいたことを示すものが、何一つなくなってしまっている。

まさか、全部持ち出したっていうのか。
全部捨てたのか。
本当に、本当にここを出るつもりで。消えていなくなるつもりで。
牧志 浩太
今の佐倉さんは記憶が不安定だ。
それでも俺を信じて、俺達と一緒にいてくれた。

考えてなかったんだ。
佐倉さんが自分の意思で、ここを出ていってしまうなんて。
一緒にいてくれると、思っていた。安心していた。どこかで。
牧志 浩太
「佐倉さん……」
途方に暮れて辺りを見回し、そして、らしくないな、と思う。

佐倉さんなら。
置いていきたくなったら、後に残るもののことなんて気にせず、全部まとめて置いていくんじゃないか。
ひらりと、身軽に。

昨日みたいに衝動にかられて全部捨てちゃったんなら、いくらなんでも俺がシローが気づくはずだ。
KP
牧志君の佐倉解像度高すぎ。
牧志 浩太
付き合いの長さで即おかしいと思ってしまう牧志。
牧志 浩太
「……!」
はっと気づいて、スマホのメッセージアプリを見る。

佐倉さんから連絡は来ていないか。
佐倉さんとの会話履歴はどうなっているか。
KP
スマートフォンに佐倉の名前がない。
あなたのスマートフォンにすら、そんな人間の痕跡がないのだ。
佐倉とのメッセージ履歴、彼の連絡先は勿論、東浪見や波照間たちの会話履歴にすら、佐倉の名前も彼を思わせる単語の一つも出てこない。
牧志 浩太
「……!」
先輩と東浪見の会話履歴を見、「佐倉さん」というワードで検索する。

ない。
ない。
ない!
牧志 浩太
不意に怖気を覚える。
ここまで徹底的に消していった、いや、むしろ、消えてしまったような。
牧志 浩太
「シロー!」
傍らで寒そうにしているシローを、悪いと思ったけど叩き起こす。
KP
シローはもぞもぞと動いて眠そうにしながら身を起こす。
シロー
「おはよぉ……まきし……?」
どうしたの、と言外に訊きたそうにした。
牧志 浩太
「起こしてごめん、シロー。
佐倉さんは夜中戻ってきたか。何かやったり捨てたりしてなかったか。

佐倉さんのこと、覚えてるか」
どこか焦った口調でまくし立てる。

君を助けた人だ。助けたいと願ってくれた人だ。
佐倉さんがいなければ、君はここにいなかったはずなんだよ。
俺だけでは、あんなことはできなかった!
KP
あなたの祈るような言葉に、シローはきょとんとした。
困ったような顔で首をかしげる。
シロー
「さくらさん? だれ?」
本編見る!
牧志 浩太
「覚えて……、ないのか」
愕然とする。いくら佐倉さんでも、シローの記憶まで消していけるはずがない。
おかしい。
牧志 浩太
はっと気づいて、自分の日記帳を見る。
俺の書きつけたものに、佐倉さんの姿は残っていないか。

自分の記憶を思い出す。佐倉さんの姿、ちゃんとあるか。俺の記憶はおかしくなっていないか。
KP
あなたの日記には佐倉のことは書かれていない。

日常は東浪見や波照間との交流。
あなたはひとりで図書館に行き、ひとりでパズルを楽しみ、ひとりで大学生活を楽しんでいる。
最近シローを奇妙な施設から連れ出し、ふたりでの生活になった。

二人で乗り越えたはずの困難は、ひとりで、またはその時に偶然出会った誰かであったりと乗り越えたことになっている。

事件自体記されていないこともある。
『出会った』日のこと。佐倉の悪夢に飛び込んだこと。そういったものは全く記されていない。
牧志 浩太
「……!」
怖気が走った。
俺の日記、俺が書いたはずのものまで、変わってしまっている。

俺の日記なのに、俺のものではないような感覚に襲われた。
俺自身まで書き換えられてしまうような恐怖。

その日記は確かに俺の感情の躍動が記されているのに、ひどく欠けて無味乾燥に見えた。
理由なんて決まっている。そこにいなければならないはずの人がいないからだ。

怖気がして日記を閉じる。
再度開いて次のページに、
「佐倉さん、佐倉光。俺の友達。ずっと一緒に手を取ってきた。
俺が、僕が大学一年の時に出会った。

絶対にいる。忘れてはいけない」
そう刻むように書きつける。
牧志 浩太
カーテンを開ける。窓の外の様子に変化は、気がつく所はないか。
KP
窓の外は雨でよく見えない。
少しでも外に出るとそれだけでびしょ濡れになってしまいそうだ。
そういえば天気予報はこれほどの豪雨の予報ではなかった気もする。
KP
これほどに『佐倉』の痕跡が消え去った部屋で。
『佐倉の部屋』はどうなっているのだろうか?
扉は閉じられており、雨以外の物音はない。
牧志 浩太
「……」
怖い。背筋を這う怖気を感じる。

あの部屋に何も残っていないんじゃないか、そんな恐怖が身を震わせた。

だとしても。
だとしても、見ないわけにはいかない。

このまま消えるままにしておくわけには、いかないんだ。
そんなのは……、嫌なんだ。
牧志 浩太
何もない部屋を何度も思い描く。
じっと自分の手を見る。
拳を白くなるまで握って、開く。

覚悟を決めて、部屋の扉を開ける。
KP
あなたが思い描いた通りの光景がそこにあった。
部屋は伽藍堂で、広い床と壁が見えていた。
ここに引っ越してきた時の、因縁の派手なカーテンはなく、薄暗い外の光がぼんやりと差し込んでいる。
この部屋にはただ、作り付けのクローゼットの扉があるばかりだった。

うすく埃が被ったフローリングには最近人が立ち入った様子がない。
ここには住人がいない。
佐倉光などという人物はどこにも存在しないのだ。

SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D2
牧志 浩太
1d100 65 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→17→成功
SAN 65 → 64
KP
〈目星〉をどうぞ。
牧志 浩太
「あ、ああ……、ああ……」
膝から崩れ落ちそうになって、ドア枠を掴んで踏みとどまる。

いない。
いない……。
跡形もなく消えてしまった。

こんなに空っぽだとは、思っていなかったんだ。
佐倉さんが何か残してくれているんじゃないかと、それでもどこかで思っていたんだ。
1d100 98〈目星〉 Sasa BOT 1d100→37→成功
KP
視線が床に落ちる。
あなたの鋭い感覚は、埃の乱れをつかんだ。
ある一定の方向へと、一部の埃が薄く削られている。
ずるずると、何か重い物を引きずったような痕跡。
それはクローゼットへと続いている。

〈聞き耳〉をどうぞ。
牧志 浩太
1d100 97〈聞き耳〉 Sasa BOT 1d100→87→成功
KP
豪雨の音に紛れて、水がしたたり落ちる音が聞こえてくる。
それは屋外からではない。屋内から……クローゼットの方からだ。
牧志 浩太
何か、何か。残してくれていないか。
願うような祈るような視線が、埃の跡を捉えた。

それは引きずったような跡だった。
不自然な、重い物を引きずったような跡。
牧志 浩太
埃の跡を避けながら、望みをかけてクローゼットを開ける。
牧志 浩太
佐倉さん。
KP
あなたの指がクローゼットの扉に触れようとした時。
扉の隙間から水が滴っているのだと知れる。

開けると、クローゼットの天井部分から水が滲んで滴っているのが分かった。
上階からの水漏れだろうか。
ぽつり。ぽつり。
水は絶え間なく滴り続け、クローゼット内の段に跳ね続けている。

〈聞き耳〉をどうぞ
牧志 浩太
1d100 97 Sasa BOT 1d100→56→成功
牧志 浩太
「あ……、水漏れか。ひどい雨だもんな」

ああ……、ただの水漏れか。そうかな。
重たい物を引きずったような跡は、水漏れを何とかしようとした跡?

ただ、それだけ?
牧志 浩太
また膝から力が抜けそうになって、違う、と首を振る。
牧志 浩太
いや、おかしい。
シローが重い物を引っ張ってこられるはずがないし、引っ張ったはずの物は、水漏れしている場所には見当たらない。
KP
微かに懐かしい香りが鼻先をよぎった。
潮の香りだ。

突如、視界がぱっと暗くなった。
何も見えない。

〈目星〉+30
牧志 浩太
1d100 99 Sasa BOT 1d100→70→成功
KP
耳が痛くなるほどの沈黙が訪れ、あなたは暗闇の中ひとり立っている。
闇の向こうに何かが見えた。
暗闇の中に横たわっている何者か。

佐倉だ。
真っ暗闇の中に目を閉じてぐったりと横たわっている。
牧志 浩太
「さ……、佐倉さん」
見たかった。
その姿を。
何よりも。
存在することを信じたかった!
牧志 浩太
「佐倉さん、」
牧志 浩太
「佐倉さん!!」
思わず駆け出しそうになり、はっと警戒を思い出す。
一歩一歩確かめながら、横たわっている方へ向かって歩き出す。

何度も名を呼びながら。
KP
あなたは歩いている。進んでいる。
しかしその姿は一向に近づかない。
佐倉はあなたの声に気付いた様子もなく、ぴくりとも動かない。

佐倉の周囲で無数の影が首をもたげた。
それは蛸の足のように伸びてゆっくりと佐倉に巻き付いてゆく。
手首を、足首を、顔を巻き、次々とその範囲を広げる。
音もなく貼り付いて覆ってゆく。
何も見えない真っ暗闇の中で、その光景ははっきりとあなたに『見えた』。

SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D3
牧志 浩太
1d100 64 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→28→成功
牧志 浩太
「佐倉さん!!」
その光景を目にしてしまったら、悠長に歩いてなどいられなかった。
走る。駆け出す。名を呼ぶ。近づけない、それでも走る。
KP
闇の中走る。足を、手を動かし、叫ぶ。
しかしその光景は一向に近づくことはない。

胴を、肩を、首を。闇の触手はゆっくりと巻き取ってゆく。
細い指の一本、髪の毛の一本すらも、触手は絡め取り、覆い隠し、とうとうその姿は見えなくなった。
もうどこにもいない。

ざあざあ、ざあざあと雑音が聞こえる。
牧志 浩太
「佐倉さん、佐倉さん、佐倉さん、」

見えない。
闇の中を、ただただ叫びながら走っているだけになった。
それでも足を止められない。

雑音は、どこから聞こえるだろうか。
KP
あなたはふと気付くだろう。
これは窓を叩く雨の音だ。
周囲が暗いのは、自分が目を閉じているからだ。

あなたは眠っていた。

何者かに見つめられている気配を感じる。
牧志 浩太
「!」
はっと目を開き、視線の方向を確認する。
シロー
「!」
シローのまん丸な目と視線が合った。
シロー
「だいじょうぶ? まきし。つらそう」
KP
シローは心配そうに小首をかしげた。
牧志 浩太
「ああ……、大丈夫だよ。

佐倉さんが、いなくなっちゃったんだ。
覚えてないかもしれないけど、シローを連れ出そうって言ってくれた人だよ。

シローに絵本を読んでくれたり、歯磨きしてくれたりしてたんだよ」

そっとシローの頭を撫で、弱々しく笑む。
全く、探し回っていたのに寝てしまうなんて……。
牧志 浩太
……辺りを見回す。
先程水が滴っていたクローゼットには、何か変化はないか。
重い物を引きずったような跡はそこにあるか。
引きずったような跡の先には、何かないか。
KP
シローはあからさまに困惑していた。
シロー
「さくらさん?」
KP
誰のことを言っているのだろう、と言いたげだ。

今あなたがいるのはあなたの部屋のベッドの中だ。今まで悪夢を見ていただけなのだろうか?
どうやらリビングではテレビがついている。シローが観ていたのだろうか。
また、あなたのスマートフォンに新着通知が来ているようだ。
牧志 浩太
夢を……、見ていただけだったのか。

身体を脱力感が襲う。
スマートフォンの新着通知を確認しながら、聞くともなしにテレビの内容が耳に入るだろう。
KP
一通だけ未読のメッセージが届いている。
開いてみると、名前が文字化けしており誰から届いたのか分からない……。

「俺が悪かった。あと一時間くらいで戻る」

そのメッセージには何らかの写真が添付されている。しかし画像は暗く粗いため、どこの写真かまではぱっと見では分からない。
牧志 浩太
「佐倉さん……!」
いる。戻ってこようとしてくれているんだ。
俺が佐倉さんのいない世界に来てしまったのか、なんて思ったりもしたんだ。でも、いる。

思わずスマートフォンを握りしめていた。
写真の明るさやコントラストを変えて、写真の場所を見つけ出そうとする。

メッセージの時刻はいつになっているだろうか。
KP
メッセージが届いたのは昨日の夜中。あなたが眠った直後だと思われる。
無論これが届いてから一時間などとっくに過ぎている。

写真のコントラストを弄るなどすると、どうやらそれがどこかの海辺であるらしいことが分かった。
しかし写真に撮影場所のタグなどはついておらず、特徴的な物が映り込んでもいない。ただ海である、ということが分かるだけだ。
KP
リビングからはニュースが聞こえてくる。
「近所に住む住民の通報により、江ノ島でまたもや身元不明の遺体が発見されました。
今月に入って4件目となります……」
牧志 浩太
そういえばあの時にも、潮の香りを嗅いだ気がした。
このニュースのせいで、あんな夢を見たんだろうか。
牧志 浩太
「海……」
念のため、佐倉さんの部屋と、先程のクローゼットの中を確認する。
水漏れは続いているだろうか。重い物を引きずった跡は残っているか。
KP
あなたはリビングに出る。
リビングには佐倉の持ち物がちゃんとあった。
椅子も、コップも。
KP
テレビではニュースが続いている。
警察は遺体の状況から事件、事故両面での捜査を続けています。
また、用事がない限りあまり海に近づかないようにと――

【アイデア】をどうぞ。
牧志 浩太
1d100 90 【アイデア】 Sasa BOT 1d100→65→成功
KP
そういえば今月に入ってからこのようなニュースが何度も流れていると思い出した。
全国ニュースで特集が組まれるほど話題になっている。
KP
佐倉の部屋の扉は閉まっていた。

〈聞き耳〉
牧志 浩太
1d100 97〈聞き耳〉 Sasa BOT 1d100→42→成功
KP
部屋の中に人の気配がある。
牧志 浩太
「……佐倉さん?」
部屋の扉を叩いて呼びかける。
なぜか、すぐ開ける気にならなかった。

持ち物はちゃんとある。消えてなんかいない。
全部夢だった、本当に?

でも、メッセージや写真は異常になっていた。
シローは寝ぼけていただけ? でも。
KP
「どうぞ?」
中から声がする。

聞き覚えのない女性の声だ。
【POW】×7 で判定。
牧志 浩太
1d100 84 Sasa BOT 1d100→33→成功
牧志 浩太
えっ佐倉さんの代わりにそこに彼女ができちゃうの??
KP
やはり全く聞き覚えがない……誰だろうか?
「入っていいよ。着替え中とかじゃないし」
牧志 浩太
手が止まる。佐倉さん…… じゃない。

あの夢の中で、佐倉さんは消えてしまっていた。
じゃあ、今度は、入れ替わってしまっている、とでもいうのか?

他の誰かに?
怖気がする。

そこにいるのが「誰か」でいいわけがない。
「誰か」がいれば、いいわけじゃない。
牧志 浩太
身構えつつ、恐る恐る扉を開ける。
KP
そこにいたのは、全く見覚えのない女性だった。
部屋の中にある物は全て佐倉の私物そのままだ。
だがそこにいる人間だけが違う。
明るい髪色のボーイッシュに見える女性だ。

女性は佐倉のヘッドフォンを首にかけ、佐倉のPCデスクの前に座っている。
女性
「おはよう牧志。
……どうしたのさ、怖い顔しちゃって。また悪い夢でも見たの?」
女性は当たり前のようにあなたに声をかけた。
まるでずっと前からの知り合いだ、とでもいうように。
ここでイラストが提示されました。
牧志 浩太
かわいい。
かわいいけどPLも怖い。
これ【POW】判定失敗したらなかった記憶を思い出しちゃって納得しかけるやつでしょ。佐倉さんが身元不明の死体になっちゃうんでしょ。だんだん倍率下がっていくんでしょ。
KP
フフフ
牧志くん、子供と一緒に暮らしていたと思ったらとうとう彼女と同居始めたみたいで~、観念したのかな?

そういえば知らない人が相棒面してくるの二度目。
牧志 浩太
この位置にいるのが彼女だと、妙に自然になってしまうのがまた何とも。
牧志 浩太
思わず一歩、下がっていた。
そこは佐倉さんの空間のはずだ。

それなのに、まるでずっと前からそうだったとでも言うように、その人がそこにいる。
牧志 浩太
「……君は?」
一歩下がり、問う。
意図的に警戒を滲ませる。
その気安い声が恐ろしかった。
KP
女性は嘆息した。
女性
「そっか、また忘れちゃったんだね。
寂しいなぁ」
KP
女性はションボリと肩を落として見せるが、すぐににっこり笑う。
女性
「何度でも教えてあげよう。
ボクとキミの絆はこんなことでは揺るがないからね!
ボクはフカヤ ミオ。キミの相棒だよ」
牧志 浩太
「……」
忘れてしまった?
俺はまた、何かを忘れたのか?
前にそうだったように、この人のことを忘れたのか?

佐倉さんがそうだったように、俺達のことを忘れたように?

いや、違う。
知っている。そこは、佐倉さんの場所だ。
そこにいるはずの人間を、俺は知っている。
牧志 浩太
「そこにいたはずの人を知らないか。佐倉さん、っていうんだ」
フカヤ ミオ
「さくらさん?  誰?
え、ボクの部屋に?  誰か来てたっていうのかい?
キミね~、いくらボクに女性らしさが欠けているといっても、勝手にほかの人をいれるのはどうなんだろう。さすがのボクも傷ついてしまうよ?」
ミオは頬を膨らませた。
フカヤ ミオ
「ボクの部屋に入っていいのはキミとシローだけ。君たちだけに許された特権。理解してもらえるかな?
今回は許したげるけど。

で、そのキミのお客人、勝手に帰ったのかな?
ボクは見かけてないけどな」
牧志 浩太
「リビングにあった幾何学模様のコップは…… 君のものか?」
フカヤ ミオ
「ああ、そうだよ?
ボクのお気に入り。
まあー、どうしてもって言うなら使っても構わないけどね?」
ミオはあなたに言い聞かせるような言い方をした。
牧志 浩太
「そのPCは君のものか? 君は、ハッカーなのか?」

室内をぐるりと見渡す。
何か、不自然なものはないだろうか。
彼女がそこにいるにあたって、不自然な、不似合いな、ちぐはぐなものは。

あの時計は、ベッドサイドに戻っていたりするだろうか?
牧志 浩太
彼女はヒランヤを提げていたりするのだろうか。
佐倉さんの大事なものの筈だったものを。
フカヤ ミオ
「ハッカー? 嫌だなぁ、ボクを犯罪者呼ばわりとはいい度胸じゃあないか。
PCといえば、ボクのPCが生意気にも沈黙を守っているんだ。壊れてしまったのかな?
キミ何かしらないかな?」
KP
どっかの誰か「ハッカーとクラッカーは違ぇんだよ!!!」
KP
本気で困った顔をしている彼女の首にヒランヤと勾玉は掛かっていない。

【アイデア】
牧志 浩太
1d100 90 【アイデア】 Sasa BOT 1d100→99→致命的失敗ファンブル
牧志 浩太
わお
KP
あらあら。
KP
何となく彼女がそこにいても違和感ないなぁ、と思ってしまった。
そういえば知り合いだったような気も……する?
牧志 浩太
「……」
頭を押さえる。そこに存在している彼女に違和感はなかった。

そこは彼女の部屋、そういえば、知り合いだったような気がする。
俺はまた彼女のことを忘れ……、

そう思いそうになったことに気づいて、怖気を覚えた。
牧志 浩太
「違う……、違う!!」

違う。
違う!!

沈黙を守ってるってことは、それは彼女のものじゃないってことだ。
そうだろう。だってそれは佐倉さんのものだ。佐倉さんしか起動できないんだ。
記憶を失った佐倉さん自身にも起動できなかったくらいに、厳しいプロテクトだ。
牧志 浩太
という感じにしちゃっても大丈夫ですか?
KP
大丈夫ですよ。
佐倉じゃなくて彼女だった、という記憶ではないので。
牧志 浩太
はーい、ありがとうございます。
KP
ちぇー、ここでファンブルされるとはw
牧志 浩太
ちぇーってなにいぃ
KP
ううん、逆転裁判したかったなって思っただけです。
牧志 浩太
なるほどw
牧志 浩太
「知らないよ。それの起動方法は持ち主しか知らないんだ。
持ち主の佐倉さんしか、知らないんだ。

起動できないってことは、それは、君のじゃない」
自分自身に言い聞かせるように、呻くように言う。
フカヤ ミオ
「えぇー? ボクの部屋にあるんだからボクのだよ……?」
ミオは首をかしげた。
「……のはずだよねぇ? それこそスーパーハッカーに壊されたんじゃない?」
牧志 浩太
「君のじゃないよ。
部屋にあるんだからって、君はそれを使ったことがないのか?
大体なんだよ、スーパーハッカーに壊されたって。

大体、ハッカーだからって犯罪者ってわけじゃないだろ。
まあ、佐倉さんも僕も、そこは踏み越えてたけどな。

なあ、僕と君は本当に相棒だったのか? どこで出会って、それからどうしていた? 
ハロウィンの事件の時なんか、どうしたんだ?」
牧志 浩太
そう聞くとき、少し怖くて、一人称を変えた。

彼女の口から、俺と辿った道を聞いたら。
もし自分の日記に、彼女と辿った道が書かれていたら。

一瞬、彼女がここにいても違和感がないと思ってしまった、あの瞬間。

あの夢を思い出す。何もかもが書き換わっていた俺自身の日記。まるで他人のような自分自身。

もしも当然のようにここにある状況に、呑まれそうになってしまったら。
牧志 浩太
そう思えば俺でない俺としてそれを聞きたかった。
俺としてでは、聞きたくない。
牧志 浩太
せっかくなので拾った!!
フカヤ ミオ
「ボクとキミの出会い? そうだなぁ、随分前のことだけど……」
ミオは首をかしげた。
「キミとボクがピンチに陥って、一緒に乗り越えて、それからの縁って感じだよね? ハロウィン事件? ハロウィンに事件なんかあったっけ」
ミオは眉根を寄せた。
「うーん。よく覚えてないなぁ。
でも相棒は相棒だろう?」
牧志 浩太
「……覚えてないのか、何があったのか。
どういうピンチがきっかけだったのかも、何も?

なあ、フカヤさん。
“僕” の名前を、知ってるか」
フカヤ ミオ
「ぼく? なんだい急に。マキシコウタだろう?
ボクはちゃんと覚えているよ」
ミオは肩をすくめて苦笑した。
フカヤ ミオ
「さっきから聞いていればキミはそのサクラという人物にご執心のようだね。
サクラちゃんか。キミの想い人かい?
こんなにいい女が側にいるというのに、なんとも失礼な話だな」
フカヤ ミオ
「……いや、冗談だからな? 本気にするなよ?
キミとボクはその、そーゆーアレじゃないからな?」
ミオは言ってから気まずそうに目を逸らした。
牧志 浩太
「相棒だよ、僕達の。
君こそ、そんなによく覚えてないのに、どうして相棒だって言えるんだ?」

可愛らしいな、と少し思った。
気まずそうに目を逸らす時の仕草とか、気張っているけど嫌味じゃない雰囲気とか、どこかチャーミングな人だ。
……今の俺になる前の俺だったら、こんな人に傍にいてほしいと、望んだのかもしれない。

それでもやっぱり、彼女はそこにいるだけだった。
そこにいるべき人ではなかった。
牧志 浩太
もう一度室内を見回す。
クローゼットから水は滴っているだろうか? あの時計はベッドサイドにあるだろうか?
牧志 浩太
元の牧志とは似合いそうだけど今の牧志と気が合うかというと微妙な気がする、フカヤさん。

家を出るべきか家の中を探すべきか迷うなぁー。
あんまり家の中で時間を食うのも怖いけど、場所の手がかりも海辺以外ないしな。
KP
好きに動いていいですよ。
フカヤ ミオ
「だってボクはさ……」
ミオは困ったような顔をした。
牧志 浩太
「あ……、」
彼女が何者かは、分からないけど。
そういえば、彼女に随分酷い態度を取ってしまったと、今更気づいた。
フカヤ ミオ
「そうだな。ボクも記憶がおかしいのかもしれないな。お互い様なんだ、きっと」

「仕方ないな。それじゃあボクがそのサクラちゃんとやらを探してあげようじゃあないか。
キミが困っているというのなら、今まで助けてもらった分の借りは返すべきだろうからね」
牧志 浩太
「そうだな、きっとお互い様なんだよ。

頼む。君も、誰か探すべき人のことを思い出したら言ってくれ。
僕も、その人を探すから」
フカヤ ミオ
「ボクは誰も探してはいないけど、そういうときが来たらお願いしようかな」
ミオはにっこり笑った。
KP
クローゼットは閉じている。水が滴ってもいない。
そういえば当然、その中に入っているのは佐倉の服であるべきだろう。
時計は、ない。
電池を抜かれた状態で、あなたの部屋にまだあるのだ。
牧志 浩太
「こうなる前に、夢を見たんだ。
そのクローゼットから水が滴っていて、開けたら潮の匂いがして、佐倉さんが闇に呑まれる夢を見た。

君は、何か奇妙な夢を見なかったか?」

そういえば目を覚ましてから、俺の部屋はまだ見ていない。
何か来ていないかスマートフォンを見てから、自分の部屋の様子を確認しよう。
あの時計が俺の部屋にあるかも確認する。

その道すがらにカーテンを少し開け、外の様子を確認する。
フカヤ ミオ
「夢か。割と夢が糸口になることも多いからね。
でもボクは見ていないな。残念ながらね。
立ち話もなんだし、シローを放っておくのも何だから、リビングに行こうか」
ミオは椅子から立ち上がった。
牧志 浩太
「ありがとう」
KP
この部屋で見たい物はまだある?

スマホに今のところ変化はなく、あなたの部屋にあの古い時計がある。
カーテンを開けると相変わらずの豪雨だが、大分弱まってきた気がする。
KP
サクラさん女性説が否定されないままだ。
牧志 浩太
牧志がいっぱいいっぱいで訂正してくれない。
牧志 浩太
ちらりと佐倉さんのPCを見てみる。何か残されていないだろうか。
また、一応クローゼットを開けてみる。
牧志 浩太
……豪雨が弱まっている。そろそろ外にも出られそうか?
それだけ時間が経ってしまったと考えると、少し怖いな。
KP
PCは沈黙している。
正当な使い手以外に情報を明け渡す気はないらしい。
KP
クローゼットを開けようとすると、ミオが「おいおいいきなり何するんだよ」と止めにくる。
フカヤ ミオ
「そーゆーの、一言言いたまえよ。それが礼儀ってもんだろう?
一応ボクは女なんだぞ。
キミはしょっちゅう忘れてしまうようだけどね」
そんなことを言いながらも、見せて欲しいというなら自分で開けて見せてくれる。
牧志 浩太
「ああ……、ごめん。今は、君の部屋なんだったな」
KP
見慣れた黒いパーカーが何着か。シローの服も何着か。
下着類が入っている引き出しもある。
天井から水がもったりはしていない。
牧志 浩太
クローゼットの床に、何か引きずった跡などは残っていないだろうか。
KP
部屋の床にもクローゼットにもそんな痕跡は残っていない。
牧志 浩太
リビングに戻りながら、彼女の服装を見る。
佐倉さんの服のような服を着ているのか、それとも。
KP
衣類のラインナップは完全に佐倉のものだ。
KP
彼女が今着ている服はふわりとしたブラウスで、とてもいつもの佐倉の格好、クローゼットの中身とは一致しない。
……というか、クローゼットに入っているのは男物の筈だが?
牧志 浩太
「やっぱり、おかしいな。この中に入ってるのは佐倉さんのパーカーとシャツだ。男物の。
君が着てる服とは合わない」
フカヤ ミオ
「だって、ここはボクの部屋なのに」
ミオはわけが分からないというように困惑した。
「……ってことはこの下着、キミのなのでは!
そうつまり、シローの悪戯!」
ぱちん、と手を叩く。
「……ってことはない?」
牧志 浩太
「やっぱり、君は本当はここにいたんじゃないんだ。
本来いた場所があったんだよ、きっと」
確かめるように口に出す。彼女と、自分にも言い聞かせるように。
フカヤ ミオ
「うーん、わけがわからなくなってきたけど。
ボクの家なのに」
どことなくションボリしている。
牧志 浩太
「いくらなんでも考えにくいだろ。
シローの悪戯にしては大掛かりすぎる」
そう断じて、彼女のしょんぼりとした様子に気づく。

そうだ、俺以上にわけがわからないよな。彼女にとっては自分の家、自分の知り合いのつもり、なのに、こんなことになって。
牧志 浩太
「……ごめん、なんだか悪いな。
君にとっては自分の家のはず、なのに。
でも、分かるだろ。本当はきっと、別に帰る場所があるんだよ」
フカヤ ミオ
ミオは哀しそうに首を振る。
「信じて貰えないって寂しいね。ボクが帰る場所はここだけなのに。
きっと何かの間違いなんだ」
牧志 浩太
「少し雨脚が弱まってる、そろそろ外に出られそうだ。
正直、方針は決まってないけど。
佐倉さんの痕跡が残ってないか、外を探してみようと思う」
牧志 浩太
「最後に、海辺かどこからしい写真が来てたんだ。
場所は分からないんだけど」

そう言って、あの場所の分からない写真をミオに見せる。
フカヤ ミオ
「海かぁ。さっきニュースやってたよね。
最近死体がよく上がる……」
はっ、と息を呑む。
「キミが言っている人に何かあったんじゃないだろうね!?」
牧志 浩太
「身元不明の……、死体。
そうだ、どの辺りとか分からないかな」

先程のニュースについて、ネットで詳しく調べてみます。
死体が上がっている場所などの手がかりはありますか?
KP
ここから車でおよそ一時間ほど行ったところにある、湘南江ノ島近辺に集中している。
そういえば最近、先週だったか。あなた方はそこに行ったのだ。
江ノ島には「新江ノ島水族館」という大規模な水族館がある。

最近シローに水族館ブームが来ていたので、水族館巡りをしていた。
池袋に始まり、品川、葛西。足を伸ばせるところにある有名なところに行ったのだ。
新江ノ島水族館はそのうちのひとつだ。
牧志 浩太
「そうだ、佐倉さんのスマートフォンは佐倉さんが持っていってるよな。
僕のタブレット、貸しとくよ」
スマホなどを持っていない様子なら、自分のタブレットを彼女に貸して、ネット回線を使えるようにしておきます。
KP
ミオはありがとうとこたえてあなたのタブレットを受け取る。

コメント By.KP
このシナリオ、しょうもない小さな喧嘩から始まります。

……この二人、喧嘩することあるのか?
どうやったら喧嘩してくれるだろう。
そんなのPLもKPも知りませんでした……

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