こちらには
『せんたく』 のネタバレがあります。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
現在、自らの目を見ることに激しい恐怖心を抱いており、無理に見続けると映るものを破壊しようとしてしまう。
佐倉とは友人。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。
巻き込まれ体質らしい。
最近牧志の心音への奇妙な執着に囚われている。
牧志とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
《シナリオタイトル》
せんたく
《推奨人数》
1~3人
《推奨技能》
〈図書館〉
《想定プレイ時間》
1、2時間
《シナリオ概要》
謎のコインランドリーを巡っていくシナリオです。
PCたちの魂そのものとも言える汚れたシャツを『洗濯』するか数多の『選択』を繰り返すことで進んでいくか、といった内容になります。
基本的にはSAN回復の要素を多く含みます。
代償としてステータスの減少(【EDU】の減少)が発生する場合がありますので、その点は注意してください。
【EDU】減少しちゃう可能性があるんですね。こわいなー。
実に久しぶりに、この家に平穏と日常が戻った。
かに見えた。
佐倉は帰宅している。
彼が帰ってくるきっかけとなったあの凄惨な事件の話は、お互いに口に上らせたことはまだない。
疲弊した心が、そうすることを拒んでいた。
やっと戻った平穏を壊すことを拒んでいた。
佐倉は決定的に様子がおかしくなって家を出る前の状態に戻ったように思えた。
やたら物言いたげな顔で見つめてくる。
たまに胸に触れさせて欲しい、心音を聞かせて欲しい、と言ってくる。
……いや、以前とは少し意味合いが違う、だろうか。
その違いの正体は分からないが、少なくとも佐倉はそれを理由に家を出ようとはしない。
疲れ果てて擦り減っていた。
削られて大きく抉られていた。
うっかり突いてしまえば壊れて戻ってこなくなるような、そんな危うさを感じていた。
ただ壊したくなかった。
まだ向き合ったり前を向いたりできなくて、とにかく丸まってここにあるものを守りたかった。
それが疲れているっていうことだ、という自覚があった。
きっと生きているってことが必要なんだろう、そんな気がしていた。
あの時だって、あの時……、だって、死んでるものばっかり見過ぎた。
あまりよくない兆候な気はしたけど、あのまま知らないうちに死んでたかもしれないと思ったら、怖くなってきてしまう。
鏡を見られない。人の目を見られない。時によっては金属食器やふとしたときに窓を見るだけで恐怖に襲われるのだ。
黒い眼に自分の顔が映りそうになるだけで、背筋がぞわりと震えて目を逸らしてしまう。
窓にはカーテンをかけて、鏡は全部テープを貼って隠した。シローには悪いけど、手鏡を使うように言った。
食器はプラスチックのやつを買ってきて、それを使っている。
無理矢理耐えていたら叩き壊したくなってくるのを自覚したから、無理に我慢するのはやめた。
手にしたスマートフォンやPCがスリープに入る瞬間に。
薄茶色の円がちらつく度に理由もなく背筋が凍った。
日常のようでやはりぎこちない、砂を零さないように注意深く守る平穏。
恐ろしいものから目を逸らし、それがゆっくり薄れて消え去るのを待つ日々。
そんな時はやはり、どこか心に影を落としていた。
これがおかしいってことを、疲れすぎているってことを、ちゃんと分かっている。自覚出来ている……、はずだ。
あの桜色の手帳、書いていると何だか落ち着くし、どれだけ書いてもページが減らない。
……そのことを追及するのはやめた。きっと、あの子たちのやさしさだ。
週に一度程度、そろそろ眠ろうと考え始めるあなたにこんな事を言う佐倉はどこか気まずそうにしている。
今日もそうだった。
安心させるように笑いかける。
弱ったものにゆっくりと触れる。
目を閉じてても、人の気配がちゃんとするだろ。俺も弱ってるから、そういうのってすごく安心する。
だから遠慮しなくていい」
心音を聴かせている時は、目を閉じていられる。
目を閉じていても、そこに誰かいるのが分かる。
人と一緒に背を丸めて寝るような、弱ったもの同士身を寄せあうような、小さな兄弟と一緒に寝て起きるような。
そんな感じ。
軽い重みがかかり、その呼吸にあわせてゆっくりと体が揺れる。佐倉が安らいだような深い息をつく。
そこに人間がいるという安心感。
目を閉じてゆっくりと息を長く、長く吐いて、心音と呼吸だけに集中する。
大丈夫。ここには安らかな状態しかない。
訳もなく恐ろしいものが目に入ることもなく、いっそこれを抉り出してしまいたいような危うい痛痒さも感じないで済んでいた。
アイマスクに指を引っかけて浮かせ、何事か考えるような間があった。
負い目
あの調子(ハッキングで安心)見てると牧志は音を上げずに距離感バグりそうだけど、それも罪の意識がずーっと底にありましたしね。
あのままだとどこかで全部佐倉さんにあげちゃって牧志がなくなりそう。体がか心がかは分からないけど。
何を言いかけたのか半分くらい察したが、その後を続けることはなかった。
戻ってきてくれてよかった。戻れるようになってよかった。俺の存在が、佐倉さんの狂気が、佐倉さんを苦しめることがなくてよかった。
生きてて、よかった。
色んな意味を言葉にする気は起きなくて、ただ、それだけ呟いた。
胸の奥から少し涙が滲んできた。
何かついでに買ってこようか?」
佐倉は上着を引っかけ外に出ようとしていた。
次の瞬間、
あなたは知らない部屋に佇み、広いガラス窓から見える夜の闇を見つめていた。
佐倉もまた部屋を出ようとした姿勢のまま、窓硝子の真ん前に立っている。
硝子窓に呆然としているあなた方二人の姿が映っていた。
▼《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
SAN 33 → 32
呆気に取られて、知らない部屋の硝子窓を見た。
そこに映る自分の眼に気づきそうになって、慌てて傍らの佐倉さんに視線を移す。
呆然と呟いてから、はっと背後を振り返り、室内を見回す。
一面ガラスで開放的な店構えの、いかにも今時の店。
家の中でこういうのやめてほしいな。安全地帯がない」
本当なら、一緒に巻き込まれたりなんかしない方が行動の自由も利くし、助けを求めてもらえる可能性もあるのに。
やっぱり俺もまだまだ弱ってるみたいだ。
いや、こんな時一緒にいてくれて安心するのは、前からそうだったかな。
ちょっと分からなくなってる。
窓際には多少使い込んだ感はあるが座り心地の良さそうな布張りのソファがいくつか。
三人がけのものを中央に、左右に一人用のが置いてある。
向かい側の壁には、コインランドリーらしく洗濯機が並べられている。
上下にわかれているタイプのものが10台。
その横、左手側に大型の大容量のものが4台。
そして、洗濯機が並ぶ壁の一番左端、部屋の左上に当たる場所には入口と似た白い引き戸がある。
また、部屋の中央には洗濯物を畳むための広いテーブルが三つ、洗濯物を取り込むための巨大なワゴンが3基。いずれも一般的なものだ。
また、そのテーブルのひとつに書籍棚が置かれていて、暇潰し用の本が数冊入っているようだった。
左手の壁には小さなテーブルがあり、いかにも使い込まれたノートが置かれていた。
その他、フリーの飲料マシンがある。
あなた方二人はいつもの格好だ。
鞄などはない。
これだけ見てると、普通にコインランドリーだな……」
窓の前に向き直り、自分の胸のあたりに視線を落としながら、外の風景を確認する。
知っている場所だろうか、知らない場所だろうか。
飲み物買いに行こうとしてたよな、スマホとか持ってる?」
それから自分の持ち物を確認する。
ただ明るい光に照らされた道は普通に舗装された道に見える。
奥の町並みはおぼろだ。街灯はなく、空も暗い。
道が少し濡れて光っていた。雨が降っているのだろうか?
あなたはなにも持っていない。
▼【アイデア】
上着のポケットにもなにも入ってはいないようだ。
佐倉は自分の身体中触っていたかと思うと、足をごそごそと動かし始めた。
持ち物を確認していたが、驚いてそちらを向く。
着ていた上着を脱ごうとしてみる。
不快感も痛みもないが、引っ張っても抜けない。
全く動かないというわけではないのだが、体が『服を脱ぐ』という概念を忘れてしまったかのようだ。
だが、なぜかそれでいいような気もしていた。できなくて当たり前なのだと。
本編見る!
いや、おかしいだろ。変だろ、脱げないなんて」
意識して声に出す間にも違和感が削れていく。おかしい。おかしいはずなのに、それでいいような気がしている。
おかしい……、はずだ。
だから脱げなくて当たり前。そういうことなのだろう。
それよりここはどこだ?」
何に違和感を覚えていたのか、途切れて分からなくなってしまった。
外、出られるかな」
白い引き戸の近くに寄り、外に誰かいたり、何か聞こえたりしないか、〈聞き耳〉を立ててみる。
大きな荷物を持った利用者が不自由なく出入りできるようになっているのだろう。
▼〈聞き耳〉
開くとしてもあまり外に出たくない感じではあるなぁ」
普通に外に出られて、どこかの街で普通に家に帰れて、ってこともあったらいいと思ったんだけどな」
書籍棚を探してみる。
こういうのって大体雑誌や漫画が入ってたりするけど、現在地のヒントになるようなものが入っていないか。
いずれもここを訪れたものによって読まれたためか、擦り切れ気味だ。
・雑誌「超古代兵器は実在した? 謎のオーパーツとその本体」
・絵本「炎の鬣なびかせて」
・図鑑「深海に生きるものたち」
・啓発本「魂の洗浄」
どれも見覚えのない本だ。
本当だ、ちゃんと中身もあるのか」
一度の判定で全て読みきることができます。
内容にも興味をひかれることだし、読んでみる。
1d100 85 〈図書館〉 Sasa 1d100→ 22→成功
ソファに腰掛け、興味深そうにしながら。
本を読むあなたの前に紙コップが置かれた。中には麦茶が入っている。部屋のすみのティーサーバーから持ってきたらしい。
まあ、でも、今更か……」
そういえば、ちょうど飲み物頼もうとしてたんだよな。
麦茶の水面を見ていると、喉の渇きを思い出す。
受け取って、一口確かめてから何もなければ飲む。
飲んだ後、何気なくコップの底を見る。
お茶はすっきりとして程よく冷たく美味しい。
よい香りの水分が喉を落ちていく心地よさと、目の前にある本の内容が頭を安らがせて、奇妙な場所にいることを少し忘れそうになる。
古代兵器のことが書かれた本と、空腹の獅子に肉を与え、のちに報いとして助けて貰う男の話が載っていた。
懐かしいな、皇津様。
婆ちゃんたち元気かな」
元気、って言うのも変な感じだけど、今どうしてるのかな、皇津様」
つーかあれは結局本物じゃなかったのか。
いや夢に本物とかあるのか?」
俺や佐倉さんの夢じゃないなら、本物…… なのか? でも夢なんだよな。よく分からなくなってきた」
いくつもの名を持つ。ニャルではない。念のため。
そう口に出した後にページをめくると、巨大なイカを捕食する、これまた巨大なクジラの姿が目に入った、
そういえば、植物も動物も人間も全部巨大な星から親子が観光に地球へ来る漫画あったな」
ずいぶんどたばたした雰囲気の本だったなー」
新刊は煙の悪魔の話らしい」
胡散臭い自己啓発本。著者は不明であり、どことなく全体的にスピリチュアルな雰囲気の文章が書かれている。主な内容は以下の通り。
・魂とは、まっさらな布地のようなものである
・そして、人生における経験、知識というものは少しずつその布を染色していくことに他ならない
・積み重なった日々の記憶はまっさらだった布地を少しずつ染め上げ、やがてそれは複雑な色合いを見せることだろう
・しかし、辛い記憶や経験もまた、布を染める要素の1つとなってしまう
・淀みや汚れとして付着したそれもまた色合いと取れる一面はあるだろう。しかし、そんなものはないに越したことはない
・ゆえに、魂の洗浄が必要なのだ。染まり過ぎた魂を、汚れてしまった魂を洗うことで、それらがもたらす悲しみや苦しみを忘れることができるだろう
・当然、辛かった記憶や苦しかった記憶も消えることで、いくらか他の関連する記憶も消えるかもしれないが、背に腹は代えられないというものだ
本は以上の四冊だ。
ガラス窓が視界の隅に入る。
未だにあの窓をまっすぐ見られないし、佐倉さんはどこか不安そうにしていた。
知識が毒になることについて、話した時の記憶が蘇る。
心の中に、思考の中に、楔のように穿たれた傷。
痛いことも、辛いことも、自分の一部だ。
傷と苦しみと痛みと、間違っても手放したくない思い出が、記憶の中で複雑に絡み合っている。
ぱたりと手の中で紙が音を立てた。
本のページをめくりながら、漫画の話をする時と同じトーンで口にした。
そもそも人間は色々と忘れていくものだしな」
本を閉じる。
ガキの頃の嫌なだけの思い出は忘れたいけど、ガキの頃の話全部を忘れたいわけじゃない」
全部忘れちゃったら困るけど、今は思い出したくないこともあるしな」
でも忘れてるんだよなぁ色々と。
ノートの表紙を見てみる。
そのノートはどんなものだろうか。筆記用具などは近くにあるだろうか。
表紙に何か書かれているだろうか。
近くにボールペンと鉛筆がある。
ノートを開いて中を見てみる。
こちらの文字に対し矢印つきで書き込まれている文字が2つ
↑雑な字「真面目かよ(笑)」
↑丸文字「ちょーえらい! ウチもやろー」
少し気が抜けていた思考が、ぴんと糸を張る。
そうだ。俺達は突然この妙な場所に来ている。
普通の街の風景に見えても、ここは異界かもしれないし、何が起きるかも分からないんだ。
1d100 85 〈図書館〉 Sasa 1d100→ 19→成功
雑な字「出れねぇ~、けど腹も減らないし、そんな困んねぇな~」
丸文字「コインランドリーなんだし、やっぱ洗ったらいんじゃね?」
↑雑な字「お、マジで洗ったら出れんじゃん。ラッキー」
↑丸文字「洗濯って気分いいねー、スッキリした。もっとやろっと」
突然殴り書くような文字が書かれている。
↑雑な字「何言ってんだこいつ?」
↑丸文字「洗った方が気持ちいいよー?」
そして、他の誰かによって斜線が引かれてしまっているが、かろうじて読める文章が最後に1つ。
殴り書き「
ノートの裏表紙やその裏に何か書かれていないか、ノートに何か挟まっていないか確認する。
ドン
音がした。
窓硝子が並ぶ面の入り口らしき扉の向こうで、何者かがドアを叩いている。
ボールペンを取り、ノートのページを破って、先程の内容……
「洗濯すると進める、けど人生そのもので洗ってはいけない、流されるな。自分で決めて選び取れ」を書きつけ、上着のポケットに突っ込む。
佐倉さんに奥の扉を確認してもらいつつ、こちらは洗濯機と、その周辺を確認する。
洗うようなもの、あるいは他の何かはそこにあるだろうか。
佐倉は扉の前から何か拾い上げていた。
・1度の洗浄につき1枚が必要です
・普通の衣類は洗浄することができません
・洗いすぎにご注意を
小型の物が右から四つ。中身は右から順に、
・スーツ、Yシャツ、スラックス、トランクス、男性ものの肌着
・ジャージの上下、Tシャツ、ボクサーパンツ
・俗に地雷系と呼ばれる衣類一式、女性ものの下着、肌着
・空っぽなのに稼働している
この洗濯機だけは他の洗濯機と作りが明らかに違う。
左にある洗濯機が開くかどうか確認する。
開くなら、正面から身をかわしつつ開いて中を見てみる。
そしてその上に《選べ》との文字が。
洗濯機の扉を引っ張っても開かないようだ。
作業テーブルや洗濯機の周囲に、コインらしいものはあるだろうか。
中には汚れた服が入っている。
入っているのは恐らく元々白かったはずの服が一着。
そして籠にくっつけられた小さなジップロックに入っている鈍色のコインが五枚。
服は二人とも酷く汚れて、ヘドロのような汚れや血痕がひどくこびり付いている。
正直このまま洗濯機に放り込むのが躊躇われるほどだ。
しかし何故か、ここで洗えば恐らく綺麗に落ちるだろう、という確信があった。
佐倉パーカーにしよ。
籠の中には、元は白かったのだろう襟付きのシャツが一枚。
触るのも躊躇うほど、その服は汚れて血なまぐさかった。
また、ところどころ色合いが違う布地が切り貼りされているように見える……が、汚れが酷すぎて服の詳細は良く分からない。
佐倉が手にしているパーカーも元は白い物だったようだが、どす黒い赤が全体に染みついて鉄臭い。ほとんど真っ黒になっている部分も多いようだ。
洗濯すれば進める、っていうのなら、このコインを使ってこの服を洗えばいいんだろう。
でも、さっきのノートの内容を見れば、嫌な予感がする。
それとも、この洗濯機のボタンを押してみるべきか?
けど、関係しそうなものはさっきの絵本と図鑑くらいしかない……。
さっきのノートには洗えば進めるって書いてあったな。
そっち、何かあったか?」
横に【水】と【炎】ってボタンがあって、「選べ」って書いてある。
それから、動いてる洗濯機が四台。そのうち一台は中が空っぽなのに動いてる。
あと、動いてないのが五台」
開ける?
湿った空気が漏れてくるが中には何もない。
シローがポケットにうっかり色々入れっぱなしにする事件も最近なくなってきたのだ……
少し洗ってみて、様子を見てみるか」
汚れたシャツを動いていない洗濯機に入れ、コインを一枚入れる。
すぐ止められるように、扉に手をかけておく。
あまりにも酷い汚れに覆われた服に洗剤入りの水が注がれるが、それはあっという間に赤茶けた色になってしまった。
▼1D6を振ってください。
20分も待っていれば洗濯機は止まる。
少ししたら、ソファに何か落ちていたり挟まっていないか確認する。
服は洗濯機の中で泡に塗れてぐるぐると回っている。
ソファに何かが挟まっている、等といったことはないようだ。
思わずハンカチを探したが、ない!
それより洗濯終わったんだな?」
動かしていた洗濯機の扉を開け、中のシャツがどうなっているか確認する。
また、真っ黒な扉の洗濯機に何か変化はあるだろうか?
あなたが自分の洗濯機の扉を開けたとき、かちゃりと何かが作動するような音がした。
▼〈聞き耳〉
▼SAN回復 1
シャツを取り出して籠に入れ、片手に籠を持って、奥の扉に〈聞き耳〉を立てる。
しかしかなり荒廃しているように見える。
清潔で明るいこの部屋と比べると、随分埃っぽく、汚れていて、設備があちこち壊れている。
あちらにも洗濯機があるかどうか確認する。
室内を確認し、何もいないようなら、扉を開いた状態でワゴンを噛ませて閉じないようにする。
それから、籠を持って室内に入る。
また、今通ってきた扉は前の部屋では入り口と思われる扉に繋がっていた。
窓の外は昼間だが、外には廃墟の街が広がっている。植物に覆われて風化しかけており、動くものは何も無い。
この部屋の物も全体的に何十年も放置されていたかのように汚れてへこんでいる。
ソファからはスプリングが飛び出たり足が折れたりしている。
ティーサーバーは倒れていて使えそうにない。
10基ある洗濯機の1基はやはり扉が黒く、先ほどとは違うボタンがついているようだ。
先程の部屋の様子を見直してみるが、ここの扉を潜っても、先程の部屋の様子に変化はないだろうか。
また、机には先程のようなノートはあるだろうか?
とくに変化はないようだ。
机には先ほどのようなノートがあり、テーブル脇に書籍棚があって、二冊の本が倒れて入っている。
洗濯機は先ほどと同じく4基が回っている。
また、黒い扉の洗濯機に、先程のようなボタンはあるだろうか?
黒い扉の上には【魚】と【肉】のボタンがあり、《選べ》と書かれている。
魚が水で、肉が炎ってことなのかな。さっきの絵本のやつだと」
雑な字「何度も洗ったらもっといい気分になれんのかな? 試してみっか」
↑雑な字「意味あるわ、めっちゃ洗うとめっちゃすっきりする。ガチ」
丸文字「外はヤバげだねー、出たら戻ってこれなそーだけど、そもそも出れなそー」
↑雑な字「それなー」
殴り書き「どの言葉を信用すべきか悩んでいることだろう。当然のことだ。信じたいものを信じるべきだとは思うが、洗うほどにお前が失われることだけは忘れるな。俺が言えるのは1つ。洗わず、選べ。それだけだ」
↑雑な字「いや洗えよ」
動いてる洗濯機も、さっきの所もこっちも、四基だな」
何か、自分の心や記憶に変化は見つかるだろうか。
丸い文字が女の人で、雑な字と真面目な字が男の人で……、殴り書きはもしかして、何もない洗濯機か?
洗い過ぎて消えてしまった、とか……。
今の所、俺の記憶に何か変化があるようには思えないけど」
メッセージ送る感じで」
この雑な字と丸字会話してるだろ? 後で入れたツッコミにしてはおかしいな。何度か同じヤツが来た、にしては内容が変な気がする」
何度か来たって感じじゃなくて、最初に来たその時に会話してるように見える。
なんで態々文章で会話してるんだ?」
苦笑いしつつ、書籍棚の本を確認する。
描いたものが本物になる、不思議な力を持つ絵描きの話だ。
絵描きはいつも貧乏でお腹を空かせている。
ご飯を描いて食べたらいいのに、と思うかもしれないが、彼の魔法は人のために、相手のことを想って描かないと発動しないのだ。
たくさんの人を救っていく中で、好物のお肉を平らげて幸せそうにしている姿が特徴的だ。
でも、そうじゃないみたいだからさ」
単純な話じゃない、か……。
殴り書きが洗濯物が消えた人だとすると、このまま洗っていくのも嫌な予感しかしないけど、ボタンも相変わらず基準がないな。
……これ、同時に押したらどうなるんだ?」
黒い洗濯機の扉は、相変わらず開かないだろうか。
そうなるとせんたくしない方法を探してみたくなるけど、外には何かいる」
先ほどより強く、性急だった気がした。
……今度は選んでみよう。それで何か起きるなら、判断材料にはなる」
黒い扉の洗濯機に近づき、【肉】のボタンを押す。
なぜ肉
牧志も魚よりはお肉食べたいお年頃。
中には変にツヤツヤと光るカラフルな……プラスチックでできた漫画肉の玩具があった。
大きさはサッカーボール程度のサイズはある。
洗濯機の中を見た後、危険がなさそうなら玩具を手に取り、見たり振ったりして確かめてみる。
押したボタンは凹んだまま戻ってこない。
肉は完全に中が空洞のプラスチック製だ。
中に何かが入っている様子もない。
大きさの割に軽く、持ち運ぶのも簡単そうだ。
そして、洗濯機の扉が開いたと同時、おそらく奥へ続く扉の方で何かが外れるような音がした。
その玩具を籠に入れ、前の部屋に戻って黒い扉の洗濯機の【炎】のボタンを押してみる。
中に入っていたのは、銀の太いノズルがついた赤い缶だ。缶には「GAS」と印字してある。どうやら手持ち式のガスバーナーであるらしい。
手元にある肉の玩具とガスバーナーを眺め、ううん、と少し唸る。
物音がしないようなら、少し開けて様子を確認する。
扉の向こう側はうって変わって無機質な金属とつるりとした白っぽいもので作られていた。
床は青紫の金属で、硬質な輝きを放っている。
まっすぐ前の壁にはやはり洗濯機が並んでいるが、それを形作るのは美しい銀色の素材だ。今までと同様四つが稼働しており、ひとつの扉は黒い。
天井はくすんだ白の素材で、その全体から淡い光が放たれ部屋を照らしている。
中央の作業用テーブルはさほど変わった様子はないが、書籍棚はなく何か小さな箱のようなものがテーブルの横に置いてあった。
左手の壁にはやはり机があるようだ。
飲料マシンがあった場所には何もないが、そこの壁にモニタのようなものがついている。
部屋は全体的に金属的な印象であり、それはあなたの顔をときにはっきりと映すであろう、と予想できる。
夜の闇に煌々と光を放っていたコインランドリーに続いていた扉は、赤茶けた汚れと蔦のようなものに覆われ、最初から動いたことなどなかったかのような様相となっている……。
ひゅっ、と喉が鳴った。
背後で閉じる扉の音。閉じ込められた、という認識と、目の前に映る金属の箱じみた風景が背筋を凍らせる。
視覚と聴覚から入ってくるものが、鏡の中に閉じ込められた、と感じさせる。
心臓が弾けそうに打っていた。
その場にへたり込み、強く目を閉じる。
視界から光を追い出さなくては、いられなかった。
佐倉があなたを庇うように扉の前に進み出た。
それから随分低い位置、あなたの目の前から声がし、あなたの肩に温かい手が触れた。
気がふれていたとしても彼の心音を守るために動くから、基本的にはまともな立ち回りができる。
自分の手に目を落とし、ゆっくりと握って開きながら、自分の今の状態を推し量る。
ただでさえ不確実な状況に置かれてるんだ。
見るべきものを見逃さないために、消耗したくはない。
指の動きに合わせて息をし、胸を叩く鼓動を落ち着けていく。
見なきゃいけないものを見るときに、我慢できるようにしときたいしな」
その手を辿り、目を閉じる。
大丈夫、俺の顔が映ってるだけだ。怖くない。
背後から、せき立てるような激しいノックの音がした。
ノック、というより、扉を打ち破ろうとしているような激しい殴打だ。
佐倉は素早くあなたの手をとると、前へ進む。そして背後で扉を閉じた。
あれに追い付かれるとまずい気がするんだ」
あれ、好意があるようには思えない」
ただここは……見た目はあまり意味ないと思うけど、ビルの上層階みたいだ。
SFかなんかみたいだな。金属でできててやたらピカピカしてる。
洗濯機に、先に進むドア。
テーブルにはタブレットみたいなのが二枚。
飲料マシンの代わりに、飲み物が出てきそうな壁がある。自販機みたいにディスプレイされてて、ボタンがついてる。
ノート……もあるな。この部屋でものすごく浮いてるけど」
洗濯機、黒い扉のはある?」
与えられる情報をたどり、頭の中で室内の姿を描く。
黒い扉のもあるけど、今回は【電子】と【物理】って書いてある」
とりあえず、ノートから見てみよう。大丈夫、ノートくらいは読める」
ノートを渡してもらい、背を丸めながら読む。
視界の端に金属的なきらめきはあるが、なんとか見ずに済みそうだ。
ノートには今まで同様、書き込みがある。
雑な字「洗いまくったおかげでめっちゃ頭すっきりしてきた! サイコー!」
丸文字「すっごくいー気分! このままやなこと全部忘れちゃえないかなー」
殴り書き「もう体験している可能性もあるが、今ならまだ間に合う。洗濯をしてはいけない。消したくないものまで消してしまってからでは、手遅れだ。選べ、選び続けろ、選び取って次へと進め。手にしたものを全て抱えて、一緒に進むんだ」
↑真面目な字「あなたも洗濯してみては?」
↑雑な字「空気読めよなー」
だとすると、おかしいな。その結果が何もない洗濯機なら、『選択』しても消えてしまう、ってことになる。
しかも、洗濯機は動いてる。
結局、『洗濯』も『選択』も変わらないのか?
この人、どうなったんだ?」
ここから読める内容だけで考えると、洗えば辛い記憶を忘れられるけど、同時に他のことも忘れてしまうかもしれない、って風に読める。さっき話したことと一緒だ」
それだったら手のことくらいは覚えておいてもいいかな……」
怪我を負ったときにどんな痛みだったか、裏切った悪魔がどんな目をしていたか、そんなのまで覚えておく必要はない。……を食いかけた時の心の動きだって……覚えておく必要はない。
問題は、この洗濯機がそういう『忘れていいこと』に限定してくれるのか分からないってことだよな。
記憶がどう繋がっているかなんて俺達には分からないし」
それくらいなら、俺は全部覚えてていい。
弱ってるだけなのかもしれないけどさ。
弱ってると、今あるものを手放したくなくなるから」
詳しくは『夜は星を落とし易い』を参照。
抱えて進んだら役に立つのかね」
洗っても後から手に入れることもできるみたいだし、よく分からないな」
閉じた目をうっすらと開けて、空のまま回っている洗濯機を片目で見る。
洗濯機にコインを入れ、扉を開けて服を入れずに扉を閉じる。
回ることもないようだ。
とりあえず、そのタブレットだっけ、見てみよう」
タブレットを手に取り、確認する。
絵本と雑誌である。
前の部屋に存在していた「魔法の絵描き」の続編の作品。
絵描きの能力に目を付けた人々が、彼に頼んで鍵と鍵穴の絵を描いてもらい、スペースを圧迫しない倉庫として重宝する、といった内容。
最終的に絵描きを便利に利用し過ぎた人々は、ある時、絵の鍵穴がただの絵に戻ってしまっているのに気づき、中身が取り出せない、と絵描きのところに殺到した。
しかしその時、すでに絵描きの姿はどこにもなかったのだ。
部屋にはいくつもの焼き魚の食べ跡と1枚、海の景色が描かれた絵だけが残されていて、その向こうからは潮騒が響き続けていた。
タイトル通り、最新の金庫がいくつも紹介されている雑誌だ。
カードキーで開くタイプの電子金庫が特にオススメされている。
カードキーはSuicaぐらいの感じで、無地。
ふっと、海を眺め続ける銀色の髪が過ぎった。
まだ曖昧だった自分に自身を問わせてくれたのは、あの人だった。
まあ、人じゃなかったわけだけど。
使う奴が感謝を忘れることで便利なストレージはただの絵に戻ったんだ。
つかこいつ肉好きなんじゃなかったっけ」
これ、どっちも物理的じゃないよな……。電子的なものと、その否定?」
しかし絵描きの方は確かにリアル鍵ではないけど電子錠でもないよな」
いじるので言えば、電子より物理的な機械の方が好きなんだけど」
今俺たちが持っているものと関係ありそうなものについて考えるべきだと思う」
今俺達が持っているもの…… ガスバーナー、肉の玩具、それから汚れた服。
そういえばあのクジラ、血の臭いに敏感だって書いてあったな」
汚れた服を嗅いでみる。血の臭いはするだろうか。
それで選ぶ気がしなかったのもある」
いきなり食って食われての話だったし」
佐倉の服などどす黒いまでの血と思われる液体に浸したように染み付いているのに、だ。
汚れた服の、左胸を濡らす機械油の辺りを撫でてみる。油がついたりはするだろうか。
そういえばかごに汚れが付着することもないのだ、こんなに汚れていて、手で触れるのもためらわれるほどなのに。
魚も本物かどうか分からないから、断言はできないけど。
籠にも汚れはついてない。この汚れ、本物じゃないのかもしれないな。
で、物理か電子か、か。
今の所、選んだのはライオンが来そうな内容だ。
物理だと、あの本の機械に関係しそうな内容になってくる……」
電子か物理かっていうと良くわかんねぇけど」
電子か物理かでいうと機械は【物理】っぽい。
【魚】【肉】や【水】【炎】にはあんまり関係しなさそうな内容。
ライオンの話は【肉】で【炎】。
深海の本は【魚】で【水】に読める」
絵描きもこの本に出てくる焼き【魚】はもう無理そうだ」
その後で出てきた本でいうと、料理本は【肉】で【炎】だ」
でも能動的に作戦会議に絡んでくれててありがとうございます 一緒に進めてる感じで楽しい
意見求められれば一応言うけどね!
今の所【電子】って感じのものはこの雑誌くらいだ」
洗濯機は剣呑なまでにピカピカと光っている。
4基が回っているはずなのに静かだ。
佐倉さん、一つやりたいことがあるんだ。両方のボタンを同時に押してみよう。【選ばなければ】どうなるのか知りたい。
ちょうど、ライオンの話には関係しなさそうな所だしな」
右側に力が加われば左が飛び出、逆ならば逆が、というように。
中で機械的にシーソーのような仕組みになっているのかも知れなかった。
機械ったって制御装置なんだ、そんなに悪い事にはならないと思いたい」
【物理】のボタンを押す。
夜、突然不思議なコインランドリーに立っている。
せんたく、しないと。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
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