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こちらには
『せんたく』 のネタバレがあります。

牧志 浩太

お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。

現在、自らの目を見ることに激しい恐怖心を抱いており、無理に見続けると映るものを破壊しようとしてしまう。

佐倉とは友人。


佐倉 光

サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。

巻き込まれ体質らしい。
最近牧志の心音への奇妙な執着に囚われている。

牧志とは友人。


とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。


【CoCシナリオ】せんたく
《シナリオタイトル》
せんたく
《推奨人数》
1~3人
《推奨技能》
〈図書館〉
《想定プレイ時間》
1、2時間
《シナリオ概要》
謎のコインランドリーを巡っていくシナリオです。
PCたちの魂そのものとも言える汚れたシャツを『洗濯』するか数多の『選択』を繰り返すことで進んでいくか、といった内容になります。
基本的にはSAN回復の要素を多く含みます。
代償としてステータスの減少(【EDU】の減少)が発生する場合がありますので、その点は注意してください。
牧志 浩太
わーい、よろしくお願いします!
【EDU】減少しちゃう可能性があるんですね。こわいなー。

KP
久しぶりに。
実に久しぶりに、この家に平穏と日常が戻った。
かに見えた。
佐倉は帰宅している。
彼が帰ってくるきっかけとなったあの凄惨な事件の話は、お互いに口に上らせたことはまだない。
疲弊した心が、そうすることを拒んでいた。
やっと戻った平穏を壊すことを拒んでいた。
佐倉は決定的に様子がおかしくなって家を出る前の状態に戻ったように思えた。
やたら物言いたげな顔で見つめてくる。
たまに胸に触れさせて欲しい、心音を聞かせて欲しい、と言ってくる。
……いや、以前とは少し意味合いが違う、だろうか。
その違いの正体は分からないが、少なくとも佐倉はそれを理由に家を出ようとはしない。
牧志 浩太
疲れ果てていた。互いに疲れ果てていた。
疲れ果てて擦り減っていた。
削られて大きく抉られていた。
うっかり突いてしまえば壊れて戻ってこなくなるような、そんな危うさを感じていた。
ただ壊したくなかった。
まだ向き合ったり前を向いたりできなくて、とにかく丸まってここにあるものを守りたかった。
それが疲れているっていうことだ、という自覚があった。
牧志 浩太
心音を聴かせてほしい。その要求を断ることはなかった。
きっと生きているってことが必要なんだろう、そんな気がしていた。
あの時だって、あの時……、だって、死んでるものばっかり見過ぎた。
牧志 浩太
それに佐倉さんが手の届く所にいるだけで、俺もなんとなく安心する。
あまりよくない兆候な気はしたけど、あのまま知らないうちに死んでたかもしれないと思ったら、怖くなってきてしまう。
KP
そしてあなた自身もまた、自分の状態に異常を感じている。
鏡を見られない。人の目を見られない。時によっては金属食器やふとしたときに窓を見るだけで恐怖に襲われるのだ。
牧志 浩太
せっかく戻ってきてくれたのに、佐倉さんの眼を見ることはできなかった。
黒い眼に自分の顔が映りそうになるだけで、背筋がぞわりと震えて目を逸らしてしまう。
窓にはカーテンをかけて、鏡は全部テープを貼って隠した。シローには悪いけど、手鏡を使うように言った。
食器はプラスチックのやつを買ってきて、それを使っている。
無理矢理耐えていたら叩き壊したくなってくるのを自覚したから、無理に我慢するのはやめた。
KP
バスや電車のポールに。
手にしたスマートフォンやPCがスリープに入る瞬間に。
薄茶色の円がちらつく度に理由もなく背筋が凍った。
日常のようでやはりぎこちない、砂を零さないように注意深く守る平穏。
恐ろしいものから目を逸らし、それがゆっくり薄れて消え去るのを待つ日々。
そんな時はやはり、どこか心に影を落としていた。
牧志 浩太
目を見て話しなさいと何度か教授に注意された。友達は、疲れてるから、って言ったら戸惑いながらも労わってくれた。
牧志 浩太
大丈夫、前とは違う。
これがおかしいってことを、疲れすぎているってことを、ちゃんと分かっている。自覚出来ている……、はずだ。
牧志 浩太
どうにも自信がなくて、今の状態を毎日日記につけた。
あの桜色の手帳、書いていると何だか落ち着くし、どれだけ書いてもページが減らない。
……そのことを追及するのはやめた。きっと、あの子たちのやさしさだ。
KP
その不思議な手帳は、あなたの喜びも悲しみも苦しみも、全てをありのまま受け止めてくれるようだった。
佐倉 光
「お前も辛いときに悪いなって思うんだけど、録音させて貰ったヤツだと、効きが弱くて」
週に一度程度、そろそろ眠ろうと考え始めるあなたにこんな事を言う佐倉はどこか気まずそうにしている。
今日もそうだった。
佐倉 光
「やっぱり振動や体温がないと駄目みたいだ。アイマスク持ってきたから、少しだけ付き合ってくれ」
牧志 浩太
「いいよ。遠慮なんていい」
安心させるように笑いかける。
弱ったものにゆっくりと触れる。
牧志 浩太
「あれ、俺だって安心するんだ。
目を閉じてても、人の気配がちゃんとするだろ。俺も弱ってるから、そういうのってすごく安心する。
だから遠慮しなくていい」
心音を聴かせている時は、目を閉じていられる。
目を閉じていても、そこに誰かいるのが分かる。
人と一緒に背を丸めて寝るような、弱ったもの同士身を寄せあうような、小さな兄弟と一緒に寝て起きるような。
そんな感じ。
KP
佐倉はアイマスクをつけてあなたの胸に耳を当てる。
軽い重みがかかり、その呼吸にあわせてゆっくりと体が揺れる。佐倉が安らいだような深い息をつく。
牧志 浩太
緩やかな呼吸と、湿った軽い重み。
そこに人間がいるという安心感。
目を閉じてゆっくりと息を長く、長く吐いて、心音と呼吸だけに集中する。
大丈夫。ここには安らかな状態しかない。
訳もなく恐ろしいものが目に入ることもなく、いっそこれを抉り出してしまいたいような危うい痛痒さも感じないで済んでいた。
KP
しばらくそうしていると、佐倉がぽつりと呟いた。それは意識が緩んだ瞬間に、普段は押さえつけているものが脳からまろび出てしまったようなさりげなさで。
佐倉 光
「……なくて良かった」
牧志 浩太
そうして水槽の中に浮かんでいるような状態を楽しんでいたから、ほとんど考えないまま聞き返した。
牧志 浩太
「佐倉さん?」
佐倉 光
「あの時、食わなく……」
KP
質問に自然に答えかけ、佐倉は身を強張らせて頭を離した。
アイマスクに指を引っかけて浮かせ、何事か考えるような間があった。
佐倉 光
「今俺は、純粋に心臓の音が、たぶん牧志の心臓の音が聴きたいだけなんだ。それに安心した。それだけのことだよ……」
負い目
KP
食いたい気分じゃなくなって良かった、のほか、ずっと見ていないと気が済まない状態だったら、きっと牧志が辛い思いをしていただろうから。
牧志 浩太
ですねぇ。牧志が音を上げる前に、相棒という関係が破綻する前に距離を取り戻すことができた。

あの調子(ハッキングで安心)見てると牧志は音を上げずに距離感バグりそうだけど、それも罪の意識がずーっと底にありましたしね。
あのままだとどこかで全部佐倉さんにあげちゃって牧志がなくなりそう。体がか心がかは分からないけど。
KP
貸し借りなんてどうでもいい、というところで相棒になったのに、最近は互いに負い目に感じて勝手に借りをしょってるんだなー
牧志 浩太
ですねぇ。互いに変な負い目を持ってしまった。
牧志は佐倉が狂気でストーカー化しているとき、こともあろうにハッキングで見られていることに安心していた。

牧志 浩太
「そうだな。……。よかった」
何を言いかけたのか半分くらい察したが、その後を続けることはなかった。
牧志 浩太
「よかった」
戻ってきてくれてよかった。戻れるようになってよかった。俺の存在が、佐倉さんの狂気が、佐倉さんを苦しめることがなくてよかった。
生きてて、よかった。
色んな意味を言葉にする気は起きなくて、ただ、それだけ呟いた。
胸の奥から少し涙が滲んできた。
佐倉 光
佐倉は短いため息をついて立ち上がった。
佐倉 光
「ありがとう」

佐倉 光
「俺は寝る前にちょっと外に行って飲み物でも……
何かついでに買ってこようか?」
牧志 浩太
「あ、じゃあ何か頼もうかな。炭酸がいい」
KP
ふたりは空気を変えるために息をついた。
佐倉は上着を引っかけ外に出ようとしていた。

次の瞬間、
あなたは知らない部屋に佇み、広いガラス窓から見える夜の闇を見つめていた。
佐倉もまた部屋を出ようとした姿勢のまま、窓硝子の真ん前に立っている。
硝子窓に呆然としているあなた方二人の姿が映っていた。
▼《SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1
牧志 浩太
1d100 47 Sasa 1d100→ 31→成功
佐倉 光
1d100 33 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 64→失敗
SAN 33 → 32
牧志 浩太
「え……、」
呆気に取られて、知らない部屋の硝子窓を見た。
そこに映る自分の眼に気づきそうになって、慌てて傍らの佐倉さんに視線を移す。
佐倉 光
「まただ。またこういうやつだ」
KP
佐倉は頭をかきむしった。
牧志 浩太
「何だこれ……、部屋にいたのに巻き込まれるなんて、ありか、そんなの」
呆然と呟いてから、はっと背後を振り返り、室内を見回す。
牧志 浩太
この部屋は安全か。室内に何かいないか。
KP
そこは無人のコインランドリーに見えた。
一面ガラスで開放的な店構えの、いかにも今時の店。
KP
描写続きあります。周囲への感想や働きかけはちょっと待ってね。それ以外なら進めてても構いません。(リアルでシナリオ参照できる状態じゃなかった)
牧志 浩太
はーい!
牧志 浩太
「またか……。
家の中でこういうのやめてほしいな。安全地帯がない」
牧志 浩太
そうやって溜め息をつきつつ、佐倉さんが家を出る前だったことに少し安堵してしまった。
本当なら、一緒に巻き込まれたりなんかしない方が行動の自由も利くし、助けを求めてもらえる可能性もあるのに。
やっぱり俺もまだまだ弱ってるみたいだ。
いや、こんな時一緒にいてくれて安心するのは、前からそうだったかな。
ちょっと分からなくなってる。
KP
佐倉とあなたが見ていたウインドウの右端に白い引戸のドアがある。こちらのドアとその周囲は不透明で外が見えない。
窓際には多少使い込んだ感はあるが座り心地の良さそうな布張りのソファがいくつか。
三人がけのものを中央に、左右に一人用のが置いてある。

向かい側の壁には、コインランドリーらしく洗濯機が並べられている。
上下にわかれているタイプのものが10台。
その横、左手側に大型の大容量のものが4台。
そして、洗濯機が並ぶ壁の一番左端、部屋の左上に当たる場所には入口と似た白い引き戸がある。
また、部屋の中央には洗濯物を畳むための広いテーブルが三つ、洗濯物を取り込むための巨大なワゴンが3基。いずれも一般的なものだ。
また、そのテーブルのひとつに書籍棚が置かれていて、暇潰し用の本が数冊入っているようだった。
左手の壁には小さなテーブルがあり、いかにも使い込まれたノートが置かれていた。
その他、フリーの飲料マシンがある。

あなた方二人はいつもの格好だ。
鞄などはない。
牧志 浩太
「今の所、誰もいないみたいだな。
これだけ見てると、普通にコインランドリーだな……」
窓の前に向き直り、自分の胸のあたりに視線を落としながら、外の風景を確認する。
知っている場所だろうか、知らない場所だろうか。
牧志 浩太
「そうだ、佐倉さん。
飲み物買いに行こうとしてたよな、スマホとか持ってる?」
それから自分の持ち物を確認する。
KP
外は暗く、この店の周囲の道路以外はなにも見えない。
ただ明るい光に照らされた道は普通に舗装された道に見える。
奥の町並みはおぼろだ。街灯はなく、空も暗い。
道が少し濡れて光っていた。雨が降っているのだろうか?
あなたはなにも持っていない。
【アイデア】
牧志 浩太
1d100 90 【アイデア】 Sasa 1d100→ 95→失敗
牧志 浩太
おおっと。
佐倉 光
1d100 85 【アイデア】 Sasa 1d100→ 55→成功
KP
あなたは荷物を持っていない。
上着のポケットにもなにも入ってはいないようだ。
佐倉 光
「スマホがねぇ。鞄も……あれ?」
KP
佐倉が突然焦ったような声をあげた。
佐倉 光
「あれ?  いや、そんな馬鹿な……どうなってるんだ?」
佐倉は自分の身体中触っていたかと思うと、足をごそごそと動かし始めた。
牧志 浩太
「えっ? どうしたんだ、何かあったのか?」
持ち物を確認していたが、驚いてそちらを向く。
佐倉 光
「服が、いや服だけじゃないな、靴も脱げない」
牧志 浩太
「えっ」
着ていた上着を脱ごうとしてみる。
KP
上着はあなたのからだの一部になったかのようだ。
不快感も痛みもないが、引っ張っても抜けない。
全く動かないというわけではないのだが、体が『服を脱ぐ』という概念を忘れてしまったかのようだ。
だが、なぜかそれでいいような気もしていた。できなくて当たり前なのだと。
本編見る!
牧志 浩太
「何だこれ。本当だ、脱げない。
いや、おかしいだろ。変だろ、脱げないなんて」
意識して声に出す間にも違和感が削れていく。おかしい。おかしいはずなのに、それでいいような気がしている。
おかしい……、はずだ。
KP
そう。あなた方の服はここで洗うべきものではないのだ。
だから脱げなくて当たり前。そういうことなのだろう。
佐倉 光
「うーん。まあ、いいか……」
佐倉 光
「まあ、帰ってから洗えばいいよ。
それよりここはどこだ?」
牧志 浩太
おかしい、おかしい、と唱え続けていた思考が、その声で中断される。
何に違和感を覚えていたのか、途切れて分からなくなってしまった。
牧志 浩太
「そうなんだよな。外を見てみたんだけど、随分暗いみたいでさ。街灯もないし。
外、出られるかな」
白い引き戸の近くに寄り、外に誰かいたり、何か聞こえたりしないか、〈聞き耳〉を立ててみる。
KP
白い引き戸はおおぶりで、いかにも正面入口といった風情だ。
大きな荷物を持った利用者が不自由なく出入りできるようになっているのだろう。
〈聞き耳〉
牧志 浩太
1d100 97〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 33→成功
佐倉 光
1d100 89〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 47→成功
KP
外からは静かな雨音が聞こえる。他は静かなものだ。
牧志 浩太
ドアが開くか、少し手をかけて動かして確認する。
KP
ドアはびくともしない。鍵がかかっているのだろうか。
佐倉 光
「開かないか。
開くとしてもあまり外に出たくない感じではあるなぁ」
牧志 浩太
「出られないか……。まあ、得体が知れないもんな、外。
普通に外に出られて、どこかの街で普通に家に帰れて、ってこともあったらいいと思ったんだけどな」
書籍棚を探してみる。
こういうのって大体雑誌や漫画が入ってたりするけど、現在地のヒントになるようなものが入っていないか。
牧志 浩太
「というか、シローに連絡できないじゃないか、これ」
佐倉 光
「シローはもう寝てるし、朝までに戻れれば大丈夫だと思うけど」
KP
書籍棚にある本は四冊。統一感がないラインナップだ。
いずれもここを訪れたものによって読まれたためか、擦り切れ気味だ。
・雑誌「超古代兵器は実在した? 謎のオーパーツとその本体」
・絵本「炎のたてがみなびかせて」
・図鑑「深海に生きるものたち」
・啓発本「魂の洗浄」
どれも見覚えのない本だ。
佐倉 光
「へぇ、この雑誌見たことないな。マイナーな機関誌かな。異界特有の作り物かもしれないけど、ちゃんと中も読めるみたいだ」
牧志 浩太
「何だか濃い目のラインナップだな。
本当だ、ちゃんと中身もあるのか」
KP
▼読んでみるなら〈図書館〉
一度の判定で全て読みきることができます。
牧志 浩太
ひとまず危険はない、外には出られない、となると情報が欲しくなってくる。
内容にも興味をひかれることだし、読んでみる。
1d100 85 〈図書館〉 Sasa 1d100→ 22→成功
KP
あなたが本を読み始めたので、佐倉もそうすることに決めたようだった。
ソファに腰掛け、興味深そうにしながら。
佐倉 光
「飲む?」
本を読むあなたの前に紙コップが置かれた。中には麦茶が入っている。部屋のすみのティーサーバーから持ってきたらしい。
佐倉 光
「一杯飲んでみたけど何もなかった」
牧志 浩太
「異界で物を飲むの、ちょっと迷うな。
まあ、でも、今更か……」
牧志 浩太
「ありがとう」
そういえば、ちょうど飲み物頼もうとしてたんだよな。
麦茶の水面を見ていると、喉の渇きを思い出す。
受け取って、一口確かめてから何もなければ飲む。
飲んだ後、何気なくコップの底を見る。
KP
何の変哲もない白い紙コップだ。
お茶はすっきりとして程よく冷たく美味しい。
牧志 浩太
飲み終わって、ほっと息を吐く。
よい香りの水分が喉を落ちていく心地よさと、目の前にある本の内容が頭を安らがせて、奇妙な場所にいることを少し忘れそうになる。
ふたりは本をチェックする。
古代兵器のことが書かれた本と、空腹の獅子に肉を与え、のちに報いとして助けて貰う男の話が載っていた。
牧志 浩太
「ふうん…… ライオンの恩返しって感じの話だな」
佐倉 光
「よくある、助けてみたら超越存在だった、みたいなやつ」
牧志 浩太
「あるよな。助けてみたら実は神様で、お前はいいやつだから……、みたいなのも聞いたことがある」
佐倉 光
「たまにはそういうことあっても良くねぇ!?」
牧志 浩太
「俺達は知っててやったわけだけど、そういえば、皇津様もお社を掃除したら助けてくれた、って感じでもあったなって今思った」
佐倉 光
「ああ、そういえばそうだなぁ。
懐かしいな、皇津様。
婆ちゃんたち元気かな」
牧志 浩太
「元気だといいな。また行こうよ、あのバー。
元気、って言うのも変な感じだけど、今どうしてるのかな、皇津様」
佐倉 光
「夢には行ったけど、あの神殿の近くには行かなかったし……
つーかあれは結局本物じゃなかったのか。
いや夢に本物とかあるのか?」
牧志 浩太
「あの夢は結局、誰の夢でもないってことなんだっけ。
俺や佐倉さんの夢じゃないなら、本物…… なのか? でも夢なんだよな。よく分からなくなってきた」
皇津様……彼らがかつて出会った超越者。牧志とは特に深い縁がある。
いくつもの名を持つ。ニャルではない。念のため。
海洋生物の図鑑には巨大なダイオウイカのこと、マッコウクジラのこと、食物連鎖などについて書かれている。
牧志 浩太
「あ、グソクムシだ。食べられるんだっけ? こいつ」
そう口に出した後にページをめくると、巨大なイカを捕食する、これまた巨大なクジラの姿が目に入った、
牧志 浩太
「うわ、急にサイズ感がおかしくなってきた。とにかく全部でかくしろって感じだ。
そういえば、植物も動物も人間も全部巨大な星から親子が観光に地球へ来る漫画あったな」
佐倉 光
「ああー、あれか。シローが図書館で借りてた奴な。主人公も悪魔のやつ。
ずいぶんどたばたした雰囲気の本だったなー」
牧志 浩太
「そうそう。街が滅ぶ理由が意外すぎて変に納得のやつ」
佐倉 光
「色々シリーズあるらしいぜ、あれ。
新刊は煙の悪魔の話らしい」
牧志 浩太
「そうなのか、戻ったら借りてみるかな。煙の悪魔って掴みどころなさそうだな」
マモノスクランブルでそんな話をやった。
『啓発本「魂の洗浄」』
胡散臭い自己啓発本。著者は不明であり、どことなく全体的にスピリチュアルな雰囲気の文章が書かれている。主な内容は以下の通り。
・魂とは、まっさらな布地のようなものである
・そして、人生における経験、知識というものは少しずつその布を染色していくことに他ならない
・積み重なった日々の記憶はまっさらだった布地を少しずつ染め上げ、やがてそれは複雑な色合いを見せることだろう
・しかし、辛い記憶や経験もまた、布を染める要素の1つとなってしまう
・淀みや汚れとして付着したそれもまた色合いと取れる一面はあるだろう。しかし、そんなものはないに越したことはない
・ゆえに、魂の洗浄が必要なのだ。染まり過ぎた魂を、汚れてしまった魂を洗うことで、それらがもたらす悲しみや苦しみを忘れることができるだろう
・当然、辛かった記憶や苦しかった記憶も消えることで、いくらか他の関連する記憶も消えるかもしれないが、背に腹は代えられないというものだ
本は以上の四冊だ。
牧志 浩太
その内容を目に止めて、ふとページをめくる手が止まった。
牧志 浩太
「辛い経験や記憶を、洗って消す……、か」
ガラス窓が視界の隅に入る。
未だにあの窓をまっすぐ見られないし、佐倉さんはどこか不安そうにしていた。
知識が毒になることについて、話した時の記憶が蘇る。
心の中に、思考の中に、楔のように穿たれた傷。
牧志 浩太
「佐倉さんはさ……、」
痛いことも、辛いことも、自分の一部だ。
傷と苦しみと痛みと、間違っても手放したくない思い出が、記憶の中で複雑に絡み合っている。
ぱたりと手の中で紙が音を立てた。
牧志 浩太
「もし、辛いことを洗ってしまえるとしたら、どうする?」
本のページをめくりながら、漫画の話をする時と同じトーンで口にした。
佐倉 光
「辛いも苦しいも俺のだから、忘れたくはないけど……」
KP
佐倉は額に手を当てた。
佐倉 光
「正直、色々忘れているからこそ、俺はここにいられるんじゃないかって気がしている。
そもそも人間は色々と忘れていくものだしな」
佐倉 光
「あまりに酷い記憶なら忘れてもいいと思うぜ、たまには……」
牧志 浩太
「……そっか」
本を閉じる。
牧志 浩太
「でも、他の記憶まで落としちゃうのは怖いな」
佐倉 光
「まあな、程度問題だよ。
ガキの頃の嫌なだけの思い出は忘れたいけど、ガキの頃の話全部を忘れたいわけじゃない」
牧志 浩太
「程度問題か、そうかもな。
全部忘れちゃったら困るけど、今は思い出したくないこともあるしな」
KP
実際佐倉は忘れまくっているのだ。
牧志 浩太
「1100」の時でしたね、佐倉さんがそれを言った(口には出してない)のは。>痛いも苦しいも自分の一部
でも忘れてるんだよなぁ色々と。
KP
そして忘れているからこそ今まで生きているのだ。
牧志 浩太
そして、牧志も牧志で、以前に忘れた(上書きされた)記憶を完全には思い出すことなくここまで生きてきているという。

牧志 浩太
室内を改めて見回す。
牧志 浩太
「何だあれ、ノート? 忘れ物かな」
ノートの表紙を見てみる。
そのノートはどんなものだろうか。筆記用具などは近くにあるだろうか。
表紙に何か書かれているだろうか。
KP
一般的なキャンパスノートにマジックで『利用者ノート』とある。
近くにボールペンと鉛筆がある。
牧志 浩太
「コインランドリーに利用者ノート? 珍しいな」
ノートを開いて中を見てみる。
丁寧な字「いきなりこんな状況に放り込まれてしまって困惑していますが、私以外にもこのような状況に陥った人が今後現れないとは限りません。そこで、自分の見たもの、知り得た情報をここに書き記しておこうと思います」
こちらの文字に対し矢印つきで書き込まれている文字が2つ
↑雑な字「真面目かよ(笑)」
↑丸文字「ちょーえらい! ウチもやろー」
KP
▼更に読むなら〈図書館〉
牧志 浩太
「……他にも俺達みたいな状況に遭った人がいて、その人達が情報を残してくれてるのか」
少し気が抜けていた思考が、ぴんと糸を張る。
そうだ。俺達は突然この妙な場所に来ている。
普通の街の風景に見えても、ここは異界かもしれないし、何が起きるかも分からないんだ。
牧志 浩太
ノートをめくって続きを確認する。
1d100 85 〈図書館〉 Sasa 1d100→ 19→成功
KP
そこから何ページかにわたって、真面目で丁寧な文字の文章にツッコミが入れられている。
真面目な文字「どうやらここはコインランドリーのようです。入り口の他にも扉がありますが、あちらは開きません。入口も開かない以上、何かここから出るための法則が存在するはず。まずは調べてみようと思います」
雑な字「出れねぇ~、けど腹も減らないし、そんな困んねぇな~」
丸文字「コインランドリーなんだし、やっぱ洗ったらいんじゃね?」
真面目な字「どうやらここで洗濯をすると次の部屋の扉が開くようですね。幸い洗うべきものもありますから、進む分には問題はなさそうです。とはいえ、時間をかけ過ぎました。外から何者かが扉を叩く音もします。このまま居座るのは危険そうですし、早急に部屋を出ましょう」
↑雑な字「お、マジで洗ったら出れんじゃん。ラッキー」
↑丸文字「洗濯って気分いいねー、スッキリした。もっとやろっと」
KP
次のページ。
突然殴り書くような文字が書かれている。
殴り書き「洗うな。それはお前の人生そのものだ。積み重ねてきた自分を洗い流していいはずがない」
↑雑な字「何言ってんだこいつ?」
↑丸文字「洗った方が気持ちいいよー?」
そして、他の誰かによって斜線が引かれてしまっているが、かろうじて読める文章が最後に1つ。
殴り書き「流されるな。なんとなくで進もうとするな。選べ、選び取れ。迷ったとしても、基準が曖昧だとしても、お前が決めることこそが重要だ。それこそが、本当の鍵となる
牧志 浩太
「……何だか、さっきの本みたいだな。人生そのもの、だって?」
ノートの裏表紙やその裏に何か書かれていないか、ノートに何か挟まっていないか確認する。
KP
ノートには何も無い。それ以外に書かれた様子もない……と、あなたが確認を終えたところに。
ドン
音がした。
窓硝子が並ぶ面の入り口らしき扉の向こうで、何者かがドアを叩いている。
牧志 浩太
「!」
ボールペンを取り、ノートのページを破って、先程の内容……
「洗濯すると進める、けど人生そのもので洗ってはいけない、流されるな。自分で決めて選び取れ」を書きつけ、上着のポケットに突っ込む。
牧志 浩太
「佐倉さん、奥の扉開きそう!?」
佐倉さんに奥の扉を確認してもらいつつ、こちらは洗濯機と、その周辺を確認する。
洗うようなもの、あるいは他の何かはそこにあるだろうか。
KP
佐倉は奥の扉に飛びついて幾度か揺すってみたようだった。
佐倉 光
「開かねぇ!」
佐倉 光
「……これ、もしかして」
佐倉は扉の前から何か拾い上げていた。
KP
10台並んだ通常の洗濯機の上の壁に、利用の説明が書かれた張り紙がしてある。
・ご利用の際は専用のコインを使用してください
・1度の洗浄につき1枚が必要です
・普通の衣類は洗浄することができません
・洗いすぎにご注意を
KP
洗濯機は4つ稼働している。
小型の物が右から四つ。中身は右から順に、
・スーツ、Yシャツ、スラックス、トランクス、男性ものの肌着
・ジャージの上下、Tシャツ、ボクサーパンツ
・俗に地雷系と呼ばれる衣類一式、女性ものの下着、肌着
・空っぽなのに稼働している
KP
そしてその左にある洗濯機だけは、普通であれば内部が見えるであろう扉部分が真っ黒になっており、中身が確認できない。
この洗濯機だけは他の洗濯機と作りが明らかに違う。
牧志 浩太
「これか! さっきのノートに書いてあったやつ」
左にある洗濯機が開くかどうか確認する。
開くなら、正面から身をかわしつつ開いて中を見てみる。
KP
他の洗濯機ならば「コース洗濯」や「洗浄時間」等を選ぶボタンがあり、コインを投入するスロットが在る場所に、【水】【炎】と書かれたボタンがある。
そしてその上に《選べ》との文字が。
洗濯機の扉を引っ張っても開かないようだ。
牧志 浩太
【水】と……、【炎】だって?」
作業テーブルや洗濯機の周囲に、コインらしいものはあるだろうか。
牧志 浩太
「佐倉さん、そっちには何かあった?」
佐倉 光
「ああ、たぶんこれお前のだ」
KP
佐倉はプラスチック製の持ち運びができる小型の白い籠をふたつ持っており、そのうちのひとつをあなたに差し出していた。
中には汚れた服が入っている。
牧志 浩太
どんな服なのか、他に何か一緒に入っていないか、二つの籠を確認する。
KP
籠を手に取るなら、「これは自分のものだ」という根拠も何も無い想いが湧く。
入っているのは恐らく元々白かったはずの服が一着。
そして籠にくっつけられた小さなジップロックに入っている鈍色のコインが五枚。
服は二人とも酷く汚れて、ヘドロのような汚れや血痕がひどくこびり付いている。
正直このまま洗濯機に放り込むのが躊躇われるほどだ。
しかし何故か、ここで洗えば恐らく綺麗に落ちるだろう、という確信があった。
KP
※この「服」はデフォだとシャツですが、好きな服に替えても構いません。ただ、かならず「ひとつ」にしてください。(靴下など複数になるものは不可)
佐倉パーカーにしよ。
牧志 浩太
「本当だ……、俺の服だな、これ」
籠の中には、元は白かったのだろう襟付きのシャツが一枚。
触るのも躊躇うほど、その服は汚れて血なまぐさかった。
KP
襟付きのシャツは左側の首元から心臓の部分までべったりと機械油のような汚れがしみ込んでいた。
また、ところどころ色合いが違う布地が切り貼りされているように見える……が、汚れが酷すぎて服の詳細は良く分からない。
佐倉が手にしているパーカーも元は白い物だったようだが、どす黒い赤が全体に染みついて鉄臭い。ほとんど真っ黒になっている部分も多いようだ。
牧志 浩太
洗濯機を見て一瞬、迷う。
洗濯すれば進める、っていうのなら、このコインを使ってこの服を洗えばいいんだろう。
でも、さっきのノートの内容を見れば、嫌な予感がする。
それとも、この洗濯機のボタンを押してみるべきか?
けど、関係しそうなものはさっきの絵本と図鑑くらいしかない……。
KP
気がつけば入り口からの乱暴なノックは聞こえなくなっていた。
佐倉 光
「あまりのんびりしてもいられない、か。
さっきのノートには洗えば進めるって書いてあったな。
そっち、何かあったか?」
牧志 浩太
「こっちには扉が黒くて、中の見えない洗濯機があったんだ。
横に【水】【炎】ってボタンがあって、「選べ」って書いてある。
それから、動いてる洗濯機が四台。そのうち一台は中が空っぽなのに動いてる。
あと、動いてないのが五台」
牧志 浩太
動いている洗濯機を見た時、停止するボタンなどはあっただろうか。
KP
停止ボタンはない。普通扉を開ければ止まるだろう。
開ける?
牧志 浩太
空っぽのまま稼働しているものを開けようとする。
KP
では開けると止まる。
湿った空気が漏れてくるが中には何もない。
佐倉 光
「何も入ってないみたいだな?」
KP
佐倉は手慣れた様子で洗濯機の中を確認する。
シローがポケットにうっかり色々入れっぱなしにする事件も最近なくなってきたのだ……
牧志 浩太
「何もないな……。洗ってみるか、選ぶか、か。
少し洗ってみて、様子を見てみるか」
汚れたシャツを動いていない洗濯機に入れ、コインを一枚入れる。
すぐ止められるように、扉に手をかけておく。
佐倉 光
「俺も洗ってみるか……」
KP
佐倉もその隣の洗濯機に服を入れてコインを入れる。
KP
洗濯機は音を立てて稼働し始めた。
あまりにも酷い汚れに覆われた服に洗剤入りの水が注がれるが、それはあっという間に赤茶けた色になってしまった。
佐倉 光
「罪悪感を感じるレベル。洗濯機大丈夫かなこれ……」
KP
さて普通に考えれば洗濯にはそれなりの時間がかかるだろう。
▼1D6を振ってください。
牧志 浩太
1d6 Sasa 1d6→6
佐倉 光
1d6 Sasa 1d6→3
KP
洗浄中に何かする?
20分も待っていれば洗濯機は止まる。
牧志 浩太
まず、洗濯機の中で洗われていく服の様子を見る。
少ししたら、ソファに何か落ちていたり挟まっていないか確認する。
KP
洗濯機の中の水は一度抜けて、更に水が注ぎ込まれる。
服は洗濯機の中で泡に塗れてぐるぐると回っている。
ソファに何かが挟まっている、等といったことはないようだ。
KP
洗濯機が止まったとき、また入り口の扉が ドン、ドン と叩かれた。
佐倉 光
「ああ、洗濯」
佐倉 光
「おわっ!?」
KP
雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた佐倉が軽く噴いた。
牧志 浩太
「えっ、どうしたんだ」急いでそちらへ向かう。
KP
いや単にいきなりのノックにびっくりしただけ。
佐倉 光
「あっつ!」
牧志 浩太
「あーあーあー」
思わずハンカチを探したが、ない!
佐倉 光
「大丈夫、そんなにこぼしてない。
それより洗濯終わったんだな?」
牧志 浩太
「終わったみたいだ」
動かしていた洗濯機の扉を開け、中のシャツがどうなっているか確認する。
また、真っ黒な扉の洗濯機に何か変化はあるだろうか?
KP
真っ黒な扉の洗濯機に変化はない。
あなたが自分の洗濯機の扉を開けたとき、かちゃりと何かが作動するような音がした。
〈聞き耳〉
牧志 浩太
1d100 97〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 76→成功
佐倉 光
1d100 79〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 13→成功
KP
音がしたのは、さっき佐倉が調べていた奥の扉の方だ。
KP
あなたが入れた服は、どうしようもなくこびり付いていた血の色が少しだけマシになっている。
SAN回復 1
牧志 浩太
SAN47 → 48
KP
あなたより汚れていた佐倉の服は、ただ濡れただけに見える……。
佐倉 光
「なんだよ、全然変わってねーじゃん」
牧志 浩太
「俺の服は少し汚れが取れてるみたいだ。何が違うんだろうな」
シャツを取り出して籠に入れ、片手に籠を持って、奥の扉に〈聞き耳〉を立てる。
KP
奥からは特に物音は聞こえない。
牧志 浩太
扉が開くようなら、少し開いて向こうの様子を確認する。
KP
扉の向こうは今いる部屋と全く同じ作りの部屋だ。
しかしかなり荒廃しているように見える。
清潔で明るいこの部屋と比べると、随分埃っぽく、汚れていて、設備があちこち壊れている。
牧志 浩太
「あっちは随分荒れてるな」
あちらにも洗濯機があるかどうか確認する。
KP
ある。黒い扉の洗濯機もあるようだ。
牧志 浩太
「行ってみるか。さっきのノックのこともあるしな」
室内を確認し、何もいないようなら、扉を開いた状態でワゴンを噛ませて閉じないようにする。
それから、籠を持って室内に入る。
佐倉 光
「ああ」
KP
佐倉は黒い扉の洗濯機をちらと見てあなたの後を追った。

牧志 浩太
室内に入り、奥の部屋に何があるか確認する。
KP
奥の部屋には前の部屋と全く同じ、洗濯機、小さな机、作業用テーブルと書籍が置かれた棚がある。
また、今通ってきた扉は前の部屋では入り口と思われる扉に繋がっていた。
窓の外は昼間だが、外には廃墟の街が広がっている。植物に覆われて風化しかけており、動くものは何も無い。
この部屋の物も全体的に何十年も放置されていたかのように汚れてへこんでいる。
ソファからはスプリングが飛び出たり足が折れたりしている。
ティーサーバーは倒れていて使えそうにない。
10基ある洗濯機の1基はやはり扉が黒く、先ほどとは違うボタンがついているようだ。
佐倉 光
「なんだこれ……未来?」
牧志 浩太
「……未来? 廃墟には見えるけど、さっきの部屋が時間が経ったらこうなるんじゃないか、ってことか?」
先程の部屋の様子を見直してみるが、ここの扉を潜っても、先程の部屋の様子に変化はないだろうか。
牧志 浩太
机や作業用テーブルを見てみるが、何かあるだろうか。
また、机には先程のようなノートはあるだろうか?
KP
振り向けばやはり夜のコインランドリーが見える。
とくに変化はないようだ。
机には先ほどのようなノートがあり、テーブル脇に書籍棚があって、二冊の本が倒れて入っている。
洗濯機は先ほどと同じく4基が回っている。
牧志 浩太
洗濯機を見てみる。中には何が入っているだろうか。
また、黒い扉の洗濯機に、先程のようなボタンはあるだろうか?
KP
洗濯機の中身は先ほどと同様だ。男物のスーツ、ジャージ、女性物の派手な服、そして空の洗濯機。
黒い扉の上には【魚】【肉】のボタンがあり、《選べ》と書かれている。
佐倉 光
「さっきと字が違うな」
牧志 浩太
「だな。今度は魚と肉?
魚が水で、肉が炎ってことなのかな。さっきの絵本のやつだと」
佐倉 光
「選べ、か……何を基準に」
牧志 浩太
「なんだよな。基準が曖昧でもいいってあったけど、ちょっと曖昧過ぎる……」
牧志 浩太
ノートの内容を確かめる。
KP
〈図書館〉で判定。
牧志 浩太
1d100 85 〈図書館〉 Sasa 1d100→ 79→成功
KP
あなたはノートを手早くチェックする。
真面目な字「ここの扉も開かないようです。また洗濯をしてみましょうか。どういうわけか、洗濯をすると心が軽くなるような気もします。不可思議な空間ですから、そんなことがあってもおかしくはない、ということでしょうか」
雑な字「何度も洗ったらもっといい気分になれんのかな? 試してみっか」
↑雑な字「意味あるわ、めっちゃ洗うとめっちゃすっきりする。ガチ」

丸文字「外はヤバげだねー、出たら戻ってこれなそーだけど、そもそも出れなそー」
↑雑な字「それなー」
殴り書き「どの言葉を信用すべきか悩んでいることだろう。当然のことだ。信じたいものを信じるべきだとは思うが、洗うほどにお前が失われることだけは忘れるな。俺が言えるのは1つ。洗わず、選べ。それだけだ」
↑雑な字「いや洗えよ」
佐倉 光
「こいつら時間差で会話してんな」
牧志 浩太
「だな。この人達はどこにいるんだろう……」
佐倉 光
「書いてるヤツは四人いるな」
牧志 浩太
「真面目な字と、丸い文字と、雑な字と、殴り書きか。
動いてる洗濯機も、さっきの所もこっちも、四基だな」
牧志 浩太
心が軽くなる、という言葉と最初に読んだ本の内容を思い出して、色々なことを思い出しながら、胸に手を当ててみる。
何か、自分の心や記憶に変化は見つかるだろうか。
KP
あなたの記憶に齟齬はないように感じる。心は少しだけ軽くなった気がするかも知れない。
佐倉 光
「女が一人いる……感じだ。やっぱりあの洗濯機と関係あるんだろうな」
牧志 浩太
「なんだろうな。
丸い文字が女の人で、雑な字真面目な字が男の人で……、殴り書きはもしかして、何もない洗濯機か?
洗い過ぎて消えてしまった、とか……。
今の所、俺の記憶に何か変化があるようには思えないけど」
佐倉 光
「つーか、口語で書き物って、するか?」
KP
動揺したときお前もしてたよ?
牧志 浩太
してましたねぇ。
牧志 浩太
「慌ててる時とか、手紙だとたまにやるな。
メッセージ送る感じで」
佐倉 光
「こいつら一緒に入って文章で会話してんのか?
この雑な字丸字会話してるだろ? 後で入れたツッコミにしてはおかしいな。何度か同じヤツが来た、にしては内容が変な気がする」
牧志 浩太
「そういえば……、確かに。
何度か来たって感じじゃなくて、最初に来たその時に会話してるように見える。
なんで態々文章で会話してるんだ?」
佐倉 光
「とりあえずさっきからツッコミ入れてるこの二人は頭悪そうだなとは思う」
牧志 浩太
「それはノーコメント」
苦笑いしつつ、書籍棚の本を確認する。
一冊の本には肉の焼き方が書かれていた。
『絵本「魔法の絵描き」』
描いたものが本物になる、不思議な力を持つ絵描きの話だ。
絵描きはいつも貧乏でお腹を空かせている。
ご飯を描いて食べたらいいのに、と思うかもしれないが、彼の魔法は人のために、相手のことを想って描かないと発動しないのだ。
たくさんの人を救っていく中で、好物のお肉を平らげて幸せそうにしている姿が特徴的だ。
佐倉 光
「飯テロ二連発とか勘弁しろよぉ」
牧志 浩太
「なんでここだけ肉二連発なんだよ。ないじゃないか魚」
佐倉 光
「さっきの図鑑?」
牧志 浩太
「そう。さっきの図鑑が魚で水、絵本が肉で炎なら、ここの料理本も肉で炎。それなら、もう一冊は魚か水に関するものかと思ったんだ。
でも、そうじゃないみたいだからさ」
佐倉 光
「必ずしも『どちらかから選べ』って単純な話じゃないのかもな」
佐倉 光
「あと、本はともかくボタンは辛うじて逆、と言えなくもない」
牧志 浩太
「そう、ボタンは逆なような気もする。
単純な話じゃない、か……。
殴り書きが洗濯物が消えた人だとすると、このまま洗っていくのも嫌な予感しかしないけど、ボタンも相変わらず基準がないな。
……これ、同時に押したらどうなるんだ?」
黒い洗濯機の扉は、相変わらず開かないだろうか。
KP
扉を引いてもびくともしない。
佐倉 光
「せんたく、か。洗濯もせんたく、選択もせんたく……」
牧志 浩太
「なるほど?」
佐倉 光
「結局ノートの奴ら全員『せんたくするべきだ』って言ってるんだな」
牧志 浩太
「なるほど、そうなるのか。洗うも選ぶもせんたくか……。
そうなるとせんたくしない方法を探してみたくなるけど、外には何かいる」
KP
あなたの言葉にこたえるように、遠くでドンドンと扉を叩く音が聞こえた。
先ほどより強く、性急だった気がした。
佐倉 光
「トイレ切羽詰まってるみてーな叩き方だな。嫌な感じだ」
牧志 浩太
「ああ。あまり長居するべきじゃない、か。
……今度は選んでみよう。それで何か起きるなら、判断材料にはなる」
佐倉 光
「賛成。正直ここで洗いたくはない。余計汚れそうだ」
KP
ボタンは二つ。【肉】【魚】だ。
牧志 浩太
「佐倉さんどっちが好き」
佐倉 光
「俺に訊くの? そーだなー、どっちかっていうと肉かな」
牧志 浩太
「俺も。意見別れたら両方同時に押そうと思ってた」
黒い扉の洗濯機に近づき、【肉】のボタンを押す。
なぜ肉
KP
悪魔退治なんて肉体酷使する仕事だからエネルギーが欲しい>肉
牧志 浩太
それはそう。
牧志も魚よりはお肉食べたいお年頃。
KP
がんばってね牧志!
牧志 浩太
どうなるのか牧志と佐倉さんの記憶! 状況! こわい!

KP
【肉】のボタンを押すと、ゴウン、と洗濯機が駆動する音が少し響いた後、洗濯機の扉がひとりでに開いた。
中には変にツヤツヤと光るカラフルな……プラスチックでできた漫画肉の玩具があった。
大きさはサッカーボール程度のサイズはある。
佐倉 光
「肉、っちゃあ肉だけど」
牧志 浩太
「食べられないじゃないか」
洗濯機の中を見た後、危険がなさそうなら玩具を手に取り、見たり振ったりして確かめてみる。
KP
洗濯機の中は空だ。
押したボタンは凹んだまま戻ってこない。
肉は完全に中が空洞のプラスチック製だ。
中に何かが入っている様子もない。
大きさの割に軽く、持ち運ぶのも簡単そうだ。
そして、洗濯機の扉が開いたと同時、おそらく奥へ続く扉の方で何かが外れるような音がした。
牧志 浩太
「開いたな。どっちにしろ、せんたくすれば開くってことか」
その玩具を籠に入れ、前の部屋に戻って黒い扉の洗濯機の【炎】のボタンを押してみる。
KP
【炎】のボタンを押すと、ゴウン、と洗濯機が駆動する音が少し響いた後、洗濯機の扉がひとりでに開いた。
中に入っていたのは、銀の太いノズルがついた赤い缶だ。缶には「GAS」と印字してある。どうやら手持ち式のガスバーナーであるらしい。
佐倉 光
「てことはさっきもここを先に押せば開いたかも知れないのか」
牧志 浩太
「そうなるな。洗ってもいいし、選んでもいいんだ」
手元にある肉の玩具とガスバーナーを眺め、ううん、と少し唸る。
牧志 浩太
「ガスバーナーで肉を…… ……これを炙れとか、ないよな、さすがに、危ないもんな……」
佐倉 光
「ああー、いくらなんでもこれ焼いたら火傷しそうだし、秒で溶けそう」
牧志 浩太
少し迷ったが、ガスバーナーを籠に入れて片手で籠を抱え、扉の向こうに聞き耳を立てる。
物音がしないようなら、少し開けて様子を確認する。
KP
扉の向こうは静かだ。

KP
錆び付いたレーンの上を軋みながら扉は滑る。

扉の向こう側はうって変わって無機質な金属とつるりとした白っぽいもので作られていた。
床は青紫の金属で、硬質な輝きを放っている。
まっすぐ前の壁にはやはり洗濯機が並んでいるが、それを形作るのは美しい銀色の素材だ。今までと同様四つが稼働しており、ひとつの扉は黒い。
天井はくすんだ白の素材で、その全体から淡い光が放たれ部屋を照らしている。

中央の作業用テーブルはさほど変わった様子はないが、書籍棚はなく何か小さな箱のようなものがテーブルの横に置いてあった。
左手の壁にはやはり机があるようだ。
飲料マシンがあった場所には何もないが、そこの壁にモニタのようなものがついている。

部屋は全体的に金属的な印象であり、それはあなたの顔をときにはっきりと映すであろう、と予想できる。
KP
ばしん、と音を立ててあなた方の背後でワゴンを挟んでいたはずの扉が閉じた。
夜の闇に煌々と光を放っていたコインランドリーに続いていた扉は、赤茶けた汚れと蔦のようなものに覆われ、最初から動いたことなどなかったかのような様相となっている……。
佐倉 光
「閉じ込められた!?」
佐倉 光
「いや、元々閉じ込められてるんだ、水を飲みに行けなくなったくらいか」
KP
人が死に絶え植物が地表を覆い尽くす世界が見える窓の向こうには、風に揺れる植物以外に動くものはやはり見えなかった。
牧志 浩太
「……!」
ひゅっ、と喉が鳴った。
背後で閉じる扉の音。閉じ込められた、という認識と、目の前に映る金属の箱じみた風景が背筋を凍らせる。
視覚と聴覚から入ってくるものが、鏡の中に閉じ込められた、と感じさせる。
牧志 浩太
目の前の扉を閉じ、そこから飛び退く。
心臓が弾けそうに打っていた。
その場にへたり込み、強く目を閉じる。
視界から光を追い出さなくては、いられなかった。
佐倉 光
「どうした、何かいたのか?」
佐倉があなたを庇うように扉の前に進み出た。
KP
1d100 57〈心理学〉 Sasa 1d100→ 39→成功
佐倉 光
「扉、開けるぞ」
KP
佐倉の声がして、前の扉が開く音がした。
佐倉 光
「……」
KP
佐倉が短い吐息を漏らし、扉を閉めた気配がある。
それから随分低い位置、あなたの目の前から声がし、あなたの肩に温かい手が触れた。
佐倉 光
「目を閉じてていいよ。俺が手を引いていく。それなら動けるか?」
KP
執着が音フェチにかき変わってくれたお陰で、随分まともな言動できるようになったな佐倉……
気がふれていたとしても彼の心音を守るために動くから、基本的にはまともな立ち回りができる。
牧志 浩太
確かに。その分牧志が弱っちゃってるから、バランス取れてるなぁ。
牧志 浩太
「あ……、ごめん、いや、大丈夫……、いや、そうだな」
自分の手に目を落とし、ゆっくりと握って開きながら、自分の今の状態を推し量る。
ただでさえ不確実な状況に置かれてるんだ。
見るべきものを見逃さないために、消耗したくはない。
指の動きに合わせて息をし、胸を叩く鼓動を落ち着けていく。
牧志 浩太
「ごめん、そうする。
見なきゃいけないものを見るときに、我慢できるようにしときたいしな」
その手を辿り、目を閉じる。
大丈夫、俺の顔が映ってるだけだ。怖くない。
KP
あなたの手を握るとき、少し佐倉の手が迷ったようだった。
背後から、せき立てるような激しいノックの音がした。
ノック、というより、扉を打ち破ろうとしているような激しい殴打だ。
佐倉は素早くあなたの手をとると、前へ進む。そして背後で扉を閉じた。
佐倉 光
「悪いけど、閉めた。
あれに追い付かれるとまずい気がするんだ」
牧志 浩太
「ありがとう、俺も同感。
あれ、好意があるようには思えない」

佐倉 光
「置いてあるものも配置もさっきの部屋と同じだよ、多分。
ただここは……見た目はあまり意味ないと思うけど、ビルの上層階みたいだ。
SFかなんかみたいだな。金属でできててやたらピカピカしてる。
洗濯機に、先に進むドア。
テーブルにはタブレットみたいなのが二枚。
飲料マシンの代わりに、飲み物が出てきそうな壁がある。自販機みたいにディスプレイされてて、ボタンがついてる。
ノート……もあるな。この部屋でものすごく浮いてるけど」
牧志 浩太
「外の風景は見えそうか?」
佐倉 光
「外は見える。夜の町、に見える。ただ、高層階だから良く見えないな。知ってる場所じゃない」
牧志 浩太
「飲み物……、何が出てくるのかちょっと気になるな。お茶ありそう?」
佐倉 光
「飲み物のラインナップはさっきと同じみたいだ。水と麦茶と煎茶とコーヒー、鉄板だな」
牧志 浩太
「洗濯機はさっきと同じように、動いてるのはあるか?
洗濯機、黒い扉のはある?」
与えられる情報をたどり、頭の中で室内の姿を描く。
佐倉 光
「洗濯機はさっきと同じ、四つ動いてて、中身も同じだ。
黒い扉のもあるけど、今回は【電子】【物理】って書いてある」
牧志 浩太
【電子】【物理】か。反対のようなそうでもないような、また微妙な感じだな。
とりあえず、ノートから見てみよう。大丈夫、ノートくらいは読める」
ノートを渡してもらい、背を丸めながら読む。
KP
あなたの目の前にノートが広げられた。
視界の端に金属的なきらめきはあるが、なんとか見ずに済みそうだ。
ノートには今まで同様、書き込みがある。
真面目な字「順調に汚れも落ちてきましたね。洗うほどに心も洗われるようでありがたい限りです。ここでも洗濯していきましょう」
雑な字「洗いまくったおかげでめっちゃ頭すっきりしてきた! サイコー!」
丸文字「すっごくいー気分! このままやなこと全部忘れちゃえないかなー」
殴り書き「もう体験している可能性もあるが、今ならまだ間に合う。洗濯をしてはいけない。消したくないものまで消してしまってからでは、手遅れだ。選べ、選び続けろ、選び取って次へと進め。手にしたものを全て抱えて、一緒に進むんだ」
↑真面目な字「あなたも洗濯してみては?」
↑雑な字「空気読めよなー」
佐倉 光
「四人目はずっと『選択』をして進んでいたって事か?」
牧志 浩太
「四人目が『選択』をした……?
だとすると、おかしいな。その結果が何もない洗濯機なら、『選択』しても消えてしまう、ってことになる。
しかも、洗濯機は動いてる。
結局、『洗濯』も『選択』も変わらないのか?
この人、どうなったんだ?」
牧志 浩太
「俺、さっき服を洗った時に少し心が軽くなった気がしたんだ。
ここから読める内容だけで考えると、洗えば辛い記憶を忘れられるけど、同時に他のことも忘れてしまうかもしれない、って風に読める。さっき話したことと一緒だ」
KP
佐倉は洗濯機の方を見つめたようだった。
佐倉 光
「例えば俺が手を切り落としたときのことを辛かったから忘れようとしたら、お前と出会った日を丸ごと忘れてしまうのかも知れない。
それだったら手のことくらいは覚えておいてもいいかな……」
佐倉 光
「別に忘れていいことだって多いだろう。
怪我を負ったときにどんな痛みだったか、裏切った悪魔がどんな目をしていたか、そんなのまで覚えておく必要はない。……を食いかけた時の心の動きだって……覚えておく必要はない。
問題は、この洗濯機がそういう『忘れていいこと』に限定してくれるのか分からないってことだよな。
記憶がどう繋がっているかなんて俺達には分からないし」
牧志 浩太
「そうなんだよな。それは……、ちょっと、怖い。
それくらいなら、俺は全部覚えてていい。
弱ってるだけなのかもしれないけどさ。
弱ってると、今あるものを手放したくなくなるから」
佐倉 光
「まあ、な」
KP
佐倉はなにか思い出したかのように苦笑した。
KP
思い出したのは、目覚まし時計を捨てようとしたときのこと。
牧志 浩太
成程。
目覚まし時計……佐倉にとって大事な想い出の品なのだが、記憶障害に冒された時にトラウマと書き換わって恐怖の対象になってしまい、捨てたいという強迫観念に取り憑かれた。
詳しくは『夜はいのちを落とし易い』を参照。
佐倉 光
「選択に何の意味があるんだろうな? とりあえずは洗わなくても進めるってことと、ここに置いてある本に関連する物があるってことくらいか。
抱えて進んだら役に立つのかね」
KP
佐倉はあなたの籠に入っている肉とバーナーを見下ろした。
牧志 浩太
「そういうことだな。
洗っても後から手に入れることもできるみたいだし、よく分からないな」
閉じた目をうっすらと開けて、空のまま回っている洗濯機を片目で見る。
佐倉 光
「四人目は洗わなかったから中に何も無いのか?」
牧志 浩太
「単純に、服を入れずに回しても回る、ってことかな」
洗濯機にコインを入れ、扉を開けて服を入れずに扉を閉じる。
KP
コインはちん、と音を立て返却口に戻ってくる。
回ることもないようだ。
佐倉 光
「中に服が入ってないと回らないのか?」
牧志 浩太
「らしいな。そうなると、余計に四人目はどうしたんだろう……?
とりあえず、そのタブレットだっけ、見てみよう」
タブレットを手に取り、確認する。
KP
タブレットには二冊の本が入っているようだ。
絵本と雑誌である。
『絵本「不思議な鍵穴」』
前の部屋に存在していた「魔法の絵描き」の続編の作品。
絵描きの能力に目を付けた人々が、彼に頼んで鍵と鍵穴の絵を描いてもらい、スペースを圧迫しない倉庫として重宝する、といった内容。
最終的に絵描きを便利に利用し過ぎた人々は、ある時、絵の鍵穴がただの絵に戻ってしまっているのに気づき、中身が取り出せない、と絵描きのところに殺到した。
しかしその時、すでに絵描きの姿はどこにもなかったのだ。
部屋にはいくつもの焼き魚の食べ跡と1枚、海の景色が描かれた絵だけが残されていて、その向こうからは潮騒が響き続けていた。
『雑誌「最新の金庫特集! 電子ロックで安全&お手軽に!」』
タイトル通り、最新の金庫がいくつも紹介されている雑誌だ。
カードキーで開くタイプの電子金庫が特にオススメされている。
カードキーはSuicaぐらいの感じで、無地。
牧志 浩太
「海の景色と潮騒、か……。何だか神秘的な終わり方だな」
ふっと、海を眺め続ける銀色の髪が過ぎった。
まだ曖昧だった自分に自身を問わせてくれたのは、あの人だった。
まあ、人じゃなかったわけだけど。
佐倉 光
「絵描きの絵に力を与えるのは人を思う心、だったよな。
使う奴が感謝を忘れることで便利なストレージはただの絵に戻ったんだ。
つかこいつ肉好きなんじゃなかったっけ」
牧志 浩太
「こっちは電子金庫?
これ、どっちも物理的じゃないよな……。電子的なものと、その否定?」
佐倉 光
「やっぱ、この電子って……あのボタンと関係あるのかな。
しかし絵描きの方は確かにリアル鍵ではないけど電子錠でもないよな」
佐倉 光
「いやー、存在して使える間は物理、とも言えるのか?」
牧志 浩太
「面白いっていうか、綺麗な話ではあるけどな。存在してる間は物理、なのか? うーん……。
いじるので言えば、電子より物理的な機械の方が好きなんだけど」
佐倉 光
「やっぱり最初の部屋の本の内容も選んだ方が良さそうだ。
今俺たちが持っているものと関係ありそうなものについて考えるべきだと思う」
牧志 浩太
「最初の部屋にも、機械についての本があったな。
今俺達が持っているもの…… ガスバーナー、肉の玩具、それから汚れた服。
そういえばあのクジラ、血の臭いに敏感だって書いてあったな」
汚れた服を嗅いでみる。血の臭いはするだろうか。
KP
シャツには酷い汚れがついているが、臭いはしない。
佐倉 光
「で、俺たちが選ばなかった方は、【魚】【水】だっけ」
牧志 浩太
「ああ。魚と水。あのクジラの記述、どうにも嫌な感じがしてさ。
それで選ぶ気がしなかったのもある」
佐倉 光
「なるほど、確かにそうだな。
いきなり食って食われての話だったし」
牧志 浩太
佐倉さんの汚れた服も同様に嗅いでみる。
KP
佐倉の服も臭いはない。
佐倉の服などどす黒いまでの血と思われる液体に浸したように染み付いているのに、だ。
佐倉 光
「そういう意味では俺、牧志には悪いけどあの本の機械も嫌だけどね、言うまでもなく」
牧志 浩太
「“それ”は俺も嫌だな」
汚れた服の、左胸を濡らす機械油の辺りを撫でてみる。油がついたりはするだろうか。
KP
油がつくことはない。
そういえばかごに汚れが付着することもないのだ、こんなに汚れていて、手で触れるのもためらわれるほどなのに。
牧志 浩太
「臭いはしないし、汚れはつかない……。こいつの臭いが魚を引き寄せて、って心配はなさそうかな。
魚も本物かどうか分からないから、断言はできないけど。
籠にも汚れはついてない。この汚れ、本物じゃないのかもしれないな。
で、物理か電子か、か。
今の所、選んだのはライオンが来そうな内容だ。
物理だと、あの本の機械に関係しそうな内容になってくる……」
佐倉 光
「あの三冊だとライオンが一番穏当だよな、何より【帰れる話】だ。
電子か物理かっていうと良くわかんねぇけど」
牧志 浩太
「ああ。魔法の絵描きみたいに後で続編に出てこられたら分からないけど、続きそうな内容でもなかったしな。
電子か物理かでいうと機械は【物理】っぽい。
【魚】【肉】【水】【炎】にはあんまり関係しなさそうな内容。
ライオンの話は【肉】【炎】
深海の本は【魚】【水】に読める」
佐倉 光
「するともう深海の図鑑については忘れて良さそうだな。
絵描きもこの本に出てくる焼き【魚】はもう無理そうだ」
佐倉 光
「本によっては必要ないものも当然あるんだろう」
牧志 浩太
「そうなるとライオンの話か、【機械】か。今の所どっちも物理…… か?
その後で出てきた本でいうと、料理本は【肉】【炎】だ」
佐倉 光
「そうだな、その辺を狙っていった方がいいと思う」
KP
KPCってこういう時能動的な発言や行動しづらいから困るわね!
牧志 浩太
ですねぇ!
でも能動的に作戦会議に絡んでくれててありがとうございます 一緒に進めてる感じで楽しい
KP
最終的な「こうしよう」っていう発言はしづらいので、牧志君に任せます。
意見求められれば一応言うけどね!
佐倉 光
「機械の方は電子機器というよりからくりって感じだから物理っぽいよな、確かに」
牧志 浩太
「そう。歯車とネジだしさ。
今の所【電子】って感じのものはこの雑誌くらいだ」
KP
ドン、と急かすように扉が叩かれた。
洗濯機は剣呑なまでにピカピカと光っている。
4基が回っているはずなのに静かだ。
牧志 浩太
「くそ、あまり時間をよこしてはくれなさそうだな。
佐倉さん、一つやりたいことがあるんだ。両方のボタンを同時に押してみよう。【選ばなければ】どうなるのか知りたい。
ちょうど、ライオンの話には関係しなさそうな所だしな」
佐倉 光
「分かった。俺が押そうか?」
牧志 浩太
黒い扉の洗濯機の両方のボタンを同時に押してみる。
KP
ボタンはどれだけ力を込めようと動かなかった。
右側に力が加われば左が飛び出、逆ならば逆が、というように。
中で機械的にシーソーのような仕組みになっているのかも知れなかった。
牧志 浩太
「選べ、ってことか。仕方ない、【物理】で行こう。
機械ったって制御装置なんだ、そんなに悪い事にはならないと思いたい」
【物理】のボタンを押す。

コメント By.KP
夜、突然不思議なコインランドリーに立っている。
せんたく、しないと。

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「ァアイィ」

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大事な親友の牧志。
とびきり良いマグネタイト、血液、精神力、最高の生け贄体質。
便利な奴だ。使わない手はない。

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

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