こちらには
『レプリカの心相
のネタバレがあります。
本編見る!
置き卓ゆえのぶ厚さ
KP
ノリノリで書いてたら「こんな急いでる時に読んでる場合じゃねぇ!!」ってボリュームになっちゃったけど、せっかくだからここで見てほしい内容なので、またPLに開示しちゃうのでした。>時間経過無いよ
佐倉 光
佐倉も速読得意(〈図書館〉オンライン 85〈コンピューター〉85〈日本語〉95持ち)だから多分それなりに早く読める!
KP
確かに! 佐倉さんが速読得意でよかった!
本来はリアルタイムで進行しながら書くわけで、こんなボリュームを置きでみちみち書くのは想定されていない。楽しい。
佐倉 光
つまり「そこにいたのは間違いなく彼で、閉じ込められていた」って情報だけが提示されるシーンなワケですね!
美味しい。バッチコイ!!
ゲームや映画は彼の置かれた状況のヒントなんだろうなぁ、と思った!
KP
本来もここにはちゃんとログがあります。
リアルタイム卓の場合は、遊んでいる間にも実は閉じ込められて苦しんでいた彼の台詞がつらつら流れていく感じになりますね。



1日目 / 昼


牧志 浩太
佐倉さんの眼が、一番先に視界に映った。

あれから……、そうだ、車が突然。
あれは変だった。急に向きを変えて加速して、殺意さえ感じる動きだった。

咄嗟に佐倉さんを庇って……、俺は?

佐倉さん、随分弱ってるみたいだ。
無理もないな、きっと俺は大怪我して……

……何だ?
おかしい、身体が動かない。違う、口が勝手に動く、何だって? 何が起きてる?

なんで俺の喉からこんな、人形みたいな声が出てるんだ?
顔が動かない、身体は温かいのに表情が動かない。
身体の中から機械みたいな、変な音がする。

あの時みたいに、人形にされたのか、俺は?
佐倉 光
牧志だ! やっぱり『浩太』は牧志だったんだ!
殺意? あの事故は偶然じゃなかったのか!?
記録に急いで目を通す。
レプリカ
「『佐倉さん』。俺の大事な友達。
俺は牧志浩太です。初めまして、よろしく」
牧志 浩太
初めまして、だって?
俺は何を言ってるんだ? 俺は、何を言わされてるんだ?
牧志 浩太
違う、初対面なんかじゃない! 
佐倉さん、違うんだ! 大丈夫、俺はここにいる!
牧志 浩太
くそっ、口が動かない! 声も……、体も!
どうすれば、佐倉さんに気づいてもらえる!?
佐倉 光
ダメだな。笑えねぇよ俺は。
牧志 浩太
佐倉さん。
佐倉さんは、俺がここにいるって気づいてない……んだな。

今すぐに声をかけて、俺はここにいるって示して手を取って、話したいのに、それができない。
佐倉 光
牧志。ずっと閉じ込められていたのか。くそっ……!
気付けばこぶしを握っていた。
聞いていないと思ったら
佐倉 光
レプリカに元KPCさんの悪口言いまくったりする、KPCさんカワイソ卓もありそうだなこれ!!
KP
あるでしょうねぇ!!
態度が違ったり全然違う感情を覚えさせたりしたらそれはそれでかわいそたのしい。

佐倉 光
「笑って。挨拶は、笑ってした方が印象がいいから」
KP
「ごめんなさい、うまく行かないみたいね」
牧志 浩太
何だ、これ。
模様が眼の中に入ってくるみたいだ。頭の中に入ってきて、勝手に顔が動く。
勝手に表情が浮かぶ。勝手に笑わされてる。
何だ、これ。こいつは誰だ。俺は何をされてるんだ。

この模様か? 俺は、この模様に操られてるのか?
佐倉 光
その笑顔を俺が呼び出したわけではないことに、一抹の寂しさと安堵をおぼえた。
牧志 浩太
その偽物の笑顔に、佐倉さんがぎこちなく笑い返したことに、悔しさと安堵を同時に覚えた。
佐倉 光
道化じゃねぇか、俺。
ポケットの中でカードを握りしめた。
KP
ごめんな佐倉さん。KPと色國のせいだ。>道化じゃねぇか
KP
「じゃあ、そろそろ行こうか」
牧志 浩太
視線が勝手に前を向いた。
佐倉さんに手を伸ばしてるつもりなのに、全然動かない。

全身麻痺の患者になった気分だ。
牧志 浩太
佐倉さんは何か知ってるみたいだ。この女の人も。
話を聞きたいのに、相変わらず喉が動いてくれない。

あの人形にされた時も、佐倉さんが俺を助けてくれなかったら、こうなってたのかもしれないな。
牧志 浩太
なんでだろうな、頭が痛い。
目覚めてからずっと、頭が痛い。
佐倉 光
相棒がずっと側にいて苦しんでいたことにも気付かずに、俺は悲劇に浸っていた。

KP
「ここには本や映画、娯楽用品もあるわ。
それを使って、彼の感情を育ててあげてね」
牧志 浩太
感情を育てて、だって?
この人は何を考えてるんだ。何のつもりだ? 佐倉さんは何を聞かされてる?

感情なら、ここにちゃんとあるのに。
聞きたいことが多すぎる。
……仕方ない、今は少しでも情報を得よう。

情報を得て、そして、それから……、どうする?
俺の身体はこんなにも動かない。佐倉さんはきっと、俺がここにいると気づいていない。

それからのことは考えたくなかった。
佐倉 光
気がつけば喉の奥で嗤っていた。
昨日の自分自身の苦しみや哀しみを嗤っていた。
滑稽だ。
KP
「それでは、ごゆっくり。
どうか、二人の時間を楽しんで」

佐倉 光
「浩太、まずこの部屋について見て回ろう。2日ここで過ごすんだしな……」
牧志 浩太
室内を見て回るか……。確かに、情報は欲しいな。
佐倉さんが考えていることも知りたい。
KP
雨の音が少し近くなる。外に続いているのだろうか?
佐倉 光
「水濡れ厳禁だったよな……
こっち外かも知れない。俺だけで見るから、浩太は外に出ないでくれ」
牧志 浩太
この音、外に続いてるのか?
出られる……、いや、佐倉さんは望んでここにいるみたいだな、この様子だと。

それに、さっき通った道とは別方向だ。
この向き、さっき窓から見えた庭か?
牧志 浩太
水濡れ厳禁って……、俺がか?
動かないだけじゃないのか? 俺に、何が起きてる?
佐倉 光
そうか。牧志は自分の状況に気付いていなかったんだ。
佐倉 光
「見張られているのか、また実験動物か、と思ったら人はいないのかな。
いや、こんな精巧なロボットに凄い設備なんだし、遠隔で見ているんだろう、きっと。
しかしあれだけの大規模な施設が無人というのも考えづらいけど」
佐倉 光
「この辺を調べるのは後にしよう。
『浩太』はここを通ったら不具合出るだろうし、俺達には時間がないんだ。
後で雨がやむかも知れないし、そうしたら外に出てみるのも……」
牧志 浩太
精巧なロボットって、……俺がか?
そうか、それで水に濡れちゃいけないのか、と変な納得をした。

俺はなぜかロボットの中に閉じ込められていて、こいつは勝手に動いたりするし、全然言うことを聞かない。
で、俺は何も言えないし、佐倉さんは俺が中にいることに気づいてない、か……。

……参ったな。
それにしても、佐倉さんがさっきから随分辛そうだ。
俺がいないからにしても、こいつが俺の声で無機質に喋るからにしても、様子がおかしい。

佐倉さんに何が起きたんだ?
佐倉さんは、何を聞かされてる?
牧志 浩太
……地味に辛いな。
佐倉さんが共有してくれているのに、意見を返せない。一緒に話して状況を打開できない。
佐倉 光
自分が死んだことにも……気付いていなかったんだ。
佐倉 光
「必要なら使うといいよ。文字の書き方は分かる?」
牧志 浩太
ペンだ!
声は出なくても、何か書……、くそ、念じても念じても手が動かない!
手がだめなら肩で、腕で、くそ、駄目だ、ちょっとでも動いてくれればいいのに……!
牧志 浩太
何度も試してすっかり疲れ果てても、この身体は疲れた息を吐くこともなければ、汗の一滴さえ出さないようだった。

……頭が痛い。
身体の感覚と頭の認識がずっとどこかずれていて、痛くて、曖昧で、苦しい。
佐倉 光
そんな相手に最初に見せたのがあのディスクか。拷問かよ。

浩太
「はい、日本語が読めます。
興味ですか。あなたが気になるものなら、何でも」
牧志 浩太
この答え方……知識は答えられるのか?
俺しか知らないことを聞いてくれれば、気づいてもらえたりしないか?

佐倉 光
「こっちに座ってくれ。まずちょっと見てほしいものがあるんだ」
牧志 浩太
あ、俺を殺す映画だ。
何度見てもツボに入っちゃうんだよな、これ。
牧志 浩太
今の状況で……、笑えるかな。
笑っても喉が動いてくれないんだろうな。
牧志 浩太
!!!
ちょっ、気分そっちのけで無理やり笑わせてくるの反則……!
思わず身構える。
牧志 浩太
……身構えたけど、笑いは来ない。

変な感じだ。
どう考えても面白いのに、腹から笑うって反応が来ないと、意外と平然としてられるんだな。
面白いって感情は腹の反応が先に来て、それに意識が反応するってことか? ちょっと意外だ。

ああ、佐倉さんとこの話をしたいな……。
佐倉 光
中で笑いたい気分だったのかぁ~。
……俺の気分に巻き込んで、マジで悪いことしたな。
牧志 浩太
そんな風に思っていると、あの模様が突きつけられた。
急に腹の奥から笑いが湧き上がってくる。
あっ、ちょっと待って、待って……!
牧志 浩太
頭の中では平然としていたはずなのに、急に腹の底から笑いが湧き上がってくる。
何が面白いのかも分からないまま笑い転げていると、急に映画が面白く感じてきた。
牧志 浩太
まるで身体に操られてるようで気味が悪いのに、笑い転げていると目に映る何もかもが面白くてたまらない。
牧志 浩太
笑い転げていると、急に眼からぼろりと涙がこぼれた。
ぼろぼろと涙がこぼれて顔が歪む。そうしていると、面白かったはずの映画が悲しいような気持ちになってくる。

悲しい。閉じ込められて何も出来ないのが、佐倉さんの辛そうな、どうしようもなく辛そうな顔に何も言えないのが、悲しくて悲しくてたまらない。

やめてくれ。やめて。身体に心が操られる。振り回される。わけがわからなくなる。
佐倉 光
「……」
カードで感情を教えているのではなく、強制していた。
何となく分かっていたことが突きつけられると気分が落ち込む。
だめだ。落ち込む時間はない。
牧志の記憶に何か、体についてのヒントがあるかもしれない。
読み進める。



1日目 / 夕


KP
流れた映画は、湖の傍の一軒家で穏やかに暮らす家族を、湖の底から蘇ってきた死者が襲う話だった。
牧志 浩太
湖か……。何だかあの時を思い出すな。
あいつが佐倉さんに化けて出てきた時。危なく水に引き込まれそうになった、あの時。

そういえばあの時は、佐倉さんが助けてくれたんだったな。
牧志 浩太
こういう時、たまに手が動くんだな。
でも、動かそうとして動かすことはできないみたいだ。
印象的な時に記憶を辿るような、そんな感じだ。
牧志 浩太
佐倉さんはそれ以上あの模様を使わずに、じっと手を握っていてくれた。

ふたりで映画を眺めていると、体が動かないことも忘れられるようで、不思議と穏やかな気持ちになった。
伝わってくる熱が温かくて、佐倉さんも同じ気持ちでいてくれているような気がした。
佐倉 光
あの時は少し穏やかな気分になれていた気がする。
手を取って貰って、多分模倣行動だろうと思ったけど、嬉しかったんだ。
牧志 浩太
そういえば……、温度や感覚は分かるな。声も聞こえる。
何もできないのに、感覚はちゃんとあるんだな。感覚までなくなってたら嫌過ぎたから、あってよかったけどさ。

佐倉 光
「悪いけど腹が減ったんだ。食事しようか」
浩太
「はい、食事にしましょう。
料理の本を見かけました。何か作りましょうか」
牧志 浩太
キッチンか、……佐倉さん、煮込みハンバーグずいぶん喜んでくれてたな。
牧志 浩太
手が動きだした。
煮込みハンバーグのことを思い出したからか? 妙な所だけ反映されるな。
でもさっきから、佐倉さんに何か伝えたいとか、そういうのは全然反映されないんだよな。
佐倉 光
「何を作ろうとしている?」
浩太
「煮込みハンバーグを作ります」
牧志 浩太
言葉を伴うような複雑なことは無理なのか?
煮込みハンバーグは言えるのに、俺はここにいる、ってことも言えないし……。
佐倉 光
そうか、ある程度は牧志の意思も反映されていたんだな。
佐倉 光
「記憶はないって聞いていたんだけど、結構色々知っていそうだ」
牧志 浩太
違う、記憶はある。あるよ。
話せないだけなんだ。

今すぐ佐倉さんに声をかけたいのに、喉が動いてくれない。
佐倉 光
たしか、この時は俺が……
KP
動揺していたのがまずかったのか、踏み台の高さなどが合わないのか、佐倉は踏み台の上で足を滑らせた!
牧志 浩太
って、えっ、佐倉さん! 危ない!
くそっ、動け……、動いた!

動いたのはよかったけど、痛く…… ないな?
しかも、血から匂いがしない……。

痛覚ないのか、この身体?
やっぱり人形…… なのか?
牧志 浩太
それにしても、佐倉さんが無事でよかった。
佐倉 光
ああ、そういえば痛みのカードには反応がなかったな。
佐倉 光
「俺は大丈夫、怪我なんかしてない。お前の傷の手当てをしよう」
佐倉 光
「痛いだろ。痛いはずだよ」
牧志 浩太
もしかして俺の心があるんじゃないか、って思ってくれてるのかな。
ああ、伝えたい。いま目を伏せることだけでもできれば、きっと伝わるかもしれないのに。
喋っているのに喋れない。悔しいな。ちょっと、淋しい。
牧志 浩太
佐倉さん、俺、ここにいるよ。俺の心、ここにあるよ。
佐倉 光
そうか、あのとき俺を助けてくれたのは、お前だったんだな。
佐倉 光
感傷に浸っている場合じゃない!
続きを見る。
佐倉 光
中の人はある意味感傷に浸るために読んでる!!

佐倉 光
「表面洗うのもアウトなのか。ごめん」
浩太
「いえ、大丈夫です。表面に水が掛かる程度なら問題ないのですが、内部に水が掛かるのはよくないのでしょう」
牧志 浩太
水か……、そういえば水がかかっちゃいけないんだったな。

水か。
かかったら、どうなるんだろうな?
壊れる? 壊れて俺ごとお陀仏か?
佐倉 光
「ありがとう、浩太」
浩太
「いえ、佐倉さんに怪我がなくてよかった」
牧志 浩太
よかったって言えたのはいいけど、やっぱりこの無理やり引っ張られる感じ、気持ち悪いな。
そうされる度に、俺の気持ちが身体に操られるように感じる。

操られ過ぎて、本当の気持ちが分からなくなるような……。
くそ。そんなものなくても伝えられたらいいのに。
牧志 浩太
ああ……、頭が痛い。
頭の中に針を突っ込まれて掻き回されてるみたいだ。
口の端に針を引っかけて、勝手に顔を動かされてるみたいだ。
牧志 浩太
痛い。
牧志 浩太
痛い、痛い、いたいいたいいたい。
佐倉 光
俺は、牧志を苦しめていたのか。
良かれと、思って。

佐倉 光
「美味しいよ」
牧志 浩太
そっか、美味しいか。
……、でも、佐倉さん、辛そうだよ。
どうしてそんなに辛そうなんだろう。
聞きたいのに、やっぱり声が出てくれない。
佐倉 光
「浩太。君はどういう存在なんだ?
記憶はないと聞いているんだけど、結構色々なことを覚えているように見える。
俺と一緒に暮らしていた記憶は、ないんだよな?」
浩太
「はい。今日以前に、佐倉さんと一緒に暮らしていたデータはありません。

俺は今日、ここで目覚めました。
知識や技能は設定されているものと思われます。その件ですか?」
牧志 浩太
いや、覚えてる。覚えてるよ!
佐倉さんと一緒に暮らしてることだって、ちゃんと覚えてるに決まってる。

さっきから全然動けないし、その割に変なカードに振り回されて、勝手なことを言い出すし……。
牧志 浩太
……佐倉さんは俺のこと、記憶の無い人形だって思ってるのかな。
人形、か。ここはどこで、俺はこれからどうなるんだろう。

このまま、佐倉さんに気づいてもらえなかったら……、俺は……。
佐倉 光
牧志を追い詰めたのは、俺じゃないか。
佐倉 光
「君は、モデルになった牧志浩太がどうなったか知っている?」
牧志 浩太
! 佐倉さんから話が聞ける……!
佐倉 光
「死んだんだよ。俺の目の前で。俺を庇って」
牧志 浩太
……愕然とした。
俺が、死んでいる、だって?
佐倉さんの目の前で?
牧志 浩太
そうか、それで……、それで、佐倉さん、こんなに辛そうなのか。
俺が死んじゃったと思って、俺が目の前で死んで、俺そっくりの人形がここにいると思ってるんだな。

違うよ、佐倉さん。
俺はここにいる。動けないけど、話せないけど、ここにいるよ……。

話せないのが、辛いな……。
佐倉 光
「ごめんな、俺、こういう時に教えてやればいい感情が良く分からない」
牧志 浩太
頭が……、痛い。
あの模様を見せられる度、頭が痛む。頭を掴まれて鋳型の中に押し込められてるみたいだ。
痛みが止まらない。

目を背けたいのに、視界の中心にあの模様が入ってくる。
痛くて……、痛くて。何か考える度に頭が痛む。
もう何も考えずに、動かされていたら痛まないのかもしれなかったけど、どうしてもそうする気になれなかった。
佐倉 光
この、カードは。
ロボットを牧志にするカードではなく、
牧志をロボットにするカードだったんだ。
佐倉 光
普通にやりすぎたらアカンやつだったかー。
追加で使ってごめんな牧志!!
KP
アカンやつでした。
仕方ないのよハートカードについてはノーヒント!!
佐倉 光
すると、暴走は普通にデッドエンドだったかなー
KP
実はそうです。
まったくひどいはなしである。

佐倉 光
「ちょっとゲームでもしないか?」
牧志 浩太
お、このゲーム面白そうだな。
……箱に閉じ込められてる、か。今の俺みたいだな。
牧志 浩太
えっこれすごいな!?
あっ、やった、手が動く! えっこれ俺が動いてるのか!? 勝手に動いてるのかよく分からなくなってきた……!
佐倉 光
「え、タイマーあり? ちょ、ちょちょ右から急いで回り込んでくれ!」
牧志 浩太
おっ、切り抜けた! やったー!
佐倉 光
「よっしゃー!」
佐倉 光
ああ、ゲームは楽しかったな……
ほんの少しの間、憂鬱を忘れられた。
牧志 浩太
……顔が動かないと、なんだか楽しいって気分になってこないな。
佐倉 光
「こーゆーときはこうだ。『やったー!』」
牧志 浩太
不意に顔が引っ張られ、腹の奥から何かが湧き上がってくる。
気がつけば満面の笑みでハイタッチしていた。
笑えた、のか、笑わされている、のか、分からなくなってくる。
浩太
「やった! やった佐倉さん、俺達すごい!」

佐倉 光
「おっ先ぃー!」
牧志 浩太
……えっ!?
ここまで協力してきたのに出し抜かれるなんて、やるな佐倉さん……!?
牧志 浩太
佐倉さんと一緒にゲームで笑い合えるのが嬉しくて、
一瞬この現状も、異変も、俺が死んだ? ってことも、何もかも忘れていた。
浩太
「あっ、落ちた! 佐倉さん、なんで落としたんだ?」
佐倉 光
「……」
佐倉 光
「俺を信じて無様に落ちるの見たら面白いかと思って」
牧志 浩太
……なんて顔でそんなこと言うんだよ。
面白そうには見えないよ。
牧志 浩太
ふと……、嫌な痛みがよぎった。
佐倉さんは俺が、ここにいることに気づいていない。

佐倉さんはきっと俺を取り戻そうとしてくれる。
ここを脱出するのに成功して、人形なんかいらないって、俺を捨てていったらどうしよう。

俺はここにいるのに。

そうしたら……、
そうしたら。
何も喋れないこの身体の中で、どうやったら、佐倉さんの所に戻れるだろう。
浩太
「佐倉さん、これ、楽しいな」
佐倉 光
「そうだな、楽しい」
牧志 浩太
ああ……、楽しいな。痛みも少し忘れられそうだ。
本当に箱が開いたらいいのに。

佐倉さん、俺、ここにいるよ。ちゃんとここにいる。ここだよ。
取り戻さなくていいんだ。そんな顔しなくて、いいんだ。
牧志 浩太
置いて……、いかれたくないな。
佐倉 光
ばっかやろ、人間じゃなくなったからってお前を捨ててくわけないだろ。
佐倉 光
まあ、気づかなかったら危なかったけどさ!
佐倉 光
すると尚更、あの体に入っている『脳』は何なんだ?
あいつは俺の名前を呼んだが……



1日目 / 夜


佐倉 光
「ベッド、ひとつしかないのか」
佐倉 光
「……懐かしいな」
牧志 浩太
……あの時も、こんなベッドで、手をつないで寝ることになったんだったな。
佐倉 光
「ごめん、布団は任せるよ。風呂入ってくる」
牧志 浩太
遠くから雨の音と水音に混じって、微かな慟哭のような声が聞こえてきた。

佐倉さん、泣いてるのかな。泣いてるんだろうな。
背をさすりたい。声をかけたい。大丈夫俺はここにいるって、傍らで呼びかけたい。

でも、声が出ないんだ。
佐倉 光
聞いてたのかよ!!
死んだと思って泣いたのに本人に聞かれてたってそれどんな罰ゲーム!

佐倉 光
「夕方に『悲しい』映画見たろ?」
佐倉 光
「その、たぶん本当の見方を思い出してもらおうと思って」
牧志 浩太
そうか。あのとき佐倉さんは、俺が映画を見て泣いたと思ってるんだな。
いや、そうなのかもしれない。この身体が泣かされているのか、俺が泣いているのか、分からなくなってくる。

笑いたい気持ちじゃないのに、どうしようもなく腹の底から笑いがこみ上げてきて。
俺が何を思ってるのか、身体とは別の心なんてものが俺にあるのか、わからなくなってくるんだ。
浩太
「佐倉さん、俺……、 たのしい。
ここにいたい。
佐倉さんのところに、いたい」
牧志 浩太
ああ、なんでこんなことだけ、ちゃんと口に出せてしまうんだろう。
佐倉さん困るよな。でも……、置いていかれたくないんだ。

ここに、いたいんだよ。
佐倉 光
「言ってくれて、良かった」
言ってくれなければ、俺は、『浩太』を生け贄にして牧志を取り戻そうとしたかもしれないんだ。

牧志 浩太
目を閉じても、眠りはやってこなかった。
眠れないのかもしれないし、この身体にそもそも、眠る機能みたいなものがないのかもしれない。

佐倉さんの少し疲れた呼吸音を聞きながら、ずっと、今までのことを思い出していた。
会ってから色々あったこと。
手を取って走ったこと。
不釣り合いな記憶のこと。
友達になりたいと願ったこと。
佐倉さんが子供に戻ってしまったこと。
喧嘩をしたこと。
それから、それから、それから。
牧志 浩太
色々ありすぎて泣きたくなるくせに、涙のひとつも出なかった。
牧志 浩太
一睡もできなかった。随分長い時間だった。
ずっと頭が痛くて痛くて痛くて、少しずつ少しずつ自分を削られるような時間の中で、

どうすればいいのか、ずっと、ずっと、考えていた。
牧志 浩太
ああ……、疲れた、な。
ずっと、眠りたくてたまらない気分なんだ。
でも、眠ってしまいたくないんだ。
佐倉 光
二日目のあの行動。
もしかすると牧志は……
そうだ。俺の知っている牧志なら、理由なくあんなことは、しない。



2日目 / 朝


佐倉 光
「今日は外に出られそうだ。
散歩してみるのもいいか。
中庭の向こうも気になるしさ」
浩太
「いいな、そうしよう。
朝を食べたら散歩してみようか」
牧志 浩太
翌日の朝は、昨日の雨が嘘みたいに晴れていた。

外……、池、か。
壊れたとしたら、どうなるんだろうか?
俺もろともお陀仏なのか、それとも……。
牧志 浩太
……それとも……。
ここで状況を変えれば、何かが変わるだろうか?

俺の手足はたまに動く。池の横を歩いている時を狙って、あらゆることを試してみればいいんだ。
何かひとつでも動けば、俺はバランスを崩せるかもしれない。
牧志 浩太
自殺行為だ、やめろ。
頭の奥で、まだ冷静な自分がそう言っていた。

このまま佐倉さんと暮らせるかもしれない。このまま暮らせばいい、そう。
頭が痛くて痛くてたまらないけど、きっと少しは生きていられる。
佐倉 光
「浩太ー。本読もうぜー」
牧志 浩太
佐倉さんは俺を、きっとただの人形だと思っているんだ。
あの模様を見て笑ったり、泣いたりするだけの人形だと。
だからあんなに辛そうで、あんなに寂しそうなんだ。

それなら……。
牧志 浩太
人形がするはずのないことを、俺がしたら、何か気づいてくれるだろうか?
佐倉 光
また、そんな無茶を。
佐倉 光
ああ、確かに。
牧志が動いたから、俺も動けたんだ。
動けることに気づいたんだ。
牧志 浩太
自殺行為だ。
もしかしたら、ちょっと疲れているのかもしれなかった。
牧志 浩太
確信はなかった。どれにも。
浩太
「寂しいな……、寂しい、映画」
佐倉 光
「ああ、寂しい」
牧志 浩太
痛い……、冷たい……、悲しい。
外側にいる俺が笑ったり泣いたりするたび、俺の心が削れていく気がする。

頭が痛い。
ああ、やっぱり俺、疲れてるのかもしれないな。
佐倉 光
あの人間らしい反応に見えたものは、牧志のじゃなかったのか。
佐倉 光
「勘違いもいいとこだな」
牧志 浩太
確信は、なかった。
気づいてくれたらいいな、っていう、願いに過ぎなかったのかもしれない。
もしも気づいてくれたら、佐倉さん、もう……、
牧志 浩太
そんな眼をしなくていいだろ。

佐倉 光
「ん、どうかした? 何かあったのか?」
牧志 浩太
きっと俺は弱っていた。
綺麗な水のきらめきに、気づけば目が吸い寄せられていた。
佐倉 光
「水濡れ厳禁だからな、あまり近づくと……」



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佐倉 光
修理中のログはなしか。
これは恐らく修理後のものだな。
佐倉 光
「ごめんな、無理をさせすぎたかも知れない。
そんな状態で水に近づくべきじゃなかったよな。俺が迂闊だった」
牧志 浩太
結局……、佐倉さんは気づいてくれなかったのかな。
その割に、少し表情が明るくなってるような気がする。

どうしてだろう。でも、よかった。
……俺は、どうなるんだろうな。

頭が痛い。思考が、ひどく重い。
ずっと、頭が割れそうに痛んでいるんだ。
佐倉 光
「……ここにいたいって言ってくれたろ」
佐倉 光
「俺もいて欲しいって思ってるからだよ」
牧志 浩太
でも……、何だか嬉しいな。
俺が偽者でも、俺の代わりだと思ってても、一緒にいたいって言ってくれるのは。
牧志 浩太
それなら、俺も……、できることを探したい。
佐倉 光
明るい?
そりゃ牧志が生き返ると聞かされて浮かれていたからだ。
佐倉 光
「……お前さ。今朝から何か悩んでない?
俺に何か隠してない?」
牧志 浩太
ああ、分かるんだな。分かってくれるんだな、佐倉さん。
分かってくれたんだ。
分かって、くれたんだ。

何も言えなかったのに。
何も言えないのに。
俺がここにいるって、分かってくれるんだ。
佐倉 光
牧志……
すぐに気付いてやれれば良かった。
ずっと、ずっと疑念だけはあったのに。
俺は、牧志ではない誰かを、何かを牧志だと思い込んで、
本当の牧志のことを忘れるのが嫌だったんだ。
佐倉 光
「表情が分からないのか? 何か、気になることがあるんだな?
ゆっくりでいいから言葉にしてみてくれないか?」
牧志 浩太
違うんだ、隠してるんじゃない。
言えないんだ。言いたくてたまらないのに声が出ないんだよ。

でも嬉しい。頭が痛い。痛い。痛い。嬉しいと思う度に頭が痛い。
でも嬉しい。嬉しい、痛い、嬉しい。酷い倦怠感、痛み、でも、この気持ちを手放したくない。

嬉しい。
佐倉 光
あの時は割とすぐにあいつが入室してきた……

KP
「朗報だよ。牧志さんの容態が安定した。
まだ身体が万全じゃないから今は眠っているけど、実験はこれでお終い。
今日まで、協力どうもありがとう」
KP
「レプリカはこちらで処分させてもらうよ。お疲れ様」
牧志 浩太
俺の容態が安定した、だって?
そんな。俺はここにいるのに。

違う。
違う! 佐倉さん、そいつは俺じゃない!
そう叫びたいのに、喉が詰まって言えない。何も言葉が出ない。
佐倉 光
そうだ。あそこにいたのは誰だ?
あの部屋で俺の名を呼んだのは……誰だ。
佐倉 光
「そもそも俺はね。
レプリカの中に牧志の精神が乗っている可能性を考えている」
佐倉 光
「こんな状態で、はいそうですかと承服できるかよ」
牧志 浩太
佐倉……、さん。
気づいてくれたのか。
そうだ、俺はここだ! ここにいる!

頭蓋を今にもハンマーで割られているみたいに、酷い痛みが襲う。
それでも、佐倉さんが気づいてくれた、その事実が嬉しかった。
佐倉 光
牧志にも、本当には何が起きているのか分かっていないのか。
KP
「大丈夫。彼は戻ってくる。
彼が元気になったら、その子のことなんて忘れちゃうよ」
牧志 浩太
あいつが取り出したタブレットを見て、咄嗟にだめだと思った。
なぜか分かる。だめだ。あれはだめだ……!

どうすればいい。
あいつからあれを奪う? いや、だめだ。あいつと俺の間に佐倉さんがいる。

そうだ、この鍵だ。
あの時咄嗟に取った鍵。
どこの鍵か知らないけど、これを佐倉さんに託せば!
牧志 浩太
くそ、動け! この身体、動いてくれ! 動いてくれよ、あの時みたいに!

くそ、動け……!
牧志 浩太
叫んだ瞬間に身体が動いた。
駆け寄る。
しがみつく。
牧志 浩太
そうして最後の望みを託した。
ずっとできなかった、自分の思うように身体を動かすということが、その瞬間だけできた。
牧志 浩太
できたのは……、それだけだった。
身体の中からバチンと音がして、意識が闇に飲み込まれていった。
佐倉 光
くそ、俺は咄嗟にあいつに酷いことを……!
佐倉 光
思わずカードを握りつぶさんばかりに力を込める。
駄目だ。まだこれには使い途があるかも知れないんだ!
佐倉 光
鍵いつとったんだ。
KP
実は鍵を取ったタイミングがよく分からないので、フンワリしております。
抱き上げた時かな? と思っていたり。
佐倉 光
フムフム

佐倉 光
ログは、終わり?
KP
そこでログは終わっている……、いや。
終わったログの後ろに、新たな文字列が増えていく。
◆ 情報:『モニター表示』
『Actual erasure of data of each recording layer is performed by the optimum erasure condition
and the optimum sequence.
Start to dismantle.

最適消去条件と最適シーケンスにて、
各記録層のデータを本消去。
解体を開始します。』
KP
同時に、『浩太』を取り囲んでいたアームが一斉に駆動音を立て始める。
鋭い刃が、鋸が、機械的に、乱雑に、彼の腕や足に近づいていく。

一瞬で、理解できてしまう。
今から『浩太』が……、牧志が、壊されるころされるのだ、ということが。

SANチェック成功時減少 1D2失敗時減少 1D4》。
佐倉 光
1d100 65 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 49→成功
1d2 Sasa 1d2→
SAN 65 → 63
実は……空回り?
佐倉 光
これもう脳戻されてるんじゃ?
いやー、さすがに今までの流れでそれはないか。
これまたいいところで終わりそうっすね!
KP
実は治療のために一時的に牧志の脳を身体から移動していて、ちゃんと脳も戻してくれていて後は普通に人形を解体しているだけ、実は佐倉さん達が空回っているだけ…… だったりして?
佐倉 光
そんな可能性もあるよねって思ったけど、割とシナリオ全体通して悪意が演出されてるからないわね♪
あとそれだと「解除」の意味がなくなってしまう。
KP
あとじゃあそれならどうして「中身が牧志ということを黙っていたり」「抑制をかけたり」していたのかなっていう。
佐倉 光
サプラーイズ?
KP
誰かさんがやってきそうなサプライズだなあ。

佐倉 光
「しまっ……」
佐倉 光
狼狽えてる場合じゃねぇ! パネルを探す!
ここは、『実験室』!
壁沿いに視線を走らせ、それらしき物を探す!
KP
あなたは目の前の暴挙を止めるべく、パネルを探す。
5行動以内に
 ・〈目星〉で壁のパネルを探す(1行動)
 ・【DEX】×5で停止コードを打ち込む
以下の行動に成功する必要がある!
佐倉 光
1つめ!

1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 57→成功
KP
あなたはパネルを見つけた!
しかしパネルは背伸びしてようやく届くほどの位置にあり、正しく入力するには【DEX】×5成功する必要がある。
佐倉 光
くそっ、子供に優しくない!
番号は覚えている。102847だ!
1d100 60 【DEX】 Sasa 1d100→ 54→成功
佐倉 光
手をぎりぎりまで伸ばし、番号を打ち込む。
ミスをしないよう、慎重に、素早く!
KP
正しいコードを打ち込めば、ピッ、とパネルはひとつ音を立てた。
いまにも腕へと迫ろうとしていた白い機械の腕たちが、ピタリとその動きを止める。

そして、ガコンガコンという駆動音と共に、宙吊りになっていた体から機械が外れ、身体が床へと降ろされていく。

全てのものが機能を止め、最後に部屋を切り分けていたガラス質の壁が、バリアが剥がれるようにして消えていった。

そして『浩太』は、静かに床に横たわった。
佐倉 光
「牧志! 牧志ッ! 起きろ! 目を覚ませ!」
駆け寄って揺さぶる。
牧志 浩太
ぐったりとした重い体を抱き上げれば、彼は微かに目を開ける。

虚ろな眼と、何の感情も宿さない顔があなたと向き合った。
この状態から、一体どうすれば「牧志」を取り戻せるのだろうか。
佐倉 光
今の、今の牧志の感情……分かんねぇよ、こんな……
もし、今牧志に意識があれば。
意識があれば、何を考える?
佐倉 光
解除
はっきりと発音して、
佐倉 光
目の前に『喜び/幸福』のカードを出した。
KP
あなたはカードを見せる。本当の感情。機械の仮面に隠された、彼の心相を解き放つために。
牧志 浩太
何の色も宿していなかった眼に、最初、ぽつりと光が落ちた。
広がった瞳孔が死を巻き戻すかのように収縮し、続いて大きく瞬きをする。
牧志 浩太
「あ……、」
口元が歪む。今にも泣きそうな、涙を湛えた眼。
牧志 浩太
「あ、ああ、ああ、」
手が伸ばされる。温かい手が、あなたの背を強く抱きしめた。
牧志 浩太
「佐倉さん……!」
そうして彼は、確かに、あなたの名を呼んだ。
あの時あなたが見た、強い光を眼に湛えて。
あなたと再び出会えた喜びを、眼に湛えて。

あなたは確信するだろう。彼は牧志だ。
長い長い回り道の果てに、あなた達は再び出会ったのだ。
佐倉 光
後は体を取り戻せるかどうかなんだけど!
「KPCは死にます」って書かれてるのってそういう意味じゃないだろうな!?
ここにあの時みたいなスーパー改造マシーンないし、あの女戻してくれそうにないし! 
あ、あと腕輪。
KP
取られすぎてそろそろ腕に埋め込むべきかもしれない、と思ったら身体も取られちゃったっていう。
佐倉 光
「牧志!」
その体に顔を埋める。
駄目だ、こんなことしてる場合じゃない。
あの女がいつ気づくか知れない!
佐倉 光
「牧志!  ごめん、ああ良かっ……良かったぁぁ!」
ぼろぼろと涙をこぼして暖かい体にすがっていた。
牧志 浩太
「佐倉さん、……佐倉さん……!」
彼はあなたの背にすがり、眼を震わせて、わあわあと泣いた。
牧志 浩太
「気づかれないと思った、でも、でも佐倉さん、俺のこと置いていかないでいてくれて、よかった、……よかった……」

彼の身体は暖かくて大きかった。
その呼吸は無意味な空気の鞴の音に過ぎなかったが、それでも昨日のそれよりも、ずっと温かく感じられた。
佐倉 光
「いけ、ない、逃げないと、お前の、体も」
しゃくり上げながら何とか涙をおさえて立ち上がる。
佐倉 光
泣くのも喜ぶのも後にしないと、もう二度とできなくなるかも知れない!
佐倉 光
「はやく、逃げよう」
KP
そう言った時だった。
ゴウン、という何かの駆動音。

光が落ちていたモニターが一斉に点灯する。
動いていなかった機械のアームが、再び鎌首をもたげる。

あなたが止めたはずのシステムが、再起動しはじめていた。

再起動?
したとすれば、誰が?

その答えが、抱き合うあなた達の背後から聞こえてきた。
ぱち、ぱち、という、愉快そうな拍手の音。
KP
「解除まで終えてしまったペアはここが初めてだよ。
すごいね、君達」

扉の方から歩いてくるのは、心底愉快そうな声で笑う色國だった。
その表情から優しげな笑みはもはや落ち、口元を歪ませた笑みから感じ取れるのは嘲笑と悪意だけだった。
牧志 浩太
はっ、と顔を上げて牧志があなたを庇う。
佐倉 光
「てめぇ!」
この女は敵だ。
今やはっきりと感じ取っていた。

牧志の叫びを聞いてここまで来なければ、本物の牧志は殺され、肉体に詰められた何かと一緒に帰ることになっていただろう。

実験を優先する、どころじゃない。
実験のことしか考えていない。俺達はただの実験動物で、不要になったらばらばらにされる存在なんだ!
今までに俺達をいじくってきた連中と同じ。相手に人格も尊厳も認めないタイプのヤツだ!
佐倉 光
「牧志の体に何詰めやがった!」
KP
「ああ、あれ? ……どうかな、似てた?」
色國は楽しそうに笑った。
KP
「あれは牧志さんのデータを元に作った再現機械だよ。
名前を呼ぶのに随分拘ってたみたいだから、そこは特に頑張って似せてみたんだ!

ねえ、聞きたいな。
検体管理室に行ったんでしょう? 似てた? 本物の牧志さんだと思った?」
佐倉 光
「随分混乱したよ。紛らわしいから中身抜いて返してくれ」
牧志 浩太
「俺の体……、まさか、まさか。
俺の代わりに、身体だけ佐倉さんに連れて帰らせようとしてたのか。
俺に人形の振りをさせてたのも、そのせいか」
吹きつけられる強い悪意を感じ取って、牧志が怒りに肩を震わせた。
KP
「そのせい、だって?
それだけじゃないよ。
佐倉くんと君が何を選び、何を見つけ、どう動き、用意したどのゴールへ落ちるのか、全部貴重な観察結果だよ」
怖気のする目つきがあなた達を見た。
彼女の眼は、迷路の中の鼠を見る眼だった。
佐倉 光
ああそうかよ。やっぱり俺も観察対象だったわけだ。
本人目の前にして泣いたり悩んだり、さぞ面白かったろうな?
佐倉 光
「それじゃあ、俺達のゴールは決まってるよ。悪趣味な実験は終わりだ。俺達は帰る」
ポケットの中で拾った工具を握りしめる。
佐倉 光
「そこをどけ」
佐倉 光
この施設、警備ロボット的な物はないが、得体が知れない。
何が出てくるか分からない。
俺がまず飛び出して注意を引いて、牧志に……
ああ、COMPねぇんだよな。くそ。
KP
「帰るの? 残念」
色國は不思議そうに小首を傾げた。
KP
「ねえ、佐倉くん。
いいデータが取れてるんだ、そこの牧志さん置いていかない?
大丈夫、なにも殺しはしない。
私の助手として、可愛がってあげるよ。

ねえ牧志さん、残る気はない?
悪い話じゃないと思うな。君が残るなら壊さないでいてあげるし、その子も見逃してあげる」
佐倉 光
「それまさか交渉じゃねーよな? 俺達がそんなのに『ハイ』と言うなんて思ってないよな?」
身構える。
KP
「脅迫かな」
色國はにこりと笑った。
素早く手元のタブレットに何かを打ち込むと同時に、一歩下がる。

その瞬間、辺りに警告音が鳴り響き、部屋の壁が上へとスライドしながら開いていく。

壁の中には機械がいた。
剥き出しの鉄骨を不規則に繋げて、人形にしたような歪な存在。

それらにはみな、頭に頭脳の代わりに、四角い鉄のかたまりがくっついていた。
それらは機械音を響かせながら壁から床へ落下し、つぎつぎと着地して、四つ脚で走り、二つ脚で歩き、そっくり返って蜘蛛のように這ってくる。

色國とあなた達の間を、それらが阻む。
プログラムされた敵意は真っ直ぐに、あなた達へ向けられる。

SANチェック成功時減少 1D2失敗時減少 1D4》、1d2/1d4。
KP
1d3+2 相手の数 Sasa 1d3+2→ 2+2→合計4
四体の人形が迫ってくる。
佐倉 光
1d100 63 Sasa 1d100→ 7→成功
1d2 Sasa 1d2→2
SAN 63 → 61
牧志 浩太
1d100 20 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 57→失敗
1d4 Sasa 1d4→3
SAN 20 → 17
佐倉 光
牧志目茶苦茶減ってる!
KP
特殊処理で元の値によらず、初期SANが50固定なんですね、今回。
佐倉 光
ひょっとして覚えさせた度に減ってたな!
KP
その通り☆
失敗しても試みる度に減ります。
佐倉 光
酷い話だ。
振ってましたもんねー毎回!
KP
しかも《SANチェック》じゃなく固定でね。
牧志 浩太
「佐倉さん」
その異様に微かに冷や汗を浮かばせながら、牧志があなたに耳打ちをした。
牧志 浩太
「佐倉さん、俺の身体は機械だ。

あの時の感じから分かる。
この身体、外は人間そっくりだけど、中は何か硬いものでできてるみたいだ。

いつものあれほどには行かないけど、暫くは凌げると思う。
佐倉さん、その間にあいつらどうにかする方法を探せないか」
佐倉 光
「一応、一つはある。確実じゃねぇけどな」
その程度のセキュリティホールを放置している、なんてこと、普通はあり得ない。あり得ないが。
この施設の色々な迂闊さから想像するに、あり得ない、とも言い切れない!

これが駄目だったらまたパネルを試すしかねぇな。
牧志 浩太
「頼む」
牧志は眼に光を宿し、拳を握り込んで頷いた。
あのとき見た光はこの、彼の意志の光だったのだと、今なら確かに分かる。

佐倉 光
つまり最初に予想していたのと逆か。
佐倉の攻撃確率を上げると同時に牧志の正気度が下がっていたんだな。
これは面白い。
と、キメてみたもののある種特殊と言えるこのカードでもいいのかどうかは、謎ッ!
KP
大丈夫、合ってます。実はそういうこと!
ある程度上げていかないといけないけど、やり過ぎると牧志がぶっ壊れると。

KP
指示に従って動く人形は歪んだ手足を引きずって、じりじりと包囲を狭めてくる。
鉄の擦れ合う音が辺りに満ち、あなた達に模造の殺意を向けてくる。
KP
▼戦闘開始
敵は人形4体。
色國は人形の背後におり、人形を排除しなければ攻撃を届けることができそうにない。

人形の【DEX】は全員5。
牧志の【DEX】は通常通り8。

KP
【DEX】12:佐倉さん
佐倉 光
人形の一体に向かい、精一杯背伸びをして高さを合わせ、『平然/無表情』のカードを突きつける。
さあ、覚えろ!
佐倉 光
お前らが覚えられるならな!
KP
〈覚えさせる〉で判定!
佐倉 光
1d100 74 〈覚えさせる〉 Sasa 1d100→ 86→失敗
KP
人形の無機質な眼、いや、眼というには粗雑な、二枚しか羽のない絞りが入ったプラスチックの球。

それがカードの模様を認識する前に、他の人形が視線の前に被った!
あなたの低い背丈は有利に働くことも多いが、五体の人形が入り乱れる中でそうするには不利だ。
佐倉 光
くそ、認識されなかっただけなのか、意味がないのかわかんねぇよ!
どうせ俺には戦闘手段がない、もう少し試してみるか……!
色國の様子どうか見えるかな。
KP
色國は人形の後ろで、にこにこと笑いながら状況を見ている。

その余裕じみた様子は、自身に窮地が訪れないと確信しているかのようで不気味だ。
佐倉 光
くそ、このカードに意味がねぇってことか?
いや、あいつが気付いていないだけの可能性もある!
KP
早速ダイス目が悪いッッ!

KP
【DEX】8:牧志。
牧志 浩太
彼はあなたの前に躍り出て大きく脚を開き、両腕を合わせて顔を上げ、機械の眼で人形を睨みつける。
牧志 浩太
牧志は防御専念

この戦闘において、牧志が防御専念している限りあなたが攻撃されることはないが、牧志は攻撃及び他の行動を取れない。(〈回避〉は可能)

KP
【DEX】5:人形×4(A~D)
人形A・Bが牧志に〈切りつける〉、C・Dが〈殴りつける〉を行う。
1d100 25〈切る〉Sasa 1d100→ 50→失敗
1d100 25〈切る〉Sasa 1d100→ 90→失敗
KP
本来は工事用の大きな刃が、粗雑な動きで振るわれる。

ブン、と空気を切る音を立てて、刃は牧志の横を通り過ぎた。
人を凌駕する出力で振るわれる刃は、しかし動くものを切るほど細かい制御はままならないのだ。
KP
1d100 60 〈殴る〉 Sasa 1d100→ 25→成功
KP
1d100 35 牧志の〈回避〉 Sasa 1d100→ 100→致命的失敗ファンブル
KP
わお
ダメージ2倍だなぁ、これは。
佐倉 光
大丈夫かなぁ!?
KP
1d3+2 Sasa 1d3+2→ 1+2→合計3
牧志 浩太
「! し、まった……!」

あなたを庇いながら避けようとした彼は、足元の廃材を踏んで大きく脚を滑らせた。
人間と同じ形をした脛の細い所を、すかさず遠心力の利いた蜘蛛の脚が打ち据える。
HP 20 → 17
牧志 浩太
衝撃で皮が破れ、その中から筋繊維を模した銀色のワイヤーが覗き、ちぎれ飛んだ。
ぎしり、と鉄の軋む音が鳴る。

それは、目の前の人形と同じ機械だった。
彼の魂を宿した機械だ。
KP
1d100 60 〈殴る〉 Sasa 1d100→ 84→失敗
その機を狙おうと振るわれた人形の拳は、不自然な体勢で振るったために届かなかった。
KP
ラウンド終了。次ラウンド。

KP
【DEX】12:佐倉さん
佐倉 光
くそ、もう一回っ!
カードを一番近くにいる一体の正面に突きつける。
1d100 74 覚えさせる
Sasaさん不在であります。
佐倉 光 - 今日 19:06
CCB<=74 覚えさせる (1D100<=74) > 77 > 失敗
佐倉 光
うわぁぁんダイス目ぇぇ
KP
ダイス目ーーー!?
佐倉 光
あ、相手の油断をね! 油断を誘っているんですよ!!
まあほら75%って3連で失敗できるやつですし!
25%3回当てるってすごくない?
KP
もしかして……、効かないのだろうか?
あなたが望みを込めたセキュリティホールは、とうの昔に対策済みなのだろうか?

いや、手応えはあったように感じる。
一瞬、模様に視線が合いかけた。

KP
【DEX】8:牧志
牧志 浩太
「佐倉さん、落ち着いて。確実にやるんだ」
牧志は決意を秘めた眼で言って、前を向いた。
脛からワイヤーをはみ出させているが、痛みを感じてはいないようだ。

牧志は防御専念
佐倉 光
「くそ、分かったよ。これしかないようなもんだし」
カードを見つめる。
頼むぞ、おい。

KP
【DEX】5:人形×4

牧志の脛を壊した人形は、快哉を叫ぶことも殺意を口にのぼらせることもなく、ただ少しずつ包囲を狭めていく。
KP
1d100 25〈切りつける〉Sasa 1d100→ 40→失敗
1d100 25〈切りつける〉Sasa 1d100→ 28→失敗
1d100 60〈殴りつける〉Sasa 1d100→ 89→失敗
1d100 60〈殴りつける〉Sasa 1d100→ 71→失敗
KP
包囲を狭めたのが悪く働いたのか、人形は互いに拳がぶつかったり刃の先をぶつけたりして、意図するように動けない。
KP
ラウンド終了。次ラウンド。

KP
【DEX】12:佐倉さん
佐倉 光
三度目の正直!
カードを使用する!
1d100 74〈覚えさせる〉Sasa 1d100→ 72→成功
佐倉 光
たけーよ!
KP
人形のうち1体を機能停止させることができる。
A~Dのどれを対象にする?
佐倉 光
ではAから

佐倉 光
これで駄目なら別の手段を考えよう、と思いつつカードを掲げた。
KP
色のない人形の眼部が土台ごと動き、カードの模様に中心を合わせた。

直後、絞りが高速で開閉を始めた。眼球があらゆる方向に暴れ狂う。
口のない人形の、人間で言えば口があるだろう辺りの継ぎ目が、内側から破裂する。

人形は感情を理解しなかった。
感情を知るように造られていない肉体と脳で、カードの指令を再現しようとし、解釈に失敗して崩壊していく。

頭部から鉄の塊をはみ出させ、笑うように裂けた継ぎ目から舌のようにケーブルを垂らして、人形はがたりと沈黙した。
佐倉 光
「おっと」
想像以上の反応に驚いて一歩さがる。
佐倉 光
「よし、使えるな!」
これなら俺も、戦える!
牧志 浩太
牧志が前を向いたまま一瞬、一歩だけ下がり、横目であなたに向かってにっと笑った。

KP
【DEX】8:牧志。
牧志 浩太
牧志は前ラウンド同様、防御専念
牧志 浩太
牧志の背中はあなたを信じ、
ようやく互いに並び立てた喜びに満ちていた。
佐倉 光
そうだ。あとはいつも通りにやればいい。
心が落ち着いて行く。

KP
【DEX】:5 人形×3
KP
沈黙した仲間に動揺することもなく、機械は目の前のものを破壊するという指示のままに刃を、拳を、脚を振るう。

人形Bが〈切りつける〉
人形C・Dが〈殴りつける〉。対象はすべて牧志。
KP
1d100 25〈KILL〉Sasa 1d100→ 49→失敗
KP
工事用の大ぶりな刃は、不格好な人形には重い。
そもそも、その人形のための刃ではないのかもしれない。
KP
1d100 60〈殴りつける〉Sasa 1d100→ 23→成功
牧志 浩太
牧志は〈回避〉を行う。
1d100 35 〈回避〉 Sasa 1d100→ 20→成功
佐倉 光
いいぞ!

牧志 浩太
牧志は脚を踏ん張る。
今度は大きな動きではなく、最小限の動きによって歪な拳の重さを逸らそうと試みた。

彼の脇腹に拳がぶつかる。その瞬間に身を捻り、その衝撃を受け流すことに成功した。
KP
1d100 60〈殴りつける〉Sasa 1d100→ 87→失敗
KP
ラウンド終了。次ラウンド。

コメント By.佐倉 光
佐倉は遂に求めていたものを見つけ出す。

確信は持てたものの、ここからがあまりにも怖かった。
おいダイス目ェェ! 折角上手く立ち回れたのにここで潰しにくるなよぉぉぉ!

TRPGリプレイ【置】 CoC『もぞもぞいう』佐倉(子)&牧志 1

「何だこれ☺☺☺ちょっと面白すぎる☺☺☺」
「☺☺☺って何だよわっかんねぇだろ☺☺☺」

TRPGリプレイ【置】CoC【タイマン限2】収録シナリオ『Look,LOOK Everyone!』 佐倉&牧志 4(終)

「畜生、勝手に死んでんじゃねぇぞ!  畜生、畜生、畜生!」

TRPGリプレイ CoC『対の棲みか』『第一話 霧謬の見』春日&唐木 2

『スミレのお花なんだ! うん、綺麗!』
『スミレの花言葉は忍耐力だから……この状況の、ちょっとした癒しになってるといいな』

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」