こちらには
『レプリカの心相
のネタバレがあります。

佐倉 光(子)

サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。

とある事件で子供に戻り、そして元に戻れなくなってしまった。
記憶はそのままだが、子供としての感情や衝動に引きずられることがある。

牧志とは友人。


牧志 浩太

お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。

佐倉とは友人。子供になってしまった佐倉と奇妙な同居生活をしている。

最近突然謎のCOMPとカードを授かりデビルシフターとして覚醒した。


KP
※KPC は死にますが、しっかりと探索し考えることを推奨します。複数エンディングのシナリオです。
※KPの処理がややこしいため、レスポンスが遅くなる可能性があります。
KP
前回の二ヶ月後(不定の狂気治癒後)から開始します。

シナリオ外の成長を1回行って下さい。
牧志はその代わりに、不定治療の正気度 回復を2回行います。
牧志 浩太
1d100 一ヶ月目 Sasa 1d100→87
1d3 Sasa 1d3→2
1d100 二ヶ月目 Sasa 1d100→58
1d3 Sasa 1d3→3
SAN 59 → 64
佐倉 光
〈回避〉鍛えよう!
KP
OK!
佐倉 光
1d100 39 〈回避〉 Sasa 1d100→ 63→失敗
1d5 Sasa 1d5→5
ヨシ頑張った! 前回の経験からちょっと危機感覚えたな。
回避 39 → 44
KP
おおー!

KP
昨日から続く明日。
明日から続く明後日。

もうずっと味わっていなかった、一度も味わったことのなかった、普通の、きっと普通の日常。
そんな日々が、ずっと続くと思っていた。

そんな日々が、いとも容易く途切れてしまうことに、きっと気づいてなどいなかった。

これは、愛する人を<愛する日々を>造る二日間。


「レプリカの心相」
ずんだこ 様


開幕発狂
描写の後で発狂処理を行い、その結果に基づいたRPをしていますが、読みやすさのために並び替えています。
KP
SANチェック成功時減少 1D3+2失敗時減少 1D6+2》。
佐倉 光
1d100 59 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 58→成功
1d3+2 Sasa 1d3+2→ 3+2→合計5
佐倉 光
いきなり発狂。
KP
【アイデア】ロールをどうぞ。
ここでの一時的狂気表は短期です。
佐倉 光
1d100 85【アイデア】 Sasa 1d100→ 73→成功
1d10 内容 Sasa 1d10→1
KP
「気絶、あるいは金切声の発作」。
佐倉 光
1d10+4 期間 Sasa 1d10+4→ 10+4→合計14
KP
無理もない。
佐倉 光
金切り声だな……。

KP
どん。
あなたの目の前で、日常は終わった。

それは、息を吐く間もないほど突然で、まばたきの後にはもう、どうしようもないくらい「終わって」いた。

雨が、降りしきっていた。
冷たい雨が小さな身体を絶え間なく冷やして、震える手を温めてくれる手はなかった。

頭が痛む。
砕けたヘッドライトがチカチカと、夜の雨の中を瞬いて。
カメラがフラッシュを焚くように、耐えがたい景色が網膜に焼きついていく。

ほんの数秒前まで、あなたの手を引いていた指先が、
あなたに言葉を投げていた微笑みが、あなたの傍らにあった赤茶色の髪が、
あなたをやさしく眺めていた目が、

深い深い紅の底に沈んでいた。

それはどうしようもなく呆気ない、当たり前の、よくある、終焉おしまいだった。
佐倉 光
言葉にならなかった。
思考も何もなく、赤を見つめていた。
現実には思えず、音も赤以外の色もない。
目と口を開けっぱなして現実を流し込まれて、理解するよう迫られた。
酷い雑音だけが聞こえていた。

動かない。
起きない。
答えない。
瞳孔が開いている。
痛みを示さない。
震えがない。
音がしない。
鉄臭い。
冷たい。

よく知っている。
何度も見たことがあるものたちと共通している。
ここにあるのは破壊された肉体だ。
雑音は自分の声だった。
KP
幻灯が回るように、景色が移り変わる。

「子供が」
「保護者は」
「事故死だ」
「親類は」
「被害者が保護者だったのか? 親族は?」

サイレンや喧騒、誰かの叫び声。
周りの音の全てが、どこか遠く他人事なのに、
ただ自分の心音だけが頭の奥まで響いていた。

「児童相談所を」
「前後関係の確認は、保護の妥当性は?」
「待ってくれ、彼は僕の」
「すぐに一時保護を頼む、養護施設に連絡を」

 「すまない、僕は君を守りきれない」
佐倉 光
思考は千々に途切れた。
こんなの薬や魔法で何とかなるはずだった。
だから叫んだ。
悪魔使いの知識で喚いた。
間に合わなくなってしまう、早く悪魔を、魔法を、道返しのたまをと。
声が涸れるまで何度も喚んだと思う。
もう絶対に来てくれるはずがない、かつての仲魔マカミを。

そこにいたのは大人の佐倉光じゃなくて、身元不明の6歳児だった。
俺の中にすら、俺はいなかった。
泣きじゃくりながら波照間さんに助けを求めた。
しかし子供の俺の感情は爆発して、理性的な行動も思考もぶっ壊し、
『かわいそうな子供』は遺体から引き離されて、伸ばした手は仲間に届かなかった。
俺は助ける手段を知りすぎるほどに知っているのに、牧志を守れなかった。

優しい大人達に『保護』されて、何もかも封じられて、
全てを持て余した『俺』は思った。
酷い夢だな、と。
そんな言葉で混乱する子供おれを慰めた。
それしかできなかった。
KP
ああ、これはきっと夢だ。ただの悪夢だ、と。
そう祈るように、あなたは目を閉じた。

冷たい雨が、あなたを絶え間なく打っていた。
KP
誰かの手があなたの手を引いていた。
冷たい手だと思った。
冷えていたのはあなたの手だった。

かつての仲魔は来てくれなかった。
かつての仲間は来てくれなかった。
呪文はなんの力も持たなかった。

視界は深い深い紅に沈んで。
唯一あなたを知る青年なかまの手は、あなたの手を掴めなかった。
KP
そこにいるのはなんの力も持たない、白い部屋に閉じ込められた子供だった。
手を取って一緒に抜け出そうにも、もう彼はいなかった。

あなたにできるのは目を閉じて、相棒かれが助けに来てくれる夢を見ることだけだった。
いつかのように、きっと。

きっと。
KP
それがこれからずっともう、夢に過ぎないのだとわかっていながら。
佐倉 光
目を閉じる。そうして朝を待つ。
そしたらきっと、
「佐倉さん、学校に遅れるよ。寝坊なんて珍しいな」なんて声が聞こえて悪夢は終わる。

そんな朝があってもいい。
そんな朝が来て欲しい。

欺瞞だ。と無表情で見下ろす俺がいる。
現実を受け入れて今後を考えるべきだと訳知り顔で言う俺がいる。
幻に耽溺することをあいつが望むか? 冷静に考えろ。

うるさい黙れ。くそ食らえだ、薄情者。
いつ眠ったかは、覚えていない。
かわりはいない
KP
そういえば牧志sは牧志とは繋がりのない存在だから、もしも本編で牧志がロストしたら、佐倉さんの所には近しい記憶と姿を持った「牧志たち」だけが残されるんだなぁ……。 と思いました。かなしい。
佐倉 光
やめていただきたい。
子供佐倉の中にも片目牧志君は存在するんですよ!?
それでも誰にも代わりはできないんですよ。
KP
できないんですよ。
できないんだけど…………。
そうかぁ、片目牧志はこの姿を子供佐倉さんの中から見ているんだな。つらいな。

KP
「おはよう、佐倉くん」
ふっと、誰かの声で意識が浮き上がった。
あなたが望む声では、なかった。
佐倉 光
なんだ、夢の続き、か?
KP
「起こして、ごめんね。聞こえるかな。私の言葉は分かるかな」
どこか心配そうな穏やかな声は、布で包むように『子供』に接してきた『優しい大人』たちの声よりも、もう少しあなた個人に向けられているようだった。

聞き覚えのあるような、ないような若い女の声だ。
あなたはその声を拒んでもよいし、応えて目を開いてもよいだろう。
佐倉 光
随分久しぶりに名前を呼ばれた気がして、目を開いた。
相手は誰だ。
KP
目を開けば、そこは白い部屋だった。
先程までいた、使い古しの玩具や絵本が転がった部屋ではない。
病院の診察室か何かのような、もう少し無機質な部屋だ。

あなたが座っている一人用のソファと、それこそ診察室にあるようなデスク以外に家具はなく、窓も見当たらない。

そして、目の前には白衣を着た女がいた。
KP
「おはよう。よかった、話はできそうかな。
大丈夫、ゆっくりでいいよ」

あなたの名を呼んだのは、彼女であるらしい。
佐倉 光
「ここは、精神科か何か?」
ため息をついた。
多分知らない人だ。
いや、俺がおかしくなっている間にでも会ったのかも。
真っ白な部屋は甘い夢を打ち砕いて、記憶を否応もなく引っ張り出した。
佐倉 光
「俺は狂ってなんかいない。悪魔はいるし魔法もある。一刻も早く生き返らせないと、間に合わない……」
佐倉 光
「今、何日の、何時です?」
絶望の確認
佐倉 光
時間は具体的じゃなくていいです。「間に合わない」ってことだけ確認したら。
KP
お、ありがとうございます。はーい!
佐倉 光
泣いちゃう。
KP
泣いちゃう。実は冒頭のシーンでKPもう泣いちゃってた。

KP
彼女がやさしく告げた日付は、あなたに現実を突きつけた。

間に合わない。
それだけ経っていて、間に合うはずがなかった。

《リカーム》を、《道返しの玉》を、泉の女神への祈りをどれだけ重ねようが、川を渡ってしまっただろう魂を引き戻せるはずがなかった。
マカミの《リカーム》・《道返しの玉》・泉の女神への祈り……いずれも真・女神転生TRPGでならば断たれかけた生命を呼び戻す手段である。
しかしこれはCoCなので、これらの手段は当然使用不可。
佐倉 光
「……」
否応もなく理解する。
もはや『まっとうな』手段で戻ってこられる時間ではない。
そしてそれにあまり驚いていないことに驚いた。
俺は、この事でもう既に何度も絶望を味わっている。その度に否定して、忘れようとして
佐倉 光
牧志浩太はもう存在しない。
そして
KP
『プロジェクト・レプリカ』への参加、ありがとう。

私は色國天花いろくに あまかと言います。
君と、君の大事な人の担当をさせてもらう技師です。

よろしくね」
続いて、彼女は柔らかい調子のまま、そう告げた。
佐倉 光
「レプリカ……?」
複製?
佐倉 光
「……」
佐倉 光
「すみません、意味が良く分からないです」
分からないことにしたいです。
分からない。
佐倉 光
「僕、残念ながら記憶が定かじゃなくて。
あなたや、そのプロジェクト、について……
一度説明を受けたのかも知れないんですけど、もう一度、詳しくお願いできますか」
KP
「ええ、勿論」
あなたが絶望を思い出すのを待って、彼女は頷いた。
本編見る!
KP
「私は、クライン生命保険相互会社……、という会社の機械技師。
ここは、私達の研究施設。

生命を失った大切な人、恋人、家族、友人……、そういった人を、機械で再現する。
それが、プロジェクト・レプリカ。

死んでしまった大事な人に、また会いたい……、
そんな願いを叶えるために、生まれた研究なの。

あなたはその志願者として、ここに来てくれた」

彼女はあなたに視線を合わせ、記憶に訴えかけるように、あなたの眼を覗き込んだ。
佐倉 光
「機械。ロボット、ですか」
佐倉 光
俺がそれを望んだ?
俺がそんな物を望んだって?
佐倉 光
あいつはもういないから代わりを作ろうと思ったって?
佐倉 光
……
佐倉 光
違うな。いくらおかしくなってたとしても、そんな理由で了承はしない、と思う。
そこだけは俺は俺を信じてやってもいい。
それなりに考えた結果俺はここにいる。
……疑問だらけだが。
おいしっかりしろよ。
どんな説明受けて、何考えてた、こんな契約しちゃったらしい俺。
佐倉 光
「そっくりなロボットを作る、それだけの話なんですか?
そんな技術があるんですか?
人間の代わりになるようなソフトもハードも、僕の記憶ではまだないんですけど、どの程度のレベルで再現するものなんですか?」
KP
「そう」
彼女は静かに頷いた。
落ち着いた手つきで、手元の書類入れからクリアファイルをひとつ、取り出す。

そこには、確かにあなたの幼い字で、あなたの名が記されていた。
どこか呆然としたような、力のない字だった。
佐倉 光
人のレプリカなんて、簡単に作れるものだろうか?
外見を似せるのは……まあ、元になる『資料』があれば?
……深く考えるのはやめよう。気分が悪くなってくる。

大体ロボットじゃあ随分と勝手が違ってくるだろうし、成長も老化もしないんだ。まあ別物だよな。
それにしたって随分大変そうだけど。オーダーメイドで数週間から数ヶ月ってとこだろう?
佐倉 光
問題はソフトだ。どんなに優秀なAIでも人間とはほど遠い。
しかも既に存在する……した、人物の再現となると。
随分一緒にいて、あいつのことはよく知っているつもりではあるけど、これはあくまで俺が知っている牧志浩太だ。
あいつを知る人の記憶を統合して、あいつが残した記録から内面を類推してシミュレート……これもまたとんでもない時間がかかりそうだし、普通に考えてそれでも完璧とは言い難い。
何ヶ月も……下手すりゃ年単位じゃないか。
情報:テスト:プロジェクト・レプリカ契約書
・【牧志浩太】の『レプリカ』を作成し、二日間の試用期間の間、共に過ごし感情の育成を行う。

・完成度が不十分だと判断された場合、引き取る必要はない。また、『レプリカ』が不必要だと判断できる場合、および存在することで問題が発生する懸念がある場合は、弊社が対象を処理する。

・『レプリカ』製作後、上記契約は破棄できないものとする。
KP
「ごめんなさい、詳しい技術は話せないの。
会社の秘密のこともあるし、これからの二日間に、影響を及ぼしてしまうから」
佐倉 光
「……え? は?」
二度見した。
佐倉 光
「はぁ? 二日ぁ!?」
二日で、感情の育成?
何言ってるんだ。

再現じゃなくて育成。
記憶は?
そんなの再現以上に無理ゲーじゃないのか!?
佐倉 光
余程血迷ってたんだな、俺。
こんなのやってみる価値もないだろう。馬鹿げている。時間の無駄だ。ありえない。
オイディプスや黄泉平坂についてでも調べて、魔界に行く手段でも探した方がマシだ。そうして連れ戻すなり何なり……
佐倉 光
……魔界?
悪魔使いでもないお前がどうやって?
ただの身元不明のガキがどうやって?
Barとは縁が切れていることは、今までに何度も通って痛いほど思い知っている。
KP
幼く弱いあなたに、できることはなかった。
ここを一歩出てしまえば、あなたが一人でいることすら、一人で考えることすら、世界は許してくれないのだ。
佐倉 光
震える字の署名を見つめた。
『佐倉光』
KP
弱々しい文字を辿れば、じわりと頭が痛んだ。
一体どんな気持ちでこれを書いたのか、よく思い出せない。
佐倉 光
子供でしかない俺にできることは多くない。
かといって実家に戻ることもできない。あの人達が信じてくれるわけもない。
万一受け入れてくれたからって、『俺』を見てくれやしないさ。

俺は今や、自分のことすらままならない。
俺は牧志に頼りきりだった。
今の俺は牧志を必要としている。あらゆる意味で。
佐倉 光
俺は、エゴで牧志のコピーを。おそらくコピーなんて名ばかりのそれっぽい木偶人形を作ろうとしているんだ。
そしてその出来映えをたった2日で判断しろという。
なんてむちゃくちゃな話だ。
佐倉 光
……本当にそうなんだろうか?
俺は何を望んで、何をしようとしているんだ?
わからない。
佐倉 光
「俺が望む牧志浩太」を作らなきゃいけなくなっちゃうんだなぁ。
いつぞや、そんなのは望まない、と言ったが、はてさて。
KP
なっちゃうんですよねぇ。望まなくとも。
望むからですらなく、ただ頼るためだけに。ただ頼るためだけの牧志を。

しかも佐倉さん、賢いから言われずとも自分でそれが分かっちゃうという。つらいね。
佐倉 光
「いつから始められるんですか、これは」
KP
「レプリカはもう完成している。
あなたがよければ、今日から一日目に移らせてもらおうと思うの。

これからの話に、移ってもいいかな」

……それだけ眠っていたというのか。いや、呆然と過ごしていたのかもしれない。
あれだけ時間が経っているはずだ。
佐倉 光
「今日、から?」
見たい、と思ってしまった。
牧志にそっくりなロボット。違う。牧志の姿を見たいと、思ってしまった。

話くらい聞いてもいいだろう?
佐倉 光
「……はい」
KP
「ありがとう。

それでは、これからの話に移るね。
レプリカは初期状態では、一切感情を表現できないの。

だから、あなたが教えてあげてほしい。
嬉しいとは、悲しいとは、苦しいとはどういうことかを。
彼がいつ喜び、いつ悲しみ、いつ泣き、いつ笑うのかを」

彼女はそう言うと、デスクの引き出しから何かケースのようなものを取り出して手渡してきた。

それは片手に収まる大きさの長方形の箱で、中にはタロットにも似た六枚のカードが入っている。
全て別々の模様が描かれているようだ。
佐倉 光
「『表現できない』ということは、感情の動き……模倣かもしれないけど、持ち合わせてはいる、ということですか」
KP
『レプリカ』は、感情を「持っている」のか。
彼女はその問いに答えなかった。
佐倉 光
牧志を育てる。
既に感情を持っているなにかを、牧志が表現するように導け、ということだろうか?

絶えず疑問を持って考え続けることで、彼が隣にいないという事実、
そのことを欺瞞で覆い隠そうとしている事実から目を逸らす。
息を詰めた瞬間に、言葉にできない、なにか、喉に詰まるような、そのまま目から溢れていきそうな、どす黒くて重くて冷たいなにかがあると自覚する。
俺にもこんな感情が、あったんだな。
佐倉 光
「……これは?」
KP
「私は『ハートカード』と呼んでいる。
これは、レプリカに感情を指示するためのカードよ。

レプリカにこのカードを見せて、覚えるように指示すると、レプリカはカードに描かれている表情を浮かべる。
人間が見てもただの模様にしか見えないけど、レプリカにとっては視覚的信号になっているの」

そう言い、彼女は以下の内容を説明する。
情報:ハートカード
レプリカの感情を強制的に発現させるカード。

模様は非常に細かなマトリクス型 2 次元コードとなっており、
対象となるレプリカに見せ、指示を行うことで効果を発揮する。

カードは全六種あり、指示の方法によって感情発現の程度が変わる。
▼ハートカード種類
『喜び/幸福』
『悲しみ/絶望』
『痛み/苦痛』
『驚き/混乱』
『怒り/憎悪』
『平然/無表情』
▼注意事項

このカードは
「オルガンベース/レプリカ」にしか適正に効果を発揮しない。

サイバネティックス型は、カードを見せることでバグを引き起こし機能不全に陥る可能性があるため注意が必要となる。

また、当研究所外では使用できない。
KP
「ああ……、ごめんね。
もし、分からない言葉があったら聞いてね」
子供らしからぬあなたの言葉に引き込まれていたのか、彼女ははた、と喉に手を当てる。
佐倉 光
専門用語だらけで、分かるような分からないような、だな。
不穏な単語もあるし、分かったつもりになるのは危険だ。
佐倉 光
「QRコードやプログラムカードみたいなものかな。絵自体に意味はないんですか?
それから、オルガンベース/レプリカ、サイバネティックス型ってなんですか?
僕が育てるのはどっちなんですか?
見分ける方法はありますか?」
KP
「ええ、絵そのものに意味はないの。

ああ、オルガンベースね?
このプロジェクトのために作られたレプリカがそう。

サイバネティックス型は愛玩用や、雑務などをする量産型。
あまり違いは気にしなくていいよ」
佐倉 光
「量産できるほどの技術があるんですか。セベクかどこかかな。
どうでも、いいけど」
佐倉 光
セベクですよ。って言われたからってやめる気はないけどね。
佐倉 光
「指示の方法は、カードを見せて覚えるように言うだけ?
指示の方法で程度が変わるって、例えば声の大きさや動作、カードを見せる高さなどで表現するんですか?
それともレベル指定のコマンドでもあるのかな」

例えば牧志に「おはよう」を言って笑って欲しければ、言いながらカードを見せる?
そっくりのロボットに、だ。悪い冗談だな。
KP
「ええ、それだけで大丈夫。
声の大きさでもいいし、動作の大きさでも構わない」
ハートカードについての説明。
佐倉 光
「こんな六つで表現できるほど、簡単じゃないけど、な」
今の自分が抱えている感情がどれかも良く分からないっていうのに。
そうやって二日間……か。
あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、気晴らしになるだろうか。
泣きたいのか笑いたいのかも良く分からない。
KP
「他に、聞きたいことはある?」
あなたの感情を置いてきぼりに、彼女は微笑む。
佐倉 光
育てるって聞いていたのに、成長するのこっちなんだな。
KP
そういえばそうだ。>技能成長するのこっち
佐倉 光
サントラかき分けて明日の曲さがしてたら、「ゆめのすこしあと」にぶちあたっちゃった!!
これがレプリカのエンディングテーマになりませんように!!
KP
合ってしまって辛すぎる。
二人で帰ろうな……! 頑張れ佐倉さん!
『ゆめのすこしあと』……ゲーム『ブレス・オブ・ファイア4』のエンディングテーマ。目の前で喪われた誰かがもういないことをゆっくりと噛みしめて行くような歌。哀しい。兄さん……
佐倉 光
「対象を処理、って、壊すってことですか?」
佐倉 光
「僕が要らないと判断した場合、のところ」
KP
「ええ、そうよ。

レプリカは破棄。
試験データと部品は、こちらで有効に使わせてもらう」

彼女は当然のように頷いた。
だって要らないのだろう、とその眼が語っているかのようだった。
佐倉 光
既に出来上がっているんだったな。
ここで俺がNoといえば牧志の形の人形が捨てられるだけ。
俺が二日間牧志の想い出に浸った後でだって、きっと同じ事だ。
同じだ。
佐倉 光
「わかりました。進めてください」
KP
「よかった。
もし契約破棄なんて話になったら、大変だったから。

それに、今回のレプリカはかなりの自信作なの。
きっと、今までの牧志さん以上に頼れる存在になってくれるよ」
佐倉 光
「大変?」
KP
「そう。
レプリカの破棄もそうだけど、試験自体が中止になってしまうから」
佐倉 光
「……」
より完璧な存在を。俺が望む牧志を。
俺はそんなの欲しくない。
だけど必要なんだ。
……なんのために?
佐倉 光
「気持ち悪いな」
額に冷や汗が浮いている。
その先にあるものを見たくない。
KP
「気持ち悪いかな。
でも、うまく育てられれば、人間のように生きられるレプリカが出来れば……」

彼女はどこか歌うように、あなたがとうとう口にしなかったことを、あっさりと口にした。
KP
「君だって、今まで通り生きられる。

学校だって変わらなくていい。
参観日にだって来てくれる人がいる。
お友達とお別れしなくてもいい。
あのお家にだって住める。
一人の時間だって持てる」
KP
素敵でしょう、と示すような、柔らかい声で。
佐倉 光
「……僕はそんなことまで話しましたか」
佐倉 光
「それとも調べた?」
佐倉 光
「今まで通りの日なんて、戻ってこないよ。分かっている」
佐倉 光
「分かってるさ」
佐倉 光
「続けるためじゃないんだ」
絞り出すような声で呟いた。
佐倉 光
前に進むためだ。変化を得るためだ。
KP
彼女はにこやかに微笑んだまま、あなたの問いにも心の叫びにも、答えなかった。
KP
「それでは、対面しましょうか。
その前に一つ、気をつけてほしいことがあるの。

彼は物を食べることも、眠ることもできる。
元の彼とするように、普通に過ごしてくれればいい。

ただ、水には入れないで欲しいの。
まだ、彼の身体は試験段階のものだから。

大丈夫。
君が気に入ってくれたら、帰る頃には万全の肉体を用意するよ」
佐倉 光
「耐水はないと。
ああ、そうだ、二日間僕はここで生活することになると理解していますけど、あってますか?」
KP
「ええ、それで大丈夫。
色々用意してあるから、ゆっくり過ごしていってね」
佐倉 光
「あと……」
佐倉 光
「ロボットは自分が前のままの牧志浩太だと自認しているんですか?」
KP
そう問われ、彼女は緩やかに首を振った。
「いいえ。

初期設定として、あなたのことは少し入力してあるけど、彼は生まれたてよ。
あなたのことは大事な友達だと認識するようにはしてあるけど、あなたと彼は、初対面」
KP
「機械であっても、共有できない思い出を話されるのは辛いだろうから……、あまり、話さないようにしてあげてね?」
佐倉 光
「……わかりました」
それじゃあ尚更、何を目的としたレプリカなんだろう? 故人を再現して想い出に浸るためじゃないっていうなら。
俺は何のためにそんなことを望むんだろう。
KP
彼女は先導するように部屋の扉を開けた。
自然に、あなたの手を取ろうと手を伸ばす。
佐倉 光
手は取らずに扉をくぐる。

KP
部屋を出れば、白い廊下が見える。
広い施設のようだが、人の気配はない。

彼女は今し方いた部屋の鍵を閉めると、あなたを案内して歩いていく。
促されるまま進んでいくと「機体管理室」と書かれた部屋に到着した。

横開きの扉を抜け部屋の奥へと進んでいけば、様々な機械のアームがついた白い寝台が見えてくる。

……そこには、誰かが仰向けに横たわっていた。
佐倉 光
機体。そうするとそこに寝ているのは、ロボットだ。
悪趣味な、目的も良く分からない、俺の、本人にも正体が良く分かっていないエゴのために作られた……
その姿をよく見る。
いよいよ本編だ
佐倉 光
佐倉は色々言ってるけど、再現頑張る方向でやるつもりではいます。ただそれが正解かどうかやってみないと分かんないのがこわいな!
KP
再現してもいいし全然違う感じにしてもいいかもしれない。
佐倉 光
違う感じでもいいのぉ!?
「まきし」が風呂に入りたがったりすんのかな? 雨の中外出なんて事態にはならないかな? みたいな。
KP
二日間、どうやらここで暮らすようです。
全然違う感情を発現させることもできちゃうので。別にダメとは言ってない。

KP
そこには、牧志がいた。

機械の管に繋がれて、目を閉じ、口を閉じて、安らかに眠っていた。
簡素な服を着て、赤い痣の刻まれた胸は微かに上下していた。

髪はいつものように束ねられていた。
なにひとつ赤く染まってはいなかった。傷ついてはいなかった。

なにひとつ違わぬ相貌が生命の熱を宿した色で佇み、まるで彼は事故に遭ったが助かってここにいるのだとでも言うように、あなたに目の前の光景を知らしめていた。
佐倉 光
駆け寄って無事を確かめるべきだという感情と、
あれはこれから俺が育てるロボットに過ぎない、という情報が正面衝突を起こし、
結果、短い悲鳴を上げて凍り付いた。

眠っているだけだろう? 助かってそこにいるんだろう?
違う。精巧に作られたにせものだ。

だって火葬されたところを見たわけじゃない。奇跡的に息を吹き返したのかも知れない。
あいつは目の前で死んだんだ。

また記憶を失っただけだ。
これは彼の記憶も持たないつくりものだ。

話せば分かる。
話せば落胆する。

たっぷり10秒ほど、息を詰めてベッドを見つめていた。
そんな気がしていただけで、口からも目からもとめどなく感情を垂れ流していた。
何もかもが乖離していた。
佐倉 光
「牧志!」
気がつけば叫んでベッドに駆け寄っていた。顔を覗き込んで、肌に触れようとした。
人であることを、ロボットであることを確かめようとして。
佐倉 光
ただでさえ冷静でいられない状態なのに子供の制御きかなさまで入り込んでもうぐっちゃぐちゃだ。
KP
ぐっちゃぐちゃだぁ。つらいね……
子供佐倉さんな分の味わいまで追加されてる。
KP
触れればその肌は微かに温かく、あなたの知る体温を湛えていた。
目覚めの予感を宿して瞼が微かに動き、触れた皮膚は柔らかかった。
彼女はそんなあなた達の様子を見届けると、壁際にある奇妙な装置に近づいて、カタカタとパネルに何かを入力した。

途端、彼に繋がっていた管が金属音を響かせながら外れていく。
同時に、金属製のアームが伸びて、彼と管との接合部に開いた穴を、肌色の蓋で埋めはじめた。
佐倉 光
管が外れた部分に機械を見て息をのむ。
これが生きてはいないことを反芻する。
勘違いをしてはならない。
KP
カチリ、カチリ、とパズルのピースを埋めるように、彼が構成されていく。

ついには機械らしさなどかけらもない、牧志浩太その人がそこに完成した。
レプリカ
彼はあなたの声に応えてゆっくりと体を起こし、ついにはその瞼を開けた。

自分を見返す瞳は、見慣れた色を宿している。
見れば見るほどに牧志にしか見えないが、その表情は一切の感情を宿していなかった。
浩太
「おはよう。あなたは?」
KP
SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D3》。
佐倉 光
1d100 65 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 33→成功
SAN 65 → 64
佐倉 光
殴られたような衝撃を受けた。
色々なことを予想していたのに頭の中が真っ白になった。
佐倉 光
「あ、ああ、ええ、と」
佐倉 光
「俺、僕……僕は、佐倉光、だ」
レプリカ
「佐倉……、ああ、『佐倉さん』。俺の大事な友達。
俺は牧志浩太です。初めまして、よろしく」

“レプリカ”は彼の名を名乗りながら、彼と同じ顔で、同じ形の手をあなたに差し出した。
人そっくりな熱をもつ手なのに、その声にも、表情にもなにひとつ熱がなかった。

手を伸べる手つきだけが、彼によく似ていた。
佐倉 光
いっそ。
いっそどうして『大事な友達だ』という認識だけ入れたんだよ。
そこに根拠が何もないじゃないか。
初対面なのに友達って、なんなんだよ。
大事なのはどうしてなんだよ。

記憶が失われているだけ、じゃない。
本当にこの『牧志』はからっぽなんだ。

これから始まるのは、俺が求めて、一縷の望みをかけた最悪の茶番劇。
佐倉 光
「ああ……初めまして……よろしく、浩太」
手を差し伸べる。
こわい
佐倉 光
こういうの、作者さん的な正解を探さなきゃいけない奴なのかどうかがすっごい怖いのよね!!
「自分の命を犠牲にするのが正解、ほかはBAD」みたいなやつな!
とりあえずRPと探索を重視すればいいのは分かってるけども!
KP
あからさまなそういうの(普通考えておかしいけど物語的には正解)があるシナリオではないので、「諦めず常に動き続ける心が大事」くらいですね!!

レプリカを完全に無視してハートカードも使わず没交渉しちゃうと後で困るかも、くらい。
シナリオで示されたから従わなきゃ、はそんなに意識しなくて大丈夫です。
佐倉 光
了解ですありがとうございます!
とりあえずひたすら苦しい!! 
佐倉に自覚はないけど、中の人的に『佐倉はこうしようと思っている』という想定はあります!
KP
何を思っているんだろう! KP的には知るのが楽しみでもあるけどつらいね!!

佐倉 光
互いに無表情も、おかしいか。
『大事な友達に出会えた』なら、笑うべきだろう? 笑えよ。そうするべきだろう? 普通。普通。普通って何だよ。
牧志ならどうする? 牧志は関係ないだろう。

彼に右手を差し出して、『喜び/幸福』だと説明されたカードを左手に持ち、見下ろす。
ダメだな。笑えねぇよ俺は。

左の手で『喜び/幸福』のカードを控えめに見せた。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に失敗。
佐倉 光
控えめすぎたか。
レプリカ
冷たく凍っていた唇が、綻んだ。
引き上げられるように、口角が動く。

見上げれば、彼は……、泣いていた。
口角が半端に歪んでいた。目が微妙に細められ、笑おうとして途中で止まったそれは、いびつに泣いているように見えた。
佐倉 光
どきりとした。
佐倉 光
なんとなく、これでいい気もしたけど。
いや、俺の感情だ、これは。
浩太が泣くのはおかしい、よな。
KP
「うまく認識できなかったようね。もう少しはっきりと示してあげて」
色國があなたの傍らからそう言った。
佐倉 光
「笑って。挨拶は、笑ってした方が印象がいいから」
ひとつも笑えていない俺がそれを言うか。
カードを少し高く掲げる。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に失敗。
レプリカ
彼はぽつんと無表情に戻り、
レプリカ
もがくような怒りの表情を浮かべた。
レプリカ
そしてまた無表情に戻ると、
レプリカ
曖昧な泣き顔で止まった。
KP
「ごめんなさい、うまく行かないみたいね」
色國があなたの手からカードを取って、彼に示した。
レプリカ
途端に、彼の両眼がカードの模様に合わせられた。
いびつに止まっていた口角が上がり、まるで久しぶりに会ったような、見覚えのある笑みを浮かべる。

それは牧志浩太の笑い方だった。
あなたに会えて嬉しいと、そう語るような笑みだった。
KP
彼女は満足げにその様子を見届けて、あなたにカードを返す。
佐倉 光
俺のやり方が悪いのかな。
カードを受け取る。
佐倉 光
その笑顔を俺が呼び出したわけではないことに、一抹の寂しさと安堵をおぼえた。
そしてその人間らしい笑顔に、
佐倉 光
一瞬だけぎこちなく笑い返した。

似ているだけのものだとしても、その笑顔には想い出が詰まっていた。
KP
「じゃあ、そろそろ行こうか。
ここじゃ暮らしにくいでしょう?」
色國がそう言って、あなたの思い出に割り込んだ。
再び扉を開け、白い廊下を進む。
浩太
「浩太」の唇から笑みが消えた。
彼女の後に続く彼の、意思を感じない眼はただ前を向く。

あなたに手を伸ばすことも、行こうかと声をかけることもなく。

冷たい沈黙が、互いの間に落ちた。
佐倉 光
小さなため息をついて想い出のしっぽを振り払う。
大事な存在を呼び戻すための儀式と割り切っていたとしても、なかなかに、グロいな。
佐倉 光
表情のない横顔を見上げてぼんやりと考えた。
初対面の気まずさ、に似ていなくもないと思えば少しは救われるだろうか?

カードを広げて見下ろしながら二人の後を追う。
俺の見せ方が良くなかったのかな。視界に入るだけじゃだめなのか。視認できて、しっかり読み取れる角度。レジでバーコード読み取るリーダーみたいなものだろう。真正面から突きつけるべきか。なかなかにシュールだ。
佐倉 光
おかしくなって喉の奥で笑う。
佐倉 光
『平然/無表情』のカードは何のためにあるんだろうな。デフォルトが無表情なのに。教え間違えたときのリセット用かな……。

KP
彼女はある部屋の前で足を止め、ポケットから鍵を取り出して扉を開ける。
カチャリと開いた扉の向こうにあったのは幸い、あなた達の部屋には似ていない空間だった。
KP
「ここが、あなた達のお部屋よ」
扉の先には、モダンなデザインのリビングルームが広がっていた。

左右に扉があり、奥にはキッチンが備えられている。
窓の向こうには雨が降っており、曇天に沈んだ中庭には、人工的に作られた池が見えている。

部屋の壁には大型のテレビが設置され、正面に革張りのソファが配置されていた。
部屋の中程にある階段は中二階につながっているようで、寝室や着替えのあるクローゼットはそこにあると彼女は言った。
佐倉 光
池。
KP
yes池。
佐倉 光
「……すげ」
思わず呟いていた。
佐倉 光
「僕、この件でいくらお支払いしたんでしょう」
コストについての話何も出なかったよな。契約済みらしいけどさ。
KP
「お金のことは心配しないで。
私達の研究に協力してもらっているんだから」
その一瞬だけ彼女の微笑みが慈悲深く見えた、かもしれない。
佐倉 光
「そうですか。……ありがとうございます」
俺はエゴのために、彼女らは研究のために、利害が一致したってことだろう。
もしかしたら憐憫などもあったのかもしれないが。
KP
「ここには本や映画、娯楽用品もあるわ。
それを使って、彼の感情を育ててあげてね」
浩太
彼は何の感慨も驚きも見せない様子で、あなたの傍らに佇んでいた。
佐倉 光
要は等身大の人形でおままごとをするわけだよ。
うまくできれば覚えてくれる。そういうことだ。

で、時間は2日しかない。
このカードはこの研究所でしか使えないと説明にあった。そうすると、この2日間でできる限りの経験をさせて、それに合った感情を引き出す必要がある。
過ぎると新たな状況に対する感情を教えることはできなくなる、と思っておくべきだろう。
挨拶を泣きながらする、なんておかしな事になるワケだ。
佐倉 光
うまくできればクリア、ロボットは人間の振りをして俺が安定するまでのアシストをしてくれるかも。
うまくできなければ……ロボットも俺も積むってわけ。
佐倉 光
しかも死んだ友人のロボットを使ったゲームだ。
無理ゲーが過ぎる。
佐倉 光
「……よし。
基礎的な行動に関する記憶なんかはありますか。日常生活に……」
言いかけて、はたと考える。
時間がないのだ。
話しかけるならロボット……浩太にすべきだ。
KP
あなたが言葉を止めたのに気づいて、彼女は微笑んだ。

「何かわからないことや、困ったことなどがあったら、そこのブザーを鳴らしてね。
すぐに対応するから」
示された室内の壁には、確かに赤いボタンが一つある。

説明を終えた彼女は、あなたに向き直る。

「それでは、ごゆっくり。
どうか、二人の時間を楽しんで」

そう言って彼女は扉を閉めると、静かに部屋を出ていった。
佐倉 光
彼女には軽く会釈をする。
彼女の意図はどうあれ、俺のエゴに応えてくれているんだ。
佐倉 光
「浩太、まずこの部屋について見て回ろう。2日ここで過ごすんだしな……」
佐倉 光
「お互いのためにうまくやろうぜ」
まずは扉の向こうを見に行って、この部屋の構造と使えるものを把握する。
浩太
「はい、佐倉さん。部屋の中を見て回りましょう」
浩太は表情のない顔のまま頷いて、あなたの横に立つ。

ふと、唐突に、あなたの手を取るように手を伸ばした。
佐倉 光
身を震わせた。
自発行動?
佐倉 光
いや。きっと、さっきの女性の模倣だ。
彼女の行動を真似しているにすぎない。

それでも、その手を取った。
牧志はいつも手を繋ごうとしてくれた。
それは最初は否応もなくで、そのうち彼のためになり、俺達二人のためになった。
佐倉 光
「ああ、まずこっちの扉を開けて、施設を確認しよう」
浩太
その手を取れば、あなたの小さな手をやさしく押さえるように指が曲げられ、あなたの手を包み込んだ。

覚えのある彼の手つきだった。あなたの手を、離すまいとする彼の手つきだ。
佐倉 光
鼻の奥がツンとした。
顔をうつむけて胡散臭い感情の高まりを誤魔化す。
佐倉 光
右から扉を開けます。

KP
右の扉を開けると、そこは細い廊下になっていた。
少し行った反対側にも扉がある。

雨の音が少し近くなる。外に続いているのだろうか?
佐倉 光
「水濡れ厳禁だったよな……
こっち外かも知れない。俺だけで見るから、浩太は外に出ないでくれ」
扉を開けてみる。
浩太
浩太は無言で頷いて、足を止める。
KP
扉を開ければ、視界を大粒の雨が覆った。
どうやら、随分な大雨が降っている。

ぼうぼうと冷たい雨の音が、あなたと外界を分かつ。
しっとりと濡れて色を濃くした芝生が、扉の外に広がっていた。

さきほど見えた中庭に、この扉は繋がっているようだ。
雨が止んだら、散歩などすれば気持ちがいいだろうと思わせる、よく整えられた芝生だ。
佐倉 光
案の定。こっちはダメだな、池なんかもあったし。
それにしても大雨だ。
KP
〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 87→成功
KP
中庭から、ガラス張りになった向かい側の壁が目に入る。

どうやら、その施設は円形をしているように見えた。
この部屋と中庭を、ぐるりと取り巻いているのではないか。
あちら側の施設は、3階程の高さがありそうだ。

ここは過ごしよい空間でありながら、冷淡に見下ろされる檻だ。
その檻の中、あなたはひとり立っている。
KP
【アイデア】で判定。
佐倉 光
1d100 85【アイデア】 Sasa 1d100→ 41→成功
KP
辺りがやけに冷たく思える理由に、ふと気づいた。

向こうに見える建物の中に、明かりがなく、人影もないのだ。
大きな施設に見えるが、人はいないのだろうか。
佐倉 光
「見張られているのか、また実験動物か、と思ったら人はいないのかな。
いや、こんな精巧なロボットに凄い設備なんだし、遠隔で見ているんだろう、きっと。
しかしあれだけの大規模な施設が無人というのも考えづらいけど」
佐倉 光
「この辺を調べるのは後にしよう。
『浩太』はここを通ったら不具合出るだろうし、俺達には時間がないんだ。
後で雨がやむかも知れないし、そうしたら外に出てみるのも……」
佐倉 光
廊下を戻りながら無意識に声に出していたのに気付いた。
牧志に、共有するためだ。
浩太
あなたの言葉に、応える声はなかった。
「浩太」は近くへ寄ってくることも、彼の意見を返すことも、あなたと共に状況を整理してくれることもなかった。
佐倉 光
「……戻ろう、浩太。あっちのほうも見てみよう」
元の部屋に戻り、左側の扉の向こうを覗く。
浩太
「はい」
彼は頷いてそちらを向いた。
KP
扉を閉じれば雨の音が少し遠ざかり、室内にまるですべてが夢のような、穏やかでさみしい雰囲気が戻った。

KP
左の扉を開ければ、そこは簡素な浴室とトイレになっていた。
脱衣所と風呂場、トイレはそれぞれ別で、脱衣所兼洗面所にはタオルや着替え、歯磨き粉など必要な物が用意されている。

脱衣所に置かれた時計が目に入る。
今は昼過ぎのようだ。
佐倉 光
生活環境が中央に集まってるわけだ。
右が中庭、左が手洗いやトイレ。中二階は寝室やクローゼットだったかな。

佐倉 光
それじゃまず、真ん中の部屋(リビング)ですることを探そうかな。
中央一階には何があるだろう。キッチンにテレビにソファ。
リビングにはほかに目に止まるものはあるかな。

……メモ帳的なものとペンなどはあるだろうか。
KP
リビングルームを見渡せば、真っ先に目に入るのは二人がけのソファの傍らに広がる大窓だ。

2メートル以上は高さのある窓の向こうに、雨に曇るなだらかな人工の丘と池が見えた。
その向こうに、先程の建物。

部屋の壁にかけられたテレビの下にはブルーレイディスクの再生機があり、傍らの棚には様々な映画と、ゲーム機がいくつか収められている。

反対側に置かれた本棚には、様々なジャンルの本が詰まっていた。
文学から、ライトノベル、新書、雑誌、画集、絵本、そして暗号パズルの本……。

他にも、飛び出し式の仕掛け絵本、トランプやボードゲームなどもある。
KP
本棚の傍らに置かれたミニテーブルの上に、メモ帳とボールペンがあった。
佐倉 光
なんとなくメモ帳を拾ってぱらぱらめくり、何も書いていないようなら牧志……
浩太にボールペンと一緒に渡そう。
どの程度同じかは分からないけれど、自己だの感情だの確立させるのに必要とするかも知れない。
佐倉 光
「必要なら使うといいよ。文字の書き方は分かる?」
まずは本棚をざっと見てみよう。
浩太
「はい」
メモ帳には何も書かれていなかった。
浩太はペンを受け取って頷くが、何かを書くような様子はない。
KP
本棚を見れば、あなたが知っているような本も含め、実に様々な本があった。

機械の本や、暗号パズルの本もある。料理の本はキッチンで役に立つだろうか。
さすがに月刊アヤカシはないが、子供向けの本も大人向けの本もある。
本当に雑多に集めた、という印象だ。

それは一緒に入っている飛び出し絵本や、ボードゲームもそうだった。
あなたと牧志がよく遊んでいた、パズル対戦ゲームもある。
KP
情報、という意味で言うのなら、そこにあるのは一般的な本ばかりだった。
この研究所について書かれた本はなく、ロボットに関わるような本もない。

雑多な本の中にそのジャンルだけないのは、試験対象には不要ということなのか、先入観を与えないためなのか。
佐倉 光
「字は読めるかな。興味のある本はある?」
佐倉 光
「というか……そうだな、浩太はどの程度のことを知っているんだろう」
例えば知識レベルなどだ。
絵本を楽しむレベルか? 超高度なパズルを楽しめるレベルか?
そもそも「楽しい」ってことも教えなきゃいけないんだから、まずは理解できるか、か。
いやそもそもロボットなんだし論理系パズルなんて楽勝だよな。
教えなきゃいけないのは感情だ。知識じゃない。

しかし本から受け取る感情なんてそれこそ人それぞれだよなぁ。
人に決めつけられるようなものじゃない。

パズル……問題に立ち向かって、解いたら嬉しいし、解けなかったら苛つく、哀しむ、悔しがる……あたりは大体の人間に共通するだろうか。
論理系じゃないクイズの本があればいくつか問題を出してみよう。
浩太
クイズを出されれば、浩太は淡々と答える。
その返答からして二十一歳の日本人の青年が知っていることは、大体知っていそうだ。

知識レベルで言えば、あなたが知る牧志のそれに近いようでもある。
浩太
「はい、日本語が読めます。
興味ですか。あなたが気になるものなら、何でも」
佐倉 光
「俺の興味に同調してどうする……まあ、いいや」
俺のために作られたロボットだ。不思議はない、な。
佐倉 光
「まずは分かりやすいヤツを……」
映画にギャグのやつとかあるかな。ソフトを探ってみよう。
牧志が見る度ツボにはまってたヤツとか。
KP
かつて牧志が笑い転げてうっかり呼吸困難になりかけたアホ映画は、棚の中に静かに佇んでいた。

牧志は一度ツボに入ると、笑いが笑いを呼んで止まらなくなってしまう。
ブルーレイのジャケットを見るだけで、爆笑してのたうち回りながらあなたに助けを求める、牧志の満面の笑みが思い浮かんでくるようだった。
佐倉 光
この映画に対する反応は知っている。
……いや大体のヤツは笑えるだろう。俺も笑っちゃうくらいだし。
正直笑いたい気分ではなかったが、そのディスクをプレイヤーに入れた。
それがどんなものかなどと説明は一切せずに、
佐倉 光
「こっちに座ってくれ。まずちょっと見てほしいものがあるんだ」
ソファに腰掛けて横に誘う。
浩太
「はい」
彼は淡々と、あなたの傍らに腰かけた。
プレイヤーに呑まれていくディスクを目で追う。
佐倉 光
深呼吸してからディスクを再生する。
KP
ディスクが再生されると、もう何度も見た、だというのに毎回笑いを誘う展開が大型テレビの中に広がる。

不意を打って笑わせに来る。
突然落として笑わせに来る。
暫く静寂が来たかと思えば、その静寂がまた変に笑ってしまう。
浩太
……浩太は、かたりとも表情を動かしていなかった。
たまに瞬きをするだけの開いた眼に、流れていく映像がただ映っていた。

彼の眼に映る映像の色は、冷たい灰色の雑踏と全く変わらなかった。
佐倉 光
気が合うじゃん。俺も笑う気にはなれねぇよ。
あんなに面白かったギャグが、映像が、空虚に見えて仕方ねぇよ。
お前の顔見てるとむしろ泣けてくる。

ヤケクソ気味に『驚き/混乱』『喜び/幸福』のカードを突きつけた。
ここは牧志が息もできないくらい笑ってたとこだよ。笑えよ。なあ。面白いだろ。
KP
ハートカードを2枚使用するなら、2回判定してください。1回ごとに技能成長あり。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
「……ぷっ」
不意に、彼は笑みを漏らした。
それが呼び水となって、火がついたように笑いだす。
浩太
「え、ちょ、止まらない、これ止まらない」
がくがくと痙攣する腹を抱えながら、ぼろぼろと涙をこぼして笑い始める。
浩太
「むり、むりむり、佐倉さんたすけてたすけて」
溢れ出してくる笑いを止めようとのたうち回りながら、彼はあなたに助けを求めるように手を伸ばした。
佐倉 光
「面白い?」
反応がまんまいつもの牧志で戸惑った。
佐倉 光
釣られてこちらも笑顔になってしまう。
俺、楽しいのかな。
浩太
彼は息を切らせて笑い転げていて、面白いか、というあなたの言葉に応える余裕もないように見えた。
佐倉 光
止める、か。
なんとなく『悲しみ/絶望』のカードを見せてみる。
KP
〈覚えさせる〉なら、〈覚えさせる〉で判定。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
その模様が目に入るや否や、笑い転げていた彼の表情が陰った。

「悲しい」
彼はぽつりと呟いた。
身を起こすと、先程まで笑い転げていた映像を見てぼろぼろと涙をこぼし始める。

痛ましそうに顔を歪めて泣く姿は、泣き虫な牧志が安堵して、悲しくて、辛くて、痛くて泣く時の表情そっくりなのに、目の前の映像とはまったく似合っていなかった。
佐倉 光
「うん……そうか」
それは、そうだな。
感じているんじゃなくて感じさせられているんだ。
いや、正確には違う、んだっただろうか?

吊られてか、相手が命令に従っているに過ぎないのだという事実に冷めたか、気分が落ち込んでしまったので、映画を途中で止める。
別のにしよう。どんなのがある?
KP
映画は他にも色々とある。ドキュメンタリー、ドラマ、日常もの、バトル映画、アニメ、ファンタジー、オカルト……。
佐倉 光
怒りや痛みってなにげに難しいな。
オカルト系ホラー動画出そう。
牧志ってこういうのへの耐性どうだったかな……弱そうに思えて意外と強いんだよな。
佐倉 光
いや、牧志は……関係ねぇか。
KP
流れた映画は、湖の傍の一軒家で穏やかに暮らす家族を、湖の底から蘇ってきた死者が襲う話だった。

湖の底に揺らめく巨大な怪異と、胸に大穴を開けて藻にまみれながら家族へと手を伸ばすおぞましい死者の姿を、あなたはどこかで見たことがあるような気がした。
浩太
ふとあなたは手にぬくもりを感じた。
浩太は無表情のまま、あなたを守るように、離すまいとするように、あなたの手を握っていた。
画面の中では湖のすぐ傍で、父親が子供を守ろうとしていた。
佐倉 光
「……」
手を握り返す。
あの時も。あの時も。
体が小さくなって非力になった俺を、あいつは守ろうとして
佐倉 光
はっ、と息を呑む。これは自発行動?
……いや、模倣。模倣、だよな?
こういう時の牧志は怒りを原動力にしていた。
これは、正しい感情だろうか。

少し控えめに『怒り/憎悪』のカードを抜き出して、見せる。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に失敗。
KP
その模様に示された怒りを、彼が拒んだような気がしたのは、きっと気のせいだったのだろう。
浩太
彼は無表情のまま、開いた眼に映像をうつし、ただあなたの手を離すことはなかった。
佐倉 光
それ以上はカードを出すこともなく、映画を眺めていた。
握られた手の感覚が暖かくて、それでいいような気がした。
ハッピーエンドなら『喜び/幸福』のカード、バッドエンドなら『悲しみ/絶望』『驚き/混乱』のカードを出すのもアリかなとは思うけど。
KP
手を繋ぐ親子のシルエットを最後に、映画は静かに終わる。
彼らは深い傷を負ったが、辛うじて生き残り、湖の傍らを去って新しい生活を始めるのだという、そんな終わり方だった。
佐倉 光
親子が二人とも生き残って心底ほっとした。
子供は……ともかく。親父は死にそうで随分ハラハラしたから。

コメント By.佐倉 光
牧志が死んだ。
子供の佐倉は、牧志がいないと彼自身ではいられなくなってしまう。

「牧志のレプリカ」を作る。
何を望んでそんなことをするのかも分からないまま、佐倉は手を伸ばす。

TRPGリプレイ【置】CoC『Hazy Night』 佐倉&牧志(塔) 2

「甘えたになる+キス魔になる。すごい組み合わせが出たぞ。」
「牧志さん!?」

TRPGリプレイ CoC『静寂舞手』佐倉&牧志 4

「やだ。なんでこう、得体の知れない物を飲み食いしなきゃいけないんだ」

TRPGリプレイ【置】CoC『blood red decadence』Side:B 牧志&佐倉 6

早く終わってくれ、早く、朝を。
もっと味わいたい、もっと、夜を。

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


真・女神転生 TRPG 魔都東京20XX 第一部『魔都・渋谷異聞』 1

今、この地に一つの変化が訪れようとしていた。混沌の街に、それを知らせる鶏鳴が響く―――

TRPGリプレイ CoC『VOID』継続『靴下が履けない』結城&ヴィキ(終)

『うん。ちょっと横断歩道渡れなくて困ってるお婆さんと、気分悪そうにしてるおじいさんと、風船取れなくて困ってる子がいて』
『……イベント起きすぎじゃない?』

TRPGリプレイ CoC『インモラル・イミテーション』佐倉(子)&牧志 1

「不安ではあるけど……なんか、こう……」
「こう?」
「ワクワクしない?」