こちらには
『PYX』
のネタバレがあります。
本編見る!
KP
あなたは、ふっと目を覚ます。
そこは微かに南の海の気配が漂う、山の斜面に張りつくように作られた朽ちた都市の中だった。

急峻な斜面の裾は大きな湖に続くようだった。
そこは、かつて優美で荘厳であった、そして何かが失われたあとの場所であるという空虚さを漂わせていた。

ひび割れた柱や摩耗した壁の合間に歩道が伸び、緩やかに渦を巻くようにして湖の周りへ続いている。
あなたはどうやら歩道の上に立ち、壁の窓から外を覗いているようだった。
佐倉 光
墓だと書いてあったから、廃墟なのか。
前に地下でも廃墟を見たな。

牧志は一緒にいるだろうか?
あとは所持品の確認かな。
牧志 浩太
(墓っていうか……、遺跡だな?)
牧志は横に立っていた。
牧志 浩太
(意識してなかったのに、一度服を着ると裸じゃ落ち着かないな)
着ていたマントや夢の外で着ていた衣装は消えてしまっており、素裸に戻ってしまっている。
結晶体だったころ、彼の身体を包んでいたフワモコもない。
佐倉 光
「そうか、じゃあ何か着るもの出そう」
マントとローブでも出そうか。
KP
その代わり幸いなことに、背中でもがいていた口も消えており、背中は静かなものだ。
背嚢の中のワインボトルや手紙、本は変わらず存在している。
また、仮面は背嚢の中に入ったままになっている。

あなたの足には空飛ぶ靴がある。
佐倉 光
「おっ、あの口消えた。スッキリしたー!」
確かめるように背に手を回して触れる。
KP
背に手を回しても、そこにねっとりとした唇の感触が触れることはない。
佐倉 光
「靴がまだあるのか。移動が楽でいいな」
牧志 浩太
(お、よかった。
靴って、出したっていう空飛ぶ靴?)
佐倉 光
「ああ、結構スピードも高度も出るんだ」
KP
何となく、あなたはこの場所に見覚えがあるような気がした。
佐倉 光
「……?」
なんとなく周囲を見回して首を傾げる。
ともあれ夢見だ。
KP
普通のマントとローブ一式なら4MP。追加のMPを消費すれば、デザインを凝るなどできる
牧志 浩太
(いいな、あの時の靴か。
掴まったら一緒に俺も飛べるかな?

……?)
首を傾げた様子に、牧志も不思議そうにする。
佐倉 光
「牧志、欲しいデザインあるか?」

とくに希望がなければシンプルなのを。
1d100 81 Sasa 1d100→ 26→成功
佐倉 光
あ、MP12だ。回復しますか?
KP
MPはさっき目覚めた時に回復してますよー
牧志 浩太
(ああ、特に思いつかないし、佐倉さんのセンスでよろしく)
佐倉 光
いつものジャケットやパンツに似たカラーリングのマントと服出そう。MPいくつかな。
KP
なるほど。それなら+1MPで合計5MP
佐倉 光
MP 100 → 95
牧志 浩太
(おっ、この色俺の服だ!
ありがとう、なんだか安心するな)
牧志は喜んでそれを着る。
腕以外を動かせないので、頭に引っかかったりして着づらそうだったが、手を貸してやればすんなりと服は身体を覆う。
牧志 浩太
(何かあった?)
佐倉 光
「いや……なんだろうな、見覚えが」
牧志 浩太
(見覚え? 前に来たんだっけ?)
牧志は不思議そうに回って辺りを見回す。
佐倉 光
「来た……かな? 名前に聞き覚えがねーんだけどな」
人間の記憶にひっかかるものはあるかな?
なければ〈神話〉知識かな。
KP
前回来たのではなさそうだが、何となく覚えがあると感じる。

[ティルヒア]についての一般知識なら、〈神話〉知識41%または99%どちらかで判定。

また、そうしていると……、〈聞き耳〉で判定。
佐倉 光
1d100 41 〈神話〉 Sasa 1d100→ 6→成功
1d100 79〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 29→成功
牧志 浩太
1d100 99 牧志の〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 35→成功
KP
あなたはその名を、恐らくはあの本で見たことがある。

それはドリームランド南部の島にある巨大な遺跡で、この島の最初の入植地の痕跡だという。

かつてヤス=リという名の強欲なる女王が統治していたが、何らかの理由によって今は滅びてしまった。

噂はその地下にある巨大な墓所の事を囁く。
墓所はその全域が複雑極まりない迷宮となっており、生半可な覚悟で踏み入る盗掘者を確実な死へと導くだろう。

しかし、もしもその迷宮を突破したならば、彼女がその生涯に残した、莫大なる財宝が手に入るだろうと。
佐倉 光
今までに「判定成功」には結びつかなかったけどあっちこっちで断片的に得てきた神話知識が役に立ちまくる……!
KP
そうそう、以前に「本を読んでいるということは周辺の情報も目にしているということ」って話を頂いたのがヒントになってます
「なんでこんなこと知ってるんだ?」の理由になってとてもいい
KP
そして二人とも気づく。
歩道の先の湖のほとりで、舌で水を舐めるような、小さな水音がする。
佐倉 光
「今は地下ダンジョンと来たか」
牧志に思い出したことを説明する。
牧志 浩太
(ダンジョン探索?
財宝の噂がある地下墓地なんて、ゲームみたいになってきたな。
夢っぽいといえば、そうだけど……、)
佐倉 光
「今までのパターンだと、その奥を目指すことになんのかなぁ?」
佐倉 光
「ん? なんか聞こえた?」
牧志 浩太
(あ、ほら。あれ)
湖のほとりを牧志の腕が指す。
よく見れば、そこで一匹の茶色い猫が湖の水を舐めていた。
佐倉 光
「あ、猫? ケット・シー……とは別猫かな?」
牧志 浩太
(みたいだ。あいつは黒猫だったし)
牧志 浩太
(腕が使えると意思疎通の手段が増えるな)
佐倉 光
「そうだな、やっぱ人間的な意思疎通、落ち着くよ」
牧志 浩太
(ああ。感覚も戻っていくような気がする)
佐倉 光
「ズーラでも猫に助けられたし、ちょっと気になるな。
行ってみよう」
牧志 浩太
(だな)
佐倉 光
ズーラでのことは多分、一時間の休憩の時に簡単に説明したかな。
そのときに牧志の方のも訊いとこうと思ってたんだけど、宣言するの忘れてた。
KP
なるほど、聞いたことにしてもいい。
牧志 浩太
牧志はあそこであなた同様に幻を見せられ、死の街を彷徨っていたらしい。

もうないはずの家や街、いないはずのシローや東浪見の姿を見せられ、かと思えば彼らが崩れていくのを見せつけられた。

あなたの姿を見つけて駆け寄れば、あなたも崩れて蠢く肉になるのを見せられ、途中で幻と気づいたものの打ち破ることができず、もがき続けていたらしい。

そうしていると突然幻が晴れ、扉の向こうにあなたの気配がした。
扉を開ける手段がないので体当たりした……、そうだ。
佐倉 光
「マジで意味分からんな。
懐柔したいなら嫌な物見せる意味がねーし。
最後に口説かれたところ見ると、別に感情乱すのが目的じゃなかったような……」
佐倉 光
「いやー、最後のあれまでフェイクって可能性の方が高いかー。
遊ばれてたんだろうな」
牧志 浩太
(嫌すぎる)
牧志は溜息を漏らした。
佐倉 光
猫に近づく。
KP
「何、あんたら?」
猫はあなた達が近づいてくるのに気づくと、ひょいと顔を上げた。
当然のように人間の言葉で話しかけてくる。
佐倉 光
もういちいち驚いていられないな。
猫って多分こういうものなんだ。
佐倉 光
「やあ。こんにちは。
この辺で赤い服の女見なかったかな。
でなければ、このあたりの支配者の居場所が知りたいんだけど」
探しものがぼんやりしすぎてる。
KP
「ふうん、あんた探し物してるんだ」
猫は素っ気なくあちらを向きながら、ちらりとこちらを横目で見て言う。
KP
「あんた、ここのお姫様のこと知ってるの?」
佐倉 光
「いいや。けど多分会いに行かなきゃならないの、その女(ひと)なんだ。
どこにいるか知ってる?」
KP
「この街の地下がお姫様のお墓になってるんだって。
きっと、その真ん中じゃない?

あたし入ったことはないけど、入り口なら分かるよ。この前見つけたんだ。
一緒に来るかい?」
猫は髭をぴんと立て、得意げに言う。
佐倉 光
「そうか、頼むよ」
猫に頼む。
KP
「いいよ、それじゃあ暫くよろしくね。
あたし、ガレ。あんたらは?」

猫は話しながら、あなた達を先導するように歩きだす。
佐倉 光
「俺は佐倉。こっちは牧志。よろしくな」
ガレについてゆく。
牧志 浩太
(牧志だよ。よろしくな)

体が動かない代わりに、牧志は手でぺこりとお辞儀のジェスチャーをした。
佐倉 光
「地下って入ったことある?
どんな所か知ってるか?」
KP
「ふうん、よろしくね、サクラ、マキシ。
あたしまだ入ったことないよ、これから入ろうと思ってたんだ。

知ってる?
この街ぜーんぶ、お姫様のものだったんだよ。
あの湖にも、お姫様の名前がついてるんだ」

猫はするりと朽ちた都市の間を抜け、大きな歩道から逸れて、尻尾を振りながら右へ左へ狭い街路を抜けていく。
佐倉 光
「へー。冒険家か」
佐倉 光
「お姫様? 女王じゃなくて?」
KP
「お姫様と女王って違うのかい?」
猫はいまいち理解していないようだ。
佐倉 光
一応恐ろしい噂聞いてるし、自分に装甲かけとこか……
装甲値 消費MP1d4 消費正気度 Sasa 1d4→3
あ、MPは10消費でー
MP 95 → 85
正気度 低下がひどくなければ猫にもかけようと思ってたけど、そこそこ削られたなぁ。
10d6 Sasa 10d6→4,4,1,3,4,4,5,6,6,4→合計41
SAN 40 → 37
なにげに正気度不定一歩手前なんですが。
KP
おっと、本当だ。目覚めたところで不定リセットしてください。
以後、覚醒の世界で目覚めた所で不定基準値をリセットとします。
佐倉 光
はーい
40リセットで、32まで平気になった。

KP
おっと、するりと尻尾を振り、あなた達が入れない隙間を通ろうとしてしまう。
猫はあなた達がそこを通れない事に気づいていない。
佐倉 光
「ちょっと待ってくれ、俺達はそこを通れないよ」
別ルートからで行けそうかな。
KP
「ああ、ごめんごめん。猫じゃないって不便なんだね」
猫はするすると戻り、別のルートを探してくれる。
そのルートに、あなたは何となく覚えがあると感じる。
佐倉 光
ん? 覚えがあるって何だろう。
KP
あなたはこの街に来たことがないはずなのに、こうやって前にもここを地下へと歩いた気がする。

〈クトゥルフ神話〉技能 99%+【アイデア】の組み合わせロール
正気度 を1点減らし、【アイデア】の技能値で判定)に成功することで、その心当たりに思いつくことができる。
正気度 が減るので、判定するかどうかは任意である)
佐倉 光
折角だからやっとこうか!
佐倉 光
SAN 37 → 36
1d100 99 クトゥルフ Sasa 1d100→ 46→成功
1d100 85【アイデア】 Sasa 1d100→ 83→成功
佐倉 光
あぶない
KP
あっ、「正気度 を1点減らし、【アイデア】の技能値で判定」なので振るのは1回ですね。
最初の方を採用として、成功しているのでOKです。
佐倉 光
はーい

KP
右へ左へ、上へ下へと枝分かれする街路を歩きながら、ふと思い出す。

そうだ、ここには来た事がある。
ずっと前のこと、まだこの街が華やかなる時のことだ。
街路を歩いて……いや、あなたは大きなルビーの中で、支配者の略奪軍に捧げ持たれて凱旋していたのだ。

その時あなたは全ての吸血鬼の上位なるものであり、光を飛ぶものと呼ばれていた。
都市ティルヒアの残忍で強欲なる支配者ヤス=リは、権力者の最後の欲望……、永遠の生命、そして力に興味を持ち、あなたと契約して吸血鬼となった。

そして彼女はあなたの指示に従い、秘密の地下の墓地へと自らを封じ、休息についた。
佐倉 光
ああ、そんなこともあったな。懐かしい。
あの頃はこの都も華やかだった。

ヤス=リ。そうだな、力を分け与えたのだった、思い出した……
そうするとまだここにいるのだろう。
ここにいるようにと命じたのだから。
KP
……そこまで思い出したとき、牧志が、
牧志 浩太
(佐倉さん?)
KP
と、不安そうにあなたの名を呼んだ。
KP
そうだ、それは本当にあなただったか?
『あなた』の一つではある、しかし、あなたではないはずだ。
だというのに、あなたはそれを「自分の記憶」として思い出そうとしていた。
KP
……あなたは神に呑まれかけている。
それを、自覚する。

SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1D3》。
佐倉 光
「……」
名を呼ばれた瞬間、その記憶と自己の間に境界が引かれた。
これは、俺じゃない。
佐倉 光
「……サンキュー、牧志。俺、何か変だったか」
1d100 36 SAN Sasa 1d100→ 27→成功
牧志 浩太
(ああ……、笑ってたんだよ、佐倉さん。
虚ろな笑い方だった。佐倉さんじゃないみたいな目をしてた)
牧志は不安そうに呟いて、確かめるようにあなたの肩に触れる。
佐倉 光
「この都市がまだ生きていたときのことを思いだした。
全ての吸血鬼の上位にあるものがこの都市にやって来たことがある。
ここの女王に力を与えて、吸血鬼にした。
そして、地下墓地で眠るように命じたんだ。
間違いなく地下墓地にそいつはいるよ。なにしろ命じたのは『俺』なんだ」
牧志 浩太
(そいつに会え……、っていうのか)
表情こそ変わらないが、牧志の声が引き締まる。
佐倉 光
「多分ね。
今までのヤツから言って、そいつ本人か、そいつの所にいる誰かないしは何かと接触しなきゃならないんじゃないかと思う」
佐倉 光
「指示がぼんやりしすぎていてよくわかんねーけどな。
このへんウロウロしながら牧志に変化があるかどうか気をつけとくしかないな」
佐倉 光
「たまに、自分が分からなくなる。
人間の佐倉が知らない、経験していないはずのことを、自分のこととして思い出すんだ」
佐倉 光
「また変だと思えたら声をかけてくれ。
今はまだそれで、おかしいと気づけるみたいだから」
牧志 浩太
(分かった。
変だと思ったら、絶対に声をかける。
また前みたいにはぐれないように、手でも結んでおくか?)
佐倉 光
「……うーん。牧志回ってるしな」
ちょっと無理じゃないかな。
牧志 浩太
(……そういえばそうだった……)

回っているのはやっぱり無意識の行動なのか、意識の外へ行っていたらしい。
佐倉 光
前回、自分が希薄になって他人の記憶でわけがわからなくなっていたのは牧志だったな。
シナリオとは全然関係ない要素だったのに、同じ方が書いた同じ舞台のシナリオで、
似たような状況になっているのがちょっと面白い。
KP
ああー、確かに。
今度は立場が逆になってる。他人の記憶がちょっと有害なやつだけども。面白い。

KP
猫が歩みを止めた。
もう、街の随分奥まで来ている。

がれきに埋もれかけたそこは、天井の広い大きな部屋の残骸だった。
一段高くなった場所の壁際に、暗く細い、静まり返った通路が開いている。

中は黴くさく、真っ暗だ。
猫は平気な顔で入ろうとするが、何らかの灯りを用意しなければ、壁に頭をぶつける事だろう。

辺りに何か残っていないか探してみてもいいし、別の手段を取ってもいい。
何か探してくれと猫に頼むこともできるだろう。
佐倉 光
「ああ、ちょっと待ってくれ」
ここはお手軽に、
『明かり』と『地図』を作成するところじゃないか?
自分の記憶があるなら、地図を作るイメージもできやすいだろう。
KP
なるほど。
「ティルヒアの地図」は価値が高いが、何せ来たことのある場所だ。
「記憶を書き出す」に過ぎないので、10MPでよい。

明かりは、持ちやすいランタンならば3MP
頭や首に固定できる物を望むならば7MP
佐倉 光
じゃあ折角だから固定できるやつで!
1d100 81 ティルヒアの地図 Sasa 1d100→ 39→成功
1d100 81 明かり Sasa 1d100→ 40→成功
良かった。またファンブるかと。
17MP消費。
MP 85 → 68

牧志 浩太
(えっ、すごい。地図だ)
KP
あなたの手元には、大きな一枚の地図が現れていた。
薄くしなやかな紙を折ってあり、携帯しやすい。
その上には、通った覚えのあるルートがはっきりと刻まれている。

ちょうどヘッドランプのような革の頭輪が、頭に僅かな圧迫感をもたらした。
それは薄赤い光を前方に投げかけ、あなた達の視界を確保する。
熱さはなく、どうやら火ではないようだ。
牧志 浩太
(ヘッドランプなんて出るんだな。
あれ? この中に入ってるの、宝石だ。それが光ってる)
佐倉 光
「おっ。なかなかいい感じだな。便利そうだ」
牧志 浩太
(だな、これなら両手も空けられそうだ)
佐倉 光
猫に地図を見せる。
佐倉 光
「ガレ、俺達はさっき言ったとおり、その姫さんの墓所を目指している。
道はこれに描いてあるとおりの筈だ。
ここに向かうだけで良ければ一緒に行こう」
KP
猫は地図のにおいをふんふんと嗅ぐ。
「へえ、あんた道がわかるの?
すごいね、入ったことあるの?」
佐倉 光
「入ったのは俺じゃないけどね、知っているんだ」
俺じゃない、を意図的に強調する。
牧志 浩太
(そう、佐倉さんじゃない)
佐倉 光
では中に入ろうか。
KP
「ふうん?」
猫は不思議そうに髭を振り、あなたがそれ以上話さないと見て取ると、大した興味はなさそうに前を向く。
KP
狭く薄暗い通路は幾つもに枝分かれしている。
その様子は不規則で、野放図に穴を掘ったようでありながら、道を分かりづらくするために意図的にそうなっていることを、あなたは知っている。

ふっと脇に現れる、殆ど見えないような小道が正しい道だったりもする。
牧志はふっと間違えそうになるが、あなたは困難もなく正しい道を選べる。
佐倉 光
「性格の悪いダンジョンだなー。
覚えてて良かったぜ……あいつが」
あいつ、を意識的に強調して、注意深く、道を間違えないように確認しながら迷宮を進む。
牧志 浩太
(本当にな。
あいつが覚えててくれてよかったよ)
牧志は意識的にあなたの言葉に返しながら、はぐれないようにあなたの横をついていく。
ドリームランド
佐倉 光
この作者さんドリームランド好きなんだなぁ(なんか見た)
KP
お?
佐倉 光
ヤス=リってだれ?? と思ってかるくググってみたんだけど、ほぼこの方が書いたシナリオとコラムにしか名前が出てこない。
それ繋がりで作者さんが書いたブログ記事? 読んだんですよ。
いや、私が単に間違えてるだけかな?
KP
ヤス=リ クトゥルフ で検索すると他にも一応出てきますね。
お約束のダンジョンハックがやれそうな舞台なのに、意外と言及少ないんだなぁ。意外。
佐倉 光
ファンボだった
そういうのをクトゥルフに求める人がそう多くないんでしょうね、というかそもそもドリームランド本編だって知らない人も多そう。
KP
それはありそう。
ラヴクラフトの時代ならさておき、いまファンタジーやれるルールって他にも色々ありますからね。
個人的には絶妙に悍ましいあたりが面白い舞台だと思うんだけど、確かにドリームランド完結のシナリオなんかはあんまりやったことがないなぁ。
佐倉 光
大手を振って異世界パロっぽいのできるのにな?
KP
そうそれ。
大手を振って現代日本PCが突然異世界に迷い込めるぞ!
佐倉 光
前回の「スマホがなんか透明な板に化けちゃった」みたいな下りとか楽しいと思うんですよね。
KP
そうそう、あの下りやっててすごく楽しかった。
持ち物考えるのがいちいち楽しい。
佐倉 光
ファンタジーやりたきゃソドワでもやればいいじゃんと言われればそれはそうなんだけど。
KP
ファンタジーで、でも絶妙に悍ましくて夢幻的なあたりがいい舞台だと思うんですけどね。
夢の果てならきみは正しいは、まさにドリームランドのそういうところを味わえるお話だった。
佐倉 光
あの話はひたすら牧志がにゅるにゅるしてたのが一番面白かったけど、
そういえばおぞまし遊園地じみていたなぁ、あのシナリオ。
KP
にゅるにゅる牧志との旅は楽しかったですねぇ。
にゅるにゅるもそうだし持ち物変化や夢見で出る物も風景もそうだし、描写するのがいちいち楽しい話だった。
人魚が出たと思ったらあんなんだったりしましたしね。
シーンの移り変わりが速くて「夢」の趣が強いお話ではあったけど。

KP
やがて、しっかりと石で固められた、荘厳な通路に出た。
通路の威容が盗掘者を圧倒するように作られたそれに、あなたはやはり見覚えがある。

およそ3メートルほどの高さの壁には、上までびっしりと、神秘めいた文字の碑文が書かれている。

あなたはその碑文を読むことができる。
ありきたりな内容だ。
うんざりする程に様々な表現で、ヤス=リの強欲な残酷さを誇示する記録がびっしりと綴られている。
佐倉 光
バカバカしくも回りくどい。言葉の無駄遣いだ。
本質は一つであろうに。言いたいことを美辞麗句でぼかす愚かしさ。

口元が嗤いの形にねじ曲がりかけた。
牧志 浩太
(佐倉さん。地下墓地に出たみたいだな)
そのくだらなさに口元が歪みかけた時、牧志が確かめるようにあなたの名を呼ぶ。
佐倉 光
「……ああ。
ああ。そうだな、牧志。
ここに書いてあるのは墓の主がどんな奴かってことだよ。
どんなに強欲で、残酷な奴かって」
佐倉 光
「また面倒そうな……分かりやすくていいかもしれないけど」
人間の部分がうんざりとため息をついた。
牧志 浩太
(また変な女の人と関わることになるわけか。
今度はさっき以上に深く話したくなさそうなタイプだな)
牧志は人間のあなたの溜息に、あえて少し軽い口調を作って乗っかった。
佐倉 光
「まあ、さっきのもそうだったけど、必ずしも相手の言うこと聞かなきゃならないわけじゃないのが救いだな」
佐倉 光
「何が条件なんだかな。時間か。ただ訪れるだけでいいのか。まだ良く分からない」
通路に罠のようなものがないなら堂々と進む。
KP
通路に罠はあるが、あなたなら避けることは容易だ。
牧志は浮いているのでその大半に引っかからないし、猫は意識もせずにひょいひょいと避けていく。
佐倉 光
「そういやガレはここに何か目的があって入ったわけじゃないのか?」
KP
「あたしね、お姫様がどんな人だったのか気になってるんだ。
ゴーヨク? でザンコク? なんだっけ?」
佐倉 光
「何でも自分の物にしたがるヤツだったな。
最後には権力者のお約束で永遠の命を欲しがったんだ。
んで、お……あいつと契約して吸血鬼になった」
佐倉 光
「せっかく長い命を貰っても、それからずっと寝てるんじゃなぁ」
佐倉 光
「そういやさっき会ったズーラの女も楽しい夢を見ようって言ってたな。
もしかしたら寝たまま楽しくやってるって可能性もあるけど」
KP
「何でも自分の物にしちゃうのかぁ、コレクター? なんだね?
じゃあ、今は好きな物に囲まれて寝てるのかな?」
牧志 浩太
(何だかイメージしてる物が違うような)
佐倉 光
「この通路に書かれているのも、ここの主がどんなに凄いかってことだし、まあ、そうなのかもな。
たどり着けばそこには財宝がある、なんて話もあるしさ」
KP
そんな話をしていると、碑文の一つが目に留まった。
「ヤス=リの長き睡眠を乱す者は、まず自身の罪を告白せよ」と書かれている。
おっと、これが内側への入り口のスイッチだ。
佐倉 光
「罪の告白ぅ?」
罪。何に対する罪だろう。
佐倉 光
「うーん。人間基準で言えば殺人は罪じゃね? カンドリとか牧志瓶に詰めたヤツとか殺した……のは罪か」
吽ノ間 ネタバレ
佐倉 光
先日罪の告白とともに大事な物吐き出させられてましたよね牧志さんたら……
KP
大事なもの吐き出させられてたのがPYXルートのそもそもの発端でしたねぇ。
佐倉 光
これもまた、変な縁だなぁ。
KP
佐倉さんのみ、【アイデア】で判定。
佐倉 光
1d100 85【アイデア】 Sasa 1d100→ 8→成功
KP
【アイデア】ロールの結果はもうちょっと後で出ます。
牧志 浩太
(罪……、そういえば、変な夢を見たよう、な……。
そうだ、夢の中で罪を告白しろって言われて、
それから、そうだ、どうなったんだっけ……)
佐倉 光
「夢?」
牧志 浩太
(ああ。目が覚めたら懺悔部屋みたいな所にいて、そこで誰かに罪を告白しろ、って言われたんだ。
そうしたら、楽になるからって。

それで、確か……、そうだ、吐き出したんだ。
赦されたような気がして楽になった。楽になって、……それで……)
KP
あなたは不意に……、思い出した。
そうだ。あなたが目の前の男を唆したのだ。
あなたの生贄を唆して、『人間』を吐き出させた。

そうして目の前の男はちゃあんと脱皮した。

あれはまあまあ愉快だった。
そのあと起きたことも含めて。
佐倉 光
「ああ、最初にちゃんと警告してやったのに、笑えるくらいあっさり吐いてたな。
そんなに辛かったのかよ、あの程度のこと。
その後も面白かったなぁ、お前に殺されるなんて、想像もしていなかったんだぜ、あの……」
佐倉 光
つるつると滑り出ていた言葉が舌に引っかかった。
俺は、いつの、何の話をしている?
殺されたのは、牧志に齎される死を予想もしていなかった迂闊な奴は、誰だ?
牧志 浩太
(そ……、そうだ。吐いちゃいけなかったはずなのに、いけなかったのに、吐いて、許されるようなことじゃなかったのに、勝手に……、許されて……、

そう、だ……、ああなったのは、俺のはずだったんだ。
なのに、どうして、佐倉さんが……、)
牧志 浩太
牧志は、すべての始まりを思い出そうとしていた。
あなたはそれを思い出させるままに嘲笑うこともできるし、はっと我に返ることもできる。
佐倉 光
藻掻いて足掻いて、牧志の手を取った。
思い出させちゃいけない。知らせちゃいけない。
せっかく消し去ったのに、折角
佐倉 光
「全部俺のだからさ」

消したんだ。最高のタイミングで暴露するために。
佐倉 光
収拾がつかなくなる!
KP
収拾はつかないけど面白いのでこのまま進めちゃう。
牧志 浩太
(あ、ああ……、そうだ……)
表情のない眼の中に切子状の光が煌めいた。
光は記憶を巻き込んで、彼の中に封じられていた記憶を押し開く。
牧志 浩太
(俺が、俺が吐いて、俺がああなって、
佐倉さんが、俺の代わりに背負ってくれたんだ。

……全部、俺の因縁だった)

牧志は呆然と呟いた。
あなたの手を握り返そうとした手が震えて、力なくひとりで拳を握った。
佐倉 光
「あぁぁあ!? 違う! 違う!! 俺が、負うべきだった印だった。
ずっと牧志を狙っていたから、都合が」
佐倉 光
「負った時はあれしかなかった! 俺が死んだから、違う、それもお前のせいじゃなくて」
佐倉 光
頭の中で言葉が荒れ狂う。
誰が悪い、などといったことで片付けられるものではないのに、人間程度の行動でどうにかなるようなものではなかったのに、『自分が上手くやれば何とかできていた』などという傲慢から生じる罪の意識、などという、あまりにも矮小でくだらないものに翻弄されている様が滑稽で、『俺』は笑い転げていた。
佐倉 光
「俺の罪は、愚かだったことだ。
悪魔と話せることに自惚れて、まんまとひっかけられて牧志に刻印を刻ませたことが、俺の、罪だ」
牧志 浩太
(違う!)
牧志はその一瞬、躊躇いを忘れた。思い切ってあなたの手を掴む。
牧志 浩太
(違う、佐倉さんのせいじゃない。
佐倉さんはあの時俺を助けてくれた。俺を助けて、代わりに囚われようとしてくれた。でもそうしてたら、佐倉さんはここにいなかった。
佐倉さんがあの契約に応じたから、二人ともここにいるんだ)
牧志 浩太
(あれは絶対に、佐倉さんの罪なんかじゃ、ない)
牧志はあなたの手を強く掴む。腕を起点に角度を調整し、真っ直ぐにあなたの目を見て訴えた。
佐倉 光
めちゃくちゃ熱いシーンなんだけど、牧志さん腕以外柱状なんだよな……!
KP
あ、しまった顔上げられないや、修正修正。
元の文章では牧志の顔が動いていました。

佐倉は牧志から神の契約を奪い取ったことなどを思い出す。
佐倉 光
透明で動かない顔のなかに、牧志の強い意思を込めた視線を見た気がした。
牧志の声が鼓膜を震わせた気がした。
佐倉 光
「……牧志」
『俺』が嘲笑っている。この状況が面白いのは俺じゃない。
佐倉 光
「ああ、こんなこと、してる場合じゃなかった」
牧志 浩太
(そうだな……、こんな話してる場合じゃ、ないよな)
牧志はそっとあなたの手を握り、離す。
佐倉 光
「後で話すよ……」
牧志 浩太
(後で、話そう。こんな所出てから、ちゃんと。
こんな所でどっちが悪いなんて言いあったって、きっと『あいつ』の思う壺だ)
KP
互いの罪をぶちまけて、吐いて、開いて。
それでも碑文は静かに沈黙していた。

……あなたは思い出す。
そういえばこの碑文、スイッチだった。

内容とか関係ない。単純に押せばいいのだ。
KP
猫はフニャアと欠伸をした。
KP
【アイデア】ロールの情報は「単純に押せばいい」でした。
佐倉 光
「ところで告白大会したけど……」
よくよく、冷静になって思い出してみる。
佐倉 光
「あぁぁぁ、こんなくだらないのに引っかかって」
敗北感のなか、スイッチを押す。
牧志 浩太
(え)
唖然。
牧志 浩太
(関係なかったのか、文章……)
佐倉 光
「完全におちょくられてるな」
牧志 浩太
(性格も『あいつ』と似てるんだろうなって気がした。深く話したくないな)
KP
碑文を押すと、ごとりと重い音を立てて壁の一部が外れた。
壁の向こうには暗い空間があり、その先にまた壁がある。

そこには、真鍮でできたT字型のレバーがあった。
手前に引くタイプのもので、簡単に引けそうだ。

確か、このレバーを引けば、墓所への扉が開かれるはずだ。
佐倉 光
今度は忘れていることはないだろうな?
よくよく思い出してみてからレバーを引く。
KP
この調子と今までの罠を考えると、ここに何か仕掛けそうな気がしたが、
あなたの記憶に罠の存在はない。

KP
レバーを引くと、重くうやうやしい音を立てながら、奥の壁がゆっくりとスライドした。
その向こうには、円形の空間がある。

円形の空間には七つの棺が、壁に立てかける形で立てて置かれていた。
棺の前面には蓋がなく、内部に収められたミイラを誇示するように見える。

丁度入り口の正面にある、ひときわ飾り立てられた大きな棺には、女性らしいミイラが指を組んだ姿勢で入れられていた。
……あなたには分かる。彼女こそが、このティルヒアの支配者ヤス=リだ。

彼女の腕には、本が一冊挟まっていた。
周囲の様子から浮いて見えるほどに、その本は真新しい。

そして、もうひとつ見慣れぬものがある。
棺の上にひとつずつ乗せられた、薄いガラスでできた瓶だ。
あなたの知る墓所に、あんなものはなかった。

その瓶の上にはハンマーが一つずつ。
ハンマーは……、金属の糸で、墓所の入り口の方へと繋がっていた。
KP
あなたは咄嗟に嫌な予感を覚える。
あれは仕掛けだ。何者かがレバーを引き、この扉を開いたならば。
ハンマーが作動し、あの瓶を叩き壊し。
中の液体を、棺の上へとぶちまけるのだ。

果たしてその通りになった。
牧志 浩太
(あっ)
KP
止める間もなく、瓶は砕け散る。
瓶の中に収められていた粘度の高い液体が溢れ出し、それは棺を、そして棺のなかのミイラを濡らしていく。
佐倉 光
それは血ではないのか。
佐倉 光
「やば」
《リーチ》(P292)を使って死体が抱いている本を奪おうとするか。
と思ったけど【STR】対抗かー。きっついな。
7っの棺全部に液体がかかったわけですね。
KP
わけです。
KP
彼女の上に液体が降りかかるなり、彼女はミイラの姿のまま、棺のなかで身じろぎをした。
他の六つの棺に納められていたのは騎士たちであった。彼らもまた、一斉に整然と身を起こす。

彼女は威厳ある態度で手を持ち上げる。
ばさり、と本が床に落ちた。

彼女はあなた達に向かってぎこちなくくちびるを釣りあげ、こう言った。
「わたくしの財宝の盗人は誰?」
その声は、世界のあらゆるものに頭を垂れさせんとする傲慢さをもって、あなたに襲い掛かった。
KP
あなたのニャルラトホテプとしての【POW】と、ヤス=リの【POW】18で対抗ロールが発生する。
本来は自動成功だが、ここでは1D100を振ること。ファンブルクリティカルが結果に反映される。
佐倉 光
「わざとじゃねぇんだよ!」
1d100 Sasa 1d100→29
佐倉 光
「どっかの迷惑な野郎が仕組んだんだ!
……なんか『俺』っぽいけど俺じゃねぇ!」
KP
「あ……、」
あなたの叫びに、しかし彼女は表情を凍らせた。
声を発した喉を押さえ、がたがたと身を震わせて、萎びた眼に恐怖と熱情を宿してあなたを見つめる。

彼女は気づいたのだ。あなたの言葉ではなく、存在によって。
目覚めて最初に声を投げた相手が、何者であるのかに。

彼女は踊るような軽い足取りで、棺から一歩進み出た。
その眼に爛々と期待を輝かせ、あなたの足元に跪いて懇願を始める。
KP
「輝ける我が神よ、わたくしは十分待ちました。
わたくしを解放してはいただけませんか。
わたくしはただ、地上を自由に闊歩し、あらゆる輝きのさなかに立ちたいだけなのです」

恋するように彼女はあなたを見つめた。
恐れるように彼女は、あなたを見つめた。
その目は今より来たる栄光への熱にぎらぎらと輝き、欲と確信に満ちていた。
佐倉 光
「……俺、そんな約束したわけ? ちょっと待ってくれ」
吸血鬼の上位種たる『俺』は彼女とどんな約束をしたんだろう。
彼女を解放することで何が起きるだろう。
思い出すことは可能?
そもそも開放は可能?
KP
その時のあなたの意図を、思い出すことはできなかった。
あなたが彼女の解放によって世界を覆い尽くすだろう災厄を楽しもうとしたのか、こうも傲慢な期待をあなたに── あなたなどに抱ける彼女を裏切り嘲笑って楽しもうとしたのか、それとも他の意図があったのか、いまや分からない。

しかし、彼女を解放して何が起きるかは、容易に想像がついた。
彼女が沈黙に耐え切れず、叫んだからだ。

「神よ、世界をわが手にお与えください! 

わたくしの支配した暁には、夢見る王はわたくしの奴隷となって宝石を生み出し続け、美しい猫たちは声を失ってわたくしのドレスとなり、あらゆる生者と死者はわたくしを崇める以外のあらゆる思考を失い、ドリームランド全土は美しき闇の地となるでしょう!」
KP
彼女の解放が齎すのは、ドリームランドを覆う呪いと戦火だ。
彼女はそれだけの力と邪悪を持っている。

あなたは彼女に何をすることもできる。
解放してもよい。再び眠らせてもよい。あるいはその他のことをしてもよい。
佐倉 光
さすがに、それをされると困るな。
ここには前に世話になった奴らがいるし、約束したの俺じゃねぇし。
『俺』はなんて面倒な奴に力与えたんだよ、反省しろ。
佐倉 光
「まだその時ではない。眠れ」
命ずるだけで眠らせられるならそうする。
できないならワインを使用する。
KP
彼女は、ああ、と枯れた息を吐いた。
あなたの足元に跪いたまま肩を落とし、それから緩慢に顔を上げる。
ゆったりとした動きで自ら棺に戻ると、従順に目を閉じた。

「では、わたくしどもは再び眠りにつきます。
その時がくるまでまた休息いたしますね。

願わくは、その時がすぐにまいりますように……」

弛緩した彼女の身体からごろりと大きな赤い宝石が落ち、床に落ちた本の傍らに転がった。
佐倉 光
「……」
佐倉 光
「素直で助かった……」
わざわざ叩き起こしておいて、手違いだった、寝ろって言い渡すの普通にひでぇな。
俺ならキレるぞ。
牧志 浩太
(だな……、素直でよかった。彼女には悪いけどそのまま寝ててほしい)
牧志が詰めていた息を吐くように声を漏らした。
佐倉 光
ふうと息をついて、宝石と本を拾う。
KP
本は『赤の女王』と題された書物だ。
物語めいたその題名に反し、装丁を見るに学術書のようだ。
佐倉 光
「意味深な題名だな」
手に取ってパラパラとめくる。
ただまあ、確認は後で落ち着いた場所でしよう。
KP
宝石は見事にカットされた、存在感のある赤く透き通った大きな石だ。
それには見覚えがある。
それは、あの時『あなた』が宿っていたルビーだ。

それを拾って手にした瞬間、冷たい笑いの気配があなたの中を通り抜けた。
石はあなたの手の中で、溶けるようにさらさらと消え失せていく。
佐倉 光
「……!」
ズーラでのバラと同じだ。
この現象は何なんだ。
KP
途端、意識がここからふうっと遠ざかる。
一瞬、あなたは世界が、宇宙すべてが自分であるという感覚に囚われた。

同時に、あなたは何かの囁く声を聞く。


「生物は皆貪欲なもの。必要なものは全て手に入れる、それが進化」


KP
抗えない眠りがあなたの意識を呑み込む。
牧志が名を呼んだようだが、耳まで届かなかった。

眠りに落ちる直前、『フランケンシュタイン』の本の表紙が光ったのが見えた。
佐倉 光
「……」
ああ、寝るなら外に出て適度に安全な所を探そうと思っていたんだけどな。
消えかかる意識の端で思った。
謎。
佐倉 光
佐倉という一個人の世界なのかな、とはずっと思っている。
だけどそこにニャルが絡んできている意味は分かってない。
KP
キャンペーンのもどかしい所は語りてぇ~~~ってなっても全部終わるまで語れないことですね
佐倉 光
ミスティックアーク的な奴なのかなぁ、などと多分伝わらない感想。
KP
おお、名前は聞いたことあるのにやったことないタイトル。
現実へ戻るために七つの異世界を巡る話かぁ。
ミスティックアークネタバレ
佐倉 光
最後に生き残った主人公が光の中へ歩み出て行くシーンの後に赤ん坊の泣き声がするので、新しく産まれる命が母の胎内で経験していること、という説があります。
『闇』という対抗存在がいたり、命のないものに命を宿らせる描写があったり。

佐倉 光
佐倉の場合は生まれるんじゃないけど、閉じた世界で魂の錬成されてる気がする。
まあでも牧志もいるしな。よくわかんない。
KP
ああー、そういう。
閉じた世界ではないですね。ちゃんとドリームランド。
赤の女王が勝手にそこに色々ばらまいて舞台にしているせいで分かりにくいけど。

KP
目を覚ますと、『赤の女王』の本を握ったまま、神殿の石の寝台の上に倒れていた。
佐倉 光
「うぅ……酔いそうだ」
自分が起きているのか寝ているのか、人であるのか神であるのか、境界が朧になっている気がした。
牧志 浩太
(おはよう、佐倉さん)
牧志が少し気まずそうに、軽く屈んであなたを見下ろしていた。

その体の回転が止まっていて、牧志の顔はこちらを向いている。
表情こそないが、回らずにこちらを向くようになると、人型らしい印象が強まってくる。
それ以外にも、体の様子が何か変わっているような気がする。
佐倉 光
「ああ、牧志。そこにいたんだな、良かった」
牧志 浩太
(これだけ起きたり寝たりしちゃな。
何か人間らしいことでもしたいけど、ここじゃ夢の中の方が豊かなくらいだし)
牧志は神には言及せず、躊躇いながらあなたの背をさすった。
佐倉 光
「ただでさえ夢と現実が不確かなのに、『寝るぞ』って心構えもないのにぶった切られるとなー」
今は現実、月の裏、と小さく呟く。
牧志 浩太
(もうちょっと現実らしい風景が見えるか、何か感覚が違うとかあればいいんだけどな)
佐倉 光
「また変わったんだな……」
体はマントの下で見えないかな。
佐倉 光
「浮いたり回ったりしなくて済むようになったんだな? 良かった。そのほうが話していて落ち着く」
牧志 浩太
(ああ、そうらしい。
足が動くようになったんだ、それでじゃないかな)
牧志はマントと腰布を少しめくり、その下にある脚を示した。

脚は生きた人間の肌の色をしており、血が通っている。
腰の近くまでそうなっていて、その上から透き通った質感になっている。
佐倉 光
「お、そうか、それだけでも随分人間に近づいたな。あと少しだ」
牧志 浩太
(だな。あと少しだ)
佐倉 光
牧志の見た目が人間に戻っていっているのは嬉しいが、本当には何が起きているのが分からないのが怖いところだ。
例のアザは透明の体の中にも刻まれているのだろうか。
KP
透けた身体の中で、痣は赤く透明に刻まれていた。
三次元積層画像のように立体的になっていて、もやもやと立ち昇るそれが、恐らくは心臓の大きさの空間を包んでいるのがはっきりと見える。
それどころか、心臓の内側にまでその痣は這っているのだろう、よく見れば心臓の壁の形まで分かる。
牧志 浩太
(……俺が人間に近づくと、佐倉さんは神になっちゃう、って可能性もあるよな。さっきの感じ見てると。
どう気をつけていいか分からないけど、一応考えておこう)
佐倉 光
「……まだ意図が掴めてねぇからな」
佐倉 光
「『俺』らしいのに不条理だ」
牧志 浩太
(ありがとう、ごめん。最初から巻き込んじゃったな)
ふと背に回した手が少し震え、謝罪の言葉が彼の硬い喉から出てきた。
佐倉 光
「……いや。
こうなってみて思うんだけど、そもそもこの縁は、最初からお前だけのものじゃなかったんだろうと思う」
佐倉 光
「そもそも俺が悪魔使いになったのは『神父』か、それに近しいものの差し金だし、あの時からずっと俺も言うなれば囚われていた。そいつの意図はともかくな。
俺は牧志を『俺』の、他のニャルラトテップの手から遠ざけるなんて役割が与えられたに過ぎないんだと思う。
結局はそのものの手から逃れていたわけじゃないんだ」
佐倉 光
「だから今回は、俺が負う番だった。それだけだ、きっと」
佐倉 光
なのかなーって。
真実かどうかは知らぬ。あくまで佐倉の解釈。
KP
でも割とありそうな解釈。なるほどなー。
牧志 浩太
(……)
あなたの言葉に、牧志はふっと呆気に取られたように沈黙した。
牧志 浩太
(はは……、何だよ、それ。佐倉さんも先輩も俺も、最初からひとつの縁の中だった、ってか。

何だか嫌になっちゃうな。でも……、ありがとう)
牧志 浩太
(それなら、今回もまた、いつもみたいに切り抜けてやらないとな。
いつもみたいに、切り抜けられるんだ。それが役割なら)
牧志はそっとあなたに手を差し出した。
見慣れた形の、生きた手だった。
佐倉 光
「ああ、そうだな。頼むぜ、相棒」
その手をしっかりと握る。
佐倉 光
全ては、この手が初めて握られたときに始まった新しい茶番に過ぎないのかも知れない。
それでも、【俺達】を諦める気はない。
牧志 浩太
(ああ。行こう、相棒)
牧志は強く、その手を握り返した。

佐倉 光
「さて、と。新しいヒントは……」
まずは『フランケンシュタイン』の確認。
KP
『フランケンシュタイン』の本を取り出すと、表紙の絵の中で青年の姿勢が変わっていた。
力なく横たわっていた青年は生きた両脚で力強く床を踏みしめ、こちらに歩いてこようとしている。
佐倉 光
「おっ、自己主張し始めた。
醜いから拒否、ってしなきゃ殺される結末にはならないのか?」
牧志 浩太
(うーん……、もしかしたらだけど。
醜い、ってのは醜男っていうより、人でなし、化け物、摂理に反している、冒涜的、ってことだろ、こういう古い話。
こいつが人間になったら、醜くなくなるのかもしれない)
佐倉 光
「なるほど?」
悪魔使いにとっては割と今更な話だ。
……いや、境界の向こうの存在と認識している時点で、拒絶していることになるのだろうか?
牧志 浩太
(赤の女王の意図か。
佐倉さんの感じを見てると、考えたら何か思い出せるかもしれないけど……、それも怖いな。
そういえば、あの本も『赤の女王』って題名だっけ?)
佐倉 光
「ああ、あの本」
次は女王のところから持ってきた本を見てみる。
宝石もあるのかな。
KP
宝石はあの時消えてしまったまま、背嚢の中にも手の中にもない。
しかし、あの宝石と薔薇はあなたの中に『ある』のだという感覚を、どうしてか覚えている。
KP
本は『赤の女王』という題名の、進化について語った学術書だ。
赤の女王仮説ニついての記述
KP
あなたは神の魂が宿った宝石を手にしたこと、そしてこの内容を目にしたことにより、『赤の女王』の記憶を思い出せるような気がした。

以後、あなたは正気度 1点を消費して〈クトゥルフ神話〉99%で判定し、成功することにより、彼女の思惑を思い出そうとすることができる。
思惑
佐倉 光
思い出すと打ちのめされそうな気がしなくもない!
KP
ふふ。
思惑自体は当人に会えば聞けるけど、ちょっと早めに分かるかもみたいなやつですね。
あと女王視点が味わえる(?)
佐倉 光
ええー。後回しにしよ。
KP
おっと余計なことを言ったかな。
(※KP的には本当にどちらでもok>あけるあけない)
佐倉 光
演出上の問題なので。触れるからすぐ触るってなれる心理状態かどうかって話。
KP
なるほど。
さっき強制的に触った時にやばい目にあいましたしね。
今の所行き先はまだあるわけだし。

佐倉 光
本を読んだとき、ふと、腑に落ちた。
今まで遠くにあった物に少し近づいたような。
佐倉 光
「……『赤の女王』も俺なんだ。
意図を知ろうと思えば……知ることができるかも知れない」
佐倉 光
宝石も薔薇も赤かった。そして呼んでいるのは赤の女王。
こいつ、俺を育てておいて、うまいことでかくなったら書き換えようとしているんじゃないだろうな?
……いや、意味があるのか、それは。どう考えてもあいつの方が強そうなのに?

知りたい。俺は知る必要がある。
真っ赤な記憶に手を伸ばす。
佐倉 光
だが、先ほど墓所で自分を失いかけたことを思い出すと、最後の一息で目を逸らした。
佐倉 光
俺は、恐れている。
牧志 浩太
(佐倉さん)
牧志があなたの手を握り、少し力を込めた。
牧志 浩太
(俺達はあいつの思惑を知る必要がある。

俺が人間になる代わりに、佐倉さんがこのまま神にされてしまうのか、それとも別の思惑があるのか。

でも、まだ行き先はある。
ああなった後で直ぐこれを目の前にぶら下げてるのも、あいつの罠かもしれない)
佐倉 光
「……ああ、そうだな。
焦らないでやろう」

いましばらく人でありつづけるために、神の記憶に背を向ける。
佐倉 光
相変わらず猫はいるのかな。
KP
あなた達の横でフニャアと欠伸をするのは、あの不思議な毛皮の黒猫、ケット・シーだ。

寝顔を眺めるだけだろうに、何が楽しいのかやっぱり起きると傍にいる。
佐倉 光
「……ケット・シー。ありがとな」
その毛皮を撫でる。
正直黒猫にはあまりいい想い出はないが、なんとなく助けられているような気がするのだ。
KP
「何がだい?」
フニャ? と猫は眠たげに鳴いて、気持ちよさそうに目を細める。
佐倉 光
「心当たりがないなら、それでもいいんだ」
牧志 浩太
(俺も撫でていい?)
KP
「いいよ」
牧志 浩太
羨ましそうに見ていた牧志が、近寄って猫の毛皮を撫でだした。
そういえば腕と脚が動くようになったので、屈んで猫を撫でることができるようになったのだ。
佐倉 光
さてと、最後はセレファイス。
神殿の外から騒ぎが聞こえてきたりはしないかな。
KP
神殿の外は変わらず静かなものだ。
どうやら猫の再襲来はないらしい。
佐倉 光
じゃあ、また寝台に寝転がって、牧志にいきさつをちゃんと話そう。
被験者として過ごしていたところに急に牧志の危機が伝えられたこと、変異した牧志から契約と力を奪い取ったこと、その後に世界が焼かれ、牧志の心が灼かれてしまったこと……
牧志に殺されたことは適当にぼかすけど。

本質的に必要なのは、牧志が何をしたかではない。
それによって何が起きたか、だ。
単に避けられない出来事だったことだけが伝わればいい。
牧志 浩太
牧志は猫の毛皮から手を離し、あなたに向き合った。
牧志 浩太
何か言いそうになるのを堪えては、ぐっと拳を握る。
牧志 浩太
(ああ……、俺も思い出したよ。
あの時どうなって、何を思って……、佐倉さんに、何をしたのか。

佐倉さんが、何をしてくれたのか。

そうか、きっと俺がああなったのも、仕組まれていたんだな。

あいつは……、俺を回収に来たんだ。
その結果佐倉さんがこうなることまで見えていたのか、どっちでもよかったのかは、分からないけど)
佐倉 光
「まああん時はお前完全に呑まれてたし」
佐倉 光
「悪魔使いの面目躍如ってやつ?」

これしかなかった。これで良かった。
だからいま二人揃ってここにいる。
牧志 浩太
(俺は俺のつもりだったのに、思い出すと俺なわけないんだよな。
怖いなあの経験。今は佐倉さんがそれを味わってるんだよな)
牧志 浩太
(そういえば佐倉さん、『あれ』と契約したってことになるんだな。
ついでに俺とも? 七人目の俺だな)
佐倉 光
「はは、神との契約捕まえたの凄くね?」
佐倉 光
「まあ、制御できなくて大変なめに遭ってるけどさ」
佐倉 光
「あー、そうか。あれは牧志だったもんな。
牧志今俺の使い魔なのか?」
そういえば二重にそうなっちゃったかも知れない。
牧志 浩太
(どうなんだろうな? かもしれない)
佐倉 光
「全部終わったらそのへんも何とかしないとな」
牧志 浩太
(だな。
だとしたら、何とかする前にちょっと魔界を覗いてみようかな?)
佐倉 光
「それも楽しそうだな。
今の俺の力なら魔界も散歩できそうだし」
佐倉 光
そういった話をしながら眠気が訪れるのを待とう。
まああまり長いこと来ないようなら酒呑むけど。
KP
そうやって話しながら眠気をイメージしていると、人間の意識も落ち着くのか、ほんのりと転寝のような眠気がやってくる。

傍らでは猫が眠りながら喉を鳴らす、微かな声。
この眠気を捕まえれば眠れそうだ。
佐倉 光
牧志と話しながら、暖かな猫の体に指を潜らせていると、その眠気が指先からしみ込んでくる気がする。
猫はいつだって眠いものなのだ、ということを思い出した。
佐倉 光
「おやすみー……」
牧志 浩太
おやすみ、という牧志の穏やかな声が、あなたを眠りへと送った。

コメント By.佐倉 光
佐倉は溺れかけている。
それにしても相変わらず道がはっきりしない……

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【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


TRPGリプレイ ゆうやけこやけ 第十四話『旅するゆうこや』軽井沢(風波) 一

「やっぱ車で行くもんじゃねぇや、この道。やべぇ、一気に疲れが来た。石になりそうだ」

TRPGリプレイ【置】 CoC『PYX』佐倉&牧志 1-1

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