こちらには
『PYX』
のネタバレがあります。
本編見る!
KP
いつも使うスーパーはこれまたハロウィンモチーフに彩られ、楽しげなBGMを流している。
人の視線は相変わらずだが、ここまで視線がついてくると少々慣れも来る。居心地は悪いが。

頼まれた物は大体ここで手に入りそうだ。
佐倉 光
買い物をしていると日常に戻ったような気がしてくる。
頼まれた物のほかにも自分が食べたいものを次々と籠に放り込む。
食事。楽しみだなぁ。
どんなに小さな物でも食べてみたくてたまらない。
スティック状の食べ慣れたエネルギーバーとエナドリも何本か。

色彩に溢れている視界は懐かしくて嬉しかった。
ウキウキとレジに行って、会計したらまずエナドリ飲んでエネルギーバー囓ろう。
KP
あの空間にはなかった色彩が、試食の匂いが、人々の話し声が耳に目に鼻に流れ込む。

こんなに世界は色に満ち溢れていたのだ。
買い物を楽しむ人々はみな口々にささやかな日常の話を口にのぼらせ、悪いニュースの話も遠くの悲しい出来事も、そこにはない。

久し振りに口にするエナジードリンクは、懐かしくてちょっと刺激の強い味がした。
エネルギーバーの濃縮された味覚も、腹の底に直接入るような重さも、何もかもがあなたを生き返らせるようだった。
佐倉 光
「はぁぁぁぁ、うめえぇぇぇ~!」
そうそう、味ってこういうのだったよ!
久しぶりに肉体で味わうと、やはり再現し切れていなかったのだなと思い知る。
あいつにまた連絡が取れたら教えてやるのになぁ。
佐倉 光
幸せってこういうことかも知れない。
東浪見 空
「お、佐倉さん! 生きてたのか? どこ行ってたん?」
食事を楽しんでいると、や、と東浪見が視界の中に入ってきて手を挙げた。大きな米袋を担いでいる。
佐倉 光
「おっ、東浪見、久しぶりー! 買い物中?
ちょっと人体実験の被験者してたー」
詳細は企業秘密だぜ!
東浪見 空
「テンション飛ばしてんなー。でも無事ならよかった!
牧志にはもう顔見せた? 
あいつ佐倉さん探してヘロヘロになってたし、見つかったって聞いたら喜ぶぞ」
佐倉 光
「俺を探してたって?
あいつにはちゃんと暫くいなくなるって事相談して伝えたはずなのに?」
そういえば、ただ会っていなかった、というだけにしては反応が大袈裟だった気がするな?
東浪見 空
「そうそう。
えっ? そうなん? なんか突然いなくなった? 連れてかれた? って、めちゃくちゃげっそりしてたけど。
一緒に探したけど、ほんと忽然と消えてたし」
佐倉 光
「……」
疑惑。
佐倉 光
「……東浪見、俺って顔変わってない?」
東浪見 空
顔、と言われて彼は「んー」とあなたの顔を眺める。
東浪見 空
「なんてか、オーラ? が変わったな! 神々しい感じ」
佐倉 光
「その程度? ふーん?」
俺にしてみれば別人レベルなんだけどなぁ。
東浪見 空
「佐倉さんは佐倉さんだしなー」
彼は米袋を担いだまま、あなたの顔をしげしげと覗き込む。
佐倉 光
「俺も俺のつもりだけどね」
まさか、とは思うが。
佐倉 光
「そうだ、俺がいない間なんかあった時にシローの世話色々頼んでたんだろ、ありがとうな」
東浪見 空
「シローって?」
覗き込んでいた顔を離して、ほへ、と不思議そうにあなたを見た。
佐倉 光
「……」
確信。
佐倉 光
「いや、悪い、思い違いをしていたみたいだ」
分かった気もするけど、分からないな……
東浪見 空
「?」
佐倉 光
「そんな重いの持ってるのに話してて悪かったな。
また今度ゆっくり……って今晩も一緒に来んのか?」
東浪見 空
「大学のやつ? 行く行く。
ってか、俺は部活で模擬店。
ラグビー部でハロウィン焼き出すから来てくれよ」
佐倉 光
「そうか。じゃあまた後でな!」
手を振って、その背を見送る。
佐倉 光
違う世界に渡っちゃったかなぁ。

佐倉 光
それから自分のスマートフォンをよく見る。
家は同じか?
交遊関係に見慣れない名などないか?
写真は?  覚えのないものはないか?  そこに写っているのは『前の俺』なのか、『今の俺』なのか?
KP
そうやって確認するならば、違うことがいくつもいくつもあるのだ。

あの事件の後に買い替えたはずのスマートフォンは、
その一つ前のマホロバ製のままになっている。

自宅の場所は同じだった、しかし近所に住む親切な彼は青年ではなく、中年の女性とその夫だった。
アパートの住人がもう少しだけ多い。
牧志から送られたはずの、モチモチのあなたの写真がない。
写真の中のあなたが勾玉とクリオネのペンダントを提げていない。

シローの写真がひとつもない。
佐倉 光
ここにはシローがいないのか。
思ったより打ちのめされた。
シローにも話してやりたいことがいろいろあったんだがな。
KP
ニュースの通知が流れてきた。
ハロウィン、紅葉情報、イベント情報、技術革新、科学的な新発見、新しい映画……

気を抜けば悲劇的、暴力的、人の目を惹く悪いニュースに埋め尽くされがちな通知欄には、暴力的な事件のニュースがひとつもない。
KP
写真の中にあるのは『以前のあなた』だ。
遡れば、カメラロールにはいくつもの違和感がある。
風景の中の店舗やオフィスの中に、微妙な差がある。
しかし何か、もっと、もっと大きな違和感がそこにはある気がする……。
KP
【アイデア】で判定。
佐倉 光
1d100 85 Sasa 1d100→ 92→失敗
KP
何か、そこにはとても大きな違和感がある。
大きな、大きな欠落。巨大な差がある。あるはずなのだ。
それが大きすぎて気づかない。分からない。
そんな違和感が気味悪く喉を引っ掻いた。
KP
メッセージ一覧をざっと見れば、多くはないが仕事関係のリストなどに、たまに知らない名がある。
メッセージを詳しく遡れば、もう少し何か分かるだろうか?
佐倉 光
理想の世界みたいだ。
いつの間にSNSはこんなに平和になったんだ?

メッセージを読んでみる。
KP
メッセージの中のあなたは、あなた自身が知る今のあなたよりも、少し物憂げで退屈そうだった。
分からなくもない。この世界はニュースから感じ取れる通り、よく言えば平和で……、悪く言えば刺激がない。

悪魔使い同士のやり取りを見ても、あなたが知るより悪魔の被害は軽微だ。
鬱陶しく苛立たしいし悩みの種だが、人が死ぬような事件はまず起こっていない。
佐倉 光
なんだこの世界……
あまりにも平和すぎるじゃないか。
よく犯罪者にならなかったなここの俺。
KP
牧志とのメッセージを古い方から遡ると、すぐに異変に気づく。
あなた達にとって絶えない話題であり、身を脅かす脅威であり、あなた達が知り合った理由そのものでもある異変、事件のことが、一度も出てこないのだ。

牧志と知り合った理由は、悪魔に絡まれていた彼をあなたが助けたことになっている。
彼はどうしてか悪魔に好かれやすく、絡まれてはあなたに助けられていた。
一方あなたがドジを踏んだ時に、巡り合わせで彼に助けられることもあった。

大量のピクシーに髪を引っ張られて困っていたところを、あなたが追い払ったり。
グレムリンのいたずらで落とし穴に嵌められたところを、彼が助け上げたり。

それは喪失など夢にも思わない、どこか暢気な相棒関係だった。

そうだ、あなたは思い出すだろう。
牧志の身体に、あの痣はなかった。
KP
もっとも新しいメッセージにだけ、彼の戸惑ったような、悲痛な、叫びが残されていた。
牧志 浩太
「佐倉さん?
佐倉さん、無事か? また悪魔退治でドジ踏んだのか?
佐倉さん、戻ってこられないのか?」
牧志 浩太
「……佐倉さん?」
KP
一方、波照間とのメッセージは先程の1件だけだった。
それ以外のメッセージは1件もない。

それらを確認したあなたは、再度【アイデア】で判定。
佐倉 光
波照間さんとはひょっとして、そんな深い知り合いじゃ、ない?
あのBarはあるのか?

似ているような、全く違うような交友関係。
冗談のように明るいちょっとした「事件」の数々。
東京への危機も、人間の世界をひっくり返そうと狙う悪魔たちも、
なんなら危険な存在の気配を全く感じない、作り物のような『日常』……

俺は、もしかしてまだ実験の部屋にいるんじゃないのか。
まだ脳だけでたゆたって、夢を見ているんじゃないのか……
佐倉 光
1d100 85 Sasa 1d100→ 36→成功
KP
あなたは気づく。
牧志とあなたのメッセージにも、波照間の名は一度も出てこない。

そうだ。
ずっと感じていた違和感の正体が、頭の中で実を結ぶ。

カメラロールの写真には、波照間の姿がなかった。
仕事中の記録写真にも、日常の写真にも、ただの、一枚も。

……では、当然のようにあなたの知己として病室にいた、あの彼は?
佐倉 光
あの波照間さんは、ここの波照間さんじゃ……ないのか?
俺の知っている波照間さんに見えたが。

どういうことだ?

波照間さんに電話をかけてみようかな。
KP
ハロウィン文化祭の準備中なのだろうか……、応答がない。
佐倉 光
うーん。異世界に移動してて、でも波照間さんだけ元のまま?
元の波照間さんがそこにいる、か、もしくは、佐倉を不審がらせないように知った人物の形を取った何者か、か?
佐倉 光
牧志にも電話をかけてみよう。

通じなかったらBarに連絡してみる。
KP
手伝っているのだろうか、牧志も返事がない。

あなたの知る彼なら、授業中でもなければあなたの電話を受けないことは珍しいが、この「平和な」世界なら、少しくらい電話を受けないことも、あるのかもしれない。
KP
「サクラかね? どうした?」
Barに電話をかけると、聞き慣れた神父の声がした。
佐倉 光
「あ、ども。お久しぶり……です。
長いこと不在ですみませんでした」
佐倉 光
まさかBarに繋がるとは思っていなかった!
佐倉 光
「つかぬ事をお伺いしますが、波照間さんってそこに在籍してますか?
……あと、俺、どうして休むって言ってました?」
KP
「よろしい、気に病むことはない。
分からずに困っているのだろう? そこが何処か、君が何者か」
神父は電話口の向こうで、あなたの問いへの答えではなく、違う言葉を返した。
KP
「その世界は君達のためのスペアだ。
使われるべき時まで何も失われないように、平和に取っておくためのね。
勿論いつでも便利に使えるわけじゃぁない、我々の……、あぁ、神の思惑が絡んだ時だけさ。

そう考えれば、その世界から君が失われた理由は分かるだろう?
使われたのさ。あの時我々に呑み込まれた君の存在を補填するためにね。

訳が分からないって? それもまた気にすることじゃぁない。
人間の君が分からなかろうが、ここで知っておくことに意味がある」

あなたの問いをまるきり無視し、神父は胡乱なテンションで語りだした。
酔っ払っているようには聞こえないが、こうも話を聞かないのは珍しい。
KP
「一つだけ答えておくと、ハルテリ……、ハテルマコウという人間はそこに存在しない。
本来の機序で言えば存在しないのはマキシコウタの方なのだがね、君との絡みで居ないわけにはいかないから、仕方なく代わりにしたのさ」

神父は一方的に話しきると、これまた一方的に電話を切ってしまった。
通話終了の無情な画面だけが、スマートフォンの中に浮いていた。
佐倉 光
「えっ、ちょっ……」

佐倉 光
ワァ
波照間さぁぁぁん!
KP
あの神父のテイストは難しいッッッ(あんまりそれっぽくない)
ここの神父は色々あって、神父のようで神父でないちょっと神父くらいの何かなので、ご勘弁ください。
佐倉 光
はーい
KP
というわけで繋がったけど衝撃的な情報しか出てきませんでした。
佐倉 光
わがんない

佐倉 光
分かるような分からんような。なんだ、スペア?
俺は、消えたこの世界の佐倉の代わりにここにいるってことか?
いや、元々俺がいた世界の俺が消えて、
それを補填するためにここの俺が使われて消えて?
いやでも牧志はともかく東浪見も俺を知ってたし……

波照間さんはいないって?
『いる』じゃないか。

あの人がいない、というならいないんだろう。
何故か間違っていないって事は分かる。
それならあれは、あの、俺が知っている波照間さんのような彼は、誰だ?
佐倉 光
シローが家に独りでいるだろうから、すぐ家に戻ろうと思っていたのだが、その必要はなさそうだ。
ああ、でも買った物は持って帰った方がいいか?

時間があれば一度家へ。なければ病院に戻ってみようか。
KP
空を見上げれば、暗くなる前のあの夕空の青が満ちていた。
スマートフォンを見れば、16時付近。

大学へ向かう前に、家に寄る程度の時間はありそうだ。
丁度、買い物の荷物を少々重く感じ始めていた頃でもある。
佐倉 光
それにしたって我ながら随分と大荷物を軽々と持てていることにびっくりする。
いつもならこんなに持って歩いたら早々に手が痛くなって動けなくなるところだ。
戻ろう。
KP
あなたは穏やかな夕焼けの道をゆき、家へと戻る。

KP
いつものように家の扉を開けると、室内は静まり返っていた。
慌てて出かけたような痕跡が、玄関に残っていた。

夕暮れの薄暗い光だけが、リビングルームにこぼれている。
……薄暗い光に照らされて、テーブルの上に牧志のタブレットが置かれているのが見えた。
少し前まで使っていたのか、画面にはロックがかかっていない。
メッセージアプリが開かれたままになっている。

また、牧志の部屋の扉が開いたままになっている。
佐倉 光
見ろ、と言わんばかりだな。
荷物を置きながらメッセージアプリを見る。
KP
そこに表示されていたのは、牧志と波照間の、少し前からのやりとりだった。
波照間 紅
事情を聞かせてくれ。僕は彼の仕事仲間だ。君にとっては、大学の先輩でもある。
彼が消えたことについても、きっと力になれる。
KP
やりとりは、そんな波照間のメッセージで始まっていた。 
それから少し探るような他愛ないやりとりがあり、文章は確信に入る。
牧志 浩太
少し前に、佐倉さんが変なことを言いだしたんだ。
この世界はおかしい、って。
突然消えた人間がいるのに、誰もそのことに気づいてないって。
平和すぎる。不自然に悪いことが起きなさすぎる、って言いだして、よく分からない古い本や博物館に飾られてる石板を調べだしたんだ。

その少し後だった。佐倉さんが突然いなくなったんだ。
今だって信じられない。夢を見てるのかもしれない。
でも見たんだ。赤い女が佐倉さんを引きずって、壁の中に消えたんだ。
壁を叩いたりよく見たりしてみたけど、普通の壁だった。
波照間 紅
信じよう。その女が彼を連れていったんだな?
KP
それから暫く、日付の上で間が空く。
牧志の寂しそうなメッセージが続いていた。
牧志 浩太
誰も信じてくれない。壁の中に人が消えたなんて。
波照間 紅
大丈夫だ、僕は信じよう。その女は確かに存在する。
尻尾を掴んだ。いま足取りを追っている。
KP
……自分でも信じられないようなこと、誰も信じてくれないことをこの穏やかな世界で信じ続けるのには、きっと力が要るのだろう。
牧志は時折気弱になり、波照間が彼を繰り返し励ましていた。
そのうち、牧志は波照間を自ら先輩、と呼ぶようになっていく。

導かれるような、寄りかかっていくような牧志の様子は、あなたが知る彼の強さとは異なって見えた。
……彼は励まされているにも関わらず、より弱っていくように見えた。
KP
メッセ-ジは続いている。
佐倉 光
なんだ、これは?
俺が浚われた?
牧志と波照間さんで俺を探していた?

この波照間さんは、何なんだ? この世界の波照間さんじゃない。
牧志……病気を治す魔法を使ったのに、具合が悪そうなままだったな……

一体何が起きているんだ。

興味に衝き動かされてメッセージの続きを見る。

佐倉 光
何が起きてるんだよ波照間さん!! 牧志!!
分かるように教えてけ神父ーーーー!
KP
この辺一気に佐倉さん置いてきぼりで世界設定や事態がドワーーーッて出るので、楽しんで頂けているか心配ッッ
佐倉 光
右往左往ッ! きになるよぉぉぉ!

KP
それからまた少し間が空き、次のメッセージはつい最近だ。
波照間 紅
牧志。原因が分かった。
……途方もない話だ。信じてくれるか。
牧志 浩太
信じるよ。先輩、俺のために調べてくれたんだろ。
波照間 紅
……ありがとう。
佐倉さんが最後に、この世界はおかしいと言っていたと、そう言ったな。
牧志 浩太
うん。
波照間 紅
分かるか。この世界とは別に、異常でない他の世界が存在するんだ。
佐倉さんは……、別の世界に連れていかれたんだ。
あの赤い女に。
牧志 浩太
別の世界……、だって。信じられない、いや、信じられる。
だって、そう思えば分かるんだ。
何度も探したのに、佐倉さんはどこにもいなかった。あそこは車の入れるような場所じゃない。
波照間 紅
朗報だ。彼を取り戻す手段が分かった。
KP
……あと一つだけメッセージがある。
日時は、今朝。
佐倉 光
さっきの神父の言葉を当てはめるなら、俺達の世界が『正しい』世界で、
ここの俺はここが無理矢理平和に歪められた世界だと知った。
で、連れ去られた。
俺達の世界で消えた俺の代わりにするため?
俺はその佐倉に『俺』が上書きか何かされたってことなのか?
正直信じがたいな。
大体そういう用途なら何でこの世界に……

波照間さんは……
そうか、ここでは牧志と知り合うきっかけがなかった。
俺の同僚でしかなかった。
それが、ここの世界の俺の行方不明をきっかけに知り合うことになった、そういうことか。

そして波照間さんもここが「偽物」だと気付いたんだ。
まさか波照間さんが俺をここに呼んだ?
メッセージを読み進める。
大体どうしてスペアなんて物が存在するんだ。
波照間 紅
佐倉さんを連れ去った赤い女が、向こうの世界にいる。
向こうの世界の欠落を埋めるために、僕らの世界は使われているんだ。

このままでは、今夜佐倉さんは消えてしまう。

赤い女は炎が不得意だと分かった。
炎で彼女ごとあちらの世界を燃やしてしまえば、もうこの世界は何も失わないで済む。
そのための呪文も手に入れた。

実行は今夜だ。僕が準備をする。
君が喚んでくれ。
彼の行き先を辿れる君にしか頼めない。

君は呪文を紡ぐだけでいい。頼む。
牧志 浩太
待って、待って先輩。
向こうの世界を燃やすだって? 燃やしたら、どうなるんだ?
そこには人がいるのか? 俺は、佐倉さんは、向こうにいるのか?
波照間 紅
大丈夫だ。
僕に任せてくれ。

もう時間がない。
見ただろう。あの彼は君の知る彼じゃない。
それとも、あの彼を代わりにするのか?
牧志 浩太
違う、そんなことしない。
波照間 紅
それなら、頼む。任せた。18時に大学で。
KP
あなたはそのメッセージに、強烈な違和感を覚えた。
あなたはこういう語り口を知っている。そこにあるのは善意などではない。

メッセージの主は明らかに語るべきことを語らず、行動を急かし、牧志の疑問を封じている。
そして、何も知らないままの牧志に、行わせようとしている。

恐らくはあなたの世界に降ってきて、あなたがいなければそのまま何もかも燃やしていただろう、炎の召喚を。
KP
……メッセージの向こうにいるのは、本当にあなたの知るような波照間なのだろうか?
NPC
佐倉 光
なるほど~
ソロシナリオだって書いていたしNPCもいっぱいいたから、今回は牧志は絡んでこないんだなぁ、最初のはそういう事情だからかなーとか
違う世界を表現するための描写かなーと思ってたのに、なんだかきな臭いぞ!
KP
このシナリオNPC→KPC改変可能(付属しているメインNPC例はサンプルで自作していいとなっており、KPC改変ガイドも最後に記載されている)なので、今回はメインNPCの代わりに牧志がいます。
新規NPCとともに物語を紡ぐことも、KPCとともに物語を紡ぐこともできるつくりなんですね。
佐倉 光
なるほどーーーー!
親切な作りですねぇ。
KP
なのです。改変ガイドも丁寧で親切! キャンペーンですが第一話だけ回したり、一話と二話で違うメインNPCにしてオムニバス風にして回したり、がっつり同じNPC(KPC)にして関係性の濃いお話にしたり、とにかくKP自由度が高いです。すごい。
佐倉 光
終わったら買ってみよー

佐倉 光
あの馬鹿でかい炎をこの波照間さんと牧志が……?
大体赤い女って誰だ。俺は知らねぇぞ……

何度か読み返す。
佐倉 光
何だか……波照間さんらしくねぇな。
絶対に必要なことだと確信していても、波照間さんならもっとゆっくり相手に理解させてから進めるだろう。
時間がなかったとしても、こんなに強引に、矢継ぎ早に、相手の疑問も無視して話を進めるなんてことをするだろうか。
牧志との関係性が違ったとしても……そうだ、悪魔にすら優しい波照間さんらしくない。

大体、あの馬鹿でかい悪魔……神レベルのやつの召喚にどれだけの代償が要る?
そんなものを一応一般人の牧志に、こんな突き放すようなやり方でそっくりやらせるか?
佐倉 光
この、悪魔にですら悪意なんかないみたいな『平和な』世界で、波照間さんだけこんな……
自分の世界を守るためとはいえ、余所の世界を丸焦げにしようなんていう『悪意』を持っているっていうのか?
こいつ、誰だ。
KP
そう、悪意だ。
そのメッセージから滲み出るのは、意図をもって相手を操ろうとする『悪意』だった。

何だか覚えのあるような悪意だった。

佐倉 光
疑念を抱いたままで牧志の部屋へ。
KP
あなたは疑念を胸に、牧志の部屋へと向かう。

あなたが知るのと同じ作りの室内に、カーテンの隙間から赤金の光が差していた。

見慣れた柄のカーテンや布団は、そこは確かに「牧志」の部屋なのだ、と思わせる。

見慣れたジャケットや鞄は、持っていったのかハンガーにない。

一見して細かい所に埃が溜まっていたり、ゴミ箱が一杯になっていたりと、どことなく荒れた印象を受ける。

本棚から出したままの本がベッドの上に散乱していた。
机の上に、あの桜色の手帳と同程度の大きさの日記帳が置かれている。
佐倉 光
久しぶりの自宅を懐かしく思う余裕もなく……いや、やっぱりここは俺の自宅じゃないんだな。

悪いな、見させて貰うぜ。
牧志の部屋に入り込む。
佐倉 光
この世界の牧志も同じ習慣を持っているなら。
迷わず日記に手を伸ばす。
ここの牧志は昔の記憶から全て当人のものってことか。
KP
日記を開こうとすると、日記帳に何かが挟まれているのに気づいた。

写真、だろうか?
佐倉 光
その場所を開いて見る。
KP
挟まれていたのは一枚の写真だ。
真っ先に、鮮やかな赤い色彩が目を惹く。

それは全身真っ赤なドレスを着た美しい女性と、背と腰に手を回されて彼女にきつく抱き寄せられている、黒いパーカー姿の青年。

どこか野外の壁の、ペンキで描かれた大きなストリートアートを前にした写真。

それは一見すれば、睦まじく愛を囁く二人の写真のようだった。
しかし、青年の表情を見ればそうではないと分かる。
女の腕には有無を言わせぬ力が込められ、青年を発光する壁の中へと引きずり込もうとしている。

その青年は、[ 神 ] となる以前のあなたにそっくりな姿をしていた。

彼女はカメラの方を、明確な意思の籠もった眼で見つめて妖しく微笑んでいた。
佐倉 光
思わず写真に見入る。
俺が連れ去られる『その瞬間』を写した写真なのか?
佐倉 光
いや、牧志がそんな暢気なこと、するか?
佐倉の目の前で写真に異変が起きる。
KP
あなたの手の中に残るのは、ストリートアートの描かれた壁だけを映した、ただの写真だ。
佐倉 光
「なっ」
思わぬ光景に目を見開く。
KP
SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
佐倉 光
メデューサ? 違う。こいつは
頭の中に渦巻いている混沌の中を探る。
1d100 31 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 41→失敗
佐倉 光
SAN 31 → 30
して、〈クトゥルフ神話〉知識で女の正体を察することは可能でしょうか。
KP
知識を探るならば、〈クトゥルフ神話〉で判定。
佐倉 光
1d100 99 Sasa 1d100→ 53→成功

KP
これは、あなただ。

人間としてのあなたにとっては訳の分からない結論であるにも関わらず、あなたの脳は一足飛びに「あなただ」という結論を弾き出した。
KP
同時に、あなたは思い出す。
あなたが少しばかり焦げた街の中、忘我となってしまった牧志を見下ろした、あのとき。
人間としての自身に背を向けた、あのとき。
神の意識に呑み込まれた、あのとき。

呑まれて消えるばかりだった人間としてのあなたに、微笑んだ「誰か」がいたのだ。

人間としての意識をまるで撫でるようにそっと「取り出した」誰かは、その意識を、まるでコップの水を移し替えるように、今のあなたの身体に「入れた」。

そしてその誰かは、あなたに向かって、こう囁いた。


混沌ニャルラトホテプの雛よ、出口を探し求め、この喪失を止めてごらんなさい。
その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」


KP
思えばその声は、あなたの声だったような気がした。
佐倉 光
この女も俺、か?
佐倉 光
この喪失を止めろ、って、俺がこの体に入るのを止めろ、ってことか?
くそ、訳分かんねぇぞ俺。説明していけよクソが。
佐倉 光
つまり『俺』があの赤い女の手を借りてこの世界の俺を乗っ取ったってことだな。
で、この俺を取り戻すために『波照間さん』が牧志にクトゥグァを喚ばせたと。
佐倉 光
分かったようで何も分からないな。

写真が挟まっていた所を開いて見る。
KP
写真が挟まっていたページを開くと、今日の日付だった。
牧志 浩太
ごめん。
でも、帰ってきてほしい。
KP
叫ぶような文字で、それだけ。
それより後ろのページはすべて、白紙だった。
KP
あなたは、不意に思い当たる。
あの赤い女が、『あなた』なら。
止めろとあなたに命じたのが、『あなた』なら。

世界にあの炎を呼んだところで。
あのあなたを燃やせるはずがない。
現に、あなたはあの炎を追い返したのだから。

……彼は騙されているのだ。
何か、別の意図のために。
佐倉 光
この『俺』をあの程度で排除できると思った?
波照間さんが読み損ねたって可能性も一応あるが……

牧志は何をさせられているんだ。

ベッドに視線を落とす。
牧志は何を調べていたんだ。
KP
それらは『身代わり』『平行世界』『部品取り』といった内容にまつわる本ばかりだ。
何冊かの本が置いてある。
KP
〈目星〉〈日本語〉で判定。それぞれ別情報。
佐倉 光
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 19→成功
1d100 95 〈日本語〉 Sasa 1d100→ 62→成功
佐倉 光
牧志に、こんなことを飲み込ませて?
KP
ベッドの下に、蹴り飛ばされたように一冊だけ本が落ちていた。

表題には『ありとあらゆる世界のパーツで』とある。
また、本には何か付箋がくっついているようだ。
佐倉 光
拾い上げて付箋のところを読んでみる。

KP
導入改変時にトチったせいで必要以上に分かりにくくなっててすみません(白状)
佐倉 光
なんなら後で追記とかしてもいいんですよ!!
KP
ちゃんと当人問い詰められるタイミングはあるのでそこで!!
追記するとそれより後がワチャワチャになりそう

KP
読みづらいが、辛うじて付箋の内容を読むことができる。
付箋にはあの写真の壁の簡単な図があり、ストリートアートの所に『ミスライムのカタコンベ』と走り書きされている。
KP
本に癖がついており、拾い上げるとはらりとページが開いた。

すべては互換可能だ。同時にすべては互換不可能だ。取り替えたパーツは絶望的なまでに代替品でしかない。すべては喪われた。

……そんな文章に鉛筆で下線が引いてあった。
佐倉 光
ミスライム……?
自分の知識に思い当たることはあるかな。もしくは検索。
KP
自分の知識を当たるなら【知識】/3
検索するなら、〈コンピューター〉または〈図書館〉で判定。
(複数の個人ブログに分散した情報を素早く取捨選択し、繋ぎ合わせるための判定だ)

同一情報。
【知識】/3失敗したら検索するなどの行動を取ってもよい。
佐倉 光
ではまず思い出す。
1d100 28 【知識】 Sasa 1d100→ 52→失敗
1d100 85 スマホで検索〈コンピューター〉 Sasa 1d100→ 56→成功
KP
この付箋は、牧志がストリートアートの中に書かれた文字を解読してメモしたもののようだ。
【ミスライムのカタコンベ】の説明。
KP
……そうやって調べていると、手元が暗い。
17時を過ぎ、辺りが随分暗くなっているようだ。
佐倉 光
なくなったものにそっくりのもので代替できる。
しかしそれは結局そのものではない……ってことだよな。
それは、そうだ。

いつか、牧志が腹痛で入院したときのことを思い出した。
そんなもの、代わりにならない。
あくまで別のものとして受け入れるしかない。

俺は、俺だ。この世界の俺じゃない。
この世界の牧志が呼び戻したかった俺じゃない。
そしてここは俺が帰りたい俺の世界じゃない。
俺は、救いたかったものを救えたかどうかさえ知らない。


そろそろ約束の時間だ。
二人に会って、事情を詳しく聞く。
いや。
あの波照間さんが何者で、何をしようとしているのかを……聞き出す。

赤い壁の写真を持つ。
牧志に訊けばすぐにこれがどこにあるのか分かるんだろうけど。
ネットで調べる時間はある?
なければ牧志に「赤い壁はどこにある」とメッセージを送るだけ送ってみる。

そしてふと、どうしてさっきは牧志からはメッセージが届かず、波照間さんからは来たんだろうな、と考える。
俺の体がこちらの佐倉のものならば、こちらの牧志との連絡手段はあってしかるべきじゃないのか?
何者かの妨害?
KP
写真を持ったタイミングで。〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 62→成功
KP
写真を持った時、写真の裏が目に入った。
見慣れない字で、『図書館の裏庭にて』とある。
図書館の名も合わせて書かれている。

……牧志とよく行く、あの図書館だ。
今から行くには、少々遠い。
佐倉 光
図書館か……
ひとまず二人に、とくに『波照間さん』に会いに行かないとな。
家の中、自分の部屋もざっと見て出かけるか。
KP
あなたの部屋は、家具の配置もPCの位置もあなた自身の部屋にそっくりだった。
よく掃除されていて荒れた様子はなく、今にもこのままここで暮らせそうに見える。

本棚にある本はいささか雑多で、棚に置かれた小物にも統一性がない。
穏やか過ぎる世界に飽いて、好奇心の行く所を探していたのだろうか。

PCの傍の小棚に、あなたにとっては見慣れたオカルト本や、平和、穏やかさ、多元宇宙、あるいは平行世界に纏わるものらしい題名の書物が詰まっていた。
佐倉 光
この世界の俺は退屈だったんだろうな。
それでこの世界を受け入れられなくて足掻いて、別の世界を見つけたのか?

いくつか自分がみたことがない本があればパラ見してみる。
ついでにPCも立ち上げてみるか……立ち上げられるなら。
KP
平行世界に関する本は、あなたも見たことのあるものだ。
細部の記述が異なるが、大枠では知っている内容が書かれている。
見たことのない本は、平和や平穏に関わる書物が多い。

『平穏な時代は最大何年続くか-人口とコミュニティの性質』
『平和の定義』
『国際平和の実現』

等といった本だ。
KP
PCは…… 立ち上げられなかった。
立ち上げ方法はあなたが知るものと同一なのだが、認証が通らない。
佐倉 光
やっぱり俺は『俺』じゃないんだな。
変に納得した。

二人との約束が近い。大学に向かおう。
こうなってくると牧志が心配だ。
こっちの世界の牧志は俺が知っている牧志ではないが、牧志は牧志だ。

KP
住宅街を抜けて大通りに出れば、街は仮装をした人で溢れていた。
楽しげなイルミネーションの下、狼男に吸血鬼、急ごしらえの幽霊に蛇女。
3Dプリンターのお面をかぶって七つ子! なんていう地味なのもある。
佐倉 光
仮装ね……。
適当なドンキやらなんやらでジャックフロストの面か何か買えたら被っとこ。
KP
ジャックフロストのお面は、あなたの知る世界よりも人気だ。
悪魔の被害が軽微な分、悪魔の事を知る人間、悪魔を恐れない人間も多いのだろう。

KP
大学に着くと、いつもは厳めしい煉瓦の校門が溢れんばかりのモチーフで飾られていた。

門は開かれ、大通りの建物という建物に模擬店が並ぶ。
学生だけではなく、楽しそうに走っていく子供達や学内の風景を冷やかす大人、微笑ましそうにその様子を眺めている老人など、様々な顔ぶれがハロウィンの夜を楽しんでいる。
東浪見 空
「お、いらっしゃーい。ハロウィン焼き食う?」
両耳の上からネジを突き出して、体に縫い目を描いた東浪見が顔を出した。
模擬店の宣伝をしているようだ。
佐倉 光
「おっ、似合うじゃんフランケン。店どこ?」
東浪見 空
「だろ? 満場一致でコレ勧められてさー。
ここ、ここ。そのA3棟って書いてある建物の横すぐ」
そちらを見れば、確かに東浪見と同じくらいには盛り上がった肩の男達が狭い模擬店ブースに押し合いへし合いしながら食べ物を売っている。
カボチャ多めのお好み焼きだ。
佐倉 光
以前の俺なら、あんな所行くだけで疲れそうだし入るのも嫌だって感じだが、
この体ならああいう所に入っていくのも苦じゃない気がする。
佐倉 光
「サンキュ」
佐倉 光
「あと、牧志たち見かけてない?
牧志と、もうひとり、最近牧志に絡むようになった波照間って人」
東浪見 空
「牧志なら波照間さんと一緒に、A棟屋上でやるハロウィンパーティの準備中!
あ、そうだそうだ、招待状預かってんだ」
東浪見はあなたに、招待状と題したチラシを渡す。
そこには楽しげなパーティのイラストとともに、目的の場所への地図が書かれている。
佐倉 光
「おお、サンキュ。招待状?
俺ここあんま来たことないし助かる」
東浪見 空
「つか佐倉さん、帰ってきてから神々しいのもそうだけど、なんか明るくなった?」
佐倉 光
「そうか? そうかもな。祭りだしテンション上がってんのさ」
笑って流す。
当たり前だろ、別人なんだから。
ここの俺、よっぽど鬱々としていたんだな。
東浪見 空
「そっか! 祭りだもんな!
楽しんでってくれよー!」
東浪見は機嫌よく手を振ってあなたを見送る。
佐倉 光
「おーぅ、ありがとなー!」
手を振って別れる。

実際この体になってから多少明るくなった自覚は、ある。
容姿のためか、肉体のためか。
佐倉 光
ハロウィン焼き、並ばなくて済むようなら買いに行こうか。
KP
ハロウィン焼きはまだ混みだしておらず、さっと買うことができた。
生地が堅めで、油紙の包みに入れてもらうと片手で食べることができるようになっている。甘みの強い満足感のある味だ。
佐倉 光
ハロウィン焼きを囓りながら地図に従ってA棟へ向かおう。
不穏な予感がなければ祭りを楽しみたい所なんだが、そうもいかねぇな。

KP
問題のA棟に近づくに従って、仮装した子供達の姿が周囲に増えていく。
ベビーカステラを手に持つ子供、飛ぶほどの勢いで走る子供、大声を上げる子供、その場でくるくる回る子供、子供、子供。
KP
A棟、と書かれた建物に着くと、色とりどりのコウモリたちがあなたを出迎えた。
屋上まで上がっていく階段も、途中に見える施錠された講義室や研究室の中も、ハロウィンのお菓子とイタズラの風景でいっぱいだ。
随分凝ったパーティーらしい。
佐倉 光
そういや、大学でハロウィンでこんな大規模な祭りをやるってのも珍しいな?
もはや学校祭規模じゃねぇか。子供だらけだ。
雰囲気を味わいながらも屋上を目指す。
KP
屋上までの階段を一段、一歩、上る。
入り口のオレンジ色から暗い紫へ向かう垂れ幕が、ライトで明るいにも関わらず、真っ暗闇の中に入っていくような気分にさせる。
KP
最後の一段を登ったとき、ぱっと視界が開けた。
一面に広がる夜の空。
柵に囲われた空間をいっぱいに飾りつける、キャンディのような七色のライト。

それなりの広さのあるスペースは、手にカボチャのランタンを持った子供達でいっぱいだ。
彼らはみんな一様に、何かの始まりを待つようにひそひそとおしゃべりに興じていた。
佐倉 光
おおー、これはすごいな。パーティーって聞いてたが、ショーでもやんのかな?
思わずウキウキしてしまう。
俺菓子持ってないけど、ねだられたらどうしようかな。エネルギーバーでいいのか?
佐倉 光
おっと、楽しんでる場合じゃない。
まずは牧志か波照間さんを探さないと……
人混みの中、視線を彷徨わせる。
KP
人混みの中に視線を彷徨わせると、尾を引く子供達の影に目が留まった。

屋上を埋める子供達。
カボチャちょうちんとライトに照らされた影が、影絵のように地面で踊っていた。

どの影も人のかたちをしていなかった。

それはうごめく触手、あるいは蝙蝠のあるいはハゲタカの翼、サソリの尾、雄鹿の、牡羊の、雄牛の角、かぎづめをもつライオン、ハイエナ、猪、こわばった藁人形、音楽を奏でるフルート、あるいは角笛、いくつもの歯車、その中には数式のようなものさえあった。
ありとあらゆる異形、異形と名の付くすべてのものが影のかたちをしてそこにいるようだった。
KP
SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
佐倉 光
ガチ悪魔の夜会じゃないですかヤダー
1d100 30 Sasa 1d100→ 15→成功
佐倉 光
「おっと……マジで来てやがる」
まさかホンモノがこんなに来ているとは。このあたりにゲートでも開いているのか?

あまりにも平和な世界だ、悪魔がこっちに『遊びに来る』なんてことが日常だったり、するのか?
身構えて『子供』たちの間を縫って奥へ。
触ったら本性を見せたり消えたり、増してや襲ってきたりなどしないか。
KP
異形を足元に引き連れた子供たちが、一斉に、あなたを振り向いた。
もちろん彼らは仮装をした子供に過ぎない。しかし奇妙な影はあなたの目の前で、嘲笑うように踊り続ける。
KP
子供たちはあなたの周りを取り囲み、踊り始める。
「佐倉さん!」
子供達が、あなたの名を叫ぶ。
「いらっしゃい、佐倉さん!」
笑う。
「パーティーへようこそ、佐倉さん!」
踊る。
「箱庭へようこそ、佐倉さん!」
笑う、笑う、笑う。
その声が何重にもなって無数に増えていく。
「いつまでもハッピーな、部品たちの街へようこそ、佐倉さん!」
KP
わめき踊り叫び笑う子供達の、何層もの重なりの向こうに。
燕尾服を着てカボチャの仮面を被った波照間と、彼に手を引かれてあなたに背を向ける牧志がいた。
佐倉 光
波照間さんジャックオランタンか
佐倉 光
箱庭……
この安全な箱庭は、なんのための……『誰』のためのものなんだ。
なんとなく、波照間さんがあんな格好をしているのは、今日がハロウィンだから、ではなく、波照間さんがその格好をするのが当たり前だから、という気がした。
意味が、分からないな。
いくらヒーホー系と相性がいいからって。

そして、今の自分は『ただの人間』ではないのではないのかという疑念が湧いていた。
佐倉 光
「牧志! 波照間さん!」
叫んで近寄る。
波照間 紅
「やあ、よく来てくれた」

波照間が仮面の向こうからこちらを見て、愉快そうに笑った。
口の端をねじ曲げた、嘲るような笑い方。

彼の手が、緑色に見える。
揺れる光に照らされてそう見えるだけかもしれないが、確かに彼の手は異様な緑色に染まっていた。
牧志 浩太
彼の後ろで牧志はあなたに背を向け、手にしたカボチャのランタンを空へと差し掛けていた。

空へ、星へと訴えるように光を揺らめかせて、何かを呟いている。
風に乗って届く声があの炎を呼ぶ呪文であると、いまのあなたには分かる。
佐倉 光
ニャル化した佐倉のペルソナがバトロワしてるのかなぁ?
佐倉 光
「牧志、やめろ! この世界も焼く気か!」
佐倉 光
あいつは面倒臭ぇんだ。
追い返せたとしても被害が出る!
牧志 浩太
「『佐倉さん』、来てくれたんだな」
カボチャのランタンを持ったまま、牧志はこちらを振り返った。

色素の薄い眼はあなたが知るものよりも少し、虚ろな色をしていた。
佐倉 光
あれが波照間さん? ありえねぇな。
波照間さんは無意識に境界を越えることはあっても、自ら境界を侵すことはないんだ。
増して、悪意で、なんてことは。
佐倉 光
『波照間さん』に向かい叫ぶ。
佐倉 光
「おいっ、いつダークサマナーに宗旨替えしたんだよ」
こいつは誰だ。俺は、知っているんじゃないのか?
波照間 紅
「何だ、もう知っているんじゃないのか?
僕が一体、なにものであるか」

彼の持つランタンの光が揺らぎ、彼の影を長く伸ばした。

長く尖った爪。ねじれた背。
不格好に眼の飛び出たカボチャ頭。
背に負った大きな袋。

あなたはその異形を知っている。
それはハロウィンの夜に現世をさまよう男。
それは鬼火を連れて楽しげに踊るとんがり帽子の悪魔。
波照間 紅
ジャック・オー・ランタン。
佐倉 光
ああ、いつか絵やらなんやらで見たな。あれか。
KP
しかしあなたは知っている。
その姿を知っている。
ジャック・オー・ランタン。
それもまた、『あなた』ニャルラトホテプの一面に過ぎない。
佐倉 光
なんだ、『俺』か。俺じゃない『俺』。
佐倉 光
「ひでぇマッチポンプだな。無駄なことはやめようぜ」
佐倉 光
「大体、何が起きてるんだよ。説明してくれ。俺には何が何だかさっぱりだ。
大体ここを滅ぼす意味ねぇだろうが」
佐倉 光
しかしこの展開なら、牧志を呼び戻したロアさんとニアミスできる可能性が……さすがにないか。
KP
なるほど??
どこかでゲスト出演しても面白いかも。
波照間 紅
「それはすまなかったな。
知っての通り、僕らは思わせぶりだとか、意味深だとか、そういうことをやりがちなんだ。
意味深が過ぎて君にも伝わらないとは、やりすぎたらしい!」

彼は気障たらしく燕尾服の裾を振り、喉を反らせてケラケラと笑った。
振り向いた牧志の目の前にカボチャのランタンを翳し、呪文を続けるように指示してから、楽しそうに語りだす。
波照間 紅
「大したことじゃない。

この世界から、この世界の君を奪い取って君の意識を流し込む。
するとこの世界の彼は、この世界の君を失う。
そこで彼に炎を喚ばせ、君の世界に落とす。

すると炎は君の世界を滅ぼそうとする。
君の世界の『彼』は炎に焼かれて死ぬ。君は自分の世界と、『彼』を失う。
防ぐには『彼』が神となるか、君が神となるか。

君が神となれば、『彼』は君を目の当たりにして狂う。
君は『彼』を失う。

君は神に呑まれて消える。そこで、
この世界から、この世界の君を奪い取って君の意識を流し込む。

因果を閉じればループの完成だ。
僕達は神の雛となった君が、どうやってこのループを止めるか見たいんだ。

目的? ただのレベル上げだよ。僕達は君という神の雛を育てたいんだ」
何が起きている?
佐倉 光
つまり、めちゃくちゃにしておいたから適当に纏めてみてね♪ ってことかな。
ちょっと考えさせて下され~
KP
はーい!
分かりにくい演出してしまいましたが、牧志と会話することももちろんできます。
佐倉 光
会話できるのか。じゃあまずそっちかなぁ。
KP
平行世界佐倉さんがいなくなる
 ↓
ランタンニャルが平行牧志をそそのかす
 ↓
平行牧志が炎を呼ぶ
 ↓
佐倉さん世界が燃えて牧志が死ぬ
or 牧志がニャル化
 ↓
佐倉さんが阻止
 ↓
佐倉さんがニャル化して牧志が狂う
 ↓
佐倉さんがニャルに呑まれる
 ↓
赤い女ニャルが佐倉さん意識を平行世界佐倉さんの肉体にin
 ↓
平行世界佐倉さんがいなくなる
 
というループができているので、
それを何かして止めてね、という状態です。
佐倉 光
あー?  最初に佐倉がいなくなった原因がそもそもここだよってこと?
いま牧志が儀式やってる理由と佐倉がここにいる理由が分からん過ぎるから話聞かなきゃならんか。
無限ループじゃなくて二周目を何とかしてねってことかなー
KP
その解釈でも大丈夫です。この周回を止められればOK。
佐倉 光
あー、神父が言ってたのはまさしくメタ的な解説で、
元々のシナリオだと牧志は不在なんだよ、でも一緒にいた方が面白いから波照間を代わりにしたんだよ
てことかな。
KP
ああー、神父の話を入れたせいでややこしくなっちゃったか、失礼しました。
本来牧志がいない話はループには関係ありません。
佐倉 光
なるほどなるほど。でここで牧志が炎呼んで向こうの牧志が失われようとしているところ、ということか。
KP
です。調子に乗って色々増やしたせいでいらん情報が殖えて混乱を生んで失礼しました……!
佐倉 光
いえいえー。時間が前後してるせいで因果関係がよく分からなくなってた。
牧志が今度はここを焼こうとしているのかと思った。
KP
失礼しました。ここのややこしさはシナリオのせいではありません。
佐倉 光
いえいえ、これもまた楽しい。

なるほどつまり、ここで牧志を倒せばめでたしめでたし、というわけだな!!!
それはそれで今度は佐倉が狂うループが始まる予感!!
KP
この世界には結果的にどちらもいなくなるからSAFEですね(?)
あとは混乱させてしまった理由でもありますが、牧志がやろうとしていることには矛盾というか、問題があるのもありますね。
佐倉 光
ここにいる佐倉は既にこの世界の佐倉ではないからどっちにしても戻ってこないよ、って考えていいのかな。
牧志が呼び戻したいのはこちらの佐倉なのに、こちらの佐倉は既に上書き済みなんだよな??
KP
・上書きされた佐倉さんがここにいる限り、向こうの世界を燃やしても元の佐倉さんは戻ってこない
・牧志は炎で赤い女(と向こうの世界)を焼いて奪取を止めようとしているが、クトゥグアの炎では赤い女ニャルは殺せない
の2点ですね。
佐倉 光
ああ、そうか。女焼こうとしてんだな。そうだった。
そして赤い女とイコールがニャルだから、佐倉としてクトゥグァを倒しちゃうので無理と?
難しいwww
KP
無理ということです。いらんややこしさはだいたいKPのせいッッッ
佐倉 光
そもそも焼いたから向こうの佐倉がいなくなってこっちの佐倉上書きされんだぞ!
ということですね。
KP
ですです。
でも無理だ、ということを牧志は知らないんですね。
佐倉 光
よーし、なんかしてとめよう。なにしよっかなー

佐倉 光
「ふざけてんな。
ああ、そういう存在なんだよな。知ってた。なんで知ってんだろうな」
佐倉 光
「そういうことなら、術者の牧志を倒せば、向こうの世界への影響はなかったことになる、ってこと?」
佐倉 光
「こっちに来ちゃってる俺はどうなるんだよ。赤い壁超えてこれから消えんのか?」
佐倉 光
「牧志!  いま何をしようとしているのか分かっているのか?
おまえが呼び戻したい佐倉はここにいないだろ!
そうするならまた俺はここに来るんだぞ!」
波照間 紅
「殺すのか! それもいいな。
そうだ。召喚がなされなくなれば、ここから起きる出来事は消える。
あちらへの影響もなかったことになる」

けた、けた、けたけた。
ランタンは折れんばかりに背を反らせ、げらげらと笑う。
腰を百八十度に折り曲げ、下半身だけの化け物みたいになったランタンの向こうで、牧志が振り向いた。
牧志 浩太
「……佐倉さん」
牧志 浩太
「佐倉さんは、向こうの佐倉さんなんだよな。
……俺を止めに来たんだよな、きっと」
牧志は少しだけ迷うように、緩やかに首を振る。
牧志 浩太
「赤い女を殺せば、佐倉さんを連れていくやつはいなくなる。
そうしたら、先輩が佐倉さんを連れ戻してくれるんだ」
佐倉 光
「お前が喚ぼうとしているものとその結果を教えてやるよ。
クトゥグァ。炎の『神』だろ?
あんなもので『赤い女』は死なねぇよ。クトゥグァはあっさり叩き返されたからな。
はっきり言って、クトゥグァ程度じゃあれは倒せないぜ」
牧志 浩太
ぴくり、と牧志の眉が動いた。
「死なない……、だって?」
牧志 浩太
虚ろな色をしていた眼に、ふっと少しだけ光が戻りかけた。
手の中のにやりと笑うカボチャのランタンを、確かめるように見下ろす。
牧志 浩太
「どうして、佐倉さんにそんなことが分かるんだ」
佐倉 光
「そもそも俺がここに来た原因がそこにあるからだよ。
言うなれば俺には未来が見えてるんだ」
佐倉 光
「お前が呼び出したクトゥグアは俺達の世界を焼いた。
俺は神の力を借りてクトゥグァを追い返したが、神に呑まれて人間としての存在が消えた。
そしてお前の世界の佐倉が、それを補填するために連れ去られるんだ、『赤い女』の手によって。
それが今の俺だ。

分かるか? お前がここの佐倉を消した。消そうとしているんだ」
佐倉 光
「……で合ってんのかよ。人間としての俺にはいまいち納得がいってねぇけどな。
時系列弄るんじゃねぇよ」
と、これは波照間さん……ジャック・O・ランタンにだ。
牧志 浩太
「なん……、だって。
佐倉さんは、未来から来た?
俺が世界を焼いたせいで、佐倉さんが連れ去られたっていうのか?」
牧志 浩太
「嘘だ……、嘘だ。だって、俺はまだやってないのに。どうしてそんなことになる?
俺のやってることが、佐倉さんを消そうとしている、だって?」
牧志は、うう、と微かに呻きながら、首を振る。
蟀谷のあたりに張りついた何かよくないものを払うように、一度、二度。
波照間 紅
下半身だけの化け物になっていたランタンは、ぐるりと腰を回して身を起こした。
牧志から見えない方向で、正解だ、とでも言いたげににやりと笑う。
佐倉 光
「分かるか。お前自身もおかしな事言ってるぜ。
もうここの佐倉を連れ去った『赤い女』を向こうで焼き殺したところで、
こっちの佐倉が戻ってくるわけじゃねぇだろ。
もう俺はここにいる。
俺の体はここの佐倉の物で、『赤い女に連れ去られた後』なんだ」
佐倉 光
「お前が何とかすべきは、向こうの世界や『赤い女』じゃなくて
『この俺』ってわけだ」
牧志 浩太
「……」
牧志は何度か額を揉み、眉根を寄せる。
視界にかかった靄を払うような仕草で、目を強く瞑っては開く。
にやにや笑う波照間と、あなたの眼を静かに見比べる。
佐倉 光
こんな時こそ〈説得〉〈信頼〉ふりたいが、どっちもさほどないんだよな。
佐倉 光
「魔法で強引に止めることもできるが、それはしたくねぇんだよ。
俺だって向こうに戻りたいし、向こうの牧志を助けたいんだ。
一緒に考えてくれ」
佐倉 光
いつものように、ってわけには、いかねぇか。
牧志 浩太
「……一緒に、か……」
牧志は目を閉じたまま、辛そうに目元を緩ませた。
牧志 浩太
「なんでだろうな、今は敵のはずなのに、分かる。
佐倉さんは嘘を言ってないし、俺のことを考えてくれてる。
嘘を言ってたのは、きっと先輩の方なんだ」
牧志は目を開いた。その眼から、先程まであった虚ろさは消えていた。
波照間 紅
「何だ、気づいてしまったのか。
せっかく、疑問を抱かないように《魅了》をかけてやったのに」
ジャック・オー・ランタンは悪意と嘲笑を込めて、くつくつと笑う。
牧志 浩太
……牧志は悔しげに俯いた。
手にしていたカボチャのランタンを手放し、静かにその場に置く。
それを持っていた手で、ぎりりと拳を握った。

どうやら、召喚を思いとどまったようだった。
佐倉 光
おっと。最悪《魅了》かけて止めようかと思ってたからなぁ、使わなくて良かったぜ。
同レベルになるところだった。
佐倉 光
良かった、これで考える時間ができる。

コメント By.佐倉 光
人智を越えた現象のなか彷徨う佐倉。
牧志に何が起きているのか?
そしていないはずの波照間は何故そこにいるのか?

TRPGリプレイ【置】CoC『Hazy Night』 佐倉&牧志(塔) 1

それでもいいって思ってたんだ、独りになってもいいって。
なのに、日常がそこにあると失うのが惜しくなるなんて、弱いなと苦笑する。

TRPGリプレイ【置】CoC『俺の恋人が庭からボコボコ生えてくるんだが!?』佐倉&牧志 5

しまったぁぁぁ! これ弁償案件だ!

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


TRPGリプレイ【置】CoC『回答者Xの報酬』 牧志&氷凪 1

「良かった。話せるのだな。私は氷凪。きみは何者だ?」

ゆうやけこやけ『化けニャン』(終)

こどももTRPG 化けニャン

TRPGリプレイ CoC『心臓がちょっとはやく動くだけ』唐木&横瀬(終)

『心臓がちょっとはやく動くだけ』
唐木&横瀬