牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年。
とある事情で一年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。本来の彼は北国の生まれであるらしい。
最近、首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がついた。たまに痛むという。
実はウワバミらしい。
佐倉とは友人。波照間とは大学の先輩後輩の関係であり、ある奇妙な縁をもつ。
波照間 紅
真・女神転生発のサマナーで悪魔退治屋。弓術を得意とする真面目な青年。
沖縄出身である。小さい頃にUFOを見て、宇宙に連れて行ってもらったことがあり、以来、UFOに特別な思いを抱いている。月刊アヤカシ愛読者。
お酒大好き。酔っ払うと検索能力が上がるという謎特性持ち。
牧志とはとある深い縁がある。佐倉とは仲間。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。
悪魔退治屋になるまで病弱だったため、病院にいることが多く、まともな生活が送れていなかった。
酒は理性が飛ぶからあまり好きではない。未成年。
牧志とは友人。波照間とは仲間。
【置き卓】ワンナイトショット
のんびりするにはいい日だ。
気のせいか、周囲を歩く人々の足も軽い。
今日は何故か、意外と珍しい三人組で歩いている。
いつもは歩かない道を歩いて新規開拓しよう、なんて言い出したのは誰だったか。
飲みに行こう、なんて時に佐倉がついて来る気になったのは何故だったか……
先日の閉じ込め事件の憂さ晴らししたかったんじゃないかな、佐倉。
俺は佐倉さんと遊びに行くし、波照間先輩とも呑みに行くけど、不思議と二人を同時に誘うことってなかった。
新規開拓しよう、なんて言ったのは誰だったか。俺かもしれない。案外珍しい組み合わせだし、珍しいことをやりたかった。
最後にどう解決したか、はまあなんとなく誤魔化して、巻き込まれた奇妙な事件について波照間に話す。
たまに腕が傷に覆われる幻影は相変わらず。
呑めば嫌なことを忘れられる、なんてのを試す気になったのは多分、何もない異界なんかに行ったせいだ。
あれはまったく、気が狂うかと思った。いや多分少しおかしかった。
話しながら、佐倉さんがちらりと自分の腕を見たのに気づいた。まだ、見えるんだろう。あの幻が。
隠すようなことじゃないんだが、いちいち気にされるのもなんとなく気まずい。
「あ、ほら、あのへん何かいい店ないかな」
呑む店についてはあまり詳しくない。
いつものBAR以外に入ったことがあるのはニコさんの店くらいだ。
少し奥まった通りを何となく指さす。
指さしてから、あれ、と思った。
何となくこの流れ、覚えがあるような気がする?
「Izel」
シンプルで落ち着いた看板は洒落た雰囲気を醸し出していた。
牧志は何となく、胸のあたりがムズムズした。
が、それはほんの一瞬だったので、気のせいだったのかも知れない。
気づいたというか、つい見てしまっていたらしい。謝りつつ、佐倉さんが指した方に何となく視線をやる。
先輩がつられてそちらを向いた。
一番先にその看板を見つけたのは、弓のお陰で遠くを見るのに慣れているからだろうか。
「あの店はやってそうだな。悪くないんじゃないか」
胸の辺りが痒い気がして、あまりよく見ないまま、服の上から掻く。
真っ暗な通りの影にぽつりと灯った看板は、まるで誘蛾灯のように輝いていた。
シンプルな看板の向こうに、シンプルな木の扉。作りは簡素だが、どっしりとした表面は綺麗に磨き上げられ、顔を近づけると映るのではないかと思えるほどだ。
店自体はそれほど広くなさそうである。
中から楽しげな音楽が漏れ聞こえ、ふいと微かに鼻をくすぐったのは、香草と肉を焼いたようなよい香りだ。
この上なく空腹を刺激する。
二人とも、既に関心を惹かれた様子で鼻を鳴らす。
じゃあ波照間が開けよう。
小さく扉を開けて、店内に声をかける。
一番最初に動いたのは、一応一番先輩、という意識のためだろうか。
佐倉さんに先輩後輩だなんて思ったことはないが、牧志が先輩と呼ぶから、偶にそんな気分になる。
カウンター席と数人が座れるソファ席、2人用のテーブル席がある。
いずれも上品なものであり、拘りが感じられる。
落ち着いた、だが明るい雰囲気の曲が流れる薄暗い店内には、今のところ他の客はいないようだ。
細身でグレーのひげを蓄えた小奇麗な店主がグラスを拭きながら「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」と声をかけてくる。
低く心地よい声は柔らかく、まるで音楽のようだ。
先ほどの料理らしき香りの名残か、ほんのりとスパイスの香りが漂っている。
腹が減ってきたせいで、つい料理の香りが気になってしまう。
「佐倉さん、牧志、席はどうする?」
空腹のせいか、ついついメニューはないかと壁に貼ってあるポスターを眺めてしまう。
〈目星〉をどうぞ。
佐倉も一応振ろ……
1d100 84
Sasa BOT 1d100→18→成功
Sasa BOT 1d100→97→致命的失敗(ファンブル)
『期間限定 金色はちみつ酒』
宇宙をバックに、黄金色の液体が入った優美な瓶が、燦然と輝いている。
……なんだか覚えがあるような??
席を見繕う二人をよそに、思わず目を瞬いてしまう。
いや、そんなことないよな? まさか、あれじゃないよな?
あれ、飲めそうな材料じゃなかったし。うん。
モチーフくらい被る、被る。
なんだか、ポスターの人物の目がこちらをぎょろりと見た気がした。
当然気のせいに決まっている。
決まっているのだが……
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
Sasa BOT 1d100→4→決定的成功(クリティカル)!
気のせい気のせい!
何だか二人の挙動が変だ。
ポスターから離れたいし。
「牧志?」
動転して心にもないことを言った。
ともあれ、カウンター席に落ち着くことにした。どんな順で席につこうか。
ウワバミ二人が並ぶといいぞ!
この流れだと波照間が先に席につきそうだから、波照間・牧志・佐倉さんの順かな?
さて、ここには何があるんだろうか。ボトルなど並べられていないか、店主の背後を見る。
色とりどりの酒の瓶がカウンター内にずらりと並んでいる。
カクテル、ワイン、日本酒、焼酎、紹興酒、何でもござれだ。
波照間が飲み慣れた泡盛のラベルも見える。
店主が チャームの小皿に入ったナッツとメニュー表を出してくれる。
メニュー表は三冊。
一冊目はぶ厚い。多数のカクテルが写真付で掲載されており、とても鮮やかだ。
二冊目にはカクテル以外の酒、料理類が載っている。
三冊目にはコース一覧と書かれている。
そして更に、一枚特別メニューと書かれた期間限定品のメニューもあるようだ。
見た感じ洋酒が似合いそうな店内なのに、随分とラインナップが幅広い。
しかも、メニュー表があるあたり慣れない客にも親切だ。
「ああ、ありがとうございます。この“酔鯨”を一杯頂けますか?」
こんな場所に日本酒があるというのに惹かれて、思わず注文する。このまま料理に流れ込みたくなるな…… と思ってしまう。
モチーフくらい被る、被るって。偶然の一致だよなと思いたくて蜂蜜酒を頼む。
それから、ちらりとメニュー表の値段を確認。こういう所は好きだけど値段が読めない。
一冊目、二冊目は普通のメニュー表です。
二冊目に載っている料理は以下の通り。
○生ハムとチーズのプレート
○ソーセージ盛り合わせ
○ミックスナッツ
○シーザーサラダ
○和風サラダ
○サーモンのカルパッチョ
○ステーキ&フリット
○モッツアレラのピザ
○ビスマルクピザ
また、一枚ペラの特別メニューには以下のようなラインナップがあります。
○金色 はちみつ酒
○詩の蜜酒
○スラ―酒
○おち水
三冊目のコースには
○ゆっくり会話
ゆっくり話しましょう。お題を提供しますよ!
○ダウトゲーム(おすすめ)
本当? 嘘? 会話で盛り上がる! 本当か嘘か言い当てるゲーム
○クラップス
先に酔いつぶれるのはどちらだ! ダイスを使い、出目を予想して当てるゲーム
○ブラックジャック
マスターと一緒に遊べる特別ゲーム。勝ったら賞品があるよ!
とあります。が、ブラックジャックは(カードを使うので)お休み中みたいですね。
また、牧志と波照間はウワバミですが、佐倉はかなり控えめに呑むので、先にぶっ潰れるなんて事はない……はず。
ぶっちゃけ通常の範囲の酒と料理はただの雰囲気アイテムなので、好き勝手頼んで構いません。
なるほどなるほど。わかりました。
特別酒はまあちょっぴりお高いけど、ちょっと背伸び程度のお値段ですね。ン十万もしない。
佐倉はまず食べることにしたらしい。
佐倉さんの食う気満々の注文につられた。そういえば腹が減っているのだ。
蜂蜜酒は、まあいいか後にしよう。
そんな注文を横でされて腹が減らないわけがない。食事を楽しんでから酒の時間にしよう、そう決めた。
まずは飲み物が運ばれてくる。
なんとなく飲み物が揃うまで待って乾杯してしまうのは人のサガだろうか。
少し待てばきりっと冷えたシャキシャキのサラダ、湯気を立てる肉やピザ、口の中でとろりと溶けそうなつややかなサーモンが運ばれてくる。
自爆飯テロである。KPはお腹が空いた。
美味い日本酒と美味い魚。合わない訳がない。思わず、感嘆の息を漏らす。
通おう、とこの瞬間に決めてしまった。
湯気を立てる肉にかぶりつく。美味しい! ハイボールそっちのけで肉をがっついてしまい、肉の脂をハイボールで流す。これはこれでありだ。
佐倉さんが眺めているのが、たぶん先程ポスターで見たやつだろうと分かる。
話を聞いただけでも食欲が失せそうな材料を思い出した。
お店の人に質問をすると、概ねどんな商品か、サービスか、答えてくれますよ。
あの、このスラ―酒ってどういう酒なんですか?」
誤魔化すように、メニューを指して店主に聞く。
「スラー酒でございますか。
こちらはインド神話に登場するお酒でございまして、神々の飲料、ソーマに匹敵する力を持つと言われます。
『リグ・ヴェーダ』では飲み方を誤ると飲んだ者を悩ませると記されておりまして、神話でもしばしば敵を苦しめるために使われたお酒……をイメージしたものでございます。
歯黒病にかかったりはいたしませんので、ご安心を」
こちらは宇宙をイメージした特別製でございます。
ワインに似た味わいと、蜂蜜の香りが楽しめますよ」
バーテンはそれには答えず、うっすらと穏やかな笑みを浮かべるばかりだ。
まあ、うん、そんなわけないよな。話の流れのままに、それを注文する。
ワインは全然分からないけど、蜂蜜の香りのする酒っていうのは素直に気になった。
その中身が優美なグラスに注がれると、太陽の輝きのごとく光り輝いた。
勿論お酒が自体が輝いているわけではなく、その透明度と絶妙な黄金色が、カウンターのあちこちに仕込まれた下から照らすライトの光を乱反射しているのだ。
ほんのりと甘い香りがした。
口に含んでみる?
すごい演出だ。まるで、酒が本当に光り輝いてるように見える。
ごくりと息を呑む。恐る恐るグラスを手にとって、口をつけた。
その味を認識した、瞬間。
あなたは深淵にいた。
苦みの奥に深くて複雑な味を感じた。深く溜息をつくようにして、鼻と口に抜ける香りを楽しんだ、次の瞬間。
「え?」
ちょっと何が起きたか分からない。
否。果てなき宇宙。
夢の世界の果てで見た景色があなたを包んでいた。
体が触れるものは何もなく、重力も方向もない。
あなたはたった独り、宇宙空間を漂っていたのだ。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1D3》
誰かを呼ぼうとした。
その暗闇のあまりの深さに喉が竦んで声が出ない。
何も、ない。
何もないようで、深淵がある。
思わず、手を伸ばした。
誰かの手を取れないかと。
1d100 80 《SANチェック》
Sasa BOT 1d100→79→成功
SAN 80 → 79
目の前で佐倉が手を振っていた。
目の前の酒は、特に変化もなくゆったりと波打っていた。
「あ、ああ、ごめん、合わなかったみたいだ……。変な夢を見て……」
佐倉が興味を示している。
「あ、ああ。いいけど、少しにした方がいいかもしれない」
佐倉さんの手元にグラスを滑らせる。
一人目は効果が100%!
二人目以降は【POW】判定で失敗したら効果有!
ただしこれはコースが変わるごとにリセット!
って感じにしよう。
わかんなくなったら適当にやるからね!
1d100 75
Sasa BOT 1d100→54→成功
「ああ、俺はこれ……まあ嫌いじゃない。思ったより美味しい」
佐倉は平然としている。
佐倉さんの手元にあるグラスを恐々と見る。あの時、俺は確かに何もない深淵に放り出されていた。戻れなくなるんじゃないかって恐怖さえ感じていた。
顔を青ざめさせるその様子は、ただ「酒が身体に合わなかった」とは思えなかった。
メニュー表を指先でもてあそび、目にとまったものについて店主に聞く。
「“おち水”って、どんな酒なんですか? 月をイメージした酒とか?」
バーテンはゆったりと頷いた。
「変若水月の不死信仰に関わる霊薬の一つでございます。
昔の人は、月の満ち欠けを、年老いてもまた若返ると見ていたのですね。
「月夜見の持てるをち水」と萬葉集でも唄われております。
沖縄の民族伝承にも登場しまして、蛇が脱皮するようになった原因ということになっております。
そんな不老不死の妙薬をイメージした薬酒です。
呑むと若返ったかと思うほどに元気が出る、と仰る方もいますね」
若返るって聞くといいことのようにも思うけど、さっき見たものを思うと少し怖い。
あ、ちなみに特殊酒は二口目以降は特殊効果出ません。
新しく頼んだりしたらまあ、わからんけど。
ちょっと怖いような気もするが、牧志に何が起きたのか気になるし、それに薬酒は好きだ。
「じゃあ、俺も」
さっきの酒、二口目からは佐倉さんが言うように、ちゃんと美味しかった。思ったより甘くはなく、苦味にも嫌みはなく、するりと入るような一杯だった。
最初だけ、何かを見るのか?
一体、何なんだ?
恐怖と好奇心がない交ぜになったような顔をして、結局は好奇心が勝ったらしい。
冷? 常温? 熱燗?
どれでもいけるらしい。
佐倉は冷にした。
薬酒の熱燗! 独自な飲み口になりそうだ。それを聞いた瞬間二人とも声を揃える。
そして三人の前には竹を加工した大ぶりなお猪口が出てくる。
波照間と牧志の前に置かれたものからは、ほんのりと鼻を刺激する香りがしている。
佐倉の前に置かれたそれは僅かに霜を纏い、その表面から白い冷気が立ち上っている。
僅かに入った液体は、いずれも透明で色がない。
そうやって話しながら、口をつけたタイミングも何となく一緒だった。
ダイス 1d3を振る(効果範囲)
ダイス 1dあなたの年齢-1を振る または任意
Sasa BOT 1d3→2
1d18
Sasa BOT 1d18→13
Sasa BOT 1d20→15
1d3 波照間
Sasa BOT 1d3→1
Sasa BOT 1d3→1
FANBOX開設したで
1d19 牧志
Sasa BOT 1d19→15
これは……
最初の1d3はですね。
1 肉体が若返る
2 精神が若返る
3 両方若返る
二つ目が若返る年齢です。
みんな幼稚園児じゃん……
あ、あともうひとつ、継続時間を1d5で振ります。
それぞれで振ってね。
Sasa BOT 1d5→5
なげぇw
Sasa BOT 1d5→1
Sasa BOT 1d5→4
1分間精神のみ13歳若返って6歳に。
波照間
12秒間肉体のみ15歳若返って5歳に。
牧志
48秒間肉体のみ15歳若返って4歳に。
もうちょっと盛りません?(面白がって相談するPL)
もうちょっと欲しいかな?
それくらいがちょうどいいかなーと思います
牧志の精神が若返ってたら危うく「えっ、若返り先どっちなの?」って問題が出て面白くなるところでしたね
いやそれはさすがに元牧志では……
記憶がスッッッカスカになりそう。
と思ったけど記憶はそのままかな。
熱い酒を口に含むと、意外にも後味はすきっとした味わいだ。
酒を味わっていると、波照間と牧志は、周囲の景色がみるみる大きくなって行く錯覚に襲われるだろう。
いや、錯覚だろうか?
服の袖がどんどん伸びて行く。
声を発したのも同時だった。周囲の景色が、座っているスツールがどんどん大きくなっていく。見慣れた服の中に埋もれていく。
小さく── なっている!?
この間あんな話をしたからだろうか。不思議の国のアリスの、「Drink Me」のやつを思い出した。
おつまみに置いてあるチョコレートとナッツがとても美味しそうに思える……
年長さん~小一佐倉ってどんなんだ……
佐倉が椅子をくるくる回しながら目を丸くしている。
彼の体のサイズは変わっていないようだ。
「これ甘くないよ。オレンジジュースがいい」
ほっぺを膨らませている。
激しい刺激と苦味に強く咳き込む。上げた声が、高い、ような気がした。
涙の滲む視界に、服に埋もれて同じように咳き込む茶色い眼の子供と、その向こうにいつもの佐倉さんが見えた。
今の体格だと床まで結構距離があるし、服が体に纏わり付いて動きづらい。
ぶかぶかの白いシャツを着た子供の、黄色がかった眼と目が合った。
波照間先輩の少し独特な眼の色を、そこに見た気がした── 次の瞬間。
バランスを崩して後ろにひっくり返っていた。
隣に座っていた佐倉が、椅子から立ってあなたを受け止めたのだ。
牧志は完全に抱っこされる形で佐倉を下敷きに床に座り込んだ。
見事に一緒に転げ落ちる。椅子をくるくる回していた、その回転がそのまま残って派手に振り回された。
慌てて椅子から飛び降り、二人に駆け寄る。床までの距離の長さに少し恐怖を感じた。
Sasa BOT 1d100→94→失敗
1d3
Sasa BOT 1d3→2
佐倉SAN 82→80
Sasa BOT 1d100→71→失敗
1d3
Sasa BOT 1d3→2
SAN 64 → 62
Sasa BOT 1d100→47→成功
SAN 79 → 78
振り返った先、あんまりにも素直な満面の笑みと目が合う。
「へっ、佐倉さん??」
笑顔が眩しい! 見たことのない表情を見てる!
冷静なようでいて派手に混乱している。幼い顔の中で眼がぐるぐるに回っている。
混乱した中に、苦味とか着地の衝撃とか周囲の色とか料理の残り香とか、色んな感覚が一気に押し寄せてくる。目が回りそうだ!
何度も見たらトラウマになって残りそうだけど……
あっでも記憶も消し飛んだ方が楽しそう。
けしとぼう。
不安そうに周囲を見回し始めた。
カウンター内にいたはずのバーテンはいつの間にかいなくなっていた。
周囲の景色が大きくて、好奇心とひどい不安をない交ぜに感じる。佐倉さんの顔が遠い。脳の中で感覚と思考がばらばらに暴れている。妙に感覚が鋭敏になって追いつかない。
その不安そうな顔にはどこか身に覚えがあった。目を覚ましたとき何がどうなっているのか分からない感覚。記憶の跳躍に気づいたときの途方に暮れるような認識。
もしそこに知っている人がいなかったら。
そりゃあ混乱して2減りますわ、正気度。
〈心理学〉振ります。
1d100 76
Sasa BOT 1d100→11→成功
誰も知る人がいない、自分がどういう状態なのかわからない。
そこまではあなたの予想通りだ。
しかし、その感情があまりにも強い。
表情、動作、その全てが、彼がいつもの彼ではないこと、まるで幼い子供のようであると知らしめる。
彼はあなた方を不気味に思っていることも知れるだろう。
鋭敏になった感覚は、彼の現状をあまりにも強く伝えた。一瞬、目が眩むようにすら感じる。
そこにいるのはいつもの佐倉さんなのに、親とはぐれた小さな子供のようだった。いつもよりずっと大きく見える上背と、幼く小さく見える動作が不整合を起こして、目が回ってふらついた。
「佐倉さん、小さくなってるのか……」自分の声が知らない子供の声だった。微かに聞き覚えがあるような気だけがした。
(「紅さん」が目覚めた時の一週間分の記憶の跳躍=ここ一週間の記憶を失っているという認識と、牧志の外から見ての記憶喪失)
あと、病弱だった佐倉さんがいきなり知らない場所に放り出されて目の前に変なのいたらそりゃ不安だろうなっていうのがあまりに大きかった
あなた方の今の身長はせいぜい100センチ強。
上半身はまあ服によるだろうが、下半身は下着まで脱げるし、靴は床に落ちているだろう。
だいたいシャツなどで膝まで隠れるだろうし、さしあたっての問題はないだろうが……
手足は縮み、部屋はとてつもなく広く感じる。一度降りるとカウンターの上が見えない。
混乱した現状の中、だいぶん途方に暮れて周囲を見回す。牧志は佐倉さん(巨大に見える。腰くらいまでしか視界に入らない)と謎の睨み合いを演じている。
どうするんだこれ。
困り果てて一歩進むと、自分の靴を踏んづけた。
派手に転倒する。
「痛っ!」
痛い! 思わず涙が出る。抑えが効かずに泣き叫んでしまう。牧志がつられるように泣きだした。
ボロボロと涙をこぼし、泣くが為に泣いているような状態だ。
大人のなりふり構わない大声と、子供の泣き声がユニゾンを奏でた。
大人の精神を持っていても、入っているのは子供の完成していない体。
あまりにアンバランスな状態は、精神の安定も崩す。
自分達の泣き声が余計に泣くのに火をつける。止めようにも止められない。
涙が止まらない。地面に落ちた(波照間の)スラックスを握りしめて泣きじゃくる。
唐突に体にかかっている布が蠢いた。
不意に襲った感覚に、顔を涙まみれにしたまま叫びが引っ込んだ。
あなたのスラックスを毛布か何かのように握った牧志が、
見上げるほどだった佐倉が、みるみる縮んでゆく。
体中の細胞がきしみを上げる。
いや、視界が、実際に遠くなっていく。
小さな牧志が握りしめている布が、自分のスラックスだと分かるようになった。
「あ」
感覚が去って余裕のできた思考に、不意に、嫌な予感が襲う。
「牧志、それ返し──」
返してくれ、と言う余裕はなかった。残念ながら。
元のサイズまで戻った。
服があちこちで引きつる。
そして下半身が……開放感に溢れていた。
隠すべき物は床にくちゃくちゃになって落ちている。
据わりが悪い! どことは言わないが全体的に! 変な具合になったシャツが引きつる。ここには店主もいることを思い出してしまう。
「それ返してくれ!」
今度こそ牧志の手からスラックスを奪い取ろうとする。
縋っていた布を奪い取られそうになって火がついたように泣き叫ぶ牧志。下着姿のまま変な姿勢になっている自分。わけがわからない。っていうかそれ返してくれ。
ちょっと妖精には程遠い状況しかここにはないが。
あまりにわけの分からない状況を、自分の分かる現象に落とし込んだ結果がこの言葉だ。
波照間は【アイデア】。
Sasa BOT 1d100→3→決定的成功(クリティカル)!
佐倉は悪魔使いの力を得る前から妖精を見ていたと言っていたことを。
彼自身は自分の頭がおかしいため幻影を見ているのだと思っていた、と言っていた気がするが。
異様に小さな子供と、いきなり大人になった下半身丸出しの男を見て、
普段自分が見ているものの一種だと思うことで精神の安定を図ろうとしているのだろう……
なんとなく、ピクシーが憤慨する映像が見えた気がする……
彼の現状がすごく分かってしまった。小さな子供を相手にしているような罪悪感と、羞恥心と、この現状に対するどうしようもなさが入り混じる。僕は洞川さんじゃない。開き直れない。っていうかいい加減スラックス返してくれ、牧志……。
※洞川さんに超失礼
なんだか罪悪感が凄い。おろおろとそれだけを伝える。
言ってから二人を見る。
「だれ?」
一応理由付けをしたことと意味のある会話をしたことで少し混乱が収まったらしい。
波照間の口調が少し、子供に対するそれになったのに気づいて、牧志が顔を上げた。
少し落ち着いたらしい彼からようやくスラックスを返してもらう。
呟いて、二人をじっと見て首をかしげる。
「隣の病室にいた……?」
これちょっと波照間と牧志のパターンも見てみたくなってきましたね
で後でうっかり飲めばいいんだな?
波照間のハンカチで涙を拭きながら、牧志が顔を上げた。
ふと、思い出した。最初に出会った時の、小さく背を丸めていた、彼の姿を。
さっきの【アイデア】クリティカルの余波で何かと察しちゃった。
佐倉はニコニコした。裏表のない、輝くような笑みだった。
輝くような、嬉しそうなその笑み。きっと、彼が背にどこか影を負う、それより前の姿なのだろうと思えた。
そんなものを意図せず覗き見ていることに、先程のとは別の罪悪感が軽く差す。
それは確かに水にしか見えない。
佐倉さんが飲んでいたジンジャーエールを発見。竹筒を隅に除け、そっちを差し出す。
ともあれ竹筒への興味は失ったようだ。
とカウンターの向こうを指さす。
……さりげなく牧志のズボンを、彼の近くに移動してやる。たぶんどこかで同じ事になる気がする。
波照間に向かって首をかしげる。どうやら名前が知りたいらしい。
そして困惑したような声になる。
いたほうがよい?
ええほんとに。
つまみのチョコレートがあるのを見つけた。
「チョコレート、好きか?」
その視線がチラチラとチョコレートに向く。
そう言って、チョコレートを彼に差し出す。
佐倉は嬉しそうにチョコレートを頬張った。
「美味しい!」
彼の過去を見ているような、不思議な気分だった。きっと昔の彼は、こうは行かなかったんだろうが。
さっき先輩がズボンを寄越してくれた理由が分かって、ぶかぶかのそれに脚を通す。
全身を襲う軋みに耐えながら、頭をぶつけないようにカウンターの出っ張りを避ける。
先程の大惨事を思い出しながら、内心で先輩に感謝した。
「あー、戻った……。子供ってあんなに感覚が違うんだな。先輩、ありがとう」
病気も治してくれたの?」
佐倉は明るい声で蕩々と指折り数え始めた。
滔々と語られる喜びに口を挟みにくくなって、言葉を呑む。
その様子に思わずよかったな、と言いたくなった。
でもそれが一時的なものに過ぎないことを思い出して、でも結局佐倉さん体調が良くなったからこうしてここにいるんだよな? んん? やっぱりちょっと混乱した。
友だちになってくれてありがとう!」
佐倉の声の調子が不意に夢見るように静かになった。瞳の色が揺らぐ。時が重なる。
どうしてこんな話してんだろうな?」
「さてな、酔ったんじゃないか?」
波照間の眼がどこか優しかった。
カウンターの椅子の上に戻って、牧志は穏やかに笑ってよく分からないことを言った。
口の中甘っ。すみません、水下さい」
カウンターの中にはいつの間にかバーテンが立っていて、氷がグラスの中を滑る涼やかな音が、魔法の終わりを告げた。
魔法の終わりを実感するように、揃って水を頼む。
やるとしたら佐倉さんは牧志にやりそう>面白がって
ひたすら男三人で酒盛りするだけの話。
たまにはこんな夜があってもいいだろう。
置き卓第二弾。のんびり話すだけだから置き卓向きだろうと思いきや、会話が盛り上がるとリアルタイムになりがちに……
TRPGリプレイ【置】CoC『眼窩に祝福』 佐倉&牧志 3
「不定に陥ったら、しばらくプレイから外れることになるだろう、みたいな記載もある。」
「おかしいな? 不定に陥っているのに容赦なく巻き込まれてるんだけど。」
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
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PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」