画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: netabare.png

こちらには
『Midnight pool』のネタバレがあります。

本編見る!
KP
………………

………………

………………

……閉じられた眼の向こうで、くるくると視界が回っている。

薄暗い光を背に回る、曖昧な影。

強い眩暈と、瞼の隙間から入り込む弱い光。
ここは薄暗くて、少し寒い。

誰かの名を呼ぶ声が聞こえる。
佐倉 光
体を覆う不快感が寒さというものだったと思い出す。
目を刺激するのは光。耳に聞こえるのは音。
声。
KP
「…………さん、」
牧志 浩太
「…………さん、」
牧志 浩太
「佐倉さん!」
佐倉 光
だれかが……牧志が呼んでいる。
KP
それは、あなたのものらしい名を呼ぶ声だった。

あなたはふと、眼を開くことができることに気づく。
眩暈は緩やかに去っていき、相変わらず記憶は戻らないが、先程まで何をしていたかは思い出せた。
佐倉 光
「僕、どうして……」
階段を登ろうとしていた……気がする。
ここは水族館だ、確か。
佐倉 光
「気絶……したのかな……」
牧志 浩太
「よかった……、目が覚めたんだな」

目を開けると、そこはロッカーの並んだ簡素な部屋らしかった。
あなたの声を聞いて、牧志が大きく安堵の息をつく。
牧志 浩太
「佐倉さん、いきなり倒れたんだよ。
ここは水族館の医務室。スタッフの人に手伝ってもらって、ここまで運んできたんだ」
佐倉 光
「ごめん……突然、気が遠く……
というか、自分が生き物だということを忘れたというか……
朝から何度か起きてる、そういう、ことが……」
佐倉 光
「ただの貧血か何かかと思ってたんだけど……ごめん」
身震いをする。胸元に手をやるが、何もない……。
牧志 浩太
「そうだったのか……。
生きるために必要なことまで忘れてしまうなんて、そんなこともあるのか」
牧志 浩太
牧志は心配そうにあなたを見、無意識にか自分の胸元に手をやった。
それから一度深く息を吸い、安心させるように微笑んで付け加える。
牧志 浩太
「……でも、目を覚ましてくれてよかった」
牧志 浩太
「佐倉さんが倒れてる間に、外で停電が起きたみたいなんだ。
今は非常電源に切り替わってるけど、生き物たちが優先だからなのかな。
冷房が強い」
KP
確かに、先程から妙に肌寒いと感じる。
辺りを見れば、簡素な部屋にロッカーが並んでいる。
ベッドは休憩用のものらしく、ここは医務室というよりは簡単な休憩室に近い。
佐倉 光
「停電……」
この部屋に他に人はいない?
KP
この部屋に他に人はいないようだ。
辺りには、妙な静けさが満ちている。
佐倉 光
「体調が悪いし、帰った方がいいかも知れないかな。
シローは?」
牧志 浩太
「東浪見と会ってさ。
俺が佐倉さんを運んでる間に、東浪見が連れてってくれた。

たぶん、その方が心配させないだろうから」
佐倉 光
「とらみ……さん。知り合い……友達かな」
牧志 浩太
「あ……、そうか。
そう、東浪見は俺達の友達。
よくシローの面倒を見たりもしてくれてて、すごく頼りになる、いいやつなんだ」
佐倉 光
「それなら、良かった」
スマートフォンをチェック。あれからどれくらい時間が過ぎたんだろう。
KP
スマートフォンを確認すると、もう随分時間が過ぎていた。

夜だ。
本来なら、水族館はもう閉まっている時間だろう。
分からない
佐倉 光
何が起きているんだろうなぁ。きっかけも理由もさっぱり分からん。
KP
何が起きてるんでしょうね。
佐倉 光
きになるー!

佐倉 光
「誰も、いないんですか?
もう帰らないと……」
慌てて立ち上がろうとする。
KP
立ち上がろうとしたあなたは、急に立とうとしたせいか、ふらつく。
牧志 浩太
「危ない!」
牧志が慌ててあなたを支える。
佐倉 光
「ごめんなさい……」
反射的に謝った。
牧志 浩太
「いや、いいよ。ゆっくり行こう。
俺も、外の様子は気になる。

閉まってても警備員さんくらいはいるだろうし、出口を開けてもらって出よう」

牧志はあなたを支え、ゆっくりと立ち上がる。
佐倉 光
牧志に支えて貰って、部屋全体を見回す。
内線電話とかあるかな。
KP
〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 85〈目星〉 Sasa BOT 1d100→87→失敗
牧志 浩太
1d100 98〈目星〉 Sasa BOT 1d100→63→成功
KP
辺りは薄暗く、大きな物以外は何があるのかよく分からない……。
牧志 浩太
「あ、」
牧志が何かに気づいたように、あなたをその場に立たせて壁の一角へ向かう。
彼はそこから何かを外した。
牧志 浩太
「懐中電灯だ、常夜灯のやつ。
悪いけど、借りていこうか」
KP
内線電話などはないようだ。
佐倉 光
「さすがにこんな時間までって、忘れられているとしか思えないんだけど……」
牧志 浩太
「ああ、それは……、佐倉さんが目を覚まさなかったから、動かすのが心配でさ。

もう、こんな時間になってたんだな」
佐倉 光
「それじゃ、勝手で悪いけど帰ろうよ。
仮にもお客様をこんなに放置するなんてあり得ないだろうし……絶対忘れられてるか、トラブルかだよ……」
牧志 浩太
「だな、帰ろう。シローも心配してるだろうしな」
KP
医務室の扉の上には、非常口のランプがついている。
扉は特に困難もなく開きそうだ。
佐倉 光
牧志君ロッカーに荷物入れてたりしない?
※ロッカーは調査場所になってたりしないかな。
KP
持ってきた荷物はベッドの横に置いてある。
ロッカーの中には救急箱や担架が入っているようだ。
佐倉 光
それじゃあ(探索は)問題なさそうかな、出よう。
佐倉 光
「ありがとう、歩ける……」
扉に手をかけて、一応〈聞き耳〉立ててから開ける。
KP
〈聞き耳〉で判定。
佐倉 光
1d100 79〈聞き耳〉 Sasa BOT 1d100→56→成功
KP
外からは何の物音もしない。
不気味なほどの静けさと薄暗い寒さだけが漂っている……。
佐倉 光
「誰もいない? 閉館してるっていっても、そんなにすぐに人がいなくなったりするかな」
牧志 浩太
「だよな……。ここにも、誰もいないのか?」
佐倉 光
扉を開ける。
KP
扉を開けると、そこは薄暗い通路だった。

「冷たい海のいきもの」と書かれたパネルが、牧志の持つ懐中電灯の明かりに照らされる。
通路の両側に水槽が見える。

順路に従って非常口のランプがあるので、迷うことはなさそうだ。

一階への階段へと続く道を振り返れば、そちらは暗く、非常口のランプも消えてしまっているようだ。
佐倉 光
「これじゃ危ないか。明るい方に行くしかないかな。
警備員さんか職員さんか、誰かに会えればいいんですけど」
困ったように暗闇をきょろきょろと見回す。
佐倉 光
「でも、こういう誰もいない水族館が見られるっていうのもちょっと面白いかも……」
佐倉 光
「ここ、二階? ここに来る前に気絶したような……」
自分たちが来た方の道を見てみる。
牧志 浩太
「うん。階段を上がろうとした所で倒れて、俺がここに運んできた」
牧志 浩太
あなたは牧志の声と仕草に、ぴんと張った警戒の糸を感じた。
牧志は、辺りを警戒している。
その背中は何か、危機の味を知っているような気配を感じさせた。
佐倉 光
「牧志?」
牧志の警戒している様子に少し驚く。
佐倉 光
「どうか……したんですか?」
牧志 浩太
「ああ……、いや、そうか。佐倉さん、覚えてないんだったな」

牧志は一度足を止め、振り返る。
あなたの眼を、真剣な顔で見つめる。
牧志 浩太
「信じられないかもしれないけど、頭にだけ入れておいてほしい」
牧志 浩太
「俺達は、よく奇妙なことに巻き込まれる。
化け物に遭ったり、変なものに攫われたり、変な所に迷い込んだり、そこで死にそうな目に遭ったりする」
佐倉 光
「え? 何を言って」
牧志 浩太
「今、何か起きてるって決まったわけじゃない。
でも、もしかしたらって思って」

牧志はそこで一度言葉を切り、あなたの表情を見る。
牧志 浩太
「ごめん、怖がらせたいわけじゃないんだ」
佐倉 光
「やめてくださいよ、こんな時にそんな冗談……」

朝、彼は言っていた。
「仕事は悪魔退治だ」と。
佐倉 光
「冗談ですよね?」
牧志 浩太
「冗談じゃないよ」

彼は、真っ直ぐにあなたの眼を見て言った。
その眼の中にはどこまでも真剣な色と、一片の狂気が含まれているような気がした。

気のせいかもしれなかった。
佐倉 光
「……異常なのは確かです。
体調の悪い客を夜まで放置して水族館から人がいなくなるなんて普通あり得ないし。
何か大きい災害とか、犯罪の類いが起きたのかも知れない。
だから、何だか分からないけど警戒した方がいいのは確かです」

そういうことにしておこう。そう考えればいい。
この人が本当のことを言っていようと嘘を言っていようと、
正気だろうとおかしかろうと、それなら問題ない。
牧志 浩太
「ごめん、ありがとう」
牧志は一度目を伏せ、頷いて気を取り直したように前を向いた。
佐倉 光
「ひとまず人探して、外に出ましょう」
牧志 浩太
「だな。賛成」

KP
通路の壁に配された水槽には、魚の名前が書かれているパネルが並んでいるが、水槽の中には何もいない。
牧志 浩太
「確かに、普段見られない顔だな。誰もいない水族館って。
いつもより大きく見えて、不思議な感じだ。

……あれ? 何もいないな」
佐倉 光
「動物園みたいに、睡眠用の水槽がある……?
あまり意味がない気がしますけど。
魚に昼夜ってそんなに関係あるのかな」
水槽の中をのぞき込む。
佐倉 光
「物陰にいるんじゃないですか?」
牧志 浩太
「ああ、かもしれないな、物陰で寝てるとか?
あまり気にしたことなかったけど、魚も寝るだろうし」
KP
あなたは水槽を覗き込む。

何もいないように見えた水槽の中の水が、ざばざばと音を立てて揺れ始めた。
KP
佐倉さん、〈聞き耳〉で判定。
佐倉 光
1d100 79〈聞き耳〉 Sasa BOT 1d100→24→成功
佐倉 光
「おっ、揺れてる?」
KP
ガラスが割れるような音が響いた。
直後、水槽の中を微かに照らしていた灯りが一斉に消える。
それから、何かが低く呻くような声が微かに聞こえる。

通路が一層暗くなる。揺れる水の音が不気味に響き続けている。
ここから早く離れた方がいいのではないか、あなたはそう感じる。
佐倉 光
「わぁっ!? なんだこれ!?」
KP
佐倉さんは〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 85〈目星〉 Sasa BOT 1d100→77→成功
KP
水槽にはあなたと牧志の姿が反射して映っている。
水が波立つ気配以外は、中に何がいるのか、いないのかわからない。
牧志 浩太
「!」
牧志は声を上げかけたが、辛うじて動揺を押し殺したようだった。
佐倉 光
「な、な、なんか危険みたいな?」
牧志 浩太
「あ、ああ。早く出よう」
KP
非常口のランプが通路の向こうで微かに光っている。
佐倉 光
非常口へ急いで走る。

KP
幸い、水槽の気配があなた達を追いかけてくることはない。
水槽から逃げるように走れば、その先は細い通路になっている。
佐倉 光
「何だったんだろう。もう。
水槽から何か出てくるはずもないし、逃げることはなかったかな……」
息を整えて暗い通路を振り返る。戻る気にはなれないが。
KP
通路に何か小さなものが落ちている。
佐倉 光
なんだろう。屈んでよく見てみる。
KP
誰かの靴が片方だけ落ちている。
辺りを詳しく見てみる?
佐倉 光
「こんな場所に?
僕たちと同じように巻き込まれて、慌てて逃げた人でもいたのかな」
牧志 浩太
「本当だ……。誰かいたんだな。かもしれない」
佐倉 光
靴のサイズ、男女別は?
KP
近寄って確認するなら、〈目星〉または〈追跡〉など、痕跡を調べるのに役立ちそうな技能で判定。
佐倉 光
1d100 85〈目星〉 Sasa BOT 1d100→84→成功
KP
それは動きやすそうなスニーカーで、あなたと同じくらいのサイズの男物のように見える。

そこまで近づくと、傍らに何か光るものが落ちているのに気づく。
それは画面にひびの入った、小型のタブレットだ。
佐倉 光
「随分慌てて行ったんだな。靴なんか落とすかなぁ、普通」
光に吸い寄せられるようにタブレットを拾って見てみる。
KP
触れれば電源が入る。少し使いづらいが、まだ動く。
ロックはかかっておらず、画面にはテキストメモが表示されたままになっている。
◇テキストメモ
「みなも水族館 調査」
噂の調査 ブログ用
心霊現象?  施設の調査 人体実験?
受付 問題なし 従業員 一部白衣→研究チーム
2F 違和感
冷たい海 魚影 形が変わる 人面魚が
逆転現象
KP
牧志と佐倉さんの立場が逆で面白い(佐倉さんが日常、牧志が非日常の人間っぽくなってる)
佐倉 光
僕ただの弱い一般人なので助けてください(戻らないまま進んだ方が楽しそう)
KP
(同感、これは楽しい)

牧志 浩太
「何だこれ……、あの幽霊の噂か? 穏やかじゃない内容だな」
牧志が横からタブレットを覗き込む。
佐倉 光
「2Fって、ここのことですよね。
幽霊、って、来る前に見た噂の……いや、そんな、まさ……」
ふ、と言葉が途切れる。

水槽の前で聞いた少女の声。
あの時、迷子の女の子なんていただろうか。
目を覚ました時に泣いている子なんて周囲にいただろうか。
佐倉 光
「牧志、今日迷子の女、いましたよね?
1Fで、泣いてる子の声が聞こえたんだ、『なんでだれもいないの』って」
牧志 浩太
「えっ、女の子? いや……、そうだな、いたかもしれない。
あの子が、噂の幽霊かもしれないって?」
佐倉 光
「牧志も聞いているならただの迷子かも知れないし、
僕たち二人とも幽霊の声っていうのを聞いたのかも知れないけど……
って、幽霊、そんなこと」
佐倉 光
どうして『幽霊がいるかも』なんて自然に思ってしまったんだろう。
僕はやっぱりおかしい。
病院には幽霊話なんてつきものだったけど、ここは水族館だ。
実験がどうのなんて噂もあったけど、普通それで幽霊ってちょっとおかしい。
水族館に人が死んだり化けて出る要素なんてないじゃないか。
いや病院?? どうしていきなり病院?

気がつけば混乱する思考が口から漏れていた。慌てて取り繕う。
佐倉 光
「幽霊なんているわけないですよね。
せいぜい人面魚とかそれくらいで。
大体どうして水族館で人体実験なんだか」
牧志 浩太
「どうだろうな。幽霊がいるかどうかは分からないけど、近いものなら佐倉さん、見たことがあるし。

それに、もしかしたら女の子の幽霊っていうのが、幽霊じゃなくてその人面魚の足音、だとか」
KP
真顔で言う彼はあなたを脅かすつもりなのだろうか。
その視線はひび割れたタブレットの盤面に落ち、口元は笑っていなかった。
牧志 浩太
「いや、人面魚に足音ってのも変か……。足があれば別だけど」
佐倉 光
「…………」
真面目な顔で何言ってるんだろうこの人。
早くここ出なきゃ。こんなの拾わなきゃ良かった。
優しくてまともな人かと思ったんだけどな……

自分の中にどことなくこの異常さを自然に飲み込めてしまうところもあって、
それこそがなにより怖かった。
牧志 浩太
「……」
何となく察されたのだろう。微かに苦笑が浮かぶ。
佐倉 光
少し迷ったが、タブレットは持って行くことにした。
明かりになるだろうし、受付にでも届けてやった方がいいかも知れない。
靴を隅に寄せて置いて先に進む。
牧志 浩太
「そうだな、考えてる場合じゃない。行くか」

KP
通路を抜けた先は、少し開けた場所になっていた。

ぼんやりとした薄暗い間接光に照らし出されたそこには、美術館の展示品のように、まばらに整列された正方形の水槽がいくつも置かれている。

イメージ画像
佐倉 光
あらきれい
KP
あんまりまばらにはならなかった
綺麗な図なのでイメージ映像が欲しくてImage creatorさんにお願いしました
佐倉 光
これ探索としてはそれぞれの種類なのかな。
KP
その認識で大丈夫です。>種類ごと
AICGはざっくりしたイメージをぱっと提示したい時にとても便利ですね。

牧志 浩太
「あれ……、ここには明かりがついてるのか?」
KP
案内看板には「季節の展示 一般社団法人『人間の栞』協賛 揺蕩う世界」と書かれている。

見渡してみると、金魚、クラゲ、クリオネの三種類に分かれて、大小の水槽が配置されているようだ。

光はそれらの水槽から放たれていた。
薄暗い中、淡くライトアップされた水の箱が並ぶ光景は、どこか幻想的に感じられる。

水槽はそれぞれの種類につき、いくつか置かれている。

その先に通路が続いていた。
佐倉 光
「うわー、綺麗だなぁ!
ちょっと現実味がなくて怖いくらいだ」
カラフルな生き物たちを眺める。
牧志 浩太
「だな……、綺麗だ」
何でここには明かりがついてるのか。人間の栞って何だろう。
ここは……、そう漏らしかけた牧志の肩から、あなたの歓声でふっと力が抜けた。
佐倉 光
暗闇の中ではひらひらと踊る金魚の尾が魅力的だ。
まずはそちらの水槽に寄っていこう。
牧志 浩太
「よく分からないことになってるけど、確かに綺麗だな」
牧志が頷いて、水槽に寄っていくあなたの横に歩いてくる。
KP
明かりに照らされた水の中を、金魚は悠然と泳いでいた。
長い尾が光に透けて、刻まれた繊細な段の間を影が揺らめく。

生きたものとは思えないほど、精緻な存在。

群れ泳ぐ金魚たちを見れば、丸い身体に尾びれをつけたものと、朱色が流れるように細いものがいる。

赤と白の金魚が、互いに行き違いながら、各々自由に泳いでいる。
KP
金魚の種類について知っているかどうか思い出したければ、〈生物学〉
佐倉 光
1d100 1〈生物学〉 Sasa BOT 1d100→76→失敗
佐倉 光
わかんない。綺麗だなー。
KP
あなたは金魚の種類には詳しくないようだ。とりあえず綺麗なことしか分からない。
KP
悠然と泳ぐ金魚たちの合間に、たまに横の水槽から来る光の加減で、あなたと牧志の顔が映る。
佐倉 光
しばらく綺麗な魚を眺めていて、ふと、ガラスにうつる牧志の表情に気付く。
佐倉 光
ちょっと変わった環境で綺麗な魚が観られてラッキー、なんて気楽な顔をしていない。
どこかで冷静に、注意深く、何かを探すような顔をしている。
一体ここに何があると思っているんだろう。
この魚が襲ってくるとか?

この魚の中に人の顔したヤツは……いないよね? 思わず見てしまう。
KP
佐倉さん、【アイデア】で判定。
佐倉 光
1d100 85 【アイデア】 Sasa BOT 1d100→71→成功
KP
ふと、揺らめく金魚の尾鰭の中に、違う色を見つけた。

一匹だけ、違う色の金魚がいる。
そう思ったすぐ後に、それが金魚でないことに気づく。

ワンピースを着た小さな女の子が、水槽の中から不思議そうにこちらを見ている。
佐倉 光
「……えっ?」
二度見した。人形、か?
佐倉 光
「ま、まま、牧志っ! これ!」
慌てて水槽を指さす。
牧志 浩太
「!」
あなたの叫びに、牧志が咄嗟にあなたを庇うように前に出る。
KP
水槽の中のそれは、ガラス越しにすうっと近寄ってきて、その円い眼であなた達を見つめている。
KP
どうする?
佐倉 光
ほっといて行った方がいいような気もした。
しかし、小さな人型の少女、には何故か恐怖を感じなかった。
幽霊、といった雰囲気ではなかったのもあるし、
どうしてかこういった存在には何故か害あるものはそう多くないと思えた。
佐倉 光
「きみ、そこで生きてるの? どうしてそんな所にいるの?」
思わず話しかけていた。
無警戒の理由
佐倉 光
妖精さんと話していた経験より。>小さな少女型のものに害あるものは少ない
KP
ですよね。
佐倉 光
妖精型には悪魔使いの記憶ある時より警戒心がない。
KP
なるほどなぁー。
佐倉は幼い頃、妖精族の悪魔とそれと知らずに話していた。
体が丈夫ではなく病院にばかりいた彼の、数少ない友人がそれだった。
悪魔使いになってからは、悪魔の性質を知ったことで、小さくて可愛い悪魔でも全く油断ならないものだと知っているのだが……

KP
あなたは立ち止まり、少女に話しかける。
あなたがそうするのを見て、あなたの前から退いて牧志も立ち止まる。

少女の唇が、はくりと動いた気がした。
あなたの頭の中へと直接差し込むように、どこからか幼い子供の声が聞こえる。

『ここはどこ?』

円い眼があなたを見てそう問うていた。
佐倉 光
「うわ!? あ、ここは水族館だよ。金魚の水槽」
牧志には聞こえているんだろうか。思わず横目で表情を伺う。
KP
あなたは横目で牧志の表情を窺おうとする。
動かない。
目の前の少女から、視線が、動かせない。

あなたの目の前で、少女は緩やかに首を横に振る。

『ちがうよ』

その声は頭の中に鳴り響くようで、耳をつんざくように鋭く、痛い。

頭が痛い。
痛い。
頭が割れるように痛む。

胸が詰まって、
息が、できない。
佐倉 光
「……ッ!?」
頭が痛い。胸が痛い。
身体の異常から生じる当然の反応として悲鳴を上げようとするのに、声が出ない。
喘ぐ。呻く。手が動くなら胸を押さえて、陸に上がった魚のように口をぱくぱくと動かす。
佐倉 光
(助けて、誰か!)
KP
呼吸を失ってもがくあなたの前で、それがあなたを見つめたままぐるりと一回転した。

水流に流されて緩やかにたゆたう、
それは、

ぽっかりと瞳孔を開いた牧志の顔だった。
KP
【INT】×4で判定。
佐倉 光
ワァ懐かしいネタ
KP
イエース
ここ偶然にも丁度重なって大層良い
かつて、佐倉はこれと全く同じような『水の中を漂う牧志の死体』を目撃したことがある。
佐倉 光
「……!」
絶叫、もまた、声にならない。
助けを求めようとした相手が、もう溺れている?

いや、違う違う違う! これはおかしい! おかしすぎる!
1d100 68【INT】 Sasa BOT 1d100→19→成功
KP
助けを求めようとした先に助けはなく。
どうしてどうしてだろう、訳もなく、訳も分からず、底の抜けるような絶望があなたを襲う。

その時。
どこからか、とん、とん……とん、と、あのリズムが響いてきた。
KP
目の前で水流に流されて浮かぶ姿ではなく。
溺れもがく水の遙か上から、あなたの胸に染み込むように、規則的なリズムが聞こえてくる。
牧志 浩太
「大丈夫」

遙か上から降ってくる、穏やかな声。
自然と水槽から逸れて上へ向かう視線の先には、薄暗い天井しかなく、けれど、そこから声が降ってくるように聞こえた。
牧志 浩太
「大丈夫」
佐倉 光
絶望に沈みかけた意識に軽いリズムがしみ込んでくる。
優しい声が振ってくる。
それを半ば、予想していたような、期待していたような気がした。
たとえその死を目の前にしようと、彼は必ず手を差し伸べてくれると。
そうやって支え合ってきたのだから・・・・・・・・・・・・・・・・
牧志 浩太
「佐倉さんは、大丈夫」

その声はどこか少し、祈るような響きを湛えていた。
佐倉 光
その声に縋るように、リズムに同調する。
沈む。浮き上がる。沈む……
苦痛が緩んでゆく。
佐倉 光
「……! ……っ、……は……」
佐倉 光
ゆっくりと呼吸を整えてゆく。牧志の姿を探す。
導いてくれるリズムのその先に必ずいるはずだ。
KP
水流の中に浮かんでいた牧志の姿が、ぼろぼろと綻び、泡となって消えていく。

はっと目を開くと、牧志があなたの手を取っていた。
水槽の中には少女の姿も牧志の姿もなく、ただ赤と白の金魚が緩やかに泳いでいる。
牧志 浩太
「よかった……、目を覚ましたんだな」
佐倉 光
「僕は……眠っていた?」
何度も深呼吸をする。もうこれは、明らかな異常だ。
佐倉 光
「また、溺れていた。
水槽の中に、女の子がいて……あれは見た?
『違う』って言ってた」
佐倉 光
「その子が返事した途端、呼吸ができなくなって、溺れて、
前と同じだ、呼吸の仕方を忘れたみたいに、生き方を忘れたみたいに何もできなくなって……
気がついたら水槽の中に牧志がいて」
牧志 浩太
「ああ、見た。何を言ってるかまでは、聞こえなかったけど。
その後、金魚の水槽の前で佐倉さん、突然苦しみだしたんだ」
佐倉 光
「もう意味が分からないよ……ずっとこうなんだ。
こんな記憶喪失、あるわけない」
無意識に胸を押さえる。
佐倉 光
「もしかして、お守りはこのために?」
牧志 浩太
「いや、違う。
お守りは、佐倉さんの身体の痛みを抑えてくれてたんだ。
佐倉さんは前にも何度か記憶を失ってたけど、こんなことなんて……、初めてだ」
佐倉 光
「……見たんですか」
この水族館の噂。
少女の声。足音。鈴の音。
佐倉 光
「何なんだ。本当にいるのかな、幽霊なんて」
牧志 浩太
「ああ、見た。
……意外と、あり得ないと思ってたものだって、あったりするよ。
幽霊かどうか、は分からないけど」
佐倉 光
「僕が壊れていて、おかしいだけじゃなかったのかな?
自分のことも、ずっと助けてくれる人のことも分からずに、幻を見て恐慌に陥って、ヒステリーで自分を追い詰めてありもしないものをあると思い込んでたんじゃ」
佐倉 光
……違うのだろうか。
おかしいのは世界だなんて、そんな可能性があるのだろうか。
KP
〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 85〈目星〉 Sasa BOT 1d100→76→成功
KP
あなたはふと、水槽の前に鈴のついた朱色のお守りが落ちていることに気づく。
佐倉 光
お守りを拾い上げる。
KP
誰かの落とし物だろうか。神社の名前か何かが書かれていたようだが、擦り切れてしまっていて読めない。
佐倉 光
「お守り……」
今はどんなものにも縋りたいと思った。
深く考えずに見つめる。
佐倉 光
「なんだろう、変な呼吸困難、ここに来てから起きすぎてるんだ……
ここに何か理由があるのかな。
でも初めて起きたのは駅でだったし」
牧志 浩太
「……かもしれない。このまま、歩いてみよう。

駅の時だって、ここに行くって決めた後だったから。
その時から、何か起きてたのかもしれない。
探しながら行けば、何か分かるかもしれない」
そうはっきりとした声で言った後、少し気弱げに苦笑した。
牧志 浩太
「……佐倉さんが大変な時に、いまいち確証がないのが悪いけどさ。
他に、できそうなことがすぐに浮かばなくて」
佐倉 光
頼りになる言葉の後に急に見えた弱みが、奇妙に印象的だった。
悪魔だの幽霊だの訳の分からないことを言い、溺れた時に冷静に引き上げてくれる彼が、急に無理をしているように思えた。
何でも分かっているように見えた牧志。
こういうことに慣れていそうな牧志。
しかし彼も全てが分かっているわけではないし、慣れているから平気だというわけではないのだ、きっと。
佐倉 光
「駅であったこと、ちゃんと話してませんでしたよね」
お守りを半ば無意識にポケットに滑り込ませて、牧志の顔を見つめる。
佐倉 光
「関係ありそうだから、話しておきます」

簡単に共有する。
二人とはぐれ、何かから逃げてくる人たちを目撃したこと、何か箱のようなものが落ちていたこと。
その時に何か「自分が誰なのか分からなくなるような喪失感」を覚えたこと。
佐倉 光
「その時は、僕の記憶がおかしいんだと思ってたんです」
牧志 浩太
「逃げてくる人と箱か……。そういえば、さっきの靴も何だか、逃げてるような感じだと思ったんだ。
靴を片方だけ落とすなんて、よっぽど急いで逃げたような。

何か、同じようなことが起きたのかもしれない」
佐倉 光
「そうか、ここでもあれと同じ事が。
でも二人と合流した時、その時見た倒れている人や箱はもういなくなっていたんですよね。
僕と同じように普通に起き上がって歩いて行った……のかな……」
いまいち釈然としなかった。
牧志 浩太
牧志はズボンのポケットから何かを取り出した。
それはカードサイズくらいの小さな手帳で、表紙に短いペンが差さっている。

彼はそのペンを手に取るとキャップを抜き、尻側に差して一度軽く押し込む。
そして、あなたから聞いたことを書き留め始めた。
佐倉 光
小さな手帳とペンが何となく目を引いた。
じっと見つめてしまう。
牧志 浩太
「?」
手元に向かう視線に気づいて、牧志が振り返る。
佐倉 光
「……あ、ごめん、ちょっと気になって」
慌てて目を逸らす。
佐倉 光
「前にも見たような気がしただけだから」
牧志 浩太
「ああ。このペン、佐倉さんが誕生日の時にくれたんだ」
彼はペンのキャップを閉め、あなたの前にそれを翳す。
佐倉 光
「僕が?」
ペンを見つめた。使いやすそうなコンパクトなペンだ。
佐倉 光
「そうなんだ……」
記憶にない、という言葉を口に出すのが、哀しいと思えたのでやめた。
佐倉 光
意識を逸らすようにクラゲを見る。

コメント By.佐倉 光
夜中の水族館を二人で歩いて行く。
自分が悪魔使いで、異様な状況に巻き込まれることが多い、と聞いて面食らう佐倉。
牧志は本当のことを言っているのだろうか?

TRPGリプレイ CoC『機械仕掛けの街』佐倉&牧志 2(終)

「面白かったか? 見物料払えよ」

TRPGリプレイ【置】CoC『ヒナドリ ・ イングレイヴド 』 牧志&佐倉 4

焦りに追い立てられる心は、絶えず周囲に気を配らせ、次はどうする、と追い立てる。そこに思いの入る余地はなかった。

TRPGリプレイ【置】CoC『禁獄ノ糸』 牧志&佐倉 3(終)

何も忘れてなんかいなかった。
刻み込まれて、いる。

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


TRPGリプレイ CoC『VOID』継続『AND/HAND』 ヴィキ&結城 1

「ギャップがすごく気持ち悪い……」

TRPGリプレイ インセイン『赤い糸』明石&敷島 1

「ダメです~。お姉ちゃんに隠し事は条約で禁止されてます~」
「条約を破棄していい?」

TRPGリプレイ CoC『今昔 狼龍奇譚』 1

「そのひとちょっとだけ、うみちゃんに似てたな」
「え、あたしに?」