TRPGリプレイ【置】CoC『迷い家は桜の先に』 牧志&佐倉 1

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こちらには
『迷い家は桜の先に』のネタバレがあります。

牧志 浩太

お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。

最近酷く心が傷つくことがあり、更に恐ろしいものを目撃したことで、理由のない不安にとらわれ続けており、大変心が不安定になっている。

佐倉とは友人。


佐倉 光

サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。
とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
巻き込まれ体質らしい。

最近、遭遇した事件で恐ろしいものを目撃したことで、繰り返し再発する記憶障害にかかっている。

牧志とは友人。


とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。


1は丸々ちょっと長いオープニング。本格的に始まるのは2からです。
KP
感覚を失う事件からしばし過ぎた。

なんとか日常に戻ろうとするあなた方の頭上には、相も変わらず真夏の日差しがじりじりと容赦なく照りつけている。
記憶を失っていた佐倉は、少しずつ少しずつ自らの記録やあなた方から聞く話を手がかりに記憶を取り戻し、以前とほぼ変わらない状態に戻りつつあった。
あなたは……
以前のままのあなただっただろうか?
KP
※牧志の症状少し描写してから治ったと思った佐倉が再発して、二人でカウンセリングに行くことにしようかと思います。シローくんは待たせるの可愛そうだから誰かに遊んでもらおう!
KP
というわけでこちらで開始します。
牧志 浩太
よろしくお願いします!
KP
よろしくお願いします!
牧志 浩太
佐倉さんに今までのことを話し、ゆっくりと記憶を共有し、あの時あんなことがあっただなんて話をして。
牧志 浩太
声を、表情を、気配を音を、向かい合って話せるということを、思うさま味わって。
牧志 浩太
それでようやく、少し自覚が出てきた。
牧志 浩太
今も、手がじんと重く震えているような気がした。

静まり返った場所に置いていかれる痛み。佐倉さんをこの手で殺しかけたという事実。

不安と恐怖が、べったりと思考にこびりついていた。
何を考えても怖い結論になってしまうことにも、その結論が随分偏った思考の産物であることにも、不安が心を殴りつけ続けていることにも、何一つ気づかずに笑っていた。
牧志 浩太
最初に困惑されたのは、寝ている間に何か起きたら困るから、手を縛っておこうと提案した時だった。
牧志 浩太
次は何だったかな、確か歩いている途中に何か起きないように、土日は閉じこもっておこうと言った時?
窓の周りに張る有刺鉄線を探していた時?
牧志 浩太
眠ると死んでしまいそうだから眠らないって言った時?
真夜中にふと自分の手を切りたくなった時?
牧志 浩太
冷静に気を張っていられた俺じゃなかった。
冷静に考えているつもりで、真顔でおかしなことを言っていた。
牧志 浩太
ただ本当は怖くて怖くて不安に駆られて意味のないことをして、疲れ果てていた。

疲れていることにも気づいていなかった。
牧志 浩太
自覚がないって怖いな。
KP
ヤバすぎでしょ。折角だからこれ一個一個に会話したいな。
牧志 浩太
わーい、ぜひ>一個一個


『手を縛って寝たい』

佐倉 光
「手?」
思わず聞き返してしまった。
佐倉 光
「いや、まー、いいけど。別に」
いつだか忘れたけどそんなことをしたこともあったような気もするし。いや、そういう話を聞いた、んだったか。
俺が忘れているだけで、そういうことをすることもあった、のかもしれない。
牧志 浩太
「ありがとう。寝てる間に何か起きそうで、何だか寝づらくてさ」
声があからさまに安堵していたことにも、俺は気づいていなかった。
佐倉 光
「いいよ。
けど俺の部屋に三人は無理だし。シローにお前の部屋で寝てもらう?
シロー一人で寝られるかな?」
KP
「さくら、おそいし。へいき」
佐倉 光
「夜中のトイレは?」
KP
「こわくない。まきし、こわい?」
シローは心配そうにあなたを覗き込んだ。
牧志 浩太
「怖い?」
シローの大きな眼に、俺の眼が映っていた。
見返すと、その眼は何かを怖がっているような気もした。
佐倉 光
「……かもな」
牧志 浩太
「どうだろうな、怖くはない、と思うんだけど」
KP
シローは、佐倉はいつも遅いから一人で寝ることもあるし、夜中のトイレなんかそもそも別に怖くはないのです。いつも一人だったから。
牧志 浩太
縛った手には力が籠もっていて、佐倉さんは少し苦しかったかもしれない。
佐倉 光
「ちょっ、いてぇ。鬱血する。明日の朝俺の手首無くなっちまうからもっとソフトに」
佐倉の冗談めかした言い方の中に困惑が混じっていた。
KP
「だいじょうぶ? えほん、よむ」
シローは自分が寝る前にあなたをベッドに横たわらせて、お気に入りの絵本を読んでくれた。
牧志 浩太
シローのやさしい声を聞いていると、不思議と眠れる気がした。
その時点で少し寝不足になっていたようで、引きずり込まれるように眠りに落ちた。


『土日外出しない』

佐倉 光
「え? いやでも今週シローを動物園に連れてくって約束……体調悪いのか?」
KP
「またこんどでもいい……」
シローはあからさまにがっかりした顔はしていた。
牧志 浩太
「そう……、か。そうだったな。ごめん、行こう」
シローのがっかりした顔に、初めて約束をしていたことを思い出した。
普段なら忘れることなんてなかったのに、数限りない不安への対処に思考が埋め尽くされ始めていた。

動物園には行ったけど、何を見たのかよく覚えていない。
ずっと周囲を見回していた。背後を振り返っていた。
佐倉 光
「……今日は早めに帰ろうか」
KP
一時間後の公開餌やりのポスターを見て何か言いかけていたシローは、あなたを見て頷いた。
牧志 浩太
「え? いいよ、シロー、あれ気になるんだろ」
佐倉さん達が俺を見る視線に、心配そうなものを感じて戸惑った。
佐倉 光
「新しいボードゲームでも買って帰ろうぜ」
KP
そう言って、佐倉はうっかりもう家にあるゲームを買って帰った。
牧志 浩太
同じゲームが二つ並んでいるのを見て、ふと形のない不安を覚えたのを、少し自覚した。


『有刺鉄線』

佐倉 光
「何見てるんだ? 
窓に飛散防止フィルムでも貼るか。何かあった時に……」
牧志 浩太
「ああ、そうそう。前に窓割られかけたりしたしさ、丁度いいかと思って」
前にも寄ったホームセンターで、随分色々と買い込んだ。
家の扉や窓は、いつの間にか鍵だらけになっていた。
佐倉 光
「鍵追加するのか? いいんじゃないか?」
佐倉 光
「……有刺鉄線? 何に使うんだ、そんなの」
牧志 浩太
「ああ、これ?
窓の周りに張っとこうと思って」

無限に湧いて出る不安が日常を侵食しかけていた。
そんなになっても自覚はなかった。
佐倉 光
「は? え?」
さすがに戸惑った。
悪魔やらなんやらの襲撃を考えていた俺でもそんなの考えたこともないぞ。
つーかそれなら金属製の鎧戸とかそういった奴の方が……いやいやいや。
冗談、だよな? さすがに。
おそるおそる目を見て本気だと悟る。
駄目だここは真面目に説得しないとマジで設置する顔だ。
佐倉 光
「いや刑務所だろそこまで行ったら。
つーか有刺鉄線はないだろ有刺鉄線は。
自宅にいた時に襲撃型の異変に遭ったことは? 今までに何回? 俺の方足したってせいぜい三回程度だろ?
いつ起きるか分からない異変のために日常犠牲にしてどうすんだよ」
佐倉 光
「お前やっぱちょっと……」
俺の記憶に残っていないだけで、こいつはそういう奴なのかも、と思った。
しかしシローや波照間さんに訊いたらやっぱり少し違う気がする。
東浪見には「またか」みたいな顔をされた気がするけど、
そもそも、牧志を味方だと断定した俺の感情が「違う」と叫んでいる。
牧志は、どこかがおかしいんだ。
牧志 浩太
「そう……、だっけ。でも、いつ起きるか分からないし。
ちょっと、って?」
牧志 浩太
牧志の目元に深い隈が落ちていた。酷く消耗している。
声がふらつき、眼の光が冷静さを失っていた。声の端に強迫観念のようなものを感じ取れた。

写真の中の牧志は、こんなに消耗し、疲れ果ててはいなかったはずだ。
冷静に自然に気を張っている。メッセージに残る言葉の端々や、写真や動画に映る姿からはそんな雰囲気が匂った。


『眠らない』

KP
十日も経つと、佐倉が記憶を取り戻して安定してくるのと対称に、あなたは憔悴しきっていた。
佐倉やシローがあなたを見る目には明らかに心配と不安があった。
それにあなたが気付いていたかどうかは。
牧志 浩太
心配されてるな、とは気づいていた。
普段深入りしてこない東浪見までもが心配してくるんだ。余程だ。

でも、その理由が分かっていなかった。
絶えず追い立てられていることも、俺を絶えず追い立てているのが形も理由もない不安だってことも、自覚していなかった。

それにはたぶん理由があって、ただ溢れ過ぎていて知覚できていなかったんだ。
佐倉 光
「え……そう? 寝た方が……いいと思うけど、俺は。
何かあった時に寝不足だとそれこそまともに対処できなくて危ないし」
寝ない、と宣言したあなたの目に深く刻まれたクマを見て佐倉が呟く。
佐倉 光
「そもそも寝られてないみたいだし。
俺もそっちで寝た方がいいか? ドルミナー使える悪魔でも探してこようか?」
牧志 浩太
「寝られてない? そうかな、確かに色々やってて寝不足だったけど」
牧志 浩太
「……目を閉じると、起きたときに誰もいなくなってそうな気がしないか?」

あれ、どうしてそんな言葉が出たんだろう。
佐倉 光
「いや……そんなことは、ないな、俺は」
KP
佐倉はあなたをじっと見つめた。
牧志 浩太
「そうか……、ないのか」
佐倉さんの黒い瞳孔を、じっと見つめ返した。

何かがおかしいような、何か気づいていないものがあるような、ようやくそんな気がしはじめていた。
佐倉 光
「心配だったらまた腕くくって寝るか?
あまり力一杯やんなよ? 痺れるんだから」
牧志 浩太
「そうだよな、ごめん。
心配か、そうか。そうなのかな」
牧志 浩太
呟いて、自分の手を見下ろした。
心配、不安、という言葉がどこかに嵌まるような気がした。
それは形がなくて、埋める術もない感情だ。
牧志 浩太
「いや、括らなくていい……、よ。たぶん、その必要はないんだよな。
でも、そうだな、一緒に寝てくれると助かる」

そうする必要があるから、そうしている。
そう信じていたことが、足元から壊れ始めていた。
何か別の理由で、俺はそうしていたんじゃないか。
牧志 浩太
※少しずつ自覚が出てきたのはいいけど、そのせいで心にかかっている負荷にも気づいてしまって自分の手を切ろうとする流れ。

KP
その日はまたシローをあなたのベッドに寝かせ、佐倉の部屋で寝ることになった。
佐倉は何故か、部屋の奥にあるベッドに寝るようにと強く言ってきた。
疲れているようだから、と言われたが、
床に敷いた布団の位置は、あなたがベッドから降りると下で寝ている者を踏むか乗り越えるかしなければならない場所だ。
KP
いつもベッドで寝てんのシローだった。
牧志 浩太
いつもシローにその位置を譲ってるんだなぁ。
KP
佐倉の方が基本遅いからですね!
牧志 浩太
なるほど!
帰ってきたときに寝てるのを邪魔しないようにかぁ。
牧志 浩太
その位置からは、佐倉さんの部屋がよく見渡せた。
一度だけ、この位置で目を覚ましたことがある。

佐倉さんの気配が近い。
何だか懐かしくて、くすぐったい。
今日は窓の鍵を全部閉めたか確認するよりも、このまま目を閉じて眠ってしまいたい気がした。
KP
いつもは消している常夜灯をつけたまま、佐倉はおやすみとあなたに声をかけて横になった。
ほどなく寝息が聞こえ始める。
牧志 浩太
おやすみ、と返して目を閉じる。
牧志 浩太
目を閉じると頭の中に形のない、もやもやとした痛みが渦巻いて、寝床の中で唸った。
痛くて落ち着かなくて、目を閉じていられない。

空調の音や小さな物音や眼の裏の血流や、あらゆるものが意識に入り込む。
瞼は重くてこのまま眠ってしまいたいのに、うまく眠れない。
牧志 浩太
次に目を開けたら誰もいないんじゃないか。
目を開けても、何も見えないんじゃないか。
そんな思考が瞼を震わせて、何度も目を開けて確認してしまう。

そうか、何かしていたから寝なかったんじゃなくて、このせいで眠れなかったんだ。

ずっと。
牧志 浩太
鋭敏すぎる感覚の影響をもろに受けてしまって余計に眠れない牧志。
KP
なるほど。
KP
あなたの気配に影響されてか、佐倉もよく寝返りを打っている気配があった。
微かな秒針の音が降り積もってゆくのに、時計を見ればほとんど時は進んでいなかった。
時間が歪められる異変を疑うほどに夜は長く、波打つ思考と光と音が、我慢ならないほどの空気の震えが、窓の外を彷徨う何者かの気配が、睡眠を妨げた。
牧志 浩太
時間が、随分と長く感じた。
あの数年間よりも長い気さえした。

眠れない。
ふと、横たわる姿が目に入った。

また死んでしまっているんじゃないかと恐ろしくなって、身を起こす。
闇の中にわだかまる身体に手を伸ばす。心音が聞きたくて、恐る恐る胸に手を当てる。
KP
手が払いのけられた。
瞬時に目を開き、反射的に身構えたらしい佐倉があなたを見て怪訝そうな顔をする。
暗闇の中で、佐倉は眉を寄せてあなたを見つめ、何事か考え込んでいるように見えた。
牧志 浩太
「あ……、ごめん。起こしちゃったな」
辛うじて普段通りの声を出そうとしていることは察せられたが、声はひどく震えさまよい、見る影もなかった。
佐倉 光
「いや、いきなりだったから驚いて、悪い」
佐倉は額に指先を当て枕元を探った。
ヒランヤを探り当てて握る。
佐倉 光
「俺が生きてるの確認したいんだろ、触って構わないぜ……」
腕を差し出した。
牧志 浩太
「うん……、ありがとう」
頷いて、両手で恐る恐る腕を取る。
佐倉 光
1d100 30【CON】(痛み判定) Sasa BOT 1d100→48→失敗
HP 10→9
KP
あなたの指先に脈が触れた。途端だった。
佐倉の体がびくりと震えた。指先が空を掻いた。
牧志 浩太
指先が跳ねた。
思わず、手首を掴んだ手に力が籠もってしまう。
KP
佐倉は目を見開いてあなたの手から腕を引き抜き、背を丸めて唸る。視線が定まらず揺れる。呼吸が乱れる。
牧志 浩太
「あ、ああ、ごめん、」
痛みに呻く背をさすりたかった。横にいて、大丈夫だと穏やかに声をかけたかった。

触れられない。
怖い。
怖かった。
怖くてたまらなかった。

指の下で跳ねた肉の感触が手の中に残っている。
腕の中で冷たくなっていく体をずっと抱えていた、

怖い。
握りしめた金属の感触が記憶に残っていた。佐倉さんを殺しそうになった手。
怖い。怖い。怖い。

机の上に置かれた布切り鋏が不意に目に入った。怖くて堪らなくて、それを手に取った。
それがなくなれば怖くなくなるような気がして、その切っ先を自分の手に滑らせた。
牧志 浩太
切りそうになった、というか切ってしまいました。
布切り鋏は大振りなものではなく、佐倉さんが繕いものする時に少し布を切ったりする小さめのものをイメージしています。
佐倉 光
「何してんだお前……っ!」
KP
佐倉は慌てて鋏を取り上げ、手首を握る。
1d100 49 《ディア(〈応急手当〉)》 Sasa BOT 1d100→79→失敗
佐倉 光
「ああ、くそくそっ、こっち来い!」
KP
佐倉はあなたの腕を握ったままでリビングへ引っ張って行く。
佐倉 光
「そこ座れ馬鹿!」
ダイニングテーブルの方に押された。
牧志 浩太
どくどくと脈打つように傷口が痛んだ。
金属の色に絡みついた赤が闇の中で黒く見えて、それをじっと見ている間に腕を引かれた。
佐倉 光
「ああああもうこんな時に! もうちょっと余裕ある時にしろよ……!」
KP
呻くような声で悪態をつきながら、佐倉は救急箱を運んできた。
《ディア》と同時に〈応急手当〉失敗扱いなんだよなこれ。
佐倉 光
「えーと、消毒、ちがう、っくそ、まずは傷口を洗って……」
佐倉 光
「う、あぁ……っ」
冷や汗を流し、縫い目のある頭を抱えて意味のない言葉と悪態を呟く。
牧志 浩太
ぼんやりと、傷口から垂れる赤を見ていた。
佐倉 光
「水だっ、水道! 洗って!」
牧志 浩太
声が意識に染み込む。
言われるまま洗面所へ向かう。
水に傷口をさらすと、ずきずきという痛みが這い上がってくる。
そのまま、痛みのことを考えながら生温い水に傷をさらしていた。
余裕がない
牧志 浩太
※洗面所から戻ってこない
普段なら佐倉さんのことを気にする所なのに、キャパオーバーと消耗が行く所まで行ってしまってだいぶだめになっています。
KP
佐倉は佐倉で体は痛いし記憶も飛びかけているので余裕がありません!
互いに受け止めるキャパがない!
牧志 浩太
ない!
視覚も聴覚もあるのに互いにキャパがないせいで会話できない

佐倉 光
「おい、そのまま失血するまでそこにいる気かよ!」
KP
流血する腕にタオルを押しつけられ、乱暴に引っ張られた。
再度椅子に座らされる。
佐倉 光
「あーもーくそ、なんで傷薬ねーんだよこんな時に!」
KP
佐倉は震える指先で、ガーゼを切り、あなたの腕に巻き付ける。
それは「一応巻いて血が周囲につくのをなんとか防げる」程度で、すぐに緩んでしまいそうだった。
牧志 浩太
「ごめ……、ん?」
ふと、自分の腕が目に入った。

ようやく、自分が腕を切ったこと、佐倉さんがそれを必死に手当てしてくれていることが頭の中に染み込んでくる。

指先がひどく震えているのは、あの痛みがまた襲っているんだ。
ふらつく手でガーゼを取る。手が覚えている動きに従って、目の前の傷を埋める。

〈応急手当〉を試みます。
KP
どうぞ。
牧志 浩太
1d100 59 〈応急手当〉 Sasa BOT 1d100→14→成功
KP
あなたは問題なく傷を塞ぎ治すことができる。
佐倉はぼんやりとそれを見ていた。
牧志 浩太
汚れた傷口を消毒して整える。
赤く湧き出してくる血をガーゼに吸わせながら圧迫し、強く包帯を巻きつける。

ひりつく痛みが朧げになっていくのと共に、赤い色が視界から消えていくのを見ていると、どうしてこんなことしてしまったんだろう、という気持ちが湧いてくる。
牧志 浩太
「ごめん……。俺、やっちゃったんだな。
ありがとう、止めてくれて助かった」
佐倉 光
「あ、ああ、うん、良かったな?
そんな気はなくて、ついやっちゃったんだよな?」
KP
恐る恐る、という言い方だった。
牧志 浩太
「うん……。怖くてたまらなくて、これがなくなったら、怖くなくなるんじゃないかと思ったんだ。
そんなはず、ないのにな。
一杯一杯だった、んだと、思う」
ひりひりとした痛みを訴える傷口を、包帯の上から撫でる。
佐倉 光
「えー、と……何て言ったらいいのか、よく分かんないけど、さ。
腕切っても多分なんの解決にもならないし、ハサミじゃ腕は切れないと思うから……
やめた方がいいと思うぜ……?」
牧志 浩太
「……佐倉さん?」
佐倉さんが手当てしてくれたことと、痛みとが自分を我に返らせ、少し頭の中の霧が晴れていた。
怖かったんだということを自覚してくると、佐倉さんの様子が、上滑りするような口調が気になった。
佐倉 光
「あー……佐倉って、俺、だよな。うん、そうだったような」
KP
困ったような半笑いで佐倉は言った。
佐倉 光
「ここはあんたの家、だよな?
俺、ここで何を……してたんだろう」
牧志 浩太
「あ……、」
そうか、また忘れちゃったのか。
どこか、すとんと拍子抜けするような気分になった。
牧志 浩太
「そっか、それは驚かせたよな、ごめん。
ここは俺と佐倉さんの家。もう一人一緒に住んでるけど、今は寝てる」
牧志 浩太
リビングルームの方を見渡せば窓には大量に鍵がついていて、飛散防止フィルムが二枚重ねに貼ってある。救急箱が部屋ごとに置かれているのが見える。

分厚い遮光カーテンは隙間ができないようにクリップで閉じられ、玄関扉のチェーンが随分太く短いものになっている。玄関には電子錠。

用心深い、というよりも、偏執的なものを感じる室内だった。
佐倉 光
「へ、へぇー、随分と、なんていうか……
俺本当にここに住んでるの?」
KP
佐倉はどこか懐疑的な目であなたを見つめた。
佐倉 光
1d100 45〈心理学〉
Sasa BOT 1d100→87→失敗
佐倉 光
「まるで牢屋かなにかみたいだ」
KP
自分はもしかしてこの男に拉致されているのではないのか?
そんな疑問まで読み取れる。
疑惑
KP
腕は縛ってなかった。
牧志 浩太
腕を縛ってたら拉致疑惑が確定しちゃってた。
KP
それで「縛る?」って訊いたんだよね。
牧志 浩太
なるほどー。縛ってた方が面白かったかもしれないけど、縛ってると切れないからなぁ。
じゃあ縛ってた時に使ってた紐とか近くに落としとこうかな。
KP
まあ佐倉に「このへやおかしいぞ」と臆面も無く言わせるのが目的なので!
牧志 浩太
そう言ってくれるおかげで牧志が自分で「怖い」と口に出せる。
KP
半端な記憶がある佐倉だと、自分の記憶が変なのか牧志が変なのかの境目が正確に分からない。
記憶が吹っ飛んだ佐倉は「お前おかしい」が言える。
牧志 浩太
ああー、なるほど。自分の記憶がおかしい、という自覚がないからこそ、「牧志がおかしい」と言ってしまえる佐倉さん。

牧志 浩太
「そうだよ。……ごめん、俺、ちょっと色々あって、随分参ってるみたいでさ。
色んなことが怖くて怖くて、俺がそうしちゃったんだ。佐倉さんのせいじゃないよ」

ふと、不安になった。
今度こそ、佐倉さんは俺を信じられなくて、どこかに行っちゃうんじゃないか。
いきなり目の前で腕を切った奴のことなんて、信用できないよな。

でも、佐倉さんの言葉と向き合って、自分でそう口に出していると、確かに俺は怖かったんだ、とそう思えてくる。
そうだ、俺は怖かったんだ。目を閉じると闇が怖くて怖くて、どうにかしようとずっともがいていた。
佐倉 光
「あー……なんだ。随分参ってるみたいだな、精神的に」
1d100 30〈精神分析〉 Sasa BOT 1d100→50→失敗
佐倉 光
「けっこうまずい状態に見えるから、病院行った方がいいぜ、あんた」
牧志 浩太
「病院か……、考えたことがなかったな。
そうか、そう、なのかな?」

戸惑いながら、まだじりじりと痛む腕を見下ろす。
近くに、腕を縛るのに使った長いビニール紐が落ちていた。そういえば佐倉さん、鬱血する、って言ってたな。

佐倉さんの声もシローの声も、思い返せば途中からほとんど記憶にない。
怖くて怖くて頭が一杯で、聞こえてなかったんだ。もう耳は聞こえているのに。
佐倉 光
「茶でもいれるか……」
KP
佐倉は立ち上がって、自然な動作でコップを出して麦茶をついであなたの前に出し、それからそれを訝しげに見つめ……息を呑んだ。
佐倉 光
「……あれ。俺、今何話してた?
牧志の治療、してて……それから……」
KP
突如佐倉は何とも形容しがたい声を上げてテーブルに突っ伏して頭をかきむしった。それから暗い目で呟いた。
佐倉 光
「俺達相当まずい状態だと思う」
そろそろ本編
KP
佐倉は何回か病院にかかったことがあるので、明日にでも誘おうと思います。その道中に季節外れのお花見しよう。
牧志 浩太
確かに。しようしよう。
記憶を失った佐倉さんをじっくり味わおうと思ったら、打ちのめされてひどいことになった牧志を味わう回にもなった。
KP
佐倉だけで済むと思うなよ! というか今回は牧志回だと思ってますが!?
牧志の方が回復早いし。
牧志 浩太
確かに。それに、牧志の方が正気度ひどいのもありますしね。(それもあってだいぶんやばいことに)
KP
桜の後ちゃんと病院にも行くんだよ!
牧志 浩太
行くよー!
要は回復ダイス振ってねってことなんで、自宅療養していればいいから、別に劇中で行く必要も無いんですけどね。

牧志 浩太
「俺も同感。俺がおかしい、ってことに気づいたのも、ついさっきだ」
牧志 浩太
「さっきの佐倉さんにも言われたよ、まずい状態だから病院に行けってさ」
牧志 浩太
「……ごめん、佐倉さん。心配かけたよな」
佐倉 光
「俺も。気付いてやれなくて悪かったな。
このままだと二人で共倒れだし」
佐倉 光
「シローの教育にも良くないな」
鍵だらけの部屋、床に落ちた紐を見て呟いた。
牧志 浩太
「……、そうだな」
奇行に走り始める俺を見てシローが戸惑っていたのが、今なら分かる。
そうか、共倒れになってる場合じゃないんだな。
佐倉 光
「今日はもう寝よう。
無理に寝る必要はねーけど、情報遮断して横になるのは大事だからな。
どうしても寝られなかったら話し相手くらいにはなる……」
佐倉 光
「俺また記憶に穴開いてるかも知れないし、聞かせて貰った方がいいかもな?」
牧志 浩太
「助かる。手を取ってていいかな。
確かめてないと、目をつぶるのが怖いんだ」

そうやって一つ一つ言葉に変えていくと、自分の状態が形になってくる。
形になると、何とかできそうな気がしてくる。

KP
そうして、自分たちの傷の深さを自覚したあなたと佐倉は、
意識的に心を労るようになっていっただろう。
時折襲い来る強烈な不安も、突然の記憶の欠落にも、
自分たちが『そう』なのだと自覚することで、ほんの少し気を楽にすることはできただろう。
それでもなおやはりあなたの傷は深く、簡単に癒えるものではなかった。

夏の日差しの中、ふとした偶然に出会うまでは。

コメント By.KP
深い傷を抱えて精神的に参ってしまった牧志、体の痛みと記憶障害でそんな牧志を支えられない佐倉。
日々心をすり減らし、虚空に怯える。もう二人は、特に牧志は限界だった。

あまりにも可愛そうだし、比較的平和なイベントで心の傷を味わ……癒やそうか、ということで、二人とも内容を知っている平和なシナリオです。

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「……そのうち見つかる、か。そうだな、そうかもしれない。なくして忘れても、それはそれで何とかなることもあるしな」

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