こちらはオリジナルシナリオですが、『静寂舞手』『対の棲みか』『瓶の中の君』『地獄はやさしい』のネタバレがあります。
※他のシナリオにも言及していますが、明言されていないものなどは除外しています。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年。
とある事情で一年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
最近、首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がついた。たまに痛むという。
何故か佐倉の中に別の誰かがいることは確信している。
波照間の後輩。佐倉とは友人。
波照間 紅
真・女神転生発のサマナーで悪魔退治屋。弓術を得意とする真面目な青年。
沖縄出身である。
牧志とはとある深い縁がある。佐倉とは仲間。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。
とある事件以来、自分の中に別世界の人間の精神を抱え込んでいる。が、本人にはその記憶はあるがあまり手応えなどがなく、自分の妄想ではないかと半信半疑だった。牧志にそれは存在するのだと言われ、信じることにしたらしい。
現在大怪我をして入院中。
詳しくは『静寂舞手』『1100』あたり。
牧志とは友人。波照間とは仲間。
詳しい事情
だが片目の牧志の存在は、佐倉自身には何も感じられなかった。
そのため佐倉は、彼を連れ帰ったことは、彼を救いたいと願った自分の妄想に過ぎないのではないかと疑いを持っていた。
だが、牧志は『1100』事件で片目の牧志と話したこともあり、『静寂舞手』事件において、佐倉が時折彼の知識ではないことを、別人として喋るのを目撃し、また、佐倉と精神が繋がったときに、同様の存在として片目の牧志を知覚したため、彼は佐倉の中に存在していると確信し、佐倉を勇気づけた。
顔アイコンも作ってありますしね。チョイ役もまたたのし。
『レミングス・ドリーム』
佐倉視点(ネタバレ)
そこにたったひとり存在していた、もう一人の隻腕隻眼の牧志。
あなたは彼を救いたいと欲し、自らの内に取り込んだ。
だがあなた自身には全くそれらしい感覚も痕跡もない。
彼は本当に存在するのだろうか。
牧志の優しい嘘ということはないだろうか。
あなたの中でその疑いは常にくすぶり続けている。
集中して、自分の内にいるはずの誰かを改めて見つめてみよう。
きっといるはずだ。
自らの内にいるはずの誰かを探す。
そして、見つけた。
それは、確かにいた。いた気がした。
しかしあなたの手を巧みにすり抜けた。
まあいい、また今度試してみよう。
声が聴ければ安心できそうだ。
そして悪夢を観る。
そのどれもが、最終的にあなたが死んで終る夢だ。
気になるというほどでもないが、起床後しばらく奇妙にけだるい。
正直病院には良い想い出がないし、それも影響しているかも知れない。
冗談半分に牧志経由で波照間さんに助けを求めたが、連れて来てくれるだろうか、回復魔法持ち。
あなたはある日、牧志から連絡を受けた。
佐倉が大怪我で入院していて、しかも助けて欲しい、とのことだ……
入院している病院は、いつもあなた方が世話になる病院とは違う、少し離れた場所にあった。
何でも事件で(また事件だ!)世話になった人のツテなのだという。
あ、いつものBarにいて下さい。
佐倉は大怪我を負い入院中である。
「佐倉さんが入院? 分かったが…… 助けて欲しいって、何をだ? 着替えとか洗濯とかか、それとも別の話か?」
ランドリーバッグと使い切りパックの洗剤と小銭と弓を準備しながら手筈を整え、牧志に確認を取る。
少し前に収納できるようにした弓は、こういう時に便利だ。
それにしても、佐倉さんも牧志も奇妙な事件に巻き込まれすぎる。調べてみても、分かるのは「こっち」でよくある事件ですらないってことだけだ。
僕が「紅」と駆け抜けたあの夜に目にしたようなものに、むしろ近さを感じた。
紅と駆け抜けたあの夜……『地獄は優しい』事件のこと。
まっとう
佐倉自身も回復魔法が使えるのだが、なぜか使おうとすると具合が悪くなるらしい。
「なんだ、またあいつ変なことに巻き込まれてんの?」
細い指先でカードを一枚つまみ上げ、あーあ、とか声を漏らしている。
貴方が見る前にカードは魔法のように消え失せていた。
細い指が目にもとまらぬスピードでマシンガンシャッフルを始める。
そして、酒場を出ようとするあなたの後ろにつく。
「気がかりなことが、あるんですね?」確かめるように。
アッタは面倒そうに息をついた。
それからあなたに手を出す。
「タクシー代。送迎してやるから」
素直に、現金とちょっとした茶菓子を渡す。
車なら僕が出す、とは言えなかった。まだ初心者マークが取れていない。
……それにしても、気がかり、か。
アッタさんが言うんだから、その内容か気配か、何かを捉えたんだろう。
少し気を引き締めた方がよさそうだ。
貴方の心を読んだかのようにアッタは心底面倒そうに唸って、現金と茶菓子をふんだくる。
いつものジュースバーに偽装したバンに乗り込むと、アッタはアクセルをふかす。
彼女の運転は春日と別方向にワイルドだ。
だがテクニックは高く、目的地、あなたが牧志に教えもらった病院にすぐ到着するだろう。
※たぶん本当にバレても店の所在はバレないと思うけど。
いつの間にかアッタの姿はなくなっていた。トイレにでも行ったのだろうか。
一般とは
その日は結局佐倉は目覚めず、ほどなく面会時間が終了してしまいそうだ。
起こす?
スマホをしまい、佐倉さんの寝顔を見る。
大怪我だったというが、こうやって大人しく入院している辺り、危うい所だったんだろう。
……「あの」手合いには、悪魔使いとしての戦術や方法論が通じない。そういうレベルの存在じゃない。
軽く起こしてみて、起きるようなら起こす。
起きないようなら、そのまま寝かせておくだろう。
「そういえば牧志、助けてくれって結局何をだったんだ?」
それだけ確認を取っておく。
アッタさんが腰を上げてついてくるような理由。一体気がかりとは何なのか、それが気になった。
もしかしたら痛み止めが効いているのかも知れない。
夢見があまり良くないのか、うなされているようである。
そうこうするうちに面会時間は終了してしまった。
大体病院に着いてから彼女の姿はずっと見かけていない。一体どこにいるというのか。
駐車場のバンの所にもいなかった。
「……助けてくれ、か」
佐倉さんからはあまり聞かない言葉だと感じた。冗談めかして言うことはあっても。
佐倉視点(ネタバレ)
なんと部屋にアッタが立っており、あなたをじっと見つめていた。
「オマエ、まずいもん抱えてんな。活性化してるし。
それ、急いで何とかした方がいいな。オマエこのままじゃ喰われるぞ?」
一刻も早く取り除くべきなので、明日にでも何とかしてアッタの店に一時移動して治療しよう、と。
前にもそんなことを言われたが、今回のアッタは随分と真剣な顔をしていた。
あなたがふと思い出したのは、砂漠の中に佇む隻腕の青年の姿だ。
まあそもそもそいつがいるかどうかすら定かじゃないんだけど。
なんだ、アッタのやつ何か勘違いをしているんじゃないのか?
あなたには分かる。彼女がああいう言い方をするときはだいたい話が通じない。
それだけ緊急事態であるとも言えるのだろうが。
あなたの中に突如怒りがわき上がる。
彼女は彼を殺そうとしている。
何も知らないくせに。
何も見えないくせに。
あなたの思考はいつもに増して極端で性急だったかも知れない。
まるで何かに導かれるように、操られるように、行動を起こしたかも知れない。
だがそれは滅多に負わない重傷のせいであるかもしれなかった。
大嫌いな消毒薬のにおいのせいかも知れなかった。
時間を稼いで、何とか俺の中にいるあいつがそんな害のあるものじゃないと証明するんだ。
真夜中になったらラミアを召喚。病院から逃げる手伝いをしてもらう。
そうすべきではない、と意見する。
彼女は基本あなたの話は聞いてくれる方だが、
ことこの隻眼の牧志の話をすると、なんとなく歯切れが悪くなる。
「信じない、とは言わないけど、今の坊やの体より優先すべき事には見えないのよねぇ
確かに怪我よりも随分調子悪そうに見えるのは確かだしね?」
彼女の目は、あなたの内までも見ているように思えた。
彼女も結局アッタと同じだ。
「もう一人のサマナーの坊やの力でも借りたらどう。仲間なんでしょ」
しかしアッタはどんな接点からでも嗅ぎつけてくるだろう。
「駄目だ。波照間さんに話すわけにはいかない」
とりあえず契約ちらつかせて言うことを聞かせよう。
丁度良いことにすぐ近くに異界化した通路を発見する。逃げ込むことができそうだ。
幸いここには強力な悪魔などはいないし、インターネットへのアクセスも可能だ。
ラミアに適当に遇ってもらいながら調べ物をすることはできそうだ。
アッタが俺の中にいるやつを何だと思ってて、何をしようとしているのか調べよう。
ちょっとばかり強引な手段を取ってでも。
アッタの話を手がかりにしつつ、あなたがかつて得た知識の断片を手繰り、遂にそれを見つける。
それは全ての人間に巣くうもの。
それは月に棲まい、人間の歴史を常に操ってきた。
それは存在を知った者に狂気を齎す。
見た者を殺す。
愚にもつかないような狂人の記録の中に、それはあった。
普段なら一笑に付すような落書きに、あなたは真実の一端を見る。
これこそがアッタが危惧しているものであると。
見てしまったあなたは殺される。
何故かそんな予感がした。
自分が狂気に浸されたような思いにくらくらしながらも、
そうであった場合を想定してメモをつくる。
「月からはてしなく離れてしまえば影響から逃れられる」という仮説を立て、その呪文についての情報を断片的に記録していた。
また、その男は悪夢に苛まれていたらしく、夢を共有する薬についての情報も集めていた。
どうやらその方法と思われる本の一部が画像化されていたが、翻訳はされていない。
俺の中に存在するかもしれないそれらを倒す方法。
同時に俺の中に存在するかもしれない牧志を守る方法。
あなたを導き、同時に狂気へとあなたを誘うだろう。
ひとまずの情報を集め終わった頃、睡魔に襲われたあなたは夢を見る。
いつものBARに着くと、アッタが殺気だった顔であなたに近寄ってきた。
そしてよく磨かれた爪をあなたに突きつけるようにして問いかけてくる。
「オマエ、あのバカがどこにいるか知ってるか」
佐倉があの病院から逃げ出してしまい、行方も分からない、ということをあなたは聞くだろう……
返す声が、強張った。
佐倉さんは理由もなく無茶をする方じゃない。必要があっていなくなったにしろ、意図せぬ事態にしろ、必ず理由がある。
思わず、弓を手元に引き寄せていた。
あなたは翌日、誰から佐倉が行方不明だという報せを受けることになるだろうか。
それともあなた自身が知るだろうか。
翌日14時頃に見舞いに行けば、あなた自身が知るだろう。
翌日夕方まで病院に行かなければ、病院からあなたに連絡があるかもしれないし、もう少し早い時間に慌てた波照間から連絡があったりするのかもしれない。
授業の合間を縫って見舞いに行く。退屈しているだろうからパズルの本や、ちょっとした話題を集めて。
その日は時間がなくてスマホを見る余裕がなかった。
だから、病院に行って、初めて目にするのだ。
誰もいない病室を。
「……佐倉……、さん」
呆然と呟く。
いくら病院にいたくないからって、傷が残った状態で脱走するなんて、そんなことは考えられなかった。いや、傷はディアでなんとかするつもりだったとしても。
先輩にも俺にも何も言わず、連絡を絶つなんて。
何か、あったのだ。
呆然とする頭の隅でそう思う。
あの、決意の表情が蘇る。
あの時どうして俺は、何も聞かないで。あの時はなんとか生き残ったっていう安堵と、色んな気持ちで一杯で。
微かに頭に後悔がよぎり、
スマホの通知欄が光っているのを見て我に返る。
波照間先輩からの、慌てた様子の連絡だった。
「よし」
探そう。頭を切り替える。まずは佐倉さんからの連絡がないかスマホをチェック。病院の人に話を聞いたか先輩に確認して、聞いていないようなら、聞き込みから開始。それから病室の中を確認。
コールしても電波が届かない位置にいる、ということになっている。
波照間は人伝に聞いただけなので、現時点では病院にいるあなたの方が知る情報は多いかもしれない。
病院の看護師に話を聞くなら、昼食の時点ではいた、ということが分かるだろう。病院の従業員も探してくれているとのことだが、行方は分からないらしい。
周囲の人にさらに聞き込みを行うなら、何らかの〈交渉技能〉を。
病室は怪我の程度が重かったせいか個室だ。昨日佐倉に繋がっていた点滴などが脇に寄せられている。
窓が開け放たれていて、風が室内に吹き込んでいる。
また、佐倉の荷物が消えているようだ。
こちらを調べるなら〈目星〉。
「すみません、話を聞かせて下さい。俺の友達がいなくなったんです」
周囲の人達に、まっすぐに話を聞いて回るだろう。
〈説得〉。
1d100 75〈説得〉 Sasa BOT 1d100→29→成功
昨日の面会時間終了後、女性が興奮して怒鳴るような声を聞いたという。
また夜中、何かずるずると引きずるような音とともに、女性と男性が長いこと話すような声が聞こえてきて、うるさいな、と思ったそうだ。
ただその人もずっと眠っていた個室の患者がどういう人なのかすら知らないので、佐倉の声かどうかは分からないのだが……
佐倉さんは昼食の時まではいたらしいから、その時ではない……いや、本当にか? 眠っていたなら確認していないかもしれない、いくつか考えを巡らせる。
その女性が何者かが気になる。
波照間先輩に得た情報を伝え、声の特徴などを聞けていれば併せて伝え、知らないかと聞く。
声は少し震えていたような自覚がある。
それから、いかにも脱走したように見える病室の様子に向き合う。
この病室は何階にあったか。
窓の外の様子も、確認できるなら確認するだろう。
1d100 89〈目星〉 Sasa BOT 1d100→26→成功
昨日見た状態の佐倉が飛び降りるなり何らかの方法でここから降りるなりするのは難しいのではないだろうか。
窓にほんの僅か血痕が残っていた。
ただ、飛び散ったような物ではなく、血がついたものをこすりつけて付着した、といった感じに見える。
波照間さんは思い当たるものがあればリアル【アイデア】で回答しても良いし、【アイデア】振っても良い。
【アイデア】を振る場合は、昨日夕方の女性の声と、昨日夜中の男女の声については別となる。
夕方の女性の声については+20で判定して良い。
アッタでまず間違いない。そして失踪に関わっていそうだ。
だが、連絡をいれてみてもうんともすんとも返事がない。
1d100 85 波照間の【アイデア】 Sasa BOT 1d100→43→成功
また、女性の声と、その時聞こえた何かを引きずるような音はあなたに何かを思い出させるだろう。
佐倉が相棒の……というと本人は否定するが……ラミアを呼び出したとき、彼女の大きな蛇の体が床をする音が聞こえることがある。
もうひとつ気になることといえば、佐倉はああ見えて人目につかずに行動するのが比較的得意だ、ということだろうか。
その技術で、希にどこからか情報を足で稼いでくる、なんて事もあるのだ。
だが。
もう一つの可能性がある。そうだ、牧志は一年以上、こちらの世界に触れていないのだ。
「ラミアさんだ」
思い当たった内容を手短に伝える。アッタの事も含めて。
そうか……、そういうことか。
佐倉さんは昨日の夕方、アッタさんと何か言い争って……、そして、その後に脱走したんだ。
ラミアさんの力を借りて。
「佐倉さん……」
一体、そうまでする何があったっていうんだ。それも、ラミアさんと二人だけで。
ラミアが佐倉さんと共に脱走したという前提で、足取りの手掛かりがないか、窓の外の地面などを調べてみます。
窓の下の地面に、広範囲草が折れた跡。
病院の敷地にほんの僅か残る、何かを引きずったような跡。
また、フェンスの一部にほんの少しの歪み。
短時間監視カメラを誤魔化すことは、佐倉ならできたかも知れない。
間違いない。彼は自分の意志でここから出て行ったのだ。
だが……その姿らしきものを見ていた人はほとんどいなかった。
数少ない目撃証言に、大柄な薄着の女性が青年を抱えるようにして連れて歩くのを見た、というものがあった。
しかしその行方は追いきれなかった。
夜中を選んだのも、きっとそういうことだ。
佐倉さん。
あの傷で、どこに行ったんだ。
助けてって……、早く退院したいから助けてって、そういうことだったのか。
あの時詳しく聞いていれば。
いや。
色々な感情が頭の中を過る。
それを押さえ、先輩に頼んで監視カメラの映像を調べたり、街中で目撃証言を追ったりするだろう。手掛かりが途切れてしまうようなら、何か残っていないか、佐倉さんの家を調べに行く。
まるで異世界に入り込んでしまったかのようだ、と思うかも知れない。
佐倉の家は無人だった。鍵もかかったままだ。
手がかりは途切れてしまったのだろうか。
まるで、自ら何もかもを拒絶しているようだ、と貴方は感じるかも知れない。
あと特にやることがなければ夜になります。
拒絶され、連絡を絶たれて、──前の時に戻ったようだ。
このまま、拒絶されるままにする?
途方に暮れて、日常に戻る?
あの決意の表情を思い出す。
──そんなこと。
波照間と共に可能な限り探し回って、気がつけば夜になっていることだろう。
一日成果のない捜索をし続けたあなたは、疲労に足を引っ張られるように眠りにつくことになるだろう。
自宅のベッドで眠るだろうか。
それとも、どこかで探し続ける間ふと、眠りに落ちてしまうだろうか。
次第に遅くなる歩調に、先輩に忠告されて自宅に戻るだろう。
体も頭も疲労で重い。
寝台に横たわってもすぐに眠りにつくことはできず、覚醒と眠りの境も分からぬままに寝返りを繰り返す中、突然に転げ落ちて行く。
そこは最近どこかで見たような気がしてならない。
ぼんやりとした明かりが天から降り注いでいる。
感覚はぼやけ、まるで現実とは思えない。
これは夢だ、とあなたは自覚する。
不意に自覚が降ってくる。
薄暗くその広い空間に、思い出すのは少し前の事件のことだ。
あのとき佐倉さんは俺を探してくれた。
なら、今度は。
例え望まれなくても。
そんなことが頭をよぎり、意識的に頭から追い出す。
休もうとしてたはずだ。夢の中でまで考えてたって休まらない。
辺りを見回す。
貴方は瞬時に、それが踏み入るだけで致命的な異種生命体であると気付くだろう。
相変わらず視界は暗く狭く、物の詳細が見えない。
しかし気付くことで、闇の向こうに踊る人影が見えた。
距離は、5メートルあまり先か。
特に濃い闇を踏む赤い靴。
だだっ広い広間のそこだけに色があった。
真っ赤な靴と、舞手の体から滴る真っ赤な血。
広間中の闇がそこに押し寄せている。
その空間に音はなく、ただ靴が床を蹴る音だけが不自然にはっきりと響いた。
あの夢だ。気づく。そうだ。ここは薄暗いホールで。
「佐倉さん!」
自分の手に火かき棒はあるだろうか。
背後に半田の姿がないことにも気付くかも知れない。
あなたは闇の中に立っている。
あの時俺達を助けてくれた人も、いない。
せめて気を引ける物がないか、何か。探す。
佐倉さんの傍らに駆け寄れる場所がないか。
あなたは命を守る吸着紙の上にはいないというのに、闇はあなたにいかなる影響も及ぼさないのだ。
これが夢だからだろうか。
夢だ、と気づいていた。それでも動かずにはいられない。
その体に這い上がる闇は次第に足を、体を、腕を、首を覆い尽くして行く。
それでも必死の形相で踊り続けているのは佐倉だった。
でも夢だからね夢!!
本編では互いの強さで駆け抜けた話の、強くなれないし無力なif、っていうのは面白いし描写が楽しい にこにこ
尽きない闇の静寂でひとり踊り続ける舞手の構図があまりにも美しいのもいい 絵になる
闇を。彼の身体を這い上がろうとする闇を、集まっていく闇を、素手で掴もうとする。引き留めようとする。
掴むことすらできないのなら、自分の腕の皮を噛み切って、その血で闇を引きつけようとする。
闇からの影響もなく、あなた自身も影響を及ぼせないのだ。
腕の皮をかみちぎろうとも、痛みもない。
あなたからしたたり落ちる血は無視されてしまう。
そして佐倉の目にあなたの姿はうつっていなかった。
佐倉は喘いでいた。悪態をついていた。叫んでいた。
しかし聞こえるのはただ彼の、
もはやステップでも何でもない、恐慌の足音だけだ。
もはや名を呼びながら、半狂乱になって闇をかき集めようとするしかない。何もできることはなかった。声も届かなかった。
無力だった。
佐倉視点(ネタバレ)
広間中央に向かって叫ぶ。
彼は最後に広場中央に振り向くようにして、何か叫んでいた気がした。
貪欲な獣のように闇がその体に纏わり付く。
その姿はすぐに見えなくなる。
手応えがなければそれはもう、あなたにとってないものと同じだ。
貴方の周囲にあるのはただ闇ばかり。
最後は、呆気なかった。
漏れた声は、途方に暮れたように力の抜けた声だった。
闇の中を、姿を、手を求めて、探る。
ただただ闇ばかりの中を。どこを探せばいいのかも分からないまま、手探りで。
その叫んだ言葉を、せめて耳に捉えることはできただろうか。
〈目星〉/2。
または〈心理学〉。
目は口ほどに物を言う。
彼の姿が闇に呑み込まれてしまう最後の瞬間まで、きっと彼の眼を見つめていたのだろう。
現実では丁度あなた方がいたはずの場所だ。
助けを呼んだ、ようには見えなかった。
逃げろ、と口が動いたように思えた。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1d3》
SAN 77 → 76
最後に彼が発した言葉が、耳が痛くなるほどの無音の中でも、聞こえたような気がした。
……
〈目星〉を。
アイデアでも良いや……
蠢く闇に沈んだ無人のボール・ルームの片隅に、誰か立っていただろうか。
弾かれたように振り向く。
そして、あなたは唐突に佐倉の部屋に立っている。
唐突な転換に意識がついていかない。はっと、これが夢であるという自覚を思い出す。
そうだ、これは夢だ。
俺は佐倉さんと半田さんと一緒に、あの闇を払って、封じきったはずなんだ。
乱雑に積み上がった本のエリアと、きちんと片付いた〈コンピューター〉まわりは、いつもどおりの風景に見えた。
そしてPCの前で、佐倉が何やら楽しそうに画面一杯に表示されたコードを眺めてタイピングしている。
コーディングの邪魔だからかCOMPは外されて、手がすぐ届くようなデスク脇に置いてある。
あなたはこれも現実ではないと気付くだろう。
音が全くしないのだ。
耳が痛くなりそうな沈黙の中で、楽しそうにコードを弄る佐倉の姿が見える。
思わず漏れた声は、音声になったかどうかこそ分からないが、自分でも驚くほどの安堵に満ちていただろう。
夢だという自覚がようやく追いついても、目の前で彼が闇に呑み込まれた光景が頭の奥に焼きついて離れない。
ちょくちょく遊びに行って、もう見慣れた佐倉さんの部屋。
楽しそうな彼の姿はどこか静謐でもあって、沈黙も静寂も気にならなかった。
その後ろに座り込んで、何となく画面に表示されているコードを眺めるだろう。
セキュリティキーを全部開けたたり、自己増殖して画像にラクガキをしたり、
文章全てに特定の言葉を混ぜ込んだり、ファイル名を弄ったり。
何の益にもならないどころか恐らく人によっては致命的なウイルスとなり得る『悪戯』をするコードを延々と、
ラクガキをするように書いては消し書いては消ししている。
パズルだって数学だってそう。きっと、世界への悪戯なんだろう。
いたずらがき
ニヤニヤしてそうでとてもいい。
たまに厳重なセキュリティにどこまで見つからずに侵入することができるか、なんてゲームもやってそう。
見えたデータをばら撒くとかする気は全くないので、見えたら満足して終わる。
それを使ってなにしたい、ってのはあんまりない。
波照間は手段と技能を共有できる隣に並べる仲間だけど、牧志は佐倉さんのそういう所に初めてついてきた友達なのかな。
夢の謎の理解力か、佐倉が落書きであってもコメント丁寧につけるような几帳面さを発揮してたか。
夢だからな!! そう夢。
佐倉さんが「そういうことが好き」っていう前提知識はあるわけですし。
PC横、寝室へ向かう扉に異変が起きている。
その部分が波打ち、歪んでいた。
そこから青い扉が現れ出るような気がした。
コードを眺めるのをやめて立ち上がる。これがまた夢なら何もできないのかもしれないけど、それでもただ座って覚めるのを待つという選択肢はなかった。
歪みが次第に酷くなり、弾けるように扉が中央から周囲へとめくれ上がる。
真っ青な扉がそこに開く。
水をたたえて波打ち、向こう側に村の風景が見える、あの扉だ。
その向こうに、佐倉が立っていた。
その前に向き合って拳を握る。
体格が良かった。腕が太かった。その目には獣じみた攻撃性を宿していた。
これは、シャンに操られた『理想の佐倉』だ。
今ようやっと異変に気付いたらしい佐倉が、声は聞こえなかったが悪態をついて腕輪に手を伸ばそうとしたのが見える。
『佐倉』は素早く扉を抜け、部屋に踏み込んでくる。
その行く手を塞ごうとした貴方の体を、何の抵抗も感触もなくすり抜けて。
同じだ。夢に過ぎない。
動こうとするのをやめて、目の前の状況を可能な限り視界に捉えようとする。
何か一つでも変化があれば、すぐに動けるように。
何か一つでも手掛かりがあれば、残さず捉えられるように。
もしかしたら、現実で佐倉さんに足取りを断たれたのがあんまりにもショックで、こんな重苦しい夢を見ているのかもしれないけど。
また前みたいに俺が空回りしているだけかもしれないけど、それでも動こうとすることをやめられないたちみたいだ。
佐倉は銃の隠し場所へ走ろうとするが、その動きを察知していたかのように『佐倉』が回り込む。
逃げ場を失った佐倉は部屋の物を投げて抵抗し始める。
本が、薬瓶が、小型の掃除機が飛ぶ。だが相手には全く通用しなかった。
佐倉は部屋の隅に追い詰められ、腕を掴まれて口を大きく開けた。
悲鳴を上げているのだ、と気付いたかも知れない。
あなたは思い出すだろう。
現実ではこうではなかった。
佐倉が外出から帰ってきたら、何者かが部屋にいたのだ。
最初から追い詰められた状況ではなかった。
俺は、あの状況を知ってたはずなのに?
ぞくりと嫌な感覚がした。
あの時を思い出す。俺が、こんな事件にも巡り合わず、記憶も失わず、佐倉さんや先輩とも知り合わなかった俺に書き換わってしまっていたっていう、あの時。
もしも過去が変わってしまいうるものなら。
動かないと決めたはずだったのに、思わず身体が動いてしまった。
飛んだ薬瓶を拾って、背中から『佐倉』に投げつけようとする。
先ほどと同じだ。この光景に何の影響も及ぼせない。
佐倉の腕を掴み、胸のあたりを抑えつけ、『佐倉』はサディスティックに笑った。
壁に押さえつけられた佐倉の抵抗は次第に弱くなる。
首を絞められるなどしているわけではない。
ただ、壁に押しつけられているだけだというのに、急速にその表情は虚ろになり、動きが緩慢になってゆく。
その目から光が消え失せ、力が抜け、ずるりと座り込んで膝をつく。
まただ。夢に過ぎない、これは。
駄目だ。何が起こっているにしても、ただの夢でも、何か、本当にまずいことの予兆だったとしても。
ここで俺が何をしようとしても、意味はない。
胸に手を当てて大きく息を吐く。焦るな、牧志浩太。焦るな、紅。先輩だって言ってくれた。焦ってジタバタしても状況は悪化するだけだ。夢の中でもがいても疲れるだけだ。
目の前の光景を、じっと見つめる。
俺の痛みなら受け止める。ただの夢なら、俺結構参ってるみたいだ、なんて明日先輩に話して気を抜かせてもらおう。
何か本当にまずいことの予兆なら、その予兆を、捕まえる。
佐倉視点(ネタバレ)
これは現実とは違う。
あなたが死を迎えるとき、死したあなたの一部は何者かに喰われている。
そしてそれは『佐倉』に吸い込まれていった。
『佐倉』は、いや、今や完全なるシャンとなったその男は、
満足そうに笑うと部屋を出て行った。世界を滅ぼす神を世界に降ろすために。
その部屋には最早、佐倉がいた痕跡は残っていなかった。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
SAN : 70 → 69
部屋の隅に何者かが立っていた。
そして、こちらを見ていた気がする。
それが何者なのか、どんな顔をしているのか、どんな意思を表情をもってこちらを見ているのか、捉える。
それはべったりと黒い影だった。
輪郭も判然とせず、その世界にぽっかりとあいた穴のように見えた。
それを視界に収めると同時に怖気が走る。
それはこの世界には異質な存在だった。
そしてあなたはこれを知っているような、奇妙な心地がした。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1d5》
SAN 76 → 75
FANBOX開設したで
残念!
これを知ってはいけない。
べったりと黒い影という姿は、本能的に怖れを抱かせた。
あるべきものが欠落し穴が空いているような矛盾。
脳の予測機能が狂わされるような唐突な状態変化。
怖気が走る。
あれは異質で、異変だ。俺の夢の中に、何かが、いる。
どうして俺は、あれを知ってるような気がしてるんだ。
知っていると感じるのに、知ってはいけないと感じる。
手繰り寄せられないことがもどかしくてならなかった。
何故かあなたはそう思った。
べったりとその空間に染みついた黒い影が、手にも見える棒状の影を貴方の方へのばす。
何をどうしても干渉などできなかったはずなのに、どうしてか、世界の矛盾点である「それ」には気づかれたと、そう感じた。
思わず避けようとして、思いとどまる。
「それ」が何であろうと、手掛かりには違いない。
佐倉視点(ネタバレ)
死んだあなたに取憑いて貪り食う無数の存在を見た。
あなたはそれらをすでに知っている。
ゆえにはっきりと見えてしまう。
それは黒い影のようなもので、あなたの内に無数にこびり付いていた。
それらはあなたをじっと見つめていた。
怖気立つような嫌な感覚がある。
あなたは見てしまった。
そして見られてしまった。
それは隻腕でどこか遠い目をした牧志などではなかった。
あなたは自らの内に巣くう精神寄生体を認識してしまった。
だが影は微動だにせず、あなたを嘲笑ったように感じた。
佐倉は正気度が10減少する。
同時に狂気が発症し、あなたは親しい人のことと近々の記憶をを全て忘却し、記憶の混乱を起こす。
世界が震えた。
この世界の全てがあなた敵意を持って攻撃的な感情を向けていると感じる。
生物などなにひとつない空間だというのに、拒絶の意志を感じる。
あなたはここに一瞬たりとも存在してはいけない。
一片残らず消え去らねばならない。
呻く。それはあらゆる所から刃を向けられているような感覚だった。世界の拒絶に対して、人間ひとりの存在はあまりにも弱々しかった。
振り絞るような声で、「出て行け」と。
それは、佐倉の声に聞こえた。
それは振り絞るような声だと聞こえた。
その声がもし、痛みを宿していたのなら。
「嫌だ。佐倉さん、どこにいるんだよ。そんな大怪我して、どこに行ったんだ」
そう応じるだろう。
世界のあらゆる拒絶に、圧し潰そうとする力に、世界全てに厭われる苦痛に耐えながら。
佐倉視点(ネタバレ)
あなたは咄嗟に、この悪魔に拉致され喰われかけている、と思うだろう。
同時にパニックに陥る。
記憶がはっきりしない。自分に何ができるかも分からない。
喰われる前に逃げ出すくらいしかない。
この腹にある痛みはこの悪魔が齎したものだろうか。
最終的にあなたは捕えられ、屈辱的な思いをすることになる。
「困ったわね、あたしが分からないの?」
蛇女の言葉は、信じるに値しないと思えた。何しろ相手は悪魔だ。
蛇女は困り果てた挙げ句、あなたを異界から引きずり出して、いずこかへと運んで行く。
抵抗を試みると蛇の体で締められ、傷が激しく痛んだ。
「おとなしくしなさいよ。本当に死んじゃうわよ」
蛇女は脅しを口にする。
自分の上げた声の大きさで目を覚ました。
全身にびっしょりとかいた汗は、あなたをおおいに不快にさせるだろう。
扉からノックのような音が聞こえる。
夢の中でどれだけもがいたのだろう。夢の中で姿を見た分、佐倉さんの足取りが掴めないという事実がのし掛かって心が重くなる。
何も進んではいないのだ。
起きるなり日記帳を手に取って、夢の中で見た影のことを書き留める。
そういえば、夢日記をつけると気が狂うなんて噂があったっけ。
夢の中で見たものが何かの手がかりじゃないかなんて考えてる時点で、もう何かずれてるのかもしれないな。
そこでノックのような音が聞こえて、上着を羽織ってドアスコープを覗く。
扉がまた叩かれる。
思わず声を上げてしまってから、
「ごめん、近すぎて見えない。少し離れて」と、相手を動揺させないよう穏やかに声をかける。
突然の来訪者
そして目が扉から離れる。
それでやっとそれが佐倉だったことに気付くだろう。
怒りと恐怖がない交ぜになった形相の佐倉が、妙な姿勢で立っている。いや、立たされている?
「なによ、いるなら早く開けなさいよ」
聞き覚えがなんとなくあるような女性の声がした。
叫んでしまった。
思わず扉を開けようとして、異変に気づく。ドアチェーンをかけ、扉を少し開いて、外の様子を確認する。
その下には、何とも奇妙な蛇皮のマーメイドドレス……だろうか?
「人間に見つかると面倒だから早く入れてくれる?」
苛立った女性の声。
見上げれば、そこに見えたのはラミアの顔だった。
※《SANチェック》は要らんな。波照間の記憶においては仲間だし、あなた自身も少しだけ会ったことがある。
深く、息を吐く。人が見れば異様だろうその姿に、感じたのは安堵だった。
──ああ、仲間たちだ。
急いで扉を開ける。佐倉さんに事情は聞きたいが、まずは迎え入れなくては。
そうしなければ、佐倉さんが逃げていってしまうような気が、した。
焦りのあまり、ドアチェーンを外す手が少しもつれた。
佐倉視点(ネタバレ)
中から慌てたような若い男の声が聞こえる。
俺にこんな事をして、ただで済むと思うなよ。ぶっ殺すぞ。
あなたは極度の怒りと痛みと緊張のせいか、周囲の話が全く頭に入ってこない。
入ってきたのはラミアと佐倉だった……が。
ラミアは長い尾で巻き付けた佐倉を引きずるようにして入ってきた。
佐倉は青ざめて敵意と怒りに満ちた顔をしている。
明らかに彼の意志に反しているのだ。
ラミアは室内に入って佐倉をあなたの部屋の床に転がしたが、
佐倉は床でぐったりとしている。
時折動こうとしている気配はあるが、思うように体が動かせないようだ。
ギラギラした目でラミアとあなたを睨み付けている。
「ありがと。怪我人のくせに強情なのよねぇ」
ラミアは唇をペロリと舐めた。
佐倉から浴びる視線が、少し奇妙なことに気付くかも知れない。
いくら激怒しているとしても、だ。
午前四時、幸いカーテンは閉じたままだ。部屋の電気をつける。
冷蔵庫からポットを出して、いつもの麦茶を入れる。流石に三つも同じグラスはなくて、一つはマグカップになった。
「ラミアさんは麦茶、飲む?」
そう彼女に呼びかけながら、佐倉さんの様子に気を配る。向けられる視線に奇妙なものを感じて、その眼から彼の状態を推し量ろうとする。
〈心理学〉で佐倉さんの意図を推し量ることはできますか?
あ、オープンじゃなくてこちらで振ろう。
🎲 Secret Dice 🎲
それどころか敵だと思っている。
だが体の動きを封じられていて抵抗できずにいる。
そのことがさらに彼の怒りと焦燥と敵意を掻き立てている。
そんなことに否応もなく気付くだろう。
彼の目は、今までにあなた方に害を与えてきた悪魔や奇妙なものたちに対するもの、そのままだった。
ラミアはあなたの部屋の一角に窮屈そうにとぐろを巻いて、尾の先で佐倉を押さえつけた。
「あ、そうそう、正気だった坊やからの伝言。
『波照間さんには知らせないで』ですって。
面倒な条件つけるわよね、全くもう」
「ありがとうございます。佐倉さんを連れてきてくれて」
麦茶に口をつけて、深く息を吐く。向けられる視線が何であろうと、道が繋がった。できることがある。その事実が何より心を安らがせていた。
自分だって、覚えていないけど、きっと佐倉さんに、見知らぬ人に向ける視線を向けたことがあるのだ。
それでも佐倉さんは諦めないでくれていた。
「それで、あれから何があったのか教えてくれますか?」
そうして話を切り出した。
「そうねぇ、あたしも事情が分かっているわけじゃないのよ。
逃げるのを手伝え、って言われただけだしね?」
そんな前置きをして、ラミアはちらりと佐倉を見た。
視線で殺そうとでもいうような顔をされ、肩をすくめる。
彼女は話し始めた。
昨日の夜、突然異界でもないのに呼び出されたこと。
彼に乞われて病院から脱出、異界に身を潜めたこと。
今朝になって突然、彼が正気を失って逃げ出そうとし、それを捕まえてここまで運んできたこと。
「坊やのなかに良くないものがいて、活性化していて危険だから排除なければならない、と言われたけど、坊や自身はそうしたくない、らしいわ」
ラミアは尾で佐倉の頬をなぞる。
「そうねぇ、アッタには絶対知られてはいけないし、もう一人のサマナーの坊やは、力にはなってくれそうだけど、そこから話が漏れる可能性がある、とか言ってたわね。
特にアッタはわからず屋だ、ってかなり怒ってたわ」
「良くないものが、ですか。それが何かは、分からないんですよね」
行動を封じられてもがく佐倉を、じっと見る。
「アッタさんには知られちゃいけない……、そうか、先輩はあのBarに行くから。
それで、俺の所に?」
佐倉さんの中にいるもの。佐倉さんが、排除したいと望まないもの。
決めつけはよくないけど、心当たりがひとつだけあった。
ただ、良くないものだ、というのが分からない。
正直あたしは、アッタに任せるべきだと思うわ」
ちろ、と佐倉を見下ろし。
「ただねぇ、サマナー命令だから。
正直、こんな状態の坊やに契約違反をどうこうできるとも思えないし、さっさと食べちゃうなり、なんなり、できなくもないけど」
彼女はそう言うと意味ありげに微笑んだ。あなたには捕食者の笑みに見えただろう。
案外慎重っていう方の自分が、そう感じる。
一瞬強張ってしまっただろう頬を軽く叩いて、気を取り直す。
彼女の蛇の眼と、佐倉さんの姿を見比べる。……少し、沈黙が落ちた。麦茶をもう一口飲む。
躊躇った。
俺の考えていることが合っているかどうか分からない。夢で見た光景がありありと蘇る。あの影に俺は怖気を感じた。良くないものっってのは、あれじゃないのか。
ここで頷かなかったことで、本当にそうなってしまうかもしれない、そんな迷いが過る。
排除を望まなかったっていう佐倉さんが、正気だったかどうかも分からない。夢の中で感じた無力さを思い出す。
先輩と違って、俺に何ができるわけでもない。
きっと、俺の手には余ることだ。
躊躇った。
それでも。
「いえ。……アッタさんには怒られるだろうけど。俺も、それが何なのか、佐倉さんが何を望んだのか。
もう少しだけ、探ってみようと思います」
サマナー命令だから、って言うけど。
アッタさんじゃなくて、俺の所に来たってことは。
そう教えてくれたってことは。
俺がそう返すと、どこかで思っていたんじゃないかと、そんなのは自惚れだろうか。
置き卓の利点
これは置きでやってとっても楽しい
あと牧志はサマナーではないけど、悪魔に対する向き合い方が案外バランスのいいことになってるな?? って思いました 波照間の感覚と牧志の慎重さが相克している
「そういえば、何か調べ物してたみたいよ。本人が覚えているかどうかは分からないけれど」
本人に訊いてみたらどう?」
ラミアは目をギラギラさせた佐倉をあなたの方に押した。
……どう考えても感情はどん底、到底話が通じるように思えない。
やさしさ
事情知らずにやられる側はたまったもんじゃないけど。
でも事情知らずにされたら《SANチェック》。
あたしが噛みついて毒を入れれば、どんな奴でも思いのまま。とっても素直になってくれるでしょうね」
ラミアは蠱惑的な笑みを浮かべた。彼女は噛みついた相手の心を支配することができる。ただ……
「色々と破壊したところに流し込んで屈服させる毒だから、今の坊やにはあんまりお勧めできないわね。そのまま死んでしまうかもしれないし」
慌てて制止する。ちらりとその蛇の眼を見やって本気度を推し量る。冗談、だよな?
※という流れでラミアに〈心理学〉を試みます。
しんじゃう
そういえば結構なダメージでしたね《魅惑噛みつき》。
反魂香……死者復活の薬。真・女神転生TRPGだったら効果があるんだけどね……
あなたがここで解決する、または解決の糸口を見つけられなければ、命令に背いて殺してでもアッタの元へ連れて行くつもりだろう。彼女にはそれができる。
彼女も佐倉の状態は相当良くないと感じているのだろう。
それでもできる限りは佐倉の命令に従いたいと思っているようだ。少なくとも、今は。
ただ感じ取れるのは、彼女も彼女なりに佐倉を案じている、ということだろうか。
あ、もうひとつ。
彼女は焦っている。
案じてくれる先輩がいるような気分だった。それを許して貰えている。最悪俺がしくじったら、ラミアさんにはそれが出来る。
「佐倉さん」
背筋を伸ばした。
一瞬怯みそうになるほどの敵意を宿したその眼と向き合う。
呼びかける。
佐倉視点(ネタバレ)
話の流れは良くわからないが、この男の方は随分と穏やかな善人に見える。
その返答からあらゆる手段で情報を引き出そうとしているのがありありと分かる。
顔は蒼白で、目の下にはっきりとくまができ、あまり良くないのは身体的にもだろう。
〈医学〉30あるあなたには、佐倉が一刻も早い治療と栄養と休息を必要としているのが分かる。
もう少し詳しく知りたいならよく見る必要があるだろうが、蛇の体の下ではなにも分からない。
本当なら、すぐにでも病院に戻ってほしいような状態だと、これまでの出来事を通して傷や疲労を見るのにも慣れてしまった経験が告げる。
「俺は、あなたの敵になる気はない。取り押さえさせてもらったのは、このまま逃げればあなたが命を落とすかもしれないからだ」
死んでしまう、と言えなかったのはちょっとした意気地のなさだった。
「あなたが守ろうとしているものを、俺も守りたいんだ。あなたが調べていたという事を、知りたい」
手を広げ、そこに何も持っていないことを見せる。情報を引き出そうとするなら好都合だ。
伝わってほしいことばかりで、隠すことなんてない。
佐倉視点(ネタバレ)
その真意を見抜いてやる。
🎲 Secret Dice 🎲
佐倉視点(ネタバレ)
彼はあなたに強い親しみを抱いていて、
本気であなたを心配し、あなたの力になりたいと願っている。
この男は裏表のない善人であり、底抜けのお人好しだ。
俺を知っているのか?」
〈説得〉くらい振ってもらってもよかったかな?
全力開示されたいい人オーラが佐倉さんを襲う
俺から見ると、あなたは佐倉光に見えるけど、それで合ってる?」
見知らぬ相手に接するように接しようとしたつもりが、佐倉さんの友達、と名乗るとついいつもの口調に戻ってしまう。
さっきその悪魔が言っていたことか」
疑念に動揺することはなかった。
佐倉さんなら、俺が嘘をついてないことくらい分かる。
そんな確信があった。
佐倉視点(ネタバレ)
間違っているのはあなただ。
全く記憶も理屈も正常に繋がっていない。
さっきまで知っていると思い込んでいたものが、じつは空洞であることに気付くのだ。
言いかけて言葉を止め、
「どうしてこんな怪我をしている?」
今度こそ彼は本当に困惑していた。
「俺は異界に閉じ込められていたから、悪魔に襲われて、記憶が混乱しているのかと」
あそこに閉じこもったのは坊や自身だし、あたしのサマナーは坊やなんだってば。
あたしやこの子のことも忘れちゃうなんて、頭に穴でもあいてるの?」
少し、落胆が声に滲んでしまったかもしれない。
俺のことを覚えてないのはいい。けど、何を調べてたのかも覚えていないのは痛い。繋がったと思った道が、途切れてしまう。
「……あ、ごめん。
佐倉さんは俺と一緒に事件に巻き込まれて、それは何とかなったんだけど、その時に敵にやられて大怪我を負ったんだ。
それで入院していたんだけど、アッタさんと言い争った後に、突然そこを出ていってしまって……、
ラミアさんの話によると、その後に異界に閉じこもった、んだと思う。
佐倉さんは、どこまで覚えてる?
自分の名前や過去のことは?
アッタさんのことや、波照間先輩のことは?」
一つ一つ、聞いてくれるかどうか確認しながら言葉を続けていく。取り乱したり、割り込んでくるようなら説明を止める。
言いながら、佐倉さんの腰にポーチがあるかどうか視線で確認する。
(ラミアさんの尻尾が邪魔で、見えないかもしれないけど)
ミニPCを調べさせてもらうことができれば、何を調べていたのか分かるかもしれない。
佐倉視点(ネタバレ)
悪意を感じない相手から記憶にないことを次々聞かされて、やっとその疑念を自身に向けるべきであると気づいたようだった。
ほとんどあなたの言葉に口を挟まず、注意深く聞き続けているように見えたが、唐突に返事がなくなった。
白目を剥いている。
「あら……まずくない?」
ラミアが慌てて尻尾をどけた。
彼の腰にポーチはついている。
質問に対する反応から彼の状態を知るなら〈心理学〉かな。
後で彼が話すのを待ってもよいが。
慌てて駆け寄り、彼をベッドに寝かせる。
彼の服をゆるめて、体の状態を確認する。
※それどころじゃないので、〈心理学〉はしません
だがそれ以上にやつれていると感じるだろう。
〈医学〉ならば詳しい情報が分かりそうだ。
得られる情報は減るが、〈応急手当〉で振り直してもよい。
手当てしつつ状態を診たことになります。
さすがに道具が足りないので完璧とは行かないが、この状況においてベストの処置を行えただろう。
出血は速やかに止まる。
「まるで魔法ねぇ」
ラミアが面白がるようにあなたの手元を覗き込んでいた。
しかし、服に付着した血液量、昨日見た彼の状態、現在の状態を改めて考えてみると奇妙だ。
あなたは彼の状態を見て割と取り返しのつかないレベルの大出血を予想した。
だが思ったより包帯のなかに出血はなく、傷が膿んで熱を持っている様子もなかった。
傷があるにしてもきちんと治療を受け、それなりに回復していたはずの彼が、睡眠や栄養が足りていなかったとしても、ここまで酷い状態になるものだろうか。
あなたは、彼の体を蝕むのは身体的・物理的なものだけが原因ではないのではないか、と感じるだろう。
こんな大怪我の手当てをしたこと、ああ何度かあったかもしれない。流れ出す血が止まったのを見て、ようやく息を吐く。
一般人離れ
30って割と日常生活では頼りになる人だと思う。
そう思うと〈医学〉30って、日常生活では割と頼りになる人だ。しかも実戦経験がベースだから、何かあっても不思議なほど落ち着いていそうだし。
処置が終わって応急箱を片付けながら、奇妙な不整合を感じた。
顔が紙のように白かった。驚くほどやつれていた。無理をしたせいだとしても、そうだ、あの闇の中で二人踊り続けた時のように、血塗れになっていると思ったんだ。
……佐倉さんの中にいるっていう、“よくないもの” 。
それが、佐倉さんを蝕んでいるんじゃないか。そう感じた。
それならやっぱり、“よくないもの” は、“よくないもの” に過ぎないんだろうか。今更に迷いが蘇ってきて、誤魔化すように机に置いたメモ帳に「応急箱の中身補充。あと道具もうちょっと増やす」と書き込む。
水と簡単に食べられそうな物を用意しながら、改めて彼の顔を見下ろした。
ラミアが言う。
「実はもうマグネタイトが限界でね、実体を維持できないの。だから波照間の坊やにも話をしたかったのだけれど、仕方ないわねぇ」
ラミアはため息のようなものをついた。
女神転生シリーズにおいては悪魔が物質界(人間界)で肉体を維持・活動するのに使用するエネルギー。主に人間の精気のようなもの。
不足すると悪魔は肉体にダメージを負ったり、維持できなくなったりしてしまう。
早急に誰かには託す必要があったのです。
この状態で途中で消えてしまうわけにはいかないですもんね。
ここまで佐倉さんを連れてきてくれて……、佐倉さんと俺のことを信じてくれて、ありがとうございます」
感謝を込めて、一礼する。
無意識に握った拳の中に、重さを感じた気がした。
ここからは全部、俺の手の中だ。引き際も、俺が見極めなきゃいけない。
佐倉さんがどう言おうと、最悪、俺がアッタさんの所に佐倉さんを連れて行かなきゃいけない。
例えそれが、佐倉さんが助けたいと願ってくれたあいつを殺すことになっても。
「アッタは坊やが思うほどわからず屋でもないし、彼女が考えるよりいい方法でもあれば手を貸してくれるんじゃないかしらね?」
ラミアはすらりと伸びた蛇の尾をゆったりと揺らめかせて伸びをした。
「それじゃあね」
あなたの耳元、そのふたつに割れた舌が触れんばかりの近距離で囁くと、蛇女の姿は霧のように霧散した。
……体に麻痺は起きなかった。
思わず耳を手で覆ったときには、もう彼女の姿はなかった。
うーん、優しい人だけど、やっぱり心臓にはちょっと悪いな……。
「もっといい方法、か」
今の所、見当もつかない。でも、そうだな。俺は一人じゃない。
その方法さえ見つければいい、と言葉を置き換える。何も状況は変わってないけど、気を楽にするってのは大事だ。
佐倉さんの顔色や様子、出血に変化がないかチェックしながら、起きるのを待つ。
とりあえず、買いに行く暇はないだろうから、応急箱の中身は通販しておこう。消毒液、包帯、ガーゼ、添木、三角巾、それから止血道具……。
ガチすぎる救急箱
東浪見が遊びに来た時に何かちょっとした怪我したりして、「絆創膏借りていい?」って応急箱開けて「なんかすごいな、牧志んちの応急箱」ってなる。
牧志自身は色んな所で一般人離れしつつあることに自覚があんまりなさそう。
※波照間はツッコミ入れてくれないしなんなら一緒に気づかない
辛そうな表情をして首を振っている。
歯を食いしばり、体をかきむしり、呼吸を乱す。
酷い悪夢を見ていると想像できるだろう。
俺が夢の中で何かを見たように。
“よくないもの” が佐倉さんの中にいるのなら、佐倉さんだって、夢の中で何かと戦っているかもしれない。
佐倉視点(ネタバレ)
その痛みは全身が灼けるようで耐えがたい。
あなたはこの痛みを止めるためならどんなことでもしなければならないと思うようになるだろう。
今回はとても分かりやすいから。
しきりに腕をこする。振り返るようなアクションをする。
やがて突然寝台でのたうち回り、喉が詰まったような声を漏らす。
佐倉視点(ネタバレ)
だが、牧志があなたの邪魔をする。
あなたの手から短刀を取り上げようとする。
その最期の瞬間、ようやっと望みを叶えたあなたの目に、絶望に目を見開いたまま床に倒れている牧志の顔がうつる。
これで良かったのか?
強烈な後悔が、今までの痛みとは比べものにならないほどの苦痛を齎すだろう。
1d100 69 Sasa BOT 1d100→43→成功
FANBOX開設したで
もしかして、俺が見たあの夢と、同じ夢なんじゃないか。
そう気づく。
きっと、いま佐倉さんが見ているのは、鳥の姿をした神に責め苛まれるあの夢だ。
「佐倉さん!」
そう気づいた時、思わずのたうち回る身体に手を出していた。
肩を掴み、揺すり起こそうとする。
彼は目を見開いて苦痛に顔を歪め、息を乱したまま自らの首元に手を当てた。
『夢だったのか?』
自問しているのが表情を読む努力をせずともありありと伝わってきた。
そしてあなたの顔をじっと見つめる。
再び困惑が彼の思考を満たしてゆく。
佐倉視点(ネタバレ)
夢の中では彼のことを知っていたような気もする。
だがその感覚は覚醒とともに急激に消えていった。
視線を合わせたまま、傍らに用意していたコップを手に取る。
素直にコップを受け取ろうと手を出す。
「お前の言っていることは正しいのか。それならどうして俺は」
あなたの言葉を確認するように、佐倉は周囲を見回した。
コップを手渡す。佐倉の夢の内容を察している、ということが言葉から滲み出てしまっていたが、自覚はなかった。
「俺に分かるのは、俺が嘘をついたり、佐倉さんを害するつもりはないってことだけかな。何があったのか、佐倉さんの覚えてることを聞かせてほしい」
佐倉視点(ネタバレ)
あれがもし俺の記憶を夢に見ているんだったら、こいつは何か知っているかも知れない。
あえて嘘を言って反応を見よう。
彼が記憶を整理するように淡々と呟く。
「お前の姿もあったな。拷問に加わっていた」
何故かじっと見られている、と思えるかも知れない。
驚いて目を見開く。俺が?
「ちょっと衝撃的だな……。佐倉さん、その夢に見慣れないものはいなかった? あー、見る余裕なんてなかったかもしれないけど。
俺も一度、似たような夢を見たんだ。佐倉さんが……、何度も死ぬ夢。
その夢の中には、べったりとした黒い影みたいな、異質な奴がいた」
その視線にはどのような感情が乗っていると感じますか?
佐倉視点(ネタバレ)
本来どうあるべきだと思った? まるで知っているみたいだな」
彼はそう問いかけてくる。
あなたが影のことに言及するなら、かすかに首をかしげた。
心当たりがないのかも知れない。
でも、俺が見た夢もそうだったけど、結果が違う」
その時に本来起きた事を手短に説明する。
自分が見た夢の内容と、本当はどうだったのかも。
さっき観たダンスホールで彼が死亡する夢を見たけど、本当は仲間三人いて、闇は撃退できたはず
そういったことを説明したと言うことでよろしいですか?
佐倉視点(ネタバレ)
さきほど彼が話していない内容までもだ。
そしてそれは現実と一部違うはず?
ただ相変わらず牧志に嘘をついている様子はない。
彼の言うことは本当だと考えるのが一番合理的なのだ。
それからぽつりと呟いた。
それと……」
お前は俺を止めようとした。けど、俺はお前を突き飛ばして、喉を切った……
どうしてお前は俺の夢を知っている。
俺が記憶を夢に見ているとして、お前には正しく現実に起きたことの記憶がある、そこまではいい。
ならどうして俺が夢で見た、『事実と違うこと』まで知っているんだ」
驚いた。もしかして。
「佐倉さんも同じ夢を見ていた……、いや、違う。
佐倉さんの夢を、俺が夢として見ていた?
そうだ、最後に佐倉さんの声で、出ていけって言われたんだ。
ちょっと自分でも変なこと言ってるとは思うんだけど、俺が佐倉さんの夢に、入ってしまっていた? んだとすれば、辻褄は少し合う。いや、どうしてそんなことになったのかは分からないけど」
変なこと言っている自覚はある。
でも、一度声に出してしまうと止まらなかった。
だがすぐに顎に手を当て考え始める。
佐倉視点(ネタバレ)
さっきの話から考えれば……」
彼は語る。
大体の記憶は残っているが、あなたや波照間、ラミアなど、近しい人の記憶は消えている。
ただ、体験したこと全てが消えているわけではなく、
誰と行ったかがぼやけて抜けてしまっている。
例えば3日前の事件については半田のことは覚えている。
だが、誰と一緒に巻き込まれたかはあまり記憶にない、といった風に。
佐倉は「疑って悪かった」とあなたに謝った。
相変わらず記憶が戻る気配はないが、貴方の言葉を信じることにしたらしい。
そうだな、おそらく入院した頃からだと思う。
夢の中で死ぬ度に、少しずつ俺自身が削られていっているような気がする。
もしかすると記憶の欠けもそのせいなのかも知れないな……」
……俺達のことだけ、忘れてるってことなのか。
かもしれないな。じゃあ、その原因を見つけないとな」
いつも使っている日記帳を取り出す。
佐倉さんが死ぬ夢を見始めた時期や、今起きていること、経過した日数などを図に起こしていく。
そうしていると。
ようやく合流できた、そんな気がした。
佐倉さんの中に、“何か” がいるらしい、ってこと。それが何か良くない影響を及ぼしているらしいこと。
でも、佐倉さんはそれを排除することを望んでなかったらしい、ってこと。
それから、佐倉さんが記憶を失う前に、何か調べてたらしい、ってこと。
誰だったかは覚えていない。
というよりも忘れたみたいだな……
ただ、大事なことだった気がする。
絶対に守らなければならないと感じるんだ。
それが誰かも分からないのにそう感じるのは奇妙なことだし、それに疑いを持たないのもおかしい。
やっぱり今の俺はおかしいんだな」
もしかすると、いま佐倉さんを蝕んでいるのと、その人とは別のものなんじゃないかな」
希望的観測が混じってしまっている、という自覚はあって、なんだか微妙な言い方になってしまった。ううん。
その調べてた内容が気になる。いつものミニPC、持ってるよな?
何か痕跡が残ってないか、見てもらっていいかな」
そして暫く操作していたが、驚いたように声を上げる。
そんなことを考えていたのも、佐倉さんの言葉で吹き飛ぶ。許可を取る言葉と同時に、思わずもう覗き込んでいた。
・そのメモを見ようとします。
事件解決のための情報交換時などは尚更だ。
思わず取ってしまった行動を謝る。佐倉さんは俺のこと知らないっていうのに、覗かれたら嫌がるよな。
それから、今度はちゃんと許可を取って横から覗く。
蓋のある容器に魂を捕える(影響不明。すぐ開ける)
三日間の儀式(波照間さん 難
精神のガード オニ
魂を見つける(牧志(危険。正体を知らせない方法?)
それか、一つの方法に四つの順番があるのか。
どの方法にも何かしら難があったみたいだ。影響不明……、っていうのが、佐倉さんへの影響なのか、その『魂』への影響なのかは分からない。
二つ目の方法は、単純に難しいってことなのかな。
三つ目は何も書いてないな。
四つ目は、危険?」
佐倉さんとの共有の意味も含めて、思いついたことを声に出す。
俺ならこれだけってことはないだろう、このメモを書いた根拠があったはずだ。
魂の束縛、って言葉を俺が言っていたことはないのか? 聞き覚えは?」
【アイデア】!
もし牧志がその言葉を聞いたことがあるはずだ、とあなた自身が思うなら判定なしでも良い。そのときのことを指定すること。
ミス!
失礼しました。
でもヒントにはなるかも。
やっぱり夜中に書くとダメだな!
・「地獄はやさしい」のときの「魂の監禁」
・「瓶の中の君」のときの瓶型捕縛装置
あたりですね。後者の方が近いかな?(合ってたらRP入れたいです)
アドリブで変更してやらかしちゃうのたいそう分かる
蓋のある容器に閉じ込めるってのは、前に見た瓶に似てるな。あれ、佐倉さんが瓶の中に閉じ込められたやつ。呪文を唱えて瓶の口を向けると、瓶の中に人を閉じ込められるっていう」
魂の束縛という言葉から、最初の思い出はすぐに出てきた。
しかし、よく考えればだいぶん違うなと思い直して再度考えたとき、思い浮かんだのはあの「瓶」だった。
起きたことそのものは覚えてるって言ってたよな、と探りながら口にする。
魂の監禁
紅が産まれた原因でもあるけど。
瓶への捕縛……『瓶の中の君』より。捕縛装置に縮小した対象を捕えることができる。佐倉は以前これで瓶に閉じ込められたことがある。
ああ、あったなそんなことが。あのときに一緒だったのはお前だったのか。
あれは、実体を瓶に封印する、みたいな。
どっちも呪文だな?
とするとこれも呪文の名称なのか……」
誰か見ていた奴でもいれば良かったんだけど、あの悪魔は俺が何をしていたかまでは知らなかったようだしな」
そろそろ朝の五時半頃になるだろうか。
そうだ、佐倉さん、何か食べられそう?
異界に閉じこもってたってことは、何も食べてないんじゃないかな。
俺もなんだか腹減ったし。入りそうなら何か出前頼もう」
・やること:朝食を食べる
・「魂の束縛」という呪文について、〈クトゥルフ神話〉で何か思い当たりませんか?
言いながら大盛りうどんを一杯注文。今の佐倉さんがどれくらい食べられるか分からないから、必要な分だけ分けよう。足りなかったら追加で何か食べてもいいし。
佐倉視点(ネタバレ)
だとしたら俺は、いい友人を持っているんだな。
ごはん
佐倉が身元の分かる物持ってなかったから連絡遅れちゃったって事で!!
ここで呪文のことを考えながら「ご飯食べよう」って発想を出せる牧志
でも実際ご飯は重要。
1d100 22〈クトゥルフ神話〉 Sasa BOT 1d100→26→失敗
そもそも俺はどうして異界に閉じこもってたんだ」
可能性、二つあると思う。
一つは佐倉さんを削っている何かからの干渉を防ぐため。
もう一つが、アッタさんから逃げるため。アッタさんのことは覚えてる?」
饂飩食べつつ、波照間とラミアから聞いた内容を一通り佐倉さんに伝えます。
(・夕方から夜にかけて何があったか
・アッタと言い争っていたこと
・よくないものがいるが、佐倉さんは排除を望まなかったこと 等)
こうやって話していると、佐倉さんが戻ってきた、と感じる。
記憶はなくても、信用してくれてよかった。
食事をするときはベッドからなんとか降りたが、まだかなり辛そうだ。
アッタってそいつのことなんじゃないかな。
波照間って人は助けて貰えそうだけど、
アッタって人と繋がりがあるから会いたくないってとこか」
まともに考える余裕がなかったんじゃないかと思える。
もう少し情報共有すりゃ良かったのにな。
そのアッタって人や波照間さんとも。
……なんだか面倒なことになって、悪い」
いいよ、面倒事なら慣れてる、っていうのも変だけど慣れてる。
佐倉さんが見つかっただけで、こうやって話せるだけでほっとしてるんだ」
最近頻繁にやりとりした形跡が残っている。
もちろんそれはあなたのものだ。
「ああ、俺のだ」
自分のスマホを取り出して、内容を照合する。
今送るから、確認してくれ」
また目を閉じてしまった佐倉さんを見下ろしながら、スマホを確認する。
苦しそうに目を閉じる様子を見下ろしていると、また焦りが湧いてきた。焦るな、と自分の頬をぴしゃりと叩く。いつもなら佐倉さんが、焦るなよなんて言ってくれる所かなと思う。
ラベンダーとアキノワスレグサを然るべき呪をかけつつ鎖編みして一年乾燥させた物を砕いた粉
ザントマンの砂で代用
100年以上前に作られた鏡
注文済 明日着
混ぜ合わせて呪文を唱える。所要時間は五時間。
画像データが数点添付されていた。どうやら古い本を写した物であるらしい。
だいぶ字がつぶれてしまっていてかなり読みづらい。
そもそも何語で書いてあるのかも良くわからない……と思ったが、何故かあなたには見覚えがあると感じる。
佐倉がうなされ始めた。
そうであれば、
・読めないのに見覚えがあると感じる所から、ラテン語ではないか、と見当をつけることはできますか?
・先頭の一文くらいをDeepLに入力して自動判別させ、何語か判別させます。
佐倉さんがうなされ始めたら上記の作業を切り上げ、その顔色や様子、寝言があれば発言などを観察します。
「(夢ったって一日一度じゃないのか、頻度が高すぎる……、)」
これまで見た夢の数を数える。闇の中で踊る夢、もうひとりの佐倉さんに殺される夢、鳥の神に拷問される夢。
覚えていればだけど、どれだけ死ぬ夢を見たのか起きたら聞いてみよう。発生頻度とか、分かるかもしれない。規則性があればだけど。
一応Googleさんが対応してるのは知ってたから調べずに通しちゃったw
あ、そもそも対応してないのか。意外だ。
Googleに頼るとどうも、ラテン語らしい。読めないのに見覚えがあるという感覚をその結果は補強した。
先輩に読んでもらおうか。佐倉さんがここにいることは隠した方がいいだろうけど、「突然佐倉さんからメッセージが来て、こんな内容が書かれていた」くらいなら大丈夫じゃないだろうか。
これをどうするかは、起きたら当人に一応相談しよう。
そんなことを考えつつ、うなされている佐倉さんの様子をじっと観察する。
突然病院から姿を消す佐倉。
その足取りを追う牧志。しかしその行方はようとして知れず。
疲れ果て眠る牧志は、夢の中で佐倉と出逢う。
佐倉は、死んだ。
佐倉の中の人、CoC初自作シナリオです。
話の流れで、
延々と死に続ける相手を助けるために足掻くの楽しそうじゃない?
折角なら今までのシナリオのifルート見られたら楽しくない?
というわけでこんな感じになりました。
最初はうまいこと他の人にも回せる感じのネタにするつもりだったんですけど、色々練り込むうちに、この二人じゃないと成り立たないシナリオになってしまいましたね。
もうそれを良いことにメガテンネタ・今まで歩いて来たシナリオのネタをこれでもかと突っ込んでいます。
まあそれはそれで楽しいのでヨシ!
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
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