こちらには
『今昔 狼龍奇譚
のネタバレがあります。
また、凄まじく盛ってますので
回す際の参考にはしないでください。
本編見る!
KP
先ほどまでがらんとしていた家は、恐らくできる限りの心づくしが並んで賑やかになっていた。
氷凪
「さあ、遠慮なく食べてくれ」
早浪
「ありがとう。……頂くよ」
彼だけではなく、きっとこの集落の人々の心をも添えられた心づくしを前に、手を合わせる。
KP
素朴な鍋料理に五穀飯、芋に山菜の煮付けと味噌漬け。
酒は先ほど同様やはり味はそれほど強くないものだが、おそらくこの地では貴重なものなのだろう。
早浪
「ああ、見るだけでも腹が温まるものだね」
このような雪深い所で、用意するのも随分難儀なことだろう。
……ああ、慈空にはあんなことを言ったが、まさか本当に心地良いものを味わうとは思わなかったよ。
この光景だけで腹が一杯になるような心地だが、見ているばかりにもいくまい。
あの王宮で見たどんな珍しい貴石よりも、鍋の中の光が美しい。
壊れやすいものに触れるように、そっと箸をつける。
KP
料理に箸をつけるあなたを、氷凪は嬉しそうに見ていた。
そうしてしばらく、二人で料理に舌鼓を打つ。
素朴ながら丁寧に作られた料理だった。
これほどに人が作ったものを食べたのはあなたも久しぶりだったことだろう。
氷凪
「しかし間の悪いことだ。吹雪とはな」
早浪
「吹雪か。確かに、狼といえど雪熊ではないからな」
氷凪
「ああ。これでは何日か出立は無理そうだ。
……何故だろうね。
そのことを焦る気持ちや残念に思う気持ちがあってしかるべきなのに。
悲願を目の前にして、不思議な気分だよ」
早浪
「……呑気なものですまないが、奇遇だな。
私の中にも少し、明日発てぬということを、喜ぶ気持ちがあるんだ。
もう少し、ここで何もかも忘れて、獣の身すら受け入れられて、穏やかにありたい……。軒の下で眠りたい。
分かっているさ、吹雪が去るまでだよ。本当に忘れやしない。それが許される身の上ではないからね」
氷凪
「私がいなくなればこの家も開く。
呪いが治らなかったならここで暮らしてゆくといい。
村のものにはよくよく伝えておこう」
早浪
「ありがとう、嬉しいよ。
でも私はね、いずれあの女を除かねばならない。

忘れる訳にはいかないさ。
でも、その言葉が嬉しいよ」
氷凪
「……きみの話を聞かせてはくれないか。
その憎しみのわけを。
きみが守りたいと願うものを」
早浪
「ああ。語れば長くなるような、ひとことで済むような、くだらぬ話だよ。
だが抱えすぎてつい漏れてしまうんだ、話させておくれ」
氷凪
「ああ。私はきみの話が聞きたい」
早浪
しばし、心づくしを味わうことに集中する。
その味のかたちを。そこに傾けられた心のかたちを。人の手になるものの喜びを。
そして半分以上がなくなったとき、ようやく口を開く。
KP
氷凪は黙ってあなたの言葉を待つ。
早浪
「私が王に仕えていた国の都は、それはそれは平和で、やさしく、栄えて、貴い国だったんだ。
人々はほがらかに笑いながら日々を過ごし、都を守る私達騎士のことを、子供達は眩しい眼で見上げてくれたものさ」
早浪
「私達はみな王に救われた者だった。大恩のある王のもと、日々誇りを胸に街路を巡ったものさ」
KP
氷凪は微かに頷いた。
あなたの懐かしむような言葉を心地よさそうに聞いている。
早浪
「今はむかしの話さ。今はもう街路は荒れ果て、人々はやせ細りおびえて暮らす。風は砂埃のにおいしかせず、あやしげな者どもばかりが元気に跋扈する。
戦でも、飢饉でもないんだ。驚いたことに、その原因はひとりの女なのさ」
氷凪
「きみが時折くちにしているかたきの女か」
早浪
「そうだ。細腕の女ひとりが、国をすっかりかたむけてしまったんだ。
女は王に取り入り妃となった。そうして私達騎士に命じ、世のあまたあらゆる珍物奇物を集めさせた。私達を顎で使い、あらゆる贅を尽くした」
氷凪
「……」
無言で促す。
早浪
「そうすれば蔵は空となる。人々は飢える。それだけじゃあない、そのくだらぬ行いに私達はみな使われ、街を守ることもままならぬ。
そうすれば白昼から賊のたぐいが現れるようになり、あやしげな者どもは街中をうろつき始め、人々は僅かな食糧を巡って争いを始める。
そうすれば、後は転げ落ちるばかり」
氷凪
「……それほどまでに権力というものは強いのか」
早浪
「権力と保身の手管、それが女をしてあそこまで磐石にしているのだ、と私も思っていたよ。だが、どうやらそれだけではないらしかったんだ。
私はあの女に獣の呪いをかけられた、と言っただろう」
氷凪
「ああ」
早浪
「私のように女を除きたいと望む仲間は、きっと他にもいたはずなんだ。
でも、気がつくとみな姿を消していた。あるいは、なんの不平も言わなくなった」
氷凪
「……それは、何故に」
早浪
「私が呪いをかけられたあと、王の眼を見て気づいたんだ。王の眼は雨の夕暮れのように曇っていらっしゃった。
きっとあの女は何らかのまじないを使って、王の御慧眼を曇らせ、王を傀儡と変えたのだろう。

仲間達も、きっと同じ運命を辿ったのだ。
あるいは私のように獣に、あるいは野鼠に変えられて、それきりになってしまったものもいるのだろう……」
氷凪
「……ひどい、話だな。
恨むのも無理はなかろうと思える。
もしその女を除きにゆくのなら、私が龍になったときに力を貸してもいいぞ」
早浪
「ありがとう……。君達を追いやった人の都の話だというのに、心を寄せてくれるのだな」
氷凪
「まあ、その通りではあるのだが……
きみがあまりに辛そうでな。つい絆されてしまった」
氷凪
「それにこれは私の目的とも合っていよう。
そのように恐ろしい女を除けば、人は龍を恐れるだろう?」
早浪
「ああ、間違いないだろう。龍を恐れ、あるいは讃えるだろうな。
あの女ひとりのために、どれだけの民が飢えたかもわからないのだ」
氷凪
「一石二鳥というものだ」
早浪
「……ありがとう。その時はぜひ、力を貸してもらいたい。
そのためならば、私も全身全霊を尽くすよ」
氷凪
「なあ、早浪。
もっと話してくれないか。
きみが愛した都のこと、旅のこと、もっと知りたいのだ」
早浪
「そうか。そうだな、どうせ今日は発てないのだ。
君も、日々の暮らしのことなどを、もっと聞かせてほしい」
氷凪
「三百年も在り続け、それでもきみの話にはかなうまいと思えるが」
早浪
「三百年前の事だけでも、異郷の珍事に等しいよ。なにせ文字が読めなかったくらいだ」
氷凪
「そういうものか。ではもう一献」
KP
氷凪はあなたに酒をついだ。
早浪
「ありがとう。やさしい酒だね、これは」
氷凪
「そうかい? 気に入って貰えたのなら良かった。これは昔々、私たちを神と呼んだ村人から貰ったのだ」
早浪
「おやおや、そうなのか。昔々の酒とは、また貴重なものを頂いてしまったな」
氷凪
「昔の話もよいが、私は今の話を聞きたくてね。いや、今のむかし、と言うべきか?
きみが愛するふるさとの話をしてくれ。
気候はどうなのだ、過ごしやすいのか? 花は咲くのか?」
KP
氷凪は外の景色や動物、人の営みや食べ物、ありとあらゆる事を聞きたがり、目を輝かせた。
早浪
聞かれるたびに答えては、つい言葉が走ったことだろう。
見る影もなく国が荒れ果てても、野山に咲く花や、道の傍らに生える草の形ばかりは変わらず、口にするだけで郷愁を呼び起こす。
氷凪
「そのようなものがあるのか! 驚いたな。
草木だけでどれだけあるのだ。桜とは?」
KP
無遠慮と言えるほどに感想を挟み、時折嬉しそうに笑う。
早浪
「ああそうだ、いま都に植わっている桜というものは、ずっと前に北の方から来てね……」
ああ、語れば語る程、懐かしくて涙が出そうだ。
何よりも、こうやって人と向き合い話す時間というものが、尊い。
KP
氷凪は、大した内容ではないが、と渋りながら里の話をしてくれた。
ずっと変わらぬ顔ぶれで穏やかに生きていること、時折変化を求め出て行く者がいること。
その多くは姿を消してしまうこと。
それでも昔は神と崇められる時期もあり、人間と上手くやっていた時期もあること。
だがここ数年で交流は途絶え、人間は、特に騎士は恐怖の対象となってしまったこと。
早浪
「ここ数年か。前に言った通り、時期が一致するな。
出ていく者が姿を消してしまうというのは、昔からなのか?」
氷凪
「そうだな、きみが先ほど言った女が現れた頃からとくに姿を消す者が増えたよ。
騎士が龍族を探し、捕らえる姿も見かけられた。
もう外へ行くのは余程の変わり者だけだ」
早浪
「そうか……。やはり、一致しているんだな」
氷凪
「今も一人、懲りずに外へ行く者がいてな。
彼女がほぼ唯一の外との繋がりだよ。
どこまで行っているかは知らないが、美しい着物や飾り、珍しい食べ物などを持って帰ってきてくれるのだ。
私が遠出をしていたのも、もしや彼女が戻っているのではないかと思ってのことだ」
早浪
「そうか、それであの時に会ったんだな」
氷凪
「それもまた僥倖だったな」
氷凪
「しかし都がそこまで荒れていようとは。鳳佳ほうかが無事だとよいのだがね……」
氷凪
「きみに『龍の心臓を得よ』と言った者は、この山のことを知っていたのか」
早浪
「そう。今思えば、慈空のやつがどこからそんな話を聞いてきたのか分からないんだ。
龍の心臓を得よと言ったのは我が王で、元をただせばあの女だ。
だが、山を九つ越えた龍族の村のことや、君達龍族の見た目の特徴を私に言ったのは、私の親友の慈空という男なんだよ」
氷凪
「ふむ、慈空……知らぬ名だ。
その男も騎士なのか?」
早浪
「ああ、そうだ」慈空の特徴を説明します。
氷凪
「うむ……いや……知らないな」
早浪
「心よい男だ、私が発つ時も私を案じていてくれた。
だが、あの国の騎士でもある。今は何をさせられているか、分かったものではないな」
氷凪
「その男も龍を狩り立てているかも知れぬ、ということか。
いや、しかしだな……」
早浪
「念のためというだけだ。そうでないことを願っている」
氷凪
「この山まで騎士が訪れることはそう多くはないのだ。
確かにこのあたりに訪れることもあるが、とみに多いというわけでもない。
龍族と戦った者がいるのであれば我らの弱さを知っていよう。
角を得ようとするならば、もっと人間が押し寄せていても不思議はないのではないか、と思うのだがね」
早浪
「そうか。……なら、それは杞憂かもしれぬ、ということか。なあ」
早浪
「龍族に、赤い眼の娘はいるか?」
氷凪
「ん? 赤い目の娘か。
先に話に出た鳳佳がそうだな」
早浪
「ああ」
氷凪
「見たことがあるのか?」
早浪
「いや……、この数年より前のことなんだ。特徴もそれだけだから、合っているかは分からないし、当時は龍族の特徴など知らなかった。龍族かどうかも分からない、が」
氷凪
「そうか……」
早浪
「慈空が、赤い眼の娘と逢引きをしていたのを見たんだ。
もしもそれが件の鳳佳なら、慈空が村の場所を知っていてもおかしくはない、と思ってな」
氷凪
「鳳佳が外の人間と逢い引きを? しかも村の場所を伝えた? これは驚天動地だな。
ううむ、なるほど頻繁に外へ行くはずだ」
早浪
※語弊
※個人の解釈です
慈空
彼女じゃないって言っただろう!?
何を吹聴しているんだ何を。
早浪
では彼女じゃないが逢引きをする仲……
慈空
「だからそういうのじゃないって!」
早浪
「それと決まったわけではないよ。他人のそら似かもしれん。
山を九つ越えて頻繁に都へ行くなど、大層時間が掛かるだろうしね」
氷凪
「鳳佳が戻ってきたら問いただしてみるとしよう。
これは面白いことを聞いた」
早浪
「お手柔らかにしてやっておくれよ。私が話したと知れたら馬に蹴られそうだ」
氷凪
「安心するがいい、ここにいるのは鹿ばかりだ」
早浪
「そうか。ならば安心…… か?」
鹿に蹴られる
氷凪
北国だし鹿に蹴られても死ぬなって思った。
北国の鹿でっけぇ。
早浪
比較図見て奈良の鹿とのあまりのサイズの違いにオアァ…… ってなった。
氷凪
奈良の鹿見て「子鹿ばっかりだな可愛いー」って思ってた……
早浪
アッTwitterで同じような話を見た……。
奈良の鹿は人の領域の間にいるけど、北国の鹿は完全にあっちが主役で狭間に人がいる。
KP
午後五時くらいに釧路から阿寒に移動すると……めっちゃくちゃドキドキできます。
車が鹿に轢かれそうで。
早浪
そもそも街と街の間の距離感の違いにフォオオってなった関西人。(だいたい府県が縦長のため、東西方向に移動すると狭い範囲に色々詰まってる)
KP
道中五度ぐらいブレーキ踏んでて、
動物注意看板ってリアルなんだなぁと思った。

KP
話し込んでいるうち陽は落ち暗くなり、見えるのはもう火がたかれている周囲だけになっていた。
氷凪
「おっと、話しすぎてしまったな。すまない。
床を用意するとしよう」
早浪
「すまないね、何から何まで」
氷凪
「いや、楽しんでいるよ。
人がいる、というのはこれほどに嬉しいものだったと久しく忘れていた」
早浪
「そうか。……奇遇だね。人と話せる、人と過ごせるということがこれ程までに嬉しいものだと、私も久しぶりに感じている」
KP
氷凪は書斎と居間に布団を敷いた。
おそらく長く使っていなかったのだろう、布団は少し固くなっていた。
それでも野宿よりは随分とましだっただろうか。
氷凪
「済まないな。晴れていれば干せたのだが。
吹雪の間の逗留となるとそれも無理か。
せめてこちらを使うといいよ」
早浪
「ここの所ずっと野宿だったからね。虫と床を共にすることがないだけでも、天に昇る心地さ」
KP
おそらく龍族には人ほどの代謝もないのだろう。
布団にも汚れ等はなく、ただ隅に埃がついている程度だった。
こういった場所には虫も湧かないだろう。
氷凪
「厠は好きに使うといいよ。お休み」
早浪
「ああ、お休み」
早浪
ふふ、と笑いが漏れた。
この獣の身で虫もない寝床に身を横たえるなど、何やら不思議な心地だ。
不思議で、くすぐったくて、快い。

ああ。ここに来るまでは、龍族のことなど考えてはいなかった。
ただ、都の人々を思い、悔しさに歯噛みするだけだった。
山を九つ越えた道行きも、何も目に映ってはいなかった。

今は、違う。この場の人々の声が、顔立ちが、家並みが、そして彼の眼が目に入る。

彼を、ここの人々を、煩わせたくはないものだ、と思った。
そして叶うならば、力になりたい。
早浪
そう願いながら、目を閉じた。

KP
この人達頭に角が生えてるからうつぶせ寝かたっっかい枕つかってるんだろうな。
早浪
あの下に木の箱がついてるやつかも。
KP
そうそう箱枕とかで。
龍族も物は食べるみたいだからものすごーくゆったり代謝してるのかなとは思う。
血とかないけど。
もしかしたら人であることを忘れない程度のことしかしていないのかも知れない。
早浪
かもしれない。

KP
気がつけば、障子の向こうから光が差していた。
雪はやんだのだろうか?
どこからか味噌のよい香りが漂っている。
早浪
数度目をまたたき、屋根が目に入る。
雪深い中、どこの廃屋で眠りについたのだろうかと数度思いをめぐらせ、
それから味噌の香りが記憶を呼び戻した。

ああ、そうか、氷凪の家で世話になったのだった。
そうか、名残惜しいものだったが、雪は止んでしまったのだろうか。

長い旅の疲れが一気に手足に巡り、手足に重い鎖を結わえている。
億劫さを感じながら、のそりと身を起こした。
氷凪
「おや、お早う。起こしてしまったか?」
氷凪
「おお、人に戻っているな。不思議なものだ」
早浪
「お早う。そう言われれば我ながら不思議なものだな」
KP
それからすこしして朝餉をとることになる。
飯と、芋が入った味噌汁と漬物。
簡素な食事だが腹はくちくなった。
早浪
「よい味噌だね。ああ、獣の身でも人の飯できちんと腹がふくれるものだ」
氷凪
「気に入って貰えて嬉しいよ」
KP
はやみさん〈聞き耳〉は75か。
早浪
ですね。
KP
それなら別に判定要らんなって思った。
KP
何だか外で人が賑やかに喋っている声が聞こえた。
氷凪
「……おや、外が騒がしいな」
早浪
「何かあったのか?」
氷凪
「鳳佳がもどってきたのかもしれない」
早浪
「おや、そうか。案外早く機会が訪れた……、のかな」
明繰&美蝋
「ひーなーぎー、さーん」
「大声出すんじゃないわよ」
明繰&美蝋
「鳳佳が帰ってきたよー!」
「そうなの、鳳佳が!」
氷凪
「良い機会だったな。早浪もゆくか?」
言いながら席を立つ。
早浪
「ああ、そうするよ」
KP
子供たちは戸の前を駆け回っているようだった。
氷凪
「よしよし、みんなで鳳佳を迎えに行こうね」
明繰&美蝋
「おきゃくさーん、雪投げしようよ」
「またすぐそういう……」
早浪
「迎えに行った後でよければ、少し一緒に遊ぼうか」
明繰&美蝋
「やったーぁ!」
「い、いいの?」
KP
子供達は目をキラキラとさせてあなたの腕を引く。
明繰&美蝋
「鳳佳も入れて一緒に遊ぼう!」
「旅してきたばっかりで疲れてるのよ、駄目に決まってるでしょ」
明繰&美蝋
「鳳佳ね、元気そうだったよ!」
「いつもちゃんと戻ってくるか心配なんだけど」
明繰&美蝋
「いっつもどこいってるか教えてくれないんだよなー」
「遠くへ行ってるのよきっと」

KP
賑やかな子供達に引かれ広場に向かう。
雪は小降りになっているが、まだ分厚い雲が周囲にひしめいていた。
今はほんの少しの晴れ間であるらしい。
村の中央辺りまで向かっていけば、確かに大勢が輪を作るようにして集まっていた。その輪の中心へと目をやれば、見覚えのある姿があった。
KP
頭から顔を隠すように布を被り、艶やかな黒髪が隙間から風に揺れている。雪のように白く、枝のように細い指先が布へとかかれば、はらりと取り外される。途端、美しい顔立ちが露わになった。
血よりも鮮明な赤の瞳。それはかつて王都の路地裏で見たものと同じだと気が付く。
KP
凛としながらも穏やかな表情で村の者たちをみつめていた少女だったが、あなたの存在に気が付いた瞬間、ひどく険しい表情へ変わっていた。
整った顔立ちだからだろうか、幼いというのに恐ろしさを覚える程の剣幕を浮かべ、あなたへと近づいてくる。
そしてそのままの勢いであなたの胸ぐらを強く掴んだ。
咄嗟に制止しようとした氷凪へと睨みをきかせたのち、再びあなたへと彼女の視線が突き刺さる。
鳳佳
「あんた、王都の騎士よね?
違うなんて言わせないわ。私覚えてるもの。目が合ったこと。
ねぇ。単身村に潜り込んできて一体どういうつもり?
まさかまた村のみんなを誘拐してくわけ? もう派遣はひとりで十分事足りるってこと?」
KP
少女の目には激しい怒りと憎しみが宿っていた。
早浪
「氷凪」
直接少女に言い返すことなく、静かに彼の名を呼ぶ。
氷凪
「落ち着いてくれ、鳳佳。
彼女は私の客人だ」
KP
氷凪の言葉に顔をしかめ、鳳佳は口元を歪めて笑った。
凝る憎悪があなたに突き刺さった。

KP
本日ここまで。
早浪
ありがとうございましたー!
KP
ありがとうございました!

コメント By.KP
氷凪のもてなしをうけ、安らぎを得る早浪。
そして互いにひとであると知る。

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