こちらには
キルキルイキル・水槽回顧
のネタバレがあります。
KP
渡川京、あなたは「たとえどのようなことがあっても SAN 値は回復しない」。これを覚えておくこと。
主にKP自身に向けての備忘録である。
 「水槽回顧」
どぷん。
花の、柔らかな甘い香りが鼻をくすぐったかと思うと、ごわごわという耳鳴りがした。

眩しさに耐え切れず、あなたは目を閉じる。

ピピピピピピ。
聞き慣れたアラームの音がする。ゆるゆると落ちていた意識が急浮上し、あなたは飛び起きる。

朝だ。

カーテンから朝日が差し込み、温かな光の筋があなたを照らしている。

今日は、いつだっただろうか。
渡川 京
──今日は、あれから数日後だ。あれから、そう。
”あの” 一件から、数日後。
あれから、俺と迅は、変わらずあの部屋に二人で住んでいる。
相変わらず部屋はボロで、風景はめちゃくちゃだ。鏡は粉々に割れたままひとつも残らず、鏡のかけらには俺しか映らない。
それでも、ふと外に意識を戻せば、ギターとカメラとバイク雑誌と楽譜と、俺の服と迅の服が詰まった俺の部屋があって、スマホが二つ並んでいて、方々に友人やら彼女からのメッセージが来る。
迅の彼女は、”友人とルームシェアをしている” という迅の言葉を、そのまま信じていたらしい。一度も姿を見せない俺のことも、”拗ねて顔を出しやしねぇんだよ” と聞いて、そのまま。
俺は実際拗ねてたから、間違ってもいない。
写真の中に収まる、ギターを持って歌う迅の顔は、たまに俺の顔に見えた。それでも迅は小綺麗に決めるやり方を知っているから、それなりに似合っているように見えて、くすぐったい。
KP
──あなたは、どんな朝を過ごす?
渡川 京
ぼんやりと目を覚まし、目覚まし時計を停める。今日は休日だ。家でのんびりしてもいい。
室内着に袖を通し、顔を…… ああ、洗面台は崩れてしまったんだったか。最近、こちらとあちらがごっちゃになる。

朝食でも作ろうと思ったが、それもままならない。仕方ないので、向こうの部屋で寝る迅に声を掛けに行く。
KP
あなたが立ち上がって部屋を出ると、すいい、と目の前を小さい銀色の何かが横切った気がした。
ごしごしと目を擦っても、今は何もいない。
渡川 京
「──?」
何だ? とうとう虫でも出たかと思ったが、虫というより魚のようだ。ここに今更、何が起きてもおかしくはないが。
KP
進めてて思ったんだけど「夢の中の楽しい外出」でもよかったなと思った。KPレスだしifってことで2パターンやるか、それは別のシナリオでやるか?
渡川 京
「迅、起きてるか?」
こうやって声をかけるとき、毎回背筋が冷えるような心地になる。あいつが勝手に死んでやしないか。
いつの間にか消えていやしないか。迅の部屋が消えていやしないか。
KP
「ん……、何だよ。ああもう朝か」幸い、迅は眠そうな目をこすりながら身を起こした。
渡川 京
「おはよう、起こして悪かったな。キッチンが元に戻れば朝飯くらい作れるんだが」
KP
「そうもいかねぇだろ。飯は向こうで食うからいいよ」
渡川 京
「そうだな」
ベランダのそばに行って、カーテンを開け放つ。
KP
燦々と輝く夏の真昼の陽光。その風景がのたうつように揺らぐと、一緒に花火を見た祭りの夜になったり、窓いっぱいに広がる海になったりする。
渡川 京
この外に見えているのは俺たちの思い出だ。迅と一緒に眺められるのは、もう過去しかない。

たまに、最近の風景も映るようになったのだ。それに気づいてから、俺はあまり行かなかった旅行へ行くようにした。
三崎の漁港。小笠原の島。瀬戸内の凪海。門司の海峡。気づいたら海ばかり眺めているな、と気づいて、山奥のペンションなんかも加えた。
泊りがけの旅行にすると途中で迅になるから、一緒に旅をしている気分になって楽しかった。偶にあえて旅の友を作れば、面白いやつだとそいつは笑ってくれるのだ。
ぽた、と窓の外を大粒の雨が落ちた。
KP
「お前、泣くなよ」──こうするって決めたろ。迅が笑う。
KP
不意に、あなたは気づく。
ベランダの窓が、開く。
渡川 京
「!」
何が起きているのか、分からなかった。とうとう自他の境界がおかしくなってきたのか。振り返る。迅はいるか。
KP
迅はあなたの後ろにいる。何だよこれ、すげぇ、と言って前に出る。
外にはいつか行った街の路地。さあ、どこに行こう。
どこからか、花の甘い香り。
降り注ぐ陽光を浴びて迅が、路地の奥を指してあなたを導く。
渡川 京
こじゃれたカフェを見つけた。気後れして行けなかった場所だが、いちど目を瞑れば抵抗感は消える。建物を外から見た記憶がある。あの日の旅行で迅が行った場所だろう。
KP
彼は慣れた様子でテラス席につく。注文を取りに来たウェイトレスに、可愛いな、なんてイタリア人のように声をかけたりして。
渡川 京
横文字のメニューに戸惑っていると、迅に少し呆れられた。呆れたふりをして教えてくれて、結局エスプレッソを頼む。

口をつけると強い苦みと快い酸味が舌を刺す。口に含んで味わってから、グラニュ糖を入れてもう一口。知らないはずのやり方を知っていた。迅と記憶が混ざってきているのだ。
不意に旋律が喉をこみあげてきて、歌を吐いた。

何度も教えてもらっているのに、まだ辿々しい俺の歌だった。
KP
水底から水面を見上げるような、乱反射した太陽の光が差し込む。
KP
「 ──おい、京。こんな所で寝るなよな」
KP
ゆるゆると落ちていきそうな意識が、迅の声で呼び戻される。どうやら陽光が心地よくて、少し眠っていたようだ。
渡川 京
「ああ……、悪い。少し寝てたみたいだ。後で海岸にでも行って、昼寝でもしないか」
KP
時計を見ればお昼時を指している。今は昼だ。
KP
「お前、この状況で昼寝かよ。まあ、でも…… そういうのもいいな」
KP
路地に並ぶ土産物屋をひやかして、あなたたちは海に辿り着く。海水浴場なのか、辺りにはサーフボードやら水着姿の人々、海の家が見える。
その向こう、砂浜の上に生える花が一面に揺れている。……寄せては返す穏やかな波。
迅は砂がならされた場所を見つけ、パラソルの下に寝転ぶ。
渡川 京
一緒に、その横で寝転ぶ。遠くから誰かが騒ぐ声。あの時からつけている日記を開くのは、もう習慣だ。ここで書いて残るものかどうか分からないが。
迅が眠りかけながら鼻歌を唄っている。何でもない、穏やかな日々が、──少しずつ消えていく日々が。それでも、ここにあってよかったと思うのだ。
あれより前に、たまに迅と代われたらなんて思ったことを思い出す。実際に突然代わった時、色々大変だったから、もう思うまい。
……眠りかけながら、とりとめもなく思い出す、穴だらけの記憶。
誰かが言った。”多重人格症の問題は、いくつもの人格を持つということではなく、ひとつの人格すら完全に持てないということなのだ” と。

それなら俺は迅の一部か。引き裂かれた迅の一部で、友人をなくさないという役割を負わされて。
「……ああ、悪くない」
KP
あなたの呟きに、迅がうっすらと目を開けて、「なんか言ったか」と眠たげに言う。
渡川 京
「いや、何も」

眺める海は、燃えるような赤になって沈んでいく。
KP
そこで【目星】を。
渡川 京
CCB<=75 【目星】 (1D100<=75) > 68 > 成功
KP
──迅の眼が、何かを見つめている。
渡川 京
つられるようにそちらを向く。
KP
そちらに顔を向けると、それは花だった。オレンジ、ピンク、紫、様々な色の花がある。砂浜の上に這う小さな無数の花たち。
ぶわりと、芳香が立ち込める。くらり、と頭が回るような甘い匂いだ。どこかで嗅いだことのあるような気がする、花の独特な甘い匂い。
〈生物学〉、〈博物学〉、〈知識〉1/3のいずれかで判定。同情報。
渡川 京
CCB<=(80/3) 【知識】
CCB<=(80/3) 【知識】 (1D100<=26) > 67 > 失敗
KP
名前が思い出せそうで思い出せない。しかし、どれも匂いの強い花であることは分かるだろう。
燃えるような夕焼けが、少しずつ薄暗くなり、闇に溶けていく。
──この穏やかな日々をずっと願っても、時間というものは、止まることなく流れていってしまうのだ。
KP
〈聞き耳〉を。
渡川 京
CCB<=75 【聞き耳】 (1D100<=75) > 12 > スペシャル
KP
──ゴボゴボと篭ったような耳鳴りがする。
迅が、身を起こしてあなたを見ていた。何かを言った気がするが、聞き取れない。
そろそろ海岸を去った方がいいだろう。さあ、どこへ行こう。
渡川 京
身を起こして砂を払う。何か買って帰ろう。買ったところで料理もできないが、あの食卓に何か並べてみたい気がした。
ハンバーグとデザートを選ぶと、味覚が子供っぽいと迅に笑われた。仕方ないだろ、と返す。
買い物袋を提げて路地を歩く。
ふと、このまま家に戻れなくなるんじゃないかと考える。家に戻れなくて、現実に戻ることもできなくなって、そのまま、この何処かも分からない街の路地の間を、彷徨って。
KP
そう迅に打ち明けると、彼は「いいんじゃねぇの。それならずっと遊んでられる」そんなことを言って笑った。
渡川 京
「……ああ、そうだな」
そう言われると、本当に、それでいいような気さえしてくる。
いつもそうだったのだ。迅が笑うと、本当にそれでいいように思えてくる。落ち込んだ時も、打ちのめされたときも、その軽やかな言葉に助けられてきた。
KP
──ああ、もうすぐ、夜がやってくる。
【目星】を。
渡川 京
CCB<=75 【目星】 (1D100<=75) > 93 > 失敗
KP
おっと、迅の肩に蚊が止まっている。
渡川 京
何気なくその蚊を払う。
KP
うわっ、とか何とか言いながら蚊は払われて、夜の空に消えていく。
やがて、あなたの思いとは裏腹に、家が見えてきた。
薄暗い街灯に照らされる家の扉を、あなた達はくぐる。
──急に息が苦しくなり、大きく息を吸う。ぷかりと浮かんだ気泡は、空に向かって消えていった。

ノイズが走ったかのように、世界が大きく揺らいだ気がした。
渡川 京
「!」
息が、できない。
ゴボゴボという不鮮明な耳鳴り。
KP
あなたの隣では、
心配そうな顔をした、
悲しそうな顔をした、
迅が、
──息が、できない。
あなたは、不意に、──こんなことが、息のできないあなたを、あなたが、迅が、見ていたような、
───
──

──不意に、ふっと意識が戻る。
家の扉を開けながら固まっていたあなたを、迅が不思議そうに見ていた。
渡川 京
一度頭を振って、家の扉をくぐる。相変わらず食卓の向こうには瓦礫の山が見え、キッチンの水は出ない。
溜息をついて、買ってきた物を食卓に並べる。ハンバーグとデザート、イカの塩辛と日本酒、全く正反対だ。
KP
いただきます、と意外に? 丁寧に迅が手を合わせる。
渡川 京
酒でも買えばよかったと気づいて、日本酒を少し分けてもらう。ハンバーグに日本酒は絶望的に合わない、少し後悔した。
KP
そんなあなたの様子を見て迅が「だから言ったろ」と笑う。
背後では、ぱら、ぱら、と、少しずつ天井が崩れ落ちて。
そんないつもの、いつもと少しだけ違う風景に、──あなたは。
──違和感を覚えるだろうか。
渡川 京
──ふと、違和感を覚えた。
そもそも、外に出られるなんて変化、これまではなかったのだ。
この世界は崩れていくばかりで、元に戻ることはない。それを選んだのは俺自身だ。俺と、迅だ。
これは迅の記憶の追体験か。それとも、俺の。
──何よりも、さっきから、朝ここで目覚めたときから、ずっと。
涙が、流れて止まらないのだ。
KP
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、ごわごわとした耳鳴りが聞こえる。迅の顔は水を垂らしたように霞んで見えた。
渡川 京
「迅、」思わず手を伸ばして、それを拭う。
KP
それを拭うと、迅は、──泣きそうなあなたの顔で、あなたを見ていた。
あなたは気がつく。
この世界に、迅に、ずっと、ずっと引っかかるような違和感がある。
頭がズキリと痛んだ。迅があなたを見るが、その顔は水中にいるかのようにぼやけている。目を覚ましたくないと、心のどこかで思うかもしれない。

ごぼり、と口から気泡が漏れた。
渡川 京
「──迅、」

家の扉が開かない。外へ、現実へ出るあの扉が。さっきくぐったはずの扉が。
そうだ、俺は、一瞬でも思わなかったか。

最期の時間を、迅とここにいるのに使いたいと。
──迅はずっと、外と繋がっていたいと望んでいたのに。
KP
<アイデア>を。
渡川 京
CCB<=80 【アイデア】 (1D100<=80) > 32 > 成功
KP
あなたは思い出す。

どこからか漂ってきた甘い芳香に脳が犯される。
あなたは、──あなただっただろうか、それとも迅が、だろうか。
その匂いに導かれるように、ある植物園を訪れていた。
そして。
最後に見たのは色とりどりの花と、そこを流れる川と池。
視界が大きく揺れる。意識が動転し、冷たい感覚が皮膚を襲う。重くなった衣服が身体の自由を奪い、流れ込む液体が呼吸を止める。
あなたの意識は、そのまま暗転し──
──これは、
これは、あなたの夢だ。
ふっと一度だけ現実に背を向けた、あなたの夢。
渡川 京
「──ああ、」
KP
あなたの目からは自然と涙が零れる。
銀色の粒が闇に溶ける。
ここにずっといられたら。
これが、あの日よりも前のように、現実だったなら。
けれど、あなたは。
渡川 京
「──、」
ああ、そうだ。迅を巻き込むわけにはいかない。だってあのとき、迅は一度だって、俺を殺そうとしなかったのだ。
KP
あなたは目を覚ますだろうか、それとも目を瞑るだろうか。
渡川 京
それに俺だって。残されたこの場所に、最後まで歌を刻んで生きていくって、そう決めたのだ。
「──迅、」すまない。一度だけ現実に背を向けたことを、そう心の中で謝って。
目を、開く。
KP
あなたの意識は夢から覚めるように急浮上を始める。
遙か頭上に銀色の水面がたゆたっている。
ごぼりと、口から気泡が零れ、水が呼吸を妨げる。とてつもない息苦しさを自覚し、懸命に手を伸ばす。衣服はふんだんに水を含み、重たくのしかかる。
命の危機に瀕していることを自覚し SAN 値チェック 1/1d4
渡川 京
CCB<=34 【SANチェック】 (1D100<=34) > 73 > 失敗
1d4 (1D4) > 3
[ 渡川 京 ] > SAN : 34 → 31
貴重なSANが!減った!
KP
水面に誰かの影が映ったような気がした。

あなたはそれに手を伸ばす。
あなたは何かを掴んだような気がした。
ぐん、と身体が持ち上げられる感覚。
視界が開ける。
激しく咳き込み、空気を思い切り吸い込む。くらくらとする視界が少しずつ定まってくる。
身体が震え、あと少し遅かったならば、とあなたは頭の隅で考えるかもしれない。
バッと顔を上げる。微かな気配に顔を上げた。
あなたはその朧気な意識の中、迅の姿をそこに見た気がしたのだ。
昔うっかり池に落ちたとき、迅が引き上げてくれたような、そんな曖昧な記憶。
そこには誰もいない。あなたは迅で、迅はあなただ。現実の世界で、二人が共にあることはない。
ぶわりと、優しい風があなたの頬を撫で、髪を掬う。
パキリと、あなたの足下で何かが割れた音がした。そちらを見れば、化石化した花が砕けて落ちているのが分かる。その芳香があなたの鼻をかすめる。
あなたのPOWと5との間で対抗判定を。
渡川 京
RESB(9-5) (1d100<=70) > 40 > 成功
KP
あなたはずぶぬれになった服を引きずって、また歩いていくだろう。
あなたの道を。あなたと迅の道を。あと少しだけの、幸福な道を。
例えあなたが一度だけ背を向けてしまったとしても、それは変わらないのだ。
渡川 京
歌を。
迅の歌を口ずさむ。
──今度こそ、背を向けないで済むように。
KP
END A「水葬回顧」生還。
「あなたのSAN値は回復しない」。SAN報酬は省略。
最後の対抗判定に成功したため、後遺症はなし。
お疲れさまでした。最終SANは31。

【シナリオ】CoCKPレスシナリオ『水槽回顧』