こちらには『晴れのちラプンツェル』
のネタバレがあります。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。
最近、牧志そっくりの異星人……の記憶を保持する物体X六人との契約を行った。
巻き込まれ体質らしい。
最近いきなり起きる不随意運動に悩まされている。牧志の心音を聴くと精神が安定するためか治まる。
牧志とは友人。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
少し前に狂気に冒され、自分が不定形の化け物であり、自分の心や意思も化け物の模倣ではないのかと恐れるようになった。
佐倉とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
牧志浩子と五人
少し前に現れた6人の異星人。佐倉と契約して彼の仲魔として存在している。
その正体は、何にでも変身して喰らい殖える不定形生物だったが、事故により『人間』としての意識を持ち、増殖を抑えてこの星での人間との共存を試みている。
とにかくよく分からない事件だったが、よく分からないまま気分は楽になった。
ともかく、あなた達は昼下がりの街を歩いていた。
いつものように図書館へ遊びに行ったところ、近くのファミレスで大レタス特集なるニッチなイベントをやっており、好奇心は満たされたものの腹は葉っぱで一杯になった所である。
ミニレタス、サニーレタス、島チシャ菜、プリーツレタス、ロメインレタス、茎レタス……。
レタスにあんなに種類があったとは驚きである。
閑話休題。
苦味が強いやつとかひたすら甘いやつとか」
サンチュってあんな生え方してるんだなー、とか。
ただ、やっぱり食べたいな、肉。
ソーセージ欲しい。ソーセージとかベーコンで煮たかった」
やはりバランスが大事なのだ。栄養的にも、食の楽しみ的にも。
子供向けのボードにどの野菜がどうはえているか、どう育てているかが特集されていたのはつい熟読するほど面白かった。
芽キャベツの生え方は定期的にバズる。
牧志も興味深そうにボードを眺め、シローに話してやろうとメモを取っていた。
おっ、関西某駅キオスクとコラボした名物フランクフルトだって」
牧志がコンビニを見つけて横を向いた、その時。
ぽつ。
ぽつ、ぽつぽつ。
水滴だ。
雲一つない晴れた空から、水滴が落ちてくる。
おや? と思う間にも、雨脚が強くなり、バケツでもひっくり返したかのような大雨となる。
周囲の人々もわあわあ言いながらそこらの軒先に飛び込む。
まったくの晴天で油断していたため、傘はない。
あなた達もそうせねば濡れ鼠だろう。どうする?
身体と道路を濡らした水滴が、それが現実だったことを語るが、空だけを見れば跡形もない。
相変わらず、空には雲一つなかった。
もののついでだ、飲み物でも買っていこうかとコンビニに入る。
店内の人々は一様に服の水滴を払っており、同様に雨に降られて駆け込んできたらしい。
あ、東浪見だ。
いやー、びっくりしたよなー。
雨なんて予報なかったし、雲も出てねーからさぁ」
フランクフルト買ってこ。シローのお土産に余分に1本買ってくかなー。
風のせいかな? って思ったけど風も吹いてなかったし」
東浪見の手には、フランクフルトがぎっしり詰まったパックがある。家に持って帰るのだろうか。
二人ともこれから帰るん?」
ちょうど帰ろうとしてたとこだったんだ」
東浪見の兄貴って会ったことないけど、やっぱり筋肉で語る感じなのかな、とお土産を見て思った。
そういや繭事件のときの俺、たまに家に物資を調達に戻るとき、波照間さんや東浪見の目を誤魔化すのにずいぶん苦労したな、ということをふと思い出した。
東浪見曰く、少食の兄貴とたくさん食べる兄貴がいるらしい。
但し、全て東浪見基準だ。
波照間も、今ほどあなたの日常を気にかけてはいなかった。それはまあ、最近のあなたと牧志が、大層色々と巻き込まれるからだが。
良くも悪くも、ずっと。
自分だけ守っていれば良かった時は楽だったが、今それに戻りたいかといえば、そうでもない。
人との繋がりを維持するってのも、時折疲れるが、悪くはないものだ。
決まった場所で顔見知りができるのも意外と悪くはない。
ソーセージを持って帰ると、シローが満面の笑みであなた達を迎える。
美味しそうな匂いに興味を惹かれているのもそうだが、何より、あなた達がちゃんと帰ってきてくれたことが嬉しいらしい。
シローの態度は嬉しくもあり不憫でもある。
本当にシローは俺達のところにいていいんだろうか。
そういえば、雨の予報もないので外に洗濯物を干したままだった。
今夜着るはずの寝間着や下着の運命は、と振り返れば……、
誰も呼び出していない場合、洗濯物がしっとりするだけで終わります。
とするとお土産も二本だな。
1d6 Sasa
1d6→4
出番多いな古島。
振り返れば、SIZ6くらいになった古島が洗濯物を畳んでいた。
どうやら、取り込んで乾かしてくれていたらしい。
身長足りないし、大変じゃなかったか?」
お土産買ってきたぞ、と袋を上げて見せる。
お土産! なになに?」
ててて、と古島が駆け寄ってくる。
袋から出して古島とシローに渡す。
留守番している間に何となく仲良くなったらしく、美味しい! と笑いあう。
行ったときにまだフェアやってたらまた買ってこよう。
※自宅待機組は別の方法で昼食摂ってたんだな。
出前か何かかな。
東雲さんが何か持ってきてくれてたでもいいけど。
それか古島さんが昼食作ったかもしれない。
三人が四人になった家の中は、何となく賑やかだ。
結局その日、あの後雨が降ることはなかった。
久しぶりにあの雪対人間のゲームでも出してこよう。
これができるなら、三人以上からのゲームもやれるな。今度買ってこようかな?」
楽しそうなシローを加え、2対2になると、ゲームの戦術がだいぶ変わってくる。
基本的な癖は牧志そっくりだが、好奇心が強いからか牧志よりも前のめりだ。
等とやりながら夜更けまで遊んだ。
あなたと古島の仲魔チーム、あなたと牧志のタッグ、あなたとシローvsダブル牧志コンビなどなど。
牧志も古島も攪乱戦術には弱かった。
パズルではあれだけ頭が回るのに、対戦ゲーム、特に相手があなたとなると素直さが出てきてしまうらしい。
悔しそうでありつつも楽しそうだった。
ケラケラ笑いながらも次の戦術をひねり出そうと考え続ける。
余裕を見せることであいつの今の戦術が正しいと悟らせないようにするのだ。
人の良さが大胆さの足を引いているから、まだ俺にも付け入る隙はある。
あいつは結構俺と思考が似ているから、面白い勝負ができるかも知れない。
いい勝負ができる相手と面つき合わせて遊べると楽しいってことを知ったのも、なかなか大きいな。
あれはもう格上すぎて話にならない。
古島さん、作戦会議しよう作戦会議」
それは、自身の発想になくとも、あらゆる悪意を「分かってしまう」ということでもあった。
ちょっと今度話を持ちかけてみるか。
こっちはこっちでシローに悪知恵を仕込む。
生き残る力って奴だ。
シローはあなたが教える戦術をぐんぐん吸収していく。
気持ちよく疲れた頭が、疲れを眠気に変換する。
あなたは古島を喚んだ状態のまま、すかっと綺麗に眠りに落ちてしまった……。
あなたは自室の布団の中にいた。
どうやら夢は見ていないか覚えていないか、疲れの一つも残っていない爽やかな目覚め。
どうやら、昨日思いっきり寝落ちてしまったようだ。
布団に戻る理性があったらしいのが幸いである。
頭痛、ではない。気分は爽やかなのに頭だけが妙に重く、何か重いものを繋がれているかのようだ。
本編見る!
ごろりと転がって起き上がりつつ、頭にのしかかる何かの正体を確かめようと手をやる。
起き上がろうとするとさらさらと音がして、シーツに何かが広がった。
シーツの海に波打つ、細く長いつややかな黒い糸。
まるっきりホラーな状況に慌てて身を起こそうとする。
それは……、あなたの頭に繋がっていた。
あなたの、長く長く伸びた、つややかな髪の毛だった。
何だこれ。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》。
頭をまさぐって、自分の頭からその黒いつややかな滝に繋がっていることを確認する。
重い。
一体何が起きているんだ。夢か?
とりあえず髪の毛を手で手繰ってどれくらい伸びているのかを探る。
優に、あなたの背丈ほどはあるだろうか。
立ち上がれば踵近くまで来るだろう長さだ。
手でねじってまとめ、手に巻き付け肩に乗せて、リビングへと出る。
そういや部屋でシローは寝ている?
……シローの髪も長い。ふわふわとした柔らかく細い髪が小さな身体を包み込み、何か可愛らしい動物のようだ。
でもこれ前髪も伸びてるのかな。
……牧志の赤茶色の髪も、地面につきそうな程に長く伸びていた。
その横から古島が顔を出す。
彼女の髪も長く伸び、自身の腕に巻きつけられていた。
とりあえずCOMPでチェックしてみよう。髪に変な反応は出るか?
あとは体調不良になったりしているだろうか?
指に触れるのは慣れた髪の毛の感触、いや少し滑らかだ。
伸びた部分の髪は艶やかで美しい。
問題は髪の塊を乗せた肩が重たいことくらいだろうか。物理的に。
佐倉さんの背丈だとすごい長さだ。ホラーみたいになってる」
牧志は唖然として自分の髪に手を突っ込み、頭を掻く。
幸い前髪は顔を隠してしまう程度までしか伸びていないため、何かで留めるなり固めるなりすれば、問題なく動けるだろう。
反応が微弱すぎて判別できないらしく、詳しく見ようとすると[ERROR]と表示される。
……自分の頭に繋がっているものから反応が出る、ということに、あなたは微かな怖気を覚えるかもしれない。
分かりきったことを口にする。
台所から輪ゴムを持ってきて、髪を纏めてくくろうとする。
こっちみんなメーカー(佐倉のメーカー)、短髪しか作れないんだよなー
胴体みたいに後ろから描き足すとか? >みつあみ
余裕があったら描こう。
輪ゴムで髪の毛くくろうとして痛い思いをし、髪ゴムの偉大さを知るのは女子あるあるだと思うの。
反応が出るってことは、これ本当は髪の毛じゃないってことか?
一斉に蛇になったりしたら嫌だな……」
牧志が不気味なことを口にした。
こんな長いのが勝手に動き出したら収拾がつかねぇぞ。
てか何だよその発想。ユニークが過ぎるだろ」
括ろうか? それ」
古島がてくてくと近寄ってくる。
くそ、髪の毛って滑るし扱いづらいな……ゴム通らねぇし」
ポニテにしようとしたら輪ゴムに絡みまくって大変なことになった。
ない……、よな?」
まともな髪の毛じゃないのは確かだけどな」
牧志のタブレットを引き寄せながらあなたの髪を手に取り、古島は無責任なことを宣った。
やりやすそうで纏まるなら何でもいいよ」
佐倉さんのうっかりを古島&牧志がフォローする形にしよう。>髪ゴム
危ない危ないありがとうございます。牧志が輪ゴムで髪くくる人になっちゃうところでした。
こんなに長いとくくっても大変だよな?
三つ編みのやり方、やり方……。
あれ、輪ゴムだ。
牧志、ゴム予備ある?」
牧志が自室から髪をくくるゴムを持ってくる。
古島があなたを椅子に座らせ、動画を見ながら三つ編みを始める。
1d100 40【DEX】 Sasa 1d100→ 46→失敗
不格好な三つ編みのような形にはなったものの、髪が飛び出しているし、ボコボコしていてあなたが動くと右へ左へ尻尾が揺れる。
頭をぐいんぐいん引っ張られて変な方向に首を曲げながら悲鳴を上げる。
何となく引きつって痛い頭皮を揉みつつ、つくって貰った三つ編みを少し緩めて調節する。
しっくりこないが自分じゃできないのでどうにもならない。
編んでしまえばまあまあ扱いやすいようになる。
あちこち飛び出た髪の毛を落ち着かせながら息をついた。
決まったアクションを繰り返すだけだもんな。俺もやってみるか。
手をわきわきしながら訊く。
でも正直、この長さ編んだらどうなるのか気になる。頼む」
牧志は 重々しく頷いて、あなたに背を向けた。
赤茶色の長い髪が、いつも見える首筋の痣を完全に覆い隠している。
……俺もきっと、どこかでやったんだろうな、そういうこと」
牧志は長い髪に手をやり、どこか懐かしそうに言いながら後ろへ流した。
牧志は驚いて太い三つ編みを引き寄せ、何度か撫でる。
牧志は堅く編まれた髪を撫でたり振ったりして感触を味わっていたが、あなたの呟きを聞いて手を止めた。
『禁獄ノ糸』ネタバレ
そっか、覚えてるんだ」
軽く苦笑しようとした口の端が、微かに震えた。
眉根を寄せて首を傾げる。
牧志の反応を見て、あまり楽しい話題ではないのだと悟る。
早めに話を切り上げようと、立ち上がってコーヒーのスイッチを入れた。
牧志はそう言って、微かに微笑む。
麦茶のポットを冷蔵庫から取り出す。
古島が雰囲気を破るように、大きな声であなたの手元に飛び込んでくる。
今しかないこのSIZとこの髪の長さ…… 新しい境地が見えるのでは!? ってなってる。
+10%をどうぞ。
おしい
ちょっときつく締めすぎただろうか。
ちょっと不安になって古島に訊いてみた。
これくらいなら頭痛にはならないから大丈夫」
なんだか圧迫されることに慣れているような物言いだ。
そうやって騒いでいると、シローが眠そうな目を擦りながら起きてきた。
ブラシ借りろよ」
テーブルの上に置いてある新しいブラシを指しつつ髪の毛と格闘する。
シローは眠そうな目を不思議そうに瞬きながら、ブラシを手に取った。
自分ののびた髪の毛の先をハサミで切り取ってみる。
切り落とされるやいなや、残った髪の断面がもぞもぞと蠢き……、うねり、蛇が鎌首をもたげるように、一瞬後には元の長さまで戻っていた。
その異常を目にしてしまったあなたは、その異常が自らの頭に繋がっているという事実に怖気を覚えるだろう。
おっと、そういえば牧志の起床《SANチェック》忘れてる。
1d100 62 SAN Sasa 1d100→ 2→決定的成功(クリティカル)!
SAN 62 → 61
牧志のは起床時の0/1のほう。
つまりもっと大胆にやってみる。
断面がまるで生きているかのように蠢きながら、元の長さの美しい長髪へと戻っていく。
切り離された髪は消滅することなく、ホラー映画のようにシンクを真っ黒に染めていた。
切られた髪を集めてみんなのところへ戻った。
やだなー。未来の髪の量前借りしてねぇだろうなこれ」
シローの髪がまだまとまってないようならやる。
前借りか……、なくはなさそうで怖い。
それか、俺達の生命力みたいなものを吸って伸びてるとか……。
とにかく何が起きてるのか調べ…… いや、どうやって?」
俺は別に体調悪くないし、今切ったときもどうってことなかった」
切った髪の毛をよく見てみるけど、普通の髪の毛っぽいかな?
髪が伸びるって言うと、呪われた人形、なんてのはよくあるけどさ」
蠢いたり巻きついたりすることもない。
古島はタブレットで髪型や服のページを見ていたらしい。可愛らしい衣装に身を包んだ少女や、長い髪を誇らしげに見せる少年の姿が並んでいる。
通知にはそんな内容がちらりと見えた。
声をかける。
大きなツインテールを垂らして衣装のフリルを玉座に似た椅子の上に流し、白いリボンで脚を束縛するシューズの爪先をこちらに向けて挑発的な表情で笑う少女の画像の上に、先程の通知が残っている。
言って通知の方を指す。
『そういうこと』だったのか? とワンテンポ遅れて思う。
で、シローが覗こうとするならちょっと迷って止めるかな!
古島が通知をタップすると、このような内容のニュースが表示される。
「ラプンツェル症候群」
本日未明より「髪が突然伸びた」という症状を訴える人が多発しています。
SNSでは「ラプンツェル症候群」と呼ばれて一部騒然としています。
この症状は一部地域を中心に発生していると思われ……
突然髪が伸びたという方は、美作総合クリニックへの来院をお願いいたします。
古島は編まれた髪とニュースの表示を交互に見る。
前にもそういう事あったし」
清潔そうな院内の画像があなたを出迎える。
渋谷駅の近くにあるビルに入居しているクリニックで、外科・整形外科・皮膚科・美容外科を標榜する診療機関のようだ。
院長は美作晴美とある。
口コミは美容外科としては珍しい☆5で、有名雑誌のレビュー記事が検索結果に並んでいる。
よほど評判がいいのか、広告料があるのかのどちらからしい。
施術後、驚くべき速さで日常生活に戻れるのだとか。
自分のスマートフォンでも調べつつ身支度を調える。
本当は子供と『子供』は置いていきたいけど、探索者が解決すると同時に施設が消えちゃうパターンだと困るしねー
古島さんはついてくー! って言うけど、制止されたらお留守番する。
シローはいつものようにお留守番するつもり。
あ、と思ったけどサマナーいれば大丈夫か。
牧志が頷いて、身支度を整える。
古島はしれっとついていこうとしている。
シローはお留守番の構えである。
本当にただ治療して貰えるなら一気に片がつくし。
こんな重いのずっと頭から下げて歩いてるんだな、みんな」
髪の毛が重い、というあなたの言葉に牧志が頷く。
纏めると随分気が楽だ……」
髪の毛を腕に巻き付けて好き勝手ぶらんぶらんしないようにしつつ。
髪の毛を引っ張られるのはなかなかヘヴィだ。
戦闘中掴まれたら命に関わるな。
髪の毛挟んだりしないように気をつけろよ」
シローはあなた達に手を振ると、誰もいなくなった部屋にちょこんと座り込み、絵本を読み始めた。
今日も人でごった返すスクランブルを抜け、現地への道を三人で歩いていると、狭い路地の方から何やら声が聞こえた。
どうやら、何も乗っていない台車をよそに、一組の男女が言い争いをしているようだ。
どうしましょう、先輩~~~」
ぎぎぎぃ、と首を回して牧志を見る。
牧志は青い顔をして、思わず自分の頭を押さえる。
短髪の男性で、青いシャツにジーンズで、目の下にホクロが二つあって、先輩とやらよりも背が高くて。
彼は大きな鞄を肩から提げ、どこかへと走り出そうとしているようだった。
二人からの距離を考えても、こちらで追いかけた方が速そうだ!
冗談じゃねぇぞ遺伝的には禿げねーから安心してたのにこんな馬鹿げた事件でこんな若いときからスキンヘッドになんかなりたくねぇんだよ!
逃げ去る男を指して追う。
古島さん基本の【DEX】は牧志と同じだろうけど、子供佐倉さんの処理を考えると小さくなった分【DEX】+1くらいされてそう。
追いかけるあなた達の姿に辺りは騒がしくなるも、気にも留めずに談笑している一団が、通路の真ん中でスマホ見ている人があなたの足を阻む。
あなたの足元から古島が飛び出して、人混みの間に消えようとする背中に追いすがる!
あなた達は男の足取りを辿らねばならない。
Luupで電動キックボード借りて追跡しよう。
単身走る男が逃れられようはずがない。
電動キックボードに乗るあなた達は、見る見るうちに男との距離を詰めてゆく。
1d100→ 61→成功
腕に巻き付けていても長い三つ編みがばたばたと暴れて背に当たる。
前髪が風に暴れてなびき、邪魔くさい。
この代償が明日からのハゲ頭だと!? ぶち殺すぞ。
つーか泥棒出なくたって、処置が薬だってんならそれを知らなかった連中はハゲるんじゃねぇか。
相当ヤバいだろこの状況!
男が後ろ手に何かを投げた!
1d100→ 63→失敗
1d100→ 90→失敗
1d100→ 23→成功
いいぞ古島お前がナンバーワンだ。
あなたが操るキックボードの真下めがけて投げ込まれたそれを車輪が踏みつけ、激しく空転する!
直後、缶から黒い煙が吹き出した!
煙に気を取られた牧志が後ろからあなたに衝突する。
見知らぬ女性の声! どうやらうっかり通行人を巻き込んだ!
辛うじて諸々を避けた古島だったが、女性の声に気を取られた一瞬に、男は煙に紛れて姿を消していた。
また、佐倉さんはここで間の悪い痛み判定をどうぞ。
1d100→ 83→失敗
バランスを崩してそのまま人を引っかけて壁にぶつかってそのまますっ転ぶ。
振り回された自分の髪の毛がおもいきり顔にぶつかった。
そこを起点に体が粉々になりそうな痛みが襲う。
牧志が慌ててあなたの背中から顔を上げ辺りを見回すが、男の姿はもうない。
あなたはうずくまっているし、巻き込んでしまった女性は尻餅をついている。惨事だ。
痛みのあまり喋れなくなり、しばらく蹲ってしまう。
が、その瞬間明日の風景が脳裏に浮かんだ。
つるりとした牧志と古島とシローがお早うと言い、自分の頭を撫でると髪が……
ついでに発作で震え始めた指を押しつけるようにお守りを握る。
※〈応急手当〉ッ!
1d100 53 駄目なら駄目でいいけど先にふっとく《ディア》 Sasa
1d100→ 67→失敗
HP 10 → 8
古島さん、佐倉さん……いや、その人を!」
あなたに〈応急手当〉を行う。
いや、牧志は追えるなら追っていただろう。
古島だってそのまま追う判断をしていないのだ、見失ったのだろう。
ぱらりと黒くつやめく髪が落ちてきて視界を隠す。
その美しさが今は腹立たしい。
1d100→ 25→成功
1d3 Sasa
1d3→3
今回は元々複数人可のシナリオなのと、何かとちょうどよかったので普通に動けることにしました。
言外に大丈夫かと尋ねる。
顔を上げるときらきらと牧志の肩からこぼれ落ちる黄櫨染がまぶしい。
思わずため息をついて
と呟いた。
でもそれより……、ごめん。見失った」
牧志は重々しく呟く。
朝の陽光を受け、その肩から流れ落ちる、眩しい光。
あなたの足元にたゆたう艶めかしいほどの黒も、明日には落ちてなくなってしまうというのだろうか……。
なんという悪夢だろう。
しかし、痛みがあなたの目を覚ましてくれることはなかった。
意識的にゆっくりと呼吸しながら道を見渡す。
また、女性の方に怪我はなさそうだろうか。
すみません、巻き込んじゃって」
彼女の様子を見ていた古島が振り返る。
女性の髪は滑らかなセミロングだ。
ラプンツェル症候群にはなっていないらしい。
また、幸いあなた達に腹を立てている様子はない。
この異常に伸びた髪をなんとかする薬を盗まれたみたいで。早く治さないと髪の毛がなくなってしまうらしいんだ」
あくまで不自然なほどの伝聞だけど、手早く伝える。
それを聞くと、彼女は目を見開いた。
そんな、ほ、ほんとうですか……!?」
そういえば、先程も彼女はその名を口にしていた。
顔見知りなのだろうか? 何か知っているかもしれない。
思わず勢いよく詰め寄ってしまい、また前髪がふぁさ、と落ちた。
あの人とは仕事仲間なんです。
でも、そんなまさか……。お金に困っている話なんて聞いたことがないですし、彼はとても優しい人で、仕事も真面目でひたむきで、まさか、そんなことをするような人じゃ……」
そう言いかけて、彼女は何か考え込むそぶりを見せた。心当たりがあるのか、でも、そんなまさか……、と呟く。
ただそれは小耳に挟んだだけですし、知らずに持っていったかも……
何か事情があるかも知れない。
でも、返してもらえないと僕たちだけじゃない、大勢の人たちが泣くことになります。
こんな小さな子供も」
言って古島を指す。
何か少しでも情報があるなら教えていただけませんか!」
必要なら〈言いくるめ〉振る。
彼女はあなたの、豊かになりすぎた黒髪を眺める。
古島が彼女の前に屈み込み、彼女の眼を覗き込む。
1d100→ 38→成功
なお牧志も坊主にはなりたくない模様。古島さんはスキンヘッドになったらなったで新境地を探す模様。
名前がついたことで、その「個性」がより強くなってこんなことになった。
好奇心が強くなると体を痛めつけちゃうの……
コピー時のバグで生えた素質をうっかり新境地探求して発掘&固定化させちゃったのかもしれない。
自分のボディに対してもうっかり探求しそう。
彼女は躊躇いがちにスマホのフォトアプリを開き、一枚の写真を見せる。
そこに写っているのは、先程の男だ。その頭頂部はあなた達が先程見かけたものと違い、年の割に非常に薄く、たよりない。
もしかすると、特効薬を摂取することを拒んでいるのかもしれません。
クリニックの広告で、全員治します! って言ってたから……。
そんな、彼がそんな、他の人を巻き込む程に悩んでいたなんて……」
彼女はどこか熱っぽい視線を画面に向け、ぽつりと切なげに呟いた。
そのひとも明日スキンヘッドって事知らないんだろ!? 治さないとまずいって伝えればいいんだ!
そのひとの連絡先、分かります!?」
彼女はそう言ってスマホを手に取り、数度コールする。
しかし、気づいていないのか電源を切っているのか、応答がない。
「そんな、鷲頭さん……」
言いながらサブスマホを出す。
彼が行きそうな場所っていうと、いくつかありますが……」
彼女は少し首を捻り、考えて場所を挙げる。
僕、只野っていいます。
あとお名前を教えていただけると!」
なるべく真剣な顔で!
《特効薬の使い方について》
効果を確実なものにするために皮下接種が望ましい。
提携病院に協力要請済み。
副作用を鑑みて、出来るだけ早めの接種を行うこと。
26時間以上経過すると副作用が現れ始める。
特効薬に副作用はない。完璧。
「空輸中に爆発四散するなんて本当にありえない」
「この任務は何に変えても最重要とする」
「14時までに必ず!!!」←赤丸がつけられている
サブスマホの画面には10:05と表示されている。
これは、もしかして。
思ったよりも 時間が ないのでは?
佐倉さんは《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》。
1d100→ 81→失敗
SAN 61 → 60
思わず呟いてしまった。
牧志があなたの持つ紙切れを覗き込み…… 絶句した。
1d100→ 34→成功
牧志がギギギと音のしそうな、ぎこちない様子でこちらを振り向いた。
持ってる薬14時までに摂取しないと、全員禿げるって!」
彼女はスマホを握りしめ、電話をかけ始める。
ある日いきなり美しい髪が伸びた。
慌てるPCと髪の毛で遊ぶ気満々のPLのギャップが酷い。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」