
こちらには
『眼窩に祝福』 のネタバレがあります。
クトゥルフ神話TRPG 目次
眼窩に祝福 一覧
参加キャラクター

佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。
巻き込まれ体質らしい。
最近牧志への奇妙な執着に囚われている。
牧志とは友人。

牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
佐倉とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
※「自衛程度の戦闘技能」については、途中からCOMPを使用可能にする等して調整予定です。
よろしくお願いします!
あなたの内に蠢く正体不明の狂気は少しずつ、少しずつその声を減じはじめていて、普段通り過ごせば、彼の事を考えずにいられる時間さえできていた。
前は、そうではなかったのだ。
眠りさえ妨げる程にあなたの思考は彼への執着で埋め尽くされ、その合間に辛うじて本来の意識が覗いた。
それに比べれば、随分とよくなったものだ。
もうすぐ帰れるのではないか。あなたはそう思うかもしれない。
あるいは、帰りなどしなくても、もしかしたら……。
昔のように気楽で強いあなたとして、生きていけるのではないか。
あなたはあれからどこで、何を望み、どう過ごしていただろうか?
変化
前は寝る場所であって自分の居場所というほど重いものではなかった。
そのぶん傷つきやすくなっちゃったけど。

適当なホテルを転々としたり、時にはネカフェに泊まったりして、仕事以外の時間はあまり人や事象と関わらないように過ごし。時折ひとりきりでぶらぶらと知らない街を歩いたりする。
いつの間にか自分を蝕んでいたのがひどいホームシックだったことに気付いたのは、あの奇妙な犬事件が終わって少し経ってからだった。
俺は『自分の家』に帰りたくて仕方なかったんだ。
それが分かってからは、少し落ち着くことができた。
お土産に持って帰ってきたレタスをいつものジャンク飯の横に少しずつ置いてむしって食べる。
それだけであの奇妙で楽しかった一日を思い出せたし、それだけで少し気が軽くなった。

考える時間が減っても、あるいは少なくなっても、それはその人のことがどうでも良くなったというわけではない。
それが「当たり前のこと」なんだ。

これは……異常かな。

パズルゲームを見たときに、好きな食べ物を見たときに、いい景色を見たときに、ふと牧志のことを思い出すのは異常ではない。
そういった人間的な思考を少しずつ取り戻しながら以前までよりは幾分穏やかに、穴蔵で動物が傷を舐めるようにして、ゆっくりと慎重に心の回復を待っていた。
随分と変わってしまったような自分自身を、あなたはゆっくりと、ゆっくりと解きほぐしてゆく。
そうやって思えば、あなたの記憶の中には、以前は欲しいと思いもしなかったかもしれない、様々な感情や感覚が散らばっていた。
レタスはたっぷりと青い香りと水気を湛え、瑞々しくあなたの口の中で弾けた。

その結果をみて、自分に異常性が残っているかどうか判断しよう。
注意深くメモに自分の思考や感情の流れを書き記す。
それが正常か異常かを分析する。

久しぶりにメッセンジャーにログインして、牧志にメッセージを送ってみよう。
『元気にやっているか? 変なことに巻き込まれたりしていないか?
そろそろ帰ってみようと思うんだ。これを送って、何事もなければ』

こっちは大丈夫。ちょっと風邪引いたりはしたけど、変なことは起きてない。
佐倉さんはあれから元気?」
そんな文章と合わせて送られてきたのは、ほろ酔いの東浪見が牧志と肩を組んでいる写真だ。
日付からして最近のものらしい。
何事もなければ。その意味を彼は察して、この写真を選んだのだろう。

そう思って、思ったことをそのままメモする。

1日様子を見てみる』
その日はそのまま休んで、様子を見よう。
少なくともその夜は、あなたには何も起こらなかった。
導入の都合上、佐倉さんが街中に出てから何か起こります。
帰路の途中かもしれないし、単に食事でも買おうとしたのかもしれない。

『牧志は元気そうだ。
帰れるのが楽しみだ。
隣にいるべきなのは』

まだ無理そうだ。

今日は雨だ。図書館にでも行くとしよう……
牧志と一緒に行けるところほど、蔵書、揃ってないけどな。
あなたの目を惹いたものは、映画館の前の大きなモニターの光らしかった。
薄暗い朝の光の中、行き交う人々の後ろでモニターが光る様子は、緋寒と深山と別れたあの夕暮れにどこか似ていた。

次の瞬間、あなたの意識は飛んでいる。
本編見る!
1d3 Sasa 1d3→2
4d6 Sasa 4d6→3,5,3,5→合計16
1d10 Sasa 1d10→3
1d6 Sasa 1d6→2
この減少による発狂処理は不要です。
また、不定基準値は減少後の値でリセットされます。

SAN 60 → 55
1d3 Sasa 1d3→3
1d100 61 Sasa 1d100→ 41→成功
1d3 Sasa 1d3→1

それだけを憶えている。
ばりばりと、何かを踏み砕く音が聞こえる。
ばりばり、じゃりじゃり、ざりざり。
砂を踏むような、もっと堅い何かを踏むような音。
段々と細かくなっていくそれを目覚まし代わりに、あなたは目を覚ました。
明滅する頼りない蛍光灯の光。
薄暗い部屋の中に、あなたは寝転がっていた。
頭が微かに痛んだ。

俺は図書館に向かっていたはずで……
不穏な物音は夢だったか現だったか。意識をはっきりさせるべく、手を無意識に握ったり開いたりして血流を促進しながら周囲の状況を確認する。
ここで後遺症の【CON】ロールをどうぞ。

HP 9 → 8

吐き気と痛みに耐え、ゆっくりと身を起こす。
いつもの痛みだけではない。
調べずとも分かる異常事態。

※胸元にお守り群があれば回復チャレンジしておこう。
傍らにいないはずの声がした。
傍らにいないはずの人の手が、痛みに苦しむあなたの背をさする。
血の臭いがした。


今自分が感じたのは正常な感情か?
それとも得体の知れない欲求によるものか?
息を呑んで牧志の顔を見てしまった。
その一瞬自らの感情に意識を向けたあなたの、しかし、目の前に広がった光景はそれ以上に驚きを呼ぶものだった。


牧志の顔の実に半分が、痛々しく白い包帯に覆われていた。

死すらなく、ただ静かに崩壊した世界のなか、遠い過去を見つめるように佇んでいたもうひとりの彼。
彼ではない? 彼ではないのか?

思わず詰め寄ってしまう。


目の前の彼の手足は擦り切れてはおらず、彼には両腕があった。


また何かに巻き込まれたみたいなんだ、俺達。
目が覚めたら知らない場所に居て、横に佐倉さんが倒れてたんだよ。
目の前に俺達を生贄にしようとしてる連中がいて、佐倉さん連れて逃げたんだけど、その時にやられたんだ」

ここは安全なのか?」
また何かに巻き込まれたのか。離れていても巻き込まれるときは同じ場所にいるのか。
まず自分の状態を確認する。
いつもの体の痛み、だけではない。

ただ、ごめん。夢中で逃げてきたから、ここがどこかは分からない。
佐倉さん、頭を怪我してたんだ。
ここに来てから、あるもので手当てはしたんだけど。
俺のは逃げる時にやられたんだ。
深くはなさそうだったんだけど、とにかく血が止まらなくて、それでこの状態」
ただ、それ以外の持ち物はない。
牧志の腰にもベルトポーチはない。
救いとなるのは、COMPが奪われることなく腕にあることだろうか。
ただ、動作が不安定で、いつものようなフルパワーでの悪魔召喚はできそうにない。
必要な時に攻撃させることができる程度だろう。
頭がまた、つきりと痛む。

ひとまずお守りを握ってどうしようもなく体の内側の痛みを押さえようと念じる。
※牧志の怪我の状態によっては《治療》を考えるところだけど、まだそう考えるには早いかな。ひとまず動けそうに見えるしね。
敵がいるらしい状態でいきなり攻撃手段(MP)を失うのはよろしくない。
ということで《ディア》を試みます。

1d100 53 《ディア》という名の〈応急手当〉 Sasa 1d100→ 54→失敗

集中ができない。

佐倉さん、触れてもいい?」
あなたから承諾を得られれば、牧志が〈医学〉で治療を試みる。

今の俺がそういう処置を受けていて平気だろうか。
しかし、どんな小さな傷でも致命傷になり得る。
そしてそれは二人の命に関わるかも知れない。
症状は軽くなっているんだ。何とか抑えきる。


心臓の位置から血流を流すようにして、腕の先へと揉み解していく。
1d100 61 〈医学〉 Sasa 1d100→ 78→失敗




ゆっくりと、血流を辿り、たどたどしく。
だが突然、その手が勝手に動いたような気がした。
確かな知識を持つ誰かに、誰よりも自分の体について知っている誰かに、導かれたような気がした。
HP 8 → 9

真似をできたことに?

牧志が包帯の下の片眼を瞬いた。

必死だったから、またできるかどうかは分からないけど。
誰かに導かれたみたいだった」

あなたの言葉に安堵したのか、牧志はふっと表情を和らげた。

部屋をぐるりと見回す。今俺達はどういう状況にあるんだ?

生贄か。敵はどんな奴らだ?」
訊きながら周囲を見よう。何かあるかな。どんな部屋かな。


古い蛍光灯が交換を心待ちにして明滅している。
外に通じる扉が一枚ある。
物置なのか、部屋の中には廃材が雑多に置かれていた。
その中に、引き裂かれた白い布が覗いている。
牧志の傷を巻いている包帯は、この布で作ったものだろうか。

こういう場合、確実に何かは起きている。



早いところちゃんとした場所で治療しないと」
廃材を調べてみたら何か見つかるだろうか。
周囲には細かいガラスの破片らしきものが散らばっていて、幸いあなたが寝転んでいた辺りにはないが、何だか危ない。
何か探したい物があれば、探すこともできるだろう。
あなた達の持ち物はここにはないらしい。

近づくと怪我をしそうだし、そうまでして近づく必要は今のところないかな。
破片があった辺りの布で治療なんて、ますます危険だな。
部屋全体を見回しても何もないかな?
なければ扉を見てみる。
ガラスの破片が落ちているのは床で、廃材の中ではありません。

分からないようなら扉に対して〈聞き耳〉を立ててみよう。


▽〈聞き耳〉で判定。

人がいた、にしては異様に静かだ。

声をかけて扉を開ける。

廊下の左右には扉が一枚ずつ。突き当りには階段が見えた。

人の姿は見えない。

血臭ならともかく腐敗臭が突然湧くか……?」

牧志は少し考える。

何か、忘れてることがあるんだ」

一体何があったんだ。

においはこの向こうからだろうか。物音はするだろうか。
物音はしないようだ。


牧志が呻いて、鼻を覆う。
人体に纏わるあらゆるものが腐敗した、饐えた臭い。思わず吐き気を催させる臭い。
それが人間のものだと明らかに知らしめる嫌悪感が、重量すら伴って押し寄せてくる。
ひとり、ふたりではないのではないか。いや、ないに違いない。
臭いの濃さはそう感じさせた。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1D2》。
ただ、天井に蛍光灯らしき影が見え、照明はあるがスイッチが切られているようだと分かる。
また、室内には奥に向かって二列に並んだ、格子のような影が見える。

SAN 55 → 54

そんなことをしてもあまり意味はないのだが……
ここに何がある? あまり良いものとは思えないが……
何も見えない。それは幸いであるが、これでは調べることはできない。


俺の様子がおかしくなったら電気を消して欲しいんだ」

……次何かあったら、その時は俺が見る。それでいいよな?」
牧志はあなたの言葉に従い、包帯の下から片方だけ覗いている目を強く瞑る。
あなたと手を繋ごうと、片手を伸ばす。


大丈夫。抑えられる。
電気をつけるぞ!

もし何かがあった時に、離すまいとする力だ。
数度、蛍光灯がぱち、ぱちと音を立てて明滅した。
白々と無機質な光が辺りを満たす。
威圧的な鉄格子が、奥へ向けてずらりと並ぶ。
それらの中には誰の姿もなく、壁に繋がれた拘束具は錆びた表面をさらしてぶら下がっている。
格子に残された赤黒い染みだけが、その中にあった誰かの存在を残していた。
……では、この酷い悪臭の源は?

必要以上に牧志の手を意識しないようにしつつ、視線を巡らせ感覚を研ぎ澄ませる。
1d100 79〈聞き耳〉
Sasa 1d100→ 29→成功

……もっとも扉から遠い、一番奥の牢。
そこにだけ何かの影があり、そこから、この鼻を削り落としたくなるような悪臭が発せられている。

スイッチから離れ牢の前へ。
死体か。化け物か。どちらにせよ碌な物じゃないだろうな。


残念ながら自分をそれほど信じられる状態でもない。
一歩一歩、そしてあなた達は一番奥へ辿り着いてしまう。
鉄格子の扉はそこだけ開け放たれていた。
その中に何かが大量に積まれていた。
それが先程のような廃品なら、よかったのだろう。
それは赤黒く、あるいは茶色いぼろきれだった。それは腐り落ちた肉、その間から覗く白い骨だった。小動物や虫に喰われて落ち窪んだ眼窩、その上に被さる形さまざまな毛髪だった。
何十。何十もの肋骨、骨盤、頭蓋骨。そこには、実に何十もの人間だったものが、広い牢の中に無造作に捨てられていた。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1d4+1》。
牧志は目を閉じているため、佐倉さんのみ。

SAN値 54 → 53

ほとんど腐ってるな。
ゾンビの類いじゃないみたいだ。
中を調べられそうだ、ちょっと見てくる。
目は開けていいが、こっちは来なくていいぜ」
牧志は牢が見えない位置で待ってて貰って、調査に入るか~
なんか腐った死体調べたり扱ったりすること多いよなー。

それにしては、随分……、臭いな。いや、はっきり分かるわけじゃないけどさ。
……もしかして、一人じゃなかったりするのか。
分かった。ごめん、任せる。
何かあったら呼んで」
牧志は牢とあなたに背を向け、牢の前に立つ。彼の頭にかたく結ばれた布が見えた。
違いは、これが紛うかたない現実だろうということだろうか。

そこに陣取っていた化け物に牧志は
ふと不安になって振り返り、牧志の背を見て息をつく。
死体の山なんて今までに何度も見たことがあるはずだ。
ゾンビが群れ集う異界で。
閉じた墓のごとき建造物で。
密かに作られた地下の祭壇で。
この一年前内にも、もっと胸が悪くなるようなものも見た。
ただの死体など今さら恐れるようなものじゃない。
ここに在るのは情報だ。
死体を調べる。殺され方に、残ったパーツに、服装や性別、年齢に特徴はないか?
また、単純にそこに特別なもの、例えば鍵や意味ありげな本など落ちていないか?
一様に同じようなぼろきれだけを巻きつけて死んでいるそれらは腐敗が酷く、一見しただけでは性別も年齢も判別しがたい。
頭蓋骨は大小様々なものがあり、そこに共通項はないように見えた。
骨の形などから詳しく見るならば▽〈医学〉で判定。
それは一本の鍵だ。小さく、部屋の鍵ではないように見える。
鍵にはぼろきれが巻きつけられていた。

うーん。〈医学〉かぁー。
とりあえず鍵は拾おう。
1d100 22 〈医学〉ッ Sasa 1d100→ 22→成功

落ち着いて思い出せば、特徴が掴めるかもしれない……
佐倉の医学知識
死体あさりしてきた結果身についた物って感じです。いまのところ。
それもまたすごくらしいなぁ。
歯の形や頭蓋骨の大きさ。骨盤の形状。辛うじて個人としての痕跡を思わせるそれらを辿れば、ひとつ気づくことがある。
半分程には全く共通点がなかったが、もう半分程にはどこか似た所があった。年齢も、形も。
彼らは血縁なのではないか。

生贄体質。そんな言葉が脳裏をよぎった。

性別も年齢も特徴はないように思えるけど、
もしかすると同じ血筋の人間ばかりの死体かも知れない」

あなたの言葉を聞き、牧志は躊躇い気味に口にする。

赤黒い汚れがついて、いや、何か書かれている?


とにかく鍵を持って外に出よう。
酷い臭いだ。
前の部屋でマスク代わりになりそうな布や手袋を探してみれば良かった。
牧志と合流したら簡単に状況を説明して鍵を見せよう。

「まみ、か。……人の名前だよな、普通に考えたら。
もしかしたら何か思い出せないかと思ったけど……、だめだ。聞き覚えがない」

考える。
俺と牧志には記憶と経験の差がある。
俺より少し牧志が知っていることの方が多いんだ……

お前も見て貰えるか?
正直あまり見て気持ちのいい物じゃないけどな」
絶対牧志のSAN値ゴリッと減ってそうなんだよなー

牧志は小さく頷き、片手で拳を握る。
どこか縋るように、あなたの手を強く握った。

牧志の喉から小さな呻き声が漏れた。
あなたの手に、小さく震えが伝わる。

彼は額に手を当て、記憶を探る。
しかし、それから次の言葉が出てくることはなかった。


牧志が抵抗しないようなら手を引いて部屋を出る。

この人達のことも、今はこれ以上あんまり考えたくない」
抵抗はない。牧志はあなたと共に外に出る。

話がしたいが廊下じゃちょっと。
ここには明かりが点いているのか、中から白い光が漏れてくる。


扉をソッと開けて隙間から覗く。
書類やファイルの並んだキャビネット、薬品の並んだ棚、器具や機械の置かれた台……。その光景はあなたに、どことなく嫌なものを思い出させる。

扉を閉じて見なかったことにしたい気がする。


背を向けている場合じゃない。
思い切って中に踏み込む。
キャビネットにはずらりとファイルが並び、薬品棚にはラベルの貼られた薬品が整然と並ぶ。台の上には顕微鏡や試験管といったものから、大型の機械まで様々なものが置かれている。

ここはあの実験室じゃない。俺は拘束されていない。


あっちにあった死体は被検体か……?」





×月×日
重ねた実験の結果、人工的に作成することは非常に困難だと断念。
本日より、素養のある人間に対して実験を試みる方法に切り替える。
×月×日
今までよりも進歩が見られた。
適合率の高い個体を探す。
×月×日
適合率の高い個体の選別に手間取る。
×月×日
適合率の高い個体の共通点を発見。
どうやらそれらは、一般人には見えない光を目視することができるようだ。
当人曰く、花火のような虹色の光らしい。適合率が高ければ高いほど、はっきりと目視できるようだ。
この光を発する機械を「虹色光可視化装置」と名付ける。
使用方法についてはマニュアルを参照。

でも、作るって、何か作ろうとしてるのか? 人間を使って?」

呟いて自分の目の辺りに触れる。


牧志の片眼が一瞬、驚愕のように見開かれた。
驚愕。驚き。いや、それは何かしら怒りにも近かった。

じっと牧志の顔を見て訊く。
何度も謝る誰かの声。あれはやはり……?


牧志の眼が見開かれる。何かを怖れるように、あなたから目を逸らそうとする。

俺は、俺達は、この実験の被検体になったんだろう」
牧志が隠すのには何か事情があるんだろう。
俺が知らない方がいい、と牧志は判断したらしいが。
もしくは、俺に心配をかけないために何かこっそり負っている。
こっちの方がありそうだな。

そこに善意を仮定してくれたことに、牧志は小さく礼を言う。

後で問いただしたくなるかも知れないけどな」

ほとんど何も知らないのも、本当だ。
この実験のことだって、いま初めて知った。
それは、嘘じゃない」

なければ台の上見てみよう。
目玉の模型とかねーかな。
見て意味が分かるのは、先程のレポートくらいだ。

この実験の対象になる可能性は高い。
なったんだろうな、実際に。
ちら、と包帯を見る。
あれの下は今どうなっている?


殺しあい、が、トラブルの可能性があるのか」


今のうちにさっさと逃げるべきなのか、ちゃんと何が起きたか把握すべきなのか、とか」


で、お前も生きてるんだ、上等だろ」

ちょうどあなたの左にいた牧志は、普段より少し表情が分かりづらかった。
しかし、その声が孕む感情は、いつものようにあなたの耳に届いた。

手で持っていって、点灯できそうですか?
ここで使うならともかく、持ち歩いて懐中電灯代わりに使うのは難しそうだ。

しかし数度瞬きをすると、その光は消えてしまう。




滲む赤い液体に似た悔しさが、声の端に滲んだ。



スイッチを入れ直すとまた光るようだが、確かめてみる?

適当に左目を閉じて点けてみる。できれば一瞬で判断できたら逆も。
左眼を閉じると、その光は見えなかった。牧志が言うように、スイッチを入れても点かないように見えるライトがあるだけだ。
右眼を閉じて見ると、その光が視界の中心に映り……、一瞬、ぞわりと怖気がした。


牧志に見て貰うかー。

牧志はあなたの眼を覗き込む。
眼を覗き込もうとして、はっと何かに気づいたように少し距離を離した。

俺の目に何か異常が起きていて、それについて牧志がある程度知っているのは確定……それでも、全てを知っているわけではない?

言えないんだ。
でも、困るようなことは起きてないよ」
牧志はそう言って首を振る。

知りたい、と思った。思ったが……

牧志の判断と言葉を信じよう。

その口ぶりはどこか、そんな時が来なければいいと思っているようにも聞こえた。

虹色光、というのがあの花火か。
虹色光可視化装置、はきっとさっきのライトのことじゃないな。
アレにはスイッチしかなかったし、牧志には見えなかった。
あれはあくまで発生器なんだろう。
あれを、適性のない人間にも見えるようにする装置を作ろうとしている?
いや、あれが見えることで何かに役立つ、ということか……」

……適性があった、ってことなんだろうな。嬉しくないけどさ」

特に何を探すでもなく見るのならば、▽〈医学〉または〈薬学〉で役に立つ物が見つかるかもしれない。
探したい物があれば探すこともできるだろう。

牧志の血の滲んだ包帯を換えるくらいか。
しかし状況が分からない以上のんびりしてもいられないしな。
大型の機械って何をするものに見える? そちらをまず見よう。
大型ってどのくらいのサイズなんだろう。さっき出ていた攪拌装置なんかのことかな?
スイッチとランプ、ターンテーブルらしきものがあり、試験管が何本も入りそうだが、何に使う装置なのかはよくわからない。
これについてもマニュアルはないようだ。

とりあえず薬品棚をざっと見てみるか。
1d100 22〈医学〉 Sasa 1d100→ 59→失敗

市販薬みたいに説明が書いてあるわけでもないし。


あなたの横で薬品棚を眺めていた牧志がふと声を上げ、二本の小さなプラスチックの瓶を取り出した。
うち一つは、あなたも見たことのある黄色い瓶だ。

それからこっちは、傷薬……あ、サトミタダシのやつだ。
麻酔薬か……。
荒っぽいけど最悪、怪我した時にでも使えるかもな」
牧志は麻酔薬の瓶を見ながら言い、それをジャケットのポケットに入れる。


ここで会ってからどこか硬かった牧志の表情が、ふっと和らぐ。

しかしここにPCの類は見当たらない。


一枚ずつセットして……

一応知識として使い方は知ってるけど。
牧志は使ったことある?」

しかし、それが何の細胞か、などはさすがに分からない。植物ではなさそうだが。


別の部屋も探ってみるか」
一応確認。探索場所はこれで全部でしょうか。

さっきから窓が見当たらないし、地下なのかな、ここ」

そういえば牧志、足は大丈夫か?」


大丈夫ならいいんだ……」

牧志はあなたに靴底を示す。
細かいガラス片がついており、もう少し大きな破片を踏んだらしい跡もあるが、確かに裂けたり血が出たりはしていないようだ。


階段の上の様子をうかがう。〈聞き耳〉かな。
▽〈聞き耳〉で判定。






しゃーねぇ上行ってみよう。
ゆっくりと階段を登る。

白い光に照らされた廊下が見えてくる……。
幸いそこら中に人が倒れているとか、そういうことはないようだ。
相変わらず静まり返った廊下には、いくつかの扉が見える。
ぱっと見た所、窓も、階段も見当たらない。
廊下に、まばらに足跡が残っている。

地面をぐっしょりと濡らす程多くはなく、階段付近から始まって、扉の一つの方へ続いている。
クトゥルフ神話TRPG 目次
眼窩に祝福 一覧
またも狂気の治療中に事件に巻き込まれてしまう佐倉。
再会した牧志は片目にかたく包帯を巻いていた。
牧志に後遺症が残るかも知れない、と聞かされて始まったシナリオ。こ、こわいよぉ……
メインルート
メインルート
子供佐倉ルート
子供佐倉&デビルシフター牧志ルート
塔牧志ルート
塔牧志&佐倉ルート
Nルート
N牧志&N佐倉ルート
波照間ルート
波照間(&東雲)ルート
佐倉~月影ルート
佐倉・アナザールート
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」
TRPGリプレイ【置】 CoC『身首どころか意さえ異にし』KP&佐倉視点 1
これはシナリオをクリアした方、シナリオを全て知っている方向けのリプレイ(?)です。
KPC側の事情だけでなく、KPが背景で何を考えていたか、なんてのを基本伏せナシで出しています。









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