こちらには『ド〜プ・アップ・チリ〜』
のネタバレがあります。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
少し前に狂気に冒され、自分が不定形の化け物であり、自分の心や意思も化け物の模倣ではないのかと恐れるようになった。
佐倉とは友人。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。
最近、牧志そっくりの異星人……の記憶を保持する物体X六人との契約を行った。
巻き込まれ体質らしい。
最近いきなり起きる不随意運動に悩まされている。牧志の心音を聴くと精神が安定するためか治まる。
牧志とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
牧志浩子と五人
少し前に現れた6人の異星人。佐倉と契約して彼の仲魔として存在している。
その正体は、何にでも変身して喰らい殖える不定形生物だったが、事故により『人間』としての意識を持ち、増殖を抑えてこの星での人間との共存を試みている。
ド~プ・アップ・チリ~
ぽんかん様 作
では、誰に夢を見せられているのか? それは、嘘臭い催眠術師かもしれないし、夢を司る悪魔または神様なのかもしれないし、潜在意識の中に眠るもうひとりのあなた自身なのかもしれない。確かめようがないのだから、あなたがいくらこのことについて思考を巡らせたって正しさは得られない。残念!
次に、どんな夢を見せられているのか? 胸踊るような大冒険? ゾッとするようなホラー体験? 心ときめく甘い恋?
否。
闇。
音も何も聞こえない、ただ視界いっぱいに闇が広がっている。
時折てらてらと闇の一部が油っぽくつやめく。闇自体は動かないのに、まるでその様子は何かの生き物のように思えた。
憔悴したあなたに押し寄せるのは、夢心地の浮遊感ではなく、単なる不安の波だけだ。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1d3》
1d3 Sasa 1d3→2
SAN 22 → 20
なにもないはずなのになにもないかどうかも分からない。
動かないはずなのに無限に蠢いて見える。ゆらめく。ゆらめく。
間違っていないものなんて何一つなかった。
最近はそんな夢ばかりだ。
自分の意思も世界の形もぐちゃぐちゃだ。絶えず思考をかき混ぜる暗闇のせいで、何が間違っていないのかももう、分からない。
絶え間ない闇はおそろしい。
そこに何ができるのか、何一つ分からないからだ。
ニャル様が早口で実況している感。
またそれが正気度減りまくって不安定になってる牧志にも合うったら。
やっぱりジェッコじゃーん!
不定残ったままコレ、なかなか異様。
それにベッドが軋む音もあなたの分だけでは済まなかった。哀れな子羊は他にもいるらしい。
そんな弱々しい叫び声で目を覚ますことも珍しくなかった。
ベッドが軋む音に気づいて振り返る。そうやって叫び声から目を覚ましたあとは、いつもそう呼んでしまう。
横にいたのがシローでも、東浪見でも。
しかしそんな気持ちが嘘だったかのように。何故か、理由はわからないが、非常に不思議なことに──あなたの心は静かな湖畔の水面のように穏やかになった。いや、リラックスしていると言ってもいい。
探索者は直ちに【6d10】を回復させる。
SAN 20 → 56
SAN 43 → 63
めっちゃ余った
ぱち、ぱち、と数度またたく。
その一瞬あと、まるで長い長い悪い夢から覚めたかのように、なにもかもが穏やかになっていた。
何が自分を打ちのめしたのか、一つ一つちゃんと覚えているのに、なんだか気持ちが楽なのだ。
腕は相変わらず半分溶けているし、視線は佐倉さんの後ろから俺を見ているけど、まあ佐倉さんも俺も結果的に生き延びたしいいか、なんて気分になっている。
どうしてこんな所で寝ているんだ?」
真っ暗なのに何かいるようで、怖くて怖くてたまらなかった。
目が覚めてしまえば夢、って感じだけど。
ここ、どこだろうな。
何だか妙に落ち着く気がするんだけど、知らない場所だし」
数ヶ月はゆっくり寝て、何もかも癒したような気分。
……ほんとに数ヶ月寝てないよな?」
分厚い夢を見た後のようだ。
そういえば、佐倉と一緒に検査のため病院に行った……気がするのだが。
自分の服装や持ち物、状態を確認する。
服装は普段着だ。
荷物はベッドのすぐそばにまとめられていた。
スマホに日記帳にボールペン、鍵などが入ったバッグも横に置かれている。
普段はポケットの中に入れているようなものがあるなら、それらは荷物の隣に置かれている。
佐倉の荷物も同様にきちんと纏められているようだ。
佐倉さん、COMP動きそう?」
メッセージなどは来ていないだろうか?
また、ネットは通じているだろうか?
日記の記述からも間違いないようだ。
で、目が覚めたらよく分からない場所にいて、丸一日過ぎてる、か。
まるきりいつものパターンだな」
今度はちゃんと『佐倉さん』と一緒でよかったよ」
そう言って、ふっと微笑む。
前回の出来事(『禁獄ノ糸』ネタバレ)
あの時の夢を見た朝、「よかった」「よかった」と泣きながら、バケツをひっくり返すように全部話した。
泣きじゃくりながら話すので、まったく要領を得ない話し方ではあったが、佐倉さんに言葉を解きほぐしながら聞いてくれる忍耐力があれば、一通り話し終えたことだろう。
あの丁寧に棘を奪われた繭のことも。
半端な希望を掴んでは折られ続けたことも。
佐倉さんが佐倉さんでありながら何一つ共にいてくれなかったことが、一番心を打ちのめしたことも。
それから、頭の中に溢れかえっているであろう無数の言葉の中から、
佐倉さんも、俺を助けてくれた。助けてくれたんだ」
噛み締めるように一言落として、心音で耳を覆うように、胸に顔をうずめ、背を撫でる手の感触を味わった。
ここにいる。
あの時感じた弱々しい鼓動よりも、ずっと佐倉さんだった。
せめてそれくらい笑い飛ばしたくて。
改めて口に出したせいで、変なリアリティが押し寄せてきた。
浩子さんと佐倉さんの子供……。どっちに似てるんだろう……。
いや、別人なのは分かってるんだけど。
今度喚んだときに訊いて……」
いなければそれはそれでいいけど、いた場合はつまり、食われて、今はいない、ってことだろ。
つい、あいつらが見たままの存在じゃないこと忘れそうになるんだ。
召喚してるの、俺なのにな」
境界を意識するのを忘れたら、どちらにとっても良いことはないだろう。
浩子さんも、あっちの佐倉さんも、その子も、もういないんだ。
……ここまで何一つ差がない、っていうのも逆に怖いな。
俺も、たまに忘れそうになるよ。
実際あの時は、浩子さん達自身も忘れてしまっていたんだ」
俺は、どうなんだろう。
偶に、まだ手が溶けて見える。
ただの幻なのか、それとも。
……それとも。
その意味でも、聞かない方がよさそうだ」
そこは疑ってもしょうがない、か。そうだな。
今見えてるものを信じるしかないもんな」
確かめるように、自分の手を見下ろした。
ゆっくりと一度、強く握って、開く。
そうじゃない時を見たから分かる。逆に」
よかった、そう言われると何だか安心する」
まずはここはどこで、どういう状況かってことを考えよう。
いきなりベッドに寝かされているっていうと……
こっちを完全に捕捉していて、何か押しつけた奴がいるパターンだな。
……ちょっと互いに体をチェックした方がいいかもしれない」
佐倉さんに近寄り、首筋や腕などに異常がないか確認する。
だが、何か身体に異常がある感覚はない。
異変といえばそれくらいだった。
きっちりあるな、注射跡」
変なもの注射されたり入れられたりしすぎだ。
思わず溜め息が漏れる。
で、推定出口はある。
とはいえ変な注射はされてる。
ってことで、退路を確認しつつ、この現状についても調べたい」
佐倉は言って立ち上がった。
物音などがないようなら、扉が開くか確認する。
外に出る?
開くことを確認した後、室内に戻る。
この状況、何だか俺と佐倉さんが最初に会った時を思い出すんだよな。
妙なファンシーさとか、そういうとこ……」
カボチャをくり抜いた大きな入れ物の中に詰め込まれた、大量のお菓子とメッセージカードがある。
『ハロー! ここは最高にドープな展覧会!
元気な心で展示を楽しんでね! ハヴ・ア・グッド・チル!』
……という文言が書かれている。
ドープ。薬」
腕についた注射針の跡を押さえる。
本編見る!
理屈を無視してダイレクトに抉ってくる感じだ。
展示ってこれか?」
目一杯って書いてあって、これだけ、とは思いにくいな」
剥がせるようなものでなければ、額縁を裏返しに置いて、ベッドの下や布団の上を見てみる。
布団の上には何もないようだ。
ベッドカバーにもカボチャの刺繍がある。
驚いて避ける。普通の鼠?
また、この部屋はそのためとても暗い。
※シナリオ中、目を使う技能に-10%の補正がかかる。
窓を塞ぐ板を見て、思わず喉の奥から音が漏れた。
執念を感じる程に塞がれた……、繭。
優しさを感じる程に磨き上げられた、柔らかい、柔らかい束縛。
爪をかける隙すらない、指先に触れるあの柔らかい、丁寧な、丁寧な絶望を、思い出してしまった。
そうか、窓みたいに見えるけど、そもそも窓じゃないかもしれないのか?」
佐倉さんの声に、はっと意識が引き戻される。
振り向いた顔が驚いてしまっていたかもしれない。
今だって何か起きてる最中なんだし、思い出してる場合じゃないな」
ひどく暗い空間の中で、確かめるように佐倉さんの手に触れる。
皮膚を辿り、あのじくじくと体液を滲ませる傷がないことを確認する。
自分に言い聞かせるように宣言して、扉を開ける。
1d100 30 Sasa 1d100→ 31→失敗
HP 10 → 9
暗闇。膨らみ、蠢く、内側に何かの気配を秘めた暗闇。
どろりと手が溶けた。脚が溶ける。
巨大な蟲の神がその内側に居て、一番最初のあの時そのままに、無力に震える自分に契約を強いてくる。
腹がばくんと脈打ったような気がした。自分である部分が喰われてなくなっていくような恐ろしい不安。
確かめなくてはいけない。この腹の中に、あの白くどろどろとした蟲ではなく、自分の内臓がちゃんと詰まっていることを。
腹を見下ろすと蚯蚓腫れができていた。
胸に佐倉さんの頭を押しつける。
速まっているだろう心音を聴かせながら、その背を撫でる。
数度、ゆっくりと息を吸い、吐いて、心を落ち着けようとする。
佐倉さんもさっきの、見えたんだな。
どうしようもなく不安になって、確かめなきゃいけない気がしたんだ」
時間は経過する。とはいえこのシナリオ、時間経過によるゲーム的なデメリットはない。
1d100 61 〈医学〉 Sasa 1d100→ 86→失敗
あなたの心音を聴くことで痙攣のような症状は治まったらしい。
とりあえずあなたの処置によって乱れた呼吸は収まり、顔色は少し良くなったように思う。
先程感じた強烈な不安が、一緒に和らいでいく気がした。
……だな、行こう。あんまり長居したくない」
先程の部屋の中同様に埃が小さな塔の形を成していたり、天井にいる蜘蛛が壮大な紋様を編み広げていたり。
良く言えば雰囲気のある展覧会の会場、ストレートに言うならばハウスダストの温床、という感じだ。
改めてこの空間を見渡すと、向こう側の壁に扉が1枚、少し間隔を開けた左隣にも扉が1枚あることに気づく。
右側には壁があるだけの突き当たりだが、左奥、廊下が続く先にはまた扉があるようだ。
続けて視線を足元に向けると、今あなたが立っているところから左の扉の前の床に向かって白いペンキで矢印が引いてあり、そこから向こう側の扉に向かって矢印が伸びている。
さらにその場所からは左奥の扉に向かって赤い矢印が伸びていた。
ここには扉以外に、何か展示のようなものはあるだろうか?
せっせと虫をつかまえて吸いきったのであろう残骸がぶら下がっている。
特に何も起こらないようなら、床の感触を確かめながら左の扉の前まで行き、扉の向こうの様子を確認する。
中から物音はしない。
左隣のドアは今しがた出てきた部屋の扉と変わらない見た目だ。鍵穴はある。
とりあえず、ここは」
開くようなら、少し開けて中の様子を確認する。
ギィ、という古臭い音がして扉が開いた。部屋の中は廊下よりも暗く、一瞬、何も見えない、と思えた。
そこには多くの絵画が展示されていた。
額縁に入ったものやイーゼルに乗せられたままのものなど、展示のされ方は様々だ。
で、ちょっと物は試し。佐倉さん、その扉押さえててもらっていい?」
佐倉さんに扉を開いたまま保持してもらいつつ、先程と同様に床を確認しながら、矢印に従わずに赤い矢印が向かう先の扉に直接向かってみる。
見た感じは特に異変はない。
佐倉さんの所まで戻る。
割と単純に、順路に従わないと開けてやらない、ってことかもしれないな。
この中に鍵でもあるのか、それか、誰かが俺達の様子を見てるのか。後者だと普通に嫌だけどさ」
順番飛ばされるのも嫌なもんなのかもな」
軽く肩をすくめる。
大体芸術家って、ひり出したいだけの奴と、
作った物を賞賛されたい奴がいるだろ?
わざわざギャラリー捕まえてきて放置って事ないだろ。どっかで見てるよ」
場合によっちゃ、見てる俺達まで含めて作品とか言い出しそう」
溜息をついて、それらの絵画に目を向ける。
展示パネルや絵画がある。
油絵、水彩画、デジタルアート。
写実的なものからデフォルメされたものまで表現手法はそれぞれ違うが、テーマだけがきっちりと揃っている。
▼〈クトゥルフ神話〉知識
別情報
1d100 41 〈神話〉知識 Sasa 1d100→ 79→失敗
1d100 36 〈クトゥルフ〉 Sasa 1d100→ 93→失敗
ハロウィンっていうか、ジャックランタンばっかりだ」
正確に言うとジャックランタンではないが、そう言ってしまうのは癖だ。
どんだけハロウィン好きなんだよ」
更に床で、奇妙なメモを発見するのだった。
□の地の□くに民を狂わ□□□す恐ろし□□魔を封□□□
もしもこの場□に誤っ□□い込んで□ま□□□□ら、すぐにこ□□ら離□、遠くへ□□るべし。□かしな□を起こ□□に。
佐倉はこの文面からとてつもなく嫌な予感を覚えてしまった。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
さっきから気になってたんだけど、ここ、妙にボロボロだよな。その割にあの額縁だけ新しかった。
元々、展覧会場でも何でもなかったのかもしれない、ここ。誰かが勝手に使ってるだけで」
随分と長いこと放置されていたように見える。
だが額縁やイーゼルはあなたの予想通り、
古くともよく磨かれて手入れされていたり、新しかったり、全体的に綺麗だ。
また、壁には綺麗なパネルが掛かっている。
絵の解説が書いてあるらしい。
掛かっているパネルを外せるようなら、その裏を見てみる。
押しの強すぎる文章を目にして、ものすごくげんなりした。
狂気なのか、芸術なのか、その両方なのか、とにかく。
という感想しか出てこなかった。
1d100 75 〈オカルト〉 Sasa 1d100→ 26→成功
生前に堕落してたやつが死後の世界入れなくてうろついてるやつだ。
つまりはただの幽霊だぞ?
そんな大袈裟なもんじゃない筈なんだけどな」
珍しいわけでもないし、そんなに感激するようなもの……、じゃ……」
言いかけて、ん? と少し考えた。
俺達の感覚、ずれてる? もしかして」
あなたは思い出すかもしれない。
佐倉は幼い頃から妖精属の姿はよく見ていて、悪魔も幽霊も割と日常だったのだ。
ランタンは妖精族である。
いや、幽霊とか悪魔とかって、そんなに日常じゃないよな、って思った。
俺達は慣れてるけど」
俺にとってもランタンは魂の兄弟の仲間だし、そりゃ遭っても怖くないわけじゃ決してないけど、珍しがるようなものじゃない。
でも、まあ、普通そうじゃないよな、と思った。
怪談の話し甲斐がないと言われがちなのだ。最近。
幽霊の境遇の心配より先に幽霊怖がれよぉ、って何度言われたか。
幼い頃からの経験と、悪魔使いとしての経験と、怪異まみれのここ数年で完全に感覚がおかしい。
『普通』だったことはそもそもないのだ。
その様子を見て、困ったように笑う。
波照間の幼少期の経験はそれに比べたらまだ日常に寄ってはいるが、それももう随分前の話だ。
牧志も牧志で、「彼よりは一般人の友達が多いから分かる」という程度のものでしかない。
ずれてる
あと牧志は怪談話されてもだいたい感想がズレる。
幽霊や怪異を「違う世界にいるだけのもの」または「そこにあるリアルな脅威」と受け取ってしまう人間の感想がズレないはずがない。
何かあったんだろうか?
「子供の声が」
親御さん近くにいないのかな
みたいな
「心霊スポット巡りを始めた一団は」「えっ、領分侵しちゃったのか!?」
みたいなそういう
そいつ本当にランタンかな?」
別のやつかもしれないし、違うやつがそういう見た目で出てきただけ、かもしれない」
無数のカボチャ頭がじっとあなた方を見つめてくる。
矢印に従って、向こう側の扉へ行ってみる。
先ほどよりも強く、抵抗しがたい。
壁に拳をぶつけ、堅さを確かめている。
まっくらやみ。まっくらやみだ。
なにもない。内側で何かが蠢くような闇。
なにもない。
なにもない。
自分の身体に手を伸ばすと、辛うじて闇以外のものが見つかった。
闇以外のものを探したくて力を込める。力を強くする。
数度呻いてようやく手を抜き、涙目で振り返る。
その視線は慎重に周囲を探っており、『見える』ということを確認しているかのようだった。
見えないだけじゃない。
何もなくて、自分がそこにあるかどうかも分からなくなりそうで、唯一あるって分かるものを確かめずにいられなくなった」
あれは、不味い。今はこの程度で済んでるけど、段々酷くなってる気がする」
どちらもとりあえずの止血はできたとしてよい。
どっちにしろ、いい気はしないな。
……次に部屋出る時は、一人ずつにしよう。片方は目を閉じて。
様子がおかしくなったら止める、ってことで」
菓子で飾り付けられた死体が待っていたのだ。
佐倉が喉の奥を鳴らした。
喉から、げぼりと呻きが漏れた。
見たことがないわけじゃないそういうものを、しかし、しかし、目の前の光景はあまりにも不似合いで不釣り合いで、それが却って背筋を怖気立たせた。
弄ばれている。
可愛らしいなどという言葉とは対極の怒るべき悲しむべき惨劇が、真逆の感情を押しつけるようにしてそこに存在させられている。
犠牲者のあらゆる感情を嗤うような光景、最も意図せぬ姿に追いやる光景は、
いままで見たどんな惨劇よりも、嫌悪と、怒りを掻き立てた。
芸術としては反則じゃないのか、こういうの」
“こういうの”。インスタントに人間の嫌悪を掻き立てる手段。
“作者” にとってはそんな嫌悪、何ら関係ないのかもしれないけど。
彼は壁についている展示パネルを見て吐き捨てる。
されてることは変わらないのにな。
そういうものだ、って思うからかもな……」
わずかな埃臭さと、菓子の甘いにおいだけが漂っている。
そっちの方が随分マシだと思ったんだけどな」
さっきのように何か落ちていないか。“作者”の意図以外に残されたものはないか。
作品を最大限に引き立てるために綺麗に掃除してあるようだ。
その空間そのものが統一の取れた『作品』として構成されているのに気づいて、また喉から呻きが漏れる。
この怒りすらもきっと“作者”の想定通りだ。
そうする中で内側から沸き立つ力をキャンバスにぶつけ、彼の姿をこの手で描きあげるのです。
愛し求める方の姿を想い形づくるのは最もポピュラーな信仰の方法なのですから!
各々がクールでオーサムな彼を表現することで、互いに高め合うことにも繋がります。
一通りそれを経たら、次に全く別の新しい表現を試みました。
それが、この部屋で展示している作品です。
まさにドープ──そうとしか言えません。
ジャック・オー・ランタンの持つおぞましさと遊び心を、僕達ひとりひとりが解釈し作り上げた第1の創造物です!
第2、第3の創造物を共に手がける時、そこにあなたがいてほしいと僕達は願っています。
この下で待っていますから、是非返事をくださいね!
ハヴ・ア・グッド・チル・トゥギャザー!
そういえばサインは一つじゃなかったな」
ノリがいい
このシナリオはそのまま使っていることが多いですね。
ノリが良くて楽しい。
というか読んでて気持ちいい文章だなと思います。
これはボイセでやっても楽しいだろうなぁ。
これはそのまま使いたい。
あと、これ見て一緒にいようって思うの無理。
他人巻き込むなよ、っていうのは今更だけどさ」
何もなければ、げんなりしながらテーブルを確認する。
テーブルの上には燭台とメッセージカードが置かれていた。
誰宛の?
無論あなた方宛だろう。
……という悪趣味な文言が書かれていた。
燭台を持ち上げて、下や裏に何かないか確認する。
燭台の下には何も無い。
今更死体なんて探りたくないとか言うつもりないけど、腹は立つ」
意識して冷静に聞こえるように声を出す。
佐倉さんが怒ってくれてる。俺までこいつらの意図通りに怒る必要はない。
中のお菓子を乱暴に出して、何か入っていないか、お菓子を出した後に何かないか確認する。
▼〈目星〉〈医学〉 別情報
佐倉さんだって、腹が立たないわけじゃないだろ。
大丈夫なら、確かに佐倉さんの方が慣れてるだろうから、頼むけど……」
言いながら、意図せずオブジェにされただろう、その死体を見る。
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 45→成功
そのどれもに10人程度のサインが記されている。
そのタグはこれらを作品だと言い張っているようだった。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
また、どれも紛うことなく人間の死体であるとわかる。
手足の状態からして死後3ヶ月は経っているものと思われるが、きちんと死体防腐処理されているようだ。
けど、改めて見てみて、精巧な人形のように留められたそれが生きていた人間であることを思い知る。
何を言っても怒りが出てきそうだ。
後頭部がふつふつと煮えるのを感じながら、無言でタグを裏返し、何か書かれていないか確認する。
性別、年代、体格などに傾向はあるだろうか。
それからハート型のジャムクッキー(やけに毒々しく赤いジャムだ)を引っこ抜いて、あっと声を上げる。
あえて淡々と宣言すると、佐倉さんが何か言う前に動く。
平らに首を切られた遺体のリボンを抜き、断面に何かないか調べ、足元に落とされている肉片を懐中電灯で照らして、何か混じっていないか確認する。
肉片の一つ一つまで腐らないように、かつ鮮やかな赤を保つように細心の注意を払って処理されているようだった。
正に芸術である。
やはりこちらにも何も無かったようだ。
そこには破壊され、最早芸術でも何でもない遺体が三つ置かれていた。
いや、この様とあなた方の顔こそが想定された芸術なのか。
《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
折角だから佐倉も。
最後にもう一度、室内をぐるりと懐中電灯で照らして確認する。
陰鬱で楽しいパーティーはお開きの時間だ。
先に扉を開けるから、目をつぶって手を握っててもらってていい? 何かあったら頼む」
自分は目を開けておく。
あなたはあなた自身であることを痛みをもって確かめなければならない。
繋ぐ手が震えた。握りしめた手がどろりと溶け、感触を失って真っ暗闇に溶ける。
跳ねるように手を解いて自分の身体に伸ばした。爪を立てて胸を引っ掻こうとする。
胸だ。心臓。痣のついた心臓。それを抉り抜いて目の前に持ってくれば自分が存在することがわかる。
あなたはふっと正気に戻る。
背を叩く感触と声が、はっと自分を正気に引き戻した。
抉れば分かる? 何を考えていたんだ。抉ったら死んでしまう。痛みなんかなくても、その声で自分の存在なら分かる。
佐倉さん、その様子だと大丈夫だったんだな。
よかった、この方法が使えそうだ」
胸に当てたままの手、少し速い鼓動を感じながら、やや早口に言う。
佐倉はあなたを叩いた手を数秒見つめ、そして自分の胸の所に抱え込む。
爪を立てて首筋を引っ掻き始めていた。
首筋を掻こうとする手を掴み、肩を叩いて呼びかける。
先程佐倉さんが呼び戻してくれたように。
幸い、今の所部屋を出る時って決まってる。
片方が目を閉じて室内で待ってれば、対処もできそうだ。
次も同じように行こう」
左奥の扉へと向かう。
▼【POW】×5
それはあの暗闇と同じ雰囲気を纏っていた。
佐倉は無意識か、胸の所にあるヒランヤを爪でカチカチと叩き始めた。
……当人気付いていないのだろうか。地味に耳障りだ。
佐倉さんの腕を引き、咄嗟に飛び退こうとする。
それでもやはりヒランヤを叩き続けている。
あの暗闇と同じものが、すぐ下にいるような」
ヒランヤを叩き続ける指に、意識させるように指を添える。
あの気配がした後だったから、不味いかと思ったんだ。
気のせい……、って気はしないな……。
結構、強烈だった」
不随意運動は首飾りを叩く動きだけであるらしく、移動に支障はなさそうだ。
大丈夫そうなら、次の展示場に着くまでは急ぎたいんだ」
ハートのキーヘッドの鍵にサイズが合っている。
使うことができそうだ。
踊り場の壁には『2』という文字が刻まれている。どうやらここは2階だったらしい。
二階だったんだな、ここ」
懐中電灯を振り、階段の壁や行く先を照らす。
下に続く以外の階段や、途中に扉などはあるだろうか。床に何か落ちていたり、壁に何か書かれていないだろうか。
階段の先に何かいたり、あったりするだろうか。
一階についたが、階段は更に下へ続く。その先はより一層暗くなっておりよく見えない。
▼〈聞き耳〉
下ってことは、そうなるな」
1d100 97〈聞き耳〉 Sasa 1d100→ 100→致命的失敗(ファンブル)
降りてゆく。
そこにあなたの意思は介在したか? 良く分からない。
もしかしたらそこに本当の出口があると考えたのかもしれないし、まだ犠牲者がいる可能性を考慮したのかもしれないし、宇宙的な何かをあなたのアンテナが拾い上げたのかもしれない。
とにもかくにも、歩みを進める。
どうしてだろう。一階ということは出口があるに違いないのに、足は気づけばその下へ進んでいた。
暗闇に呑み込まれるように。
もしかしたらただ、その下に何があるのか、知りたいと思ってしまったのかもしれない。
地下2階、いや地下3階程度まで一気に下るようになっているのかもしれなかった。
そうして、いつの間にか風の吹く音が耳から離れなくなっていた。
止まない風が地下から吹いているのか。
あなたは唐突に、自分の意思と関係なく階段を下り続けていることに気付いてしまった。
気付いてしまったのだ。
あなた方は何かに引きずられていると。
牧志のみ《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》
知りたいのではなかった。
理由があったのではなかった。
その時考えていたどんな理由も、足が動いたことに、脳が後からつけた理由だった!
意思でないものを意思と取り違えていたことに気づく瞬間こそ、おそろしい。
脚が言うことを聞かないのなら、腕で手すりなり床なりにしがみつこうとする。
その時──すごい勢いで階段を駆け上ってくる靴音が下から聞こえた。
息を切らして走って来るのはひとりの痩せぎすな男だった。
焦りと恐怖を顔面に貼りつけていた彼だったが、あなたを認めると急に数段下で立ち止まり笑顔で話しかけてくる。
「あっ、やあお客さん! ここにいるってことは僕らの展示を見てくれたんですよね! それで、どうですか、僕らと一緒に彼を愛しませんか──」
男の言葉は途中で終わり、突如吹いた恐ろしく強い風によって彼は横の壁に叩きつけられた。
ぶつけてひしゃげた頭部などからだらだらと血を垂れ流し、階段の下へ下へと転げ落ちていく。
あまりにも突然の出来事だが、どう考えてもあれは死んだはずだ。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1d4》
「パニックになって逃げ出す」
逃げないと逃げないと逃げないと早く早く早く、誘い込まれる前に、あれに喰われる前に!
逃げる逃げる逃げる逃げる、逃げるという言葉、概念、行動だけが頭の中を埋め尽くした。
一階まで戻る頃には、随分とまともに考えられるようになっていた。
一階はしんと静まり返っており、人の気配もどこにもない。
がくがくと脚を震わせながら、一階の扉へ飛び込む。
ぜぇぜぇと息をして、背後を振り返る。
腕の先に佐倉さんがいることを確認する。
凍った声で呟いた。
真っ暗だった。闇だ。でも、こっちを見てた。
気のせいじゃない、見てた……。
俺もよくわからない。
でも絶対にまずいやつだった」
言葉にできない。できるようなものではなかった。ただ思考がその闇をおそれていた。
階段の下は暗く、何も見えなかった。
また吸い込まれたら大変だ、もし行きそうになったら、全力で止めてほしい」
闇を恐れるように階段から目を背け、前を向く。
呟いて、辺りを見回す。
ここにあの順路はあるだろうか。
一応、確認だけして行こう。
本当にただの空き家なら、さっさと出よう」
あの暗闇に階段のすぐ近くで襲われたくない。
一番近くの扉を避け、二つ目の扉を開けてみる。
中には踏み込まずに様子を確認する。
人間はどこへ消えたのだろうか。
片っ端から扉を開け、生存者がいないかどうか確認していく。
中には踏み込まない。
食べかけの食事、読みかけの本、並べられたコップ。
だが人間は誰一人存在しなかった。
確認するように呟く。
きっとそうに違いない、そうかもしれない、という確信の正体は、きっと恐怖だ。
懐中電灯を向けて本の背表紙を確認する。
現状に関係のあるような本はあるだろうか。
そこに在ったのは突然途切れた日常だ。
そこに誰かがいた。
誰かが暮らしていた。
そのことを実感してしまった。
外の物音を確認する。
自身に言い聞かせるように宣言して、扉を開ける。
だが二人がかりで力を加えればきしみを上げて開く。
外から差し込む太陽の光があなた方の眼を容赦なく灼いた。
光だ。
光。光だ。森がある。光に照らされている。
見える。分かる。理解できる。
まだ油断はならないと叫ぶ理性をよそに、それが何よりも自分を安堵させた。
スマホの画面を覗き込む。もしかして、電波が戻っていたりはしないだろうか。
ここは純粋にド田舎なのだ。一体全体ここはどこだというのだ。
そして一体全体これはなんだったのだろうか。
きっと、まずいものに触れてしまっただけなのだ。
それ以外のことは……、考えないでおこう。
佐倉さんとそう言い合いながら歩けるだけで、それでよかった。
そう笑い返した。
END
んもう! 迷惑! >まずい所オープン
でもうっかり牧志たちが洋館発見しなくてよかったですね。
カルト教団が黒幕じゃなくて、不幸な一般人ポジションになってるのが面白い。
美術館でひどい展示を味わうシナリオかと思ったらいきなり強制中断して暗黒ダストシュートに引きずり込まれるの、意外ィ。
【POW】対抗で一度でも勝利していれば地下に降りずに帰れます。
無理くない?
無理ィ!!
しかも途中まで文章もハロウィンムードだったのが、いきなり中断されてホラーですからね。驚きだぜ!!
文章がとにかく軽快で面白かった。
カルト教団さんもちゃんと物件チェックしてほしい。作品にされるのは困るけど!!
案外作品が少なかったのはちょっとびっくり。
発狂してズダボロになってるのに正気度は回復している!
しかし舞台を渋谷にしているせいで、東京に危ない物件が増える増える。
そろそろ魔界化しない? 東京
あまりにも傷を受けすぎたので回復シナリオに行こう!
ということで、楽しく回復しようじゃありませんか! 『結果的に』。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
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