こちらには
『デート or デッド』のネタバレがあります。
佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。
とある事件より、体中の痛みに悩まされているが、桜色の勾玉により少し改善した。
巻き込まれ体質らしい。
最近、遭遇した事件で恐ろしいものを目撃したことで、繰り返し再発する記憶障害にかかっている。
牧志とは友人。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
佐倉とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
タイマン限2 -クトゥルフ神話TRPG ふたりきり限定 シナリオ集 第二弾-
「デート or デッド」
唯 様
―今日の君と街を歩くのはとてもドキドキする。
当たり前のようにあなたが世界に存在する日々の中、あなたは時折牧志と海を泳ぐ夢を見たが、それは他愛ない余韻に過ぎなかったようだ。
そんな夢の頻度も次第に減り、あなたが見る夢はいつも通りのものになっていく。
あなたはまだ偶に、自分がどうしてここにいるのか分からなくなる。
朝起きて、知らない場所にいると感じることが、おはようと笑いかけてくる男が何者が分からないことが、まだ偶にある。
彼はあなたに誰何されるたび、悲しむどころか、ただ自分があなたの名を呼べることを喜ぶような調子で。
ここは俺達と佐倉さんの家。俺は……」
自分について全てを忘れているときでもない限り、謎の男の話を聞いて『なるほど牧志はこいつだな』と把握し、
と呟いてメモを取り出す。
今日忘れているのはこの辺りだから変な言動し始めたら指摘してくれ、と周囲の人間に頼む。
メモがいつでも正しいとは限らないので、たまに牧志やシロー、波照間や東浪見と確認する。必要事項は書き足す。
そうやって記憶の異常も日常の一部に変えていった。
大きなトラブルになるのは、自分の事を大幅に忘れてしまう時くらいになったし、だとしてもあのクリオネが近くにありさえすれば牧志が命を救ってくれたこともある味方だということはすぐに思い出せた。
そんなわけで、記憶異常が大きなトラブルの引き金になることも最近はなくなっていた。
問題、といえば、万が一にもこの個人情報満載のメモを落とすわけには行かない、ということくらいだ。
表にチェックを入れて、小さく息をつく。
あなたを安心させるような雰囲気から、いつもの表情に切り替わるのが、何となく分かる。
分かってて何かできることがあるか、どうかは分からないけどさ」
牧志はそう付け足して苦笑する。
自分の状態把握のために日記つけるのもいいと思うけど、そういうの持ち歩くのはやっぱ抵抗がなー」
PC上に日記ってのもいいけど、佐倉さんに何かあるとあのPC、起動できないし。
家に日記帳を置いておくとか?」
牧志と波照間さんを忘れることが明らかに多い。
普段親しいものから忘れるってのは面倒だ。
と考えれば、クリオネの有無が牧志の記憶に関するトリガーになってるってのはあながち間違いじゃないかも知れない……今日はクリオネがなかったし」
ぶつぶつ呟きながら仮説をPCにメモる。
ってことは、あれで俺の記憶を引き留めておける可能性がある……。
あ、東浪見が調子戻った祝いで飯でも食いに行こうって。行く?」
どこ行くとか決まってんのかな?」
PCなどを片付ける。
出かける準備を始め、パズルで遊んでいるシローにも声をかける。
お出かけ前に胸元に、ヒランヤ・勾玉・クリオネの三種の神器がかかっているのを確認。服の中にそっと落とす。
いつからだろうか、円卓料理という物にも抵抗がなくなった。
東浪見に連絡を入れ始める。
彼はいつものように、あなた達に手を振る。
いやー、まいったよ。また風邪引いちゃってさー」
ここしばらくの体調不良について軽く説明。無論「どうして風邪引いたか」なんて話はしない。
40度近く出るし咳止まんないし、大変だよなー。
練習出ようとしたら全力で止められたし」
逆に言えばそういうのじゃないとかからないってことだな。羨ましい」
東浪見の頼んだ炒飯はタワーだった。
シローは牧志に酢豚を分けてもらい、嬉しそうに食べる。
食べながら、東浪見の炒飯タワーと自分の顔の大きさを比べたりしていた。
毎度のことで慣れたと思ったが、やはり飯タワーはちょっと。
頼むヤツも頼むヤツだが、どうしてそんなのが置いてあるんだ。
羨ましいとか以前に、東浪見は別次元過ぎて妬む気にもならない。
そういえば遊園地行ったとき以来だな。
シローに会ったのはあの時だっけ。
突然のあなたの声に、彼はどうやらあなたと同じものを思い出したらしかった。
牧志曰く、シローに行くって言ったのにすっぽかしちゃったことがあるから、その時の埋め合わせ、なんだそうだ。
以前ライブ会場になっていた中央広場ではヒーローショーがやっていて、シローが手に汗を握ってヒーローと悪役の攻防を見つめていた。
その時のことはたぶん彼女のことを佐倉だと記憶してるんだろうな。
シローの目が見えるようになって、本当に良かった。
おっと、悪役が客席に乱入してきた! 大変だ!
悪役が近づいてくると一応アナライザーを立ち上げてしまうのはもうクセだ。
シローがびっくりしてあなたに飛びつく。
アナライザーはもちろん、【人間】を表示するばかりだ。
※ステージ慣れしてないから少し警戒モードになってる
軽く乗って場を盛り上げよう。半分本気で警戒はしてるけどさ。いつ何が起きるか分からないし。
慣れた様子で声を出す東浪見の眼には優しさがあり、本当に子供慣れしているようだった。
あなたが乗っかったのを見て牧志も小さく呼ぶが、こういうのに乗るのには慣れていないようで、声が照れくさそうだった。
光量や粉は控えめの、観客の安全に配慮されたバトルだ。
おお、武器がちゃんと光ってそれっぽい!
目の前での演技って迫力があるものなんだな」
楽しそうだったし、カレンダーくらい買ってやるかぁ。
まだ遠慮がちにしているシローに、「じゃあ俺が買うから、握手していいよ」と背を押し、ポスターを一枚買っていた。
お陰で助かってるよ。俺もなんだかんだ不定期に忙しくて、面倒見切れないことも多いからさ」
……仕事で忙しいだけじゃないんだけどさ。
東浪見はからからと笑う。
その夜、シローは貼られたポスターを見ながら、嬉しそうに何度も何度もヒーローショーの様子を話しただろう。
あなたは大学へ行く牧志を見送り……。
一仕事して帰ってきた夜に、久し振りにぽんと記憶を飛ばしてしまった。
身体が疲れ果てていたのがよくなかったのだろう。
思い出すタイミングはこちらから指定します。
自分が誰か分かんない、か、ここがどこか分かんない程度かな?
状況が分からんが、とりあえず情報はここが家だといってるし大丈夫だろう、みたいな感じかな。
自分のこと・悪魔使いや波照間のこと・ここが住処であることは分かる、シローと牧志のことだけ思い出せない状態です。
家のなかに誰かいる。
とすると、これは一緒に住んでいるという誰かなんじゃないか。
リビングルームにいたのは、寂しそうに背中を丸めておもちゃで遊んでいる子供だった。
あなたの気配に気づき、子供が振り返ってぱっと表情を明るくした。
小さな足であなたに駆け寄ってくる。
いたような気がするな、子供。
腕のメモを確認。
ごめん、またちょっと記憶があやふやで」
さくら、ごはんたべた?」
子供……シローは嬉しそうに笑い、あなたの食事の心配をする。
今は夜の九時。
あなたは仕事の帰りに夕食を済ませている。
シローは一人で食べたのか、冷凍食品のパックがくず籠に捨てられているのが見えた。
家の中を覗けば部屋が二つ見えるが、何となく周囲は寒々しい。
他に人がいそうには見えなかった。
シローは自分で準備したのか。偉いなぁ。他に大人は」
メモによればこの家、もう一人いる筈なんだけど。
首をかしげてシローに問いかける。
シローはどことなく寂しそうな、彼を案じるような、しょんぼりとした様子で呟く。
悪魔退治屋兼ハッカーであるあなたの生活は不規則だが。
メモにそこまで書いているかどうか次第だが、さてどうだったのか、あなたにはよく思い出せない。
電話を見て、それらしき番号にかけてみる。
シローが眠たそうにしながら、心配そうにあなたの持つスマートフォンを見上げている。
メッセージ履歴を見ても、連絡などは来ていないようだ。
一応らしきメッセンジャーに連絡いれとこ。
何かあったら連絡をくれ」
これでよし、と。
シローはこの部屋で寝るんだよな? 歯は磨いた?」
あー、とシローはあなたに口の中を見せる。そこそこ磨き残しがある。
シローは眠たげに目をこすりながら、心配そうにしている……。
その眠そうな様子を見ていると、あなたも眠い。
そういえば、今回の仕事のせいで随分疲れていたのだ。
歯ブラシ持ってきな、磨いてやるから」
駄目だ、まともに考えられない。寝よう。
シローが随分心配そうにしていた、その理由はあなたにはよく分からなかった。
あなたはその部屋の中に身を横たえ、やがて訪れる眠りを歓迎するだろう。
何かをしなければならない気がした。
何かを……
考える余裕はなかった。
明日になったら帰ってくるだろう。
明日いなかったらもう一度連絡しよう……
あなたにとっては何の違和感もない朝に、もう起きていたシローが玄関の扉を見て不安そうにしている。
牧志の朝帰りってかなり珍しい?」
身支度を整えながらきいてみる。
スマートフォンに連絡は来ているだろうか?
おそくなるとき、ぜったいさくらにおしえてる。
さくらも、そう」
シローは心細そうにあなたを見上げる。
俺は、何かを決定的に間違えたのか?
電話をかける。
自分のメモを取り出す。
牧志との共通の知り合いについては?
波照間さんや東浪見のことは思い出せる?
もしくは連絡しようと思い付けるかな。
ピンポーン。
インターフォンの音が鳴った。
モニターには、見たことのある顔の宅配員が、何か大きな箱を抱えて映っている。
まずはすぐに終わることが分かっている急な来客対応だ。
玄関に出て対応する。
ボールペン片手に宛先と発送元を確認。
それは2リットルのペットボトルの箱くらいの大きさの箱だった。割れ物注意・上積み禁止のシールが貼られている。
宛先はあなた。
そして、送り主は…… 牧志浩太だった。
まあ……いいか。
内容物について何か書いてある?
受け取るならば、ずっしりと重い。
サインして受け取ろう。
居間に持ち込んで、開封しようか。
冷蔵品か何かだったら困るし。
シローが不思議そうに寄ってくる。
何か送ってくれるって言ってた?」
びーっとガムテープ剥がして……
オープン!
シローは不思議そうに箱を見る。
緩衝材を出すか、手を入れるかしなければ中身は分からなさそうだ。
緩衝材をかき分ける。
その向こうに堅くて丸い手触りと、それから、何か……生暖かい温度。
果物とは思えなかった。果物というより、なまもの、生き物?
本編見る!
慌てて緩衝材を箱から出す。
何だか馴染みのある感覚だ。
こう、イラッとした時とか。考えを整理したいときなんかに……
その群れは丸い本体の上から下へ流れ落ちるようにくっついていて、それらの下にしっとりとした手触りの外皮があり、僅かな凹凸がそれに特徴を与えている。
触れるあなたの指の先に、堅い感触を隔ててまだ内側に残る熱を湛えていた。
丸い何か? 群れ?
いや、あなたはそれが何か知っている。
なぜならよく似たものが、あなたの首の上にくっついているからだ。
耳についたままの金属の飾り、鼻先に散る雀斑、苦しげに閉じられた目元にひとつ、印を打つような黒子。
それが何で、誰で、あなたにとって何なのか。
それは牧志浩太の、まだ温かい生首だった。
《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1D3》。
それが暖かいことを確認。
がつんとやられた。
それが人の生首である、という事実の前に、男の名が浮かんだ。
生首だ。作り物か、さもなくば死体だ。
しかし、しかし、どうしても確認が必要だと思ってしまった。
叫んで首にかるく指を当てる。頸動脈に手応えはあるか?
幻だろうか、見間違いだろうか?
とうてい生きているとは思えないその首筋に、脈を触れたような気がした。
赤茶色の髪が微かに揺れた。
呻く声。声? どこから?
肺などないはずの生首から、声が聞こえた気がした。
薄らとそれが、眼を開いた。
生きたみずみずしい眼球の色だった。
安心したのと混乱したのと両方でわけのわからないことを口走った。
緩衝剤を丁寧にどける。首は何かに繋がっている?
シローが身を乗り出す。
種も仕掛けもない。首の下が何か別な場所に繋がっているということもない。
段ボール箱は先程あなたが持ち上げた通り、下に鏡が仕込まれているといったこともなく、普通の段ボール箱だ。
首の断面、見てみる?
なまの骨付き肉、というものを普段目にすることは案外ないが、そのような形容が近いのだろう。
鋭利な物ですっぱりと切られた断面に白い骨が覗き、その周囲に赤黒い肉と髄と黄色い脂肪が弾力のある皮に包まれて存在していた。
そこから赤黒い液体が漏れ出てくることこそなかったが、それは凄惨な行いを思わせる光景だった。
……もしかして俺、今どうにかなってる?」
その凄惨な断面の上から牧志の声が降ってきた。
乾いた笑いが漏れた。
心臓は動いてるらしい。呼吸もしている。意識はある。
つまり俺が内臓盗られたときと同じだ。どっかで生きてる。繋がってる。
けど本人は状況を把握してない。
落ち着こう。まず落ち着こう俺。
首だけ」
牧志は思わず目を瞬いて、それから周囲を見回した。
わずかに頭を上げてあなたを見上げ……
自分の身体が動かないことと、視界の異常さに気づいたようだった。
1d100 64 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→64→成功
SAN 64 → 63
タオル一枚持って来て上にガーゼを敷き、牧志の首をそっと設置する。
見た目が大分やべぇなこれ。
胴体どこに落としてきた。
詳しく」
牧志は数度息を吸って吐き、どうにか心臓の拍動を落ち着けようとしているようだった。
心臓、見当たらないが。
帰り道を歩いてたら、後ろから車が走ってきて……
咄嗟に避けようとしたけど、間に合わなかった。
耳元で何か囁かれて、そうしたら動けなくなって、そのまま車に連れ込まれた。そこまでは覚えてる」
何も分からないな、それは。
荷物の筆跡は間違いなく牧志の?
発送元の住所、電話番号など書かれている?
また、送られた経由地などは荷物番号などで調べることはできそうかな。
あなたが見慣れた牧志の筆跡とは、全く異なる。
そもそも、ここに荷物なんて送った覚えはない」
経由地を調べると、新宿駅近くのコンビニから発送されていると分かる。
そうやって調べていると、あなたは牧志の髪に何か引っかかっているのに気づく。
ため息をつく。
しかし正常だったら警戒して受け取らなかったかも知れず、そうなったら……あまり考えたくないな。
声をかけて髪の毛に触れてかき分けてみる。
それは数字のタグがついた鍵と、何かくしゃくしゃになった紙だ。
鍵はコインロッカーのものか何かのように見える。
「これ、お前についてたんだけど見覚えあるか?」
箱の中を丁寧に探って、他に何か入っていないか調べよう。
他に何か入っているものはないようだ。
そのうちの一つに、丸がつけられている。
牧志にもそのメモを見せて、あとほかに牧志の頭に変な因果描かれたりしていないか調べよう。
嫌だけど、それと俺が連れ去られた場所と、そのどっちかくらいか、手掛かり。
後は、発送元のコンビニ?」
牧志の首をじっと見つめる。
佐倉さんには、世話かけるけど」
牧志は首だけの状態で、タオルの上であなたを見上げる。
言いながら自分の部屋で鞄を探す。
まきしのからだ、さがしにいくんだよね?」
シローは留守番は任せてとでも言うように、リビングのソファに陣取って頷いた。
……ちょっと臭うかも知れないけどな。
鞄にタオルを敷き詰めて、耳に突っ込むタイプのヘッドセットを持っていこう。
音量調整して牧志の耳に突っ込んで、鞄の中にセット。
……ちょっと狭いかなーこれ。まあゴロゴロ転がったりタオルに埋まったりするよりはいいんじゃないかな。
先ほど受け取ったばかりだというのに、牧志の頭を荷造りするような感覚を覚えた。
不透明で堅い鞄に彼を収めてしまえば、中に彼がいるとは見えなくなった。
外に聞こえないようにか、牧志が囁くような小声で返すのが聞こえる。
大分苦しいけどやらないよりゃマシだろ」
そういえば、そんなことが一度あった。
この鞄、いつもは雑に肩に担いでしまうが、今日はそういうわけには行かないな。
別の手段の方がよい?
渋谷から新宿なんて明らかに電車の方が早いんだが、駅を鞄持って歩きたくない!
牧志の体に異常があって、なんとか奪い返せても動けなかったら困るし。
絶対混んでるよなー」
飲めるのか? あの状態で。
買ってきたいつもの麦茶を見せた。
こんなのだけど、喉は渇いてるみたいなんだ。少し腹も減ってる」
麦茶のペットボトルを見て、小さく頭を上下させて頷く。
見られたときの事件性はあの時の比じゃないけど」
鞄の中から顔を覗かせながら、あの時のように牧志が苦笑する。
その様子だけ見ればあなたが牧志を殺して捨てにでも行っているようで、生首が喋っている様子は悪魔か何かそのものだった。
飲ませるの自体は服の時よりは立体感があるからまだマシ……かな?
今回は外で誤魔化しながら食事なんてどう考えても無理だけど。
最初少しこぼしたが、問題なく飲むことができた。
飲んだ量は結構多かった。昨夜からいま目を覚ますまで、何も飲んでいなかったのだろうか。
牧志はそう笑って、それから少し考える。
飲めたってことは、動いてはいるんだろうけど。
あの時とは違うみたいだ」
もしかして何も食ってなかったりする?
途中で何か買うか」
しまった、出る前に済ませておくんだったな、と思ったが、今は急ぎたい。
朝食べてないから腹は減ってるけど、まだ我慢はできる」
摂っていなければ、あなたも腹が減っているかもしれない。
少し我慢して、どこかでお握りでも買おう。
どうせ駅には行かなきゃならないんだからな、コンビニに寄ることはできるだろう。
ひとまず水分補給が終わったら、牧志を元通り鞄に収めて助手席の足元に設置。
鞄は開けたままにして移動しよう。
牧志は横にいないのに、なんとなく気配だけがある。
発進した瞬間に伝わった振動に、牧志が小さく声を上げた。
いつも以上に安全運転で行こう。
どーせ道路はコミコミだ。
断面見られたらアウトだけど、首だけならなんとか? 無理か?」
電車に比べれば大いに時間がかかったが、まあ元が短距離だ。なんとか到着できた。
駐車場の空きを探すのにまたひと難儀あったが。
デパートや商業施設と一体となった、巨大な駅である。
東の新宿西の梅田と評されるその規模と接続のややこしさ、偶に分かりにくい出口の名前は時折悲劇を産むが、来る度に構造が変わったりはしないので、慣れていればどうということはない。
だが人は多い。
急ぎ足に歩く人が多く、ぶつかられないよう注意が必要だろう。
行かなければならないコインロッカーまで鞄の蓋を閉じて持って行く。
ロッカーの周囲になにか不審な人間や者は見当たるだろうか。
なければ周囲を警戒しながら開けに行く。
俺は誘い出されている気がするが、牧志の胴体が人質じゃ乗らざるを得ないのが辛いところだな。
少し速い息があなたの耳に届いた。息苦しいのだろうか?
……トイレ限定になっちまうけどな。
辺りには荷物を出し入れする旅行者らしい姿があるが、不審といえる物や人は見当たらない。
目的の場所は一番奥、下から2段目。荷物の出し入れ時に、しゃがんだ自身の体が壁になるような位置だ。
手持ちの鍵を使えば、開けることができる。
開けると、中には見慣れない黒いリュックがひとつ入っていた。
意図的に呟いてリュックに外から触れて何が入っていそうかあたりをつけてからゆっくり開けてみる。
中身は紙と細長い何かのようで、500ミリリットルのペットボトル程度の長さだ。
……タオルには、あの段ボール箱と同じ、不気味な赤黒い印が描かれていた。
大丈夫? ばらばらグセつかない?
分解癖ついたら大変。
本来1回も離れないはずの人体が離れすぎなんですよ(佐倉さんは手首もやられているし)
台車がいるな。
今回はドッキドキのデートです!
いや俺そんな趣味ないし。
……こんな趣味もなかったし!?
TRPGリプレイ【置】CoC『レミングス・ドリーム』牧志&波照間&佐倉 5
動けたのに。動くことができたのに、何もできなかった。
何度切り抜けてきた危機だって、一歩間違えればああなっていた、運が良かっただけだった、そんな恐怖が背筋を震わせた。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
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