佐倉 光
ああ、体が綺麗になっていくのも気持ちいいし、体が温まってゆくのも格別だ。
頭の芯からゆっくり溶けていくみたいだ……
牧志 浩太
「あー、思い出さなきゃ何か異変、そうだ日記、俺の、見直そう」
1d100 70【アイデア】
牧志 浩太
牧志 浩太 - 今日 0:20
CCB<=(90-20)【アイデア】 (1D100<=70) > 53 > 成功
佐倉 光
さっすが
牧志 浩太
「あっ、ああー、思い出した! 

なんでこんなこと忘れてたんだよ、確実にその時点でおかしくなってただろ!
佐倉さーん、覚えてる!?」

あなたが頭を溶かす心地よさを味わっていると、牧志の笑い声がリビングから聞こえてきた。
佐倉 光
はー。しばらくこうしてたい……
佐倉 光
「何を~?」
怠惰に叫ぶ。
牧志 浩太
「忘れちゃったかー! 
ちょ、ちょっと待って、日記に書く、書かないと、書いておくから……、
あああ、もぞもぞする、ふぁあ……、」

牧志の笑いもだえる声がそのうち心地よさそうな声になり、身体を包む温かい湯の心地よさに浸るあなたの耳に微かに届いた。
佐倉 光
しばらく、牧志の話を聞きに行った方がいいと思う自分と、湯の中で溶けていたいと思う自分が戦った。
……10分くらい。
要は十分浸かった後で、湯が冷め始めたので渋々上がった。
佐倉 光
「あったけぇー」
頭の芯がまだ気持ち良すぎてぼうっとする。
もぞもぞする。もぞもぞしている。たまらない。
佐倉 光
「牧志ー?」
牧志 浩太
「ああ、ごめん。
ちょっと頭の中が痺れてじゃなくて、思い出したんだ。

ほら、あの俺と佐倉さんが戻ってきてから、数日程だったかな」
牧志は日記帳の最後のページを開いてみせる。

ついさっき書かれたらしいそれは最初こそ見慣れた字だったが、途中から字が震え、暴れ出して、躍るような殴り書きになっている。
牧志 浩太
そこにはこんな内容が書かれていた。
「夜の道端で変な女の人に会った。
酔っ払ってるみたいで突然抱きつかれそうになったから、佐倉さんを庇って振り払って、でも酒の匂いがしなかった。

そうしたら彼女突然吐いて、確か警察を呼んだ。
何かあったら困るから、佐倉さんと一緒に明日病院に、いこうと、して」

「あたまがばらばらになるくらい、きもちよくなって、めちゃくちゃに、ぜんぶ、」

「それで、おきたら、わすれ、て」
KP
……それを見て、あなたは思い出すだろう。

なぜ忘れていたのだろう。そこに書かれている出来事は確かに起きたのだ。

覚えている。
牧志が咄嗟にあなたを庇おうとするのを見て、あなたはあの恐ろしい出来事を思い出したのだ。

彼の死を。

どうして忘れてしまったのだろう、戻ってからわずか数日の、そんな衝撃的な出来事を。
佐倉 光
話を聞くうち、思い出してくる。
どうして忘れていた? あの衝撃。
庇う彼に咄嗟にやめろと叫んだ……と思う。
また俺の目の前で死んでしまうのかと思った。
しかし何事もなくて、どれだけほっとしたか。
佐倉 光
それから、女が吐いて。
通報したのは確か俺、だった気がする。
佐倉 光
そうだ、何かあったら困るから……って、
どうして目の前で吐かれたくらいで病院行こうなんて話になったんだっけ……?
佐倉 光
思い出せない。不自然なほどに極彩色で幸せな想い出に繋がっている。
二人手を繋いで足取り軽く帰って、ぬくぬくと眠って……
佐倉 光
ああ、もぞもぞしている。頭の中からそんなもの忘れてしまえと命ずるように、強烈な快感が溢れてくる。
気持ち、いい……
牧志 浩太
「ふふ、あはは、あはは……、」
その記述を見ていた牧志が笑いだした。
彼のとろけたような笑い声が、あなたの思考を柔らかく煮込むように溶かしていく。

極彩色の幸せな思い出が、頭の中から溢れ出してくる快感と混ざりあって、あなたの脳を気持ちの良いシチューに変えてしまう。
KP
【POW】×5で判定。
成功すれば、快感に抗って行動できる。
失敗した場合、しばらく快感に酔いしれてから、我に返って行動できる。

抗わずに快感を味わう場合、判定を放棄してもよい。

佐倉 光
おお。誘われている。流されとこうかなー。
少しくらい溺れてもいいよね……ふへへ
ところで普通にホラーな気がするけど気のせいだよね!
KP
いいと思います。とろとろ。
これシローいたら彼がツッコミ入れるから子供チームでよかった気もしますね。
佐倉 光
ですね! 彼結構冷静だしあるがままに見るから、すぐ様子が変だって気付きそう。
KP
そうそう。
しかも東浪見や波照間とも連絡を取りやすいから、二人ともおかしい! って気づいて助けを呼んじゃう。

子供チームだと普通にホラーなのに、誰もツッコむ者がいない感じを存分に味わえますね。楽しい。
佐倉 光
佐倉も自分が感情を操られている異常に気がつきにくいですしね!
そしていざ流されたときの抵抗力もRP的に弱い。(数値的には変わらないんだけど)
KP
ですね!
普段からやや感情強いし、抵抗力もRP的にちょっと弱いし、なによりあんな出来事の後だったからダメージ残ってて異常に気づきにくいし。
佐倉 光
牧志も嬉しいんだなー! って思っちゃった。
KP
牧志もちゃんと動いて笑える自分が嬉しいし、佐倉さんとまた日常を過ごしていけるのも嬉しい! 嬉しいからちょっとオーバーでもおかしくない。

佐倉 光
「ふふふへへ」
《ハピルマ》食らった時みたいだ。笑いが止まらない。幸せだ。
もぞもぞという感覚が脳を震わせる度にぞくぞくする。全力でその感覚に溺れたくなる。
牧志も自分もおかしいと自覚できた。
感覚か感情かその両方をいじられている。
それは何か本格的にまずいことを誤魔化すために。
こうやって俺たちに考えることを放棄させる……ために……
佐倉 光
自分の耳から溶けた脳が虹色の液体になっててろてろと流れ出して輝く。
可笑しすぎて、笑った。
牧志 浩太
「へへ……、うふふふ……、あははは……、」
KP
とろけた笑い声が部屋の中をきらきらした呼気で埋める。
楽しい思い出ばかりが、虹色の液体に浮かんでたゆたう。

頭を掻いてもらっている時みたいに頭の中をくすぐられて、境界がおかしくなって、このまま溶けてしまっても、きっと、幸せ。

KP
ふっと目覚めて時計が目に入る。
優に一時間はそうしていたようだ。

さいわいその幸せがまだ生存を捨てさせるほどじゃなくて、ちょっとお腹がすいて我に返ったらしい。
腹がすこし鳴っている。
佐倉 光
空腹は気持ち良くない。
生存に直結するからか。
佐倉 光
「あっやべ、ぼんやりしすぎた。
牧志、おい牧志、大丈夫か?」
牧志をぺちぺち叩く。
牧志 浩太
「ふぇ」
叩かれて牧志は数度目をまたたき、大きく腹を鳴らして身を起こした。
牧志 浩太
「うう、そうか、思い出したら気持ちよくなって、訳がわからなくなって……、」
牧志 浩太
「まだ頭が痺れてる。まずいな、これ。
明らかに妨害されてるし、このままじゃまずい」
佐倉 光
「俺たち本格的にやばいかも。
ちゃんと思い出して対処しないと」
牧志 浩太
「佐倉さん、次にどっちかがおかしくなったら、すぐ叩くかどうにかして気づかせよう……、」
佐倉 光
「ああ、分かった、知らせる」
佐倉 光
とはいえ今なんてまさに二人揃ってボケてたわけで、先が思いやられるな。
佐倉 光
ぐぅぅぅ、と音が鳴った。
そういえば今日はまだなにも食べていない。
佐倉 光
「何か食べないと」
佐倉 光
食べる。甘美な響きだなぁ。
想像するだけで幸せになる。
牧志 浩太
「……食べる、食べるかぁ、何がいいかな、佐倉さん何食べたい?」

真剣な顔は、そこまでしか保たなかった。
食べるという言葉に食の快楽を想像してしまったのだろう、牧志はふにゃあと笑った。
佐倉 光
「モーニングセットと思ってたけど~、この時間ならカレーがいいなー。
ぴりっと辛くて野菜たっぷりで、トンカツ乗ってる奴が食べたいなぁー」
外に食べに行く予定だったからな。
佐倉 光
「そういや図書館どうする?」
牧志 浩太
「いいなーカツカレー、最高。食べに行こう!

それで図書館行って雑誌読んで一緒にパズルして今度のレポートの資料探して、あれっ?」
牧志 浩太
「あれっ? 違う? よな? この虫なんとかする方法探すんだよな? 病院? あの女の人のこと調べる?」

牧志はふにゃふにゃと笑いながら、震える手であなたの肩に縋る。
眼の中の光が、頭の奥から襲い来て思考をかき混ぜる喜びに抗おうとしていた。
佐倉 光
「ああ、そっか、そうだ、コレのこと調べるなら、あの女の人のこと調べた方が……」
佐倉 光
「あの人なんで関係あるって思ったんだっけぇ」
思った途端に思考がけばけばしい花火に覆われた。
佐倉 光
わぁ綺麗だぁ。
佐倉 光
じゃなくて。
あまり先回りして考えようとすると塗りつぶされるな。
佐倉 光
「カレー食ったら病院に行くっ」
宣言しながらメモに大書きした。

出かけよう。

KP
外へ出ると雨は止んでいた。
濡れた地面や草木の葉がきらきらと光り、眼を射す昼下がりの光が見惚れるほどに美しい。
牧志 浩太
「やった、雨止んでる! いい天気だな」
牧志が腕を広げて大きく息を吸う。
佐倉 光
「空気が気持ちいいなぁー」
深呼吸してスキップを踏む。
佐倉 光
「……おっと。落ち着こう俺」
もう一度深呼吸する。今度は落ち着くために。
牧志 浩太
「おっと、そうだな。また側溝にはまったら大変だし。落ち着いて、落ち着いて……」
佐倉 光
「まー何にせよ雨がやんで良かったよ」
足取り軽くカレー屋に行くぞ!
牧志 浩太
「だな」
手を繋いでカレー屋に向かう。

KP
「おおい、君達ー」
カレー屋に向かっている途中で、なぜか警察官の格好をした男性に呼び止められた。
その顔にどこか見覚えがあるような気がする。
KP
「突然すまないね、十日前のことをもう少しよく聞かせてくれないか?」
KP
「十日前のこと」と聞いてもすぐには浮かばないが、もしかして例の女のことを通報した時のことではないか、と思いつくことはできる。

詳しく思い出そうとするとまた思考がふわふわと輝いてくるが、逆に話を聞くことはできそうだ。
佐倉 光
「あーすみませーん。
十日前ってー、なんだっけ?」
子供は忘れちゃってても不思議はないだろう!
KP
「ああ、ごめんな僕。
ほら、あの時のことだよ。
酔っ払った女の人が絡んできて、っていう。
酔っ払ったにしても様子が変だったからって、通報をくれただろう」
警察官は牧志の方を向いて言う。
牧志 浩太
「ああ、あの時の。
とは言っても、あれ以上よく分からないんですけど……、何か、あったんですか?」
どうやら詳しい言及を避けながら、牧志が聞く。
KP
「実は、あの後、彼女が路地裏で死んでいるのが見つかってね……。
どうやら病気で死んでしまったようなんだが、一応見た人に詳しく話を聞かせてもらっているんだ」
佐倉 光
「死んだ……って? いつ? どこで?
病気ってどんな? 僕あの人に触ったんだよ。うつってないかな」
KP
「ごめんね、怖がらせてしまったかな。
頭の中にできものができていて、それで死んでしまったんじゃないかってことだったから、うつったりはしないよ」

大丈夫、と安心感を与えるように彼は微笑む。
その微笑みを見ていると、ああそれなら大丈夫かもしれない、という安心感が頭の奥から湧き上がってくる。
佐倉 光
「そぉっかぁー、良かった! 頭の中にできものかー。脳腫瘍と……か……」
佐倉 光
いやまずくね?
KP
安心感を覚えた後で、あなたは我に返るだろう。
いや、まずくね?

頭の中では今も、何かが微かに這い回っている……。
佐倉 光
「牧……おとーさん、どうしよう。僕も何だか具合悪いよ」
頭を指して言う。
佐倉 光
「その人、死んじゃったって、病院とか行ったのかな」
KP
「ごめんね、大丈夫だよ。大丈夫だからね。
その人はちゃんと病院に行ったからね」
子供連れの時に余計なことを言ってしまったことを悔いるように、彼は何度も謝る。
KP
「その前に、彼女をどこかで見たりはしなかったかな? 
彼女は何か言っていた?」
それから彼はその女性の似顔絵なのだろう、一枚の絵を牧志に見せる。
あなたの目にも、その絵は入るだろう。

その絵をきっかけに、また少し記憶が蘇る。
女の痩せ衰えた顔の、顔立ち。風体。服装。
爛々と輝く血走った二つの眼球。
くつくつと楽しそうに楽しそうに笑いながら、ふらつく足取りで近寄ってくる姿。
その頬が何かで膨らんでいたこと。

それから、女と出会った場所が、どこだったか。

SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D2》。
KP
その記憶を思い出したとき、また、頭の奥から極彩色の夢が滲み出てくるのを感じた。

上記の《SANチェック》による正気度 減少分は、即座に回復する。
佐倉 光
1d100 75《SANチェック》Sasa 1d100→ 67→成功
牧志 浩太
1d100 60《SANチェック》Sasa 1d100→ 71→失敗
1d2 Sasa 1d2→2
佐倉 光
「ほっぺが膨らんでた……アメでも食べてるのかと思った」
思い出したことをぽつぽつ呟く。容姿、格好、行動など。
佐倉 光
「あと……笑ってた。楽しそうに。
笑ってたんだ」
佐倉 光
「今の僕たちみたい」
くすくすと笑った。
KP
「ありがとう……、ごめんね、こんなことを聞いてしまって」
あなたの言葉を牧志が補強し、彼はあなた達の言葉を書き取る。
牧志 浩太
牧志は湧き上がってくる笑いをどうにか、にこやかな微笑みに変えることに集中しているようだった。
KP
特に聞くことがなければ、彼は申し訳なさそうに去っていくだろう。
佐倉 光
同じような犠牲者が他に出ていないか聞いておきたいな。
KP
他には見つかっていない、と彼は聞かせてくれる。
佐倉 光
「気になることがおきたときに伝えるからさぁ、おじさんの連絡先教えてよ。
普通に通報すると時間かかるでしょ?」
所属と名前が聞ければ新しく聞きたいことが増えたときにスムーズかなって。
KP
彼は牧志の顔をちらりと見た。
牧志 浩太
「俺からもお願いします。何かあったらお伝えしますので」
KP
「ああ、分かった。何か思い出したり、分かったことがあったらぜひお願いするよ」
彼は所属と名前を教えてくれる。
佐倉 光
メモメモ。
佐倉 光
「ありがとうおじさん」
お礼言って別れよう。

佐倉 光
で、牧志と情報交換だ。
お互い、覚えていることを声に出しながらメモ取ろう。
笑い出したりぼやっとしたら互いをペチペチしながら。
佐倉 光
「俺達やっぱり相当まずい状態っぽい」
牧志 浩太
「ああ。
そうだ、あの人の様子はさっきの俺達によく似ていた。
俺達もそうなるかもしれない……、いや。

きっと放っておいたら、そうなるんだ」
牧志は気を抜けば笑い出しそうになる唇をこらえて変な顔になりながら、情報交換した内容を指を震わせて書き留める。
KP
覚えている内容を書き留めようとすると、ふわふわと頭の奥から喜びが湧き上がってくる。

うまく書けた! という満足感が意識を満たしそうになる。
無意識のうちに落書きを始めようとする手を、互いに叩いたり呼びかけたりしながら、どうにか内容をきちんと書き留めることができた。
佐倉 光
とりあえずご飯食べながら今後の方針相談だな。
メモは常に手にしておいて、やるべき事を忘れないようにしよう。
カレー食べに行くぞっ!

食べ終わったら一応ネットで、似た事例はないかあたってみようかな。
あとは現地調査、その人の身元確認と死亡したときの状況、
俺達が遭遇したときに起きたことの再確認……(これは翌日まで無理かもだけど)
牧志 浩太
牧志はペンで素早く、腕の内側にやるべきことを書いた。
KP
そしてあなた達は、意気揚々とカレー屋に向かう。
佐倉 光
このチームまで腕にメモ取らなきゃいけなくなる事態に!
KP
なる事態に!

KP
カレーだ!
身がたっぷりのムチムチとしたトンカツが乗った、野菜ゴロゴロのカレーがあなたを歓迎する!

辛さのきいたメニューもちゃんとキッズサイズで頼める嬉しさだ。それだけで舞い上がりそう。
牧志 浩太
「わあぁ、美味そう」

運ばれてきたカレーの輝きを目の前にして、牧志も頭の中身が涎になって口から頬といっしょに落ちてしまいそうな、そんなとろとろの笑顔を浮かべている。
なんとか実際に涎を垂らすのだけは我慢している。
佐倉 光
ここのカレー美味しいんだよなぁ~
自然と頬が緩む、なんてものではなく、眉から口元から目尻から、全部まとめて溶け落ちる。
食べたい、早く食べたい!
こんな気持ちを味わえるのも幸せだ。口にいれたらどれだけ至福だろうか!
佐倉 光
「いただきまーす!」
神秘の山にスプーンを大胆に突っ込み、山盛り掬って口に入れる。
ああ、生きてるっていいなぁ。感動にうち震える。涙が出そうだ。いや辛いのかこれは?
水を口に含むと、ひんやりとした安らぎが訪れる。まるで砂漠のオアシスだ。
涼風が吹いた口の中に今度はトンカツを迎えるべく、スプーンでさくりとした衣を砕きながら切り取る。
これを食べられると考えただけで意識が焼ききれそうな程の多幸感が押し寄せる!
KP
脂とカレーの輝きでてらてらと光るカツをひと噛みすると、中から滋味が溢れ出した!
舌をやさしく旨味で染めていくそれは、生命の活力そのもの。
必要で、必須で、これを得るために肉体が存在しているのだと知らしめる。
思考が絶えず爆発する信号で埋め尽くされる。

全身の血管に脈打ちながら歓喜が流れていく。
きっとこの熱さはカレーが身体を流れているのだ。
牧志 浩太
「んんんんん」
前で牧志も感動に身を震わせていた。
彼の全身が生の喜びで、生の表現で満たされていた。
きっとあなたも同じ姿をしている。
佐倉 光
生まれてこのかたこんなに旨いカツを食べたことがあっただろうか!
カレーは、いつも食べている野菜マシマシカレーだとは信じられないほどだ!
旨味と辛みの絶妙なバランスに心踊らせ鼻にその香りをいっぱいに満たす。
この幸せを抱えて家に戻り、そのまま微睡んだらきっと天国だ。
佐倉 光
いやこのままだとマジで天国行っちゃうかもって話な。
あと俺天国に行ける自信はねーや。
行きたくもないけど。
佐倉 光
まあ旨いもの食ってる時くらい忘れよう!
食べ終わるまでは浸る!
佐倉 光
なんでこの話でまで飯テロしてるんでしょう?
KP
カレーが美味しいからしょうがない。
飯テロ描写はついやりたくなっちゃう
KP
ああ、頭の中で歓喜がわめいている。
このまま何もかも忘れて快楽に浸りたい。

やがて幸せな一時は終わりを告げる。
皿が空になっていた。しかし、そのひと皿がもたらしてくれた喜びはそのまま、満腹感と余韻に姿を変えて腹の中に存在してくれていた。

ああ、頭の中で歓喜がわめいている。極彩色の花火が踊り狂っている。
このまま眠りに浸りたいと願って、そうしてしまうことを阻むものはない。

……ない?
本当になかっただろうか?

そうだ、図書館に行こうって言ってたっけ。
牧志とパズルをして書物をたらふく読んで知の快楽に溺れるのだ。

……そうだっけ?
KP
やるべきことを思い出すために、【POW】×5で判定。
失敗した場合、〈目星〉/2で再判定できる。
それにも失敗した場合、翌日まで全部忘れて楽しく過ごしてしまう。
(呼びかけて我に返せるため、どちらかが成功すればよい)
佐倉 光
1d100 75 Sasa 1d100→ 65→成功
牧志 浩太
1d100 60 POW Sasa 1d100→ 79→失敗

牧志 浩太
「美味しかった!
ああぁ、いつになく美味しいな、満足……。
ああー、このまま帰って寝るのと図書館と、佐倉さんどっちがいい?」
牧志は楽しそうににこにこと笑い、次の案を繰り出す。
その腕の内側に書かれたメモの存在すら、すっかり忘れているようだった。
佐倉 光
「図書館かー。最近トラブル続きで行ってなかったし、楽しみだな!」
佐倉 光
「いや、待て、違うだろ。確か違ったぞ」
佐倉 光
もぞもぞ。もぞもぞ。もぞもぞ。
この感覚を楽しめと命ずるなにものか。
これは、敵だったと思う……
そうだ。俺たち、寄生生物に殺されかけてる。
佐倉 光
「牧志、駄目だ、寝てる場合じゃない。
俺たち」
メモ帳を出して広げる。
佐倉 光
「頭とかされる」
牧志 浩太
「!」
メモを目の前にして、彼ははっと目を見開いた。
「それ」に気づいてから、もう同じことを何度繰り返しているのだろう。
牧志 浩太
「あ、あああ、あ、」
彼は腕の内側に手を伸ばし、力を込めて強く抓る。
メモをじっと見つめながらそうすることで、ようやく彼の眼に光が戻ってくる。
牧志 浩太
「ごめん、危なかった、そうだ、寝てる場合じゃない。
ネットで調べて、それから現地だ」
彼はカレーを詰め込んだばかりの腹をぐっと押し込み、不快感を呼び起こそうとした。
牧志 浩太
「うぶ……、」
佐倉 光
今日はカツカレーにしてやることにしました。
KP
おっナイス。カツカレーの喜びを味わえるね!

KP
Webの世界は今日も雑多だ。
探すこと自体はクリックひとつで叶っても、流れる情報の量は、数千年の書物を集めた図書館のように多い。

ネットで似た事例を調べるなら、オンライン〈図書館〉または〈コンピューター〉で判定。
佐倉 光
1d100 85〈コンピューター〉
Sasa 1d100→ 31→成功
佐倉 光
「なかなかたちがわるいよなぁ、これは」

スマホをとりだして、ぶつぶつと「虫……虫……」と呟きながら事例を探す。
牧志 浩太
「楽しいって気持ちに逆らうのって、なかなか大変だな。
しかも、逆らう間もなく心を連れ去ってくるし。たちが悪い」
KP
虫やもぞもぞいう音について事例を探しても、害虫駆除の広告しか出てこない。

しかし、気になる内容が目に留まる。
あの時の女ではないかと思われる、痩せこけた女の目撃談だ。

楽しそうに笑いながら、何かをぶつぶつ呟いて歩いていたらしく、薬物でもやっている連中なんじゃないか、と噂されている。

目撃談を繋ぎ合わせると、どうやら廃墟の連なる薄暗い辺りに行き当たる、という事実が噂を補強していた。
佐倉 光
「楽しそうに……ぶつぶつ……まるっきりハピルマなんだけど、まずさが段違い」
佐倉 光
「ここ、行ってみよう。脳味噌弄られてるのもそうだけど、俺の幸せ度って言うのかな、日に日におかしなことになっていってると思うから、時間をかけるのはまずいと思う」
牧志 浩太
「ああ、そうしよう。
一週間前はこんなじゃなかったんだ。
進行してるのは間違いないし、その女の人が死んだってのも気にかかる」
牧志は腕の内側を抓りながら頷いた。
佐倉 光
手がかりが見つかったことに対する喜びって増幅されるのかな。
KP
手掛かりが見つかったと思うと、じわりと安心感のような安らぎが頭の奥から滲んだ。
ああ、これで大丈夫だ。大丈夫大丈夫大丈夫。嬉しいな。
ふわふわと柔らかい熱が頭の奥から滲み出てくる。
KP
それは先程までのような強烈な歓喜というよりは、もっと穏やかな安心感で、何も焦ることや恐れることはないのだというような気がしてくる。
佐倉 光
「よしっ、手がかり捜しに行くぞ!」
喜びを胸に抱きつつ、自分たちのすべきことを忘れないように、いつもよりも意識して口に出す。
佐倉 光
「廃墟探索だ!!」
なんかそんな場合じゃないのにワクワクしてしまう字面だな!?
牧志 浩太
「ああ……、廃墟探索! 廃墟探索だ!」
牧志の声が楽しそうに弾んでいた。
その声を聞いていると、何だか楽しい探検に行くような気がした。
牧志 浩太
「用心しなくちゃな。
また側溝の時みたいに、危ない目に遭うわけにいかないし!」
自分の声が跳ねているのに気づいたのだろう。
また腕の内側を抓って、どうにか真剣そうな顔を作って言う。
腕の内側に、「彼女の消えた所を探す」「危ないから用心する」と追記した。

KP
一番最初に目撃談があったというその場所は、人気のない大きなビルに囲まれた、ひどく薄暗い一帯だった。

ひとつふたつ通りを越えれば明るい大通りがあるというのに、そこには鬱蒼とした雰囲気だけが満ちている。

古びたコンクリートビルには、ずっと前に見る者のいなくなった飲み屋の看板や点灯しないLEDネオンだけが残され、低い位置の壁は落書きで覆われている。

見える範囲に人影はなく、どこからともなくこちらを窺う気配だけがした。
転がったゴミの中に新しいものがあることが、ここに生きている人間がいるらしいと示す。
その暗さは、脳を柔らかい熱に侵されたあなた達をも、少しひやりとさせる。

ここは「あの街」の外だというのに、どこか「あの中」の裏路地にも似ていた。
佐倉 光
「ここは……なんだ?」
嫌なにおいがする。悪魔使い……いや、異変慣れした人間の勘だ。
佐倉 光
「牧志、あの女性を見たときのこと、詳しく思い出せてるか? 俺、いまいちはっきりしないんだ」
身構えながら進むが、二人で探索ができることの楽しさに思わずウキウキしそうになるのを、深呼吸して抑えながら進む。
牧志 浩太
「どうにか、ってくらいだな。
たぶん佐倉さんと大差はない」
牧志は繰り返し息を吸いながら、辺りを見回す。
KP
〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 99〈目星〉 Sasa 1d100→ 94→成功
牧志 浩太
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 70→成功
KP
ゴミの転がった地面に、何か落ちている。
何かが書かれた紙だ。
ただの紙くずかと見過ごしそうになったそれに、「寄生虫」の文字が見えた。
佐倉 光
「なんか見つけた! ラッキー!」
紙くずを拾って広げて見る。
KP
それは、「ある未知の寄生虫」に関する記述だった。

記述は途中で終わっており、これ一枚では「その寄生虫が人間を終宿主とする」ことしか分からない。

顔を上げれば、同じような書類が点々と落ちていた。
まるであなた達を誘うように、書類が開け放たれたままのビルの入口へ向かって続いている。
牧志 浩太
「やった! ……あれ?
何だあれ、パンくずみたいに落ちてる」
佐倉 光
「なんだこれ面白」
拾っては読み拾っては読みする。
KP
拾っては読み拾っては読みとしていると、ビルの入り口の前へ辿り着いていた。
扉が開け放たれたままになっていて、書類の道が中へと続いている。
その寄生虫は人間を終宿主とする。
人間の大脳皮質に棲み、人間の感情が不安定化する際に放出されるストレス物質を餌とする。

特に……。
佐倉 光
「人間の感情が不安定化ってのが、今の状態ってこと?
人間を無理矢理幸せにすることで餌食ってんのかな?」
喋りながら拾う、拾う。
牧志 浩太
「そういうことなのか? 
でも、ストレスを食べるんなら、幸せじゃない方がいいんじゃないかって気もするけど……」
佐倉 光
「ていうかそもそもこれなんでこんなばら撒いてあるんだろ」
牧志 浩太
「……罠? 入ったら大きな籠が待ってるとか」
牧志 浩太
「ちょっと面白い」
牧志 浩太
「いや面白くないし」
佐倉 光
でっかい籠がばさーっと被さってくる光景をありありと……
佐倉 光
思い出してしまった!
佐倉 光
「TARONに捕まるのもう嫌だ」
まるっきりギャグじゃないか。

思い出し笑いを必死で殺しつつ進む。

何者かがいるのは確かだし、気をつけないと。

KP
入り口に足を踏み入れた瞬間、足元が浮き上がった。

いや、違う。もぞもぞと這い回る音が聞こえる。その音が、いよいよ強く思考を掻き回している。

まるで雲の中を歩いているみたいに気持ちいい。幸せな気持ちが頭の中にぶちまけられて、視界にちかちかと綺麗な星が明滅する。

なんだか、すごく、幸せだ。
幸せ過ぎて、なにもわからない。
なにを、しに、きたんだっけ?
KP
【POW】×5で判定。
失敗すると、多幸感のあまり、暫くの間入り口に立ち尽くしてしまう。
佐倉 光
1d100 75 【POW♪】 Sasa 1d100→ 42→成功
牧志 浩太
1d100 60 【POW 🎶】 Sasa 1d100→ 72→失敗
佐倉 光
溶け落ちそうな幸せに引きずり落とされそうになりながら、
TARONに捕まるというある意味面白すぎて、だが最高に屈辱的なシーンを反芻しながら歩いた。
口からでろでろとだらしない笑い声が漏れる。
何のためだったか一歩ごとに手放してしまいそうになりながら、紙を拾って進む。
佐倉 光
「えへへへへなんかおかしーぞきゅーにさー」
牧志 浩太
なんだか複雑そうな顔をしていた牧志の表情が、ぱぁっと蕩けた。

密やかな笑い声を立てながら、目の前の廃墟のがらんとした外からの光が射し込むさまを見て、「綺麗だ」と笑う。
書類が落ちている上り階段も無視して、ふらふらと光と戯れようとする。
牧志 浩太
「おかしい? ふふふ、おかしいなー、綺麗、佐倉さん、ほら綺麗だ、きらきらしてるー」
佐倉 光
「牧志!」
残り滓の正気で彼の腕を引く。そっちは見ないようにして、咄嗟に手をつねる。
まず自分のを、それから牧志のを。
佐倉 光
「ダメだ。こっからさき中のヤツに都合が悪いんだ。だから変なんだよぉ。
へへへ。追い詰めてるってことだよ、へへへへ」
もう自分が正気なんだがおかしいのかも全然分からない。

ただ、足を止めて浸れば、気持ちのいい雲の海に沈んで、浸って、そのまま虹を見ながら苦しむことなく溺死するのだ。
そんなの幸せじゃないはずだろ!?
牧志 浩太
「だめ? あ。ああ、そうか、そっか、だめ、だめだ、追い詰めてるんだ俺達、そうだ……!」
牧志は満面の笑みを浮かべた唇の端を震わせながら、腕の内側を何度も抓った。
佐倉 光
「そうそう、嬉しいなぁ」
佐倉 光
「もうすぐこの気持ち悪い状態が終わるんだぁ」
佐倉 光
「いやいや、ダメだ、やっつけないと」
牧志 浩太
「佐倉さんどうしよう、腕の感触が面白い」
佐倉 光
「そういう情報の共有はやめてくれぇ……やってみたくなっちゃうだろ」
佐倉 光
「つか後で絶対痣になるぞ」
牧志 浩太
「ごめんごめん、でもなんだか面白い手触りになってきてさ、ああーでもそんな場合じゃないな! よし、集中する」
牧志は満面の笑みを浮かべたまま、両手で頬をぺちんと叩く。
KP
階段を上ると、これまた開かれたままの扉の傍らに何かが落ちていた。
それは何かの廃材だったらしい木の板で、裏側にスプレーで『研究所』と書き殴られている。

……奥から微かに、鼻をつく腐敗臭がする。
佐倉 光
「うはぁぁ、臭ぇ、盛り上がって参りましたぁ!」
なんだか懐かしくて嬉しくなってしまう。これが日常だった日々に戻りたい……
KP
するべきことをどうにか思い出したあなた達だったが、頭の奥から溢れ出る多幸感が止まらない。

ここからあなた達は、常に頭の奥で蠢く音と多幸感に苛まれながら探索することになる。
佐倉 光
「じゃなくて、えーと、手がかり探さないと、手がかり……」
まずは腐臭の元を探そう。
何かいるみたいだからテンションに任せて迂闊に進まないように。
KP
拾い集めた資料は、入り口を入った所で終わった。
全部揃ったようで、今なら詳しく読むことができそうだ。
KP
廊下は静まり返っている。
何処からともなくこちらを窺っていた気配も、壁に遮られて感じられなくなった。

ここに生きている者の気配はない。
ただ、廊下の奥から腐臭が漂ってくる……。
KP
扉から入ると、左側にトイレマークのついた扉(男女一つずつ)と、「階段室」と書かれた扉が見える。
……先程上ってきたものとは別の階段があるのだろうか?
牧志 浩太
「佐倉さん、俺達階段上ってきたのに、ここにも階段だって。変なの」
KP
その奥はT字路の突き当たりになっているようで、そこから左右に廊下が続いている。
佐倉 光
よしっ、まずは一個ずつだ。
拾った書類を読もう! 絶対関係あるヤツだしな!
風で飛んだりしてなかったのはほんとラッキーだ、幸せだな!
KP
それは「ある未知の寄生虫」に関する資料だった。
その寄生虫がどこから来たのか、どの地域にいるのかなどとは全く書かれておらず、ただ「寄生虫」の性状を連ねた資料だ。
▼寄生虫の性状
その寄生虫は人間を終宿主とし、人間の大脳皮質に棲み、人間の感情が不安定化する際に放出されるストレス物質を餌とする。
特に宿主が理解困難な事象に直面した際の強いストレスを好む。

宿主はストレス物質の伝達を阻害されるため、ストレスを感じにくくなる。
また、寄生虫は宿主の脳に多幸感をもたらす物質を分泌する。

単純な代謝結果か、宿主の免疫機構や物理的手段によって排除されないようにする方法の一環かは不明だが、これによって寄生は宿主にも利益をもたらす。
▼致死性
人間を終宿主とするため、宿主を死に至らせることはない。
大脳皮質内でしか生存できず、脳以外への迷入は見られない。
▼寄生虫の伝染
宿主の死後、宿主の新鮮な脳を経口摂取することによって伝染する。
かつては死体食の文化とともに繁殖していたが、死体食が廃れたことにより繁殖できなくなり、現在はほぼ見られない。

排泄物や吐瀉物、分泌物や脳以外の体組織からの伝染はない。
稀に、宿主が殺害された際、飛び散った脳組織が唇などに付着したことによる伝染が見られる。
佐倉 光
「……え?」
内容を理解する。理解……できない。
牧志 浩太
「最初のは、こいつがいるとストレスを感じにくくなって幸せになってしまう……、今の俺達みたいになるってことだよな。

で、二番目は、こいついても死なない? あれ? でもあの人死んじゃったんだよな?」
牧志 浩太
「三番目は、新鮮な脳を食べないとうつらないってことか。
……俺達、脳食べちゃった?」

牧志が後ろから資料を覗き込み、内容を要約する。
最初こそ重たい声は、次第に多幸感に襲われているのか軽く上がっていく。
佐倉 光
「脳、食った? そんな記憶……ないし」
覚えてないだけかもしれないけど。
大体死んだって女にはなにがあった。
佐倉 光
「脳食ったとして、そこでその女死んでる……はずだし? でも生きてたんだよな」
牧志 浩太
「そうなんだよな。そこが引っかかる。
脳なんて食べた覚えがないし、その人は死んだって聞いてる。合わないんだ」

牧志は言葉に似合わない笑顔で言う。
ひくひくと口の端を震わせながら、どうにか思考を繋ぎ止めようとしているようだった。
KP
何かを思いついてしまいたければ、【アイデア】を振ってもよい。
佐倉 光
「理解困難な状況を自分で作ろうとする、とか……」
佐倉 光
「あの時もうひとりいたりしなかったよなー?」

※女の人について通報したとき生きていたかどうかって分からなかったのかな。
生きていたという認識だったんだけど。
KP
通報した時は間違いなく生きていたと思う。
少なくとも、死んでいたとすればもっと大事になったはずだ。
佐倉 光
「女の人が牧志に抱きつこうとしてー。俺も牧志もびっくりしたよなー?」
佐倉 光
「でもって吐いた。その吐瀉物に脳が含まれ……?」
佐倉 光
「脳が溶けそうなくらい幸せだからってマジで脳が溶けたなんてことあるわけねーよなぁ!」
笑っちゃう。
佐倉 光
1d100 75【アイデア】 Sasa 1d100→ 63→成功
牧志 浩太
1d100 90【アイデア】 Sasa 1d100→ 56→成功
KP
あなた達は揃って、女の頬が何かを含んだように膨らんでいたことを思い出してしまう。
牧志 浩太
「ないない! 脳みそが溶けて口の中にー、なんて、ないって。
……ないよなー?」
佐倉 光
「いやー。せいぜい人の脳味噌口に含んでたくらいだろー?」
佐倉 光
「いや自分のが溶けてたって方が後で死んだ整合性が」
佐倉 光
「どっちもやべーっての。
俺達が憑かれてるってことは、どういう形でも脳味噌が口に入ったってことだなぁー」
佐倉 光
「このわけのわからなさってきっとこいつらが大好きな感情なんだろうなぁ!」
ひたすら笑えるんだけど。
佐倉 光
「てか脳溶けたら死ぬし。寄生先増えるように進化したんじゃねーのー?
あとはここ研究施設みたいだから改良? 改悪? されたとかさー」
牧志 浩太
「うわぁ、そのままじゃ増えられなくなったから進化して余計凶悪になった? 誰かに改良? された? まずいな! 俺達も死ぬ!

これどうすればいいんだ? これだけじゃ分からないなー、どう考えてもまずい状況なのに笑えてくる、まずいなこれ。

この腐った臭い、もしかして研究所? の奴らも死んじゃったとか? 凶悪になりすぎてないか?」

まずいを連呼して牧志は笑う。
ひどく楽しそうなのに、何かに操られているような不気味な笑い方にも見えた。
佐倉 光
「そうだよやばいやばい」
ひきつるように笑いながら牧志を心配した。
脳が溶け始める、なんてことあるのか。
佐倉 光
「そういやこいつらも生き物なんだろうし、卵生んで増えるわけだろ?」
佐倉 光
「卵どうやって撒き散らすかって言ったら、周りの人間集めて、脳みそ食わせるしかないんだよなー?」
言葉を重ねて考える。
生命の神秘をひもといていくのは楽しいなぁ!
牧志 浩太
「そうなるな。
すごいな、頭の中いまも卵だらけになってるんだ、ぞわぞわする。

えっじゃあ俺達も脳が溶けて吐くってこと? それで誰かに食ってもらおうとするってこと?
すごいな? やだ!」
佐倉 光
「やだって顔しろよ~」
佐倉 光
「もっと情報集めようぜー!」
佐倉 光
ああ、楽しい。脳に巣食っているような小さな生き物が、こんな大きな施設を破滅に追い込んだかもしれないなんて、考えるだけでぞくぞくする。
佐倉 光
「いや、これ背筋が凍るってやつだろ?」

佐倉 光
「はーーー」
佐倉 光
トイレかぁー
佐倉 光
「吐くっていえばトイレだよな」

トイレをチェックしてみるか。すっごく嫌だけど。
KP
トイレの扉を開ける。
開けると……、中からぶうんと音を立てて、ひとかたまりの羽音が飛び出してきた。

脳に巣食う虫ではない。蝿だ。
見慣れた蝿の群れ。
それは一瞬あなたの頭上を通り、牧志の髪を撫でてどこかへ飛び去っていく。

一瞬後に、その原因が分かる。
少し遅れて鼻が強烈な腐臭を嗅ぎ取った。
トイレの便器に腰掛けたまま、派手な服装を腐汁にまみれさせて、人間が死んでいた。
笑うように開かれた顎は、笑っていたのか、筋肉が腐って開いてしまっただけなのか判別がつかない。

それは半ば白骨となりかけた腐乱死体だ。
その不快感と驚きは、多幸感をも貫いて脳を怖気で撫でる。

SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D3》。
佐倉 光
1d100 75
あまりの衝撃にSasaさんも凍っちゃった。
1d100 75
ちょっと振ってこよ。
牧志 浩太
牧志 浩太 - 今日 9:10
CCB<=60 《SANチェック》 (1D100<=60) > 82 > 失敗

牧志 浩太 - 今日 9:11
1d3 (1D3) > 3
佐倉 光
佐倉 光 - 今日 9:14
1d100 75 《SANチェック》 (1D100) > 45
SAN 75 → 74
佐倉 光
「よ、予想はしてたけど、なかなか強烈」
鼻をつまんでその人の服装を見る。
さすがに漁るの嫌だなぁ。
佐倉 光
Sasa 1d100→ 99→致命的失敗ファンブル
1d100→ 45→成功
佐倉 光
Sasaくん……
KP
おおっと遅れて来た。危ない危ない。
牧志 浩太
「っぷぁ!?」
蝿の突進をもろに喰らいそうになった牧志は、咄嗟に顔を庇う。
牧志 浩太
「あ、ああ……、今やだって自覚が追いついてきた。
俺達も、こうなるかもしれないんだな」
KP
腐汁に埋もれた服は、そこらにいる若者といった雰囲気だ。

いまも頭の中で蠢く音が嫌悪感を和らげてくれるが、それでも顎骨の中を盛んに蛆が出入りする様子には怖気しか感じられない。

見た感じ、何か持っていそうには見えない。
腐汁に濡れたポケットからは家の鍵か何かがはみ出していたが、それだけだ。
佐倉 光
そっ閉じしよう。臭いの原因が分かって良かったなぁー
佐倉 光
「誰にも知られずに、吐いて、死んで、腐る。
こうなるのはごめんだな。そしてそうなる可能性が高い」
意図的に口にする。耳から情報を入れて反芻する。
牧志 浩太
「ああ。嫌だ、嫌だよ、そんなの。
でも、このまま何もしなければ、そうなる。
こいつを何とかしないといけないんだ。
ここが『研究所』なら、何とかする方法が、あるかもしれないんだ」

牧志はまたペンを取り出し、今度は手の甲にやるべきことを書く。
刻みつけるように、ペン先で少し強く肌を抉った。
佐倉 光
女の方も一応開けてみるけど。
KP
女子トイレの方には誰もおらず、何もない。
もとから使われていない建物だったのか、便器に水が溜まっていないのが見て取れる。

先程の哀れな推定若者は、元から廃墟であったここを無断で使っていた……、ということなのだろうか?
佐倉 光
何かの気配がどこから来るって分かるかな。
KP
少なくとも、室内で誰かの視線を感じることはないようだ。
あれは、この一帯の住人のものだったのだろうか……。
佐倉 光
何も無いようなら左手の方から調べよう。
KP
左手方向を見るとすぐ窓になっていた。窓は汚れで曇っており、ひびが入っている。

落書きだらけの窓枠に、誰が貼ったのか花のステッカーが貼られていたが、半分剥がれていた。
佐倉 光
剥がれかけの物を剥がしちゃうのは子供の習性なのだ。
シール然り瘡蓋然りカバー然り。
何故か止められないんだよなぁ、こういうの。
そういうものだと知識として知ってて、それでもやめられないのはもう習性と言うよりほかないだろう。

壁の字を見ながら指先でステッカー弄って剥がす。
KP
てろんと剥がすと、中からは特に何も出てこなかった。
きれいに剥がれてちょっとうれしい。
佐倉 光
綺麗に剥がれた! 達成感を胸に、窓の汚れにシールペタペタして汚れを剥がして外の様子をちょっと見てみる。

得に何も無いようなら壁の探索真面目にしよう。
KP
汚れを剥がすと、向こうのビルの様子が見えた。
あちらも使われていないのか、同じ階層にはひと気がない。
しかし一階には溜まっている人間でもいるのか、微かにLEDランタンか何かの明かりが見える。
佐倉 光
「おっ。おい見ろよ牧志。あっちにゃ人がいるのかな」
佐倉 光
「話が聞けるといーなー」
同じ立場の人間がいれば情報が増えるかも知れないからな!
牧志 浩太
「ほんとだ。話聞けるといいな」
佐倉 光
ここは女子トイレかな。
それじゃ改めて廊下に戻って左側の扉の様子を見る。中に何か気配はあるだろうか。
KP
今は女子トイレの前だ。
階段室と書かれた扉の中は静かで、何かの気配はしない。

また、戻ろうとして振り返った時に、廊下の反対側に窓と、いくつか扉が見えた。
そのうちの一つが開いているようで、そこからも腐臭が漂ってくる。


KP
というわけで、そろそろマップを公開。
白いのが扉、黒いのが窓です。
このうち、「溜まり場」の扉が開いているようです。
右上の「扉」がこの『研究所』に入ってきた扉、「階段」がいま見ている階段室です。
佐倉 光
おおー、地図だ!
今見た窓は右端のヤツかな。
KP
今見た窓は、右端の窓で合っています。
佐倉 光
まずは開いてるドアの中の様子見てみようかな!
隙間から覗くことはできる?
KP
開いたままの扉から、室内を覗く。
牧志が身構えながら、あなたの上から中の様子を窺う。

KP
そこには、外の光が柔らかく射していた。
大きな部屋だ。割れた大窓の隙間から、光が床に模様を描いていた。
窓に向けて座りやすそうなソファが置かれており、その上に若者がふたり座っている。
床にはめいめいに若者たちが寝そべり、雑誌を読んだり、向かい合って何か喋ったりしていた。
KP
いや、それはすべて幻だ。
頭の奥でもぞもぞと蟲が蠢いている。
それがもたらす異常な多幸感と、目の前の惨状が釣り合わないあまりに、脳が一瞬誤認しかけたのだ。

割れた大窓に向けられたソファは綿が飛び出て皮が破れていた。
その上に座る人間たちは、だらりと力を失い、ソファの上に溶けて流れる屍となっていた。
頭の上に乗ったままの雑誌は腐汁に浸かって判読不能になっていた。
向かい合った二人の人間は、向かい合ったまま蛆の住処になっていた。

ぶんぶんと無数の蠅の羽音が室内を埋め尽くしていた。
光が床に描く模様だけが、変わらなかった。
KP
【POW】×5で判定。
佐倉 光
1d100 75 POW Sasa 1d100→ 14→成功
牧志 浩太
1d100 60 POW Sasa 1d100→ 75→失敗
KP
頭の奥で、けばけばしい色の花火がまたたいた。

床を舞う光が眼球運動で踊り出す。
ちらちらと舞う埃が無数の輝く星に見えて、頭の中でもぞもぞ、もぞもぞとしきりに蠢く虫の感触がたまらなく気持ちいい。
ぶんぶんと歌う蠅の群れが芳しい音楽のようで、思わず聞き惚れてしまう。

ああ、気持ちいい、楽しい、目の前の顎骨たちもたらたらと涎を流しながら笑っている。
KP
SAN +1d6。
佐倉 光
ああ、これはいい。なんて楽しそうなんだろう。
なんて素敵なんだろう。
彼らの仲間になって、ここで笑って過ごせばいい。
だってこんなに気持ちいいんだから。
1d6 Sasa 1d6→5
牧志 浩太
「ふふ、うふふ、あはははは、」
牧志が恍惚と笑いだした。
頭を揺らして笑う。笑う。
1d6 Sasa 1d6→1
SAN 57 → 58
牧志 浩太
「あはははははは、」
KP
その笑い声の異常さに、あなたはぎりぎりの所で我に返る。
頭の奥に異様な恍惚がだらだらと流れて、でも、これは違う。
目の前に広がるのは悍ましい惨状と不快のはずで、今も脳を痺れさせる感覚の方が異常なのだ。
KP
佐倉さんのみ《SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D6》。
佐倉 光
はっとした。
牧志の笑い声があまりにも異様で、鼻っ面叩かれた気がした。
同時に酷い腐臭が押し寄せてきて、脳が齎す『気持ちの良い風景』と正面衝突を起こす。
現実はあまりに凄惨で恐ろしい。
これが俺達の未来だ。
目をふさがせようとしているのは、俺達自身の脳だ。
脳に巣くうものだ。
佐倉 光
1d100 75 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 5→決定的成功クリティカル)!
SAN 75 → 74

佐倉 光
「牧志! しっかりしろ! 目を開けろ! 考えろ! 楽しい場所なんかじゃないぞ!」
牧志 浩太
「ふぇ、あは、あぁあああ? あ……、あ、」
あなたの叫びに、牧志がひくりと目を瞬いた。
絶えず笑おうとする顔に抗って、数度きつく目を閉じ、開いて、閉じて、開く。
牧志 浩太
「う……、ああ、違う、そうか、違う。違う……!」
がくがくと頭を震わせ、牧志は爪を立てて腕の内側を強く引っ掻いた。
それでようやく、彼の眼に光が戻る。
牧志 浩太
「う、うう……、ごめん、佐倉さん、持っていかれてた」
彼の声は苦しげに呻くのに、唇は絶えず笑顔になろうとしていた。
KP
目の前には悍ましい惨状が広がっているのに、頭の奥からは多幸感がとろとろと脳を溶かし続けている。
その不一致に吐き気がしそうだ。
牧志 浩太
1d100 58 牧志の《SANチェック》 Sasa 1d100→ 68→失敗
1d6 Sasa 1d6→5
SAN 58 → 53
佐倉 光
あーあ
KP
あーあ。一時的発狂ですね。
佐倉 光
こんなに幸せなのにおかしいなぁ
牧志 浩太
1d100 90【アイデア】 Sasa 1d100→ 57→成功
佐倉 光
この幸せが偽物だって気付いちゃった
KP
気づいちゃった。幸せに溺れられなかった。
牧志 浩太
短期の一時的狂気表。
1d10 種別 Sasa 1d10→4
1d10+4 ラウンド Sasa 1d10+4→ 8+4→合計12
12ラウンドの間、早口でぶつぶつ言う意味不明の会話または多弁症。

牧志 浩太
「ふ……、ふふ、」目の前には悍ましい惨状が広がっているのに、頭の奥からは多幸感がとろとろと脳を溶かし続けている。

あまりの不一致に、牧志の唇がひくりと歪んだ。
絶えず脳から発せられる「楽しい」という信号を思考に拒まれ、肉体がどうしていいか分からなくなっている。
牧志 浩太
「ふふ、たのしごめんさくらさうれしいたのしいごめんきこえてあははははきこえてるだいじょう進もうふふふ、あは、わかってるからきづいてるのにしゃべれたのしい、たのしい」

突如、吹き出すように意味不明な音が溢れ出た。
牧志の喉がひくひくと痙攣する。

牧志はあなたに何かを言おうとしているが、口が意に反して動いてしまい、混じってしまって言葉にならない。
佐倉 光
「変に自覚させるのもまずかったんだろうか。
だけどここで幸せに浸っているわけに行かない。
この風景の一部になるなんてごめんだ」
思考を言葉にする。
自分の言葉を耳で聞いて、牧志に聞かせて、一秒ごとにすべきことを思い出す。
佐倉 光
「大丈夫、落ち着くまでじっとしててくれ。こいつらちょっと見てみるから」
牧志 浩太
「ごめんふふふさくらさんたのしいきをつけてへへへまかせた」
牧志は唇を震わせて、こくこくと頷く。
佐倉 光
死体に近づいて様子を見る。死んだときに苦しんだりした様子はないんだろうか?
そもそも宿主殺したらなかのヤツも死ぬだろう。
宿主が死ぬときは卵を拡散したいときじゃないのか?
KP
立ち込める悪臭を堪えて死体に近づいても、ひどく腐乱しているため、一見して苦しんだのかどうか分からない。

ソファにもたれた人間たちの傍らに、食べ物のゴミが散乱している。
それらのゴミは全て空で、手をつけられていない食べ物や、腐った食べ物はなかった。
KP
死体に近づいた佐倉さんのみ、〈目星〉で判定。
佐倉 光
1d100 99〈目星〉 Sasa 1d100→ 72→成功
佐倉 光
くさーい。
鼻をつまんで近づく。
自分の滑稽さは想像しないように……気をつけながら、何か不自然なものなどはないか探す。
KP
ぶんぶん鳴く蠅と床に滴る腐液の合間を探すのは、どうにも不快な行為だ。
耐え難い不快さを頭の奥から来る多幸感が掻き混ぜて、気持ちが悪いし気持ちがいい。
地面に降り積もるゴミの間に、ふと違和感を覚えた。
何かの表紙が突き出している。ノート、だろうか?
中に何か、文字が書かれているのが見えた。
佐倉 光
ラッキー、それっぽい物が見つかったぞ!
ウキウキしながらノートらしき物を引っ張り出す。
佐倉 光
「見てくれよー、なんか手がかりかもしんないぜ!」
元気よくノートをさし上げて牧志に言ってから、
佐倉 光
我ながらテンションおかしいな、と思い直してやめ、彼の所に戻る。
牧志 浩太
「ごめん、ようやく落ち着いた……、ほんとだ! 何て?」
牧志はようやく落ち着いたのか、数度浅く息をついて、こちらへ歩いてくる。
佐倉 光
「良かった。それっぽいもの見つけたんだよ。見てみようぜ」
ノートをチェックします。
KP
ノートの表紙には、「研究ノート」とボールペンで書かれていた。
幸い腐汁には浸っておらず、ゴミを払えば読むことができる。

KP
中を開けばその題に反して、個人的な日記のような文章で始まっていた。
1ページ目には、引っ掻くような強い筆跡で、こう刻まれている。
「くやしい
目の前であいつが食べられた

一発殴ってやるつもりだったのに
怖くて怖くて怖くて足が萎えて
少しも動けなかった」
KP
……それは、何か「恐ろしく、理解しがたい、想像もつかない悍ましいもの」に出会ってしまい、ひとり生き残った誰かの日記らしかった。

日記はまだ続いている。
佐倉 光
「食べられた? 怖い?」
良く分からないな。読み進めてみる。
佐倉 光
「研究ノートに私情入れるって」
佐倉 光
「おかしすぎだろ」
牧志 浩太
「何かに出会ってしまって、自分だけ生き残った、ってことなんだろうな。
でも、この虫のことじゃなさそうだ」
牧志 浩太
「その時にやられた……、のか?」
KP
暫くは、その時自分が何もできなかったこと、恐怖に震えて動けなかったことへの悔しさと怒りが綴られていた。

そこから読み進めていくと、この「研究所」に集まった若者たちの素性が分かる。
彼ら彼女らはみな、その対象も内容もその身に降りかかった出来事も違えど、「理解しがたい、悍ましいもの」に遭遇し、人生を狂わされてしまった仲間だった。
牧志 浩太
「それだけ見ると、何だか俺達に似てる気もするな」
KP
彼らは夜な夜なここに集い、その思い出を、痛みを共有していたらしかった。

……日記はまだ続く。
佐倉 光
「……そういう記憶を、幸せで塗りつぶせるとしたら……」
それだったら、さっき読んだ虫の性質は都合良く見えたのかも知れない。
手作り感を醸し出す看板を思い出した。

読み進める。
KP
彼らはそのうち、その痛みを埋めるように、オカルト的な情報、ひいてはそれら「悍ましいもの」に関する真偽さまざまな情報を集めだすようになったらしかった。

ここを「研究所」と称したのも、その頃だった。
それは変わらず集めた結果を見せ合ってはひそやかに楽しむ、ささやかな集まりに過ぎなかったが、何か前向きなことをしているという感覚が、ただ痛みを共有しあうよりは彼らを癒したらしい。
KP
その中で、彼らのうちの一人が不思議な「虫」をどこからか見つけてきた。

その「虫」は人間の脳に棲み、生きる苦しみを癒してくれる。
「あの日のことを思い出して眠れなかった
この子のおかげで気が楽になった」
牧志 浩太
「そういうことで……、合ってたみたいだな」
KP
……日記はまだ続いている。
佐倉 光
「確かに、二、三日前は最高の気分だったと思うよ」
佐倉 光
「だけど」
視線を上げて死体の群れを見る。
見誤ったか。それとも変質したか。
KP
その時だけでも救われたのだろう彼らの存在はもうそこになく、あるのは腐肉と蝿の楽園だけだ。
佐倉 光
「嫌な思い出から逃げたいって気持ちは……分かるよ」
読み進める。
KP
少しの間、日記にはその「虫」と暮らす平穏な日々が綴られていた。

「虫」を全員で分け合い、ちょっと気持ち悪いねと笑いながら飲む、穏やかな風景。

あなた達がいま体験しているような異様な多幸感の兆候は、まだ文章の中にない。
少し前にあなたが感じたように、ふっと気が楽になる、泣き叫ぶことなく失った人のことを思い出せる、眠れない悪夢が頭の中から去ってくれる、そんなやさしい喜びが綴られていた。
KP
……そんな日々が不穏な方向へ向かうのは、かりそめの平穏を破るように、再び彼らの身の回りに恐ろしい出来事が頻発しはじめてからだ。

かつてのように、目の前にしただけで尊厳や行動や理性というものを人から奪ってしまうような出来事に対して、無力は変わらずとも、少しだけ冷静に向き合えることに気づいた。

その「虫」の“おかげ”だった。
「この子は私達を助けてくれる 強くしてくれる」
KP
そこから急速に雲行きが怪しくなる。
……日記は終わりに近づいてきた。まだもう少しある。
牧志 浩太
「この次に……、書いてあるんだろうな。いや、書いていてほしい。
何が起こったのか」
佐倉 光
「単に研究不足でまだ大してどんな物か分かっていないのに、安易に縋っちまったのかもな」
佐倉 光
風呂入ったときとかヤバかったなぁ。
佐倉 光
牧志の記録を思い出すとあまり期待はできないが……
読み進める。
KP
彼らは、その「虫」を「武器」として使えるのではないか、そう考えてしまったらしい。

この「虫」がいれば、恐ろしい出来事があっても向き合える。
もしかしたら、今度こそ立ち向かえるかもしれない!

それは展望というより、かつての無念を晴らしたい願いだったのかもしれない。

ともかく彼らは動き出し、その「虫」について調べ、その中でどこからか見つけてしまった。

虫を活性化する赤い薬。
鎮静する青い薬。
体内から追い払う黄色い薬。
「足りない
こんなものじゃ足りない」
KP
彼らは「助けてくれる」だけでは満足がいかず、その「虫」からもっと力を引き出そうとした。
「もっと もっともっと もっと助けて
今度こそあいつらを一発殴ってやるんだ

こんなものじゃ立ち向かえない」
KP
悲痛な叫びを最後に、日記は終わっていた。
牧志 浩太
「……」
牧志 浩太
「この人達が虫に手を出したんだ。
そのせいで、人を殺さないはずの虫が、こんなことを起こした……、

佐倉さんの推測、合ってたんだな」
佐倉 光
「飽くなき人間の欲望が招く破滅……懐かしいね、まったく」
悪魔を甘く見た悪魔使いの末路は何度か見てきた。
悪魔に悪意があろうとなかろうと、人間が関わり方や距離を間違えると、待つのは慈悲ある死か、死よりも酷い運命だ。
佐倉 光
だから、悪魔使いであるときはずっと引き際というものを意識していた。
牧志 浩太
「引き際……、か」
あなたの思い出したことに、彼も気づいたのだろう。
かつてあなたがずっと口にしていた言葉を、ぽつりと呟いた。
牧志 浩太
「確かにな。うまく共生してたのに、望み過ぎた宿主のせいで弄り回されて、宿主もろとも死んだんだ。
虫にとってはとんだ騒ぎだよな」
KP
……最後のページに走り書きがある。


「みんなしんだ、このこをたやしちゃだめ」


佐倉 光
「悪魔もいい迷惑だよな。人間の頭の中でひっそり生きてるだけだったやつが、好き勝手いじり回されたんだ」
そして共生ではなく捕食寄生に変化したと考えられる。
発端が人間の罪だといってもこいつはもう見逃すわけにはいかない、人間の敵だ。
じわりじわりと脳からあふれ出す喜びと幸せのためか、笑いが止まらなかった。
佐倉 光
「絶やさないために……持ち出したのか?
これだけの惨状を目にしておいて、人間の命より虫を優先したのかよ」
牧志 浩太
「そうなるな。
それで、俺達にとっては運悪く、あいつにとっては思惑通り、俺達にうつったんだ。
あの頬が膨らんでたの、中に虫を含んでたんだ」
牧志 浩太
「ああ……、頭の中でもぞもぞいうせいで、なんて思っていいのか分からない。

気持ち悪いし腹立たしいのに、きっと辛かったんだろうなと思うのに、気持ちよさそうで堪らない」

頭の中一杯に虫を這わせて。
口の中一杯に虫を含んで。
もぞ、もぞもぞ。もぞもぞもぞ。

聞くだけで不快感が背筋を擦るのに、それは、さぞかし気持ちよかっただろうと、あなたにも分かってしまう。
佐倉 光
ああ、いいなぁぁぁ。
溶けた脳がたらたらと鼻から流れ落ちてくるんだ。きっと甘いんだろうな。
思考や感情を味わえるかもしれないし、歯茎や舌を蟲が這うのはきっと心地いい。
佐倉 光
「だめだもう俺も感情バグっちゃってよく分からない」
牧志 浩太
「はは、俺も。結構だめになってる」
佐倉 光
「けど、こいつらと同じことをしちゃいけないって事は確実だ」
乱暴に首を振って思考をリセットしようとする。
佐倉 光
「役に立ちそうな薬があるんだ。一か八か、探してみるのもいいかもね」
牧志 浩太
「ああ、探してみよう。
ここで全滅したなら、まだ残ってるかもしれない」

牧志はひきつったような笑いを浮かべながら、こくこくと頷く。
佐倉 光
「この部屋にはもう何も無いかなー」
ないかな?
KP
辺りを見回しても、蠅の楽園が広がるばかりで、他に気にかかるものはない。
じわじわと染み出してくる幸せが、勝手に口角を引き上げるのを感じる。

佐倉 光
「よーし、次の部屋いってみよー」
佐倉 光
足取りが軽い。まずは実験室だろうな!
って何の部屋かは分からないか。
KP
マップはPLにしか見えていないので、それぞれ何の部屋かは不明ですね。
部屋が何かみっつある。
佐倉 光
じゃあ入り口に近いドアから順に開けた。

コメント By.佐倉 光
日々幸せであるということは素晴らしいことである。
嬉しくて、気持ち良くて、どんな苦境にも笑っていられる。
そうであればきっと、人は何者にも負けない。

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