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第3章「夢幻泡影」
KP
龍は静かに語る。
龍族
「見た通り、私たちは龍族。
不老不死の一族だ。
どれだけ傷つけられようと、血が流れることはないし、抉られた肉も徐々にもとに戻ろうとするのだ」
不老不死の一族だ。
どれだけ傷つけられようと、血が流れることはないし、抉られた肉も徐々にもとに戻ろうとするのだ」
KP
その胸は既に塞がっており、あなたの爪の痕跡すら残っていなかった。
早浪
「ああ、先程思い知らされたよ」肩を竦める。
龍族
「龍の心臓は無い、と聞いたことはないだろうか」
早浪
「いいや。龍の心臓はあらゆる病を治す薬だと聞いたばかりだよ。眉唾のたぐいと思っていたがね」
龍族
「ああ……そうか。
そういった類いの噂は、絶えないが……
心臓、か」
そういった類いの噂は、絶えないが……
心臓、か」
早浪
「最初から無いと聞いていれば、あんな真似はしなかったさ」
氷凪
「きみは、知らなかったのだね。
ふむ……」
ふむ……」
KP
龍は暫く考え込むように黙り込んだ。
氷凪
「私は氷凪という。この通り、龍の血に連なる存在だ。
人狼どのよ。きみの名はなんという」
人狼どのよ。きみの名はなんという」
早浪
「早浪だ。ここから山を九つ越えた所の国の騎士で、今は謀られて罪人の身の上さ」
氷凪
「早浪か、覚えておこう。
騎士で罪人。そしてありもしない龍の心臓を求めてきた、と。
随分と変わった御仁だな」
騎士で罪人。そしてありもしない龍の心臓を求めてきた、と。
随分と変わった御仁だな」
早浪
「そういうことさ。仕える国をよからぬ女に乗っ取られ、その女に謀られて獣の呪いを受け、その呪いを解くためにありもしない龍の心臓の話を吹き込まれて来た、無様な元騎士だよ」
氷凪
「そちらにも随分と込み入った事情がありそうだな」
早浪
「まあね。意のままにならぬことばかりさ」
氷凪
「このような雪の中、立ち話を続けるのも不毛だ。この先へ進めば私たち龍族の住む村がある。
まずはそこで互いについて話した方が良さそうだな、人狼殿……早浪。
そして願わくば、私の悲願を叶えるのに協力して欲しいのだ」
まずはそこで互いについて話した方が良さそうだな、人狼殿……早浪。
そして願わくば、私の悲願を叶えるのに協力して欲しいのだ」
早浪
「そうだな。そちらにも込み入った事情があるようだし、求める心臓が無いのであればもはや敵でもない。お招きに与ろう」
氷凪
「恩に着る」
早浪
「構わないよ。仕損じた時点で死を覚悟していた」
氷凪
「ふふ。私にそんな力などありはしないよ。
死なない、というだけのことさ」
死なない、というだけのことさ」
KP
氷凪は先に立ってあなたを導く。
早浪
「死なぬ、というのも気苦労があろうものだね」
その後を行く。
その後を行く。
氷凪
「いろいろと、ね」
KP
遠くを見るように龍は呟いた。
早浪
「きみら龍族はみな、そうなのか?」
氷凪
「ああ。永きにわたり、我らはそう在り続けてきた。
争いを避け、隠れ潜んで、在り続けてきた」
争いを避け、隠れ潜んで、在り続けてきた」
早浪
「まあ、心臓が薬だの角が薬だの、そんな噂を流されてはおちおち暮らしてもいられぬだろうからね」
氷凪
「……」
KP
雪山の細い道を歩き、滝の裏に入り、巨大な岩を右へ。
知らねば見えぬであろう道を辿り、氷凪は進む。
知らねば見えぬであろう道を辿り、氷凪は進む。
氷凪
「さあ、着いたぞ」
KP
雪深き山林の奥、その集落はひっそりと山に寄り添うようにあった。
雪はしんしんと音を立てるほどに降りしきり、集落の様子はよく見えないが、穏やかな土地に見えた。
一見すれば王都の農民たちが暮らす集落と何ら変わりのない光景だった。
雪の積もる中に藁と木材で組み合わされた民家が数軒立ち並んでいる。
雪はしんしんと音を立てるほどに降りしきり、集落の様子はよく見えないが、穏やかな土地に見えた。
一見すれば王都の農民たちが暮らす集落と何ら変わりのない光景だった。
雪の積もる中に藁と木材で組み合わされた民家が数軒立ち並んでいる。
早浪
「邪魔させて頂くよ。……案外普通なものだな」
KP
しかし、すぐに人ならざる異形の住む村だと思い知る。立ちゆく者たちは皆、頭に角を生やしていた。
そしてあなたという異物の侵入に気付いたのか、数十にも及ぶ奇異の視線があなたへと注がれ、その全員が鎌、鍬、棍棒、刀を構えた。
そしてあなたという異物の侵入に気付いたのか、数十にも及ぶ奇異の視線があなたへと注がれ、その全員が鎌、鍬、棍棒、刀を構えた。
早浪
両手を上げ、刀も牙爪も振るう気はないと示す。
氷凪
「知らせもせずに外の者を連れてきて、すまない」
KP
氷凪が声を上げる。
あなたに無遠慮に降り注いでいた警戒の視線は氷凪に集まった。
あなたに無遠慮に降り注いでいた警戒の視線は氷凪に集まった。
氷凪
「私の意志でここへついてきてもらったのだ。
それにこの者はただひとり。仲間もおらぬ。
皆、安心して欲しい。この者は私の客人だ」
それにこの者はただひとり。仲間もおらぬ。
皆、安心して欲しい。この者は私の客人だ」
KP
氷凪の言葉を聞き、あなたの態度を見た村人は、徐々にだが納得したような様子へと変わり、終いには構えた武器たちをも降ろしていった。
早浪
「早浪と言う。不躾な来訪ですまない。
彼の言う通りだ、私にあなた方と事を荒立てる気はない」
騎士のよく通る声は、山を九つ越えて孤独な旅の獣となろうとも、萎れることはなかった。
背を伸ばし、そう告げる。
彼の言う通りだ、私にあなた方と事を荒立てる気はない」
騎士のよく通る声は、山を九つ越えて孤独な旅の獣となろうとも、萎れることはなかった。
背を伸ばし、そう告げる。
KP
すると、群がっていた村の者たちの隙間を縫って小さな子どもが2人、あなたへと駆け寄り、人懐っこい様子の一人がそのまま足元へと抱き着いてきた。
小振りではあるが2人の頭には角が生えていた。
子どもとはいえ龍族なのだということは容易にわかった。
小振りではあるが2人の頭には角が生えていた。
子どもとはいえ龍族なのだということは容易にわかった。
明繰&美蝋
「ねぇ! 氷凪さんが人を連れてくるなんて初めてだ!」
「こら…急に近づいたらダメだって…」
「こら…急に近づいたらダメだって…」
氷凪
「こらこら、明繰、美蝋、客人が困ってしまうだろう」
早浪
「やあ、初めまして。大丈夫、何もしないよ」
子供達に視線を合わせて微笑む。
子供達に視線を合わせて微笑む。
明繰&美蝋
「氷凪さんと友達なの? どうやって仲良くなったの!?」
「だから、急に話されても困るでしょ…」
「だから、急に話されても困るでしょ…」
早浪
「友達、ではまだないかな。氷凪さんと用事の話をしに来たんだよ」
明繰&美蝋
「ようじ!! どんな?」
「大人の話に首を突っ込むんじゃないの」
「大人の話に首を突っ込むんじゃないの」
明繰&美蝋
「用事終わったら雪合戦でもしようよ!」
「はぁ…これから吹雪よ。早く帰りなさいって言われたでしょ」
「はぁ…これから吹雪よ。早く帰りなさいって言われたでしょ」
早浪
「その話をこれからするのさ。吹雪か、それは用心が必要だね」
KP
明繰少年はあなたに対し興味津々な様子で話しかけてくるが、美蝋と呼ばれた少女はいくら止めても無駄だと察したのか、ただため息をついていた。
氷凪
「そうだよ。しばらく雪はやむまい。
お家に戻って、暖かくしなさい。風邪を引いてしまうよ」
お家に戻って、暖かくしなさい。風邪を引いてしまうよ」
明繰&美蝋
「風邪なんか引いたことないもーん」
「……ひくわけないじゃない」
「……ひくわけないじゃない」
明繰&美蝋
「じゃあ、お客さん、お話終わって、吹雪がやんだら遊んでね!」
「やんでからお願いしなさいよ」
「やんでからお願いしなさいよ」
氷凪
「すまないね、早浪。
ここでは外からの客が珍しいんだ」
ここでは外からの客が珍しいんだ」
早浪
「いいや、構わないよ。よい子供達だね。
死なずの村にも子供はあるのだね。悪い意味ではないのだが、少し意外だ」
死なずの村にも子供はあるのだね。悪い意味ではないのだが、少し意外だ」
氷凪
「ああ、死なず、といっても……ね」
KP
子供達を交えて話しているうち、集落の人々は一人二人とその場を去っていたらしく、残っているのはほんの数人だけとなっていた。
氷凪
「さあ、そろそろ行こう。
雪が激しくなってきた。
二人とも、寄り道せずに帰るんだよ」
雪が激しくなってきた。
二人とも、寄り道せずに帰るんだよ」
明繰&美蝋
「はぁい」
「はい……」
「はい……」
早浪
「そうだな、行こうか。雪に埋もれるのは勘弁願いたい」
KP
「ちょっと、あんた……!」
あなたに顔色の悪い青年が話しかけてくる。
その頭にはやはり角があり、龍族の男であることが知れる。
あなたに顔色の悪い青年が話しかけてくる。
その頭にはやはり角があり、龍族の男であることが知れる。
早浪
不思議なものだ。最初に龍族をなど見た時は「龍である」としか思わなかったのに、こうも様々な顔ぶれを見ていると、「龍族の民」だ、と思うようになり始める。
KP
「あんた、外から来たんだろう」
早浪
「ああ。すまないね、驚かせている」
KP
「夏芽という龍族の娘を外で見たことはないか」
男は必死な様子で容姿を説明するが、心当たりはない。
男は必死な様子で容姿を説明するが、心当たりはない。
早浪
ピコーン! 最初の少女!
KP
容姿が違うみたい。
早浪
ちがったかー。
早浪
「夏芽……? いや。外では龍族など見たことがないな」
氷凪
「羅双……」
KP
「いや……ああ。そうだな。
知る、はずもない、か……」
知る、はずもない、か……」
早浪
「何か訳ありかな。再び外とここを行き来はせぬだろうが、心には留めておこう」
氷凪
「……そうだな……」
KP
氷凪の目にも、男の目にも、どこか諦めのような色が凝っていた。
男はふらふらと歩き去って行った。
男はふらふらと歩き去って行った。
早浪
その背を見送りながら、去り人だろうか、と思う。
ここを去ったか雪にまかれたか、とにかく、いなくなったのだ。
永劫にこの地にある死なずにとって、人を失うとはどのような心持なのだろう。
ここを去ったか雪にまかれたか、とにかく、いなくなったのだ。
永劫にこの地にある死なずにとって、人を失うとはどのような心持なのだろう。
氷凪
「さあ、客人に風邪を引かせるわけにも行くまい。
私の家へ案内しよう」
私の家へ案内しよう」
早浪
「ああ、邪魔するよ」
早浪
おお、しっとりとした素敵な風景
KP
あなた方は村の中でも一番奥まった場所にある大きな家屋へ行きつく。
村中に立ち並んでいた家々よりふたまわり程大きく、入口の門には精巧な意匠が施されており、威厳を感じずにはいられない佇まいをしていた。
促されるまま立ち入れば、心地の良い木材の香りが鼻を通った。
村中に立ち並んでいた家々よりふたまわり程大きく、入口の門には精巧な意匠が施されており、威厳を感じずにはいられない佇まいをしていた。
促されるまま立ち入れば、心地の良い木材の香りが鼻を通った。
氷凪
「この家、私ひとりで暮らすには少々広いんだ。
客人が来てくれて嬉しいよ」
客人が来てくれて嬉しいよ」
早浪
「よい佇まいの家だな。では、その片隅に宿らせて頂こう」
氷凪
「まずは遠路はるばる訪ねてきてくれたのだ、酒でも用意しないとな」
早浪
「すまないね、不躾をしたというのに随分と気を使わせる」
氷凪
「ふふ。客を迎えるのも随分と久しぶりでな」
早浪
「夜を恐れずに畳の上へ上がれるなど、久しぶりだ」
大きく息を吸い、心地よい木の香りを吸い込む。
大きく息を吸い、心地よい木の香りを吸い込む。
氷凪
「何しろここには道に迷った狩人くらいしか来はしない。
きみは130年ぶりの客だよ。寛いでゆくといい」
きみは130年ぶりの客だよ。寛いでゆくといい」
早浪
「それはそれは、光栄なものだね。国のひとつやふたつ滅ぶ程の時間だ」
氷凪
「そういうものか。
外のことはほとんど知らぬのだ。
きみの話をよくよく聞きたいものだが……
まずは私たちの話をした方が良いだろうね」
外のことはほとんど知らぬのだ。
きみの話をよくよく聞きたいものだが……
まずは私たちの話をした方が良いだろうね」
KP
氷凪は白い徳利を一本と小さな盃を二つ、干した魚を持ちあなたの前に座った。
氷凪
「物見遊山に来たわけではないのだろう、人狼殿」
KP
酒をついで、あなたに差し出す。
そして自らが先に口をつけた。
そして自らが先に口をつけた。
早浪
頷き、すすめられた酒に口をつける。
KP
氷凪はすっと立ち上がると、奥の部屋にあったらしい古びた書を数冊持ってきて、あなたの前に広げる。
早浪
そして、居住まいを正した。
KP
それは薄く、ほのかに甘い酒だった。
上品と言えば上品。味気ないと言えば味気ない。
命をあまり感じない酒だった。
上品と言えば上品。味気ないと言えば味気ない。
命をあまり感じない酒だった。
氷凪
「すまないね。ここの酒が口に合うかどうか。
なかなか外から物が入ってくることもなくてね」
なかなか外から物が入ってくることもなくてね」
早浪
「浮世離れした酒、と言えるかな。品のよい味だ」
氷凪
「ありがとう」
氷凪
「さて……早浪。
文字は読めるだろうか?
これは代々伝わる文献なのだ」
文字は読めるだろうか?
これは代々伝わる文献なのだ」
早浪
「国の文字なら読めるが、古典には明るくなくてね。自信はないな」
その書物を覗き込む。
その書物を覗き込む。
KP
見ると古い書物に達筆な文字が並んでいる。
あなたの国の物と同じ文字だ。
ただ、随分と古い書き方で描かれているため、読むのには少々知識が必要だろう。
あなたの国の物と同じ文字だ。
ただ、随分と古い書き方で描かれているため、読むのには少々知識が必要だろう。
KP
【知識】または〈母国語〉にて判定。
KP
古文みたいな物ですね。
早浪
CCB<=50【知識】(1D100<=50) > 70 > 失敗
早浪
「む……、すまない。これは確かに国の物と同じ字ではあるが、随分と古めかしいね。読むのは難しい」
氷凪
「では、私を信用して貰うほかないが」
KP
氷凪は書物を指さしながら内容を説明する。
あなたにも何となく意味がとれるだろう。
あなたにも何となく意味がとれるだろう。
昔、飢饉で滅びかけた人間の集落があった。
だがそこに現れた龍が、信仰とその証の心臓を預けることを条件に、不死と豊作の祝福を与えた。
人がそれに応じると、心臓、血液、体温を失い、角と瞳という変異を生じさせた。
だがそこに現れた龍が、信仰とその証の心臓を預けることを条件に、不死と豊作の祝福を与えた。
人がそれに応じると、心臓、血液、体温を失い、角と瞳という変異を生じさせた。
氷凪
「これが龍族の始まりだという。
ひどい飢餓状態から回復をした村人たちは、歓喜のままに龍のことを「龍王」と呼び、称え、敬ったのだ」
ひどい飢餓状態から回復をした村人たちは、歓喜のままに龍のことを「龍王」と呼び、称え、敬ったのだ」
早浪
あら~~~ 何かやべぇもんと契約した結果なのかな
早浪
「龍族が……、元は人だった、というのか」
氷凪
「そのようだな。
私にしてみれば、なんと余計なことをしてくれたのか、といったところだが、な。
当時はそれしかなかったのだろう」
私にしてみれば、なんと余計なことをしてくれたのか、といったところだが、な。
当時はそれしかなかったのだろう」
早浪
「信じ難い、と私が言うものではないが、驚いた話ではあるな」
氷凪
「このときに失われた心臓を得るのに、きみの力が必要なのだ、早浪」
早浪
「この時に龍とやらに捧げた心臓を得るために、私の協力が必要だというのか」
KP
氷凪は頷いた。
早浪
「だが、心臓がないがために死なずだというのだろう。
なぜ、心臓を再び得たいのだ?」
なぜ、心臓を再び得たいのだ?」
氷凪
「これについては。私たち龍族の弱みについて話す必要がある。
それなりの覚悟の上の話と留め置いて欲しい」
それなりの覚悟の上の話と留め置いて欲しい」
早浪
「ああ」顔を上げ、頷く。
氷凪
「私たちは不老不死とは言え、完全な龍としての力を持ち合わせていない。空も飛べなければ、何か大きな力を持っているわけでもない。
御伽噺に描かれているような、龍の姿にすらなることも叶わない。
人ならざる角と瞳を持っているだけの何もできない存在なのだ。
それに気付いた人間は私たちに何をしたと思う?
暴行に、誘拐に、他にも様々あった。蹂躙される側に居座り続けるのはひどく辛いものだよ」
御伽噺に描かれているような、龍の姿にすらなることも叶わない。
人ならざる角と瞳を持っているだけの何もできない存在なのだ。
それに気付いた人間は私たちに何をしたと思う?
暴行に、誘拐に、他にも様々あった。蹂躙される側に居座り続けるのはひどく辛いものだよ」
早浪
「そうか……、君臨する側に回るには、数が足りなかったか。
それに、その眼と角だ。それだけで、人ではないと見る者もいような」
それに、その眼と角だ。それだけで、人ではないと見る者もいような」
氷凪
「死なぬものは、生きてもおらぬのだよ」
氷凪
「だからこそ、私は力が欲しいのだ。
龍王様と通じ、心臓を返してもらうことで不死を捨て、人に戻るのではなく龍として大成できるのではないかと考えた」
龍王様と通じ、心臓を返してもらうことで不死を捨て、人に戻るのではなく龍として大成できるのではないかと考えた」
早浪
「国の騎士がここには来るのだろう。ここまで来たかは知らぬが、来たとしたら迷惑をかけたものだ」
氷凪
「騎士がこの地まで踏み入ったことはない。
が、姿を消す者はある。
さっききみに話しかけた男もそうだ。
契った娘が消えたのだ。
騎士に連れて行かれるのを見た、というものがいたのだ」
が、姿を消す者はある。
さっききみに話しかけた男もそうだ。
契った娘が消えたのだ。
騎士に連れて行かれるのを見た、というものがいたのだ」
早浪
「……胡散臭い話だな。
先程、よからぬ女に国が乗っ取られたという話をしただろう」
先程、よからぬ女に国が乗っ取られたという話をしただろう」
氷凪
「ああ。そう言っていたな」
早浪
「その女に国が乗っ取られてからというものの、我々騎士は珍しい物を欲しがる女の手先として、宝石やら絢爛な布やらを集めさせられていた」
氷凪
「外も荒れていたのだな」
早浪
「ああ。騎士たちがあの女の指示でよからぬ事をしているというのも、そう考えれば十分にあり得る」
氷凪
「そうだな。騎士の姿をよく見るようになったのもここ数年の話だ。
近隣の村とはうまくやれていたというのに、おかげでそれも最近は難しくてね」
近隣の村とはうまくやれていたというのに、おかげでそれも最近は難しくてね」
早浪
「ああ、村の子供が龍退治の騎士だと言っていたよ。
騎士らがよからぬ事を吹き込んでいるのか、騎士の姿を見て村の者が見誤ったのだろう」
騎士らがよからぬ事を吹き込んでいるのか、騎士の姿を見て村の者が見誤ったのだろう」
氷凪
「……
私たちは減るばかりのものだ。
こどもたちは最早あの二人だけ。産まれるよりも失われる方が多いのだ」
私たちは減るばかりのものだ。
こどもたちは最早あの二人だけ。産まれるよりも失われる方が多いのだ」
早浪
「すまないな……、山を九つ越えてまで迷惑をかける。
あの暴虐を止められなかった我々の責だ」
あの暴虐を止められなかった我々の責だ」
氷凪
「……いや。
ある意味お陰できみが訪れてくれたのだろう」
ある意味お陰できみが訪れてくれたのだろう」
氷凪
「私はね。
別段人間に復讐しようというわけではないのだ。
龍という存在が恐ろしく巨大で、力あるもので、手を出せば禍が起きるものであると、人間が恐れてくれればそれでよい。
この300年もの間、何も成すことができずただ在るだけのものだった身に、それだけの意味があれば、私は満足なのだ」
別段人間に復讐しようというわけではないのだ。
龍という存在が恐ろしく巨大で、力あるもので、手を出せば禍が起きるものであると、人間が恐れてくれればそれでよい。
この300年もの間、何も成すことができずただ在るだけのものだった身に、それだけの意味があれば、私は満足なのだ」
早浪
「そうか。暴虐を許さぬだけの力があれば、それでよいというのだな」
氷凪
「ああ。この世界中を飛び回り、人間の歴史へと姿を刻みつけた後はどうなったって構わないと思っている。
全てが済めば、きみに心臓をくれてやろう」
全てが済めば、きみに心臓をくれてやろう」
早浪
「そうか。ならば……、協力もできよう、というのだな」
思う所を喉の奥で噛み殺し、そう、頷く。
思う所を喉の奥で噛み殺し、そう、頷く。
早浪
「分かった。協力しよう。君の望みがそれだけならば、私に否はない。
世界中を飛ぶついでに女を一人縊り殺してくれたら嬉しいが、そこまでは望めないな」
世界中を飛ぶついでに女を一人縊り殺してくれたら嬉しいが、そこまでは望めないな」
氷凪
「例の女をか? 龍に変ずることができれば、それもできるかもしれないな」
早浪
「幾つか、聞いても構わないか?」
氷凪
「私に分かることならば答えよう」
早浪
「君の望みは分かった。意図も分かった。私が、それにどのように力を貸せるというのだ?
確かに剣の腕と獣の力程度はあるが、その龍王とやらに当てがあるわけでもない」
確かに剣の腕と獣の力程度はあるが、その龍王とやらに当てがあるわけでもない」
氷凪
「端的に言えば、龍王様に謁見するためだ。
龍王様は今、この人間たちの生きる世界には存在をしていない……
詳細は私たちも知りえないが、そこへ向かうための術は分かっているんだ。
まずひとつ、この雪山の頂上というのは理を生きる動物は立ち入ることができない。
何故かは分からないが、そういった場なのだ。
いわゆる、神域というものだろう。
そしてもうひとつ、龍王様は龍でも人でもない、異形の存在を好み、その血を常に欲している」
龍王様は今、この人間たちの生きる世界には存在をしていない……
詳細は私たちも知りえないが、そこへ向かうための術は分かっているんだ。
まずひとつ、この雪山の頂上というのは理を生きる動物は立ち入ることができない。
何故かは分からないが、そういった場なのだ。
いわゆる、神域というものだろう。
そしてもうひとつ、龍王様は龍でも人でもない、異形の存在を好み、その血を常に欲している」
早浪
「人狼ならば、その眼鏡に適うだろうということか」
氷凪
「ああ。
しかし生贄になれ、命を捧げろ、というわけではない。
口に含める量で構わない。君の血を分けてほしい。
そのため、共に頂上に来てほしいんだ。
実際文献を見る限り、過去に数度、このような方法で龍族が龍王様に謁見をしたこともあるそうだ」
しかし生贄になれ、命を捧げろ、というわけではない。
口に含める量で構わない。君の血を分けてほしい。
そのため、共に頂上に来てほしいんだ。
実際文献を見る限り、過去に数度、このような方法で龍族が龍王様に謁見をしたこともあるそうだ」
早浪
「その時は、どうなったんだ?」
KP
氷凪が指した文には確かにそのように書いてある……ような気がする。
氷凪
「さあ、そのものが何を願ったか、そしてどうなったかは書かれていないね。
私としてはそこも知りたいところなのだけれど。
知りたい、といえばもうひとつ……」
私としてはそこも知りたいところなのだけれど。
知りたい、といえばもうひとつ……」
KP
氷凪は小さく息をついて部屋の隅に目をやった。
そこには男と女、そして少女の絵が飾られている。
女と少女はどこか氷凪に似ているように感じられた。
そこには男と女、そして少女の絵が飾られている。
女と少女はどこか氷凪に似ているように感じられた。
氷凪
「私にも家族がいたのだ。だが今はもういない。
攫われたわけではない。
龍はある日いきなり消え失せるのだ。
そうして私がここでの最長老となるというのに、消える理由がいまだ分からぬ」
攫われたわけではない。
龍はある日いきなり消え失せるのだ。
そうして私がここでの最長老となるというのに、消える理由がいまだ分からぬ」
早浪
「死なずだというのに、永劫に存在するわけではない、というのか」
KP
氷凪は頷いた。
氷凪
「私は何のためにあるのだろう、と時折考えるのだよ」
氷凪
「だから、きみが来てくれて嬉しいのだ。
神がこの問いに答えてくださると良いのだが」
神がこの問いに答えてくださると良いのだが」
早浪
「私が来たことで……、何かを成せるかもしれぬ、という事か。
そうだな。その話を聞いては、思いが成るといいと考えるようになったよ。
君に比べれば一瞬のような時間だが、国でたらふく無力を味わってきたものだからな」
そうだな。その話を聞いては、思いが成るといいと考えるようになったよ。
君に比べれば一瞬のような時間だが、国でたらふく無力を味わってきたものだからな」
氷凪
「今度はきみの話を聞こうか、と思ったが……
客人に酒一杯で休みも与えず長話をして済まなかったな。湯殿でも用意しよう。きみにとってはここは寒かろうから」
客人に酒一杯で休みも与えず長話をして済まなかったな。湯殿でも用意しよう。きみにとってはここは寒かろうから」
早浪
「それは嬉しいな。久しく味わっていない」
KP
氷凪はあなたの返事を聞くと、湯を沸かしに行った。
KP
後でお話聞くけど、ちょっと休憩しようか!
休憩しながら話してもよい。
休憩しながら話してもよい。
早浪
ゆったり休憩モノローグタイムを頂きましょう。
KP
風呂涌かして食事してまったりしよう。
KP
〈心理学〉振ってみる? 【アイデア】でもよい。
早浪
お、では〈心理学〉振ろうかな。
値は80。
値は80。
🎲 Secret Dice 🎲
KP
🎲 Secret Dice 🎲 sCCB<=80 (1D100<=80) > 78 > 成功
KP
その足取りは軽く、客人を迎えるのが本当に嬉しいのだろうなと分かる。
部屋はがらんと広く、どこか寒々しい。
そこは静かで、薄暗く、穏やかな、神仙の領域じみた家だった。
部屋はがらんと広く、どこか寒々しい。
そこは静かで、薄暗く、穏やかな、神仙の領域じみた家だった。
早浪
こうやって時を窺わずに人と話し、身を寛がせるなど、いつぶりのことだろうか。
もう随分昔にすら思え、自身が浮世離れしてしまったと感じたものだが、きっとあちらにとってもそうなのだろう。
まったく、奇妙な邂逅をしたものだ。
あの話によれば、ここの龍たちはかつて人だったのだ。
そう思えば、民と見えるのも間違ってはいない。
死なずであり、少々異なる眼と角を持っただけの、隠れ里の民だ。
もう随分昔にすら思え、自身が浮世離れしてしまったと感じたものだが、きっとあちらにとってもそうなのだろう。
まったく、奇妙な邂逅をしたものだ。
あの話によれば、ここの龍たちはかつて人だったのだ。
そう思えば、民と見えるのも間違ってはいない。
死なずであり、少々異なる眼と角を持っただけの、隠れ里の民だ。
KP
奥から鼻歌じみたものが聞こえてくる。
それからしばらく。
雪が降りしきる音のなか、かすかな焚き火の音が聞こえていた。
また、何か料理でもしているのか、包丁を使う音なども。
時が穏やかに流れる。
外の光はゆっくりと陰ってゆく。
それからしばらく。
雪が降りしきる音のなか、かすかな焚き火の音が聞こえていた。
また、何か料理でもしているのか、包丁を使う音なども。
時が穏やかに流れる。
外の光はゆっくりと陰ってゆく。
早浪
ああ、穏やかな場所だ。
……そういえば、湯殿をいただく前に獣の身になってしまったら、身を清めるのに手間がかかるな?
……そういえば、湯殿をいただく前に獣の身になってしまったら、身を清めるのに手間がかかるな?
KP
ソウカモ!
どっちでもよい。
どっちでもよい。
早浪
せっかくだから人狼onお風呂するかな。
KP
風呂から出たらモッサモサ!
氷凪
「さあ、随分とお待たせして済まなかったね。
湯殿の支度ができたので入ってゆくといいよ」
湯殿の支度ができたので入ってゆくといいよ」
KP
氷凪はあなたを小さな木戸の方へ案内する。
氷凪
「ん、おや?」
早浪
「ん?」
氷凪
「きみの髪はそんなに長かったろうかと思ってね」
早浪
「ああ。そうか、もう夕暮れが近いのか」
長く伸びた髪を掬いながら言う。
長く伸びた髪を掬いながら言う。
氷凪
「夕暮れ?
ああ、確かにそろそろ陽が落ちるな」
ああ、確かにそろそろ陽が落ちるな」
早浪
「そうだ、きちんと話していなかったね。獣の呪いがために、私は陽が落ちると人狼の姿になってしまうのだよ」
氷凪
「……呪いか。
だからあのような姿だったのだな。
確かにあの時も夜だったな」
だからあのような姿だったのだな。
確かにあの時も夜だったな」
早浪
「ああ、心は変わらぬから安心して欲しい。盛大に不躾をやっておいて安心も何もないが、今の所はまだ、人の心でいられているよ」
氷凪
「うむ、そうか……しかし。
これから獣になってしまうとなると、体を清めるのが大変そうだな。
もっと早くに用意すべきだった」
これから獣になってしまうとなると、体を清めるのが大変そうだな。
もっと早くに用意すべきだった」
早浪
「ああ、少々時間がかかりそうだ。
それは物思いに丁度よいとして、抜け毛で手間をかけたらすまないね」
それは物思いに丁度よいとして、抜け毛で手間をかけたらすまないね」
氷凪
「いや、構わないよ。
ともあれゆっくりしてゆくといい。
随分と疲れているように見えるから」
ともあれゆっくりしてゆくといい。
随分と疲れているように見えるから」
早浪
「ありがとう。嬉しいよ」
KP
そうしてあなたは久方ぶりのまともな湯を使うことになる。
時が経つにつれ体の毛は太く長く伸び、爪が鋭くなる。
時が経つにつれ体の毛は太く長く伸び、爪が鋭くなる。
早浪
久方ぶりのまともな湯は、獣のかたちに強張った脚をほぐし、腕をほぐし、長らく人の世から離れていた自身を人の世に引き戻してくれるかのようだった。
あの国を発ってから、不思議なことに、今この時が一番人の世にいるのだ。
あの国を発ってから、不思議なことに、今この時が一番人の世にいるのだ。
KP
そうだね……
妖魅の里なのにね
妖魅の里なのにね
早浪
なのにね。
KP
体の汚れが落ちてゆくと、薄汚れて黒っぽかった毛はつややかな深緑を帯びた。
頭が軽くなり、気が落ち着いてゆく。
頭が軽くなり、気が落ち着いてゆく。
早浪
数年前からずっと肩の上に圧し掛かっていた荷が、落ちてゆくかのようだ。
獣の毛を家で飼われる犬のように梳りながら、面白い巡り合わせだと思う。
こんな獣が野山をさまようこともなく、畳の上に座っている姿を思い浮かべたら、我ながら少し笑えてきた。
獣の毛を家で飼われる犬のように梳りながら、面白い巡り合わせだと思う。
こんな獣が野山をさまようこともなく、畳の上に座っている姿を思い浮かべたら、我ながら少し笑えてきた。
KP
湯殿のそとからは、おそらく氷凪が食事の準備をしている音が軽やかに聞こえていた。
氷凪
「早浪、鶏肉は好きか?」
KP
外から声が呼びかける。
早浪
「鶏かい? 好きだよ」
国が荒れ果てる前は、丸々と太った鶏をよく見たものだ。
その鶏すらめったに見ぬようになってしまったあの国を思うと、心臓が痛む。
国が荒れ果てる前は、丸々と太った鶏をよく見たものだ。
その鶏すらめったに見ぬようになってしまったあの国を思うと、心臓が痛む。
氷凪
「それは良かった。
なにしろ季節が季節なのでな、ゼンマイがせいぜいだ。
山ウドはどうだ。味噌漬けにするつもりだが、味噌は好きか?」
なにしろ季節が季節なのでな、ゼンマイがせいぜいだ。
山ウドはどうだ。味噌漬けにするつもりだが、味噌は好きか?」
早浪
「いいね、素晴らしい。
毛が邪魔で手伝うわけにもいかぬのが、もどかしい所だね」
毛が邪魔で手伝うわけにもいかぬのが、もどかしい所だね」
KP
お客さんにウッキウキ
早浪
数百年間NOお客さんだものなぁ。
KP
ノリは久々に孫を迎えた田舎のお婆ちゃんよ。
氷凪
「明繰はね、山菜採りの名人なんだ。よく分けてくれるのだよ」
早浪
「それはそれは。間接的にあの子の世話にもなっているということだね」
氷凪
「そうなるか。ではその礼代わりにあの子たちと少し遊んでやってくれると嬉しいな」
早浪
「構わないのかい? 外のものが遊んでは、親御さんを驚かせてしまうだろう」
氷凪
「構わないさ。私の客だ。
これでも最長老だからね」
これでも最長老だからね」
早浪
「そうか、ではそうしようかな。山菜の礼も言いたいしね」
KP
楽しそうな声が戸の前から遠ざかっていった。
風呂から見える空は更に暗く、雪は更に降りしきっていた。
風呂から見える空は更に暗く、雪は更に降りしきっていた。
早浪
「すまないね、やはり時間がかかったよ」
声は少々機嫌がよい。
野の虫や草の汁、獣の血に汚れているばかりだった爪を、折角なので軽く磨いてみた。
よく洗い、家で飼われた犬もかくやと梳った毛は、これはこれで悪くないのではないかとすら思えてくる。ここの居心地がよいせいだ。
声は少々機嫌がよい。
野の虫や草の汁、獣の血に汚れているばかりだった爪を、折角なので軽く磨いてみた。
よく洗い、家で飼われた犬もかくやと梳った毛は、これはこれで悪くないのではないかとすら思えてくる。ここの居心地がよいせいだ。
KP
湯から上がったあなたを見て、氷凪は少し驚いたように目を見開いた。
氷凪
「……そういった形にも変貌をするのだな。
こうして見るとなかなかの美丈夫だな、人狼殿」
こうして見るとなかなかの美丈夫だな、人狼殿」
KP
冗談めかしてからりと笑うその姿は人間と何も変わらない。
早浪
「ありがとう。野をゆく時はただただ忌々しかったものだが、こうやって見ると意外に悪くないね」人の面から牙をはみ出させて、からりと笑い返す。
氷凪
わぁイケメン
あ、女性って事は知ってるよ。
あ、女性って事は知ってるよ。
氷凪
「人を狼に変える呪いか……
ずっと考えていたのだが、以前に聞いたような気がするよ」
ずっと考えていたのだが、以前に聞いたような気がするよ」
早浪
「! それは真か?」
氷凪
「ああ、心当たりがある。
書を当たってみよう。
飯が炊けるまで時間があるからな」
書を当たってみよう。
飯が炊けるまで時間があるからな」
早浪
「ああ、頼む。龍の心臓を手に入れて呪いが解けるかどうかも、確実ではないんだ。
あの女の力の源に繋がる内容なら、何でも知りたい」
あの女の力の源に繋がる内容なら、何でも知りたい」
KP
そうして氷凪は、あなたを奥の部屋へと誘った。
氷凪
「確かこのあたりにあったように思うのだが……
ああ、これだ。
個人の記録なので、それほど詳しいというわけではないのだが」
ああ、これだ。
個人の記録なので、それほど詳しいというわけではないのだが」
KP
氷凪が差し出したのは古い覚え書きのようなものだった。
そこには【瞋恚の呪い】とある。
そこには【瞋恚の呪い】とある。
『瞋恚とは、仏教においては人間が克服するべき3つの煩悩……三毒の一つだと言われている。嫉妬や憎悪、軽蔑など、負の感情の中でも、根源に怒りが存在するものを指すらしい』
『【瞋恚の呪い】とはその名の通り、そういった怒りの感情を媒体にした呪いである』
『【瞋恚の呪い】とはその名の通り、そういった怒りの感情を媒体にした呪いである』
早浪
「怒りか……
確かにあの時、私は怒っていたな。あの女に、いや、何より己の無力に」
確かにあの時、私は怒っていたな。あの女に、いや、何より己の無力に」
氷凪
「怒りとは、理性を放棄させ、人を歪ませてしまうものだろう。他者を獣に変容させてしまう呪いにするにはうってつけということだろうな。
『そのようにして生まれた獣にとって、月の金属たる銀は毒となる』とある」
『そのようにして生まれた獣にとって、月の金属たる銀は毒となる』とある」
早浪
「そういう事だな。銀が毒であるか……。悩ましい所だな。単純に弱点であるから用心せねばならないか、あるいは、呪いを解くよすがとなるか」
氷凪
「しかし……呪いを解く法についてはここには記録がないようだな……」
早浪
「そうか……、だが、情報があっただけでも有難い話だ」
氷凪
「あまり力になれず、済まなかったな。
龍の心臓に効果があるかくらい分かれば良かったのだが」
龍の心臓に効果があるかくらい分かれば良かったのだが」
早浪
「いいや、構わない。何が糸口となるか分からないからな。聞けるものは何でも聞きたい。
なあ。怒りとは、理性を放棄させ、人を歪ませるものだと言ったな」
なあ。怒りとは、理性を放棄させ、人を歪ませるものだと言ったな」
氷凪
「ああ」
早浪
「私にはもう一つ思うところがあってね。怒りとは、人をしていまここ、あるままで良しとせぬ力なのではないかと……、ね。
だとすれば、君を祈りに突き動かすのもまた、怒りなのかもしれない。
だとすれば、私達は実に奇遇な出会いをしたのかもしれないよ」
だとすれば、君を祈りに突き動かすのもまた、怒りなのかもしれない。
だとすれば、私達は実に奇遇な出会いをしたのかもしれないよ」
氷凪
「私の中に怒りがあると?」
早浪
「当て推量だがね」
氷凪
「ふふ。そうだったら嬉しいな。
自らの運命に怒る気力も萎え果て、永い時を座り込んで過ごしてきたのだ。
もし怒りというものが残っているなら、それは喜ばしいことかも知れない」
自らの運命に怒る気力も萎え果て、永い時を座り込んで過ごしてきたのだ。
もし怒りというものが残っているなら、それは喜ばしいことかも知れない」
早浪
「君は私の不躾に抗っただろう。そしていまここにこうして、抗おうとしている。私はそう思うよ」
氷凪
「はは。あれは痛かった。
覚えておくがいいよ」
覚えておくがいいよ」
早浪
「だろうな。すまない事をした。一通り終わったら喧嘩をし直そう」
氷凪
「終わったら、な。
……早浪。先に私は、龍に変じて人の歴史に残りたい、と言っただろう?
理由はもうひとつある。ごく個人的なことだがね」
……早浪。先に私は、龍に変じて人の歴史に残りたい、と言っただろう?
理由はもうひとつある。ごく個人的なことだがね」
早浪
「聞いても構わないかな、何だい?」
氷凪
「空を駆けてみたい。
それだけだよ」
それだけだよ」
早浪
「空か。
それは素晴らしいな。人がずうっと夢見たことだ」
それは素晴らしいな。人がずうっと夢見たことだ」
氷凪
「きみは故郷の都に復讐しに行くのだろう?
では乗ってゆくがいいよ。
心臓も渡さねばならないしな」
では乗ってゆくがいいよ。
心臓も渡さねばならないしな」
早浪
「ああ、いいな。その時は世話になろう。そう聞けば、私も空というものを味わってみたくて堪らなくなってきたよ」
早浪
「復讐か……、どうかな、私がしたいことは復讐なのだろうか。
それとも、ただ、あの国をかつての美しい国に戻し、私達が民になした数多の裏切りを、償いたいのだろうか」
それとも、ただ、あの国をかつての美しい国に戻し、私達が民になした数多の裏切りを、償いたいのだろうか」
氷凪
「……
今度はきみの話を聞こうか。
そろそろ炊けた頃だろう」
今度はきみの話を聞こうか。
そろそろ炊けた頃だろう」
早浪
「そうだな……、ずっと抱えてきたんだ。話させてくれたら、嬉しいよ」
氷凪
「そとの話も聞きたいが、私はきみの話が聞きたくなってきたよ」
KP
氷凪はまた嬉しそうに微笑んでかまどへと向かっていった。
あなたの鋭い嗅覚には、素朴で優しい夕餉の香りがとどいていた。
あなたの鋭い嗅覚には、素朴で優しい夕餉の香りがとどいていた。
KP
ほんじつここまで!!
早浪
ありがとうございましたー!!
KP
ありがとうございましたー!
早浪
野をゆく孤独になる所をじっくりやってから、人の世に戻る所をじっくりやる、よい
KP
情報の塊をオラァ! って投げつけるパートなんだけど、それだけじゃ味気ないと思ってッッ
早浪
ありがとうございますッッ 早浪と一緒に心が洗われるし、怒りにまつわる会話とか楽しかったし、何より、協力に向かってだんだん友人のような距離感になっていく所をじっくり味わえてこれはとてもとても必要なシーン
KP
モッフモフのはやみさんが風呂に入ってこれも悪くないなと思っちゃうのよい。
早浪
そうそう、モフモフしながら「この形でもいられる人の世」を味わう そして毛はツヤツヤになった
KP
シナリオのKPCさんもっと神秘的だよこんなユカイな人じゃないよ。
早浪
神秘的で切ない所と等身大の人間であるところが同時に存在しててとても切なイイ
等身大の人間だからこそ物悲しさが際立つ
等身大の人間だからこそ物悲しさが際立つ
KP
次回の早浪さんが最後の自分の怒りについてどう結論づけるかがとっても楽しみです。
早浪
ほほーぅ 楽しみ!
KP
このチームの運命は、早浪さんの選択次第。
よしあしではなく。道が。
よしあしではなく。道が。
KP
イベントガンガン積んだら思ったより伸びてるから5話どころじゃないですねこれは!
早浪
ほうほう。それは楽しみ。
ガンガン(伸ばして)いこうぜ!
ガンガン(伸ばして)いこうぜ!
KP
うん。楽しいです。
では、本日はここまで。
また次回!
では、本日はここまで。
また次回!
早浪
ありがとうございましたー!
KP
ありがとうございました!
コメント By.KP
龍族と語らい、狼はようやく人としての安らぎを得る。
『信じるには時間がいる ましてや他人だから』
……もうね。シナリオの本筋は外れていないけど、ないシーンだらけです。
絶対参考にしないでくださいホント。
龍族と語らい、狼はようやく人としての安らぎを得る。
『信じるには時間がいる ましてや他人だから』
……もうね。シナリオの本筋は外れていないけど、ないシーンだらけです。
絶対参考にしないでくださいホント。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」
TRPGリプレイ ゆうやけこやけ 第十三話『旅するゆうこや』青森 一
青森 一
■真冬の北海道から真夏の青森へ。
賑やかな鈴の音響く往来に沸き立つ街。
アスパム前で出会ったのは、なんだか怒った人々と不思議な髭のおじさん。