こちらには
『レプリカの心相
のネタバレがあります。
本編見る!
佐倉 光
半端とはいえ二本見ればそれなりに時間が過ぎて空腹になっているだろう。
終わったらトイレに行ってから台所を見てみよう。
トイレに何か気になるものはあるかな。
KP
降りしきる雨のせいで陽の傾きは分からないが、外が少し薄暗くなっているように思えた。
時計を見れば、もう夕方近くになっている。
佐倉 光
「ちょっとトイレ」
KP
簡素なトイレには、爽やかないい香りのする芳香剤が置かれていた。
トイレットペーパーはふかふかとした上等なもので、手に取ると撫でていたくなる。
佐倉 光
たとえばこういうのに触れた時の感情ってなんなんだ。
なんとなく撫でてから外に出る。
佐倉 光
「そういえば浩太ってトイレとか行くの?
トイレットペーパーはふわふわだし、いい匂いはするし、高級ホテルか何かみたいだ」
浩太
「トイレには行きません。食事は摂れます」
KP
……食事を分解なりしてエネルギーにする、ということなのだろうか?
そういえば、充電や給油について言われなかった。
佐倉 光
さっき笑ってたときは牧志そのものだったんだけどなぁ。ギャップで風邪を引きそうだ。
佐倉 光
好き勝手やってるけど大丈夫かな!
KP
大丈夫です!
佐倉 光
笑いについては後で折を見て仲直り&訂正予定だが!
佐倉 光
「悪いけど腹が減ったんだ。食事しようか」
浩太
「はい、食事にしましょう。
料理の本を見かけました。何か作りましょうか」
KP
あなたはふと、違和感に気づく。
〈覚えさせた〉ことが関係しているのだろうか? 少し口数が増えているような気がする。
佐倉 光
覚えたことで表現力が上がる、ということだろうか。
何がどう影響しているのかは良く分からないが、とにかく色々な状況を経験させるのが大事、ということだろう。
佐倉 光
「そうだな。何かないか見てみよう」
キッチンに行って、食事を作るのに使えるものがあるかどうか調べてみる。
設備や素材などどんなものがあるだろうか?
まずは冷蔵庫やストッカーなど探して、中を見よう。
KP
キッチンは、L型のシステムキッチンだ。
汚れ一つなく清潔に保たれている。
子供が使えるように踏み台もある。

必要な設備や道具は大体揃っている。
冷蔵庫には野菜や肉などの食材があり、棚には調味料やインスタント食品などが入っているようだ。

……牧志がちょくちょく食べていたカップ沖縄そばや、お湯を注いで飲むと美味しい厚めの鰹節は無かった。
佐倉 光
「肉に野菜に……一般的なものは揃っている感じかな。
割と分かりやすい台所だ。踏み台もあるな」
浩太
浩太はシンク下の引き出しに置かれたボウルを見ると、それを手に取った。
冷凍庫から挽き肉を手に取ると、電子レンジで下解凍を始める。
その間に玉葱を切り始めた。

自然な、見慣れた動きだった。
大体あなたが学校に行っている間に始めてしまうから、あまり見たことがないが、休日にたまに見る。

牧志がそうしているのを。
佐倉 光
牧志の動きそのままの動作を、暫くぼんやりと見つめてしまう。
このロボット、記憶はないとかいいながらちょくちょく牧志そのものの言動をする。
牧志が死んでしまったなんて悪い冗談で、二人揃っていつもの異変に巻き込まれて、牧志は少し記憶がなくなっているだけなんじゃないかという気がしてくる。
同時に、「これだけ牧志を再現してくれるなら、今までと変わらない生活が送れるのではないか」という気もする。
佐倉 光
『記憶も感情も欠けた牧志がいる』のか
『牧志に限りなく似たものがある』のか。
分からなくなってきそうだ。
佐倉 光
「くそっ」
KP
それでも牧志はあの時、確かに……。
間違いなく見たのだ、あなたは。
あの直前、牧志は咄嗟に、あなたを庇ったように見えた。
佐倉 光
牧志は、死んだんだ。
都合のいい幻覚に惑わされるな。
佐倉 光
「何を作ろうとしている?」
いつもなら手伝うところだし、そうしたい気もしたが、彼の動きをじっと見ている。
俺はただ想い出に浸るためにいるわけじゃない。
カードが必要なときがくるかも知れない。
浩太
人形はふと、手元を見下ろした。
不思議そうに、己の行動に戸惑うように見えたのは、きっと錯覚なのだろう。
一拍置いて彼は答えた。
浩太
「煮込みハンバーグを作ります」
佐倉 光
「本は必要ないみたいだな。
記憶はないって聞いていたんだけど、結構色々知っていそうだ」
後で詳しく記憶について訊いてみるか。
佐倉 光
人間の感情をたった六つ……いや、ひとつは無なのだから五つか……で表現できる筈がない。
例えば期待は。例えば妬みは。例えば嫌悪は。例えば容認は。
このカードで表現できる領域にない感情も多い。
それでも人間に似たものとして完成できるのだとしたら、このカードは、ロボットのポテンシャルを引き出すきっかけに過ぎないのかも知れない。
佐倉 光
そんな技術力、セベクにだってあるかどうか。
さっき笑い転げていた時は完全に牧志がそこにいた。
佐倉 光
懐かしくて、嬉しくて、怖かったんだ。
浩太
考え込むあなたの前で、浩太は肉と小麦粉と香辛料をこね、できたものを焼き始める。

焼いている間にシチューを作り始める様子、調理器具の音、辺り一帯に漂い始めるいい香り。
ふと気を抜けば、自分達の家にいるかのような気がした。
味見をして頷く仕草さえも変わらない。
佐倉 光
ひとつひとつが牧志の動作そのものだ。
違うところ、といえば、表情がないことくらい。
しかしそんなニッコニコしながら飯って作らないよな。
浩太
そういえば、味見をして「うん、大丈夫」と頷く、嬉しそうなあの表情はない。
浩太は淡々と料理を手の中に作り上げていく。

佐倉 光
味見でニッコリ、はしてないんだろうなと思ったけど、そういうのに〈覚えさせる〉のもちょっと違うかなと言う気がしたのでスルーする佐倉。
KP
短時間のちょっとしたことですしね。
佐倉 光
料理中に「痛み」とか「驚き」とか使う機会あるかなと思ったけど、浩太君のスキルが高かった。
KP
大丈夫、浩太がおおっとしなくても佐倉さんにはおおっとする機会があります。慣れないキッチンだし動揺してるし。

佐倉 光
牧志って料理上手くなったよな。
会ったときは「やれなくもない」って程度だったと思う。
そういえば、手の込んだ料理を作るようになったのは、俺が子供になっちまってからかも知れない。

食器、出すか。
見ているだけってのも何だか辛いものがある。
KP
あなたは食器を出そうとして、【DEX】×4で判定。
佐倉 光
1d100 48 【DEX】 Sasa 1d100→ 87→失敗
KP
動揺していたのがまずかったのか、踏み台の高さなどが合わないのか、あなたは踏み台の上で足を滑らせた!
浩太
「佐倉さん」
無表情のまま、彼はあなたに手を伸ばした。
掬い上げるように彼の手が動き、バランスを崩したあなたを支える。
佐倉 光
あ、やべ。
足を滑らせた瞬間、皿が舞うのを見た。
これは、割れた皿が飛び散るヤツ……
何倍にも引き延ばされた時間のなかで、『彼』が手を伸ばすのを見た。
浩太
大きな音を立てて皿が割れた。
飛んできた破片が、あなたを庇った彼の腕をざっくりと裂く。
佐倉 光
「牧志!」
思わず叫んだ。
佐倉 光
「大丈夫か? 救急箱……」
どこかでそれらしい物を見ただろうか?
KP
救急箱。キッチンの隅に置かれていたような気がする。
あなたでも手の届く位置だ。
KP
だらだらと流れ出る液体は人間そっくりに赤く、しかし何の匂いもしなかった。
佐倉 光
血、ではない。当たり前だ。彼は人間ではない。
無表情のままに自分を庇った『彼』。
それを認識したとき、ポケットから飛び出して散らばっているカードが目に入った。

ガラスで腕を切った。床にたたきつけられた。そこには苦痛があってしかるべきだし、きっと俺が滑ったことに驚いたに違いない。

『彼』は怪我をした。俺を守ってくれたからだ。牧志と同じように。
普通に考えればカードどころではない。正気の沙汰じゃない。

カードの中から『驚き/混乱』『痛み/苦痛』を探し出して、『彼』に見せた。
見せながら、『痛み』は、感情だろうか、とぼんやり考えていた。
人間の体と心の不調を脳に知らせるサイン。身を守るのに必要な……
KP
〈覚えさせる〉で判定。
さっきは2回判定しましたが、複数のカードで1回実行すると見なした方がそれらしいので、ここからは複数枚のカードを同時に使った場合でも判定回数は1回とします。
佐倉 光
はーい
佐倉は〈覚えさせる〉判定に失敗。
KP
なかなか成功しないなー。佐倉さんの心に引っかかるものがあるのかしら。
佐倉 光
まあまだ65ですしー。

浩太
彼は服の袖を赤く染めながら、痛みに顔をしかめることもせず、ただ、静かにあなたを抱きしめていた。
KP
🎲 Secret Dice 🎲
佐倉 光
『彼』は自分の痛みなど知らない。俺を守るための存在に過ぎない。
ぶつけていない胸の奥が痛くて仕方がなかった。
佐倉 光
「俺は大丈夫、怪我なんかしてない。お前の傷の手当てをしよう」
佐倉 光
「痛いだろ。痛いはずだよ」
佐倉 光
痛いに決まっている。
あの時もそうだ。俺の視界が狭くて、逃げ損ねた。
だからあいつが逃げるのが遅れて

俺がこんな体じゃなければ、あいつは死ななくて済んだかも知れないんだ。
こんな非力じゃなければ、いつもみたいに乗り越えられたかも知れなかったんだ。
もし、俺に力があれば。
もし、俺が子供になっていなかったら。
もし、牧志の好意に甘えないでさっさと実家に帰っていれば。
あの日、酒なんか飲まなければ
佐倉 光
今更どうしようもない、意味もない思考が堂々巡りで、ぼろぼろと涙がこぼれた。
一度たがが外れた感情は止まらない。
泣かなきゃいけないのは俺じゃなくて、浩太の筈なんだけどな……
佐倉 光
あまりの事態にとうとうタラレバ言ってうじうじし始める佐倉ッ!
KP
無理もないんですよ!!
浩太
「大丈夫です。佐倉さんが無事で、よかった」
彼は色のない声でそう言うと、あなたをそっと腕の中から下ろし、あなたが流す涙を指先で拭いた。
佐倉 光
指先が頬を撫でる感覚が暖かくて、しばらく浩太を見上げていた。
その表情はない。声にも色はない。だがこれは『思いやり』とか『慰め』とか『優しさ』という、感情から生まれる行動ではないのか。
本当に、感情はないのか?
佐倉 光
いや。俺は発露の方法を教えるように言われた。『彼』の感情のあるなし自体については明言されていない。
発露だけができない? そんなことがあるだろうか。

はっと、浩太の目を覗き込んでしまっていたことに気付く。
佐倉 光
目を覗いたときに〈心理学〉はできますか?
KP
〈心理学〉は、意味のある内容が得られないかもしれなくてもよければ、振ることはできる。
佐倉 光
よーし振ろう。
KP
ではクローズドで振ります。
佐倉 光
57ですね。
でもロボットの目だったらフレーバー〈目星〉かもなぁ。
そもそも〈心理〉で読めるような動きないだろうしね。
KP
🎲 Secret Dice 🎲
浩太
人形の透き通った眼には、あなたが窺うことのできるような感情の動きは見当たらなかった。
眼球の動きも偶にする瞬きも規則的で、おもてに出てくる光にはほんとうに色がないのだ。
KP
フレーバー〈目星〉、振ってみても構いません。
佐倉 光
あ、判定なしでいいですよ。知りたい情報は〈心理〉で貰えましたし。
なんか出るなら振るけどw
KP
振るならさっきの情報の延長でなんか出しますが、振らなくても大体分かることは一緒です。
佐倉 光
じゃあ折角だからっ
佐倉 光
1d100 98〈目星〉 Sasa 1d100→ 70→成功
浩太
覗き込んだ虹彩のつくりも色も、あなたが知るものと、全く同じ形をしていた。

それだけを見ていればロボットとは思えないのに、眼球はまるであなたを無機質に走査するように、規則的に動くのだ。
そこに、あなたが探す色のようなものは見つけられなかった。
佐倉 光
綺麗すぎる目の動き。
そうだよな。当たり前だ。
俺はガラス玉の向こうに何を期待していたんだ。
佐倉 光
「傷の手当て、しよう」
目を逸らして乱暴にソデでかおを拭い、救急箱、箒や掃除機を探す。
作り物であっても怪我は怪我。治療しよう。
KP
救急箱を開ければひととおりの道具が揃っていた。

大げさな道具や専門的な道具はないが、包帯やガーゼ、ピンセットまではあり、傷の手当ては問題なくできそうだ。
箒や掃除機については、階段の傍らに用具入れのようなものを見た気がする。
佐倉 光
では、なんとか気を落ち着けてから応急処置を行おう。傷口を洗って、消毒して、必要ならガーゼと包帯で血止めだ。
浩太
傷口を洗おうとすると、彼の手がそっとあなたを押し止めた。

彼を水に入れるな、ということだった。
裂けた内側に水がかかるのも宜しくない、ということだろうか。
佐倉 光
「表面洗うのもアウトなのか。ごめん」
浩太
「いえ、大丈夫です。表面に水が掛かる程度なら問題ないのですが、内部に水が掛かるのはよくないのでしょう」
浩太
浩太は手当てをされた腕を数回軽く振って、動きに問題のないことを確かめた。

滲んでいた赤い液体は、破片を除いて人間にするように血止めを施していれば、しばらくしてあまり滲まなくなりだした。
佐倉 光
「ありがとう、浩太」
浩太
「いえ、佐倉さんに怪我がなくてよかった。
片付けましょう」

彼は平然と傷ついた方の腕で救急箱を持ち上げると、元の場所へ戻す。
佐倉 光
治療が終わった後で、少し惨めな気分になりつつ『喜び/幸福』のカードを見せた。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
用具入れの方へ向かおうとした彼が、模様を目に入れると、安堵したように微笑んだ。

彼は足を止め、あなたの前に屈み込む。
浩太
「よかった……、佐倉さんが無事で、よかった」
確かめるように、後を引くようにあなたの背を抱いて呟く声は、先程とは随分と違って、祈りにも似た切なる響きを湛えていた。
佐倉 光
「う、ああ、気をつける。
そんな気にしなくてもいいよ。おかげで無事だから。
床掃除しよう、危ないしさ……」
あたふたと腕から抜け出して、箒を取りに行く。
浩太
「そうしましょう」
彼は立ち上がって用具入れの方へ向かいながら、無表情に戻る合間、少し困ったようなやさしい顔をした。
佐倉 光
時々牧志にそっくりすぎて不安になるな。
箒とちりとりと掃除機で、浩太に手伝って貰って掃除しよう。
佐倉 光
終わったら気を取り直して食事だ。
佐倉 光
まだまともに感情を教えられていないな……あまり時間がないっていうのに。

KP
少し冷めてしまった煮込みハンバーグを温め直せば、ふわりといい香りが漂った。

嗅ぎ慣れた匂いだった。
あなたが学校から帰ってきた時、キッチンの方から漂ってくる、あの匂いだった。

「お帰り、佐倉さん」
そんな言葉と一緒に差し出される、あの匂いだった。
佐倉 光
「いただきます」
俺が密かに気に入っていて、それを牧志が察していて、よく作ってくれたメニューだ。
もう二度と食べられないはずの味だった。
佐倉 光
どうなってんだ、記憶。ないんじゃなかったのか。
それとも、あいつが『紅』として生まれた事件の時みたいに、牧志の記憶を書き込まれた、とかなのか?

懐かしさと困惑とわけのわからなさで頭がガンガンする。
浩太
「いただきます」
無感情な声でひとこと口にして、あなたと向かい合って彼は煮込みハンバーグを口に運んだ。
その手つきが何となく似ていると思うのは、錯覚なのか、真実なのか分からなかった。
KP
口に入れても、それは幻になって消えることはなかった。
慣れ親しんだあの味と食感が、舌の上をしっとりと記憶で埋めるように、口の中に広がった。
佐倉 光
泣きそうになるのを誤魔化して、
佐倉 光
「美味しいよ」
と一言言い、『喜び/幸福』のカードを見せる。
美味しいものを食べても、作ったものが喜ばれても、嬉しいはずだ。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に失敗。
浩太
「佐倉さん……」
彼の表情が歪んだ。嬉しそう、ではなかった。
辛そうに少し伏せてあなたを見る眼は、カードの認識失敗に過ぎないのだろうが、どことなくあなたを心配しているようでもあった。
佐倉 光
なんかうまくいかないな。
俺の見せ方が悪いのかな。

ただの認識失敗なのに、よりふさわしい表情である気が、した。
佐倉 光
「……なあ、浩太。この料理の作り方……後で教えてくれよ」
ぽつりと呟いた。
浩太
心配そうに見える眼をあなたに向けたまま、彼は「はい」と頷いた。

佐倉 光
食べ終わる頃に、突っ込んだことを訊いてみることにする。
人形とはいえ辛いかも知れない、と彼女は言った。
それはそれで……痛みを教える機会になるかも、しれないし。酷だけど。
佐倉 光
「浩太。君はどういう存在なんだ?
記憶はないと聞いているんだけど、結構色々なことを覚えているように見える。
俺と一緒に暮らしていた記憶は、ないんだよな?」
浩太
「はい。今日以前に、佐倉さんと一緒に暮らしていたデータはありません。

俺は今日、ここで目覚めました。
知識や技能は設定されているものと思われます。その件ですか?」

食べ終わる頃には、彼はまた無表情に戻っていた。
佐倉 光
「そうなのか? 料理の作り方も、【経験】じゃなくて【知識】なんだな」
俺を庇ってくれたのも? あの表情ですら、そうすべきという知識なんだろうか。
佐倉 光
「君は、モデルになった牧志浩太がどうなったか知っている?」
浩太
「いいえ、知りません。
俺にはモデルになった人間がいますか。
彼は、どうなったのですか?」

彼は緩やかに首を振って、逆に問い返してきた。
佐倉 光
「……」
どうしようか、迷った。
自分が既にいない人間をモデルに作られたというのは、あまり良い気がしないかも知れない。
例えロボットでも、シミュレートだとしても、感情があるのだ。
いや、だからこそ早いうちに伝えるべきか。俺のためにも、彼のためにも。
佐倉 光
「死んだんだよ。俺の目の前で。俺を庇って」
佐倉 光
「だからって、彼の真似をしようとか思う必要はないよ。君は別の存在だから」
佐倉 光
「ただ……俺にはどうしたって記憶があるから、たまに変な反応をするかも知れないことを、許して欲しいんだ」
浩太
「……」

無表情のまま、彼はすこし黙った。
なにか言葉を探しているようでもあったし、それはあなたの気のせいかもしれなかった。
浩太
「大丈夫です、俺に問題はありません。
佐倉さんが、望むように扱って下さい」

彼は、あなたにそっと手を伸ばした。
見慣れた形の手を、あなたの手に重ねようとする。
佐倉 光
抵抗したり手を引いたりはしない。ただ胸が痛んだだけだ。
たぶん、俺が最初にこの契約を受けたであろう理由に思い当たったからだ。
佐倉 光
「ありがとう。優しいな」
佐倉 光
「ごめんな、俺、こういう時に教えてやればいい感情が良く分からない」
浩太
温かい手が、あなたの手にそっと重ねられた。
あなたの言葉に、彼は何も言わない。
優しいのか優しくないのかも、その行為に理由があるのかも、静かに凪いだ眼からは読み取れなかった。

気づけば辺りはもう暗くなっていて、外でずっと降りしきる雨の音がしていた。
佐倉 光
「ごめん。片付けて少し休もう」
うじうじするのはやめだ。俺らしくもない。

佐倉 光
喜び以外の感情も教えたいんだけど、なかなかそういう機会もないな。
佐倉 光
脚引っかけて転ばせて怒らせる? 俺の力でできるわけないだろ。

今何時頃かな。
KP
時計を見れば18時だった。
窓の外では、まだ雨が降りしきっている。
浩太
彼は頷くと、皿を重ねてシンクへ持っていく。
流水とスポンジで汚れを軽く流して、傍らの食器洗い機に入れた。

雨の音と微かな食器の音だけが響く空間がどことなく寂しいのは、彼が言葉を発しないからなのだろう。
KP
感情を教える機会について考えるなら、【アイデア】で判定することもできる。(しなくてもよい)
佐倉 光
【アイデア】は本格的に困ったらにしようかな。

佐倉 光
ゲーム機か。そういえばうちにないなぁ。面白いかも知れない。
ハルカがよく言ってるもんな、龍滅がどうとか、ハニワがどうとか。
まずは二人で遊べるゲームを探してみよう。俺も遊んでみたいし。
二人で上手く協力しないと遊べない、アクションパズルなんてどうだろう。
いい感じに驚いたり慌てられるんじゃないかな。
佐倉 光
牧志ってこういうの負けても、悔しがることはあっても怒ったり哀しんだりはあまりしなかったな。
またやろう、次は負けないから、って笑ってた事が多い気がする……
KP
並んでいるゲーム機を眺めれば、
牧志 浩太
へっ、そんなのありか!? くそっ、次は絶対見抜くからな!
KP
そう言って、悔しそうにしながらも楽しそうな牧志の声が、自然と蘇ってくる。
KP
ゲームを探せば、謎解き協力アクションパズルゲームなるものが見つかった。

箱の中に閉じ込められてしまった主人公1と、箱の外にいる主人公2が協力して脱出する……、というゲームだ。
二つに分かれたステージを、互いに協力して道を開きながら切り抜け、一番上まで上ったところで合流してボス戦になるらしい。
佐倉 光
おっ、これ楽しそうだな。
浩太の作業が終わったら呼ぼう。
佐倉 光
「ちょっとゲームでもしないか?」
また「楽しい」しか教えられないかも知れないけど……まあそんときはそんときだな。
浩太
キッチンから微かに、食器洗い機の動く音がする。
彼は皿を入れ終わると手を洗い、こちらへ戻ってきた。
佐倉 光
「ありがとう」
浩太
「終わりました。
ゲームですか? はい、やりましょう」
彼は頷いてソファに座り、コントローラーを手に取る。
佐倉 光
「俺も初めてだしどんなゲームだか解らないけどさ……」
説明の画面を見てルールを把握。
どっちが箱の中かな。シチュエーション的に浩太かな。いや、むしろ逆かも知れないけどね。

ともあれゲームスタートだ。
浩太
彼が座った位置は、箱の中にいる主人公1の方の画面だ。
KP
箱の中で声も届かず、ただ外の様子を見ることしかできない少年が、箱の中の仕掛けを動かすことで外の道が開けることに気づいて、必死に仕掛けを動かしていく。

一方、小さな箱を手に持ち、壁に囲まれて途方に暮れていた少女。
彼女は、突然壁が開いたことに気づく。
勝手に開いていく壁を追いかけて登っていくと、仕掛けと壁に行き当たる。
それを操作すると、箱の中の道が開く。
互いに存在を知らないまま、そうやって協力していく、そんなゲームだ。

もちろん、プレイヤーであるあなた達は互いの様子が見える。
難点はどちらかが詰まると進めなくなってしまうことだが、横から指図してもいいのだ。

謎解きはなかなか歯ごたえのあるもので、時々リアルタイム要素のあるアクションもあってつい熱中を誘う。
佐倉 光
なるほどなるほど。この部屋と箱は連動しているんだな。
佐倉 光
「あ、そこでちょっと止まっててくれ、こっち動かすから。そしたら多分上が空くと思う」
KP
おっと、これはなかなか初見殺しだ! うまく予測できるか、【INT】×5で判定!
佐倉 光
「え、タイマーあり? ちょ、ちょちょ右から急いで回り込んでくれ!」
佐倉 光
パターン読み切るぞー! 
1d100 85 【INT】 Sasa 1d100→ 63→成功
KP
🎲 Secret Dice 🎲
浩太
急いで回り込め! と指示した時、彼は突然のタイマーを読み切っていた!
危ういところで二人とも切り抜けた。
どうにか潜り抜けたすぐ後ろを壁が落ちる。
佐倉 光
「よっしゃー!」
思わず片手をあげて浩太に差し出す。
片手ハイタッチの構えだ。
浩太
彼はコントローラーを持ったままこちらを向いた。
あなたに応えて、一瞬遅れて無表情でとん、とハイタッチする。
佐倉 光
ちょっと間抜けだな。
『喜び/幸福』を出してみせる。
佐倉 光
「こーゆーときはこうだ。『やったー!』」
大袈裟に叫んで今度はこちらからハイタッチ。

覚えさせたい。
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
彼の口角が引き上がると同時に、彼が動きだした。
何の表情も浮かべていなかった顔が、心底楽しそうな笑顔に変わっていく。
浩太
「やった! やった佐倉さん、俺達すごい!」
ぱん、と手と手が合わさって音が鳴る。
まるでその瞬間、心を思い出したかのようだった。
佐倉 光
こんな方向で大丈夫かなぁ!!  って中の人は怖がりながらやっている!
KP
怖いですよね、KPもいろいろ…… こわい! 大丈夫です!
佐倉 光
「おっと!」
佐倉 光
「よっし!  やったな!」
打ち合わせた手を見つめる。
暖かいと思った。
佐倉 光
まるで雛鳥が殻を破っていくみたいだ。
硬い殻の中にすでに雛鳥はいる。俺は適切なタイミングで殻を取り除けばいい。そういうことだ、きっと。
佐倉 光
「面白いなお前!
よーし、次行こう!」
おっと、呑気に楽しんでる場合じゃないな。浩太が感情を学べそうな所があればカードを見せないと。

ゲームの続きをしよう……あまりゲームに集中しすぎて、そういう場面を見逃さないようにしながら。……できれば、だけど。
浩太
「ああ! よし、次行こう!」
温かい手の感触を味わうように少し手を取め、彼は晴れやかに笑った。
うきうきとコントローラーを手にする。
佐倉 光
そんな姿を見るとなんだか嬉しくなった。
模倣かどうかなんてどうでもいいな。
佐倉 光
ヒナドリ経験者ではない佐倉なので、雛鳥という存在に忌避感がない。
本編佐倉なら違う表現をするんじゃないかな。
KP
ああー、なるほど。
KP
おっと、次のステージには騙し討ち要素がある。
素直に協力しても進めるがそれだと進むのが難しく、一度裏切ったように見せた方が楽に進めるのだ。

気が短い相手だとケンカにもなりかねない、思い切ったギミックである。
裏切る?
裏切らずに頑張る?
佐倉 光
ここは、裏切るべきだろう。
面白さ的にも、ゲーム的にも……あ、そうそう、浩太の成長的にも。
予告なしで裏切るぞ!
佐倉 光
「なるほどなるほど、俺がココのスイッチ右にしとけば足場が出るからその間に渡る感じかな?
なるほどー、中央だとやり直せるけど、左だったら更に下へ落ちちゃうんだなー」
で、相手のキャラクターが踏んだらスイッチを左だ!
佐倉 光
「おっ先ぃー!」
浩太のキャラクターを奈落の底に落っことす!
浩太
「あっ、落ちた! 佐倉さん、なんで落としたんだ?」

奈落の底へとキャラクターが落ちていく。
楽しそうな彼はそれでも、悔しがることも驚くこともなく、先程のままの表情でにこにこと問う。
佐倉 光
「……」
佐倉 光
「俺を信じて無様に落ちるの見たら面白いかと思って」
どうしてか、その言葉は胸に刺さった。
ゲームの話だし、浩太を育てるために必要なことだぞ?
なんだろうな、この嫌な感じは。
見せるのは、『驚き/混乱』『怒り/憎悪』『悲しみ/絶望』のカードだ。
佐倉 光
ゲームシステム的に、こうやって組み合わせるのはアリなのかなぁ。
KP
シナリオ的に想定はないんですけど、
 ・普通にアリだろう
 ・面白いし
 ・同時に一つしか駄目ということかキーになっている所はないので
 ・遊ぶときの改変はOKということなので
で通しています。面白いし。
佐倉 光
それなら良かった。
一枚だけで表せるところあんまりないと思うんですよね。
そもそも足りないし!
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
楽しそうに笑っていた彼の顔が、ぐわりと歪んだ。
一番下まで落ちていくキャラクターの顔を見つめて、驚愕に目を見開く。
浩太
「えっ、えええ、そんなのありか!? これそんなことできて……、そんな……、」
彼の唇が微かに震えた。
浩太
「そんな……、」
途方に暮れたように、地面に叩きつけられるキャラクターを見つめる。
浩太
「そっか……。
俺……、置いてかれたのか」
佐倉さんに。

吐く息の余韻で、彼はあなたの名をつぶやいた。
唇に微かに、薄く淋しそうな笑みが浮かんだ。
佐倉 光
今の佐倉の無自覚な心情的にその反応は効くなぁ……
佐倉 光
「……」
なんとなく耐えられなくなった。
面白くなんかねぇよ。
佐倉 光
「お前たかがゲームでそんな落ち込むなよ」
佐倉 光
「いやそうしろってやったの俺だけどさ」
佐倉 光
「大丈夫大丈夫、そのまま進んでみろって。さっきこっちだけで見られた地図によればそのルートの方がむしろ正解なんだよ」
浩太
「大丈夫? そっか……。大丈夫か」
喜びの表情に戻ろうとしているのか、彼は控えめな笑みを浮かべた。
浩太
「ほんとだ……、大丈夫だ」
おずおずとコントローラーを手に持ち、キャラクターを進める。
浩太
「よかった……」
ふわりと彼は笑う。心の底から安心したように。
佐倉 光
「予告しなかったのは悪かったよ。
これからそういうのナシにするから」
浩太
「ううん、大丈夫。驚いただけだから」
浩太
「佐倉さん、これ、楽しいな」
佐倉 光
「そうだな、楽しい」
そこからは普通に協力。ちょっと慣れてきたぞ。ゲームって楽しいな。
佐倉 光
それにしても、感情を教えるとですます調じゃなくなるの、なんなんだろう? 牧志みたいでどきりとする。

KP
あなたと彼は協力してステージを突破していく。
浩太
「あっ、危ない!」
ハラハラするような時でも、ドキドキするような時でも、彼は絶えず楽しそうに笑う。
その中に時々、驚きのような表情が混じった。
KP
一進一退、あなた達は今度こそ協力しながら、着実に進んでいく。
とうとう最後のステージに辿り着いて……、箱が開いた。

四本の腕を持つ、巨大な化け物の目の前で。
あなた達は手をつなぎ、最後の戦いに向かい合う。
佐倉 光
「よーし、相手は所詮木偶だ! ひっかけるぞ!」
闘志は怒り? どうかなー。まあ、いいか!
余計なことは考えずに最後の戦いに挑む。
何か違和感があったらその時でいいや!
浩太
「ああ!」
KP
あなた達は互いを信じ、散開する。
彼は左から、あなたは右から、化け物に向き合う。
地を揺るがす低音の雄叫びとともに、化け物の、柱のように太く鋭い牙を持つ口が縦に裂けた。
浩太
楽しそうに笑いながら、彼は片手の拳を握っていた。
何かに殴りかかろうとするかのように。
片手の拳。痣の描かれた、片手。
佐倉 光
ロボットにまで呪いの痣をつけるこたねーだろと思うんだ。あれは牧志のなんだ。
佐倉 光
闘志か。怒り、かな?
『怒り/憎悪』のカードを見せてみよう。
佐倉 光
「やるぞ!」
佐倉は〈覚えさせる〉判定に成功。
浩太
「……!」
楽しそうにしていた彼の表情が、涙とは違う形に歪んだ。
顔の中心に向かって引き結ばれるようなその表情は、燃え上がる怒りの顔だ。
浩太
「ああ、やるぞ!」
彼は握った拳を突き出すようにして、闘志を叫んだ。
佐倉 光
そうこなくっちゃ。
では気合いが入ったところでボスとの対決スタートだ!
KP
四本の腕を持つ巨大な獣は、その腕を振り回してあなた達を追い詰める。
圧倒的な力を前に、あなた達は絶体絶命の窮地に追い込まれる!

だが、それで挫けるようなあなたではない。
化け物の足元に滑り込め!
KP
【DEX】×5で判定だ!
佐倉 光
1d100 60 【DEX】
Sasaさんねとるな
KP
ねてますね
佐倉 光
佐倉 光 - 今日 1:05
CCB<=60 【DEX】 (1D100<=60) > 37 > 成功
振ってきました
佐倉 光
あぶねぇ、やられる!
やっと動きに慣れてきた。
相手の攻撃の隙を塗って足元に入り込む!
浩太
「捕らえた……!」
KP
互いに息を合わせ、化け物の足元に滑り込む。
不気味に脈動する化け物の核はすぐ上だ。
タイミングを合わせて、同時に撃破しろ!
KP
二人とも1d100を振れ!
佐倉 光
佐倉 光 - 今日 1:11
1d100 (1D100) > 3
浩太
KP - 今日 1:12
1d100 (1D100) > 17
KP
あなた達は見事に息を合わせた……!

化け物の最期の爪を潜り抜け、化け物が倒れたことで崩落してゆくステージの中を、二人は外に向かって駆け抜ける。
二人とも無事でゲームクリアだ!
浩太
「やった!」
エンディング画面の光に照らされながら、彼はあなたに手を差し出す。ハイタッチだ。
佐倉 光
「やった!」
その手に伸び上がって力強くタッチする。
浩太
ぱん! と快い音が響いた。
楽しかった、と言わんばかりに、彼はにこにこと笑う。
佐倉 光
「やるじゃん、まき……浩太」
浩太
「佐倉さんもすごかったな。
裏切られた時はびっくりしたけど、クリアできてよかった」
浩太
そう言って穏やかに笑う声は、いまや豊かな感情と、意思を湛えているようにすら聞こえた。
佐倉 光
「楽しかったな」
佐倉 光
「いやまー、あれはな。諸事情?」
佐倉 光
「もうちょっとなんか別のやろう」
もう少し遊ぼうとする、が。風呂とか入った方がいい時間かな、そろそろ。
ただでさえ佐倉、最近風呂入ってないだろうしな。
浩太
「ああ、楽しかった。面白いな、これ。今度は何する?」
KP
ふと身体の疲れを感じて顔を上げると、時計はもう21時近くを指していた。
どうやら随分、熱中してしまっていたようだ。
続けて何かやってもよいが、そろそろ風呂になど入ってもいいかもしれない。
佐倉 光
「あ、もうこんな時間か」
KP
そう思って気づけば、体に重い疲労と強張りを感じた。

そういえば最近、風呂に入っていない。
そんなことにすら、気づく余裕もなかったのだ。
そんなことを落ち着いて行える場所も、あなたにはなかったのだ。
佐倉 光
風呂かぁ。そうだな、入った方がいいかも。
そういえばなんとなく臭う気もするし……。
佐倉 光
ふと、思い出した。今も雨って降ってる?
あと、中庭って歩けそうな明るさ? 
どうせ濡れるならちょっと様子見ようかなと思った。
歩けそうなら浩太には待ってて貰って、中庭一周してどんなとこか見てこようと思う。
シナリオ的に……
佐倉 光
探索しろ、というところが引っかかるんだけど、浩太連れてると中庭には入れないってとこ、あまり早くに入るとまずいのかなーって気はするんだな!
あと置いて動くって想定されてるのかどうかってとこも。
※たまにKPC置いて行動することに対する想定もストッパーもないシナリオがあるから心配。
KP
「『これ想定されてないかもしれないけど動きたいな』的な場所で動くことについては、フォローが利くシナリオです」とお答えしておきます。

自由に進んでも、進むとまずいところでは意図せぬ進行が起きないようになっています。
佐倉 光
お、じゃあ好きにちょろちょろしよう。
KP
とはいえこれ建物に明かりがないことを考えると、中庭に明かりがあってもついてなさそうだなぁ。
佐倉 光
部屋の中から中庭が見えるなら、それが明かりになるかどうか、ってとこですね。
風呂入る前に濡れることしたいな程度の動機なので、無理なら無理で大丈夫です。
KP
あ、確かに部屋の明かりは明かりになりますね。それくらいかな。
そうなんだよなぁ、池があるんだよなぁ。佐倉さんちっちゃいし。
佐倉 光
後で関わってきそうだなぁとは思うし、今無理に行くこともないかな!!
暗い夜中の外出、アブナイですしね。
KP
ここで探索は面白いなと思ったんですが、如何せん色々考えると状況が悪すぎて。
佐倉 光
さすがに気になるって言ってもそこまでするほどのことでもないですしねー。明日でいいだろってなるわ。
暗くて見えるものも見えないだろうし。
KP
なんですよねぇ。部屋の明かりだよりということは、遠くは見えにくいし。

浩太
「入ってくる? 俺は布団敷いとくよ」
ゲームを終え、また平然とした無表情に戻った彼は、しかし口の端に少しだけ微笑みを浮かべているように見えた。
その声に、少しだけ抑揚が宿って聞こえた。
KP
今もなお、雨は降りしきっている。
昼に比べると少しだけ弱まった雨は、しかしまだ絶え間なく降り続いており、外に出れば濡れ鼠は免れえないことだろう。

外には街灯のようなものが見えたが、点灯していない。真っ暗だ。
この部屋の明かりが、どうにか部屋の周囲だけを照らしている。

外を歩くことはできるが、池に落ちぬように注意しなくては、嬉しくない体験をする羽目になるだろう。
佐倉 光
うーん。池か。そうだよなぁ。
薄暗い中で足踏み外して池に落ちたら最悪だし、万一溺れたらやべぇな。
浩太は来られないし、人気ねーから下手するとそのまま死ぬか病気になりかねん。
佐倉 光
やめとこ。おとなしく風呂入ろう。
そういえば2階に着替えがありそうだったよな。
何か着られる物はないか見に行こう。
佐倉 光
そういえば浩太も寝るのかな。
KP
階段を上った先の部屋は寝室になっているようで、大きなベッドがひとつ置かれていた。
ベッドサイドにはランプの乗ったチェストがあり、部屋の側面にはクローゼットがある。
浩太
二階、高さからして中二階程度の位置だろうか。
そこへ上がると、彼がクローゼットから羽毛布団のセットを取り出していた。
KP
クローゼットの中には布団の他に、子供用と大人用の様々な服が見えた。
そういえば彼は、簡素な服を着たままだ。明日には違う服に着替えるのも、いいかもしれない。

寝間着と下着もある。
タオルはここにはないようだ。
そういえば、脱衣所にタオルと着替え、あれはバスローブだっただろうか、があったのが見えた。
佐倉 光
「ベッド、ひとつしかないのか」
会ったときのこととか、閉じ込められた(?)屋敷のことをちょっと思い出すなぁ。
浩太
「そうみたいだ」
ベッドは彼が5回くらい寝返りできそうなほどに巨大なベッドだ。
彼と一緒に寝るという想定なのだろうか。

そういえば一番最初に出会ったとき、あなたは意図せず牧志と手をつないで眠る羽目になったのだった。
佐倉 光
「これだけ広ければ問題ないか。
二人で大の字になれるな」
佐倉 光
「……懐かしいな」
右手を見下ろして小さなため息をつく。
浩太
あなたの呟きに彼は答えず、何が? と聞いてくることもなかった。
佐倉 光
寝間着を持って行こう。
クローゼットに何か気になるものはあるかなぁ。
KP
クローゼットの中には服の他、毛布や敷布団なども入っている。それ以外に気になるようなものはない。
佐倉 光
「ごめん、布団は任せるよ。風呂入ってくる」
浴室に向かおう。
浩太
「ああ、任された」

KP
風呂は簡素ながら広々とした大きさがある。
浴槽は大人が脚を伸ばして入れるほどで、汚れ一つない表面がつるりと光を反射していた。

洗い場にはシャンプーとリンス、ボディソープが用意されている。
KP
浴槽にはよい香りの湯が張られていた。
雨の音を蒸気が少し遠くして、
小さなあなたが一人そこにいると、置いて行かれた静けさがあなたを包んだ。
佐倉 光
頭を洗う。体を洗う。
汚れを落とすとすっきりして、頭と体が少し冷えた。
身震いをして湯船に浸かった。寒い。寒い。冷たい。
佐倉 光
いて当たり前だと思っていた。
いつか借りを返す予定だった。
いつか俺が大人に育ち直して、あいつが中年になった頃に、助けられた分助けてやるつもりだった。
危険と隣り合わせでも、そんな日が来ることを疑ったことはなかった。
佐倉 光
手を繋がされて目覚めたことも、命がけで戦ったことも、あいつに襲われたことですら、本当に覚えているのはもう俺だけだ。
そして俺を、20年生きてきた佐倉光を本当の意味で覚えているヤツは、もう誰もいない。

その程度のことがこんなに悲しいなんて、どうかしている。
佐倉 光
もう助け合えない。もう手を繋ぐことはない。もう名前を呼ぶこともない。
牧志はもういないのだということが今さらになって染み込んできた。

シャワーを出しっぱなしにして、しばらく感情を吐き出していた。
どうせ水の中だ、何をしても知っているのは俺だけ……

ああ、片目のあいつもいたな。
あいつのことを本当に知っているのももう、俺だけだ。
話したい。話せたら良かったのに。


※風呂の中でしばらく泣いてる。
哀しみの自覚
佐倉 光
牧志の死以来初めて死を悼んで泣いた。
KP
佐倉さん……。
佐倉さんのことだけじゃなく、牧志のそんな記憶を共有しているのも、佐倉さんだけなんだなぁ……。
互いの記憶を共有しているのは、互いしかいなかったんだ。
佐倉 光
波照間さんに話したことも多いだろうし、途中から片目の牧志も共有してるけど、最初から最期まで見てたのは佐倉だけだから。
そして、唯一の救いの片目の牧志はまた、いるのかいないのか分からない立ち位置になってしまった。
KP
片目の牧志の存在を確信しているのも、牧志だけなんだもんなぁ。

KP
🎲 Secret Dice 🎲
KP
ぽた、ぽたと湯船の上から、結露した水が落ちてきた。
冷たい水だった。

シャワーの音と雨の音が入り混じる。
もしかしたら何もかも夢で、あなたは今も、雨の中でひとり泣いているのかもしれなかった。
何の異変でもなかった。
何の危機でもなかった。
今日から先にずっと続いていくはずの日常の片隅で、何気なく道を渡った瞬間に、彼はいなくなってしまった。

死なんてそんなものかもしれなかった。
佐倉 光
だれかが、俺が、囁いた。
佐倉 光
いいじゃないかもう『彼』が牧志だってことにすれば。寂しいんだろ?
悪いことなんてあるものか。あいつはそのために作られたんだ。
あいつは驚くほどにそっくりだ。俺の生活を牧志と同じように支えてくれるだろう。
お前だって満更じゃないはずだ。
佐倉 光
大体この話を受けたのだって、『そういう存在は牧志を呼び戻すための依代になり得る』と考えたからじゃなかったのか?
俺/お前なら、そう考えるだろう?
佐倉 光
今日会ったばかりの作り物に個を与える必要があるのか?
綺麗事はやめろ。誰を優先するか考えろ。
大体、あいつは牧志の穴を埋めるために、牧志になるために生まれているのに、その役目を果たさせないのもまた酷じゃないか……
佐倉 光
浩太は好きにしろと言っていた。
俺が、決めるべきなんだ。
佐倉 光
そういう思考の上での、ゲームで裏切ったときの嫌な感じだったわけです。
本当にどうだったかは分からないけど、自分がそんな話を受けたのならそう考えたんだろうと。
KP
ああー、なるほどなぁ、話を受けたってことはそう考えたんだろうと思ったわけだ……。

コメント By.佐倉 光
牧志がもういないことを噛みしめて行く佐倉。
レプリカは命令に従う……

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一蓮托生か。
まあそれも、悪くはない。

TRPGリプレイ【置】CoC『迷い家は桜の先に』 牧志&佐倉 3

ふと色々な気になることがもやもやと頭の中に浮かびかけたが、全部投げ出して目を閉じた。

TRPGリプレイ【置】CoC『スプーキィ・ポルカ』牧志&佐倉 1

「佐倉さん……! 俺、ここだよ!」

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

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