佐倉 光
「……」
吐き気がする。頭痛がする。
体を弄られたのは俺じゃないのに、腹のあたりがぎゅっと締まる。
佐倉 光
「ごめん……牧志……」
牧志 浩太
「いいよ……、今はこうするしかないんだ。
俺こそ、何だかごめん」
上体を壁にあずけ、腹を抱えた格好で牧志はこちらを向く。
髪が汗でべったりと濡れ、顔色がひどく青ざめていた。
佐倉 光
「……」
言葉を探す。なにか。何でもいい。
佐倉 光
「俺が、ガキの頃にさ……いや、返事はしなくていい。俺が勝手に喋る」
牧志 浩太
「うん」
先程縫われた腹に手を当てて、押さえ込むようにしながら頷く。
佐倉 光
「病院にいるときの話だよ……」

まだ牧志にはした事がなかった、なんでもない想い出でも話す。
夜中に空腹で病室抜け出してうろついていたらフェアリーに出くわして、飴を貰った、なんて話。
佐倉 光
「で、翌日の検査で変な数値が出てめちゃくちゃ怒られたんだ」
佐倉 光
「あー、だから……病院出て、その飴探したんだけど、見つからなくて」
少し、躊躇いがちに語る。
佐倉 光
気晴らしになる話がしたかったけど、いい話題がなかった。
牧志 浩太
「妖精の飴か、独特な味がしそう。
佐倉さん、ほんとに前から彼らと友達だったんだな」
牧志 浩太
「……ヒーホーにも貰ったなあ、チャクラドロップ。いや、箱から出てきて、それが何だったか教えてもらったんだったかな。
もう結構前のことだから、所々うろ覚えだ」
そうしていると腹の不快感から気が逸れるのか、懐かしそうに微笑む。
KP
大丈夫気晴らしになった。
佐倉 光
「あれ囓った波照間さんが、ヘロヘロだったのに突然元気になったし矢は当たるから、絶対危ない薬だと思ったよ。
もう随分前になるんだな。俺が悪魔使いになってすぐの時だ」
『会話』になると少しだけ気分が明るくなる。
だがやはり牧志の顔色と腹部をよく見ながら、いつもより少しゆっくり話す。
牧志 浩太
「分かる、傍から見たらどう見ても危ないやつだよな、あれ。

……そう、もう随分前。
あれから色々ありすぎてさ、俺の記憶のほとんどを占めてたっていうのに、何だか少し曖昧なんだ。
不思議だけど、悪くな……、」

言葉が途切れる。
浅く息を吐き、喉から呻きを漏らす。
牧志 浩太
「くそ……、何かされてるな。
感覚なんてないはずなのに、弄くられてるのが分かる……」
佐倉 光
「……休んだ方がいいか?」
辛いときに話しかけられ続けるのもしんどいからな。
牧志 浩太
「いや、話してよう。その方が気が紛れる。
何もしてないと、ああ何か刻まれてるなとか、そういうことばっかり気になってくる」
佐倉 光
「……じゃあ、ユニコーンの事覚えてるか。女好きのウマ。
波照間さんに召喚されたのに春日さんの言う事しか聞かなかったヤツ」

最近の話ではなく、牧志とは少し遠くなった思い出話をする。
ゆっくりと、牧志のテンポに合わせ、なるべく簡潔に。
お互いに疲れて眠くなるまで。
牧志 浩太
「ああ、覚えてる覚えてる。
面白い奴だったよな、何だかんだでいい奴だったけど……」

時折苦しそうに息を吐き、身体を震わせて呻きを漏らしながらも、
牧志はゆっくりと言葉を繋ぐ。
牧志の因縁
佐倉 光
牧志ひどいことされすぎ。
さすが中の人容赦がないぜ。
KP
いやぁ宛て書きだと合わせて作れちゃうのが恐ろしい所ですね。
佐倉さん途中まで割と見てるだけになってしまう話ですが、苦しんでくれてありがとうございます。
佐倉 光
牧志がそういう存在である事が完全に確定してしまった。
KP
確定してしまいました。
佐倉 光
こうなると前世シナリオもやってみたい所なんだけど、ここの二人の因縁前世から引きずってる事にしたくないんだよなぁ。
そうするとなんか『AND/HAND』の出会いが少し軽くなっちゃいそうで。
KP
そうなんですよねぇ。前世シナリオも気になったんだけど、「あれが初対面だった」ってことの重さは消したくない。
佐倉 光
やるならソロシナリオかなぁ?
KP
かな? と思います。>ソロシナリオ
牧志は牧志単独で因縁を引きずっていて、佐倉さんも波照間とも因縁は無かった、方がそれからの流れがちゃんと重くなる。
あるいは牧志の前世の因縁が無関係な佐倉さんを盛大に巻き込む半ソロな話。
佐倉 光
牧志の前世を誰が作るかにより、ですね。
KP
ですね。
ただ牧志の前世は特定の人物として出てくるんじゃなくて、「そういう因縁がある」ことだけ出てきて二人が愕然とする方が面白い気もするので悩ましい所。

おじいちゃんもそうだったけど、牧志の前世とか過去の人、あんまり特定人物にならない方が面白そうなんですよね。
佐倉 光
痕跡だけが見える感じの、山盛り書物を崩してく感じの話とか……?
KP
何か事件が起きて、その調査で故郷の歴史を紐解いていけばいくほど因縁が明らかになっていく話かも。
故郷の歴史とか家の歴史とか蔵の中の資料とか紐解いていくと、「かつて先祖が神降ろしをした」ことに辿り着くような?

佐倉 光
今日はなるべく起きている努力はする。
話し続けたいのはもちろんだけど、食料などが運ばれてくる時のことを知りたいからだ。
KP
そうしているとあなたの足元の壁がぱかりと開き、そこから食料と水が差し入れられた。

……協力への『謝礼』のつもりなのか、中身はあの白いパンと錠剤から、牧志のそれと同じような味のある料理に変わっている。
佐倉 光
「ちぇ、そういう形式か」
食事が出てきた壁のところをよく見てみる。
KP
残念ながら、それをする何者かの手は見えず、覗いてもその向こうは真っ暗闇だった。
蝶番の類があるようにも見えず、鍵穴もなく、開閉する機構はよく分からない。
身体を通せそうなほど大きな隙間でもなく、必要な物を押し出して、壁は閉じてしまう。

少なくとも、この向こうには何らかの空間があるようだ。
牧志 浩太
同時に牧志の部屋にも、同じようにして食事が差し入れられる。
佐倉 光
どうなってるんだろうな、ここは。
いつもやっている、牧志と考えを共有するための声を上げるのはやめた。
佐倉 光
「腹の具合、どうだ?」
内臓のこともそうだが、なかに詰められたものはおとなしくしてくれているのだろうか?
牧志 浩太
「内臓は相変わらずつつき回されてるな……。

中のやつは戸惑ってるみたいだけど、ひとまずここを巣と認識はしたのかな、今の所食い破ってくる様子はないみたいだ。

食いついて血を吸ってきてるのが分かる。
ずっとじゃないけど、時々鈍い痛みがあって鬱陶しい」
KP
おっと、《SANチェック》忘れていました。
牧志が成功時減少 1失敗時減少 1D2+1、佐倉さんが成功時減少 0失敗時減少 1D2です。
牧志 浩太
1d100 50 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 49→成功
SAN 50 → 49
佐倉 光
何に対する《SANチェック》だろう。
inされた事に関してかな。
KP
おっと、失礼しました。前回の実験(inされたやつ) された時の《SANチェック》ですね。>抜けてた
佐倉 光
1d100 59 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 33→成功

牧志 浩太
牧志は暫くの間腹を押さえて息を吸ったり吐いたりし、少ししてから食事を手に、壁の傍らに寄ってきた。
牧志 浩太
こちらを心配そうに見ながら、牧志は少し躊躇いがちに料理を口に運ぶ。
彼が口を動かす度に、腹の辺りで波打つような動きがある。
佐倉 光
「食事はそっち、落ち着いてからにしよう」
佐倉 光
「あからさまに牧志に決定させてこようとする。
俺が牧志の代わりに決定しようとした事は『協力』と見なされている。
俺が決断を先取りしても意味がないのかな……」

それでも。
『佐倉が選んだので従っている』の方が心理的負担は少しは軽くなるんじゃないだろうか。

何が目的なんだ。
牧志を生贄などにする下準備か何かか。
それとも俺達、マガツヒ絞りでもされてるのか?
二日床で寝た上、いつもの発作が強かったせいか、あまり体調が良くない。
これが続くと思考力がなくなってしまう。
牧志の方もこの調子で得体の知れない物を埋め込まれ続けたら、いつ死んでもおかしくない。
牧志 浩太
「かもしれないな……。
俺の思考が逸れずに済む役には立ってるけど、佐倉さんも、辛かったらいいよ。俺が自分で決めるよ」
佐倉 光
「本当にただの役立たずになるよりはマシだ」
首にぶら下がる鎖を握りしめて、呟く。
佐倉 光
「自己満足だろうが何だろうが、これは俺のためでもあるんだよ」
そうしなければきっと、気が狂う。
牧志 浩太
「そうか、……ありがとう。
じゃあ、言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう言いながら、自分で頷いたのだという決断の端を、きっと手放すことはできないのだろうという、そんな言葉尻だった。
佐倉 光
俺は今なれるものなら、不定形の化け物や巨大な怪鳥になりたい。
薬を飲まずにいれば、なれるのか?
ここで一月、耐える事ができたら……
佐倉 光
そういえばそんな手段があったなーって思った。佐倉の場合一年だからまだまだいける。
KP
なるほど? そういえば。
不定形になれれば首輪からも出られますしね。
佐倉 光
まあ……牧志を脱出させる事ができたとしてもその後は破滅一直線なんで、運良く波照間さんが救出ついでに退治しにでも来てくれないと積む。純正じゃないヤツと契約できないのは分かってるからな。
頼むぞアラミタマ。
牧志 浩太
それから牧志は、あなたより早く眠りについてしまった。
時折肩を跳ねさせながら、彼は苦しげに眠る。
KP
なるべく起きているのなら、佐倉さんは【CON】×5で判定。
佐倉 光
1d100 30 【CON】 Sasa 1d100→ 33→失敗
KP
どうにか目を開いていようとしたものの、体調のせいか食べ物に何か入ってでもいるのか、ずるずると眠気に引きずり込まれていく……。

KP
……それからも牧志は奪われ、すげ替えられ、埋め込まれ、作り替えられていった。

牧志が手伝わされる作業の範囲は日毎に広がっていき、今では自分で自分の身体を切り開かされている。
それどころか、実験の内容さえも所々彼に委ねられている。
……どれを選ぼうとも、内容の酷さに大差はなかったが。
佐倉 光
俺は何のために生きている?
最初は、脱出する事を考えられるのが自分だけだからだ、と自信を持って言えた。
牧志に行われる吐き気を催すような処置を余さずに見て覚える。それが自分の仕事だと思っていた。
KP
あなたの部屋には、牧志が指示を聞く度に物が増やされていった。
あなたが眠気に耐えられずに目を閉じると、翌朝に物が増えているのだ。

寝具、家具、着替え、トイレの衝立など様々なものが揃い始め、あとPCさえ揃えば『あなたの部屋』と言えそうなくらいに文化的な部屋になってきた。

最初と様子の変わらない牧志の部屋に比べて、今ではあなたの部屋の方が随分人の部屋らしい。
佐倉 光
ベッドの追加は有り難かった。
床で寝ると体力が回復しない。思考も雑に投げやりになってゆく。
これで少しはまともに考える事ができる。生き延びて二人で脱出することを考えられる。
少しは人間らしくなったと牧志と笑った記憶がある。
佐倉 光
俺は何のために生きている?
牧志の悲鳴を、苦痛に歪む顔を、無理矢理目を見開いて耐えて見た翌日に、快適そうな椅子が設置された。
吐き気がするのは、牧志の意思が悪用され、ねじ曲げられているからだと
それが望もうが望むまいが、空虚な自分の部屋を快適にする糧になっているのだと気付いた。
椅子には一度も座っていない。
佐倉 光
俺は何のために生きている?
トイレのついたては有り難かった。
トイレに入るほんの僅かな間、牧志の青ざめた苦しげな顔を見ずに済むからだ。
そんな自覚をした時、その場で吐いた。

家具が増える度に居場所が減ってゆく。

いつもならこの状態なら体が精神の影響を受けて風邪の一つも引いているはずだ。
だが憎らしい事に精神がまずくなっている自覚があるのに、肉体の健康は保たれている。

ベッドで休むのは必要だからやめられなかった。
すこぶる『美味い』といえる食事も、余さず食べた。
まともな味が感じられない。灰のようで喉に詰まる。
だがエネルギーは蓄えておかなければならない、常に。
KP
手足を別々の種族のものにすげ替えられてしまったせいで、今の彼は長い尾でバランスを取らないと室内をうまく歩けない。

だというのに、その頭と胴体は人間の、牧志のもののままで、それが却って異様な姿だった。
佐倉 光
俺は何のために生きている?
俺自身も牧志に巣くっている寄生生物と変わらない。

もし俺が死んで、牧志があのドアから出れば脱出できるのだとしても、
牧志は随分と歪められてしまった。まともな生活などできるわけがない。
もう遅いのか。
俺はどこで間違えた。
いや、ここで間違う余地などなく、どこへ進んでも絶望しかなかったのか。
それともこれは、死を恐れた俺への罰か。

佐倉 光
なんかすさまじいことになってきたぞ!
KP
長い実験と、それを見せられ続けたこと+閉鎖空間に閉じ込められていることにより、《SANチェック》。

牧志は成功時減少 1D4失敗時減少 1D10
佐倉さんは成功時減少 1D2失敗時減少 1D6

減少後の値で不定基準値をリセット。
1d100 49 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 93→失敗
佐倉 光
1d100 59 Sasa 1d100→ 49→成功
1d2 Sasa 1d2→1
SANチェック》 59 → 58
牧志 浩太
1d10 Sasa 1d10→7
SAN 49 → 42
KP
牧志は一時的発狂かな。この日の朝に発生するものとします。
牧志 浩太
1d100 90【アイデア】 Sasa 1d100→ 46→成功
KP
ここは短期表で。6番出したら? それはそれでイベントあるので大丈夫です。
1d10 種別 Sasa 1d10→1
1d10+4 持続ラウンド Sasa 1d10+4→ 4+4→合計8

KP
今日はあなたの部屋に本棚が運ばれてきた。
牧志 浩太
あなたは牧志の叫び声で目を覚ますだろう。

彼は不格好な鉤爪のついた手と、萎れた枯れ枝のような手で頭を抱えながら、身の内で無数に脈づく悪夢への嫌悪を逃がそうと声を上げていた。
KP
あなたの「体調には」問題はない。
あなたのいる部屋は娯楽のないことを除けば、物品が揃ってきて快適なくらいだ……。
佐倉 光
本棚に気付いても、暫く見る気力が起きなかった。
ぼんやりとしていて、しばらく耳朶を叩く声に気付かなかった。
牧志が叫んでいる……

のろのろと起き上がって牧志がいる方へ行き、手を差し伸べる。
手は壁にぶち当たって届かない。


もし可能なら〈精神分析〉を。
いや、いっそお互い狂ってしまった方が幸せなのか……


そんな事を考えてはいけない、と手のひらに爪を突き立てる。
お前が何のためにのうのうと生きているのかをけっして忘れるな。
佐倉 光
「牧志」
佐倉 光
※牧志がこちらに気付くようなら〈精神分析〉を試みる。
牧志 浩太
「あ……、」
牧志 浩太
「佐倉さん、おは、よう」
異形の舌を詰め込まれた口から舌を垂らしながら、彼は辿々しく笑う。

あなたの存在がどれだけ彼を苦しめようとも、あなたの声を聴いて、あなたの視線を捉えて、そのとき彼はひどく救われた顔をする。
KP
〈精神分析〉どうぞ。
佐倉 光
1d100 47〈精神分析〉 Sasa 1d100→ 8→成功
佐倉 光
長い時間をかけて語りかける。
これは、牧志の苦しみを長引かせているだけ?
いや、生きるためだ。

ああそうだ、今日は本棚が来たんだ。
一緒に読書でもできるかも知れない。
牧志 浩太
1d3 Sasa 1d3→2
SAN 42 → 44
牧志 浩太
あなたの声を浴びて、少しずつ彼の眼が落ち着いてくる。
内側ではなく外に、彼自身ではなくあなたに視線が向いてくると共に、迸る声がか細い声になり、そして止まった。
縋るように手が壁に伸ばされ、不均一な鉤爪が壁を引っ掻くも、透明な壁は傷一つつかなかった。
牧志 浩太
「ごめん、ありがとう、少し落ち着いた。
……それ、本棚? 本当に、来たんだ」
あなたの背後の本棚を覗き込んで言う。
佐倉 光
とどいた。
ほっとする。鉤爪を指先で追った。
佐倉 光
「ああ、まだ……何があるかは見ていないけど。
ちょっと待っててくれ」
本棚の方へ歩いて行く。どんな本があるのだろうか?
KP
本棚を見ると暗号パズルの本や数学の本、謎かけの本などあなたや牧志が好きそうな本と、怪しげな医学書・魔術書めいた書物が半々になって入っている。
佐倉 光
まずは本棚の本を適当に抜いて床に広げ、牧志が読みたい本はないか訊こう。
あるようならそれを開きっぱなしになるように置く。
今回は趣味的な本を持ってくる。
魔術書や医学書は……後だ。
牧志 浩太
「あ、その本見たことない、やつだ。それ読みたい」
本読むの、随分久し振りな気がする。牧志はそう微笑んだ。
佐倉 光
「オッケー、ページめくりたくなったら教えて」
本を開いて、他の本で押さえる。
牧志 浩太
歪んだ背骨を鳴らしながら、牧志はこくりと頷く。
佐倉 光
自分は本棚の所に戻って、本のラインナップ全体に意図的なものを感じるかどうか見てみる。
特に何も無いようなら今回はパズルの本を持っていって透明な壁のそばで読む。
KP
本棚に戻って全体をざっと見ていると、ふと何かが目に留まった気がした。

【アイデア】で判定。
佐倉 光
1d100 85【アイデア】 Sasa 1d100→ 92→失敗
KP
本棚の半分に詰められているのは、目を背けたくなるような内容の書物だった。
さまざまな化け物の性質にまつわる書物、肉体を弄ぶ悍ましい研究、異なる生き物を一つに繋ぎ合わせる手管……。
この状況に置かれたあなたにとって、読みたくなるような本とは言えなかった。
佐倉 光
本のラインナップを睨みつける。
ここにくる前なら読みたくてたまらない類いの本だ。
今となっては焼き捨ててやりたい本だ。

こんなものを見せて何がしたいんだ。あの男の意図が分からない。
一冊適当に抜き出して、目を通してみる。
KP
【幸運】で判定。
佐倉 光
1d100 75【幸運】 Sasa 1d100→ 97→致命的失敗ファンブル
佐倉 光
あーあー
KP
適当に抜き出した書物は、生きたままの内臓を魔術の触媒にする行為に纏わる書物だった。
追跡したり、体外に取り出したり、体の中にあるまま生け贄にしたり、独自の生命を与えたり……。

そう詳しい内容は書かれていなかったが、内容が多岐に渡りすぎてくらくらとしてくるだろう。
KP
男が牧志の胃に手を触れて何かをしている様子を、あなたはありありと思い出してしまう。

SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
佐倉 光
1d100 59 Sasa 1d100→ 35→成功
佐倉 光
「っう……」
口元に手を当てて吐き気をこらえる。
佐倉 光
大体、脱出の役に立つような本がこんな所に入っているものだろうか?
いや、意外とあるかも知れない……経験上。
何がヒントになるか分からない。

とはいえ、今日は無理だ。

適当なパズルの本を持って壁のそばに戻って、牧志が読んでいる本をめくりつつ読書する。
後でクイズ出し合うのも楽しいかも知れないな。
KP
そうやって暫く、あなた達は読書を楽しんだ。
本のページをめくる音。本の内容に感心して、牧志がぽつぽつと漏らす言葉。

その時間だけを過ごしていれば、いつも通りに家で過ごす時間に、どこか似ていた。
暫くそうしていると、水と食事が壁の穴から差し出された。
牧志 浩太
牧志の食事は人の食事ではなく、見たことのない蟲のようなものになっていた。
彼は長く伸びた異形の舌を使い、それを器用に喉の奥へ送る。
牧志 浩太
「最初の頃は、俺だけ人間っぽい食事だったのに、なんだか逆転したな」
それを呑み込みながら、舌の間から声を漏らして苦笑する。
佐倉 光
「そうだな」
佐倉 光
とうに境界を越えたように見えるのに、牧志は牧志のままだ。
人間らしい部屋にあっても俺の首にはあらゆる自由を殺す首輪がはまっている。
俺たちはこんなちっぽけなものひとつが怖くて、日々を無為に過ごして歪んでゆく。
佐倉 光
「でも牧志は変わってないよ」
牧志 浩太
「ありがとう。俺も、そう思ってる。いつか、ここを……」
その後に続けそうになった言葉を、彼は意識に上る一瞬で飲み込んだ。
佐倉 光
たまには吐いてもいいと思った。それくらいなら耐えてもいいと。
しかしその結果はたぶん、牧志をより疲弊させるだけなんだろう。

牧志 浩太
しばらく、咀嚼と嚥下の音だけがその場に残った。
食事を食べ終えてひとつ息をついてから、彼は本棚に視線をやる。
牧志 浩太
「そうだ。本棚の件、ごめん。
あんまり役に立たなかったみたいだな。
あれ、俺があいつに頼んだんだ。
何か情報が手に入らないかと思ってさ」
佐倉 光
「いや、気晴らしになるよ、きっと。牧志の役にも立つだろ?
さっきの本は、まあちょっと、驚いただけ。
なんにせよ知識だからな、役に立つかもしれない」
佐倉 光
「また読んでみるよ」
牧志 浩太
「ああ、……頼む」
その声にまだ力強さが残っていたような気がするのは、真実かもしれないし、ただの錯覚かもしれなかった。
牧志 浩太
「佐倉さん。
俺さ、少し考えてることがあるんだ。
うまく行くかどうかは、分からないけど……」
KP
牧志が口を開きかけたとき、もうすっかり聞き慣れてしまった電子音ともに彼の部屋の扉が開いた。
佐倉 光
おや、と思う。
さっきもそうだったけど、脱出について考えるとこっちに影響がでるんじゃなかったっけ?
では、脱出の一段階前だろうか。
KP
穏やかな時間が破られる。
牧志が従順にそちらを向く。
彼はもうすっかり慣れてしまったように、嫌がるそぶりすら見せない。
佐倉 光
黙って見つめる。
見ることが役目。忘れたことはない。
KP
「食事は美味しかったかな?」
牧志 浩太
「まあ、それなりには。
本棚ありがとう、面白かった」
KP
「君の思考力は評価しているからね。ところで、胃の機嫌はどうだい?」
牧志 浩太
「嫌がってはないみたいだ、こいつも、俺の体がないと生きられないのを分かってるんだろ」
KP
見ていると、牧志の口数が昨日より多くなっていると感じる。
そういえば一昨日あたりからだろうか、牧志は男と話をするようになった。
佐倉 光
男の信頼、興味、そういったものを引き出そうとしている?
そしてもしや、またなにかを頼むつもり、なんだろうか。

ああ、悲劇の主人公気取っている場合じゃない。
牧志はまだ足掻くつもりだ。
俺もいつでも、足掻くべきときに足掻けるように、力をためておかないと。
牧志 浩太
器具を渡されると、牧志はそれを進んで手に取っているように見えた。
枯れ枝のような指先は、意外としなやかに動く。
牧志 浩太
鋭い鉤爪が自らの肌を引き裂く時だけは、息を呑む音が聞こえた。
牧志 浩太
開かれた腹の中に、意味も分からない印が刻まれていた。
牙のある胃袋が彼のものとは異なる意思でうごめき、外気にさらされたことを抗議する。
KP
男の手が彼の脇腹に伸び、そこを覆う鱗の間にひとつひとつ薄い鰓を刻んでいく。それを体内へと繋げるのは牧志の役目だった。
その合間にも、彼と男は会話を交わす。
悍ましいことに、外から見ていれば全くの共同作業のようにも見えた。
佐倉 光
まさか、とは思うが。
自分の都合の良いように改造をさせるつもり……なんてことは。
ありうる、のだろうか?

今日届いた本棚も、牧志が頼んだものだ。
恐らくはラインナップも。
牧志 浩太
いつものようにカートを引いて男が出ていくと、ようやく牧志の表情に色が戻った。
佐倉 光
「……牧志。辛かったな」
牧志 浩太
「…………ありがとう。
そう、言ってくれるだけで、辛かったんだ、って自覚できる。
あの男に、合わせてると……、分からなくなりそう、でさ」
佐倉 光
「俺にできることがあれば言ってくれ。
見たい本はあるか?
俺が読んでおいた方がいい本は?」
牧志 浩太
「そうだな……、今日は、一緒にその本の謎解き、しようよ。
うまくいったら、その時は……、忙しくなるかも、しれないから」
牧志はあなたの首輪を見ながら、慎重に思考し、言葉を舌の間から滑らせる。
佐倉 光
その本、というのは普通に謎解きの本かな。
それとも本棚全体?
牧志 浩太
あ、普通に謎解きの本ですね。
佐倉 光
「わかった」
謎解きの本を持って壁に寄る。床に毛布を敷いて上にあぐらをかき、壁際で本を開く。
佐倉 光
「お、結構手強そうだな」
牧志 浩太
尾を床に這わせ、歪んだ四肢を引きずるようにして壁際まで近寄ってくる。
牧志 浩太
「だろ、結構、面白そうでさ」
佐倉 光
「強いな、お前は」
久しぶりに思わず笑みが漏れた。牧志を元気づけるため、自分を鼓舞するためではなく。
牧志 浩太
「あ、久しぶりに笑った」
牧志の口から、笑い声のような息が漏れた。
変わらない色の眼が、微笑んでいる。
佐倉 光
「じゃあ、この問題。すげー気になる」
牧志 浩太
「ああ、それ、気になる、気になる。答えの直前までは、行けそうだったんだけど……、いまいち、確信がつかなくてさ……」
佐倉 光
「俺はこうじゃないかと思うんだけど、ここまで合ってるかな……」
牧志 浩太
「ああ、そうか、そういう……、そうか、ここから辿って、こうだ」
分厚い壁越しに、指先が本のページを辿る。

その日牧志はとうとう「考えていたこと」が何だったのか口にしなかったが、その眼には、薄っすらと希望が宿っていた。
佐倉 光
どうして俺は、自分だけで考えなければならないと思い込んでいたんだろうな。
いつも通りに二人で考えればいいだけだったのに。

KP
あなたの部屋にPCが置かれたのは、それから二日後のことだった。
佐倉 光
PC……
スイッチを入れて、ネットが通じるか、どういったプログラムが入っているのかをざっと調べる。
これは武器になりうるか?
佐倉 光
「牧志、サンタが来てくれたみたいだ。映画か何か観られるかな?」
どんなPCだろう。ラップトップかな?
牧志 浩太
部屋の隅でもぞりと、獣のような形の何かが動いた。
継ぎ接ぎされたそれは人間の肌の色を残していたが、もはや頭部以外、殆ど元の形を留めていない。
牧志 浩太
「ああ、よかった、うまく……、いったんだ」
佐倉 光
「ありがとう」
これは牧志が繋いでくれた希望だ。
牧志が牧志である間はまだ、間に合う。
KP
PCは小さなラップトップだ。
動画を見たりインターネットで検索をしたりする程度のことが想定されたもので、ネットは通じるが、有名なサイト以外への接続は遮断されている。
多くのプログラムは実行もできないようになっている。

遮断されている?
KP
〈コンピューター〉で判定。
佐倉 光
インターネットが使える、だって? 最高じゃないか。
キッズ向けのブラウザじゃあ遊べないな。
1d100 85 〈コンピューター〉 Sasa 1d100→ 91→失敗
佐倉 光
迂闊な事はできない。時間をかけてやるしかない。
KP
これだけ遮断されていては、時間をかけて取り組むしかなさそうだ……。

幸い、時間はある。
あの男は、牧志の意思を失わせることはないと言った。
その言葉が信用に値するなら、だが。

……信用に値する、のだろうか。

悪意と興味で弄り回されたように見える歪んだ何かは、身体の不快感を紛らわせようとしてか、部屋の隅を絶えず落ち着きなく這いずり回っている。
KP
佐倉さん、《SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
佐倉 光
1d100 59 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 82→失敗
SAN 59 → 58
佐倉 光
いよいよ首しか残っていない。猶予はないように思える。こんな事をしていて間に合うのか。
佐倉 光
いや、焦ってはいけない。
牧志が身を削って確保してくれた武器だ。確実に使いこなさなくては……
佐倉 光
これだけ刻まれて混ぜ混ぜされても、牧志である事には価値があるのかぁー
KP
あるのですねぇ。
KP
PCの中を見ると、初期状態のように見えた中に一つだけ検索結果が残っていた。
佐倉 光
フォーマットされたマシンではないのか。
検索結果? 手繰ってみる。
KP
「テセウスの船」という有名なパラドックスの解説記事だ。
ある物体を構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれは現在のそれと「同じそれ」だと言えるのか……。という。
もしかすると、あなたも聞いたことがあるかもしれない。
佐倉 光
顔をしかめて唸る。
あの男、これをやろうとしているんじゃないだろうな……?

考えなくもなかった。
このまま時間が過ぎれば、牧志が牧志でなくなってしまうときが来るのではないか、と。
それは、いつだ?
KP
かたり、と音がして、今日も水と食料が差し入れられる。
透明な壁の向こうで牧志は、長くのたうつ舌で紙箱の中を這い回るものを啜る。

痛覚、味覚、触覚、嗅覚、前と変わらないのは視覚と聴覚だけだ。
脳へと情報をもたらす感覚が全て歪められた時、その情報を受け取る脳は、同一でいられるのだろうか?
佐倉 光
少し前の事を思い出した。
肉体が変質して、内側から書き換えられてゆく。
あの時俺が俺でいられたのはどこまでだ?

這い回るものを見つめる。
やはりそこにいるのは牧志だった。
頭以外がつぎはぎのキメラになろうとも牧志だった。
佐倉 光
例え不定形の生き物になろうと、牧志は牧志のままで……いや、あれは現実ではなかったんだっけ。

切り離された牧志の体はどうなったんだ?
あいつが言っていたように生け贄になったのか?

KP
その日はとうとう、牧志の耳に男の手が触れた。

耳と内耳が丸々取り出され、何かぼうぼうと音の鳴る巻き鬚の集合体が、その代わりに植えつけられる。

「人と、話せるようにしてほしい、そうでないと、俺は狂ってしまう、から」
牧志がか細く叫んだ。

「勿論だよ。声を経由はしなくなるが、大したことではないだろう」
男の声は最初に聞いたときよりも愉しげな音を帯びていた。
佐倉 光
牧志の頭が切り開かれるのを、唇を噛みしめながら見ていた。
残り少ない人間の部分が奪われてゆく。
五感の一つが奪われてしまう。

声には出さず、牧志に呼びかけ続けた。
牧志 浩太
それが終わって暫く、牧志は舌の間から蛇の鳴くような音を立てながら、あなたをじっと見ているだけだった。

まさか、聞こえないのだろうか、声が?
佐倉 光
「おい、『声を経由はしなくなる』ってどういうことだ!」
意思の疎通ができなくなるとしたら積みだ。
KP
男は部屋から去ってしまっており、あなたの声に応える者はない。
牧志 浩太
牧志は耳だった所から伸びた巻き鬚を何度か蠢かせていたが、やがてそれらがふわりと空中をうねり、あなたの方を向いた。

蠢く巻き鬚の複雑なパターンを見て、舌の間からしきりに漏れる空気の音を聞いていると、頭の中に何かが像を結びそうになる……。
KP
【POW】×5で判定。
佐倉 光
1d100 75 【POW】 Sasa 1d100→ 82→失敗
佐倉 光
おっと。今日の佐倉調子悪い。
KP
頭の中でぼんやりと像を結び始める何かに、あなたの脳は思わず恐怖で反応してしまう。

意思が判断する前に、あなたは目を逸らす。
牧志 浩太
「、」
KP
そうすると、形を取りかけていた像はふつりと消え去り、あなたの頭は平穏を取り戻す。
佐倉 光
今の感覚は、なんだ。脳を直接撫でられるような、侵されるような。
少しでも許せば溶け込んできて全てを覆い隠しのさばりそうな。
思わず『逃げる』『拒否する』といった反応をしてしまった。
心拍が激しい反応をしていて、脈打つ音が首筋と耳を叩いている。
冷や汗が止まらない。
KP
牧志のみ《SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1》。
牧志 浩太
1d100 44 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 17→成功
KP
あなたの背後には、舌の間から息を漏らす何かの気配だけがある……。

あなたは再び振り向くこともできるし、そのままそれを視界の外へ追いやっていることもできるだろう。
……男が失敗し、それがただのばけものになったのなら、実験は終了し、あなたは解放されるのだろうか?
佐倉 光
しかし……

目を閉じて深呼吸する。
背後にいるのは牧志の筈だ。耳が失われてしまっただけだ。
あいつのままの、はずだ。

意を決して振り返る。
牧志 浩太
振り向いたあなたに、牧志の眼が明確に安堵の色を浮かべた。

複雑に蠢く巻き鬚のパターンが、とろりと壁をすり抜けて、あなたの耳を撫でるような錯覚……。
KP
頭の中にあるイメージが浮かんだ。
牧志 浩太
『佐倉さん、ごめん……、聞こえる? 気味悪いよな。音が歪むせいで、うまく声が出せなくて』
KP
ひとりでに思い浮かぶのは牧志の声のイメージだ。
蠢く巻き鬚の複雑なパターンが視覚から入ってきて、あなたの脳に声を結んでいく。
佐倉 光
大きめに頷く。
佐倉 光
「悪い、いきなりだったから驚いて。そっちの声は多分、聞こえてる。
聞こえている、って言っていいのか良く分からないけど。
こっちの声は、どうしたらいい?」
口を大きめに動かして声を出す。
牧志 浩太
『大丈夫、分かる……、通じる。話そうとする意思が聞こえる』

緩やかに蠢く巻き鬚は、あなたの意識に牧志の声を注ぎ込む。
一度通じてしまえば、視線をずらしても『聞こえて』いるようだ。
佐倉 光
『牧志、これは聞こえる?』
口には出さずに、牧志の姿を見ながら心の中で言葉を紡ぐ。
喋らずに話せるならそれはそれで便利かも知れない……
俺の迂闊な思考が流れる危険がなければ、の話だが。

俺は毎日、二人で脱出することばかり、考えているから。
牧志 浩太
『大丈夫、聞こえる。聞こえる……、というか、何だろうな。
感じ取っているらしいんだ。身体の小さな動きや音、鼓動や首の動き、そんな色々なものから』
佐倉 光
『……あの男の思考は読めないかな。
危険すぎるか』
牧志 浩太
『あいつの思考をか……。
どうだろう、できるかもしれないな。明日、試してみる』
佐倉 光
『……』

ふと思いついて、言葉、という形ではなく、記憶から映像を引き出すようにジャックフロストを想像してみる。
わかるだろ、こう、白くて丸くてさ……
牧志 浩太
『……?』
牧志の眼がぱち、ぱち、と瞬く。

不思議そうに巻き鬚を揺らしてから、『白くて丸くて冷たくて害のない…… ……雪見だいふく?』と、微妙にずれた返答を返してきた。

似ているかもしれない。
佐倉 光
「おしーい!」
もっとこう……ニヤーって。
あの特徴的な笑顔をイメージしてみる。
牧志 浩太
『カボチャアイス? カボチャ……、あ』
牧志 浩太
『分かった。ジャックフロストだ』
人間の口に収まらない長い舌が垂れるせいで、浮かべた笑いは歪になる。
それでも楽しそうに笑ったのが、どうにか分かる。
佐倉 光
『正解!』

不気味と言ってもいい笑顔に笑みを返す。ユニークユニーク。
しばらくそうやって思考クイズしよう。意志疎通の練習だ。
牧志 浩太
暫くそうやって当て物を楽しんでいると、自然に意志疎通ができるようになってきた。
佐倉 光
『思考が読めるってほどの精度じゃないな。おおよその意味が分かる感じかな?』
牧志 浩太
『そうみたいだ。
言葉として発しようとしてくれていれば、大体分かる。
それ以外は、おおよその意味くらい』
牧志 浩太
『あいつの思考が読めるかどうかは、微妙な所かな……』
佐倉 光
『あいつ、人間に理解できる精神構造をしていないかも知れないしな……読むのは危険かもしれない』
牧志 浩太
『確かに。それは……、あるかもしれないな』

佐倉 光
『いい『動画』がないか探してくる。
その間、読みたい本はあるか?』
牧志 浩太
『そうだな、あいつの本もあるんだろ? そこ。

俺にされたことに関わる本か、今の俺につけられたものに関わる本が読みたい』
KP
随分と快適になった部屋の中に、PCは変わらず存在している。
再びPCに向き合うのなら、再度〈コンピューター〉で判定してもよい。
佐倉 光
それっぽい本を探してみよう。そういえば人間へのそういった生物の寄生や移植に関する本はあったように思う。
何冊かチョイスして、読みたいヤツを広げておこう。

こちらは開かれた本の横でPCを広げてPCの中を、そこから辿れる世界を注意深く調べる。
さて、『いい動画』は見つかるだろうか……
1d100 85 〈コンピューター〉 Sasa 1d100→ 99→致命的失敗ファンブル
佐倉 光
あらららちょっと佐倉。
100ファンではないのでセーフ!!(まけおしみ)
KP
あらあらあら。
KP
あなたはPCに手を伸ばし、外部へとただ唯一垂れる紐の先を、慎重に慎重に探っていく。

遮断があるということは、監視もあると見て然るべきだろう。
焦ってはならない。着実に行くべきだ。

ふと画面が移り変わる一瞬に暗くなり、そこに牧志の姿が映った。
悍ましい書物を熱心に覗き込む姿。

その眼が、爛々と輝いているように見えてしまった。

男に従順に従い、自らの手でかけ離れてゆく彼は、もはや脱出など望んでいるのだろうか?

あれから、首輪が恐ろしい音を鳴らすことはない。彼はもはや、脱出など望んでいないのではないか?
あなたを紐の先に繋いだまま、彼は望んで境界を越えてゆくのではないか?

そんな恐ろしい考えがよぎってしまったことそのものが、一瞬あなたの指先を狂わせた。

監視の網にあなたの指先がかかる。
表示される警告。
あなたはそれが記録に残る前にと、急いでPCをシャットダウンする。
……少し間を置いた方がいいだろう。
KP
ファンブルにより、明日はPCを調査することができない。
佐倉 光
「牧志。ごめん……」

次の瞬間、真っ青な空と、そこに並んで立つ自分たちを、想像した。
牧志 浩太
『大丈夫。俺は……、大丈夫だから。
ずっと命を握られてるのは佐倉さんだ。
俺は、大丈夫だから』

あなたが何を思ったのか正確には分からずとも、あなたが何かを……、そう。何か背後の彼を怖れるようなことを、考えてしまったのだ、ということに気づいたのだろう。

少し震えた静かな声が、あなたの頭の中に降ってきた。
牧志 浩太
高く高く抜ける青い空の色が、彼にも見えたのだろう。
彼が目を細めるのが、黒く沈んだ画面越しに見えた。
佐倉 光
俺は悪魔使いだ。異形の姿なんて見慣れた物だろうが。
仲間の姿が少し変わっただけでびびってどうする。
落ち着いて、牧志との新しいコミュニケーションを訓練して、機会を待つんだ。
佐倉 光
佐倉が外の事を考えるくらいで首締めが発生する事はないか。
さすがだな牧志。
KP
思考がはっきり読み取れる精度があったらまずかったかもしれない。

佐倉 光
読書の邪魔をしないようにしつつ、本棚で新しい知識を探す。
食事の時間になったら適当に『お喋り』をしながら食べよう。
KP
本棚には様々な知識が詰め込まれていた。
そのどれにも詳細な記述はないものの、化け物の挿絵を目で追えば、牧志の身体の一部と一致する特徴を持つものらがすぐに見つかる。
牧志 浩太
声に依らない『お喋り』は、何かを食べながらでもできるという意味では、利便がいいのかもしれなかった。

彼の胸のあたりを見ていると、彼は飲み込んだものをそこで咀嚼しているようだった。
佐倉 光
さっきのギザ歯がついた胃袋を思い出す。
実際に食ってるの、あいつなのかな。
佐倉 光
『それでちゃんと食べられてるのか?
エネルギー取られちゃってないか?』
あの状態で一個の生命体として成立しているのがもはや奇跡まである。
このバランスはいつまで保たれるんだろう。
牧志 浩太
『今の所大丈夫みたいだ。
こいつも、俺と喧嘩するより大人しくしてた方がいいって分かってるんだろうな』
牧志は緩やかに腹の辺りを撫でた。
そうして喋っていると、また眠りの時を告げるように、室内の明かりが緩やかに落ち始める。
佐倉 光
「おやすみ……」
声で呟く。そしてベッドに上がって目を閉じ、牧志に向けてもう一度。
牧志 浩太
『お休み』
頭の中に聞こえる牧志の声が、あなたを夢の中へと送った。
佐倉 光
牧志が何を考えているのか、そのために自分は何をすべきなのか、まだ見えない。
果てしない泥の海を、黒い霧の中を、毒々しく青い粘液の中を、溺れながら泳ぎ続けている。
それでも牧志から闘志は失われていないと信じる事で、何とかあがき続ける事ができる……

KP
その翌日、とうとう牧志から顔と髪が奪われた。

人間の頭蓋骨に張りついたぬめぬめとした黒い皮膚に人間の表情や面影といったものを読み取ることは困難で、眼窩の内側で揺らめく二つの眼球の色と、胸から首筋にかけて絶えず蠢いている痣しか、もうそれを見分けることのできる要素はない。

唇を失ったそれは、無数の巻き鬚から絶えずぼうぼうという音を鳴らし、開口部を埋める舌の間から声を出そうとしては、蛇の鳴くような音を鳴らすことしかできないようだった。

顔がない、ということは、昨日よりずっと、目の前のものを異質と感じさせた。
KP
牧志は《SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1D3》。
佐倉さんは《SANチェック成功時減少 1D2失敗時減少 1D4+1》。

また、この日あなたはPCを調査することはできない。
翌日になれば再調査できるようになる。
佐倉 光
1d100 58 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 4→決定的成功クリティカル)!
佐倉 光
極端だよお前!!
って言うかなんで私のダイスこんなに暴れてんの!?
クリティカルの場合最低ダメージでしたっけ……
KP
極端!! です。最小値の1だけ減らしてください。
佐倉 光
SAN 58 → 57
KP
また、減少後の値で不定基準値をリセットしてください。
牧志 浩太
1d100 44 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 64→失敗
1d3 Sasa 1d3→3
SAN 44 → 41

佐倉 光
あれは、牧志だ。
少しずつ削られ続けているけれど、あいつがあいつ自身であろうとする限り、牧志だ。
信じているのに、生理的な反応は止められなかった。
自分が死んだ方がマシだと喚く感情的な自分を抑えつけて殺して、両目を見開いて牧志の覚悟を見続けた。
彼が聞いているかは分からないが、牧志に話しかけ続けた。
牧志 浩太
牧志はいくら音を出しても人の声にならないことに気づき、どうやらずっと声を出そうとしていたらしかった。

舌の間からぽた、ぽた、と明るい赤と黒い赤が混じった液体が垂れてきて、ようやく、それをやめてあなたの眼を見た。
牧志 浩太
『ごめん、……ちょっと取り乱してた』
聞こえる『声』の調子から、ようやく彼の感情を思い浮かべられる。
佐倉 光
視線が勝手に逸れそうになり、
真っ黒なぬるついた皮膚に覆われた頭蓋骨に、ぽつんと浮かぶ薄茶の瞳を見つめた。
佐倉 光
『ああ……そうなるさ。俺も取り乱しそうに、なってる。
俺が刻まれたわけでもないのに、な』
佐倉 光
伝わってくる牧志の声はいつも通りに聞こえた。
それだけで泣きたくなった。

KP
その日あなたは、人間の牧志の夢を見た。
シローと一緒に、三人で朝食を囲む夢。
佐倉 光
楽しかった。
懐かしい夢。いつかこんな日を取り戻したかった。
今は果てなく遠く思える夢。
KP
ふと見下ろせば、あなたが食べているのは牧志をばらばらに刻んだものだった。
あなたの座る椅子は彼の骨でできていて、あなたの着る服は彼の皮でできていて、はっと前に視線を戻せば、そこには空っぽの頭蓋骨がひとつ、ぽつんと置いてあるだけだった。
佐倉 光
誰もいない食卓で小さく息を呑む。
佐倉 光
「…………」
しばらく頭蓋骨を見つめる。そして、両手でそっと支えるように持ち上げ、
見慣れた光がない眼窩を見つめた。
覚悟の上だった。生きたいと願う事がこんな結果を生む事は。
それでもそれは、二人で生き残るためだった。
佐倉 光
真っ暗な眼窩を見つめ、静かに囁いた。
「なあ、牧志。俺は正しい事をしているのか?
お前はまだ、そこにいるのか?」
KP
持ち上げた頭蓋骨が、ざらりと砂になって崩れた。
その瞬間、目が覚めた。

牧志 浩太
『おはよう、佐倉さん』
頭の中に映し出された牧志の声が、夢の中のものだったのか、現実のものだったのか、一瞬分からなかったことだろう。
佐倉 光
はっと息を呑む。
佐倉 光
牧志の声に両目から涙がこぼれた。
両手をぼんやりと見つめる。そこには何も、ない。
佐倉 光
「おはよう……」
今はそこにいないかも知れない牧志に応えて、それから二度瞬きをして、ふと顔を上げた。
佐倉 光
壁の向こうに何かを見つけ、そしてしばらく考える。あれは誰だ。
佐倉 光
ああ、そうだ。牧志はそこにいる。
俺が座っているのは変わらず牧志の骨と皮と肉の上だけど。
佐倉 光
『おはよう、牧志』
牧志 浩太
『何か……、悪い夢でも、見たんだな。冷たくて、痛いものが見える』
ぬめる黒い皮で覆われた頭蓋骨が、ぼうぼうと音を立てながらこちらを向いた。

何かをずっと口に出したがっているような気配を、ふたつの眼の奥から微かに感じた。
佐倉 光
夢であってほしい。ほんの少し先の未来にあれが待っている。
まだ俺は、そこから逸れる手段を見つけられていない。
佐倉 光
『ああ、わりとキツかった……そこにいてくれて良かった』
ずきずきと痛む胸を押さえて返事をする。
胸が痛むって比喩じゃねぇんだな。息が詰まる。声が出ない。
今は声を出さなくても会話ができるから……問題ないな。

ベッドから降りる。服を着替える。用を足して身支度をする。
牧志を踏みつけにして得た物であるからこそ、無駄にしては駄目だ。
牧志がそこにいる限り、俺は正気を保って生き続けて、考え続けなければならない。
俺のすべきことを。
すべきことが分からないなら、それを見つけるために。
牧志も俺も、すり減ってしまう前に。
牧志 浩太
身体を引きずり、化け物はのそりとこちらへ近寄ってきた。
枯れ枝のような手が伸びて、長さの違う指で透明な壁を撫でる。
あなたが痛みに苦しむ時、背を撫でる時の手つきだった。
佐倉 光
『何か言いたい事があるのか?』
佐倉 光
『俺には言えない事か?』
牧志 浩太
化け物は人間の仕草で、首を軋ませて首を振る。
『言えないわけじゃ、ない』
『まだ、はっきり形にしたくない。勝算が、欲しい』
牧志 浩太
化け物は鉤爪と枯れ枝と尾を絡ませて、その場に蹲る。
ふたつの目を閉じて、不格好な座禅の姿勢を取りたいらしかった。
牧志 浩太
声が消えた。
電源を落とされたままのPCに、閉じた目の向こうからゆっくりと焦点が合うのが見える。
それから、あなたの手に。

あえて思考に何も浮かべないようにしながら、牧志は恐らくは、『まだはっきりと形にしたくないこと』の鍵について、あなたに伝えようとしたらしかった。
佐倉 光
壁を引っ掻くような動きに、やはり変わらない牧志の動きを感じ取って、思わず口角が上がった。
佐倉 光
『……』
牧志の思考は読まれる。だからか。
確かに、不確かながら俺には、まだできる事がある。
佐倉 光
『本は昨日の続きでいいか? それとも別のにする?』
思考で返事をしながら、視線に頷く。
佐倉 光
よし、じゃあ俺にできる事をするぞ。
適当な本を出して牧志にはそっちを読んで貰ってPCにはあまり意識が向かないようにする。
同時に俺は三度、ここから出る手段を電脳世界に探す。
牧志 浩太
『ああ、昨日の続きがいい。興味が出てきたんだ』
KP
小さなラップトップは、静かにあなたの前で窓を開く。
PCを調べるなら、再度〈コンピューター〉で判定。
佐倉 光
1d100 85 〈コンピューター〉 Sasa 1d100→ 82→成功
出るときは出る。
佐倉 光
あっぶねぇぇ!
今回も失敗したらどうしようかとおもったぁぁ!
KP
まさかの二回失敗あるかなってちょっとヒヤヒヤしました、今回の佐倉さんなんだか不調。
佐倉 光
今回失敗したら三回目ですが!? 85%で3回失敗は逆に凄い。
KP
それはちょっとKPもびっくりする。
佐倉 光
なんで80近辺のスキル振るのにいちいちビクビクしなきゃいけないんだよぉ。

佐倉 光
PCの前に座る。注意深く探り、手繰る。
KP
改めてPCに触れても、外への接続は監視され、特定のサイトを除いて遮断されている。
……遮断されている?
KP
改めて触れて、あなたは気づく、
遮断時のエラー画面に見覚えがある。
あなたも知る、ある既製品のソフトウェアが遮断をかける時特有のエラーだ。
佐倉 光
「……」
思わず声を上げるところだった。
駄目だ、落ち着いて確認しないと。
手の込んだトラップ、嫌がらせかもしれない。
それにしても、前回ミスったところが塞がれていない、対策されていない、ような。
これも新手の罠か。
KP
成程。人間の肉体を自由自在に弄り回すような奴でも、どうやらITは専門外らしい。それとも、単純に手間でも厭うたか。
どちらにせよ、チャンスだ。
もちろんあなたは、それの弱点を知っている。

確か、それは動作に中継サーバーを必要としたはずだ。うまく中継サーバーを乗っ取れれば、そこを足掛かりに施設内のネットワークを掌握できる……、
つまり、〈このPCからうまくハッキングできれば、この施設を乗っ取れる可能性がある〉ということだ。

……長い長い隷属の果てに、どうやら相棒は、反撃の時間を持ってきてくれたようだ。
KP
〈芸術:ハッキング〉で判定。
佐倉 光
最低限のツールで、原始的な手段で、潜る。はずす。
相棒がされたように、今度は俺が作り替えてやる番だ。
1d100 86 Sasa
1d100→ 74→成功
佐倉 光
手応えあり!
ここから先は、どこをどう叩けばいいか知っている!
今ここで俺は自由だ。
KP
あなたは遮断ソフトウェアからの接続になりすまし、中継サーバーへの接続を手に入れる。

こうしてしまえば監視に掛かることもない。それが行う接続は監視の外にあるからだ。

しかし不審な挙動をすれば、サーバー側のウォールに掛かってしまうだろう。
それに、あなたが手に入れたのは接続だけだ。ここからじっくりと、そのサーバーをあなたの根城に作り替えていく必要がある。
しかし、重要な事実がある。
肉体は首輪に繋がれていようと、もはやあなたは無力では、ないということだ。

コメント By.佐倉 光
遠慮なく盛られる癖……酷い描写。
中の人にPCイジメシナリオを作らせたらこうなるんですよ!

……えっ、死にまくりシナリオ? そんなのもありましたね。

TRPGリプレイ【置】CoC『忌胎』 佐倉&牧志 7(終)

「今回のことは、ずっと覚えとく」

TRPGリプレイ【置】CoC『俺の部屋のカーテン幅が足りないんだが』 佐倉&牧志 1

「ちょっとやりすぎたみたいなんだよ……」

TRPGリプレイ【置】CoC『一蓮托生の紐の先』 佐倉&牧志 6

一蓮托生か。
まあそれも、悪くはない。

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


TRPGリプレイ【置】CoC『骨組みだけの宇宙』 佐倉&牧志 1

「……大丈夫だよ。手を握ってても大丈夫。だから、いつもみたいに話そうよ」
「ああ……努力する……」

TRPGリプレイ Zephyranthes 第七話 『crossroads』1

『crossroads』1

TRPGリプレイ CoC『CoC6:都市伝説課 おまけシナリオ よ⇔×そ! 迷▼≠役∀都市▱説課へ!』柘榴&枇榔 1

「いってらっしゃい、職員さん」
「いってらっしゃい、職員さん」