佐倉 光
サマナーで悪魔退治屋。ハッカーでもある。
基本、知性・理性・効率、そういったものを重視する冷静な青年。とある事件より、体中の痛みに悩まされている。
基本悪魔を召喚して戦うが、悪魔との契約のカードを使ってその力を一時的に借りることもできる。
巻き込まれ体質らしい。
牧志とは友人。
牧志 浩太
お人好しで温厚、だが意思は強い好青年だったが……。
とある事情で二年より前の記憶の大半を失い、代わりに悪魔使い波照間紅の記憶を持っている。
首から胸へと続く奇妙な【契約】の痣がある。たまに痛むという。
生贄体質らしく、事件に巻き込まれることが多い。
佐倉とは友人。
シロー
とある事件以来、特殊な事情のため二人が面倒を見ることになった少年。
超美形で類い希な理解力と知性を有する。
年齢は7歳程度。生育環境が特殊だったため、一般的な教育を受けていないので、言語が年齢の割に幼い。最近になって急に一般的な生活を送り始めたので、外界への興味が強い。
牧志浩子と五人
少し前に現れた6人の異星人。佐倉と契約して彼の仲魔として存在している。
その正体は、何にでも変身して喰らい殖える不定形生物だったが、事故により『人間』としての意識を持ち、増殖を抑えてこの星での人間との共存を試みている。
── 一蓮托生の紐の先は、どこまでどこまで落ちてゆく。
よろしくお願いします!
こちらもログ貯まってるからなるべくそれ優先しつつやろうかなと思います!
ではゆっくりと。
ログチェックきたらこちらもそっちを優先します。
・中盤に対抗手段を入手するまでは、事態を打開できません。
もがくのは自由。
・描写を事前に用意していないため、レスポンスがやや遅めになります。
あなたはふと、目を覚ます。
見慣れない無機質な白い壁が目に入った。
首が重い。何かに束縛されているような、微かな息苦しさを覚える。
手足は自由だ。
いつものように仕事に出かけた所から、記憶が飛んでいる。
白い部屋も息苦しさも、常に酷い記憶とともにある。
手足が自由だ。ラッキーだな。首の重さはよく分からないが……
どこからか牧志の声が聞こえた。
姿を探す。なにか起きているならまず合流しなければ。
起き上がろうとする。
太い鎖だ。
自転車のロックのような、ビニールでコーティングされて中にワイヤーか何かを通された太い鎖が、あなたの首に繋がっている。
幸いといっていいか、見た目ほどの重さはない。
また、起き上がると足元に布があるのに気づく。
床に直接毛布が敷かれ、あなたはその上に寝かされていたようだ。
怒りよりまず困惑。そして馴染みのある声が確たる意思を持って話しかけてくることに安堵。
同じ白い部屋の中、少し離れた所に牧志の姿がある。
彼に鎖は繋がっておらず、向こうには白いベッドがひとつある。
鎖を辿って外せる場所がないか探る。
それこそ、まるで犬を繋ぐように。
首輪に継ぎ目は見当たらず、鎖の反対側は壁の一角にしっかり固定されている。
力を加えても動く気配がない。
鎖の長さは、部屋の中なら歩き回れそうな程度だ。
見れば見るほど、自身が小屋に繋がれた犬になったかのようである。
首輪にはいい想い出がないんだ。いい想い出があるヤツもレアだろうけどさ。
さすがに人に要求はしなそうだし。
佐倉さん見送って大学に行こうと出かけたはずなのに、起きたらここにいたんだ。
そっちとは透明な壁で仕切られてるみたいで、叩いてみたけど割れそうにない。
扉らしいものはあるけどノブやレバーがなくて、押しても引いても揺すっても開かなかった」
その手は途中で、透明な壁に行き当たった。
よく見れば微かに光が反射していて、確かにあなたと彼の間には壁があるようだ。
彼のいる部屋の壁に、扉らしい継ぎ目がひとつ見える。
透明な板に近寄って叩いてみる。破壊できそうに見えるだろうか?
声は伝わっているようだが、壁越しに聞こえる感じ? それともスピーカーか何かから?
これだけ厚みがあるのに、何もないかのように向こうがはっきり見える、不思議な素材だ。
声は壁越しに聞こえているように思われる。
牧志は壁の一角を指す。そこに操作パネルなどはないが、確かに他の場所と色が違い、取っ手のような窪みと僅かな継ぎ目が見える。
首輪は首に吸いつくように嵌まっており、指を入れる隙間もない。
また上位存在の悪ふざけか、それとも悪意ある実験か何かか。
思わず監視カメラを探す。
牧志はそう言い、取っ手のように見える窪みに手をかけて揺すったり、体重をかけて押したりしてみせる。
果たして本当に扉なのか、動く様子は全くない。
ベッドと扉のような何か。窓や他の家具といったものはない。
持ち物はないだろうか。COMPは? スマートフォンは?
牧志の方の格好と持ち物についても確認する。
部屋を隅々まで見て、意味ありげな出っ張りだの文字だのないかチェックする。
同じく身につけている物だというのに、COMPはしっかりと奪われている。
着せられている服も、簡素な病衣のような白い服だ。
服装もあなたと同じものだ。
簡素なカーテンで隠されたトイレだ。これは重要だった。
それ以外には本当に何もない。
あなたのいる方の部屋には、出入り口すらないように見える。
大体こういう時ってなんかされてるんだよな。
思わず首筋を撫でる。
何かの跡があったり、ということはないようである。
トイレ開けて見てみる。
言って、ふと言葉を止める。
今の自分の状況で飯っていうと?
やめよう。考えても意味がない。
幸い、臭いはない。
水は……便器の底に少し溜まっているが、飲用すべきではないだろう。
厳重なのか、単なる悪意なのかもよく分からないし。
せめて、何か意図の分かる物くらい置けよ」
雑すぎる扱いに少し腹が立ってきた。
床に置かれた毛布を持ち上げバサバサと振る。何もなければ畳んでその上に座る。
畳んで座ると床の冷たさが少し和らいだ。
牧志は透明な壁に近づき、あなたに背を向ける。
1d100 98 Sasa 1d100→ 78→成功
髪が一房切り取られ……その下に、傷のようなものがある?
牧志、もっと寄って、後頭部、このへん、両手で髪を分けてこっちに向けてくれ」
牧志は言われた通りに髪を掻き分け、こちらに見せる。
そこに……小さな傷がある。
自然についたとは思えない、鋭いもので切り、縫い閉じた傷だ。
切られた皮膚の下が、何か固い物でも入っているかのように、微かに膨らんでいる。
閉じた跡だけが見えるんだ。何かがはみ出しているって感じじゃない……」
透明な壁を怒りにまかせて叩く。
触れれば何かができるというわけではないが、それでも壁で隔てられている事に焦燥を感じた。
自分の後頭部に手を触れてみる。同じような場所になにかあるだろうか?
牧志が落ち着いているようなら見て貰う。
頭蓋骨のすぐ上までリードを入れているからね」
牧志のいる部屋の扉のような場所がスライドして開き、白衣を着た男が一人入ってくるのが見えた。
あなたの首輪が、ピッと高い電子音をひとつ鳴らし、そして。
首の骨が立てる嫌な音が、頭蓋へと這い上がる。
凶暴な収縮に気道が圧迫され、急激に呼吸が奪われる。
視界が苦痛に瞬く。
その時初めて、首輪の内側に小さな突起があり、効率的に気道を圧迫することに気づくだろう。
これは呼吸を奪うための道具だ。
首の異常から逃れようとするように両手で首輪を掴んでのたうち回る。
が、すぐに動けなくなりなすすべもなく床で身をそらす。
口の端から泡が漏れる。視界がちかちかと瞬く。
何も考えられず、喉の痛みとともに訪れる命の危機に戦慄する。
喉を押さえ込まれる激痛と酸素の欠乏による危機感が、せき止められ膨れ上がっていく頭の中で激しく頭蓋を叩く。
首輪が緩められ、肺へと空気が流れ込んでくる。
そうしている間に、あなた達を見下ろす男の背後の扉は、元のようにぴったりと閉じていた。
その小さな拘束で、あなたの生命をも意のままにする道具なのだ。
そんなものをつけられていると分かった佐倉さんは《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1d4+1》。
それを目の当たりにした牧志は《SANチェック:成功時減少 1 / 失敗時減少 1D3》。
SAN 61 → 60
1d3 Sasa 1d3→3
SAN 56 → 53
喘いで息を吸う。どうしようもないと分かっているのに首もとに手を当ててしまう。
咳き込んで、呻いて、そこでようやっと自分に何が起きたのかを悟る。
これは牧志への足枷だ。
床に這いつくばったまま、男を観察することをなんとか思い付いた。
何かのコーティングでもされているのか、室内を照らす無機質な照明に男の眼鏡が光り、口元に浮かんだ薄い笑みを除いて表情が窺えない。
痩せた体躯の男はどこか勿体ぶって、薄い唇を開く。
「その首輪は牧志くん、君が脱走を考えると締まるようになっている。
死ぬようにはなっていないが、彼を苦しめたくなければ、滅多なことは考えないことをすすめるよ」
男は意味ありげに自らの後頭部を叩いた。
諦めない性分の人に酷いことをするな。
声を絞りだし、男を睨み付ける。
牧志と男との間にさほどの距離はないというのに、男は余裕ありげな様子を崩さなかった。
「牧志くんに、私達の実験に協力して欲しいだけさ。
私達は君の素質を買っていてね。
佐倉くん……、だったかな。
牧志くん、君がそうしてくれるなら、彼の命と食事は保証しよう。
何なら、住環境だって改善する用意はあるよ」
「断るって言ったら、どうする」
ああ、その首輪にはもう一つ仕掛けがあってね。
彼の命を奪うこともできるんだよ」
何気ないことのように、男はとんとんと指で首を叩く仕草をした。
頭のなかに渦巻く悪態を漏らさず、ゆっくり立ち上がる。
これは役立たずより酷い。ただの足手まといだ。
飢えに乾きだ? どれだけ付き合わせる気だ。俺が衰弱して死ぬまでか?
実験、とは何だ。わざわざ人質を取る必要がある?
牧志の特性。いわゆる生け贄体質、降霊に適正があることか?
男はうんうん、と頷く。
「まず考えているのはその痣の消去かな。皮膚を切り取ったり、レーザーで消そうと試みるとどうなるのか。
肉を採取して、採取した肉の魔術特性の観測と、儀式への使用。
体内にある臓器への直接魔術行使実験。
それから寄生種族の人工播種実験や、本来寄生しない種族の播種実験……
ああ、大丈夫。牧志くんが死んでしまったり、意思を失うようなことはしないからね。
君の思考と経験も随分興味深いものだから、そんなことをしては勿体ないからね」
二人とも、《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1》。
牧志はじっと唇を引き結び、その悍ましい内容を告げた男の顔と、あなたの首輪を交互に見遣った。
そんな実験にどうして人質がいるんだ。
どれもこれも牧志の意思なんて関係ないじゃないか。
どうして真っ先にそんな内容が?
いや、アナライザーに反応するほどの強い残滓があるのだから、なにかがあると思うのは不思議ではないのか。
こいつらこのアザの意味を知っているのか?
物理的に契約の痣を消すなんてことができるのか?
そんなことをしたら、牧志に反動がくるんじゃないのか?
大丈夫、ちゃんと観測しながらやるからね。
牧志くんを死なせたりしないよ」
男はあなたを一瞥すると、再び牧志に視線を向ける。
「協力、してくれるよね?
大丈夫、他の人間は巻き込まない。
彼にも何もしない。
君が協力してくれるだけでいいんだよ」
男は口元だけで牧志に笑いかける。
「それじゃあ、準備をしてくるからね。
ああ、牧志くん、君が部屋から出ると佐倉くんが死ぬようになっているから、気をつけてね。
電極を壊したりしても同じだから」
男は一方的に言葉を投げると、扉を開けて去っていった。
ひどいや
あの話の後にこれってひどいなとは思いました。
そんなことをする意味が分からない。
全てが無駄になるじゃないか……」
低い声で呟く。
殺せば、牧志につけられた枷が外れるということだ。
理屈で考えるなら、益がない。
俺は正直、問答無用じゃないってのが逆に不気味」
牧志は大きな溜息をついて、その場に座り込んだ。
怖いのか、扉からは背を離している。
生体マグネタイトは感情から生まれる。
召喚がどうのと言っていたから、精神的苦痛が影響をする可能性はある……」
だとしたら俺の生死さえあまり意味をなさないのかも知れない。
結果牧志の精神がどう動くかだけが大事で……
いや、決めつけるのは危険だ。
本物の馬鹿どもで、牧志が逃げて俺が死んだらそれまでで、牧志がそれで逃げやすくなる可能性もあるんだ。
拉致の仕方から言って悪魔の可能性も結構ある」
正直唐突過ぎて、異界経由で悪魔に攫われた、って方がまだ納得行く。
悪魔なら、あれこれ言ってたけど単に人間甚振ってマグネタイト吸いたいだけ……、だったりしてな。
された方としては迷惑過ぎる」
あなたの眼を見て、牧志は困ったように苦笑した。
気を抜くと、思考がそっちへ行きそうになる」
その方が互いのためかも知れない。
姿が見えなければ、存在を無視する事もできるかも、しれない。
とりあえず牧志が部屋から出なければ、俺は死なない、らしい。
ここ他に何もないし、参ってきそうだ。
でも……、そうだな。
何もされないに越したことはないし、耐えてれば何か、状況が変わるかもしれない。
そういうこと……、だよな?」
あなたは牧志に『実験に協力してくれ』と頼むことができる。
『実験に協力するな』と頼むこともできる。
あるいはそのどちらも言わず、彼の判断に任せることもできる。どうする?
現状、牧志に思考の自由が利かない以上。
俺が考えて、判断する必要がある。
牧志は少なくとも実験では死なない。
俺は牧志があいつらに協力する限りは死なない。
問題は、内容だ。
俺の方は気道を潰されるのは耐えられるものじゃない。
飢えに乾き。首締めよりは長時間稼げる。いつまでもってワケじゃない。
実験に協力しないことにして、始まるのは兵糧攻め、それだとたいして状況が変わる期待ができない。
部屋を出て逃げる、は?
論外。死なないにしてものたうち回る俺を放置して出て行けるようなヤツなら、そもそも俺は今ここに生きていない。
分からない事が多すぎる。
牧志に何がされるか、それに牧志が耐えられるか、がわからない。
それに実験が行われるなら、外へ通じるドアが開くチャンスも増えるだろう。
少なくとも今は、情報を得る事が優先だ。
何度も俺がのたうち回るようじゃあ、牧志は考える事ができなくなる。
耐えるためには理由が必要。
そちらへ思考を向けなくても済む、理由が。
ここは悩みますよねぇ。
ふっ、と牧志の口元が和らいだ。
その一瞬安堵の息をついたような、一度でもあなたに問うたことに良心の呵責を覚えたような。
佐倉さん。ごめん、これからのこと、頼む」
先程の白衣の男が、様々な機器を載せた銀色の大きなカートを押して室内に入ってくる。
俺は人質。だからって何もできないわけじゃない。
俺がすべきことは、見て記憶する事だ。
任せて貰えるように頑張れよお前。
男の声が、少しばかり愉しげに聞こえるのは錯覚だろうか。
眼鏡を苦々しく睨み、牧志が口を開く。
だから、佐倉さんを殺すな。辛い目に遭わせないでくれ」
では、そこに寝て、服の上をはだけて。胸をこちらに向けてね」
嫌悪に耐えているのか、強く瞼を閉じた牧志の目元が、時折びくびくと動く。
白い照明に、ノズル状をした器具の先がぎらりと光る。
その先が牧志の肌に向けられると、見る間に何かの灼けるような音が立ち、痣の下で肌が微かに泡立つ。
あなたの耳は男の声の調子を、歯を食いしばった牧志の喉から漏れる微かな唸りを、肌の灼ける音を、そんなものばかりを明瞭に聞き取ってしまう。
思わず叫んでいた。
無能か。無能だ。
そもそもが、悪魔の気配を纏わせた契約の証を物理で消そうとするのが間違っているだろうが!
少しでも、上手く行けば痣を消せるかもしれない、などと考えてしまった事に後悔した。
1d100 60 《SANチェック》 Sasa 1d100→ 80→失敗
SAN 60 → 59
少しずつ音が大きくなり、牧志のこめかみから脂汗が流れても、あなたが叫んだ通り、なにひとつ変化がない。
「ああ、やっぱり随分深く染みついているんだね。
では、もう少し見てみようか。
麻酔はするから安心して。
はい、少し胸を張ってね」
男が長い針を備えた注射器と、大ぶりの薄い刃物を取り出す。
男が牧志の背後で身じろぐ。
彼が一瞬、目を見開いた。
再び、微かな呻き声。
男が刃物と器具を走らせる。
牧志の肌がその下の脂肪ごと紙でも剥がすように巻き上げられ、血が見る見るうちにその下を真っ赤に染めていく。
想像するならばその痣は、その下にあるものにも染みついているのだろう。
それは肉体はおろか、魂にまで染みついた刻印だ。
あんな事をしても剥がせるような物ではない。
完全に食い込んでいるのだ。
彼が異形と化したとしても消えはしないのだ。
佐倉さんは《SANチェック:成功時減少 0 / 失敗時減少 1d2》。
1d2+1 無理もない Sasa 1d2+1→ 2+1→合計3
SAN 53 → 50
ここまで染みついていては、中身を丸々すげ替えでもしなけりゃ取れないだろうね」
男が牧志の胸を覗き込み、興味深そうに囁いた。
うなり声を上げる。
「これだけで? そんな勿体ない。
彼の興味深い所はこれだけじゃあないよ。
どちらかと言えば、これは原因ではなく結果であることだしね」
男は言うと、腕をだらりと垂らしたまま呻きを漏らす牧志の身に刃物を走らせた。
男はそれを大事そうに傍らのトレイに乗せて閉じると、カートの中段から何かを取り出した。
それは人間の皮のように見えたが、絶えず泡立ち蠢いていることで、そうでないことを示していた。
それは馬鹿な悪魔使いが悪魔に騙されて契約した証だ。牧志自身とは関係ない!」
きっとそう作られたんだろうね。
私でなくとも誰もが欲しがるよ。
それだけじゃない。何度も耕され、育てられている。
佐倉くん、彼、何のための素材なのか知っているかい?」
男は蠢くものをひらりと持ち上げると、牧志の開かれた胸に容赦なく押しつけた。
叫んで、ふと、そう思った事があるような気がした。
『とびきり良いマグネタイト、血液、精神力、最高の生け贄体質。 便利な……』
そんな馬鹿な。
そんな記憶はない。そんなことはなかった。
しかしあの男の言葉が腑に落ちてしまう。
それなら是非聞かせてほしいね」
肌に沿わされた『それ』の表面に痣が浮き、牧志の肌と同化していく。
牧志の腕に針が刺され、流された血の代わりだろうか、赤黒いものが管を満たしているのが見えた。
一通りの止血と処置を終えると、男はカートに機材を片づけ始める。
彼の肉体がどこまで彼としての特性を保つのか、というのがテーマの一つでね」
変質させる気か!?」
完全に変質させはしないよ。
それに、彼の身体の一部はきちんとこちらで保管して使わせてもらうよ」
〈聞き耳〉で判定!
電子制御なのだろうか。
しかし、男がカードキーや何かを持っていたようには見えず、何か操作していたようでもない。
遠隔制御か、非接触式の何かを鍵としているのだろうか?
しかし牧志がそれを奪おうとするとこちらに苦痛か死か、まあ何かあるんだ。
まずはあの「思考を読む」とか抜かす装置を何とかしないと……
そういえば俺の方はどうなんだ?
後頭部に触れる。
俺の思考は読まれていないなんて保証は、ない。
まだ上体を起こせないらしく、横たわったまま、汗でびっしょりと濡れた髪を手で拭う。
少しずつ動きが弱まってはいるものの、胸に張りついた皮膚はまだ小刻みに蠢いている。
このままだったら今日眠れるか微妙」
しらないなー
その言葉を聞いて、牧志は蠢く胸に手を当てた。
あいつの子供だ。
あいつ、いただろ。俺に痣つけた張本人。あいつの。
妙な確信がある」
あいつ。
分かっていたはずなのに、そこを見つめようとすると、考えようとすると、
よく知っている気がするのに脳からすり抜けてゆく。
牧志が何をされているのか分からない。
同じ部屋にいれば何かができるわけでもない。
それでも壁がある事が歯がゆくて、壁に拳をぶつけた。
疲れていたのか、いつの間にか眠っていたらしい。
HP 10 → 9
リセットしていいですかー
ひどいはなし
牧志が〈神話〉巻き添えクリティカルするんだもんなぁ……
親和性ありすぎたか。
意図が読めなくてやだわー。
毛布越しに感じる床の硬さが、体の節々を痛ませる。
目の前にプラスチック製の水差しに入った水と、弁当箱くらいの大きさの紙製の箱が置いてある。
いつもの痛みだ、と思うが、お守りを握りしめても苦痛は去ってくれず、
頭から毛布を被って痛みに耐える。
よりによってこんな時に、こんな強烈な奴が来なくてもいいじゃないか……!
今日こそばらばらに千切れるのではないか。
そんな妄想じみたものを抱えて、声を出さないように息を詰める。
首を戒める首輪の冷たさ、肩にかかる鎖の重みが、痛みに苦しめられる身体をより苛む。
気づくと牧志が心配そうにこちらを見ていた。
透明な壁に阻まれて、彼の手はあなたに届かない。
譫言のように返事はしたが、聞こえたかどうか。
落ち着くまで耐えて、回復魔法を試みよう。
1d100 53 《ディア》(〈応急手当〉) Sasa 1d100→ 44→成功
胸の違和感も慣れられる位にはなったし、痛みも不気味なくらい残ってない」
牧志は複雑そうに胸を撫でた。
そんな彼の背後にも、あなたの部屋にあるのと同じような紙製の箱と水差しがある。
牧志が昨日「移植」されたところってまだ蠢いてるのかな。
それで痛みも熱も残ってないって、気味が悪すぎる。
血も流れてたっていうか吸い取られてたのに、血が足りない感じもないしさ」
牧志の指の先で、痣のついた皮膚が微かに泡立ちながら蠢いている。その様子は、痣がうねうねと動いているようにも見えた。
昨日に比べてその動きは弱く、見間違いだと思いたければ思えるかもしれない程度になっている。
痛みも熱もないってことは、適合してるって事か、麻痺してるって事か」
侵蝕されている、などということは言っても益がないと思ったのでやめた。
それも嫌だな。言ってもしょうがないけどさ」
病衣を着直す。
紙箱を開けると白いパンのような食べ物と錠剤、それから薬包紙に包まれた顆粒状の粉が入っていた。
箱の裏側に説明が書かれている。それらはビタミン剤と食物繊維だそうだ。
……牧志の方にはちょっとした野菜と肉の盛り合わせのような、何か色のある食べ物が見えた。
それにしても逆じゃないのかって気もするけど。
研究対象の栄養をコントロールするためにこういうの使うのは分かるんだけどな」
さっさと錠剤と粒剤を口に流し込んで水で飲む。
どれかに毒が仕込まれている可能性など考えたところで意味がない。
パンなら安全、なんてこともありはしないのだから。
残ったパンを手に呼ぶ。
水差しと紙箱を手にすると、壁の傍らまで寄って座り込む。
牧志の方の箱に色があるのを見て首を傾げる。
こっちがパン一個じゃなくて、栄養剤もついてたってことは、こっちを単純にコストカットしてるわけじゃないし」
雑にしている、というか、雑アピールしているというか……」
ちょっと思ったのがさ、昨日あいつ言ってただろ。住環境を改善する用意もあるって。
もしかしたら、まだ何か交換条件が飛んでくるのかもしれない」
牧志が持つ紙箱の中に詰まっているのは、手が込んだとまでは言えないが一揃いの料理と言えるもので、薄いスプーンもついているようだ。
こっちにベッド置いてやるから協力しろ?
そんな選択権与える意味もないのに?」
単に、従順にしてれば悪いようにはしないってアピールかもしれないし」
俺を使って感情を乱そうとしているのはあるかも知れない」
いちいち俺の意思を介在させようとしてきてる。
俺の感情か、行動か、葛藤か、そういうのが目的なのか」
何があっても【決定した】事実をこちらに置いておけば、牧志は耐えやすくなる。
あまり長引くと、保てなくなるかも知れない。
食事はともかく、床に寝続けたら体調にはあまり自信はないが……あと数日なら何とか。
もし追加で持ちかけられたら、そっちは聞かないようにする」
無理なら言うから、余計な事考えなくていいぜ」
無理はしないで、の所を少し強調した。
一口噛んで呟いた。
水を飲み干す。
手の込んだ趣味の悪さだな」
先輩か東浪見が来てくれてるといいけど……、」
その時、あなたの首輪がピッ、と小さく音を立てた。
思考を打ち払おうと、牧志が頭を振る。
ぎしりと一度軋んだ首輪は幸い、食事中のあなたの首を絞めることはなかった。
くそ、やりづらい……」
シローのことが鍵になってしまったのだろう。
一瞬なりとも考えてしまったのだ。早く出ないと、と。
迂闊な事言えないな。
こういう状況では、人と話して自己を保つ、互いの意思疎通を確認するのは大事だ。
こっちで話題を慎重に選ばないと……。
でも俺も同じだよ、話したい。
こんな状況、黙ってたら黙ってたで、正直辛い。
それに思考が暇になると、また何か考えそうになる」
かといって俺だけが知ってるやつだと駄目。外から情報を得たいと思うような事だと意識が脱出に向く可能性がある。
あーでもさ、ある程度首輪反応させてもトリガーが知れるから問題ないぜ。
今みたいに即キャンセルして貰えれば」
とはいったものの、相手は思考だ。「考えないようにする」のも難しい。
面白いかもしれないな。思考制御できるようになれば、それこそキャンセルもしやすいし」
そんな希望を口にする牧志の声は少し明るかった。
あなたと話したい、ということが先に来るようだった。
言って足組んで、いわゆる座禅の姿勢を取る。
牧志は同じように足を組み、静かに目を閉じる。
最初は居心地悪そうにもぞもぞと手足を動かしていたものの、やがて表情が消えていく。
いつ気付くかなー。あいつ気配読めるしすぐバレるかなー
いや本当に気付かなかったらそれはそれで外の情報を遮断できてるって事で。
牧志の部屋の扉がかたりと動いた。
扉が開き、昨日と同じように銀色のカートを押して、男がひょこりと顔を出した。
牧志は俺にいくら何でも無警戒すぎる気がするけど。
切除した肉で召喚がどうとか言ってやがったな。
ヤツが持ってきた物を観察する。
とにかく観察だ。大体こういう時はちょっとした隙が脱出口になる。
まともに考える事を許されない牧志の代わりに、俺が見て考える。
牧志にされている事も、全部。
組んでいた脚を崩し、牧志が唸る。
ああ、脳や心臓は借りないから安心してよ。体との繋がりも切らない。
繋がったままちょっと外へ出すだけだから、君に影響はないよ」
昨日のそれに似た切除や輸血、麻酔のためのものらしい装置。
それから、びっしりと謎めいた模様の刻まれた透明な箱。
そして、片手で抱えられる程度の、これまた透明な楕円の球体が乗ったトレイ。
生きたまま外へ出す。
今までに何度かあった事だ。
がん、という音がして驚く。
無意識のうちにまた壁を叩いていた。
叩き続けていれば、割れるのか? いや、割れる割れないは関係ない。
1d100 75 【知識】 Sasa 1d100→ 63→成功
しかし、パックの中の血液というものは、こんなに鮮やかな赤色をしていただろうか?
まるでたった今人を殺して絞り出したかのような、いや、それよりもなお明るい、玩具のようなわざとらしい赤を?
冷静に。冷静に。これはあくまで情報収集だ。頭痛は無視しろ。
壁を叩く音にも、男が怯んだ様子はない。
大丈夫、そう遠いものではないし、人間の血よりもずっと性能はよいからね。
実際、痛んだり熱を出したりしていないだろう?」
そこに何かの変調の気配は見当たらない。
思わず呟いていた。
惜しいし勿体ないが、君が佐倉くんの死を選ぶ、というのもまた興味深い結果だ。
いや、一度しか観測できないものである以上、その結果の方が興味深いかもしれないな。
私は、それでも一向に構わないよ」
男はあなたの言葉をそのまま流すように牧志の眼を見る。自身の首筋を軽く叩いて口角を上げた。
本気で、それでもいいと思ってる」
ぎり、と歯の擦り合わせられる音が聞こえた。牧志の拳が強く握り締めすぎて白い。
しかしここで止めたところで、「じゃあ君がうんと言うまで保留するね」ってなるだけだろうしねー
保留中に何か見つかればいいけど、そうなる可能性は低いだろうな、と佐倉も思ったから牧志に実験に協力しろって言ったんだよねー
両手を壁についたまま頭を垂れ、呻いた。
……続けろよ」
その質問を唇に昇らせることはできなかった。
昇らせるわけには、いかなかった。
この台を体の下に挟んで少し上体を上げて、これで肌の上から目標の場所、この辺りに丸をつけてね。
それが終わったら、これでよく拭いて消毒して、こちらに肌を差し出して」
牧志の手がペンを持ち、自らの肌に赤い印をつけていく。
そうしている間に男は準備を済ませ、牧志の背に手早く『麻酔』を打ち込んだ。
ここに君の臓器を入れるからね」
男は牧志の手に、先程の模様の描かれた箱を持たせる。
「麻酔」って言ってるけど半分以上構成要素は魔術と神話的テクノロジーっていう。
作業の上でさほどの意味があるとも思えないのに、
昨日よりも明らかに、牧志に何かをさせる頻度が増えている。
呪術には当人の同意を必要とするものがあったように思う。
牧志が同意をする、自らの意思で行動する事で、条件を満たしてしまうのではないのか。
そういった呪術について〈オカルト〉や〈神話〉知識で思い当たる事はできるだろうか?
1d100 38 〈神話〉 Sasa 1d100→ 87→失敗
ある種の悍ましき盟約もそうであるという。
その内容がどんなものであったかまでは、あなたの知る所ではなかった。
牧志の身体が切り開かれる。
男の手が、彼の身体の中へ沈んでゆく。
体内を弄り回される不快感に呻く牧志の中から、ぬちゃり、と粘ついた音を立てて、体液にまみれた臓物が取り出されてゆく。
生きたままの色をしたそれは、生きたまま血の一滴も流さず、牧志が持つ透明な箱に収められた。
収められてなお、それは自身が体外に追いやられたことに気づいていないようだった。
気がついたら声を限りに叫んでいた。
それを戻せ。戻せ戻せ戻せ。ふざけるな、殺してやる。
切り去られたのは肉だけではなく、魂も薄く薄く気付かぬうちに削って持ち去られ、
その空隙に忌まわしい何かを詰め込まれているような気がした。
空いた穴にこれを入れてね。
ああ、興味があるようだし、話しておこうか。
その中には光を嫌うある生き物を詰めてある。
偶に影から出てきて生き物の血を啜るだけの、大したことはないものだよ。
本来人に寄生するような生き物ではないのだけれど、そいつが外に出たがらないような環境を用意してやれば、寄生……いや、上手くいけば、共生が観測できるかもしれない。面白いだろう?」
元々そんな習性がない生き物が入り込んだら何が起きるか分からない。食い破る? 押し退ける? 想像したくもない。
実験結果が予測と一致するか分からないのに?
それならなんのための実験だ!」
ある程度の予測はついているんだ。
君なら最悪でも痛いか、内臓を少し食われるくらいだよ。
そうなったらどうするかも決まってるから安心してよ」
軽く押し込む。
傷をこじ開けられ、牧志が背を反らせて言葉にならない叫びを上げる。
男は牧志の手を取って手袋を被せると、半端に傷へと押し込まれた球体の上に、牧志の手を重ねる。
大丈夫。大丈夫だよ、佐倉さん」
牧志は心を決め、それの上に重ねられた両手に力を込める。
襲い来る拒絶感に悶え苦しみながら、必死に腹を押さえる。
意外に抵抗なく、するりとそれは牧志の体内に消える。
すかさず男が傷を縫い閉じ、それを外から見えなくしてしまった。
傷の周囲がぷくりと膨らんでいるのが、そこに本来あるべきものの代わりに与えられた、意図せぬものの存在を示していた。
牧志の一部だったものが、牧志の身体から引き離されていく。
拷問的実験
タイミングよく忌まわしいなにかを詰めてしまった。
これが牧志のためになっているかはわっかんね。
思考の自由を奪われ体を剥ぎ取られてゆく牧志、命を盾にその足枷とされる佐倉。
これはただのエゴか?
それとも二人で生き残るための布石か?
牧志君の中の人によるオリジナルシナリオ。
【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
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