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こちらには『blood red decadence』
ネタバレがあります。


本編見る!
KP
牧志。
あなたは大変美味なものを口にしている。
喉を湿し腹に落ちるそれは、舌を蕩かすほど甘美で、腹に落ちれば暖かく心地よくしみ込んだ。
牧志 浩太
美味しい。
最初にぽつんと浮かんだのはそんな言葉だった。

何かがやさしく喉を湿らせて、舌を痺れさせる鮮烈な美味とともに滑り落ちていく。

腹に落ちてしまうのがもったいないような、もっと飲み込みたいような。

美味しい。
腹の底から熱が広がっていく。
爪先から頭の天辺まで、冷えた身体に熱が吹き込まれていく。

腹の底から舌の先までひとつになったように、甘美な痺れに染まっていた。
KP
それはあなたに生じた欠落を埋めてくれる唯一のもののような気がした。
あなたは、今まで飲み食いしていたものは食事とは名ばかりの塵芥、灰のように手応えがなく、砂のように喉につかえ、泥のように不快なものだったのだと思い知った。
牧志 浩太
ふと、昨日の食事の味が思い出せないことに気づく。
それどころか、これまで食べたはずの、好きだと思っていたはずの味も。

そんなもの、この濁流のような刺激に比べれば、ないに等しい。
心が求めるどんな味覚も、鼻腔を駆け上がる芳醇な香りの中にあった。肉体が求めるどんな栄養も、腹の中に滴る雫の中にあった。
KP
これ以外は要らない。もっと欲しい。もっと。
あなたの心臓の下で何かが歓喜にうち震えた。
もっと必要だ。もっと……
甘えるように切なげに『あなた』は腹の奥で呟き続けている。
牧志 浩太
もっと。もっと欲しい。
何もかも忘れて貪った。
脳の中を刺激が埋め尽くし、それ以外のことなど考えていられない。
KP
時間を忘れ、欲のままに貪っていたあなたはふと、唐突に、何かが身じろぎをするのを感じた。
牧志 浩太
「……?」
不意に何かの身じろぎを、腕の下に感じた。
KP
あなたの顔の横で何かが動いた。
全身がけだるく、耐えがたい睡魔が襲う中、あなたは気付く。
何かが、誰かが呼吸している。
これは生き物だ。

ずるりと牙が抜けた。
途端、甘い香りがあなたの鼻腔を刺激する。
汗ばんだ肌に開いた傷跡から、真っ赤な血がぷつりと膨れてゆっくりと垂れ落ち、
そのひとが着ている白いシャツを僅かに汚した。
牧志 浩太
漏れ出す甘い香りに鼻がひくつく。
もっと欲しいと傷口に吸いつこうとして、はっと目が覚めた。

甘い液体を流すそれが、ふたつの傷口だと分かる。傷口の周囲にあるのが、青ざめた肌だと分かる。
KP
急激に浮かされたような熱が引いてゆく。
海底から引き上げられるように、あなたの意識が浮上し、現状を把握する。

誰かが苦しげに息を吐いて呻いた。
牧志 浩太
その肌に繋がっている黒い髪が見えた。黒い髪の下に覗く、

佐倉さんだった。
KP
首から血を流して横たわっているのは佐倉だ。

あなたたち二人は、何処とも知れぬ寝室の、天蓋付きのダブルベッドで眠っていたらしい。

眠っていた……
決してそれだけではないことを、あなたの口に残る命の味が物語っている。
牧志 浩太
佐倉さんが、血を流して、横たわって、口の中にまだ甘い匂いがする、ずっと味わっていたあの味だと分かる、すぐ近くに見える赤が状況を把握しようとする意識をかき乱して、佐倉さんが血を流して倒れて、
KP
外から鳥の鳴き声が爽やかに聞こえるが、あなたにはそれがどこか不吉なものに聞こえた。
ぴったりと閉じられた遮光カーテンの隙間から鋭い輝きが差し込んでいる。
それは文字通り、刺すように、灼けるように、熱く禍々しいものに感じた。
牧志 浩太
「佐倉、さん」
喘ぐ息が甘い匂いの残滓を纏っていて、反射的に血を止めようと、いや、視界からそれを消そうと首筋に布団の布を押しつける。

恐る恐る、自分の口元を指で辿る。

湿ったものの中からずるりと抜ける感触を覚えている。喉を鳴らして一心に液体を飲んでいたことを覚えている。

俺は。
どうして、なんで、何を。


1日目 朝


KP
朝処理。
牧志は1D4ダメージ。
佐倉は食事と睡眠により1D2+1回復。
牧志 浩太
1d4 Sasa BOT 1d4→1
HP 11 → 10
佐倉 光
1d2 Sasa BOT 1d2→1
佐倉 HP8→10
KP
自分の異常な行いを自覚してしまったあなたは《SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1d4
牧志 浩太
1d100 72 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→6→成功
SAN 72 → 71
KP
描写タイミング的に、変異してすぐに襲った奴で腹は満ちて寝てるのに、移動させられてから、朝また匂いにつられて襲ったってことですよねーこれ。
(シナリオでは余韻に浸ってるだけだったって今さら気付くかお。まあいっか)
牧志 浩太
まあ、夕食食べても朝は朝でお腹がすくものですし
KP
もう一度佐倉が呻いて息を吐いた。
覚醒しつつあるのかもしれない。
牧志 浩太
はっ、と気づく。
佐倉さんは、まだ生きてる。

そうだ、血を。
止めないと。

それ以外のことを考えそうで恐ろしくて、布団の布を押しつけたままポケットを探る。

ハンカチがあればハンカチを、着替えたからないかもしれない、なければ牙で袖の布を引きちぎって、佐倉さんの首に巻きつける。

間近で吐いた息は荒いかもしれない。必死だった。血を止めようと。それ以外のことを考えまいと。
佐倉 光
息苦しい、首が痛い。
まるで悪い夢を見ているようだ。
何か寝る前にとてつもなく恐ろしいことが起きたような気がする。
死を覚悟したような。
今起きたのが奇跡と思えるような、なにかが。
KP
目を開いたあなたが見たのは、真っ赤な瞳だった。
息を荒げ、あなたの首に布を巻き付けた……

悪魔の姿だ。

白い肌、血走った目、長く伸びた牙。
あなたの首に食らいついて血を吸った吸血鬼がそこにいた。
佐倉 光
首を絞められている。殺される。
頭の中が真っ白になった。
次の瞬間、悲鳴を上げながら反射的に左手首に手をやる。
KP
あなたの身を守ってくれるCOMPはそこにはない。

牧志。
目覚めた佐倉は恐慌に陥っていた。
その手が腕輪のあるべき所で空振った。

が、一呼吸で叫びを飲み込む。すぐさまその目に怒りと敵意が満ちる。
足であなたを蹴りつけ、距離を取ろうとしている。

あなたは突如ありありと思い出してしまうだろう。
昨日、あなたが倒れたときに駆け寄ってきた彼を捕まえたことを。

それが誰だなどと考えることもなく、
彼が何を言っていたか、どんな顔をしていたか、ちらとも気にすることもなく
抵抗を封じ、抱きすくめてその首筋に容赦なく牙を突き立て、
血袋から思うさま美味い血を吸ったことを。

その声や動きが弱まっていくと、血が吸いやすくなったこと。
もっと吸いたいと願ったこと。
なによりあの時に美味いと感じた血の匂いが、今も目の前の佐倉から漂い、
それがどうしようもなく食欲をかき立てることを。
牧志 浩太
「あ……、」
怒りと敵意に満ちた眼と向き合って、不意に。

思い出してしまった。

それが誰かなんて気づいてなかった。何なのかすら考えていなかった。溢れ返る甘い匂いのことしか考えていなかった。一刻も早く啜りたくて欲しくて欲しくて迷わずに食らいついた。嬉しいとすら思っていた。他に何もいらないと思った。

それが死にかけていることにすら気づいていなかった。今思い出せばそれは佐倉さんの顔をしていた、佐倉さんの首筋だった、力のない手で俺を必死に止めようとしていた、

名前を呼んでいたのに一度も聞こえなかった。

か弱い爪先が脛を蹴りつけた。捕まえてもう一度吸いたいと、違う、違う、そんなこと考えてない、考えたくない。腹の奥で蠢く食欲が怖い。自分自身の脳の奥で蠢くものが怖い。

蹴られる動きのままに後ろへ下がる。壁に背が当たって、どん、と音がした。
すぐ横で地面に線を描く陽光が恐ろしい熱を孕んでいた。俺はどうして、なんで、あんなことを、

怖い。

自分の肩を抱いて背を丸める。肩に爪が食い込むのを僅かに感じた。強く目を閉じて視界から何もかもを追いやる。思わず唇を噛んでいたのか、血の流れる感触がした。
KP
かみ切られた唇からは腐った果実のような重く甘ったるい、
吐き気を催すような味の液体が流れた。
佐倉 光
捕食者が離れた。
怒りが速やかにひいてゆく。
戦うには怒りに流されていては危険だ。
こういったときの対処、まずは落ち着くこと、冷静になることだ。

落ち着いてみれば、部屋の隅で丸まっている姿に見覚えがあると思った。

いや、まさか。
KP
思った途端記憶が蘇る。
昨日、突然変貌して襲いかかってきたのは誰だったか。
今一瞬、あなたを見た真っ赤な瞳にたたえられていた感情は何だったか。

部屋の隅に縮こまっているのはやはり悪魔には違いなかった。
だが、それは同時にあなたがよく知る親友の姿もしていた。
佐倉 光
唾を飲み込む。
首から垂れる血をおさえ、唇を湿して呆然と呟く。
声は震えていた。
「牧志……か?」
牧志 浩太
「佐倉……、さん」

背を丸めて視界を閉じたまま、絞り出すように応えた。
肩に食い込んだ爪が僅かな痛みを訴えた。
佐倉 光
部屋の隅に縮こまる悪魔から聞き覚えのある声がした……
「牧志なのか」
混乱する思考を何とか落ち着かせようとする。
突然あいつがおかしくなった原因は、一つしかない。

「牧志なんだな。今どうなっているんだ、説明してくれ……詳しく」

混乱する記憶と思考をひとつひとつ整理しようと、ゆっくり自らも考え考え、喋る。
何度も確認してしまうのは……どうしようもなかった。
KP
佐倉の目があなたをじっと見つめている。
それはなんとかあなたを理解しよう、分析しよう、理解しようとしていた。
何よりあなたがあなたであることを信じたいと願う目だった。
牧志 浩太
真っ暗な視界に声が振ってくる。
佐倉さんの声だった。
確認しよう、冷静でいてくれようとする声だった。

そろそろと、恐る恐る顔を上げる。
俺が俺だってことを、信じようとしてくれている眼だった。

「あの後……、刺された所から、何かが入ってきた気がしたんだ。
腕を遡ってきて、俺の中を蠢いて、腹の奥に落ちていったような気が……、した。

それから、ひどい吐き気がして。
気を失って、起きたら……、目の前の佐倉さんから、甘い匂いがしたんだ。美味そうな、どうしようもなく食欲を刺激する匂い。

それで、俺は我を忘れて。
そこにいたのが誰で、何なのかも目に入らずに、佐倉さんを襲って血を啜った……」

考え考え続けられる言葉に縋るように、起きたことだけを説明しようと、ひとつひとつ言葉を続ける。

佐倉さんの息に乗って甘い匂いがした。
佐倉 光
「何かに取り憑かれたんだな」
ずきりと首の傷が痛んだ。
瞬時に昨日襲いかかられたことを思い出した。
「取り憑かれているんだ」
自分にも言い聞かせるように繰り返す。
そして側に落ちていた引き裂かれた布を首に巻き付けて止血を行う。
牧志 浩太
「ああ、多分……。きっと、その時だ」
一瞬顔をしかめた様子に、傷が痛んだのだと気づく。
いつものように話す声が、微かに震えているのが分かる。
佐倉 光
「吸血鬼……ってやつか。酷い冗談だな。
冗談になってないけど」

恐怖を抑えて軽口を叩く。
冗談どころではない。
本当に殺されるかと思ったのだ、あの時は。

「俺は現実に血を吸われたわけだし、信じるしかないな……
今は? あまり具合が良さそうじゃないな。真っ白だし」

ゆっくりと気を落ち着ける。

「一般的には太陽がダメだとか、水を渡れないとか、あるけど。
お前はどうなんだ?」

ちら、と遮光カーテンから漏れる光を見る。
牧志 浩太
ちらりと、傍らで床に線を描く光を見遣る。
あまり直視したい気はしなかった。
「水は分からないけど、太陽は怖いみたいだ。
レーザー光か何かを見てるような、触ったら焼けそうな気がする。
身体が怠くて、重くてたまらない」
佐倉 光
「ああ、太陽、まずそうだな」
牧志の表情に、人間のものとは異質な恐怖を感じ取った。

弱点か。と一瞬考えてしまった。
相手が牧志だというのに、
まるっきり新しい悪魔を調査するような考え方をしてしまっている……

当然のことだ。今のあいつは人間じゃないんだし、
データを集めるのは必要なこと。
太陽の光に弱いというならカーテンを開けるべきではないし、
無闇に外に出るべきではない。
これは牧志のためでもあるし、俺自身のためでもある。
牧志 浩太
真っ直ぐに佐倉さんの眼を見る。
「佐倉さん、ごめん。……生きてて、よかった」
佐倉 光
「ああ、お前も……
お前でいてくれて良かった」

真っ赤な瞳は紛れもなく牧志の意思を宿していて、
昨日のことなど嘘のように思えた。
1d100 60〈心理学〉 Sasa BOT 1d100→59→成功

牧志は牧志だ。
しかしその奥に、得体の知れない欲望が横たわっているのが、見えた。
背筋が寒くなる。
牧志 浩太
「ああ、そうみたいだ……。
……ありがとう、佐倉さん」

そうやって話していると、少しだけでも腹の奥で渦巻く欲望が和らぐ気がした。
そうだ。佐倉さん、だ。俺の前にいるのは佐倉さんだ。見失わないように、黒い眼をじっと見る。

俺は、俺だ。大丈夫、我慢できる。
人間、少しくらい食べなくても大丈夫だ。
……今の俺、人間じゃないみたいだけど。
佐倉 光
「ああ、大丈夫。血は800mLまでなら失っても死なない。
首から吸うなんてやり方でそこまで一気に大量にはやられないだろ……
すくなくとも今は問題ない。少しだるいくらいだ」

1200mLで生命の危機。2000mLで心停止。
思い出したくないことまで思い出した。
回復量はどの程度だっけ?
1d100 21〈医学〉 Sasa BOT 1d100→63→失敗
思い出せない……自然な回復量で吸血量に追いつけるのだろうか。
※大体一日に50mLくらい回復するらしいです。
牧志 浩太
1d100 34〈医学〉 Sasa BOT 1d100→52→失敗
回復量については思い出せなかった…… 
水分摂ってもらった方がいいかな、佐倉さんに。
佐倉 光
「そうだな……とにかく、ここがどこなのか把握しないと」
喉がからからに渇いていた。
「トイレ探して、水飲めるようなら飲みたいところだ。とはいえ大体こういう状況ってドア開かねぇよな」
ベッドから降りて扉の方へ向かう。
ドアノブを回す。
佐倉 光
回った。開く。
いいことなんだがあまりにも意外すぎてぽかんとしてしまう。

嘘だろ?
佐倉 光
「開いた……ちょっと見てくる」

ゾーキングのため外に出ようとする。
牧志 浩太
一瞬、ぞわりと腹の奥で欲が蠢いた。

逃げてしまう。
獲物が。

甘い香りが後を引く。
自然と背中に手が伸びかけていた。伸ばされた手を見て愕然とする。

いま、俺、何を考えて。

自分の肩に手をかけて、強く力を込めた。
だめだ、今の俺は何をしでかすか分からない。
KP
1d100 60〈心理学〉 Sasa BOT 1d100→95→失敗
佐倉 光
「ちょっと見てくるよ。
あまり具合良くなさそうだし、待っててくれ」

ドアを開け外に出る。
牧志 浩太
佐倉さんの姿が、扉の向こうにすっかり消える。

不安だか心細さだか食欲だか分からない感情で蠢く腹を黙らせて、そろりと室内を見回す。
そういえばここ、どこだろうか。

できれば換気がしたかったけど、この光を蓄えた窓に触れるなんて、考えただけでも恐ろしい。
ただの陽光のはずのものが恐ろしい、ということを、どうしてか自然と受け入れていた。

KP
ここはどうやらあの屋敷の二階らしいことが分かる。
家人の気配はない。
玄関は……開くようだ。
外は雨がすっかり上がって快晴である。
門までの道にも何も障害はないように見える。
佐倉 光
逃げ道Ok。

何からの?

それはひとまず置いておいて、トイレを探して用を足し、洗面所で水を飲む。
人心地ついた。
佐倉 光
しかし、腹が減ったな……

間取りを頭に入れつつ部屋に戻る。
KP
起きたのが大分遅かったのか、時間はそろそろ昼にさしかかろうとしていた。

KP
このまま昼探索に移りますか?
でしたら佐倉はキッチン見て帰ります。
そうでなければ戻ってきて全体の共有を行います。
牧志 浩太
明確な流れがあるわけではないんですが、今回もあまり短く終わってしまうより丸3日くらいはあった方が楽しそうなように思ってます。
KP
はーい。前回みたいな対策取りましょうか。
牧志 浩太
お願いします!
KP
前回佐倉が結構ダイス目頑張ってたからダメージ低めでしたしねー、ダイス目次第では休息必要になるかも。
あと二人探索も結構やってたか
牧志 浩太
ですね。1日目昼探索するかどうかちょっと迷ってる。
KP
おや。じゃあ佐倉一回戻りましょうか。
キッチンゾーキングしてきた。

KP
扉に遠慮がちなノックが響いた。
佐倉 光
「俺だ、入っていいか?」
牧志 浩太
酷く重く怠い身体で動くべきかどうか、考えていたところだった。
このまま次の夜を迎えては、いけないような気もする。

ずるずると重い身体を引きずって、壁際へ戻る。
「大丈夫」小さく声を返す。
KP
ドアを開けた佐倉は、手にトレイを持っていた。
水、皿に乗っているのは昨日食べたご馳走の残り物のようなもの。
二人分の食事のようだ。
佐倉 光
「ここはあの屋敷の二階だよ。
あいつらはいないみたいだ。
昨日の残りを見つけたんだ。とりあえず飯にしようぜ」
KP
佐倉はベッドサイドテーブルにトレイを置いた。
昨日の残り物だという肉やパンや野菜は、『人間としてのあなたの記憶や知識』は美味しいはずだと保証する。
だが、腹の奥底にいる『あなた』にとってそれは、全く魅力的に見えない、むしろ醜悪な物だった。
動物の死体、野菜の死体だ。こんな干からびた物から血など一滴も出てこない。
牧志 浩太
「うん……、ありがとう。
ここ、あの屋敷の二階だったんだな。
あいつら、どこ行ったんだろう」

サイドテーブルに置かれたそれを見ながら、ぼんやりと言う。
覚えている。それは佐倉さんが持ってきてくれた、ふたりぶんの食事、のはずだ。
夢のようだったはずの食事の記憶はざらついていて、その時舌や腹の中で感じたはずの味がどんなものだったか、一向に思い出せない。

美味しいという感覚を思い出そうとすると、甘い匂いが強く香った気がした。鼻腔から口の中まで満ちる味を思い出して、喉が鳴る。

いけない。やめようと首を振る。
改めて目の前の「美味しいはずの」何かを見るが、干からびた死体とただの草にしか見えなかった。

「頂き……、ます」
躊躇いながら、それをフォークで刺す。
口のすぐ前まで持ってきても、それが食べられるようなものには感じられない。
KP
口元に持ってきた『食事』は無味乾燥に見えた。
こんなものを食べて何になるだろう。
佐倉は先に取って食べ始めている。
佐倉 光
「冷めてるけど結構行けるぞ。昨日ほどじゃないけどな」
KP
言いながらもその視線はこちらを少し気にしているように見えた。
佐倉 光
(牧志が血以外の物を食えるなら、少しは安心できるんだけどな……)
牧志 浩太
「ああ、ごめん……、」
勢いをつけて口の中にそれを放り込み、噛む。
KP
口に放り込んだ肉片からはなんとも言えず不快な臭いがした。
噛みしめるとぱさぱさして、口の中に貼り付き、飲み下すのも大変に思えた。
牧志 浩太
「う……、」
口に放り込んだそれは、全く土の塊にしか思えなかった。
ひどい悪臭が鼻腔から立ちのぼって吐き気を覚える。

呻きながら、一刻も早く吐き出してしまいたいのを堪えてどうにか数度噛み、飲み下す。
KP
それでもぐっと飲むと、どうにか腹に落ちてゆく。
今朝夢現に飲んだ『食事』とは雲泥の差だった。

それが胃の腑に落ちた途端、腹の奥がひっくり返った。
激しい嘔吐感が襲い、強い拒否反応のように体内に入った異物を絞り出す。
牧志 浩太
飲み下した直後、まるで胃袋をひっくり返されたかのような嘔吐感が襲った。胃がきりきりと痛みながら蠕動し、喉とともに体内に入った異物を全力で絞り出そうとする。

「っ、ぇ、う、」
部屋の隅に駆け寄って、それを吐き出した。
吐き出さずにいることは全く不可能だった。それは体内に留めておくことのできないものだった。
佐倉 光
「おい、大丈夫か!」
KP
慌てて駆け寄ってきた佐倉があなたの背をさする。
佐倉 光
「駄目なのかよ、食事とか、一切」
軽く絶望しかけた。
牧志 浩太
「っ、うぇ……、佐倉さん、ごめん……、」
嘔吐感が消えるまで吐き出し終わると、ようやく落ち着いた。背をさする手が温かい。甘い香りがすぐ近くに漂ってくる。
KP
すっかり異物を吐き出しきったあなたはぼんやりと思うだろう。
食事。食事ならあなたの背後に『ある』。
牧志 浩太
やっぱりあれは食事にはならない。
食事はもっと瑞々しい血を湛えていて、噛むと血が溢れ出して……、

牙ががちりと音を立てて、我に返る。
違う。佐倉さんは佐倉さんだ。食事なんかじゃない。
違う……。

背を向けたまま首を振る。ずるずると這うようにして、反対の壁際へ向かう。追いかけてくるような甘い匂いから距離を取りたかった。

床に線を描く陽光が爪先を僅かに掠って、痛みが走った。
佐倉 光
「そう、か……
とりあえず俺は食っとくよ」
KP
佐倉は呟いてあなたの吐瀉物を片付け、食事を手早く済ませた。
佐倉 光
「食事、か……」
KP
佐倉が何度も沈んだ声で呟いていた。
佐倉 光
(辛そうだ。やっぱり血が吸いたいんだろうな。
けど今は昼間だからか……いや、理性で耐えてくれているって感じか……
無闇と近寄るべきじゃないな、お互いのために)
牧志 浩太
「ごめん、ありがとう……」
少し掠れた声で言って、佐倉さんから距離を取った。

食事が摂れなかったことが、意外に強く自分を打ちのめした。
少し考えていた。前のように思い込まされているだけじゃないかって。この牙だって生えたような気がするだけで、陽光だって怖いような気がするだけで。

そんなものじゃないと、思い知らされた。

全身が理解している。俺がどういう生き物なのか。
脳の一番奥のところに、本能がべったりと染みついている。


1日目 昼


牧志 浩太
昼は寝室を探索します。
KP
はーい。では1d3ダメージですね。
牧志 浩太
1d3 Sasa BOT 1d3→3
HP 10 → 7

KP
家具に反射しているに過ぎない太陽の光が瞳に突き刺さる。
体はどうしようもなくだるく、重い。
あなたはこの時間を活動時間とする存在ではないのだと思い知らされる。
佐倉 光
「じゃあ俺は、一階でも調べてくるよ。
……無理すんなよ? 酷い顔色だ」
KP
佐倉は心配そうにそう言って、部屋を出て行った。
牧志 浩太
「うん……、」
佐倉さんを見送って、室内を見回す。

身体が重い。何度か徹夜でもした後のような、怠い熱のような寒気のような感覚がある。引きずり込まれるような眠気が、気を抜けば意識を奪っていきそうだ。

それでもこのまま夜を迎えたくはなかった。
俺はこんな時間に動く生き物じゃない。夜が待ち遠しいと強く思っていた。この忌々しい太陽が沈んで、そうしたら、俺は……、

存分に食事ができると思ってしまう。

だめだ。早くこれを何とかして、何とかしないと。
夜が来る前に。

「うぇ、うう……、」
声にならない呻きを上げながら、室内を見回す。
KP
部屋にはあなた方が寝かせられていた天蓋付きのキングサイズのベッド、先ほど食事に使ったベッドサイドテーブル、繊細な彫刻がされたどっしりしとしたキャビネット、黒檀のクローゼットなどがある。
牧志 浩太
何かないかという望みを抱きながら、サイドテーブルを調べてみる。引き出しなどはあったりしないか。
KP
シンプルなベッドサイドテーブルには引き出しがついていた。
引き出してみるとまず目に飛び込んできたのは日常あまり目にする機会のないもの。
拳銃だ。

その隣には銀の香炉、袋詰めの香がふたつ入っていた。
牧志 浩太
「え、」
中にあったのは、見た事はあるが、そうそう目にするはずのないものだった。
なんで、こんなものがここにあるんだ。
その傍らには銀製なのか、鈍い輝きを放つ香炉。

……ふと、銀の弾丸、という言葉がちらついた。
吸血鬼と銀の弾丸。まさか、そういうことだったりしないよな。

安全装置が掛かっているのを確認し、慎重に弾を外して見てみる。
KP
想像通り、そこに入っていたのは銀色に輝く銃弾だった。
無意識のうちに背が総毛立った。
装填可能な弾丸数は六発。弾丸は残り五発。
一発使用されたのだろうか?
牧志 浩太
「ひっ、」
思わず声が漏れる。想像通りだったはずなのに、その鈍い銀色は思った以上に俺の身を竦ませる。

見ているだけで恐ろしい。分かってしまう。
あの陽光と同じだ。これは、俺を殺す道具だ。

佐倉さんに持っていてもらおうかな、と、ちらりと思った。これを向けられたら怯みそうな自信がある。

弾を込め直して安全装置をかけ、ちゃんと掛かっているのを二度確認してから、銃をサイドテーブルの上に置く。
銃から無意識に目を逸らすように、引き出しの中にまだ何か入っていないか確認する。
KP
銃の隣にあった香炉と一緒に置かれていた香からは、袋ごしでも良い香りがする。
心なしか気分が落ち着くような気がした。

※リラックス効果のあるお香×2 が入っています。
牧志 浩太
「あ……、いい香りだ」
その袋からは、優しくいい香りがした。

あの甘い匂い以外の匂いをちゃんと、いい匂いとして感じられる。他の感覚がある。
そのことが少し、安堵を感じさせた。

……夜になったら、これを焚いてみようかな。
少しは、気を逸らせるかもしれない。

佐倉 光
一階に降りてはみたが、さてどこから見ようか……
玄関から外に出てみたがとくに罠があるわけでもなく、門にも鍵がかかっているわけではなかった。

これなら簡単に逃げられるな。
そう考えるがすぐに否定する。
佐倉 光
牧志があの様子ではしばらく外に出ることはできない。
どうしてあんな事になっているのかは分からないが、
治せるものなら治すのが先決。
そう簡単に解決すると考えない方がいいだろう、と思えばまずは食事の確保が最重要だろうか?

さきほどさっさと通り抜けたキッチンをもっとよく見てみることにする。
幸い奴らはいないようだし、存分に使わせてもらおう。

KP
あと調べられそうなのはキャビネットとクローゼットだ。
ベッドにはとくに見るべきものはなさそうだ。
牧志 浩太
キャビネットを開けてみる。
KP
爪切りや絆創膏、ハサミ、裁縫箱などこのごまとした日用品が入っている。
こんな所に何か役立つものが入っているだろうか……

〈目星〉どうぞ。
牧志 浩太
1d100 89〈目星〉 Sasa BOT 1d100→50→成功
KP
ある程度きちんと整理されていたため、ものを探すにはあまり不自由しなかった。
奥の方に薬箱があり、中に鉄剤の瓶が入っているのを見つけた。
残り三錠。
鉄欠乏性貧血の治療薬だ。
牧志 浩太
「あ」
鉄剤。そういえばと、彼女の紙のように白い肌を思い出した。貧血の治療薬だ。

「俺が飲めたりは……、しないよな」
軽く嗅いでみる。
後で、佐倉さんに飲んでもらおうかな。回復の助けになるかもしれない。

……佐倉さん、戻ってくるかな。
ちらりと思った。陽光の中に逃げてしまえば、俺は追いかけられない。

いや。首を振る。
それならさっき、合流する前にそうしてた。

俺が食事を摂れないのを見て、諦めて……。
いや。佐倉さんは俺のこと、まだ諦めないでいてくれた。
さっきから、怠いせいか気の迷いが酷いな。ちょっと心細いのかもしれない。切り替えよう。

佐倉 光
まずは冷蔵庫を開けてみる。
1d100 85〈目星〉 Sasa BOT 1d100→28→成功
KP
さっき簡単に見て回った時には、ぱっと見で分かる食料しか目につかなかったが、よく見ると実に色々なものが入っている。
まだ焼かれていない肉にトマトジュース、未調理の野菜、冷凍された食材もある。
生肉のパックに紛れて、赤黒い液体が詰められたパックが入っていた。
透明のビニールの点滴袋から二本の管が伸びていた。
どうやって手に入れたものなのだろう。血液製剤だ。ご丁寧に血液型ぶんいくつか種類がある。
説明書も付属している……
佐倉 光
牧志はこれ飲めるのかな?
ふと思った。
吸血鬼にとって、何型が一番美味いとかあるのか?
O型は蚊に刺されやすいっていうけどな。
まああとは俺自身に輸血か。さすがに素人がやるのは怖いな、輸血。
血が足りなくなったら、か。
大分憂鬱になってしまった。別の場所を調べよう。

KP
残るはクローゼットだ。
クローゼットの扉を開くと、恐らくラヴァルの物であろうガウンやスーツ、部屋着、あなた方が借りたようなシャツとパンツなどが掛かっている。
引き出しを開ければ下着類。一部まだ袋から出されていないものもあるようだ。

〈目星〉
牧志 浩太
1d100 89〈目星〉 Sasa BOT 1d100→9→成功
KP
下着類の奥に押し込まれている黒いベルトのような物が見えた。
よくよく見るとそれは、鎖付きの手枷、猿ぐつわなどだ。
これもまた日常生活ではあまり見ない物だ……
だが奇妙なことに、大人のちょっとした趣味の玩具としては随分と作りがしっかりしている。
これは本当に誰かを捕えようとして作られたものだ。
牧志 浩太
「うわ」
下着類の奥に押し込まれたそれに、一瞬よからぬ想像をして赤くなる。エンジェルの裸体まで思い出しそうになって、別の意味で首を振る。

首を振った所で、それが妙にしっかりとした造りなのに気づいた。
その重さが醸し出す、害意のようなものをじっとりと感じた。

これは、本当に誰かを捕らえるためのものだ。
……猿轡もある。
銀の弾丸が吸血鬼に対する武器だとしたら、これは。

吸血鬼を捕らえるためのものなんじゃないか。

そう考えると、手の中のそれがより重く感じられた。
クローゼットの中からそれを引きずり出し、壁際の床に置く。
俺がどうしようもなくなったら、これで縛っておいてもらおう。

……飢え死にするって可能性は、あんまり考えたくなかった。
最悪、これで縛っておいてもらって、何かで切って、飢え死にしない程度に血を垂らしてもらうとか。

佐倉 光
食器棚も開けてみるか。
さっきの血液製剤みたいに役立ちそうなものが見つかるかも知れないし。
1d100 85〈目星〉 一方2 Sasa BOT 1d100→53→成功
KP
この屋敷にはあまりそぐわないような派手なラベルの瓶が出てきた。
「正気ではいられない貴方に!!」というどぎついフォントが踊る市販のエナジードリンクだ。
佐倉 光
これは本気でどぎついから俺はあまり飲まないブランドのヤツだ。
基本エナドリって元気の前借りするやつだけど、
こいつは速攻効く代わりに副作用が半端ない。
正直これ飲むくらいなら、ちゃんと寝て翌日にまわした方が効率がいいくらいの奴だ。
まあ……大体翌日に回せないヤツが飲むんだよな。こういうのは。
1d4 Sasa BOT 1d4→4
KP
棚には4本入っていた。
佐倉 光
役立つかも知れないし、持って行っておくか。
そろそろ見る物見たし、飯を持って部屋に戻ろう。
吸血鬼は死ねる
牧志 浩太
そういえばこのシナリオ吸血鬼は死んでも死なないので、一度耐えきって死んでも面白いかもしれませんな。POWそこそこなので判定次第だけど。
KP
なるほどー?
死ぬと不定に陥る可能性があるんですね。
可能性じゃなくて必ずなのかなこれ。
牧志 浩太
「陥る可能性がある」って意味かなと思ってました>「陥る」表記
ただ書き方は断定形なので、確かに強制不定とも取れるんですよね。
死んで蘇るなんて体験をするわけだし、強制不定もありかもしれない。
KP
一度死ぬって衝撃だから強制でも不思議じゃないな~
牧志 浩太
そうそう。死んで蘇って、でもまだ吸血鬼、っていうのはなかなか。
KP
それはさすがの佐倉も……
牧志 浩太
というわけで解釈お任せします。
不定の狂気に陥った結果吸血に走る、という可能性もありますしね。
KP
ああ、それはだいぶアリだなぁ。
牧志 浩太
そうそう、それ面白そうだなって。
KP
ダイスさん次第だけど、それで吸血しなくても結構楽しい展開に持って行けそう。
牧志 浩太
ですね。面白そう。ダイス次第ではあるけど。


KP
気がつけば体のだるさは大分抜けてきていた。
カーテンの隙間から差し込む光はオレンジ色になり、今日の終わりへ向かっている。
そろそろあなたの時間だ。
牧志 浩太
は、と息を吐く。
気づけば床に線を描く陽光はだいぶん明るさを減じていて、身体の怠さも抜けてきている。

腹の奥で歓びに近い感情が巻き起こった。
ここからが俺の時間だ。そう、知るともなく知る。

再び壁際にもたれて、佐倉さんが戻ってくるのを待つ。
佐倉 光
扉の前で深呼吸をする。
もし牧志があの時のように理性を失っていたら、
今度こそ殺されるかも知れない。
あまり考えたくはないことだ。

牧志 浩太
「……佐倉、さん。お帰り」
その姿を見た時、心底嬉しかった。

ああ、ちゃんと戻ってきてくれた。心細さのような不安のような気持ちが溶けていく。
佐倉さんはまだ、俺のことを諦めないでいてくれた。
置いていかれていなかった。

少し涙が出そうになる。
これで、俺は……、

飢えないで済む。

違う。首を振る。違う。
そんなことのために安心したんじゃない。
KP
佐倉は何やら色々持ち込んできた。
どぎつい瓶を一本、食べ物、飲み物。
佐倉 光
「下の冷蔵庫に血液製剤が入ってたぜ。色々な型のやつ。
吸血鬼にも血液型の好みってあんのかな?」
そんなことを言いながら。
牧志 浩太
って、血液製剤?
「血、ってことだよな。飲めたりするかな」
少し希望が射した。俺が飲んじゃうのは悪いけど、もしそれで凌げるのなら、もう少しやりようが出てくるかもしれない。それこそ、動物の血でなんとかできれば。
佐倉 光
「そうだな、できるといいんだけど」
本当にそうであればいいと願う。
よくあるじゃないか、マンガなんかで血液パックの血飲んでる吸血鬼。
それができるなら随分平和だ。

「で、そっちはどうだ? 何か調べてたんだろ?」
牧志 浩太
「こっちは色々見つけたんだ。

まず貧血用の鉄剤。サイドテーブルの上に置いてある。
それから、銀の弾が入った拳銃。見た瞬間に怖く感じたから、あれは多分、相当効くと思う。向けられたら怯めそうな自信がある」

少し口ごもった。もし佐倉さんが俺を置いていくんじゃなくて、万が一にも外に出さないために、自分で殺すことを選んだら。
死にたくはない。ないけど、その時、俺はどうしたら。
佐倉 光
「鉄剤か、役に立ちそうだ。
銀の弾丸……?」
KP
呟いた顔から一瞬表情が抜けた気がした。
佐倉 光
(悪魔退治の王道アイテムか……なんでこんな所にあるんだよ。
俺に牧志を殺せっていうのか?)

もし殺されそうになったら。それは仕方のないことじゃないのか。

その考えに身震いをする。
牧志 浩太
一瞬、すとんと表情が落ちたのが分かってしまった。
……ああそうか。
もし本当に俺が佐倉さんを殺しそうになったら、佐倉さんは、やれるんだ。
そうだよな。そうに決まってる。

俺は。
もし、そうなったら。

考えても仕方ない。
思考を強制的に他へ逸らす。

今は、そうならないようにする方が先だ。
どうやって?
少しずつ夜が近づいている。
だめだ。焦ったら余計に状況が不味くなる。

「……、それから、クローゼットの奥に拘束具、猿轡とかそういうのが色々あった。本格的なやつ。俺がまた我を忘れそうだったら、あれで縛ってもらえばいいかもしれない」
口ごもったのを誤魔化すように続ける。
佐倉 光
「拘束具ね、拘束具。あの二人そういう趣味でも持ってたのか」
牧志を縛る。
その考えはどうにも愉快な気分には慣れなかった。
佐倉 光
「俺そういう趣味ないし」
辛うじて答える。
安全?
KP
こわれるんだよねー……
牧志 浩太
こわれるんですよねぇ。
そういえば「PC2が客間に逃げ込んだら夜の吸血はどうなるのか」についてはシナリオ読んだけどよくわからなかったんですよね。確定で吸血〈回避〉できてしまったら面白くないだろうとは思うんですが。
KP
まあ、一応「安全な部屋」ではあるんだろうなぁとは思います。
PC1の懇願を聞きながら寝たいPC2もいるんじゃないかな。
ただそれやっちゃうとPC1は3日くらいで死んじゃいますし……(HPによるけど)
牧志 浩太
確かに。本当にPC1のことをどうとも思わないなら、PC2は逃げてしまえばいいわけですしね。
PC2には安全な部屋に退避するという選択肢もあるけど、その分PC1がどんどん死に近づいていくのを見なければならないと。
KP
それはそれで需要ありそう。
牧志 浩太
確かに。

牧志 浩太
「あとは銀の香炉と、いい香りのお香。これ焚いて寝れば、少しは佐倉さんの匂いが紛れるかもしれない」
佐倉 光
「におい、ねえ。俺そういや風呂には入ってないんだよな。
そんなににおうのか。
自分じゃ分からないんだけどな」
つい脇の下などにおいを嗅いでしまう。
牧志 浩太
「……ああ、佐倉さんは分からないと思う、たぶん」甘い匂い、と口に出してしまえば食欲が刺激されそうで、また話を逸らす。

「それで、次はどこを探してみよう。この近くだと、客間があるって言ってたよな。こんな屋敷だし、書斎もあるかな。何か分かるといいんだけど」
佐倉 光
「書斎か……何かあるかもな。
けどそれより先にどうしてこんなことになってるのか、
奴らはどこへ行ったのか知りたい気もするけど。
吸血鬼は血を吸って仲間を増やすって言うけど、俺もそのうち吸血鬼になるのか?
けどお前が吸血鬼になったときは別に血は吸われてなかったし……」
KP
しばらく沈黙する。
佐倉 光
「分からないことを考えても仕方ないな、
ひとまずこの屋敷を徹底的に洗おう。
奴らの行き先が掴めるかもしれない」
一人で里に降りて行方を探す、というのも有効かもしれない。
普通に考えれば、そうだ。
しかし、今の牧志を一人にして大丈夫だろうか……
佐倉 光
人が一番よく出入りするリビング辺り、探ろうかな?
牧志 浩太
「賛成。この屋敷を洗ってみよう」

佐倉さんも「こう」なったら、佐倉さんを殺さずに済むかな。

そんな弱気な思いが過って、そうじゃない、と打ち消す。
まだ諦めるのには早い。最後に誰かを優先するって、そういうことじゃない。

「……あいつら、まだ近くにいるかな」
ぽつりと呟く。声が驚くほど弱々しかった。

「佐倉さんなら、まだ……、追いかけられて……」

喉が詰まって最後まで言い切れなかった。心細くて苦しくて痛い、いつも以上に置いていかれるのが苦しい。
佐倉 光
「……」
KP
ふたたびしばらく沈黙する。
佐倉 光
「いや、もう一日経ってる。
徒歩で山を降りて、町まで行くのにも半日は余裕でかかるな……ゴンドラに乗りたくても金がない。助けを求めるくらいはできるかな……見に行ってみるか」
佐倉 光
一緒にリビング探索に行く? と思ったけど、佐倉ゴンドラ乗り場に行ってみるって選択肢もできたな。
ゾーキングにはちょっと時間が取られすぎるから1行動かな。
牧志 浩太
「そういえば佐倉さんのCOMPや俺達の荷物、どこ行ったんだろうな。屋敷の中で荷物探してみるって手もあるか」

そうか、現状に気を取られすぎてた。
助けを求める……、そうだ、外に連絡取って、助けを求めてもいい。
状況が閉じられてなきゃ、やれることがずっと増える。

「そうだな、そうしよう。あいつらの痕跡があるかもしれないし、誰かいれば助けを求められるかもしれない。

頼む、佐倉さん」

不安と心細さを振り切って、真っ直ぐに佐倉さんの眼を見返した。

最善の道を選ぶんだ。まだ諦める時間じゃない。腹の奥がひどく疼いたが、唇を噛んで無視する。
KP
では、
牧志は屋内の探索、佐倉はゴンドラ乗り場 でよろしいですか?
牧志 浩太
大丈夫です。
「荷物を探す」という目標ができたので、何か落ちたり置き忘れられたりしていないか確認するため、
ダイニングルームを探索します。
KP
はーい



1日目 夕方


KP
方針が固まってすぐ、佐倉は玄関へ向かった。
佐倉 光
(急がなきゃ……追いつけるならそれに越したことはない。
それにここは街灯があるわけじゃない、明るいうちに移動しないと)
振り向くと、心細そうな牧志の姿があった。
佐倉 光
「すぐ戻るから」
笑って見せ、屋敷のドアから外へ出る。
夕暮れの陽光の中へ。

KP
がちゃん、と玄関の扉が重々しい音を立て閉じる音が響いた。
あなたはこの薄暗く寒々しい屋敷に独りきりになった。

途端、背後に奈落のように口を開けた不安が押し寄せる。
彼は、帰ってくるだろうか。
その足取りは妙に早くなかっただろうか。
後ろめたそうに何度も振り返っていなかっただろうか。
気の毒そうに、安心したように、笑っていなかっただろうか。

彼がいなければどうなる?
飢えて死ぬのだ。
今も臓腑を締め付けるようなきりきりとした飢えがある。
太陽が力を失うにつれて強くなる飢餓感。
温かい血を浴びるように飲みたいという狂おしいまでの欲求と強い焦燥感があなたを襲った。

このままこの飢えと乾きに苦しんで死ぬのかも知れない。


SANチェック成功時減少 1失敗時減少 1d3

※不安について〈心理学〉【POW】×4 で払拭できるか試してみても良い。
〈心理学〉佐倉が出ていくときの様子について考え直してみる
【POW】×4 自らの心の不安や混乱に耐えたり整理したりする。前シーンで強い不安を感じているので難易度が上昇している。
牧志 浩太
おっ。では、「佐倉さんを信じたい気持ち」で抗うということで、軸足が佐倉さん側にあるので〈心理学〉で参ります。
1d100 77〈心理学〉 Sasa BOT 1d100→49→成功
KP
それじゃ《SANチェック成功時減少 0失敗時減少 1d2》に軽減。
牧志 浩太
1d100 72 《SANチェック》 Sasa BOT 1d100→9→成功

「……あ、」
玄関の扉が開く。
その向こうには金色の陽光が満ち溢れていた。
眼を刺す燃えるような黄金の光。

落ちる前の最後の光のはずなのに、低い位置から射す光は眼を真っ直ぐに貫いた。

眼が痛む。涙が溢れて感じる。黒い髪が白いシャツの背中がその中に、溶ける。

溶けて、消える。
玄関の扉が重々しい音を立てて閉じる。
途端に心細さを覚えて扉に駆け寄った。

「あ……、」
実感が押し寄せてくる。
俺は、この扉を開けない。
この向こうに出られない。

佐倉さん。

きりきりとした痛みが臓腑を締めつける。

佐倉さん、佐倉さん、佐倉さん。
名を呼ぶ。応える声がないことくらい分かってる。

真っ暗闇の中に置き去りにされた気がした。
違う、佐倉さんはちゃんと戻ってくる、ゴンドラ乗り場に様子を見に行って、助けを、

あの一瞬表情が落ちた顔を思い出した。俺だって死にたくない。佐倉さんだって、そうだ。そうに決まってる。

このまま逃げてしまえば。
佐倉さんは、

喉が渇いてひりひりと痛んだ。寒い。寒くてたまらない。
食事を、温かい血を、あの甘い血を浴びるように飲みたい。後悔に近い感情が腹の奥から湧いた。食欲が害意に近い感情になって渦巻く。どうして逃げた、そんなの決まっている、俺が逃がしたからで、どうしてあの時駆け寄って喰わなかった、

俺だけ置いていかれて飢えて死ぬなんて、そんな。

そのとき自分の手首が目に入った。ぐるりと赤い輪のような痣がついていた。

不意に思い出した。

どうして逃がしたかって、そんなの決まってる。

それが最善だったからだ。
心細さに振り回されてうずくまってるより、それが最善だったからだ。

俺のことも、佐倉さんのことも諦めないために、それが最善だったからだ。

佐倉さんが、片腕を失いそうになっててでも、最善を選んでくれるって、俺は知ってるからだ。
俺が、例え怖くて堪らなくても、最後まで諦めきれないたちだって、佐倉さんは知ってるからだ。


強く目を瞑り、拳を握って、陽光の中に消えた姿を思い出す。目の前にいるかのように、その姿を見つめる。

その足取りが早かったのは、夜が来る前に戻ってこなきゃいけないからだ。
何度も振り返ったのは俺を案じてくれていたからだ。
心細そうに笑っていたのは、俺を安心させようとしてだ。

数度息を吸って、吐いて、そう自分に言い聞かせる。
……まだ、やることがある。

あのダイニングルームを見てみよう。何か落としていたり、残されていないか。
佐倉さんのCOMPとか。

(あ、そういえば、逃げるにしても、佐倉さんがあれ置いてくはずがないな)
牧志 浩太
印象的な積み重ねがありすぎて事あるごとに過去の話を引き合いに出せてしまう 楽しい
KP
重い……絶望も重ければ希望もでかい。
書斎の鍵、地下じゃなくて別のところに落としておこうかな(鬼)
牧志 浩太
あら~~
地下の情報を知ってしまった時点で希望が手に入らない いいと思います

コメント By.KP
吸血鬼になってしまった牧志。
死の恐怖に怯える佐倉。
二人は少しずつ自分たちの置かれた状況を探るために動き出す。

TRPGリプレイ【置】 CoC『もぞもぞいう』佐倉(子)&牧志 3(終)

「あっ、あああ、あああぁああああぁ」
「うううううぅぅぅぅ」

TRPGリプレイ CoC『静寂舞手』佐倉&牧志 12(終)

「ああ。俺達は戦友だ」

TRPGリプレイ CoC『風のさびしく、呼ぶ声』佐倉&牧志 5(終)

お前ら割と似てるよ。

【クトゥルフ神話TRPG】
本作は、「 株式会社アークライト  」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」


TRPGリプレイ【置】CoC『忌胎』 佐倉&牧志 1

俺にできることはないのか、何か……

ゆうやけこやけ 『まいご』(終)

こどももTRPG まいご